<内容>
1980年代に名探偵として活躍した屋敷啓次郎。彼は数々の事件を活躍し、マスコミにもてはやされ、多くのスタッフを抱える事務所を開設していた。時は流れ、2000年代になると屋敷啓次郎の名声もすたれ、とある事件がきっかけで屋敷は探偵をやめ、ひとり細々とその日暮らしの生活を続けていた。そんな彼を心配するものは、かつての輝きを取り戻してもらおうと、再び事件に誘い込もうとする。とある資産家の一家に届けられた脅迫状。その事件を巡って、現代の新たな探偵ともてはやされる蜜柑花子と屋敷啓次郎との推理対決が行われることとなり・・・・・・
<感想>
探偵小説の裏側を描いたかのような作品。決してアンチというわけではなく、通常の探偵小説のなかでスポットが当てられていないところに着目したものとなっている。
1990年代くらいから本格ミステリ小説がはやりはじめ、そこから20年以上の時を経た今、このような小説が描かれるのも必然なのかもしれない。まぁ、こういった小説が今までになかったということは決してなく、似たようなものは描かれているのであるが、これを書いた著者の年齢が若いのであれば(何歳なのかはわからない)ミステリの一つの到達点が描かれたと言っても過言ではないのかもしれない。
個人的には、これがデビュー作であるというのならば、もっとストレートな本格を目指して、それらを書き上げてからこういう作品にも挑戦してもらいたかったなというところ。内容や話の流れについてはよくできていると思えるが、作中に出てくるミステリのトリック等については、やや物足りなかったかと感じられた。
著者の本格ミステリへの愛情はそれなりに感じられたものの、次回作はどのようなものが書かれるのかは全く想像がつかない。次はどのようなミステリに挑戦してくれるのか、読むのが楽しみである。
<内容>
名探偵・蜜柑花子の存在をうとましく思いながら日々を過ごす大学生の日戸涼。そんな彼があるとき突然、密室館と呼ばれる館に閉じ込められた。閉じ込めた主は推理作家の拝島登美恵。彼女は日戸も含めた男女8人を密室館に閉じ込め、そこで殺人ゲームを行うというのである。そのトリックを見破ることができれば生き残った者は解放されると。その8人のなかには蜜柑花子までもが! 館に閉じ込められた中、実際に殺人事件が起き、蜜柑花子が推理することとなるはずが・・・・・・
<感想>
鮎川哲也賞を受賞した<名探偵の証明>シリーズ第2弾。今作ではデスゲームが行われる中での探偵・蜜柑花子の活躍が描かれている。
正直、読み進めている最中は、あまりよい感じがしなかった。探偵・蜜柑花子に対して悪意を持つものが物語の語り手故に、その嫌な感情を前面に出しながら話が押し進められてゆくこととなる。その負の感情が、探偵活動を邪魔しているどころか、物語の進行を妨げるようにさえ感じさせられてしまう。さらには、本編とは関係なさそうなエピソードが語られたりと、全体的に大事なところが描かれず、余計な事ばかり語られている作品という気がしてならなかった。
しかし終盤にて、デスゲームの真相が蜜柑花子によって語られることにより、ここまで負の感情で進行してきた部分や、さらには関係なさそうなエピソードまで含めて、実は事件の内幕に密接に関係していたという事が明らかになるのである。これにより、前半とは打って変わって、うまく描かれた作品と感心させられることとなる。
まぁ、真相が分かってみれば、あまりにも自虐的というか、予防線を張り過ぎというか、著者自身のトリックに対して微妙に思えるところもある。個人的には、もっとストレートな感じで密室に挑戦してもらいたかったところであるが、これはこれで意欲的な挑戦作と言えるであろう。
真相が明かされた後の展開については、あまりにも感情が先走り過ぎるような気がして、やや納得のいかないところがある。ただ、シリーズの一幕という意味においては重要といえるのかもしれない。まぁ、細かい点について色々と思うところはあるのだが、まだしばらくは追って行ってもよさそうなシリーズという気はする。
<内容>
名探偵・蜜柑花子の宿敵、もしくは天敵ともいえる祇園寺恋が何者かの計略にはめられ、蜜柑花子を巻き込んだ推理ゲームを行うこととなる。制限時間内に蜜柑花子は、祇園寺恋がかつて経験した4つの未解決事件を解き明かさなければならない。果たして蜜柑花子は、謎を全て解決することができるのか!?
<感想>
この「蜜柑花子の栄光」は、鮎川賞を受賞した「名探偵の証明」のシリーズ3作品目であり、シリーズ完結編となるとのこと。「密室館殺人事件」という続編が出た後、続く続かないということはあまり意識していなかったのだが、著者的には、きっちりと区切りを付けたかったという事なのか。
それでこの作品の感想なのだが、なんかミステリ云々というよりは、造形した蜜柑花子という探偵をひたすらいじめ尽すという趣向としかとらえられない。探偵やミステリについてどうのこうのよりも、何かに憎しみをぶつけたいとか、批判したいとか、そういう負の感情ばかりが先行しているように思えた。
この作品では蜜柑花子が四つの事件に挑むこととなる。
「親と子のバイロネキシス」は、超能力で火を起こすことができるという息子が母親をその超能力で殺害してしまうという事件。
「教祖と人体消失」は、教団で起きた衆人環視のもとでの人体消失の謎に挑む。
「友人たちとダイイングメッセージ」は、4人で肝試しをしたさいに起きた殺人事件の真相に迫る。
「姉弟とアリバイ」は、恨みのある人物を殺害するために、完全犯罪を成し遂げようと試みる親子の話。
それぞれが不可能犯罪などを扱っているようではあるのだが、実際にはさほどたいしたものはないな・・・・・・と思っていたら、最後の「姉弟とアリバイ」は、なかなか優れもののミステリであると感心させられた。意表をついたアリバイトリックにうならされる。この作品のみ完成度が高いと思えたので、ここにこの一編だけ挿入されているのはちょっともったいたいと思ってしまったほど。
なんか、もっとストレートにミステリを描いてくれてもいいじゃないかなと思えてならない。無理やり良い話やハッピーエンドに持ち込むのもどうかと思われるが、無理やり嫌な話としてしまうのも考え物だと思われるのだが。
<内容>
「みずぎロジック」
「人体バニッシュ」
「卒業間際のセンチメンタル」
「ダイイングみたいなメッセージのパズル」
<感想>
著者の市川哲也氏描く蜜柑花子シリーズも終り、新たな作品が書かれるのかと思いきや! なんと新作は蜜柑花子が高校時代に経験した事件を描いたものと・・・・・・まぁ、面白かったから別にいいけど。そんなわけで、新作は蜜柑花子の学園ミステリ短編集となっている。
著者も書きたかったらしい、学園ミステリ。また、蜜柑花子が登場するものの、シリーズに見られた探偵としての悩み云々というようなものも控えめで、今作は純粋に学園ミステリを楽しむことができる作品。全体的にミステリ性が薄めな感じがしなくもないが、“学園”という舞台設定は存分に楽しむことができた。
この作品の主人公と言うかワトソン役をするのは、美貌の生徒会長を姉に持つ中葉悠介。彼が蜜柑花子に事件を持ち掛け、蜜柑花子が謎を解き、表には出たがらない蜜柑の代わりに探偵役として真相を告げる役割を担っている。少々シスコンすぎるきらいがあるものの、そこは現代的な小説というか、ライトノベル風というか。
一番トリックが面白かったのは「人体バニッシュ」であろうか。これは、バカミス炸裂というようなトリックが扱われている。そのトリックを行うための練習風景を思い浮かべると微笑ましくなってしまう。
その他は、平凡なミステリという気がしつつも、全体的に青春しているというか、良くも悪くも学園生活満喫しているという感じがして実に微笑ましい。楽しんで読めること請け合いのミステリ短編集である。
「みずぎロジック」 姉の水着を盗んだのは3人の容疑者のうち・・・・・・現場に残された上履きが語るものは!?
「人体バニッシュ」 タバコを口にし、教師を挑発した生徒が消え失せた! いったい、どのようにして・・・・・・
「卒業間際のセンチメンタル」 卒業製作の写真フレームを壊したのはいったい誰? そして何故?
「ダイイングみたいなメッセージのパズル」 怪我をした女性とは、部屋に逃げ込み施錠し、血でメッセージを残したのだが・・・・・・
<内容>
「プロローグ」
「ルサンチマンの行方」
「オレのダイイング・メッセージ」
「誰がGを入れたのか」
「屋上の奇跡」
「エピローグ」
<感想>
市川氏による連作短編集。女子高生探偵・蜜柑花子がミス研のメンバーらと共に学校で起きた事件に挑む。今作は、全体を通して、ちょっといい話のようなものを書き上げたというような内容。まさしく青春ミステリというにふさわしいようなもの。
「ルサンチマンの行方」では、蜜柑花子にちょっとした思いを抱いた少年が起こす事件を描き、「オレのダイイング・メッセージ」では、ミス研のひとりが考案したダイイング・メッセージの謎を部員に解かせようと奔走する姿を描き、「誰がGを入れたのか」ではちょっとした事件を通し、女子高生の教室でのヒエラルキーとその行方を描き、「屋上の奇跡」では、そこまでの物語から展開される事の顛末を描いている。
最初の「ルサンチマンの行方」を読んだときから、とあるトリックをやろうとしているのかなと既に気が付いてしまった。それが「誰がGを入れたのか」で生かされることとなるのだが、これはまぁ、わかりやすいものであったかなと。あと、「オレのダイイング・メッセージ」では、自分の考案したトリックにかける情熱と、ミステリファンであれば誰もが持っていると噂される“スケキヨ”のマスクに、爆笑させられる。
蜜柑花子の探偵物語ってこんな内容のものであったのかなと思いつつも、学校で味わうことのできる青春ミステリとしては悪くないう印象。なんとなく蜜柑花子の学園生活が順調すぎて、この後一気にどん底に落とされるような事件が待ち構えているのではないかと勘繰りたくなってしまう。
<内容>
グロテスクな人形作りとして名を馳せ始めた常世三姉妹。その人形にはまるで魂が宿っているようで見るものを魅了する魔力を持っていた。その常世三姉妹の屋敷に招待された者たち。フリーライターの麻生真哉とその6歳の娘の麻里。人形商の関島とその親類で三姉妹に気に入られている御子柴。そして彼らの動向をうかがう三姉妹の妹の常世命。それぞれが思惑を抱える中、人形に彩られる館の中で殺人事件が起きる。しかも密室の状態での不可能犯罪。次々と起こる殺人事件の犯人はいったい!?
<感想>
鮎川哲也賞受賞作家である市川哲也氏の久々の作品。現代社会の中に、魔術を扱う魔女の存在を設定しつつ、館のなかで起こる不可能犯罪を暴き出すという内容の作品。
世界設定は近代的なミステリらしくて面白いと思われるのだが、全体的には微妙であったかなという感じ。数人からの視点で描いているものの、どこが軸であるのかが定まらず、また人物造形についても疑問に思えるところがあったりと、なんともぶれていると感じられる様相。そして、結末は世界設定を利用しての解決がうまくなされていると思われる反面、真犯人の存在についてはちょっと書き足りていない点を感じられたりと、不満も残ってしまった。
全体的に粗削りなのは別にいいとしても、色々な要素が全体的にかみ合っていなかったような印象を受けてしまう作品であった。設定が特殊な作品ほど、うまくまとめ上げないと、奇をてらっただけの作品のようになってしまって、それはそれで描くのが難しいということが感じ取れた。
<内容>
ライターの田中永遠と雑誌編集者の礎怜は、廃校となった元小学校に七不思議調査のため、深夜の校舎に忍び込む。そこで、怜の親戚の西連寺とその友人と出くわし、4人で調査を行うことに。調査を行うものの怪異には遭遇せず、その代わり大量の銃器等の武器を発見することに。そこはテロリストの隠れ家になっていて、4人は様子をうかがっていたテロリストたちによって、捕らわれてしまう。そうしたなか、田中永遠は、テロリストの一人から仲間の一人を殺害してほしいと、依頼されることとなるのだが・・・・・・
<感想>
鮎川哲也賞受賞作家である市川哲也氏の最新作。ノンシリーズ作品。
今作は、とにかく予断を許さない作品となっている。雑誌記者らが七不思議を調査を行うホラー的なミステリ小説なのかと思いきや、そこにテロリストが現れ、主人公らは捕らわれることとなる。そこから、この作品の中心視点であり、主人公と言ってよさそうな田中永遠が殺人を依頼されることとなり、その殺人を遂行するべく、知恵を絞ることとなる。
といったところから始まるミステリであるのだが、その後、七不思議の“時が戻る映写室”にて、時間が遡り、再び事件前に時間が戻ることとなる。そうしたなかで、田中永遠は、突如現れた探偵役のものと対決しつつ、彼に犯罪を暴かれないように完全犯罪を遂行するべく、殺人を繰り返すこととなる。
と、最近はやりの特殊設定ミステリが展開される。とはいえ、殺人を繰り返す方が、探偵に暴かれないように行為を繰り返すという設定は珍しいような気がする。それだけでも変わったミステリと思えるのだが、実はこの作品はそれが目玉というわけではなく、そこから先、二転三転繰り返す物語となっている。その展開はまさに目を見張るようなもの。
そんな形で、この作品に関しては、情報を取り入れないで、まっさらな状態で読んでいったほうが面白いと思われる。私自身も、内容を見ずに買ったので、“時が戻る”という現象すら知らずに読んでいったので、興味深く読むことができた。これはなかなか、面白いところを狙っていったなと感心させられるものとなっている。