<内容>
退役軍人のマックが共同経営者のパディロと共に経営するバー“マックの店”。ある日マックは、飛行機で乗り合わせたアメリカ人が“マックの店”で人と会う約束をしているという話を聞き、彼を連れて店へ。彼らが着くや否や、覆面をした二人組が店に乗り込んできて、アメリカ人と会う約束をしていた男が銃で撃たれ、犯人たちは逃走した。その事件を受け、パディロはしばらく姿を消すという。実は彼はアメリカのスパイであり、なんらかのトラブルに巻き込まれたらしい。姿を消したパディロに対し、残されたマックも東西ドイツとアメリカ、ソ連を巻き込む亡命事件に巻き込まれてゆくこととなり・・・・・・
<感想>
ロス・トーマスの作品の何冊かが積読となっているので、そろそろ読まなけれと思い、その処女作を初読。タイトルの通り、スパイ戦が繰り広げられる内容の作品。
主人公が元軍人という設定のみで、スパイという立場からはかけ離れているので、そこが気になるところだが、それを除けば普通に面白く読める作品。これぞスパイものというような内容である。しかもこの作品、実際に起きた有名な亡命事件をモチーフとしたものであるようなので、その実話に対しても興味が湧いてくる。
最初は主人公マックが共同経営者でスパイでもあるパディロに関する案件に巻き込まれるという形で始まる。その後はマックもパディロに積極的に協力し(協力せざるを得ないのだが)、亡命者を連れてベルリンの壁から脱出し、さららには裏切り者と戦い、などと積極的に事件に関わってゆくことに。終着点がなかなか見えない中で、最後のほうはただひたすら生き延びるのみを目指して、という感じではありつつも、それでも存分にスパイ戦というものを堪能できる作品ではあった。
<内容>
広告マンのピーター・アップショーと、選挙コンサルタントのクリントン・シャルテルは、アフリカの小国アルバーティアの国家元首を選出するための選挙に参入する。下馬評では不利と言われているチーフ・アコロモを選挙で勝たせようというのである。欧米とは異なる立地・習慣のなかで二人は奮闘し、彼らが支援する候補者が有利になる方向へと導こうとするのであったが・・・・・・
<感想>
「愚者の街」に続いて、またもやロス・トーマスの未訳作品が刊行された。前作が意外と日本においても評判が良かったようで、そのかいあっての本書の出版となったのかな??
今作はワールドワイドというか、ある種の壮大ささえも感じてしまうような内容。アメリカの選挙コンサルタントが、アフリカでの選挙活動を支援するというもの。海外ではこういった類のものを見たことがあるような気もするが、日本ではあまりないと思われる。国内での選挙コンサルタントならばなくもないのだが、日本人が海外へ出向いて選挙の根回しをするという作品は読んだ覚えがない。そういった意味からも壮大さを感じてしまった作品。
作中では、普通に選挙活動が進められていく。支援者に対して、どのようにスピーチをして、どのように活動すべきかの方向を決める。そして、国全土における広報活動、さらには敵陣営に対しての裏工作。こういったことを地道に事細かに行って、徐々に選挙戦を優位にしていくという方策が語られてゆく。
と言った感じで、アフリカの国における風習をのぞかせながら、淡々と選挙戦が行われていく作品となっている。何気に地味な感じもするのだが、その割には最初から最後まで興味深く読むことができた。そして、選挙戦の行方はどうなるかというと最後の最後に思いもかけない展開が待ち受けていることになる。そのカタストロフィぶりが何とも言えないものとなっている。
全体的に派手さはないものの、淡々と楽しめる作品であったと思われる。スパイ戦とはちょっと異なる“選挙戦”を堪能できる作品。
<内容>
<マックの店>の経営者であるマックコールは、久々に昔の相棒で、かつての店の共同経営者であったマイケル・パディロと再会する。パディロは厄介ごとを抱えており、とある要人の暗殺依頼を強いられているのだとか。そして、その暗殺を依頼してきた組織は、パティロに暗殺を果たさせようと、マックコールの妻を誘拐し、人質とする。マックとパティロは、状況を打開しようと、金で動きそうな男女3人を雇い、計画を練り始め・・・・・・
<感想>
「冷戦交換ゲーム」を読んで、続編となるこの作品に手を出してみた。はっきり言って、こちらの方が圧倒的に面白い。前作で描かれていたのは、高度なスパイ戦という感じで、その内容が伝わりづらかったのだが、今作ではその内容がわかりやすく、話も入ってきやすいので楽しんで読むことができた。また、前作からこの作品が翻訳されるまで、かなり間が空いており、それゆえか訳が新しいと言うこともあり読みやすかったということもあるかもしれない。
本書は、要人暗殺を強いられた二人が、それを行うのか、止めるのか葛藤するという内容。暗殺を行わなければ、誘拐されたマックコールの妻の命がない。ただし、暗殺を果たしたからと言って、妻が無事に戻ってくる保証はないし、彼ら自身の命も危ぶまれるところ。そういったなかで、さまざまな人物に協力を取り付けながら、マックコールとパティロは計画を進めていく。しかし、その計画を進めていくうえで、その協力者たちは誰もが金で動く者たちばかりなので、裏切りも危ぶまれるという状況。
と、そんな感じで先行きどうなるか不透明なまま、物語が進行していき、最後に一様が入り乱れての激戦が行われることとなる。スピード感のあるサスペンス小説として面白い。また、裏切り上等というスパイ戦のような展開も目を見張るものがあった。これはかなり楽しめた作品。
<内容>
アメリカのスパイ組織で働いていたルシファー・C・ダイは、とある作戦の失敗により刑務所で過ごすこととなり、退所後組織からは見捨てられることに。そんな彼のもとにヴィクター・オーカットという実業家が訪ねてくる。彼は都市問題専門のコンサルタントであり、とある人からの推薦によりルシファーに力を貸してもらいたいのだと。彼が引き受けることとなった依頼は、スワンカートンという街を腐らせるというものであり・・・・・・
<感想>
ロス・トーマスの未訳作品が久々に翻訳された。ちょうど、手持ちのロス・トーマスの作品を再読していたところだったので、これは嬉しい限り。未訳作品の翻訳のみならず、入手しづらい作品の復刊も期待したいところではあるが、ロス・トーマスの作品が今の世でそこまで人気が出そうという気もしないので、ちょっと微妙なところか。
本書はハメットの「赤い収穫」を思わせるような謀略小説となっている。ただ、この作品で一番の見所となるのは主人公であるルシファー・C・ダイという人物の生い立ちにある。この人物、幼少期に医者の親と共に中国へと渡るが、不慮の事故で親が死亡し、娼館を経営する女に助けられ、そこで育つこととなる。その後第二次世界大戦が勃発し、困難のなかで彼は成長していくこととなる。
このルシファーの生い立ちと現在の流れとが並行しながら物語が展開され、そうして冒頭の彼が何故刑務所に入れられることになったのかということが明らかとなる。その流れが上巻くらい。そして本題とも言える、一応序盤から過去の話と並行して語られているのだが、ひとつの街を“腐らせる”という陰謀が成されていくのであるが、この部分に関してはちょっと微妙であったなと。
というのも、この“街を腐らせる”という目的があまりにも抽象的であり、結局何をしたいのか、何をさせたいのかということが最後の最後までわからなかった。“腐らせる”といいつつも、元々汚職が蔓延っている街ゆえに、それを取り除けば街を浄化させているようにも捉えられるし、到達点がどこにあるのかが全くわからない。話が終わってみれば、最終的には登場人物全員が消耗しただけという気もしなくもない。
そんなわけで、重要事項のはずである本書の目的よりも、主人公の現在に至るまでの人生の方が面白いと思えた作品。まぁ、これが謀略小説として完成されたものであれば、もっと早くに翻訳されていたかと勝手に納得してしまう。
<内容>
戦争中、戦略事務局で働いていたアメリカ人のマイナー・ジャクソンは、戦後除隊してロサンジェルスをぶらぶらしていた際に、小人と出会う。ジャクソンは、ニコライ・ブルスカーリュと名乗るルーマニア人の小人と共に様々な仕事を請け負うこととなる。今回は、フランツ・オッペンハイマーというユダヤ人の男から、行方不明となっている息子を探し出してくれと依頼され、引き受けることに。男の行方を調べていくと、行方不明となっている男は、様々な国から追われている凄腕の殺し屋であることがわかり・・・・・・
<感想>
結構、古い本。早川書房のミステリアス・プレス文庫から出た作品の2冊目という、言われてもピンと来ない人の方が多そうなレーベルであるが、かつてはこのような文庫が存在した。私が初めて読んだロス・トーマスの本を再読。
スパイ小説であるが、他のスパイ小説に比べてロス・トーマスの作品は独特の雰囲気がある。従来、スパイ小説といえば、無機質な感じがするものの、ロス・トーマスの作品では人間味を感じるようなものが多いような気がする。ただし、その分、主たるスパイ小説としての目的は薄まっているような気もしてしまう。
また、本書は群像小説とまではいかないまでも、多くの人物が登場し、様々な視点で展開されてゆく。一応、主人公はマイナー・ジャクソンというアメリカ人なのであるが、他の登場人物らがそれぞれ存在感を出しており、肝心のジャクソンについては、やや希薄とも捉えられてしまう。そういった面からも、全体的に焦点がぼやける作品という感じがした。
最終的な局面においても、到達点はどのようになるのかと思いきや、肩すかしのような思いもよらぬ結末が待ち受けていることに。そうした点からも、スパイ小説としての結論ありきの作品ではなく、そこに登場する人物たちの人間模様を描き上げる作品という印象のほうが強かった。独自性を持つスパイ小説ということで、こういった作品があっても良いのではないかと感じられた。
<内容>
5人組のテロリストの一人がさらわれ、テロリストらはCIAの仕業とみなした。彼らは、アメリカ合衆国大統領の実兄をさらうことで報復をし、人質の交換を申し出る。しかし、アメリカ側は、この事件に関与しておらず、事態の収拾をはかるために大統領はポール・グライムズという男を呼び寄せる。ポールは、元下院議員で“モルディダ・マン”と呼ばれる男、チャブ・ダンジーを派遣し、さらわれた大統領の実兄を救い出そうとするのであったが・・・・・・
<感想>
ロス・トーマスの昔の作品を再読。個人的には、今まで読んだロス・トーマスの作品のなかで、この作品が一番面白いと思っている。
これが面白いと思える理由は、話の目的がわかりやすいからかもしれない。他に読んだロス・トーマスの作品は、着地点がわかりにくいものがしばし見受けられた。今回の作品は、誘拐された大統領の兄を救い出すというものであり、目的がはっきりとしているので非常に読みやすかった。
ただ、目的ははっきりしていても、構図はそれなりに複雑となっている。大統領の兄を誘拐した者たちは、テロリストの仲間の一人が誘拐されたことにより、その報復として誘拐をしたのである。ただ、テロリストを誘拐した者は、全く見当違いの別の組織の者であり、それ故に互いの行動と目的がややこしくなってゆくのである。
そうしたなかで、チャブ・ダンジーという男が呼ばれ、彼が事件解決に向けて動き出すこととなる。大統領の兄の行方を探し出そうと、時間制限のあるなかでの活動が行われてゆく。主人公はこのダンジーであるのだが、本書は群像小説に近いような多視点で語られるものとなっているので、多くの人物が登場する。それら人々が交錯するなかで、ダンジーが目的の人物の元までの細い糸を手繰り寄せていく様相が描かれている。
最後の最後まで予断を許さない展開で描かれていて、緊迫しながら読み通すこととなった。色々な要素が絡み合っていた割には、最終的にはきっちりと紐解かれて結末を迎えたという感じである。この結末の付け方も、この作品の価値を高めているひとつであると思われる。たぶん、主人公のチャブ・ダンジーが出ている作品というのは、これのみであると思われるのだが、この人が活躍する別の作品も読みたかったなと思わせるほどの内容であった。
<内容>
上院議員のもとで働いているベンジャミン・ディルの妹で、女刑事であるフェリシティが車に爆弾を仕掛けられ何者かに殺害された。ディルは何が起こったのかを知るために久々に故郷へと足を踏み入れることになる。警察に事情を聞いてみても、まだ誰に殺害されたのかも何に巻き込まれたのかもわからないと。ただ、妹は多額の生命保険に入っており、さらには新居を買う手配までをしていたという。その莫大な大金はいったいどうやって入手したのか・・・・・・
また、ディルが故郷へ戻ってきたのは他の理由もあった。上院議員からの依頼で、かつてのディルの友人であり以前武器の密売人をしていた男から事情聴衆をしなければならなかったのだ。ディルはやがてそこで起きる複雑な駆け引きの渦中へと入り込んでいくことに。
<感想>
以前、ミステリアス・プレスから出版されたときにロス・トーマスの作品を何冊か読んだ。そのとき、読み逃していたのが「女刑事の死」。しかも、その作品の評価がなかなか高かったので、買い逃した事を残念に思っていた。それが去年、ハヤカワ文庫から復刊されたので、これを機に購入。そして、ようやく読むことがかなったのだが、これがまた噂にたがわず面白い作品であった。
物語の序盤は主人公ディルの妹(刑事)が何者かに殺害され、その事件の調査が主に語られてゆく。しかし、途中から次第にディル本来の職務であり、上院議員からの依頼でもある、武器の密売人に対する交渉へと移ってゆく。本当は、もう少し妹の事件を主においてくれても良いのではないかと最初は思ったのだが、そんな思いもふきとばすくらい、密売人たちとの交渉のパートがスリリングであり、物語の後半もどんどんと引き込まれていった。
二人の武器の密売人の間に立ち、さらには上院議員との間もうまくとりもっていかなければならないディル。さらには、妹の事件を調べていくと何故か出会った関係者達が次々と殺害されてゆく。そうした中でこれらの交渉や事件に対してディルがどのように立ち向かってゆくかが見事に描かれている。
さらには、本書の主人公であるそのディルという男が非常にもの静かであり、感情を押し殺しながら静かに行動していくさまは何ともいえないものがある。そして最後にたどり着いた真実と、ディルの置かれた立場におけるやるせなさが表されるラストはまた何とも印象深い。
というわけで、読むことができて大変満足な1冊であった。このような本を読んでしまうと、またロス・トーマスの本全巻コンプリートという病気が頭をもたげそうで怖いところである。
<内容>
罠にはめられて投獄されていた元最高裁判判事のジャック・アデアは、出所後、元弁護士のケリー・ヴァインズの力を借り、カリフォルニアの小さな町へと逃れる。そこは市長と警察署長が結託して、逃亡者を受け入れるビジネスを行っていた。その町でジャックとケリーは、何者が彼らをはめて、そして命を狙おうとしているのか? 犯人をあぶりだそうとするのであったが・・・・・・
<感想>
ジャンルは何と表現したらよいのかわかりづらい作品。スパイものというわけでもないし、騙しあいのコン・ゲームというほどのものでもない。広義のうえではサスペンスなのであろうが、かなり癖のあるサスペンス小説という感じであった。
罠にかけられた元最高裁判事のジャックが出所後も命を狙われ、その謎の相手をあぶりだそうとするもの。アデアは投獄される前に扱った、とある裁判について思い起こすこととなる。その裁判における人間関係が複雑なものとなっている。また、ジャックの周辺で彼を手助けしようとする人々の人間関係までもが何故かややこしい。
結構ややこしい設定の作品のように思われたのだが、読み終えてから話を要約してしまえば、実は単純な構図の内容とも捉えることができる。それをわざわざ複雑に描いた作品と言う感じであった。ただ、そうしたなかでジャックを付け狙っている男が、あれだけ派手に行動しているにもかかわらず、全く警察につかまらずに動き回っているという状況はおかしいのではないかと。その真犯人役の男が、特にスーパーマンというわけでもないなかで、こうした行動をとるというのはかなり役不足であったような気がする。そこが本書の一番の問題点であったような。