<内容>
戦時中、頭に受けた弾丸により眠りを失った男、エヴァン・タナー。彼はその失った眠りの分、多くの書物を読破し、多大なる知識を手に入れた。そのタナーがあるとき、トルコ領内に手付かずとなっている巨額の金貨が眠っているという情報を得て、その金貨を手に入れるべくトルコへと潜入する事に。しかし、それを入手するまでの道のりはけわしく・・・・・・
<感想>
いや、怪盗タナーというくらいだから、もっとスマートな盗みっぷりを期待していたのだが・・・・・・
このようにいってしまうと、では怪盗タナーとは間抜けな泥棒なのかと思われるかもしれないが、そんなことはなく、本人はいたってスマートな人物である。しかし、今回の作品ではトルコに入ったとたん、政府から指定されている要注意人物ということであっという間に拘留されてしまう。トルコに普通には入ることも滞在することもできないとわかったタナーはなんとヨーロッパを大回りして、とんでもないルートでトルコ入りを目指すこととなる。
通常の探偵であれば、その手腕や特技、仲間といったものを武器とするはずであるが、このタナーはそのへんがちょっと違っている。彼は、自分が得た膨大な知識による各地方の政治状況や語学を武器にし、そしていくつものあやしい組織に名を連ねていることによる人脈によって、解決を図ろうとするのである。さらには、自分が眠ることができないという特色を生かして、他の者達に一歩先駆けることができるというのも特徴のひとつであろう。
そんな特技を生かして、国から国へとロード・ノベルのようにかっ歩し続けるタナー。こんな泥棒っぷりを発揮する怪盗というのもまた珍しくて面白い。それぞれの国の紛争や政治色を物語に生かしつつ、それを怪盗の冒険譚にしてしまうという手法もまた楽しめる。こういう変わった怪盗の物語も読んでみるとなかなか面白い。このタナーのシリーズは8作ほど出版されているようなので、次の作品も是非とも読んでみたいものである。これでローレンス・ブロックを読む楽しみがまた増えたこととなる。
<内容>
さまざまな反政府団体に名をつなれているタナーに今回はネオ・ナチの活動家である老人を救い出してくれとの依頼がまいこんできた。さまざまな苦難の末に難攻不落の要塞から老人を救い出したものの、この老人が一緒にいてうんざりしてしまうような人格であり・・・・・・
<感想>
タナー・シリーズの第2弾が無事に翻訳された。2冊目が出れば、シリーズ全て翻訳されるということも安泰になるのではないだろうか。今後とも読み続けて行きたいシリーズなので、楽しみにしたい。
このタナーのシリーズなのだが、今回は特にまじめな人間(タナー)が冗談みたいな出来事をまじめに切り抜けていくというようなブラックコメディーのように感じられてしまう。設定といい、やっていることといい、冗談みたいなことが多いのだが、それらがタナーの性格どおりに生真面目に淡々とこなされてゆく様がなんともおかしく感じられるのである。
このタナーという人物についてふと思うのは、最初に読んだときはブロックらしからぬ主人公とも思えたのだが、それはマット・スカダーの影響が大きいからであって、基本的に著者のブロックという人はこのような作風の作家とのこと。そういえば、殺し屋ケラーのシリーズと比べてみると、近しいものを感じ取る事ができる。
ということで、初期の未訳作品あたりが紹介されて、それらを読み込めばますますブロックという作家に対する印象が変わってゆくかもしれない。とはいえ、後期になってマット・スカダー作品を多く書いていたということは、そちらのほうの主人公の性格や作風のほうが一般的に支持されたということも考えられるのだが。
<内容>
元警官のマット・スカダーは、ケイル・ハニフォードという男から、依頼をされることに。ハニフォードの娘が同居人であった男に切り刻まれ死亡し、その後同居人は逮捕され、獄中で自殺を遂げた。既に解決済みの事件であるのだが、娘は何故殺されなければならなかったのか調べてもらいたいというのである。スカダーは、ケイルの娘・ウェンディと、加害者であるリチャード・ヴァンダーポールの生前の様子について調べ始め・・・・・・
<感想>
そろそろ感想を書いていないマット・スカダー・シリーズを読み直したいなと思い、第1作に取り掛かってみることに。その探偵マット・スカダーはどのような探偵かというと、
マット・スカダー、元警官で16年近く勤務していたが2年前に起きた事件により自主退職。妻(アニタ)と子供(息子たち)がいたが離婚して別居、現在はホテルで独り暮らし。特に私立探偵の免許は持っていなく、知り合いの警官から回された仕事をたまに請け負うという程度。夜はアームストロングの店で酒を飲んで過ごしている。
後の作品でアルコール中毒について言及する作品が出てくるためか、なんとなくアル中のイメージが強い探偵でもあるが、第1作目では普通と言うか、探偵と言うよりも“元警官”という印象が色濃く出ている。またブロック作品を読んでいて、後期の作品では会話による文章が多いと思っていたのだが、それはどうやら初期からそのような作調であったようで、本書も会話主体といってもよいような流れの作品となっている。
この作品では、すでに事件の解決がついたと思われるものを掘り下げていくという試みがなされている。別にスカダー自身は、“真相を”などということを考えているわけではなく、あくまでも事件が起きた背景を調べていくというもの。なんとなく、この辺はルポライター的な行動のようにもとらえられる。事実、スカダーは事件関係者の身内や知人たちをくまなくまわり、事実を積み上げるという行為を続けてゆく。
当然のごとく、ただ単に調べていくだけで終わらず、最後にはとある真相が待ち受けることとなっている。それは読んでいく途中、なんとなく予想がつくものであるのだが、ただ本書はその真相がメインという感じのものではない。事実を掘り下げて、事件の被害者と容疑者の生前の生き方をあぶりだしてゆくということに重きが置かれていたように思われる。その警官の仕事とも、ルポライターの仕事とも、少し外れるような部分を受け持ち、事件を掘り下げてゆくことこそがマット・スカダーの生業なのかと。
<内容>
マット・スカダーは、ニューヨーク市警刑事ブロードフィールドからの依頼を受けることとなる。彼がいうには、ポーシャ・カーという娼婦から告発を受け、窮地に立たされていると。その娼婦を説得して告発を取り下げてもらいたいと。ブロードフィールドは、刑事でありながら検事と手を組み、警察の腐敗を暴露することに警官たちからは白い目で見られている人物。そんな男の依頼を受け、スカダーはポーシャ・カーと会うのであったが・・・・・・彼女と会った後、ポーシャは死体で見つかり、容疑者としてブロードフィールドが逮捕されることとなり・・・・・・
<感想>
マット・スカダー・シリーズの2作品目。改めて読んでみると、初期のころのスカダー作品は、あまり面白くないような。といっても、決して内容が悪いわけではないのだが、何が原因なのであろうか? 全体的に漂う暗さが雰囲気として微妙なのであろうか。
本書はプロットとしては面白い。警察を告発する警官を巡る事件。娼婦がその警官を告発し、警官はその告発を押しとどめようとする。その仲介をすることになったスカダーであったが、スカダーと会った後に娼婦が殺害されることとなる。スカダーは事の真相を辿るべく、地道な事件捜査に乗り出してゆく。
中味は警察小説に近いような私立探偵が活躍していくというもの。ただ、あまりにも地道過ぎて、面白くないというのが微妙な雰囲気を醸し出しているような。スカダーに依頼をした男や娼婦が考えていた未来像や、その後の事件の展開、そして事件の真相と短い作品のなかにきっちりと凝縮された中身がつまっていて、ミステリとして完成されている。ただ、ハードボイルドというよりもどこかスリラーといった雰囲気を感じさせる闇の部分が作品全体に重くのしかかっている。
中期以降のスカダーのシリーズ作品は面白かったという印象であったので、シリーズのどこからか転換期となるものがあったのではないかと思われる。その辺を見極めながら、続けてシリーズを再度追っていきたい。
<内容>
泥棒を生業とするバーニイ・ローデンバーは、高額の報酬がもらえるという依頼を受け、とあるアパートに忍び込む。そのアパートにあるはずの小箱を盗み出すこととなっていたのだが、家を物色中、パトロール警官が踏み込んでくる。なんとか、警官を買収し、事を治めようとするのだが、警官の一人が寝室で死体を発見する! バーニイはパニックに陥り、警官を振り切り、慌ててその場から逃亡する。なんとか知人の家に逃げ込んだものの、翌日バーニイは殺人犯として警察から指名手配を受けることとなる。いったい、何の罠に入り込んだのかと、バーニイは単独で事件を解決せざるを得ないこととなり・・・・・・
<感想>
ずいぶん以前の読んだような、読んでいないような。感想も書いていなかったので、とりあえず家にあったこの本を手に取ってみた。ローレンス・ブロックによる泥棒バーニイ・シリーズの第1作。
内容は、泥棒を職業とするバーニイが依頼により盗みに入った家で、死体が発見されるというもの。それにより、バーニイは殺人犯扱いされてしまい、自身の身の潔白を明かすために真相を調べるというもの。
この作品で面白いのは、“泥棒”という職業がある程度警察や周囲に漏れていても、普通に生活を続けていくというライフスタイル。そのライフスタイルを護るため(ニューヨークから出て行っても生活できないという理由で)、バーニイは殺人犯の汚名を返上しようとする。
また、読んでいて気づいたのが、著者のブロックは後に“殺し屋ケラー”シリーズというものを書くこととなるのだが、その設定や主人公のスタンスが非常に似通っているという事。殺し屋と泥棒では、仕事そのものの行為は異なるのだが、矜持は同じという感じなのである。また、物語が会話文主体により話が進んでいくというところも似ている。そう考えると、この作品こそブロックの原点ともいえるのかもしれない。
ミステリ作品としてもそれなりに読みどころのあるものに仕上げられている。最後に明かされる事の真相もなかなか意外なもの。泥棒が主人公という事で、軽いタッチのクライムノベルと言っても良いのかな?
<内容>
マット・スカダーが刑事時代に情報屋として付き合いのあったスピナーが殺された。スピナーは死ぬ前に、スカダーに一通の封書を預け、自分が死んだら開封してもらいたいと託していた。封書を開封したところ、どうやらスピナーはここ最近、ゆすりを行っていたようで、3人の人物の弱みを握り、金をせしめていたようである。その三人のうちの誰かがスピナーの命を狙っており、自分が死んだら敵を討ってもらいたいと・・・・・・
<感想>
ローレンス・ブロックのマット・スカダー・シリーズ再読、3作品目。最初の2作は、なんとなく読みづらいというか、あまり内容に惹かれない感じがしたのだが、この3作目はかなり面白かった。ひょっとしたらこのシリーズ、3作目あたりから面白くなっていったのかな?
ただ、中身はちょっと変化球気味。王道のハードボイルドからは、外れているような内容。それは、スカダーが死んだ男からの遺言により、死んだ男がゆすりを働いていた3人のなかから、彼を殺したものを探し復讐してほしいと託される。しかも、無実の二人には手を出さないでもらいたいという、結構無茶苦茶な話。
早い話が、そのゆすりのネタを公開してしまえば3人が窮地に落とされて終わりなのだが、それをせずに、殺人の真犯人だけを探すという難易度の高い捜査。それを成し遂げるためにスカダーは3人に接触し、自分の身を挺して、真犯人をゆすぶり始める。ただし、3人の全てが窮地に立たされていることは変わりないので、たとえ殺人に対して無実でもどのような行動をとるのか全く予想はつかない。
という形で物語が展開し、何が起こるかわからないという風にサスペンスフルに進行してゆく。そして、最後に物語に終止符が打たれるのだが、それはスカダーらしい結末の付け方がなされている。ただ、何にしても、事件に関係ない他の二人が気の毒なような。とはいえ、ゆすられるネタがそもそも・・・・・・という感じではあるので、気の毒と言っていいかどうかも微妙。ただ、スカダーにとって、とにかく難しいミッションであったなということは心に残る。
<内容>
いきつけの歯医者のすすめにより、宝石泥棒を行うこととなったバーニイ・ローデンバー。室内をたっぷりと物色し、獲物をスーツケースに入れて、立ち去ろうとすると、なんと部屋の住人が帰ってきた。あわてて、クロゼットに隠れたバーニイであったが、その後、部屋の住人が何者かに殺害されているのを発見することに! しかも、バーニイが宝石類を詰めたスーツケースが持ち去られていたのだ。何も手にすることなく、部屋を後にすることとなったバーニイであったが、後に殺人の嫌疑をかけられるはめとなり・・・・・・
<感想>
ユーモア小説ゆえに、泥棒という生業が微妙に周囲に知れ渡りつつも、普通の生活を送っているという設定はいいものの、今作ではあまりにも“なめられすぎ”ではないかと感じられた。バーニイはプロの泥棒のはずなのであるが、それが歯医者になめられたような感じで、やや恐喝されたようなかたちで仕事を行うことになるというのはいかがなものかと。たとえ、金に困っていたとしても。まぁ、反対に考えると、プライドよりもお金優先と考えることこそがプロなのかもしれないが。
とはいえ、そんな微妙な形で仕事を引き受けたことにより、またのっぴきならない状況に追い込まれるのは前作と同じ。しかもその原因が他の者達にあるだけではなく、バーニイの仕事ぶりにも関係しているので、あまり同情の余地はない。それでも、何故か女にもてるバーニイは、その能力をいかんなく発揮して、今回もまたひとりの女性を見方につけ、状況の打開を図ってゆく。
面白い作品ではあるけれども、なんとも主人公のバーニイという存在がプロっぽくなく、あまりにも情けないところが個人的には好きにはなれない。とはいっても、その情けないところがこの主人公のポイントのような気がし、作者もあえてそのように書いているような気がする。まぁ、正真正銘のプロであれば、このような事件に関わり合うこともないだろうから、こんな主人公でなければ、まさしく話が始まらないといったところか。
<内容>
知人から古書店を買い取ることとなり、そこの店主として収まったバーニイ・ローデンバーであったが・・・・・・相変わらず、泥棒家業にも勤しんでいた。知り合いから頼まれた古本を見事に盗み出し、その本を相手に渡そうとしたら、またもや罠にかけられることに! 眠らされて起きた時には、目の前に女の死体があり、バーニイの手には拳銃が握らされていた。あっという間に指名手配犯となったバーニイは、自らの手で真犯人を捕まえようと友人であるキャロラインの家にやっかいになることとなり・・・・・・
<感想>
泥棒バーニイ・シリーズ3作目。前作の感想で、プロフェッショナルではない、というようなことを書いたのだが、今作を読むと、もはやそういう見方をするべきではないということに気が付いた。主人公のバーニイについては、泥棒としてのスキルは高いが、どこか間の抜けた憎めない人物である、という風に評するのがよいのであろう。何しろ今作も、第1作目と同様“物”の取引の際に眠らされた挙句、殺人犯の罪をきせられるという、またかというような状況。
どうもこのバーニイ、根っからの泥棒であり、普通の人のように平凡な人生は歩むことはできないようである。どこか波乱万丈の生活を常に求めていて、泥棒という家業においてでさえ、今回のようなトラブルを歓迎しているのではないかと思わされる始末。ゆえに、今回のような危うそうな取引にも、気軽にのってしまうのであろう。
この作品でも殺人犯の汚名をきせられたバーニイは独自の捜査活動を行うことにより、真犯人をあぶりだそうとする。その捜査活動はなかなかのもので、むしろ泥棒よりも私立探偵の方が向いているのではないかと思えてならない。まぁ、今作では古本屋の店主に収まっていたくらいだから、他の作品では私立探偵として登場してもおかしくなさそうであるが。
<内容>
マット・スカダーはチャールズ・ロンドンと名乗る男からの依頼を受けることとなる。9年前にアイスピックにより女性が8人刺殺されるという連続殺人事件が起きた。その犯人が最近捕まったものの、7件の事件は自供したが、残りの1件はやっていないというのである。その1件は、チャールズの娘、当時26歳のバーバラが殺害された事件。そこでチャールズは、娘が殺害された真相をスカダーに探ってもらいたいと依頼してきたのであった。スカダーは、9年前の事件を捜査すべく、バーバラの元夫や関係者らを訪ね、事件の背景を調べてゆくのであったが・・・・・・
<感想>
マット・スカダー・シリーズの4作目を再読。このシリーズ、アル中探偵というイメージが植え付けられているのだが、最初の3作品に関しては、特にそのようには感じられなかった。それが顕著に感じられるようになるのはこの作品から。また、中身の面白さに関しても、このシリーズは、この4作目から読むくらいがちょうどいいのではないかとも思われる。
今回は、連続殺人犯の魔の手にかかったと思われた人物が、実は別の者によって殺害されたのではないかという疑いが出てきて、その真相をスカダーが調査することとなる。ただし、事件は9年前に起こったものであり、事件当時にかかわった人々を探さなければならないなど、幾多の困難が予想される捜査となる。
といいつつも、順調に捜査は進んでゆき、最終的にはとある偶然と言ってもよい出来事から真犯人の目星をつけることとなる。本書に関しては、事件捜査がメインとなり、そこが面白く読めるところではあるのだが、そうしたなかで揺れ動くスカダーの感情にも見るべきところが用意されている。
捜査をしてゆく途上で、アル中だと告白する女性の存在により、スカダー自身もアルコールに依存しすぎているのではないかという疑問を抱き始める。さらにはアルコールによって失敗を犯してしまうことにより、なおさらのことそれを痛感させられることとなるのである。本書では、あくまでも気づかされるところで終わり、具体的な行動については次回に持ち越しという形になっている。こうしたスカダーの葛藤こそが、シリーズの重要な分岐点を表しているといえよう。
<内容>
マット・スカダーは友人であるエレイン・マーデルからの紹介だというコール・ガールのキムと話をすることに。彼女にはヒモがいるのだが、娼婦の世界から足を洗いたくなったので、そのヒモと話を付けてもらいたいと依頼してきたのだ。依頼を受けたスカダーは、彼女のヒモであるチャンスと呼ばれる黒人とコンタクトをとり、話を付けることに。チャンスは話の分かる男であり、拍子抜けするほどあっさりと話はまとまった。そしてキムにその話をして依頼は完了し、万事うまく収まった。ところが数日後、キムが何者かに殺害されることとなり、容疑者となったチャンスからスカダーは殺人犯を探す依頼を受けることとなり・・・・・・
<感想>
ローレンス・ブロック氏の出世作品といってもいいものではなかろうか。少なくとも日本ではこの作品によりブレイクしたと思われる。本書は探偵マッド・スカダー・シリーズの第5作品でもある。
本書に登場する探偵は超人的な人物ではなく、自分がアルコール中毒であるということに悩む男。シリーズの最初のほうではそういった悩みが出ていなかったのだが、前作くらいからアル中に対する悩みと向き合い方について考え始めるようになっている。そうした弱みを抱えつつ事件解決にいそしむこととなる。
今回、依頼を受ける案件は娼婦殺しについて。その殺された娼婦とヒモの男との仲を取り持ったことにより、スカダーは事件に関わることとなる。また、スカダーが酒の悩みを抱えていたゆえに、酒を飲む代わりにすることが欲しいということもあり、それも依頼を引き受けた一つの理由となっている。
この作品は、事件解決にスポットを置くミステリとはちょっと異なるものとなっている。スカダーが捜査のために事件関係者に聞き込みを行うことにより、様々な人間模様を垣間見えることができるというところが本書のキモであると思われる。作中で“裸の町には八百万の物語があるのです”というテレビ番組のセリフをもじり、ジョー・ダーキンという警官が“八百万の死にざま”という言葉を吐く。その言葉こそが本作品のテーマであり、大きく印象付けるものとなっている。
事件解決に関しては、やや唐突な気もするものの、別に本格ミステリではないので、こうした結末も普通であろう。このラストの展開と部分部分で、サイコミステリ的な様相を見せるところは、ちょっとしたスパイスになっているという感じ。
シリーズとしては、よく登場するエレイン・マーデルのほかに情報屋のダニー・ボーイ・ベルが出ている。ダニーが登場するのは、これが初めてだったかな? 確か以後の作品にも度々登場していたはずだが。また、今回登場したジョー・ダーキンという警官がなかなか味を出していたが、以後の作品に登場していたのかどうかは全然覚えていないので、今後確認していきたい。また、主人公のスカダー自身が、自分をアル中だと認め、そこからどのような生活を送っていくことになるのかというところもシリーズとしての注目点である。
<内容>
今は酒を飲むのを止めたマット・スカダーであったが、かつて毎晩のように酒を飲んでいた日々を思い起こす。その昔、彼が飲み仲間といた酒場に強盗が入り、現金を強奪していった。スカダーはその店主から強盗の身元を突き止めてもらえないかと頼まれる。また、スカダーの飲み仲間のひとりの妻が強盗らしき者に殺害されるという事件が起き、さらには別の飲み仲間の店の裏帳簿が盗まれたという相談を持ち掛けられる。それぞれの事件について依頼されたスカダーは、気乗りしないながらも、少しずつ事件の調査を行ってゆき・・・・・・
<感想>
マット・スカダー・シリーズを最初の作品から再読していて、ようやくここにたどり着くことができた。本書は前作「八百万の死にざま」に続く作品。前作で自分がアル中であることを認め、酒を断つ決心をしたスカダーであり、その後どのようになっていくのが気になるところ。ただ、本書は過去の事件を振り返るものとなっているので、現在進行形で前作の続きというようなものにはなっていない。
今作では三つの事件を扱うこととなる。スカダー自身が客として居た酒場に入ってきた強盗の正体を突き止めるというもの。妻を殺害され警察から容疑者とされる夫の無実を晴らしてもらいたいというもの。そして、酒場の経営者が裏帳簿を盗まれ、脅迫を受けるという事件。
この三つの事件にスカダーが関わることとなるのだが、実はスカダー自身はその捜査に乗り気ではなく、最初の2つの事件に関してはそれほど捜査を進めずに終えてしまう。ただ、裏帳簿の事件に関しては脅迫電話から、金の受け渡しと現在進行形で進んでいくものなので、否応なしにスカダーは事件に関わってゆくこととなる。
と、そんな感じでゆるゆると話が進んでいくのだが、後半では一気に物語全体に決着が着くという怒濤の展開が待ち受けることに。一つの事件から派生していくように、次々と事件に決着が着いていき、あっという間にすべてが終了と。ただ、そのどれもが決して良い感じで決着が着けられるものではない。その強引とも言えるような結末の付け方が本書の大きな特徴であろう。それぞれの事件に対する後味の悪さが作品に対する深みを与えるようなものとなっている、ちょっと珍しいタイプの作品。
<内容>
AA(アルコール中毒者自首治療協会)の集会に通う日々を送る探偵のマット・スカダー。彼は失踪した娘の行方を捜してもらいたいと依頼を受ける。女優になるためにニューヨークへやってきた娘と連絡が取れなくなったというのだ。依頼を受けたスカダーであったが、彼女の痕跡を辿るのは難しく、捜査は難航していた。そんなある日、AA集会で知り合ったエディから、今度自分のとある告白を聞いてもらいたいと持ち掛けられる。承諾したスカダーであったが、その後エディから連絡が来ることがなく、彼を探しに行くと、エディは部屋で変死しており・・・・・・
<感想>
マッド・スカダー・シリーズ7作品目。久々に再読。この作品はシリーズの分岐点にあたる作品とも言えるもので、アル中探偵であったスカダーがアルコールから脱却したことにより、その後シリーズを続けることができるのかと危ぶまれていた。さらには、著者自身もその後の構想は特になかったようで、一時期はもうスカダー・シリーズは書かないと言っていたこともあったようである。しかし、心配することなかれ、続編がしっかりとここに書き継がれることとなった。
このシリーズでは珍しく、失踪人探しをスカダーがするというもの。ハードボイルド作品では失踪人探しというのは基本とも言えるのだが、このシリーズでは意外と今までなされていなかった。実際、このニューヨークにいるのかどうかもわからない、姿を消した人物を探すというのは難しいようで、スカダーの捜査も難航することに。そうこうするうちに、スカダーの身辺で別の事件が持ち上がり、スカダーは二つの事件の捜査を並行して進めていくこととなる。すると、その二つの事件が意外なところで結ばれ・・・・・・というような流れ。
今作も、王道のハードボイルド作品という感じで面白かった。何気に社会派ミステリ的な展開がなされていたりと、見所もたっぷり。また、今後シリーズにおいて重要なキャラクターとなるミッキー・バルーバーが登場するのも注目すべき点となっている。かつて読んだときはそれほど印象に残らなかった作品であったが、何気に良くできた作品だと改めて感心させられた。
<内容>
探偵マット・スカダーは旧知の仲である娼婦のエレインに呼び出される。エレインが言うには、悪質なストーキングにあっていると。しかもその相手は、12年前にエレインとスカダーの二人で協力し、刑務所送りにしたモットリーという男であった。執拗に二人を付け狙い、さらにはエレインとスカダーの周囲の人々に手をかけ、殺害を繰り返していくモットリー。そして魔の手は、スカダーとエレインにもおよび・・・・・・
<感想>
マット・スカダー・シリーズの再読。買った当時は知らなかったのだが、今までは二見文庫から出ていたシリーズが、初めて単行本で出た作品であるとのこと。
今までのシリーズとは、がらりと作風を変えたものとなっている。当時、このシリーズも行きつくところまで行ってしまい、続編が出ることさえも危ぶまれていたようなのだが、それを一気に打開するような作品となっている。今作はなんと、サイコスリラーとでも言うような内容。
ここに登場するモットリーという男の悪人っぷりというか、そのサイコな人物造形が凄い。単に標的を執拗に付け狙うというだけではなく、大量殺人まで繰り広げていく。しかも、その殺人が事件に繋がらないように処置し、捜査線上にさえ上がらないという始末。スカダーは警察に、このモットリーという男が犯した犯罪について明かすものの、それでは起訴できないと突っぱねられる始末。
そうしたなかで、スカダーとエレインは次第に追い詰められてゆき、のっぴきならない羽目に陥ってしまう。そしてスカダーが下した決断と、その結末は・・・・・・というような内容。これはとにかく見事な暴れっぷりというか、サイコっぷりがいかんなく発揮された作品となっている。
この本が出た当時に、こういった作風のものが流行っていたかはわからないが、確かにサイコサスペンスが一世を風靡した時代があったはず。そういった作品が多く登場していたなかでも、本書はかなり印象深い作品に仕立て上げられていると思われる。全編にまつわるダークな雰囲気と、胸糞悪いサイコっぷりを胸焼けするくらいに堪能できる作品である。
<内容>
アメリカ北西部の小さな町、ローズバーグに住むガスリーというバーテンダーが、“歩け”という啓示を受け、何もかも投げ出し、無目的にアメリカ大陸を東へ向かって歩き出す。そして行く先々でさまざまな人と出会い、であった人々もまたガスリーとともに無目的に歩き始める。そのなかで人々のあいだに次々と奇跡や癒しが行われる。
そんななか、他の場所でひとりの男が殺人事件を繰り返しつづける。癒しの集団とひとりの殺人鬼が出会ったとき・・・・・・
<内容>
ミック・バルーのグローガンの店の下働きの二人がミックのいいつけで農場にウィスキーを取りに行った際、何者かに殺された。心当たりのないミックはスカダーに犯人探しを依頼する。
その依頼を受け持ち調査に取り掛かると、スカダーは何者かに脅される羽目に。さらに、ジム・フェイバーと一緒に食事をとった際、たまたま似たような服を着ていたジムがスカダーの変わりに殺される。さらにグローガンの店が襲撃にあう(その事件にはスカダーの過去の愛人までが巻き込まれた)。
ミックを狙うのは何者なのか? 最初は依頼に消極的だったスカダーも泥沼にどっぷりとはまることになり、ミックとともに襲撃者を探し始める。拳銃を身にまとうスカダー、似顔絵、TJの負傷、ミックの昔の事件、裏切りそして皆殺し・・・・・・
<内容>
殺しの依頼を受けたケラーは空港に降り立った。迎えの男が用意していたのは車とピストル、そして標的の家族写真だった。いつものように街のモーテルに部屋をとり相手の動向を探る。しかし、なにか気に入らない。いやな予感をおぼえながらも“仕事”を終えた翌朝、ケラーは奇妙な殺人事件に遭遇する。
<感想>
ひさびさのブロックの作品であるが、正直言って期待はずれであった。この作品は長編よりも短編に向いているのではないかと思う。連作短編という形にすれば、もうすこし内容がしまり、かつ、すっきりするはずだ。
今作品で一番気になった点は“会話”である。これが現在のブロック調なのであろうが、この作品においてはあまりにも違和感を感じるのである。これがマット・スカダーとエレインの会話であるのならば納得できるのだが、殺し屋ケラーとその元締めと会話となるとおかしいのではないだろうか。
そもそもこの作品はブロックが殺し屋を描いたというよりは、ブロック調の中に取り入れられた一人の殺し屋という感じだ。それを受け入れられるか、受け入れられないかで人によって作品の良し悪しが決まるのかもしれない。
<内容>
とある資産家夫妻がマンハッタンの自宅に帰宅したところ、盗みに入っていた強盗に出くわし惨殺されるという事件が起きた。数日後、容疑者は死体で発見される。仲間割れかと思われる状況により事件は解決したかと思われた。しかし、何かふに落ちないところがあると、その親族から依頼を受けてマット・スカダーは事件を調べることに・・・・・
<感想>
マット・スカダーの最新作であるが、この前に読んだケラー物の「殺しのリスト」では長く続く会話にうんざりしてしまった。やはりあの男女の会話というものはこのマット・スカダーもののマットとエレンの会話でなくては許されないものであろう。
とはいうものの「殺しのリスト」でも象徴されたように、どうも最近のブロックの小説というのは退屈に感じられることがままある。近年ブロックはグランドマスターの称号というものを受けて、ある意味絶頂のときでもあるのかもしれない。しかし作中からは“地味な事柄を長々と書く”という文章が目立っているように感じられる。捉え方によってはそれを“味”とか“手腕”とかいろいろな表現もできるのかもしれないが、私にとってはどうしても退屈という印象のほうが強くなっている。
ひょっとしたら、ブロックもそういった状況についてなんら感じるところがあるのか、もしくはマンネリを打破するためにか、今回の作品ではマットの一人称のみではなく、犯人の動向をも挿入しながら物語が進行していく。序盤、事件を掘り下げようとする部分は退屈ながらも、事件が動く中盤になり読みやすさも増していく。いわゆる“サイコキラー”を扱いながらも、その語り口によって既存のものとは別の印象を感じさせる手腕は確かになかなかのもの(サイコキラーでさえもブロックの手にかかれば、落着いた印象を受けてしまう)。
ただし、それがラストにおいて結局ただの“サイコキラー”ものであったというような終わりかたしか感じられないのはどうであろうか。前半、中盤における進行は文句なしだとも思うが後半の終着点がはっきりとしなかったように感じられる。ブロックとその犯人たるものが結局はどこかですれ違ってそのまま別のほうへと流れていったという印象が強い。最後になって、結局はこれはどちらの物語だったのだろうかと考えてしまう終わり方というのもどうであろうか。
<内容>
あの世界貿易センタービルへのテロから1年の時が過ぎたニューヨークのとある日。掃除夫のパンコーがいつものように契約先の家へ行き清掃を行おうとすると、その家の住人の女性が殺されているのを発見することに。通報を受けた警察は昨晩、この家を訪れた作家のクレイトンを容疑者として逮捕する。後日、掃除夫のパンコーはまた契約先にて死体を発見することに・・・・・・・。これらの事件には何らかの関係があるのか? そしてクレイトンは犯人ではないのか? ニューヨークの街にいったい何が??
<感想>
最近のブロックの作品には“冗長”という感想を常に抱いてしまう。「殺し屋ケラー」あたりの作品からだったような気がするのだが、登場人物らが気の利いた会話(実際気が利いているのかどうかは別として)を長々とするという場面が目立ってきたように思える。その最たる作品が本書ではないだろうか。
本書は会話のみならず、物語全体が冗長である。基本的には、とある殺人事件がベースとなり、それに関連する出来事がそれぞれの登場人物ごとに描写される。しかしその登場人物の多くが殺人事件とはほとんど関係していない人物なのである。その事件に関係ない人達の生活様式の描写が延々と繰り返されるのはミステリーとしてはどうかと思う。
また、それとは別に性的な描写がやたらと多いということも本書の特徴であろうか。
ただ、本書は厳密に言えばミステリーというよりは社会風刺小説というようにとったほうがよいようにも感じられた。本書は9・11のニューヨークテロ後の作品として位置付けられている。といっても、テロに直接関係する描写が出てくるわけではなく、人々が普通に生活する様子を描くことによって、かえってその人々の中にテロに傷跡が残されているということが克明に描き出されている。
よって、そうした風刺小説ということであるとするならば本書はそれなりに評価できる面も含まれていると思われる。
しかし本書は元々ブロックのファンであるという人であるならば受け入れることもできるであろうが、これを読んで新たにブロックのファンになったという人はいないのではないだろうか。
あまり関係ないことだが、この文章を書いているのが気がつけば9月11日というのも不思議な話。
<内容>
妻のエレインと友人のTJらと安らかな日々を過ごしながら、静かに暮らすマット・スカダー。そんなある日、スカダーは友人から恋人の素性を探ってもらいたいと依頼される。当初は簡単な依頼だと思ったのだが・・・・・・
三人の少年を殺害し、刑務所に服役し、死刑のときを待つアップルホワイト。そんな彼の元に心理学者と名乗る男が訪れる。その心理学者はアップルホワイトの無実を信じているようなのだが・・・・・・心理学者の目的とはいったい!?
<感想>
前作「死への祈り」は退屈な印象しかなく、マット・スカダー・シリーズも変な風に落ち着いてしまったなぁ、と感じていたのだが、本書は前作に比べてずっと面白く感じられた。本書の位置付けは前作の続編となっているのだが、一応前作をおぼえてなくても楽しめる。ただ、まだ前作「死への祈り」を読んでいないのであれば、続けて2冊読むのがよいであろう。そうすれば、「死への祈り」の中途半端な終わり方も気にならず、本書と2冊合わせてひとつの本として楽しむことができるであろう。
この作品でも前作に引き続き、スカダーの章と殺人犯の章に分けて語られてゆく。特に今回は殺人犯の章をかなり興味深く読むことができる。その殺人犯が何故か死刑囚を訪れ、その死刑囚の話を聞くことになるのだが、その理由が全くわからない。何ゆえ、死刑囚を訪れなければならないかということに興味をひかれ、ページをめくる手がとまらなくなる。そして、やがてその理由が明らかになる・・・・・・という展開により、前半は読者を作品に惹きつけてゆく。
後半に入ると、今度はスカダーやエレインと殺人犯が絡んでゆき、やがて彼はスカダーたちを付け狙い始める。このパートも最後にはどんな結末を迎えるのかと、ドキドキしながらページをめくる手を早めてゆくことになる。
というような感じで、全編うまく構成されており、退屈さを感じさせない作品となっている。ただ、相変わらず老境に達したスカダーの落ち着きっぷりには若干の退屈さを感じずにはいられないのだが、それは長年のシリーズを勤め上げてきた男の生涯として許容してあげるしかないところであろう。
ところで、今作のラストではスカダーが過去の作品を振り返るような場面もあり、このシリーズを今後も書き続けてくれるのかが心配なところである。早く、ブロックがスカダー・シリーズの最新作に取り掛かったという報告を聞きたいものである。
<内容>
「ケラーの指名打者」
「鼻差のケラー」
「ケラーの適応能力」
「先を見越したケラー」
「ケラー・ザ・ドッグキラー」
「ケラーのダブルドリブル」
「ケラーの平生の起き伏し」
「ケラーの遺産」
「ケラーとうさぎ」
<感想>
殺し屋ケラーの3作品目であるが、やはりこのシリーズは前作のような長編よりも今作のような連作短編の形式のほうがマッチしている。ただし本書は連作短編集であるにもかかわらず、章番号が続き番号となっており、長編のような感覚でも読む事ができる。
この作品を読んで感じるのは、なんといっても“9・11事件”の影響。私自身、色々な海外作家の本を読んでいるのだが、その中で“9・11”にもっとも大きな影響を受けたのはローレンス・ブロックではないかと感じられる。本書では「先を見越したケラー」という作品のなかで、その事件に触れられており、この短編の前と後では若干雰囲気が変わっているようにさえ思える。
また、他に目に付いたのは“殺し屋”という職業について。このシリーズでは、ケラーの仕事そのものについては淡白な描写のみで終わっている事が多い。仕事そのものよりも、その仕事にいたるまでのディテール、または仕事と全く関係ない人間描写などにページが割かれている事が多い。そしてケラー自身も仕事を行うという面では大して困ることもなく、たいていの場合はあっさりと成し遂げてしまう。
それよりも“殺し屋”という職業でもっとも困難といえるのが、仕事の請負方というものであろう。今作でも、さまざまな形で仕事を請け負うものの、たまに当てになるのかどうかわからないような依頼人からの仕事を請け負うことになったりもする。“殺し屋”という職業上派手に広報するわけにもいかないし(前作はそれで失敗していたりする)、どのように仕事を請け負うかということがシリーズを通しての一番の問題点となっている。
また、このシリーズはケラーと仕事の仲介人のドットとの会話が特長にもなっている。ケラーがむやみやたらとドットに仕事先から電話をかけて会話をしたり、もしくはケラーが人との会話に飢えているような描写を見ると、殺し屋の孤独さというものが伝わってくる。最初の頃の作品よりも、こういったケラーの人間的な欲求が描かれてきたことによって、徐々に人間らしさが出てきているようにも感じられる。
今はまだ出版されていないようだが、この次の作品をもってケラーの作品も終わりになってしまうようである。最近どうもブロックが執筆活動を終決するかのような動きがあるように思え、ファンとしてはやきもきしているところである。とはいえ、ブロックの年齢(2008年で70歳)を考えればしょうがないことなのだろうけれども。
<内容>
これを最後の仕事にしようと思い立ったケラー。現地へとおもむき、仕事の開始が告げられるのを待っている間、ケラーはふと、切手ディーラーの店に立ち寄る。その店の中でテレビにより、州知事が殺害されたという事件を聞く。しかも殺人犯としてケラーの顔写真が映し出されていたのである! 仕事の連絡相手であるドットと連絡が取れなくなったケラーは逃亡生活を送ることとなり・・・・・・
<感想>
何とも、話の展開にびっくりした。殺し屋であるケラーがやってもいない事件の濡れ衣をきせられることとなるのだが、普通のノワール調の作品であるならば、自分をはめた相手に復讐を、となることが必須! しかし、この作品ではケラーは逃げ回り続け、さらにそれどころか普通の女性と出会い、普通の生活に落ち着いてしまうのである!!
このシリーズを読み続けている人はわかると思うが、基本的にケラーという人物は殺害するターゲットを知らされたら、その任務を遂行することのみを仕事としている。仕事相手との交渉もしないし、裏の世界で顔が広いというわけでもなく、彼にとっては相棒のドットという女性のみが唯一の相談相手。よって、仕事先でトラブルが起きてもどうこうできるわけもなく、肝心のドットと連絡をとることができなくなれば、何もできなくなってしまうのである。
と、分析してみたものの、よく今まで仕事をこなしてこれたなと、妙な関心をしてしまう。ただし、当然のことながら、逃げ回るだけで終わりではなく、相手に一矢報いるためにという行動が後半で語られることとなる。といっても、あくまでもこの物語ではその復讐がメインイベントではないのである。
今までのシリーズを読まずに、いきなりこの作品を手に取ったという人にとっては驚きの展開かもしれない。ただ、ブロックの作品を読み続けている人にとっては、ある意味らしいと言える内容。最近のローレンス・ブロックらしい、妙に落ち着いた老成したともいえる展開の殺し屋の物語の結末である。
<内容>
マット・スカダーがいつものようにミック・バルーと話をしているとき、話の流れから、とある男のことを思い出す。その男の名はジャック・エラリー。エラリーとは、幼少のころ同じ学校に通っていたという関係。その後彼を見かけたときには、スカダーは警官、エラリーは犯罪者としてであった。さらに時が流れて、スカダーが警官をやめ、禁酒してから数ヶ月後、AAの集会で再開し、互いの近況を話し合う関係へと変化していく。そしてある日、エラリーが拳銃によって殺害されるという事件が起こる。スカダーはエラリーの身に何が起こったのかを調査するのであったが・・・・・・
<感想>
6年ぶりの“マット・スカダー”シリーズ。もう読めないのかと思っていたので、こういう形でマット・スカダーの活躍を読めるのはうれしいこと。とはいえ、もう老人になったスカダーの現在ではなく、過去にさかのぼっての話となるのは当然のことか。
それで、読んでみてどうだったかと言うと、まぁ、だいたいこのようなものかと。近年のローレンス・ブロックの作風からして、過剰に期待することもなく、だいたい予想通りである。要は“殺し屋・ケラー”シリーズに見られるような、淡々とした語り口で平凡な事柄を長々と話していくというもの。
今作では、被害者が作成したリストをもとに、被害者に関係あると思われる人物のもとをスカダーが訪れ、話を聞いていくという内容。そして、その話のほとんどが直接事件には関係しないのである。それが延々と繰り返される。残り100ページくらいになってから、物語が大きく動き、そこから一気に読み干すことができるのだが、ラストも印象に残りづらいような平凡な方向へと落ち着いてしまう。
といった感じで微妙な内容ではあるが、まぁ、これが最近のブロックの作風であると理解もできる。これからローレンス・ブロックの作品を読むという人にはお薦めできないので、あくまでもオールド・ファンのみがゆったりと読めばいいという位置づけで。
<内容>
「ケラー・イン・ダラス」
「ケラーの帰郷」
「海辺のケラー」
「ケラーの副業」
「ケラーの義務」
<感想>
続くなぁー、殺し屋ケラーのシリーズ。終わりそう、終わりそうと思いつつも、これで5作目。家庭に落ち着いたケラーであったが、なんと未だにポツリポツリと殺し屋の仕事をしながらの生活を続けている。
今作は“殺し屋ケラーと切手収集”と言ってもよさそうなほど、切手コレクターとしてのこだわりが出た作品になっている。しかも「ケラーの副業」では、肉体的につらいリフォームの職業から足を洗い、趣味を仕事にしようという試みに打って出る。
殺し屋稼業に関しては、もはやファンタジーというか、何故正体がばれないのかとさえ思えてしまう。ただ、本シリーズに関してはそういったことは抜きにして、殺し屋とその生活ぶりのギャップを楽しむというような作品のため、そこは気にするところではない。と言いつつも、「ケラー・イン・ダラス」では仕事達成後に意外な展開が待ち受けていたり、「ケラーの帰郷」では難攻不落の修道院長の殺害を試み、「海辺のケラー」では護衛付きのターゲットを殺害しなければならなく等々、本業のほうでもなかなかの仕事ぶりを見せてくれている。
今まではこのシリーズ、ケラーとドットの会話ばかりで成り立っているような気がして物足りなさを感じていた。しかし、シリーズが続くにしたがって、ケラーの生活ぶりに幅ができ、物語全体を楽しめるようになってきた。そうしたなかで、徐々にケラーとドットの会話も意外と楽しめるようになってきた気がする。今後もスパンは空くと思うのだが、ブロックのライフワークとして続いて行きそうに思えるシリーズ。シリーズ自体にも円熟味が増してきて、段々と面白くなってきた。
<内容>
古本屋店主となったバーニイ・ローデンバー。バーニイは、古本屋の経営をしつつも泥棒仕事も現役で、定期的に盗みを繰り返していた。そんな彼の前にスミスと名乗る男が現れ、高額な報酬と引き換えに、彼の頼みを聞いて、盗みを繰り返すこととなる。そして、ある日、旧知の刑事であるレイ・カーシュマンがバーニイのもとを訪ねて来て、とある事件の相談にのってもらいたいと。それは、老婦人が不審死を遂げた事件であり・・・・・・
<感想>
久々登場の泥棒バーニイ、しかも集英社文庫から登場と言いうのもビックリ。いつの間にやら(このシリーズ読んでいない作品が多いもので)古本屋を経営しており、そのかたわら、というか本人にとってはあくまでも本業として泥棒行為も続けている。
本書で感じるのはとにかく冗長なこと。これは殺し屋ケラーのシリーズあたりから顕著になってきたのだが、物語の進行よりも男女の長い会話のほうがまるでメインであるかのような書き方。この作品もケラー・シリーズと同様、長めの会話が所々で繰り広げられることに。
内容は、古本屋にスミスと名乗る依頼人が来て、バーニイに品物を調達するよう願い出て、それと引き換えに高額の報酬を払うという行為が何度か行われるというもの。さらには、旧知の刑事レイから、なんとまるで探偵に対するような依頼が舞い込むことに。
後半は全く関係のなさそうな二つの事象が、実は・・・・・・というような展開になり、真相が解明される場面では目を離すことができなくなる。この話のまとめかたは見事であるとしか言いようがない。それゆえに、そこまでの冗長な展開がもっとまとめられていればと感じずにはいられない。ただ、もうこれが今のブロックの作風ゆえに、致し方ないことなのであろう。寛容な気持ちを持って、ゆったりと読むべき作品なのであろう。
<内容>
「エレイングラフの弁護」
「エレイングラフの推定」
「エレイングラフの経験」
「エレイングラフの選任」
「エレイングラフの反撃」
「エレイングラフの義務」
「エレイングラフの代案」
「エレイングラフの毒薬」
「エレイングラフの肯定」
「エレイングラフの反転」
「エレイングラフの決着」
「エレイングラフと悪魔の舞踏」
<感想>
ブロックがこんなシリーズ作品を書いていたのだと、今更ながら知ることに。作品自体は1976年から書き始められたようなので、ずいぶん昔からあるシリーズ。ただ、ひとつの本としてまとめられたのは、1994年に限定版として8編が収められたものが出版されていたよう。12編全てを収めた完全版となるものが2014年に出版されたとのこと。
本書は無罪を必ず勝ち取る弁護士エレイングラフの活躍が描かれた短編集。無罪を勝ち取ると言っても、法廷ではなく、さまざまな工作を行って、起訴を取り下げさせることにより無罪を勝ち取るという方法をとっている。その“工作”に関しては、ありとあらゆる手段を使っているようなのだが、具体的に何をやったのかは語らずに、あくまでもほのめかす程度。
無罪を勝ち取る弁護士シリーズとして面白い内容ではある。ただ、荒唐無稽と感じられるところも多々あり、ここまでいくとファンタジーという印象に落ち着いてしまう。1編、2編ならまだしも、ここまで無罪を勝ち取るという行為が続けられると、もはや現実を超越してファンタジーとしか捉えられないかなと。
とはいえ、一編一編見ていけば、普通にピカレスク小説的に楽しめる作品となっているので、十分に堪能できる作品であることは間違いない。個人的には、一気に全部読むのではなく、一編一編時間を置きながら読んだほうが、この小説を堪能できたのではないかと思えてならない。結構読みやすい小説であったので、一気読みしてしまったのだが、もっとじっくりと読んだほうがよかったような気がする。
<内容>
『夜と音楽と』(2011)
「マシュウ・スカダーとともに育って」 ブライアン・コッペルマン
「窓から外へ」
「バッグ・レディの死」
「夜明けの光の中に」
「バッドマンを救え」
「慈悲深い死の天使」
「夜と音楽と」
「ダヴィデを探して」
「レッツ・ゲット・ロスト」
「おかしな考えを抱くとき」
「ミック・バルー、何も映っていない画面を見る」
「グローガンの店、最後の夜」
『石を放つとき』(2018)
<感想>
“マット・スカダー”シリーズの短編集+中編。「夜と音楽と」という短編集に最新中編である「石を放つとき」を加えた作品集。
マット・スカダー作品集というよりも、ローレンス・ブロック傑作集という感じもするので、これは面白くないはずがない。また、短編集を読んでいくことによって、マット・スカダーの過去から現在までを辿ることができるようになっているので、そういう意味でも見所がある作品集となっている。
それぞれの作品が、しっかりとした内容になっていて面白い。しっかりとした結末を用意しているものから、意外性で魅せる作品まで色々とある。ただ、現在に至るにつれて、事件にスポットを当てるというよりは、スカダーと他のキャラクターとの会話重視となっていく感じであるので、ミステリとしてはやや物足りなさを感じてしまう。と言いつつも、スカダー作品というか、ブロックの作品自体が近年は会話重視となっているのは周知であるので、いまさらそれを指摘する必要はないかもしれない。
中編作品「石を放つとき」は、妙なストーカーに付きまとわれるようになった元コールガールを助けるために、スカダーが取る行動とは!? というもの。なんとなく今までの作品のネタと重複しているような気もするのだが、最後の最後である種のスカダー夫妻の冒険を描いているようにも思えるので、なんとなく微笑ましかったりする。まさか、そんなオチがまっているのかと。
短編集+中編ということで、存分にマット・スカダーを楽しむことができた。もう、スカダー・シリーズを読むことができないかなと思っていたので、長編ではなかったのは残念だが、これはこれで満足。
「窓から外へ」 裸の女が窓から飛び降りた事件は自殺として処理されたものの・・・・・・
「バッグ・レディの死」 殺された浮浪者の女性が残した遺産によりスカダーは事件の真相を調べ始め・・・・・・
「夜明けの光の中に」 飲み仲間の妻が強盗に殺された事件。しかし、警察は夫に殺人の容疑をかけ・・・・・・
「バッドマンを救え」 バッドマンの著作権を守る活動に加わることとなったスカダーであったが・・・・・・
「慈悲深い死の天使」 病院で死亡者が出たときに必ずとある女性が寄り添っているという噂がたち・・・・・・
「夜と音楽と」 スカダー夫妻の夜。
「ダヴィデを探して」 芸術に造詣のある、ひとりのゲイが求めたものとは・・・・・・
「レッツ・ゲット・ロスト」 ポーカーの最中に起きた殺人事件現場を見たスカダーが読み取った真相とは!?
「おかしな考えを抱くとき」 自殺と思われる現場を見て、スカダーの相棒が下した結論とは・・・・・・
「ミック・バルー、何も映っていない画面を見る」 ミックのちょっとした話。
「グローガンの店、最後の夜」 ミック・バルーの店が閉められる日のこと。
<内容>
ローレンス・ブロックからのオファーを受け、マット・スカダーは自分の人生について思い起こし、語ることとなった。スカダーが生れてからの幼い日の出来事、父と母、警官になるまでと警官になってから、そして警官を辞めることになるまでの遍歴を辿る。
<感想>
80歳を超えた作家ローレンス・ブロックであるが、とうとうマット・スカダーの物語にも区切りをつけるようである。シリーズの最後として刊行されたのは、マット・スカダー自身が自分の半生を語るという趣向のもの。
ここで語られている半生は、マット・スカダーの作品として描かれたものの中の話ではなく、いままであまり描かれなかった、その作品以前の出来事をスカダー自身が思い起こしたものとなっている。幼少期の出来事、父と母のこと、それから警官にいたるまで、そして警官を辞めるいきさつとなった事件について。特にここでは、警官として仕事をしていたときのことが多めに描かれていたという感じであった。
と、そんな感じで語られる物語であるが、正直言って、読んでいて面白いというものではない。特に事件性があるわけでもなく、己の人生について淡々と語ってゆくというだけ。ゆえに、マット・スカダーに思い入れがなければ、読んでもほとんどピンとこない作品と言えよう。よって、これは今までマット・スカダーの物語を読み続けていたもののみに送るボーナストラック的な作品という感じである。