<内容>
画家のスコットが、誘いにより乗せてもらうこととなった資産家のプライベートジェット。その飛行機が墜落し、スコットは海に投げ出される。スコットは泳いで陸へとたどり着こうとする途中、同じ飛行機に乗り合わせていた少年を救助し、二人で無事に生還を遂げる。マスメディアにより英雄として注目されることとなったスコットは、人々の目から逃れるために身を隠す。一方、連邦の調査チームは飛行機の事故の原因を調べ始め・・・・・・
<感想>
ここまで引っ張っておいて、期待させておいて、結末はこれかよ!! と、読み終えた時に叫びだしたくなる本。
プライベートジェットの墜落に遭いつつ、無事生還を遂げた画家のスコット。その事故を生き延びたのは、スコットと途中でスコットが救出した少年の二人だけ。何故、このような事故が起きたのか? 徐々に真相へと迫ることとなる。
飛行機に乗っていた者たちの、ひとりひとりの背景がそれぞれ描写されてゆく。資産家のデイヴィッドは、彼が雇っている番組コメンテータが犯した盗聴行為により窮地に立たされる。銀行家のベンは法律により、追い込まれる羽目に。また、デイヴィッドの娘が過去に誘拐された事件についてと、その事件以来雇わるようになったボディーガード。飛行機を操縦する操縦士、副操縦士、客室乗務員ら、それぞれの背景。そして、生還した画家・スコットの作品にまつわる謎。
こういったものが語られる中で、背後に何か大きな陰謀が働き、やがてとてつもない真相が顔を出すことになるのでは・・・・・・と、散々期待させておきながら、まさかの結末。ただ、読んでいる時に、登場人物ひとりひとりの過去が語られるパートの進み方がやけに遅いと、微妙な感触を抱きつつ読んでいたのは確か。どうもスピード感に欠ける作品だなと思っていたのだが・・・・・・。
なんか、ミステリとか、サスペンスとかではなく、文学的な内容の作品だと捉えたほうが良いのかなと思えてしまう。意外な展開を期待する作品ではなく、登場人物それぞれの人間模様について感じ入るべき作品なのかと。
<内容>
前書き
外向きの視線で
「町を覆う恐怖と罪 −セルヴェサキス事件−」
「ギリシャ・ミステリ文学の将来」
「最後のボタン」
「バン・バン!」
「死せる時」
「善良な人間」
「さよなら、スーラ。または美しき始まりは殺しで終わる」
「無益な殺人未遂への想像上の反響」
「三人の騎士」
「双子素数」
「冷蔵庫」
「《ボス》の警護」
「死への願い」
「死ぬまで愛す −ある愛の物語の一コマ−」
「ゲーテ・インスティツゥートの死」
<感想>
本書はギリシャで出版されている犯罪小説のアンソロジー、「ギリシャの犯罪」の5巻目となる作品のようである。それを聞くと納得させられるのであるが、本書についてはミステリ傑作選というよりも、犯罪小説傑作選と銘打ったほうがしっくりくるような内容となっている。ゆえに、ミステリ=謎解きとのようなイメージで読むと、肩をすかされてしまうかもしれない。
犯罪小説集ということであるので、はっきりいえば、あまり印象に残った作品はない。なんとも、理由があったり、理由がなかったりの犯罪の数々が披露されているだけというようなところ。また、一人称作品が多かったと言うこともあり、勝手なイメージになってしまうかもしれないが、ひとりよがりな犯罪と感じてしまう部分もあった。
わかりやすい話で、アメリカのロック歌手ブルース・スプリングスティーンの警護を描いた「《ボス》の警護」、とある交通事故の被害者の背景を描いた「死への願い」あたりは、それなりに興味深く読めたかなと。
このような趣向の作品のわりには、それぞれの作品のページ数が短すぎて、あまりギリシャ小説というもの自体を堪能することはできなかった。まぁ、別の海外向けに描かれた作品と言うわけでもなく、それように集められた作品と言うことでもないので、致し方のないところか。
<内容>
特定の名前を持たないプロの犯罪者である“私”は、犯罪組織の大物マーカスから仕事の依頼をされる。その仕事とは、マーカスの命令により強盗を企てた者たちが失敗し、“いわくつき”の金を持ったまま行方をくらましているというのだ。“私”はそのいわくつきの金を時間制限内に取り戻さなければならないこととなった。かつて“私”はマーカスの依頼により仕事を引き受け、“私”のミスにより失敗させてしまったという負い目があった。“私”は金を取り戻すべく、現地へと旅立ち・・・・・・
<感想>
数年前、単行本で出版されたとき、ランキングでも話題となっていたので、文庫化されたら買おうと狙っていた作品。これが読んでみたら実に面白かった。
ざっくり言えば、近代的な犯罪者もしくは銀行強盗の話。主人公は犯罪者たちがチームで行動する際の符丁である“ゴーストマン”という役割を担う人物。“ゴーストマン”とは何? というものについては、ぼやっとしていて説明しにくいのだが、銀行強盗たちが姿を消すのを手伝う役割。“ゴーストマン”は身分を偽り、常に己の痕跡を残さないようにしている。何にでも化けることができ、詐欺師・スパイのような役割もする。そんな主人公が事件を依頼される。
主人公は過去に計画された現金強奪事件においてミスをしたことにより、その負い目からか今回の事件を引き受ける。その現代の事件と、過去の事件が並行して語られてゆくこととなる。過去においてはプロの手による現金強奪計画、現代の事件においては現金強奪後に消えた金の行方を追うというもの。また、今回引き受けた事件に関しては単に金の行方を追うだけではなく、裏に隠された陰謀の正体を暴きつつ、己の身を守りつつ、時間制限内に依頼をこなさなければならない。
近代的な強盗のありさまや、“ゴーストマン”といった符丁、また様々な陰謀・策謀、楽しめる要素満載のエンターテイメント・クライム小説。設定だけを見ると、最近ありがちな犯罪小説のように捉えられるが、そいった普通の小説とは一線を画した小説として完成されている。それは何といっても主人公の人物造形にあるといってよいであろう。
本書の欠点を上げるとすれば、主人公がやや完璧すぎるところ。犯罪チームにおける“ゴーストマン”という役割を担っているにも関わらず、基本的に彼ひとりですべての事ができてしまうように思えてならない。また、主人公があまりにも強すぎて、ひとりで敵をバッタバッタとなぎ倒していくところは爽快でありつつも、ちょっとやり過ぎのようなとも感じてしまう。
と、たいした欠点もない面白い小説を堪能できたことは確かであり、これはまた期待の作家が出てきたなと感じさせられたのだが・・・・・・なんと著者のロジャー・ホッブズは2016年に28歳の若さで亡くなっている。この作品が処女作であり、2作目までは発表しているらしい。この作家の作品があと一冊しか読めないというのはなんとも・・・・・・
<内容>
船上におけるサファイヤの強奪計画を立案したアンジェラであったが、それがどうやら失敗に終わり、彼女が何者から狙われることとなった。しかも相手は、彼女が知らない何かを持っているものと思い込み、直ちにそれを返還しろと要求してくる。窮地に陥ったアンジェラは、事態を打開するために、かつての弟子で恋人でもあった“ゴーストマン”に連絡をとることを決意する。
<感想>
前作「ゴーストマン 時限紙幣」を文庫で買って読んだのだが、それが面白かったので、こちらはハードカバーで購入。2作目にして遺作となったロジャー・ホッブズの作品。
今作では前作で触れていた“ゴーストマン”の師匠であるアンジェラが計画した強奪事件により幕を開ける。しかし、その計画が失敗し、アンジェラは命を狙われることに。事態を打開するために、久々に“ゴーストマン”に連絡をとり、そしてゴーストマンがやってきて、二人で共闘して正体不明の相手に立ち向かう。
アクションサスペンスとして十分に面白いものの、どこか物足りなさを感じてしまう。というのは、そもそも“ゴーストマン”というのは役割で会って、本来であれば事件の後始末をする者のことを指している。にもかかわらず、この作品でやっていることは、実戦部隊の仕事に他ならない。しかもそれが全て強引な力技ですんでしまうのであれば、“ゴーストマン”という役割自体が必要のないものになってしまうのでは?
本来ならばチームプレイを主体とするべき人物造形のはずが、単独行動を行うことにより、その設定があだとなっている感じ。また、あまりにも主人公らがスーパーマンすぎて、計画とか、駆け引きとかほぼ関係ないように思えてしまう。そんなわけで、アクションサスペンスして普通に楽しめる作品であることには間違いないが、細かい点をつつくと、あれやこれやとつい言いたくなってしまうという内容。また、個人的には前作のほうが出来が良かったように思える。
<内容>
イギリス、シェトランド諸島。産科医のトーラは夫の故郷であるこの地に引っ越してきた。ある日、トーラは愛馬が死んでしまったため、自分でブルドーザーを操作して墓穴を掘ろうとしたところ、女性の死体を発見してしまう。その死体は心臓がえぐられ、背中に三つのルーン文字が刻まれていた。警察の捜査により被害者の身元が判明したものの、亡くなったと思われる女性の死亡日の記録と遺体から推定される死亡日が一致しないのである。彼女は死んだ後もまだ生きていたということに!? この死体発見を機に、トーラはシェトランド諸島をめぐる大きな事件に巻き込まれてゆく。
<感想>
今年の話題作(というほどでもない?)の一つとして駆け足で読んだ作品。てっきり本格ミステリかと思って読んだのだが、どちらかといえばホラー系のサスペンス作品であった。思っていたものとは違ったものの、良い意味で裏切られたという感じ。ここ最近読んだ本のなかで、一番恐ろしく、最も寒気を感じた作品。
序盤は謎の死体が発見されるところから始まり、その身元を捜査するというふうに物語が展開していく。主人公はトーラという産科医であり、この人物の視点で話が語られてゆくこととなる。ただ、この人物がやたらと不安定な人物であり、過剰なまでに周辺に対して恐怖感を抱いており、こんな人が産科医をやっていて大丈夫なのかと感じてしまう始末。
そういったことにより、不安定というか、なんかグラグラしたような感じで話が始まっていくのだが、主人公の恐怖が徐々に現実のものとなり始める。彼女の周囲にいる人が誰一人信用できない。夫、義理の両親、病院の上司、さらには警官までもが。日常の背後で密かに進行していた犯罪のあまりの大きさに主人公は孤立していくこととなる。
という具合に、過剰な恐怖感が実際にものとなり、誰を信じたらよいのかわからない状況のなかで、隠されていた真相が徐々に明るみに出てゆくという展開。主人公が産科医という設定は、この主人公自身にはそぐわないと思えたものの、物語上は大きな意味を持つこととなる。序盤はうまく描かれた作品とは決して思えなかったものの、途中からホラー系の作品であるという見方に変えてゆくと、実に効果のある描写であったことがわかる。
本書は、たぶん一般には目立っていない作品であると思えるが、これは隠れざる佳作と言ってよいであろう。サスペンス・ミステリが好みの人にお薦め。
<内容>
卒業を間近に控えたパブリックスクール優等生の6人。そんな彼らであったが、スリルを求めるために、車で高速道路を逆走し、度胸を試すという行為を度々行っていた。そうして、今回も同じことを行った結果、逆走に驚いた車が事故を起こし、乗っていた人が死亡してしまうという大事故を起こしてしまう。慌てふためく6人であったが、そうしたなか、メーガンが自分が罪をかぶると言い出す。そして裁判が行われた結果、メーガンは重罪を言い渡されることに。それから20年後、メーガンが出所してきて、それぞれ成功を収めた5人の前に姿を表わし・・・・・・
<感想>
若干話題になっていたようなので、試しに購入してみた作品。初めて読む作家かと思いきや、以前に「三つの秘文字」という作品をS・J・ボルトン名義で出していた作家であったことを知る。この作品のみ過去に読んでいた。その後、S・J・ボルトン名義により、創元推理文庫から3冊くらいの本が出版されていた(2011年〜2014年)。その後、日本では翻訳されていなかったものの、本国では本名のシャロン・ボルトンで様々な作品を出していたようである。
本書はサスペンス小説といった趣であり、ある種のサイコホラーのような様相も見せる作品となっている。6人グループの若者がある罪を犯したものの、そのうちの一人が罪をかぶると言い出し、収監されることとなる。それが図らずも20年間収監されることとなり、その間他の者たちは、面会にもいかず放置したまま。そして、20年ぶりに出所した女は5人の前に現れ、理不尽な行動を取り続けるという内容。
読んでいる最中は、それぞれの登場人物に対して、そんな行動をとるなよ!、とか、もっと別の方法があったのでは? などと口出しせずにはいられない展開ばかり。しかし、よくよく考えてみれば、当事者からしてみれば、そのような行動をとるしかなかったのかなと思わざるを得ないのも事実。ただ、物事の発端としては、自業自得としか言えない行為ではあったのだが。
話が展開していく途中では、ただただ、メーガンの存在が不気味としか言いようがなかった。なかなか、自分の気持ちを明かさないし、何がしたいのかもよくわからない。それでも後半になって胸の内が明かされたり、要求がはっきりと述べられたりするようになるのだが、そのような展開となっても、物語をまとう不気味さは一切変わることがなかった。
そうして、最後の最後は、打って変わって、スピーディーなノンストップサスペンスのような展開がなされてゆくことに。そして、息つく暇もないまま、あっという間に物語は終焉を迎えるととなる。基本的に厭ミスという感じであるので、爽快感は一切ないのだが、とにかく圧倒的な何か(圧力?)を感じられたという作品。
<内容>
編集者のスーザン・ライドンはアラン・コンウェイ著の“名探偵アティカス・ピュント”シリーズの最新作の原稿を手に取っていた。シリーズ9作目となるその内容は・・・・・・
1955年夏、サマセット州にある資産家の屋敷にて不慮の事故で家政婦が亡くなり、その葬儀が行われた。しかし、その死に対し、家政婦は何者かに殺害されたのではないかという噂が広がっていた。名探偵アティカス・ピュントのもとに、亡くなった家政婦の息子の婚約者が事件の依頼に来る。婚約者である家政婦の息子が疑われているので、事件の真相を調べてもらえないかと。しかしピュントは事件性の薄さと個人的な事情から依頼を断る。すると後日、ピュントはその屋敷に住む当主が何者かに殺害されたという記事を目にすることとなり・・・・・・
<感想>
今年、東京創元社がかなり強く推している作品という風に見受けられた。一時はスルーしようかと思ったのだが、面白いとの評判を聞き、とりあえず読んでみることに。すると、これは確かに良い作品であった。今年の目玉作品というか、今年の海外ミステリNo.1といっても過言ではなかろう作品である。
中身は、古き良き本格ミステリを感じさせるもの。名探偵と評されるアティカス・ピュントが資産家の屋敷で起きた殺人事件に挑むという内容。このピュントという探偵、アガサ・クリスティー描くエルキューロ・ポワロを意識した探偵であり、作品自体もアガサ・クリスティーのオマージュといえるような雰囲気に仕立て上げられている。
そうした内容で楽しめるものの、上巻を読むうちに、とある疑問が持ち上がってくる。というのは、上巻の後半でピュントが既に真相にたどり着いたと言い出し始めるのである。では、残された下巻はどうなるかと思いきや・・・・・・意外な展開が待ち受けることに!
あとは、読んでのお楽しみというところであるが、本書は古典本格ミステリと近代的なサスペンス・ミステリの二つを同時に味わえる贅沢な作品となっている。また、上巻を読み終えた後、アティカス・ピュントの物語には、きちんと結末がつくことになるの? と不安に思う人もいるかもしれないがご心配なく、読者を納得させられるきちんとした結末がついている。とにもかくにも、これを書き上げた著者の手腕に感嘆。
<内容>
作家のわたし、アンソニー・ホロヴィッツは、ホーソーンという元刑事と組んで、彼が事件に挑む様子を描く小説を書くこととなった。そのホーソーンが取り組む事件は、資産家の老婦人が自分の葬式を手配したいと葬儀社を訪れたのち、その日のうちに何者かに殺害されたという事件。その老婦人の息子は有名な俳優、また老婦人は過去に子供をひき殺してしまうという交通事故を起こしていた。そうした背景をもとに事件を調べていくホーソーン。そのホーソーン、刑事としての腕は確かなようだが、人間的には非常に問題のある人物で、わたしは彼と行動を共にすること自体が苦痛となり・・・・・・
<感想>
昨年、ミステリ界で名をはせたアンソニー・ホロヴィッツの「カササギ殺人事件」。それに続き、期待される中で紹介されることとなった本書「メインテーマは殺人」。そして実際に、期待しながら読んでみると、これがまたその期待に応える内容となっていた。
本書は、アンソニー・ホロヴィッツ自身がワトソン約となり、事件にかかわるものとなっている。そこに実在の人物や、実際にホロヴィッツ自身が行っている仕事なども交えられ、まるでノン・フィクション小説のように描かれている。
そういったノン・フィクション性も注目点なのだが、なんといってもこの作品における一番の注目点は探偵役となる元刑事のホーソーンであろう。これがまた、とにかく嫌な人物。たぶんホロヴィッツ自身がシャーロック・ホームズのアンソロジー作品を書いているので、そのホームズと対比するような探偵を創作したら、このような嫌な人格の探偵ができあがってしまったのであろう。ただし、このホーソーン、推理力はホームズ並みで、優秀な探偵であることは間違いない。
そんなホーソーンとホロヴィッツが、葬儀屋にからむ事件に挑むこととなる。実はこの作品、ミステリ的には普通の出来というような感じである。ただ、書き手のホロヴィッツが優れた脚本家であるがゆえか、全く飽きさせない展開で物語を進め、終始その内容に惹かれた続けながら読み進めることができるように仕立て上げられている。よってこの作品、ホロヴィッツという優れた書き手によって、うまく作り上げられたミステリ作品という感触が強い。ミステリは、単にトリックだけとか、サプライズ性だけではなく、ストーリーの回し方も重要であるということを再認識させられた作品。
<内容>
作家のアンソニー・ホロヴィッツは、元刑事で現在ロンドン警視庁の顧問をしているダニエル・ホーソンの本を3冊書くという契約をしたため、前回に続き、今回も事件に駆り出される羽目に。今度の事件は、離婚専門の弁護士リチャード・プライスがワインの瓶により撲殺されるという事件。その事件の前に、離婚調停中のロックウッドの妻である作家のアキラ・アンノがレストランでリヂャードを脅しているのが目撃されている。事件は簡単に片付くものと思いきや、殺害されたリチャードには、とある過去があり、それは昔仲間と3人で洞窟探検に行った際に、ひとりが死亡してしまうという事故を起こしていた。今回の事件にその過去の件は関係しているのか!?
<感想>
うーん、前作と比べるとなぁ、と正直思ってしまった。前作も今作も実は普通にガチガチのミステリが展開されているシリーズ作品。ただ、今作は雰囲気が・・・・・・
前作はシリーズ1作目ということもあり、探偵役となるダニエル・ホーソンの嫌な人間ぷりが前面に出てきて、キャラクター小説として映えるようなものであった。しかし今作では、その嫌な人間ぷりが抑えられているというか、前作である程度紹介しきってしまわれたゆえに、ホーソン自身があまり目立たなかったような気がする。さらには、今作に出てくる登場人物のほとんどが嫌な人間ばかりで、そのアクの強さばかりが悪目立ちしていたように思われる。イギリスって嫌な人間しかいないのかい! と誤解してしまうくらいの設定。
そんな嫌な雰囲気が悪目立ちして、あまり内容を楽しむことができなかった。ミステリパートのみをとればよくできた作品ということもできるのだが、それだけでは地味であるような感じがする。ダニエル・ホーソン自身が十分に嫌な人物であるのに、その他の登場人物に嫌な者を出してしまうと肝心のホーソンが目立たなくなってしまう。そういう意味で、全体的なキャラのメリハリが欲しかったところ。
<内容>
かつて作家アラン・コンウェイを担当していた編集者のスーザン・ライランドは出版社を退き、恋人のアンドレアスと共にギリシャで小さなホテルを経営していた。そのギリシャまでスーザンを頼って訪ねてきたのは、資産家でイギリスでホテルを経営するトレハーン夫妻。彼らはスーザンに、娘が失踪した事件の解決を依頼してきたのである。8年前、トレハーン夫妻のホテルで娘のセシリーが結婚式を行った日に、殺人事件が起きていた。その犯人は捕まったのだが、思わぬ遺恨を残すことに。8年後の現在、セシリーが当時ホテルで起きた事件を元にアラン・コンウェイの手で書かれた「愚行の代償」を読み、当時捕まった男は犯人ではなく、真相がわかったと言い出したのである。しかし、その後セシリーは姿を消してしまう。トレハーン夫妻は、アラン・コンウェイをよく知るスーザンに、作品を読み解いて、娘を探し出してほしいと・・・・・・
<感想>
「カササギ殺人事件」に続く第2弾ということであるが、今作もかなり面白かった。主人公である元編集者のスーザンについては、前作ではシリーズキャラクターと意識していなかったので、あまり記憶に残らない人物であったのだが、今作にてようやく存在感を残したという感じである。
本書の特徴はなんといっても、前作に引き続き、作品のなかの作家であるアラン・コンウェイによる作中作の存在につきるであろう。その作中作では名探偵アティカス・ピュントが活躍し、謎を解くというものになっている。現代で起きた事件に関する謎ときと、作中作での謎解きと一冊で2倍楽しめる面白さは今作でも健在。作中作の出来が、これがまた結構良くできているために面白さは倍増。
正直なところ、作中作に関しては、ある部分であからさまというか、わかりやす過ぎるところもあったので、完全なサプライズとまではいかなかったが、それでも楽しませる内容であったことは間違いない。そして、それが現代に起きた事件に関わりがあるという趣向もまた凝っていると感嘆させられる。
現代で起きた失踪事件と、過去に起きた殺人事件の真相については、ミステリ的というよりは最後はドラマチックに描かれていたという感じ。それはそれで、惹きこまれる内容であった。本書については序盤は、若干退屈と思われる面もあったのだが、作中作「愚行の代償」が始まったあたりからは一気に惹きこまれることとなった。結局は、著者の術中にハマって、物語に魅了され、気が付けばいつの間にか最後まで読み終えていたという感じ。
<内容>
作家のアンソニー・ホロヴィッツは、本を書くために契約をしている探偵ダニエル・ホーソンと共に、プロモーションの一環としてオルダニー島で行われる文芸フェスに参加することとなった。色々なジャンルの作家が集められた島でフェスが開催されるものの、フェスと関係ないところで島には不穏な空気が漂っていた。それは、島の電力開発に関連するもので、賛成派と反対派が対立していたのである。フェスを主宰するためのスポンサーとなっているオンラインカジノのCEO、チャールズ・ル・メジュラーは開発の賛成派であった。そのチャールズが離れで死体となって発見されるという事件が起きる。被害者のチャールズは多くの人々に嫌われている人物で動機を絞り込むことができない状況。警察機構が機能しない島にて、ホーソンは事件を調べてゆくのだが・・・・・・
<感想>
元刑事ダニエル・ホーソンと作家アンソニー・ホロヴィッツがコンビを組むシリーズ第3弾。今回は島で行われる文学フェスの最中に起きた殺人事件に挑むものとなっている。被害者は嫌われ者の資産家で、容疑者は多数。犯人の正体は? そして動機は? というところが焦点となる作品。
内容としては、ミステリとしてよくできているが、かなり地味。今までの作品(特に前作と)比べるとアクも少なく、結構読みやすい。被害者以外に、嫌な人物がさほどいなく、ホーソンの悪辣ぶりも目立たない。それゆえか、語り手のホロビッツの器の小ささが際立っていたという感じ。
最後に明かされる犯人についても、それなりに驚かされ、動機についてもなるほどと感じるものとなっている。ただ、これといったサプライズ的なものが少なく、普通のミステリという域を脱していないように思える。実は、伏線とか、犯人の手がかりとかも、物語中にちりばめられていたことが明らかにされるものの、それらがあまりにも微細ゆえに、あまりピンとくるものではない。何気に細かいところまで、丁寧に書き切ったミステリ作品と言えるものの、残念ながら全体的には普通の地味なミステリという印象が残るのみ。
<内容>
作家のホロヴィッツは探偵のホーソーンと組んで作家活動を行っていたが、それが嫌になったホロヴィッツは契約を打ち切ることにした。そしてホロヴィッツは、今回自分が脚本を書いた戯曲が上演されることとなり、その活動を注視していく。上演成功と思われた初日であったが、辛辣な劇評論家のハリエット・スロスビーにより、彼らの演劇が酷評されたことを知る。翌日、ホロヴィッツは警察から訪問を受ける。ハリエット・スロスビーがナイフで刺され死亡しているのが見つかり、状況証拠によりホロヴィッツが容疑者として逮捕されることとなり・・・・・・
<感想>
探偵ホーソーン・シリーズ第4弾。今回は、語り手である作家のアンソニー・ホロヴィッツが容疑者となり、その容疑を晴らしてもらうためにホーソーンの力を借りるという展開がなされている。
序盤は、リーダビリティが悪い。このシリーズらしさといえば、らしさなのだが、とにかく嫌な人物ばかりが登場する。それにより鬱屈した雰囲気で話が進められることとなるのだが、何故わざわざ重い雰囲気にせねばならなかと不思議なくらい。そして、ホロヴィッツが警察に捕らえられることとなるのだが、そのときのホロヴィッツの対応もまずいとしか思えないような行動をとる。ミステリ作家であるのだから、もっとそれなりの対応がとれるのではないかと、これまた不思議なところ。
中盤から後半にかけて、ホーソーンによる捜査が行われる場面になってからは、テンポよく話が進んでゆく。今作では、誰が犯人かを論理的に指摘するというよりは、何故犯人はこのような犯行を犯さなければならなかったのかという動機に重きが置かれていたように感じられた。その過去を掘り起こして、真相へと結び付けてゆくホーソーンの捜査が圧巻と言えよう。
そんなわけで、結局のところは面白く読めた作品となっているのだが、どうもこのシリーズ、語り手であり作家自身の化身とも言えるホロヴィッツのことを貶めすぎのような気がする。最終的にホーソーンですらあまり突っ込まずに流してしまったような気がするが、劇に関係する人々のすべてからホロヴィッツが嫌われていたような・・・・・・
<内容>
作家のホロヴィッツは、出版社から新たなホーソーン・シリーズの作品を求められるものの、書くネタがなかった。そこで、ホーソーンに相談して、彼が以前に関わったことのある事件について聞き出し、それを書籍化しようとする。渋々ながらホーソーンが語った事件は、高級住宅地で起きた殺人事件。その高級住宅地で、新たに移り住んできたケンワージー一家が度々騒動を起こし、周囲の住民は迷惑をこうむっていた。その騒動が、徐々に大きなものへと発展していき、ついには殺人事件を引き起こすこととなり・・・・・・
<感想>
今作は、いかにもミステリ作品らしい設定。近所で鼻つまみ者の男が殺害されるという事件。容疑者は、大事なチェスセットを壊された、元チェス名人。度々家の前の車庫をふさがれ車が出せずに困っている医者。差別主義と思われる被害者から疎外されていた元法廷弁護士。飼っていた犬を殺害されたという疑いを持つ、二人の老婦人。病気がちな妻が唯一楽しみにしている外の風景を、プールの建設により台無しにしようとする被害者に憤っていた歯科医。一癖も二癖もありそうな庭師の女。彼らの中の誰かが、被害者を殺害したという疑いが持たれている。
全体的な話のあらすじとしては、ミステリとしては普通であるのだが、ホロヴィッツが描くゆえか、うまく興味を惹くように描かれている。徐々に住人たちの憤りが高まってきて、そのうちの誰かが爆発し・・・・・・というような感じで盛り上がっていくような話となっている。
今回は過去の事件を掘り起こすと言うことで、ホロヴィッツとホーソーンが対面して話すパートが少なくなっている。それゆえか、ホーソーンの行動が鼻について・・・・・・というような場面もなく、非常に読みやすかった。さらに言えば、過去にパートナーを組んでいた元ホーソーンの助手のジョン・ダドリーとのコンビの方がうまくいっているようにさえ感じてしまった。
正直言って、シリーズとしてホーソーンの過去になど、あまり興味がなかったのだが、今作ではそのホーソーンから一歩離れたところから物語を読むことができたせいか、若干ホーソーンの過去に興味がわくようになってきた。ホロヴィッツとホーソーンとの距離感がある程度空いているほうが、何かと取っつきやすそうな感じである。
<内容>
「プロローグ」
「足跡のない連続殺人」
「四階から消えた狙撃者」
「不吉なカリブ海クルーズ」
「聖餐式の予告殺人」
「血の気の多い密室」
「ガレージ密室の謎」
<感想>
読む前に期待しすぎてしまったかなという感じ。ミステリマニアの新進の作家によるミステリ作品ということで、かなり期待が高まったのだが、思っていたより普通の推理小説に収まってしまった。レベル的にいえば、後期の「サム・ホーソーン医師」のシリーズと同程度といったところか。
作品のどれもが不可能犯罪を用いているというところは良いのだが、犯人の正体があまりにも分かりやすいというのが欠点。怪しげな行動をしている者がそのまま犯人ということでだいたい予想がついてしまう。また、不可能犯罪のトリックについても良くできているという反面、独創的なものは少なかったと感じられた。
そういった中で「ガレージ密室の謎」については、意外というか変わったトリックを用いており、かなり目を惹いた内容であった。
本書の主人公は引退した牧師であり、彼と登場する人々との間で、宗教的なやりとりがなされる場面がちらほら見受けられる。このやりとりに関して、私自身あまりピンとこなかったというところも、やや作品にのめり込むことができなかった要因のひとつかもしれない。読む人によっては、また別の意味合いを感じ取ることができるのかもしれない。