<内容>
とあるミステリ作家のもとに、一通の封筒が届けられた。どこの誰ともしれない者からの手紙には、“ミステリ作家であるあなたに、究極のトリックを売りたい”という申し出が書かれていた。詳しくは後の書簡にて、ということで次々と送られてくる謎の封筒。それを読んでいくうちに驚くべき事実が・・・・・
<感想>
物語の冒頭やタイトルにも描かれているように、“読者が犯人”というお題目を引っさげたミステリである。最終的には、そのトリックがどのようなものなのかは読んでいけばわかることなのであるが、本書の注目すべき点はトリックそのものよりは構成にあると言ったほうがよいかと思われる。
この作品を読んでいく途中でとまどうのが、事件らしい事件が何も起きないということ。ミステリ作家に届けられる封筒の内容と、ミステリ作家が取材する超能力の研究室での場面が淡々と語られてゆく。これらのどこがミステリとして成立されるのかと思いきや、後半になりようやく物語は事件性へと結びついてゆく。
そして実際にここまで書かれ続けた構成自体が著者の仕掛けたトリックに大いに関わる事となり、著者の意図した世界の中に読者が引きずり込まれてゆく事となる。
と、そんな感じで面白くは読めたものの、不満も多く感じられたのは確かであった。一番の不満はなんといっても、そこらじゅうにちりばめられている伏線らしきもののほとんどが回収されずに終わってしまっているということ。特に超能力のパートに関しては、究極のトリック自体にちょっとした信憑性を持たせる程度だけにしか使われていないのはどうかと思われる。その究極のトリックのみにたよらずに、話全体の伏線をきちんと回収するというところまでできれば、もっと評価の高い作品になったのではないだろうか。
究極のトリック自体は悪くはないと思うのだが、なんとなく江戸川乱歩あたりであれば、そのネタだけで短編をさらっと書いてしまいそう、などとふと感じてしまった。
やはりこういう作品はひとつのトリックのみに頼らずに、細部がどれだけうまくできているかがポイントなのではと考えさせられた。
<内容>
有名画廊の社長が自宅の部屋で殺害されているのが発見される。扉には鍵がかけられ、窓も内側から閉められていたという密室の状況。屋敷には家族や執事らが住んでいるが特に怪しい様子はない。また、部屋は内側から閉められているものの、何者かが外から侵入したような痕跡は残されている。エコール・ド・パリの画家達に魅了された男の死が語るものとはいったい!?
<感想>
前作「ウルティモ・トルッコ」に続いての第二作目。今回事件を捜査する刑事たちは前作でも出ていたようだが、あまり印象に残っていない。ただ、今作ではある程度キャラが立っていたので、今後も登場するのであればシリーズものと呼ぶことができるであろう。また、今作ではしっかりとした探偵役も登場している。
前作に比べれば、今回はかなり地味な印象ではあると思える。とはいえ、今作のほうがきっちりとした推理小説になっていると思えたので、このような作風のほうがよいだろうと感じられた。あとは、もう少し物語に読者の興味を惹きつける事ができれば言うことはない。
本書は密室殺人事件を扱ったものであるが、なかなかうまく出来ていたと思われた。動機も犯行手段もそれなりにうまく練られている。ただし、地味な作風なので読了後にそれほど強い印象を残さないというところが欠点になるかもしれないが、それは置いといて、これくらいの地味な作風でどんどん作品を描いていってもらいたいものである。
地道で精密な探偵小説。そういったものをこの作家にはどんどん書き続けていってもらえたらと思ってる。
<内容>
オペラ歌劇「トスカ」の上演中、舞台上で殺人事件が起きた! 主演女優が芝居のなかで相手役にナイフを突き刺すというシーンがあり、そこで使用されるナイフが本物にすりかえられていたのだ。誰が? いったい何故? 警察が調べてみても、舞台上にあるナイフをすりかえることが出来る者は見つからない。いったいどのような方法で? 海埜刑事とその甥の瞬一郎が事件の謎に迫る!!
<感想>
深水氏の作品としては3作目であるが、シリーズとしては2作品目。今作はオペラを背景としての不可能犯罪を描いた作品となっている。
本書はミステリ部分のみを抽出すれば、ありきたりの作品といえるかもしれない。しかし、背景に「トスカ」という歌劇に新たな解釈を加えることによる上演というものを用いることにより、物語としてより一層厚みを持たせている。それらのことによって、歌劇を扱う関係者の人々、演出家、俳優、女優、道具係り、その他のアシスタント達の人間関係に複雑な要素をもたらせている。
また、ミステリそのものだけではなく、本書の中で語られる、演劇に対する情熱や解釈の仕方、またミステリ作品に対する著者なりの捉え方などといった、ちょっとした評論もなかなか楽しめるものとなっている。
ミステリとしては、ややあっさり目であるかもしれないが、最終的に明らかにされる真相はそれなりに驚かされる趣向が用意されている。
最近、メフィスト賞作家では本格ミステリを書く人が少なくなっているので、深水氏には今後もこういった作品を書き続けてもらいたい。これは、今後も期待して読み続けたいシリーズのひとつと言えよう。
<内容>
神泉寺瞬一郎は叔父で捜査一課の警部補である海埜に「読んでみませんか」とハードディスクに入れてあるデータを見せる。それは、瞬一郎が以前フランスで起きた事件をまとめたものだというのだ。その事件とは、誰もいないはずの大聖堂から飛び降りた男についての真相を描いたものであった。変わった形式で描かれた文章を海埜は読んでみるのだが・・・・・・
<感想>
「花窗玻璃」と書いて、タイトルには“はなまどはり”とルビが振ってある。また、作中では“ステンドグラス”と表記してある。このステンドグラスという表現のほうが作品に対しての印象を付けやすい。
どうしてこのようなわかりにくいタイトルが付いているのかというと、今回の作品はシリーズの探偵役である瞬一郎の手記という形式がとられている。しかもその手記の形態がカタカナを一切使わないというものなのである。ただし、ルビを振ることによって誰でも普通に読める作品になっている。
と、一風変わった形式で書かれているものの、本書に対してはそれだけのことと思えなくもない。謎となる事件は存在するものの、それも以前に起きた事件を扱うだけであるし、その事件を調べる最中も新たな展開が待ち受けているというようなこともない。よって、地味な作品を長々と読まされたという感じがした。
一応、事件の解に関しては、伏線もきちんと張ってあり、意外と大掛かりなトリックが使われていたりと見るべきところはあるものの、事件自体が最初のプロローグだけでしか記述されていないので、それのみで延々と引っ張ってくるのはちょっと苦しかったのではないかと思われる。
むしろこの作品は、芸術を志す学生(実際はそうではないのだが)がフランスで過ごした人情味あふれる生活模様というものをもっと強調して描いてもらったほうが、物語としてもっと面白く読めたのではないかと感じられた。描きようによっては、もっと面白く読めそうな作品であったと思われるので、ちょっと惜しい気がする。
<内容>
未成年者による殺人事件が起きた。家裁調査官の森本は少年と接見し、何が原因で起きた事件なのかを調査していた。最初は硬く口を閉ざしていた少年であったが、やがて森本に少しずつ話をするようになり・・・・・・そうして、明らかになる真相とは!?
短編「シンリガクの実験」を併録。
<感想>
事件は単純であるがゆえに、“何故”を強調した作品となっている。昆虫の“擬態”というものになぞらえ、また、音楽用語の“リチェルカーレ”に例えるところが、深水氏らしい作品となっている。
最後の最後である種の試みがなされているのだが、その内容についてはともかく、転換と相成った理由が唐突のようにも感じられた。この転換には何らかの意味が隠されていたのだろうか? これも擬態の一種ということなのだろうか。
短編「シンリガクの実験」については、ラストの一行を読んで思わず、「そんなバカな」とつぶやいてしまった。実話だったらもっと嫌だなと考えてしまったり・・・・・・
<内容>
日本の若きテノール、藤枝和行がドイツのバイトロイト音楽祭において「ニーベルングの指輪」でのジークフリート役に抜擢された。これは、日本人の男性テノールとしては初の快挙と言ってよい出来事であった。しかし、その公演の公開前に藤枝の婚約者である遠山有希子が列車事故に巻き込まれ死亡するという悲劇が起きる。藤枝は婚約者の遺骨を抱いて舞台に立つことを決心するのであったが・・・・・・
<感想>
上に内容を記したのだが、どうもそれを読んだだけでは実際の内容が全くと言っていいほど伝わっていないような気がしてならない。もっと砕けた感じで内容を語れば、女性経験の派手なテノール歌手が主人公であり、その主人公をやたらと献身的に支える彼女がいて、未来を読むことができるという老婆から二人の人生にかかわる重要なお告げを聞くこととなる。その予想通りに主人公の彼女は亡くなることとなり、主人公は彼女を失ったことを大いに嘆くのだが、すぐに立ち直り元のプレイボーイぶりを発揮していくというお話。
こんな感じで物語が語られてゆくのだが、これのどこにミステリの要素があるのかと不思議に思われるかもしれない。この作品は基本的には「ニーベルングの指輪」という物語の背景と、それを演じる者による舞台歌劇の話である。よって、ミステリ的な要素はかなり薄い。
一応、最終章ではそうした思いを覆すかのようにミステリ的な展開へといくものの、そこで語られる真実は決して物語全体を飲み込むようなものではなく、結局のところ“ジークフリートの劇”という部分のほうが色濃く残されたままとなる。そうして物語は歌劇の舞台上で大団円を遂げることとなる。
と、そんなわけでミステリを期待するとやや食い足りなさが残るであろう作品。また、舞台劇を描いた作品というには、その前段の話が多すぎて、肝心の主人公が演じる舞台での描写があまりにも少なすぎ、これもまた食い足りなさが残る。こうした物語を描くのであれば、解釈とかそうしたもののみに焦点をあてるだけではなく、舞台の様子を描くうえでもエンターテイメント小説として、もっと華々しく書ききってもらいたいものである。
<内容>
「人間の尊厳と八○○メートル」
「北欧二題」
「特別警戒態勢」
「完全犯罪あるいは善人の見えない牙」
「密月旅行 LUNA DE MIEL」
<感想>
「人間の尊厳と八○○メートル」が第64回日本推理作家協会賞の短編部門を受賞したとのことで、その作品を核として、今まで書かれたノンシリーズ短編を集めたというような構成の作品集。全体的にミステリ作品というよりは、物語的な意味合いが強い作品が集められているという気がした。
「人間の尊厳と八○○メートル」はミステリというよりは意外性のある物語という印象が強い。それでも作中で繰り広げられる論理的というか詐欺的というような会話のやりとりが非常に興味深かった。
北欧を旅した際、実際にあった出来事をミステリ風に綴った「北欧二題」。コンピュータのハッキング事件について語るとある家庭のひと幕を描いた「特別警戒態勢」。それぞれ、あっさりとした作品ではあるものの、読ませてくれる内容である。
短めの「完全犯罪あるいは善人の見えない牙」は個人的には今回の作品中でのベスト。ラスト近くになって結末がわかってしまうものの起承転結の構成がきちんとできているお手本的な短編作品。
ここで最後の「密月旅行」がミステリとして完成されていれば、全体的にものすごい良かったのだが、こちらは単なる新婚旅行の様子を描いた作品。パリ旅行の様子と新婚旅行の難しさが描かれている。
<内容>
「漢は黙って勘違い」
「ビバ日本語!」
「鬼八先生のワープロ」
「情緒過多涙腺刺激性言語免疫不全症候群」
<感想>
前作「人間の尊厳と八○○メートル」もミステリ性は薄かったが、こちらはさらに薄まっている・・・・・・のだが、前者と違いまるで冗談のような作品集。感覚的には倉阪鬼一郎氏の作品のような言葉や文章を用いたダジャレ的作品群。
「漢は黙って勘違い」は、これでもかと言わんばかりの勘違いネタが振られてくる。「汚職事件」→「お食事券」とか、こんなのが飛び交う作品である。あまりにも飛び交い過ぎて、くどさまでもを感じてしまうのだが、これをひとつの作品に仕上げてしまえばむしろ大したものか。
その最たる作品が「鬼八先生のワープロ」。最初に書かれた評論がやけに妙な言い回しを使うと気になってはいたのだが・・・・・・まさかここまで誤変換させてしまうとは。おそるべし鬼八先生。
冗談を許容できる人は読んでいて楽しいのではないだろうか。ただ、冗談というよりはネタというか、何と言うか・・・・・・。まぁ、試しに読んでみてというくらいしか、他に言うべき言葉が見つからない。
<内容>
大学生の磯田総司は、ボランティアとして高齢者のための弁当の配達を手伝うこととなった。その配達の中、辺鄙なところに住む老婆と出会うこととなる。目が不自由ながらも独りで住む老婆と、総司はしだいに打ち解けていくことに。そして彼女の口から、壮絶な人生体験を聞くこととなり・・・・・・
<感想>
のっけから、戦後の過酷な時代を大変な思いをして生きてきた女性の話が語られる。ただし、基本的な話としてはボランティア活動を行う普通の大学生の生活の話。その大学生が老婆と出会い、邂逅することにより、各章に挟み込まれている過酷な女性の話とリンクしていくこととなる。
基本的には、そうした物語や普通の大学生の生活が語られていくものであり、単なる普通小説という感じ。ただし、それだけで終わらずに最後には、どんでん返しというほどではないものの、予想を覆す物語が待ち受けることとなる。
結局のところ、ちょっと良い話ということで終わる作品。読み終えると、胸熱くなることは確かである。とはいえ、ミステリを読みたいと思って、手に取ったものとしては全体的に物足りなかったなと感じてしまう。
<内容>
「不可能アイランドの殺人」
「インペリアルと象」
<感想>
中編2作が掲載されている作品。「不可能アイランドの殺人」は、不思議な事象を目の当たりにすることのできるテーマパークにやってきた父・母・娘、具合が悪いとホテルにこもっていた母親が死亡するという事件。「インペリアルと象」は、動物園でピアノコンサートが行われている最中、突然象が飼育係を襲うという事件が起きる。
「不可能アイランドの殺人」は、なかなか面白かった。テーマパークの数々のアトラクションは、柄刀一氏が描く“龍之介シリーズ”を思い起こさせるような理系トリックっぽいもの。それらをスパイスとしつつ、本題の事件に取り掛かることとなる。バスタブのなかで低温やけどを負い死亡した母親の謎に10歳の娘が挑んでいる。娘の性格云々はさておき、トリック自体は目を見張るものであった。
「インペリアルと象」では、深水作品のシリーズキャラクター、神泉寺瞬一郎と海埜警部補が登場する。こちらの作品は、あまり楽しめなかった。作品の構成はしっかりしているのだが、だいたい想像がつくトリックについて、長々と説明し過ぎている。中編にするよりも短編くらいの長さで十分であっただろう。
全体的な感想としては、「不可能アイランドの殺人」のほうが、それなりに面白くできていたので、「インペリアルと象」とのバランスが悪いと感じられた。中編2作という形態をとるために、「インペリアル」の方を長くしたのだろうか? それであれば、いっそのこと「不可能アイランド」のほうも短くし、短編集として別の作品を盛り込んだほうがよかったのではなかろうか。特に「不可能アイランド」では、ちょっとしたネタが満載されていたのだから。
<内容>
東京の大学で美術の非常勤講師を務める賢一。ある日、結婚している弟から、一週間娘を預かってくれと頼まれる。小学四年生のミドリの子守をすることとなった賢一。当のミドリは独特のしゃべり口調で賢一を圧倒し、パワフルに東京めぐりと称し、そこいらじゅうを闊歩する。不必要なくらいに正義感の強いミドリに引きずりまわされることとなる賢一であったが・・・・・・
<感想>
副題からして、ある程度予想はできたが、やはりミステリではなかった。背後に少女連続誘拐事件というものがあり、それに主人公らが関わり合う事とはなるものの、そこは決して話のメインとはならないのである。
基本的には、中年男性がパワフルな小学生の女の子に振り回される話。東京観光をすることとなるのだが、それらが昔の死刑場などといったマニアックな場所ばかりなので、珍名所めぐりの話として楽しめないこともない。ただ、基本的にはそれだけの話ともいえよう。
最終的には思いもよらない展開が待っているのだが、好意的に見てもテレビドラマ風の話かなと。実際のところテレビ化してみれば、それなりに楽しめるかもしれない。意外と、ミステリ方面ではなく、一般的な読者に触れてもらうことができれば、人気がでるのではなかろうか。
<内容>
「国連施設での殺人」
「耶蘇聖誕節の夜の殺人」
「現場の見取り図」
「逃走経路の謎」
「名もなき登場人物たち」
「図像学と変形ダイイング・メッセージ」
「テトロドトキシン連続毒殺事件」
「監察の神様かく語りき」
「この中の一人が」
「宇宙航空研究開発機構での殺人」
「薔薇は語る」
「青森キリストの墓殺人事件」
<感想>
内容に記述した短編のタイトルを見て、難しそうと感じた方、実際には決してそんなことはありません。本書は本格ミステリに対するパロディーというか、アンチテーゼというか、ぶっちゃけて言うと、若干馬鹿にしたような斜め目線から見た作品集なのである。東野圭吾氏の「名探偵の掟」あたりが近い感触。
ドーバー警部を彷彿させる大べし見警部が、癖のある部下たちを引き連れて難事件に挑む。ただ、その難事件というのが、やたらと本格ミステリっぽかったり、もしくは本格ミステリの裏をかくようなものであったりと、色々な意味で捜査陣と読者を悩ませる仕様になっている。
最初、まっとうなミステリかと思った「国連施設での殺人」が、いきなり脱力系の解決となり(いや、解決していないんだけれども)度肝を抜かれることに。
「耶蘇聖誕節の夜の殺人」は、まっとうなアリバイトリックなんだか、違うんだか。
「現場の見取り図」は、意外な角度からの真相に、結構うける。
「逃走経路の謎」は、実際解決していないのだが、物語上うっすらと解決している。そして、無意味な叙述トリック。
「名もなき登場人物たち」は、これも脱力系ながら、捻りを入れたと、言えないこともない。
「図像学と変形ダイイング・メッセージ」は、珍しくきれいにまとまたはずが・・・・・・
「テトロドトキシン連続毒殺事件」は、普通に捜査すれば大丈夫!
「監察の神様かく語りき」・・・・・・爆発力はNo.1 !!
「この中の一人が」は、話はまっとうではないのに、トリックはまっとうなもの。
「宇宙航空研究開発機構での殺人」は、行き過ぎた理系ミステリ。
「薔薇は語る」は、真面目にやれば、こういった作品がなくもなさそう。ある意味現代的。
「青森キリストの墓殺人事件」は、マルチエンディング方式。
変な内容の短編ばかりだが、決してバカバカしいだけとはいえなく、真面目な一面が微妙に隠されていて面白い。こうした内容のミステリは個人的に好み。初心者向けとは言えないが、本格ミステリを読み続けてきた人にとっては楽しめる内容であろう。
<内容>
年に一度開催される“推理闘技場”(ミステリー・アリーナ)。それは、人生の一発逆転を狙って、高額賞金がかかる推理クイズに挑戦するというもの。先に真相を看破したものが優勝者というなかで、挑戦者たちによる、我先にという驚愕推理が繰り広げられる。今回の謎は、大雨により外界から閉ざされた別荘で起こる殺人事件。かつてミステリ研に所属していた者たちが集まった矢先に殺人事件が起きる。挑戦者たちの裏をかく度肝を抜くトリックとは!?
<感想>
これは面白かった。内容としては深水氏描く「大べし見警部の事件簿」の長編版といってもよさそうな内容。本格ミステリコードを多用した、ミステリマニアのためのトンデモ系ミステリ。
何故このようなことが行われているとか、ミステリー・アリーナの裏に隠された真相とは? とか、いろいろと盛り込まれているものの、正直言ってそういった部分は、ほぼどうでもいい。メインとなるのは、物語の途上で次から次へと披露される挑戦者たちによる推理にあるといってよい。こんな途中で、適当な推理を披露されてもと思いきや、そのどれもが的確に問題の核心をついているのではないかと思えるほどのものばかり。さらに言えば、普通読んでいたら気づかないのではと思えるほどの、それなりに鋭い推理ばかりなのである。このひとつひとつが、本格コードを抑えていて、とにかく楽しめてしまう。
かなり変わった趣向であるものの、これは十分に本格ミステリ魂をゆざぶる推理小説といってよいであろう。全体で見ると薄っぺらいように感じられるのだが、そのひとつひとつに着目すると濃いミステリが堪能できるという不思議な小説。
<内容>
「春は縊殺 やうやう白くなりゆく顔いろ」
「夏は溺殺 月の頃はさらなり」
「秋は刺殺 夕日のさして血の端いと近うなりたるに」
「冬は氷密室で中毒殺 雪の降りたるは言ふべきにもあらず」
<感想>
“倒叙の四季”ということで風流な章題であるが、内容は殺伐としており、完全犯罪をもくろむ四名の犯罪者と警視庁捜査一課・海埜刑事が対決する。
ネットに出回る“完全犯罪完全指南”というファイルを参考に完全犯罪をもくろむ四名。首つりに見せかけた殺人、溺死に見せかけた殺人、強盗によるものと見せかけた殺人、練炭自殺と見せかけた殺人がそれぞれ行われる。倒叙作品ゆえに、犯人の存在が明らかにされている。ゆえに本書のキモは刑事がどのようにして犯罪を暴くのかということとなる。
まぁ、これを読むと警察が本気で事件を捜査するのであれば、完全犯罪など無理ではないかと感じてしまった。本書では当然のごとく最終的に犯行が明らかになるのであるが、心理的とか、意表を突いたというようなものではなく、科学的な物証によるところが大きかったように思える。よって、読み手側の度肝を抜くとか、感心させられるとか、そういった印象は感じられなかった。
まぁ、それでも読みやすく面白い作品ではあったかなと。作品のなかには単なる科学的なものによるだけでなく、被害者の執念により犯行が明らかにされるというものもあり、それなりに見どころはあったかなと。さらには、最終的なオチもなかなか決まっていたかと。ただし、倒叙ミステリとしては平凡だったような。
<内容>
<第一部 大べし見 vs.芸術探偵>
「盗まれた逸品の数々」
「指名手配は交ぜ書きで」
「大べし見警部殺害未遂事件」
「ピーター・ブリューゲル父子真贋殺人事件」
<第二部 とある音楽評論家の、註釈の多い死>
「とある音楽評論家の、註釈の多い死」
<感想>
まさか“大べし見警部”の続編が出るとは思ってもいなかった。しかもこんなに早く・・・・・・と思いきや、早くも前作が出てから2年が経っている。
と、楽しみに読んでみたものの、ちょっと期待した内容とは違ったかなと。これは“大べし見警部”シリーズというよりも、講談社ノベルス作品で活躍しているシリーズキャラクター、神泉寺瞬一郎シリーズのパロディ作品という赴きが強い。しかも実際に、瞬一郎が登場している作品もある。
副題にある“大べし見警部 vs.芸術探偵”とあるように、今作では芸術に関するネタが大いに込められた作品集となっている。ゆえに、前作のようなミステリ・パロディ的なものを期待してしまうと、肩透かしを食らってしまう。これは完全に、ネタに興味を持てるかどうかで、作品に対する善し悪しが変わってしまうであろう内容。深水氏らしいネタではあるものの、個人的にはこのシリーズでは、もっとミステリよりのものを書いてもらいたかった。
<内容>
「天の川の預かりもの」
「ひょうろぎ野郎とめろず犬」
「鎧袖一触の春」
<感想>
出ているのを知らなくて、危うく買い逃しそうになった作品。文庫書下ろし。
中身はタイトルの通りで、少年たちの経験譚を描いた作品。「天の川の〜」では、チンドン屋と少年との邂逅を描き、「ひょうろぎ野郎〜」は犬を飼い始めた少年とその両親との物語で、「鎧袖〜」は高校柔道部物語が描かれている。このなかでは「天の川の〜」が唯一の事件性をもった作品となっている。
どれも基本的にはユーモア普通小説。ミステリ性はほとんどないものの、面白く描かれているので、楽しんで読める小説となっている。一見、関係のなさそうな三つの物語が、最期に重なり合うところは、さすがミステリ作家ならではといった感じ。“少年時代”を経て、人生を感じ取ることのできる作品に仕上げられている。
<内容>
「午前三時のサヨナラゲーム」
「野球嫌い」
「ゆく河の流れは絶えずして、しかも」
「もうひとつの10・8」
「もうひとつの10・19」
「生涯徒爾一野球観戦居士」
「言い訳だらけのスタジアム」
「ジェイムス・ジョイスを読んだ元中継ぎエース」
「地球連邦大学紀要 No.12838」
<感想>
深水氏による野球マニア向け短編集。ミステリではないので、あしからず。そんなわけで個人的に楽しめたかどうかというと・・・・・・実は、プロ野球ファンなので、大いに楽しめた。
プロ野球好きなら共感できるようなネタが満載。野球を見ながら、自分のひいきチームを罵倒したり、ぶつぶつ言いながらも毎日TV中継を見たり、という人であれば心当たりのあるネタが数多く取り上げられている。また、やけに細かい過去のプロ野球の情報が書き込まれているのを読んで、そうとう時間をかけて調べたのかと感心させられる。もしくは、深水氏自身が相当のプロ野球ファン?
内容についても面白い話が多く、「ゆく河の流れは絶えずして、しかも」や「生涯徒爾一野球観戦居士」は開いた口が塞がらないようなラストが待ち受けている。若干、プロ野球マニアたちがたどり着く人生が悲惨すぎるようにも思えるのは気のせいか・・・・・・
<内容>
「ストラディヴァリウスを上手に盗む方法」
「ワグネリアン三部作」
一 或るワグネリアンの恋
二 或るワグネリエンヌの蹉跌
三 或るワグネリアンの栄光
「レゾナンス」
<感想>
ここ最近、立て続けに新刊を刊行している深水氏のさらなる新刊。今作は短編集であるのだが「ストラディヴァリウスを上手に盗む方法」のみがミステリで、他は書いた経緯が特殊な短編が掲載されている。
「レゾナンス」は、個人指導のもとでバイオリンを習う少年の話であるのだが、ミステリ的な内容のものではなく、音楽小説というようなもの。あとがきによると、この作品は著者がデビュー前に書き上げた正真正銘の処女作とのこと。そんなわけで、特にミステリを意識した小説ではなかった。
「ワグネリアン三部作」は、日本ワーグナー研究会の研究誌に掲載された作品とのこと。ワーグナー愛を歪んだ形で表しているところが面白い。さらに三部作ということで、その三作目のオチも絶品。
「ストラディヴァリウスを上手に盗む方法」は、深水氏の作品ではお馴染み、海埜警部補とその甥の瞬一郎が登場する作品。コンサートの最中に高価なバイオリンが盗まれるという事件。コンサート会場からは誰も出た形跡がなく、バイオリンはまだ会場の中にあると考えられる。しかし、どこからも見つからない中・・・・・・
というような事件の謎を見事に瞬一郎が解き明かす。これは音楽ネタであり、一般人にトリックが見破れるようなものではないが、なかなか面白いトリックであった。音楽ミステリならではの事件と真相。
<内容>
「ドンキホーテ・アラベスク」
「グラン・パ・ド・ドゥ」
「史上最低のホワイダニット」
<感想>
「ドンキホーテ・アラベスク」
高名なバレエ団のもとに公演を中止せよという脅迫状が届く。警視庁は海埜刑事を派遣し、当然のごとく海埜は甥の神泉寺瞬一郎を同行し、事情調査に赴く。
バレエを背景としたミステリ・・・・・・であるのだが、背景の部分が長すぎるような。これならばいっそのこと長編にしたほうが良かったのでは。ミステリ部分は薄めであるが、物語としては悪くないと思われる。意外と、ちょっといい話的な。
「グラン・パ・ド・ドゥ」
夕霧は舞台で活躍する団員であり、恵まれた才能を持っていながらも、その素質を生かしきれずいつもコーチから怒られている。それでもめげることなくいつもの稽古に勤しむ夕霧であったが、突然団の社長が殺害されるという事件が起き・・・・・・
これは今年一番読んでもらいたい作品。といっても、これだけを読むのではなく、きっちりと「ドンキホーテ・アラベスク」を読んでから、こちらの作品を読んでもらいたい。すると、よりインパクトのあるカタストロフィが味わえることとなるであろう。バカミスって、言ってよいのかどうかもわからないが、少なくとも今年はこれを越えるバカミスは現れることはないであろう。
「史上最低のホワイダニット」は、「グラン・パ・ド・ドゥ」のちょっとした付け足し。本当にチョイネタ。これもいわゆるバカミスか(?)。
<内容>
「生存者一名 あるいは神の手」
「女抛春の歓喜 樫原事件のない世界」
「童派の悲劇 樫原事件のある世界」
<感想>
深水氏がマスコミとテレビ業界に切り込む社会派小説。もちろん深水氏の作品ゆえに、決して一筋縄ではいかない。タイトルは、司法立法行政の三権に対し、マスコミが第四の権力と言われていることに起因するもの。
「生存者一名 あるいは神の手」は、災害被害者側から見た、マスコミについて言及するような内容。マスコミの行き過ぎる行為に、災害被害者が憤る・・・・・・といった内容から、後に奇跡的な出会いを果たし、そこから変な具合に物語が派生し、世界は二つに分かれてゆく(意味がわからないという人は是非ともご一読)。
そして、「女抛春の歓喜」と「童派の悲劇」により、テレビ業界について深く切り込んでゆくこととなる。ただ、これらが真面目一辺倒ではなく、ブラックユーモアで味付けしつつ、物語が語られてゆくこととなる。この作調については、真面目に語り過ぎるとひょっとしたら出版できなくなるのではというくらい際どい内容ゆえということなのかもしれない。このくらいのユーモア調で書くことによって、出版が許されるというか、本筋から目をそらせつつということを計算して書いた作品なのではないかなと。
この本、どこかのテレビ局の情報番組で取り上げてくれないかなと、無責任な期待をしてみる。
<内容>
八人の同世代(二十歳前後)の男女が共同生活を送る大泰荘。その一室で殺人事件が起きる。被害者は筋骨隆々の男性であるが、絞殺による死亡と確認された。部屋の入口は鍵がかかっており、窓の鍵は閉められていたものの、4階ゆえに窓からの出入りはできない。そうした状況で、誰が被害者を殺害したのか? そしてどんな方法で? 数々の殺害方法がとなえられるなか、犯人の特定は選挙で行われることとなる!?
<感想>
密室ともいえる現場において殺害されているのが発見された男の死体。現場は、若者八人が住んでいるアパートの中。殺害されたひとりを除く、残り七人のうち、誰がどのようにして犯行を行ったのかを紐解く。
と、ここまでであれば、普通のミステリであるのだが、この作品。7つの選択肢をあたえ、あらかじめ書籍化される前にネットでその選択肢のなかから一番それらしいと思われるものを公募した模様。そんな試みがなされた作品。
なかなか面白趣向であり、物語自体も面白かった。ただ、7つの選択肢を与えられた時点で見返してみると、事件自体がやや地味であるがゆえに、そんなに華々しい成果が得られなかったというような気がしてならない。ゆえに、結末を公募したという試み以外はそんなに印象に残らない作品であったなという感じであった。とはいえ、7つの選択肢を生かすがゆえに、さまざまな伏線を張り巡らせているところは見事。
<内容>
ハイネの詩を元に作られたというシューマンによる連作歌曲集“詩人の恋”。その歌曲には秘められた謎が込められているという噂が・・・・・・
<感想>
結局、最初から最後まで話の内容に興味を持つことができなかった。本書はミステリ的な内容のものではなく、あくまでも“詩人の恋”という作品について言及したものという形。
一応、著者は読者に取っつきやすい話にしようと、さまざまな工夫を施している。作品が作られた過去に遡って背景を描いたり、現代的な恋物語になぞらえたり等々。色々な場面や設定を用いて、“詩人の恋”という作品を表し、興味を引こうという工夫がなされていることはわかるのだが、個人的にはそれでも作品に没入するには至らなかった。
そんなわけで、興味を惹かれる人と、惹かれない人で作品から受ける印象は異なると思われる。歌曲に興味がある人が読めばよいのではないかと思われる作品。
<内容>
「後宮寵姫」「旧校舎の踊り場」「美姫と野獣」「東洋一の防疫官」「女殺し屋と秘密諜報員」
「孤高の文士」「孤高の文士2」「六人姉妹」「父の再婚」「ぼくのおじいさん」
「祖母緑(エメラルド)の少女」「祖母緑の少女2」「葡流后(ブルゴーニュ)の塔の上で」
<感想>
絵画をモチーフとして短編小説を書くという趣向の作品・・・・・・だと思われる。各作品に1枚、もしくは複数の絵画が付けられているのだが、それを最初に掲載するのか、最後に掲載するのか、どちらかには統一したほうが良かったのではないかと思われる。なんとなく、意趣があまりにもバラバラという感じで、なんとなく全体的に戸惑いながら読み進めていったという感じ。
最初の作品は、海外を舞台にしたホラーっぽい構成の話であったが、2作目は学校の怪談と、そういった統一感のなさも曖昧過ぎたような感じがする。ただし、それぞれ別個の作品と割り切って読めば、結構面白い話もいくつか見ることができた。「女殺し屋と秘密諜報員」や「孤高の文士」のラストのしょうもなさとか、「六人姉妹」のホラー的なうすら寒さだとか、「父の再婚」の思いがけぬ微笑ましさであったりとか、それぞれ興味深く読むことができた。
絵として印象に残ったのは「ぼくのおじいさん」に掲載されている香月泰男氏の「北へ西へ」。
<内容>
警視庁に“美術犯罪課”が新設され、担当となった森越歩未と馬原茜。彼女らが最初に担当することとなった任務は、鷲ノ宮家の名画コレクションにまつわる巨額脱税疑惑。それら有名コレクションが当主が死亡して相続がなされることとなったとき、全ての絵画が贋作だと鑑定されたのだ。相続税を逃れるために、なんらかの策略がなされたのではないかと美術犯罪課は捜査を進めることに。課のアドバイザーである美術探偵・神泉寺瞬一郎に相談すると、彼は裏に隠された作為を見抜き・・・・・・
<感想>
久々に深水氏の新刊を読んだ気がする。今までなかった星界社FICTIONSからの出版であるが、探偵役は講談社系ではお馴染みのシリーズ主人公である神泉寺瞬一郎が登場している。タイトルからも察することが出きる通り、美術系のミステリ作品となっている。
全体的な分量でいえば、4割ミステリ、6割美術系の蘊蓄という感じか。ただ、体感では2割ミステリ、8割蘊蓄という気がしなくもない。最初、事件が提示されたところは魅力的に感じられたが、その後の展開が停滞気味という感じ。最後に神泉寺瞬一郎が登場することにより、一気に解決となったのだが、結局それまでのストロークにあまり意味がなかったのではとも感じられてしまう。
美術系のミステリ作品として、面白くはあったものの、長編となるほどのネタではなかったような。それならば、もっと事件を起こしてかさ増ししてもらいたかったくらい。分量的に読み応えが足りなかったように思われた。