<内容>
1663年、イングランド。ヴェネツイア人で貿易商の父を持つマルコ・ダ・コーラは、行き掛かりのうちに医者として活動するようになっていった。旅をしているうちに寄港したイギリスで足止めをくらい、しばらくはそこで過ごすこととなった。そんなとき、ブランディ母娘と出会い、重病の母親の看病を無償ですることとなる。その後、娘のサラ・ブランディが毒殺事件の容疑者となり・・・・・・
<感想>
東京創元社が今年一推しの作品という感じで売り出していたので、試しに買って読んでみた。この作品に関しては、エンターテイメントやミステリを期待するのであれば、読まないほうがいいと思えるもの。歴史小説としては、たぶんそれなりに面白みがありそうなので、そういったものが好きな人が読めばよさそうな作品。とはいえ、創元社一推しの作品であり、翻訳にも力を入れているようで、それなりに読みやすい作品ではあった。
物語は4つの章にわかれている。最初にヴェネツイア人で若き医者であるコーラが主人公となり、イングランドで起きた出来事がコーラの視点から描かれる。そこでコーラは、様々な人々との出会い、いくつかの事件に遭遇することとなる。
そして第2章になると第1章に登場した別の人物により、コーラが見てきたものとは異なる別の視点から物語が描かれることとなる。同様に、第3章、第4章でも別々の人物の視点により物語が語られることとなり、ひとつの事件が様々な観点によりみられることにより、別々の真相が明らかにされることとなるのである。
と、内容を追っていくと興味深く思えるものの、実際に読んでみるといまいちと感じられてしまった。というのは、徐々に新たな章で語られる物語により、真相があぶりだされてゆくという形であればよいのだが、これが後から語られる者の物語のほうがどうにもうさん臭く感じられてしまうのである。特に第3章の語りての人物造形がやけにひねくれており、その内容を素直に受け止めることができない。さらには第4章になると話全体がうさん臭くなり、これまた真実かどうかもわからない。そんなわけで、第1章のほうが実は健全な真実ではないかと結局のところ思わずにはいられなかったのである。
そんなわけで、読んでいくうちに真相がわかるという構成であれば、ミステリ的エンターテイメント的にも面白いと思えるのだが、読めば読むほどうさん臭くなっていくというものであり、結局のところ納得のいかないまま終わってしまった。歴史に興味がある人が読めば、色々と感じ入るところもあるのかもしれないが、そうでなければあまり面白い読書になるとは言い難いであろう。
<内容>
引退した警察官、オーガスタス・ランダーは陸軍士官学校の校長から呼び出しを受ける。学校内で学生の一人が自殺を遂げたのち、死体が消え失せ、次に発見された時には心臓がくりぬかれていたという事件が起こったというのだ。内々に事件を処理したい校長は部外者であるランダーに事件を捜査してもらいたいというのである。事件を引き受けたランダーであったが、閉鎖的な陸軍士官学校の中でどのように捜査をしたらよいのか見当もつかなかった。そんな折、ひとりの癖のある生徒と出会うことに。彼の名はエドガー・アラン・ポオ。ランダーはポオの力を借りて事件の謎に挑む。
<感想>
このルイス・ベイヤードという人物、歴史ミステリを描く新進の作家であるようだ。本書はどちらかといえば、サスペンス色が強いような気もするのだが、それでもこういった本格テイストの作品を書いてくれる作家が海外にいるということは非常にうれしいかぎりである。これからもどんどんとミステリ作品を書き上げていってもらいたい。
本書の大きなポイントは何と言ってもエドガー・アラン・ポオが登場することである。読む前のイメージでは、禁欲的で理知的な人物と勝手に思っていたのだが、実際に登場してきたのはおしゃべりで、信用ができなく、行動が不可解で非常に怪しげな人物。ようするに、どう見ても容疑者にふさわしい人物なのである(実際、物語中で嫌疑をかけられる場面もある)。そんな怪しげな人物と元警察官が学校内で起こる奇怪な事件に挑むという作品。
実は読んでいる最中は、さほど良い作品だとは思わなかった。というのも、捜査に関することとか、その他色々と不満に思えるところが数多く見られたのである。結局のところ本格というよりは、単純なサスペンスで終わるのかと思いきや、最後の最後でそういった見方は一変することとなる。物語のラストで明らかになった真実により、今まで不満に思われたことに対して全て解決がつき、著者がどのような物語を書きたかったのかがようやく理解することができた。
あれこれ書いてしまうとネタバレになってしまうので、あまりおおっぴらにはできないのだが、最後まで到達すると非常にうまくできた作品であることがわかる。この作品こそが2010年の海外ミステリのなかで最大の収穫と言っても過言ではないであろう。これは今年中に読めて良かった作品。是非とも読み逃しのないように。
<内容>
アメリカ東部の田舎町フレデリックで16歳の女子高生サラ・パーセルが失踪した。サラの家族は両親と弟のジャックとの4人。両親が嘆く様子をジャックが動画撮影し、ネットにあげたことから騒ぎが大きくなり始める。その様子を見たTNNネットワークのプロデューサーのケイシーは、これを題材としたリアリティ番組を作れば視聴率が得られると考え、さっそくサラの両親に交渉し、番組制作に乗り出してゆく。全米に放映されることによって、大きな騒動を巻き起こす事件となったサラ失踪事件であったが、事態は思わぬ方向に転がり続け・・・・・・
<感想>
昨年、話題となった「トゥルー・クライム・ストーリー」を読んだことにより、本書も同傾向の作品と思い購入して読んでみた。中身はだいぶ異なる様相の作品ではあるが、これはこれでなかなか面白く読むことができた。アメリカならではのミステリ作品となっている。
犯罪を語る作品というよりは、リアリティ番組が呼び込む騒動を描いた作品として仕立て上げられている。起きたはずの犯罪をよそに、番組プロデューサーのケイシーが巻き起こす騒動こそがもはや犯罪的に描かれた作品となっている。
単に番組中心として描かれた作品が面白いのかと思われるかもしれないが、これがまた工夫を凝らして描かれている。章が変わるたびに、小出しに意外な真相が明らかになり、次から次へと予想外の展開を迎えていくこととなる。登場人物のそれぞれが語る証言の裏に秘められた“嘘”によって、思いもよらぬ方向へと進み続けてゆくこととなるのである。
全体的に、やや安っぽい感じに思えるのだが、その安っぽさゆえに、リアリティが感じられるという、なんとも言えない世界観。実際にこんな番組がアメリカで本当に放映されたと言われたら、信じてしまいそうな感触。そして最終的に、いかに犯罪を犯そうと、騒動を起こそうと、我の強い者のみが生き延びてゆく世界であるのだという現実を突きつけられることとなる。ミステリとしてのみならず、アメリカの現状を垣間見えることができる作品であった。
<内容>
台湾で主催された中国語で書かれた未発表の本格ミステリー長編を募る新人賞。第一回の募集では世界各国から58作品が寄せられ、台湾の作家・寵物先生(ミスターベッツ)が本書により第1回の受賞作となった。
イエンルーホアは彼女の上司で開発部門のマネージャであるダイシャンらとともにヴァーチャル・ショッピングモールの計画・作成にたずさわっていた。それはヴァーチャル空間の中に作られた町のなかで大勢の人々にショッピングを楽しんでもらうというものであった。開発中のある日、イエンルーホアとダイシャンはヴァーチャルモールの中に誰かが入り込んでいることに気づく。二人で手分けしてモール内を探してみると、彼らが発見したのは男の死体。ヴァーチャルの中で発生した事件により現実世界で操っていた者も死亡していたのである。イエンルーホアは元私立探偵であった母親の力をかりて、事件の謎を解こうとするのであるが・・・・・・
<感想>
これは結構面白かった。タイトルの通り、虚擬が入り混じる描写のなかで物語が展開され、読んでいるほうはは最後の最後まで翻弄されることとなる。
全体的に不思議な感覚の本であった。ヴァーチャルリアリティを用いるということで、近未来小説ともいえるのだが、SF的な感覚よりも懐かしさを感じられるような雰囲気となっている。そうしたなかで事件が進行してゆくこととなるのだが、読んでいるとどこかしっくりいかないように思えてしまう。実はそのしっくりといかない感覚こそが物語の謎に通じているのである。
最終的にはもちろんのこと、事件の全容は解明されてゆくこととなるのだが、何故か謎の余韻を残したまま終わってしまうようにさえ感じられる。どこかに解明されていない謎が残されているのかと考えてみても、その実それぞれの事象がきちんと解かれているように思える。もやもやしたものが残りながらも、別にそれが内容を損ねているわけではなく、作風を深めているようにさえ感じられるから不思議である。
第1回の推理小説賞としては非常に味のある良作が選ばれたと言えるだろう。SF作品と言ってもいいような内容なのに、こういった感想となることが不思議な作品。
<内容>
作家のデイヴィッド・ベニオフは祖父のレフ・ベニオフから、今まで彼が決して語ることのなかった戦争当時の状況を聞き出すことにした。レフが語る当時の状況とは・・・・・・
1942年、レフが17歳のときレニングラードはドイツにより包囲されていた。ある日、レフはパラシュートで降りてきたドイツ兵の死体から物資を盗んでいるところを兵士に見られてしまい、捕まることに。レフは逃亡兵である青年兵コーリャと共に、軍の大佐からある使命を命じられる。それは、大佐の娘の結婚式に用いる卵を調達してこいというものである。レフとコーリャは戦争で物資が手薄となっているなか、なんとか卵を探そうとするのであるが・・・・・・
<感想>
戦時中のソ連国内の悲惨な状況をユーモアを交えつつ、一人称で語られる冒険譚。老齢となったレフが当時の状況を思い起こしながら語るというスタンスで描かれている。
戦時中ということで、その状況における悲惨さが語られているのだが、特に目立つのは“飢餓”に関する描写。物資が無いことから人々は飢えに苦しみ、食べることができるものは既に食べつくしてしまったという状況。そんななか、皮肉にも主人公たちは卵を探すという使命を果たさなければならない羽目に。
本書は戦争の陰惨さをユーモアな語り口で包み込み、うまく読者が内容を消化できるように工夫しているというように感じられた。このユーモアがうかがえるようなタイトルもそうであるし、ネガティブでまじめなレフと一緒に旅するコーリャという青年の明るさも、この物語を救っているというように思えた。
決して順風満帆とはいかない旅を経て、結局卵が手に入るのかどうかは実際に読んでいただきたいところ。ただ、後半は人生における皮肉というか、とにかく痛烈で過酷な現実が次から次へとレフ少年に降りかかって行く。
最後にとある人物から語りかけられる「おまえが今言いたいと思っていることだが−言わんほうがいい」という言葉にレフ少年の思いの全てが集約されているような気がして何とも言えない思いになった。
<内容>
省略。
<感想>
この本も長らく積読となっていた一冊である。5、6年前、この本が書店に並べられているのを見て、何も考えず表紙の印象だけで購入してしまった作品。どのような内容が書かれているかも全く知らずに、そしてそのまま今回読んでみた。実際、どのような内容であったかといえば、本書は第二次世界大戦を描いた戦争小説であり、その戦争を痛烈に皮肉った風刺小説となっている。
ただし、これが普通の戦争小説であるかといえば、全く異なるものである。その書き方も奇妙であり、別にミステリ的な効果を狙ったというものでもないはずなのに、時系列を色々と入れ替えて書かれていたりと、読んでいて妙な気分にさせられるような書き方をしている。
また登場する人物も普通と感じられるような人は登場せず、主人公にいたっては空軍パイロットでありながら、病気だとか何らかの理由をつけて飛行機の乗らずに済ませて、無事に本国へと帰ることだけを考えている始末である。他の登場人物はというと、主人公と同様に、戦うのが嫌で少しずつおかしくなっていくようなパイロット達と、自分の出世のみを考える将校達、もしくは自分の利益だけにまい進する者達と、とにかく奇々怪々な世界が描かれている。
本書において一番奇妙に感じられたのが、この作品が戦争小説であるにも関わらず、敵については一切触れられていないこと。敵が憎いとか、敵にどのような扱いを受けたとか、そういったことはほとんど書かれていない。その書き方はまるで、敵が見えない中、主人公らの部隊のみがひとり相撲を取っているように感じられるのである。
この作品に出てくる者達は、決して戦争という目的のために戦っていない。彼等が戦っている理由とは、何回飛行機で飛べば兵役免除になって帰れるからとか、昇進できるからとか、自身のお金がもうかるからとか、自分自身のためのみに戦争をしているようなのである。そのような書き方に妙なリアリティを感じ取る事ができ、ある種の薄ら寒ささえ感じ取れてしまうのである。
本書は最初は結構気楽な感じで物語が始まっていると思われた。しかし、読んでいくうちに話の中で徐々に戦争が進んで行き、死者も増え、主人公を含めた登場人物らが徐々におかしくなっていく様子が見て取れるように書かれている。特に、後半は徐々に陰惨な場面も増えてきて、喪失感や虚無感が顕著に感じ取れるようになってくる。
この「キャッチ=22」という作品は変わった視点から戦争を描き、戦争に対する嫌悪感、バカバカしさというものを見事にあぶりだした作品といえよう。さらに、戦争に対してだけではなく、資本主義社会に対しても風刺するような内容となっていてかなり深さが感じ取れる作品である。これは読む人によって、また読むたびに色々な発見ができる小説であるといってよいであろう。この作品は長らく語り継がれているベストセラーであるそうだが、今後もさらに語り続けられてゆくに違いないと確信できる作品である。
<内容>
有名な探偵社の記録係として働くアンウィン。ある朝、いつもどおりに探偵社へ行くと、そこで彼を待っていたのは探偵へ昇格するという事例。彼は行方不明になった名探偵シヴァートの代わりとして探偵になったようなのである。自分では探偵は務まらないと思ったアンウィンは探偵マニュアルを片手に、シヴァートの行方捜しに奔走することとなり・・・・・・
<感想>
“探偵術マニュアル”じゃなくて“スパイマニュアル”という感じがしてしょうがないのだが・・・・・・
読む前にタイトルを見て思ったのは、突然探偵となった青年が探偵マニュアルを参考に、事件の捜査を始めてゆく・・・・・・という内容であったのだが、そういったものとはかなり異なるものであった。主人公も40前後の中年で、事件捜査どころか、探偵という仕事がいやで前任者の行方を捜すという行為のみで、全くと言っていいほどマニュアルが役に立っていない。しかも、探偵事務所自体が怪しげで、どうみても探偵というよりも政府の秘密機関という感じにしか思えなかった。
本書の際立った特徴というと、ファンタジーであるということ。最初は普通のミステリかと思っていたのだが、読んでいく途中、白昼夢での出来事がでてきたり、夢のなかが取りざたされたりと、どこかあいまいな内容。しかし、それらは決してあいまいというわけではなく、そうした白昼夢の出来事こそが物語の根幹であり、それらすべてを包括したファンタジー小説となっているのがこの作品の重要な点なのである。
個人的には、少々取っ付きにくいSF小説を読んだような気分であった。軽めのミステリ作品と思って読んでしまうと、大きく期待を裏切られることとなるだろう。むしろ幻想小説が好きな人にお薦め。
<内容>
作家志望のアニーは、祖母の遺産相続にまつわる話を聞くため、芸術家である母親の代理としてキャッスルノール村へと赴くことに。初めて祖母と出会うはずのアニーであったが、彼女が見たものは祖母の遺体であった。老齢による自然死かとも思われたが、警察の調べにより殺人事件であることが判明する。祖母は過去にとある失踪事件を体験しており、その出来事を今の今まで引きずっていた。その過去の事件が今回の事件と関連しているのであろうか!? そして、祖母の遺言によりアニーは事件の犯人探しをしなければならない羽目となり・・・・・・
<感想>
これは作品にというより、出版社の宣伝文句に騙されたという感じである。“犯人当てミステリ”という風に銘打たれ、しかもいかにもなタイトル“白薔薇殺人事件”というのに惹かれて購入した作品。その結果はというと・・・・・・だいぶ微妙。
まぁ、作品云々というよりは、期待したものと違ったという感じであった。犯人当てっぽいようなところもあるには、あるのだが、基本は過去と現代の物語をマッチングさせるようなサスペンス小説という感触。本格ミステリというには、程遠い内容と思われる。
この作品は著者にとって処女作であり、新人作家ゆえに、あれこれ注文を付けるのもおかしいかもしれないが、基本的に話がつまらなかった。現在の話と過去の話が語られるものの、どちらも小競り合いが行われているのを延々見させられるという感じ。現代では遺産相続に関する小競り合い、過去では男女間の優位性にかまけた小競り合い。そうしたものが延々と続くので(しかもページ数が結構多い)、読んでいてつらかった。また、犯人当てミステリといいつつも、過去編の全貌がなかなか明らかにならず、結局は現代編とほぼ並行して、そのまま最後まで並走するといった次第。
そんなこんなで、あれこれ不満を感じる作品であった。もう少し、ベースの話自体が面白ければ、良かったのだが、そこに全く興味が惹かれなかったので、良い印象の作品とはならなかった。たぶん、この著者の2冊目の作品が出たとしても、よっぽど評判が良くない限りは、読まないであろうなぁ。