<内容>
警備保障会社に勤める西岡悟郎は、職場で盗聴を働いたことにより首にされかけるが、その代わりとして特殊な現場に転属される。彼が配属されたのは、新興宗教団体“解放の家”の道場の警備。そこでは、入団した信者を取り戻そうとする家族や村人たちとの諍いが激化していた。そして、西岡が配属された当日、“解放の家”が火事になり、教祖が焼死するという事件が起きてしまう。その事件が起きる直前に、西岡に奇妙な出来事が起き、彼の頭のなかで何者かの声が響き渡ることとなり・・・・・・
<感想>
古い本を再読。当時、新潮文庫版で読んでいたのだが、それを再び紐解いてみた。
ある種、宗教的な部分が強い作品となっている。この作品が書かれた当時と言えば、オウム真理教に関わる事件が有名であり、たぶん本書はそれをモチーフにしたと思われる。ただ、ここに書かれている宗教団体の構成や様相はそれとは異なるものとなっているので、丸々オウムを描いたようなものでない。また、当時は別の宗教団体による揉め事も起こっていたので、ひょっとすると別の宗教団体をモチーフとしている可能性もある。
その宗教団体を警備していた警備員が主人公で、その主教団体を巡るいざこざに巻き込まれているうちに、彼の頭の中に何者かが巣くい、始終彼に話しかけることになるという様相。主人公はその頭の中に現れたものが何者なのか、それを突き止めようと行動を起こす。その現象を解明するために、精神科医に相談したり、偶然出くわした件の宗教団体の関係者に話を聞いてゆくこととなる。
そんな感じで話が進み、超常現象を描いた小説か、もしくは単に二重人格を描いた作品なのかと考えながら読んでいくこととなる。すると、最終的には探偵小説のような場面で話が収束していくこととなる。最後まで読むと、実はしっかりとしたミステリ作品であったのかと驚かされる。といっても、ここに表現されるすべての事が現実的な事象で説明がつけられるわけではない。そうしたなかで、主人公に隠された事柄が後半では徐々に明らかにされてゆくこととなる。また、超常現象として語られる部分もあるのだが、それはそれで驚きの展開を見せられる部分もあったりと、さまざまな仕掛けが用意されている。
長めの作品なので、読むのに時間がかかったものの、それでも読み終えてみれば、面白い作品であったという印象が残る。サイコ・サスペンスにSF的な要素を加えたエンターテイメント小説として完成された作品と言えよう。
<内容>
「ホワイトノイズ」
「ブラックライト」
「ブルーブラッド」
「ゴールデンケージ」
「インビジブルドリーム」
<感想>
古めの作品を再読。最近、井上氏の新刊も出ていないことだし、ちょっと過去の作品を読み返してみた。
共通テーマはタイトルのとおり“あくむ”。さまざまな“あくむ”の形態を見ることができる。やや何でもありという感があるものの、それなりに楽しめる。決して伏線が貼られて、それを回収するようなミステリではないので、そこだけはご注意!
なかでも「ブラックライト」と「ブルーブラッド」という作品との夢の対比が見事と思えた。「ゴールデンケージ」は、ちょっとグロく痛さを直に感じるような内容となっているので、読むのが辛かった(ホラーとしては成功と言うことか)。
「ホワイトノイズ」 無線の盗聴器を購入した男は、誘拐事件の電話を盗聴してしまい・・・・・・
「ブラックライト」 事故にあって病院に運び込まれた男は、医者や看護婦の対応に不審なものを抱き・・・・・・
「ブルーブラッド」 吸血鬼の血を引くと信じ込む教師は、夢のなかで欲望を成し遂げる日々を送り・・・・・・
「ゴールデンケージ」 優秀な兄に劣等感を抱き不良となった弟。その弟の自由な生き方にあこがれを抱く兄。
「インビジブル ドリーム」 ドラマのエキストラの仕事で知り合った女は、何故か彼の正夢を見続け・・・・・・
<内容>
向井洵子は使い始めたばかりのワープロを使って、日々の出来事を記録していくことにした。ある日、夫が出張しているときに図書館へ本を借りに行くと、すでに彼女の名義で誰かが本を借りていると言われる。不安になって夫の会社へ電話すると、向井の妻の声とは違うと疑われる羽目に。知らないところで、誰かが彼女のふりをしているのか? 不安に駆られる洵子は、もうすぐ帰ってくるはずの夫の帰りを待ち続け・・・・・・
奥村恭輔の家のポストにフロッピーディスクが入っていた。その中には、同じフロアに住む向井洵子が書いたと思われる記録が記されていた。その向井洵子は殺害されて事件になっていて・・・・・・
<感想>
ちょっと古めの作品を再読。当時、単行本で読んでいて、いつか再読したいと思っていたものの、なかなか復刊されなかったので、なんとか古本を入手して再読することができた。初読時は、なかなかのインパクトを残した作品である。
本書については、何を語ってもネタバレになってしまいそうなので、あまり内容に触れることはできない。様々な登場人物が出てて来て、それぞれが語り、そしてその話が記録に残されていくというもの。中身については、話の齟齬が合わなかったり、どこか変だと思うところがありつつも、だいたい“あのネタ”を描いたものだなと想像しつつも、さらにその斜め上を行くような結末が待ち受けることとなる。
何気にこのネタの作品としてはひとつの完成系と言えるかもしれない。物語上、強引に話が進められていると感じられるところがありつつも、うまくできている作品だと思われる。井上夢人氏の作品の中でもかなり完成度が高い作品だと思えるのだが、再評価されることはないのかな?? もう少し評価されてもよさそうなものであるのだが。
<内容>
高校の実習中に、コンピュータで制御されたドリルの刃が暴走し、生徒の手を貫いた。コンピュータは、どうやらウィルスに汚染されたていたと。何者かの手により作られた、一見無害ながらも、定期的に画面にメッセージが出る鬱陶しいウィルス。やがて、ワクチンにより、ウィルスが抑えられたかと思いきや、ネットワークの垣根を飛び越えて、様々な機械がウィルスに汚染されることになる。その騒動の裏には、極秘裏に進められているAIプロジェクトの存在が・・・・・・
<感想>
30年近く前の作品を再読したのだが、これがまたそんなに前に書かれた作品とは思えないくらいの内容となっている。むしろ、時代がようやくこの作品に追いついてきたのではと感じるくらい。しかも、インターネットが世間に広がる前に書かれた作品であるのだから、今になって読むことで増々驚かされてしまう。
昔読んだときには、しっかりと内容を把握できたのかなと、自身を疑ってしまう。今でこそ、コンピュータ・ウイルスとか、ワクチンとかの存在は当たり前になっているが、それをその当時に描いているのだから時代の先端を行っていたのだなと。さらには、そのころそんなに一般的になっていないAIまでを描いているのだから、もはや言葉もでなくなってしまう。
ここで書かれているAI技術などは、一見、今の時代でも追いついていないのではないかと感じてしまう。ただ、ひょっとすると、私自身が詳しく知らないだけで、実際には私が考えている以上にAIなどのコンピュータ関連の技術というのは、もの凄く発展しているのではないかとも感じてしまう。この作品が書かれたときに、これだけの事が考えられていたのならば、今の時代、我々の知らないところで、さらなる進歩を遂げているのではないかと考えずにはいられなくなってしまうのである。
それと付け加えておくと、こういった技術的な内容がふんだんに盛り込まれている作品ながら実に読みやすい小説となっている。この辺は、この著者の手腕なんだろうなと感嘆させられる。今後ももっと色々な作品を書いてもらいたいし、この作家の作品を読み続けたいと改めて感じさせられた。
<内容>
「宇宙人の証明」
「四十四年後の証明」
「呪いの証明」
「狼男の証明」
「幽霊の証明」
「嘘の証明」
<感想>
かつて読んだ作品の再読。今回は講談社文庫版での読了。
男女の会話のみで展開される物語。今でいえば、ディベートなんて言われるものに近いのかもしれない。例えば、宇宙人について証明できるかと言われると、やや胡散臭い話のように思えるかもしれないが、一方で、宇宙人が存在しない証明をしてみろと言われると、これがなかなか難しい。そんな感じで、その他の物語もなんらかのテーマにして、証明と非証明の会話が繰り広げられることとなる。
それぞれの短編作品のみなら、何も残らないのだが、こうして6編の作品が揃うと、それぞれの作品がどのような結末を迎えるのかを興味を持って読むことができるようになっている。しっかりと何らかの理由が付けられたり、肩すかし気味に終わったり、何もなく終わってしまったりと、話によって結末は様々。ということで、作品全体として物語の行く末を楽しむことができる作品群となっている。
<内容>
作家の藤井陽造が、自宅でコンクリートを満たした木枠の中に全身を塗り固めるという状況で死亡しているのが発見された。傍らには“メドゥサを見た”というメモが遺されていた。藤井の娘と、その婚約者は、藤井陽造が生前に書いていた原稿の行方を探し始める。その原稿の中に、何故このような死を遂げなければならなかった理由が書かれているのではないかと。しかし、その原稿の行方を追っていくと、徐々に二人は奇妙な事象にとらわれ始め・・・・・・
<感想>
過去に読んだ作品の再読。昔読んだときには、さほど印象が良くなかった作品。というのは、読む前に作品に対して、ミステリとしての合理性や整合性などを求めていたからだと思われる。今回は再読ゆえに、本書がどちらかといえば、ホラーよりの超自然的なものを描いた作品だと言うことを知っていたがゆえに、そういう心構えで読み進めることができたので、結構楽しんで読むことができた。
主人公が、婚約者の父親の不審な死の原因と、遺されたはずの原稿を探していくという内容。その捜査を進めていくうちに、主人公の身に、不可解な事象が降りかかってくることに。それを押して、さらに捜査を進めてゆくと、とある村で起きた大きな事件に遭遇することとなる。そして、主人公の身には、加速するように不可解な現象が降りかかってくることとなる。
後半読み進めてゆくと、麻耶雄嵩氏のとある作品を思い出すような現象を目撃することに。そしてそこから主人公は、さらなる不可解な現象に見舞われることとなり、登場人物のみならず、読者の立場であっても、混乱させられる羽目に陥っていく。ただただ、不可解としか言いようがないものであるが、ホラー作品としては充分に見栄えのする作品であったなと感嘆させられる。
<内容>
牛丼屋に勤めるシュンペイは、自称パチプロのイッカクと区役所に勤めるヨーノスケと共に3人で暮らしている。そのヨーノスケが超能力が使えるということで、彼に助けを求める人がシュンペイの元へとやってくる。しかし、ヨーノスケの超能力は“低能力”と言いたくなるようなもので、決して役に立つようなものではない。それでも助けを請う人に対して、ヨーノスケは超能力を駆使して、依頼をこなそうとする。超能力の結果が出るのを待っている時間、イッカクが依頼人の謎を論理的に解こうとするのであったが・・・・・・
<感想>
昔読んだ作品を再読。上記に書いた展開が繰り返される短編集となっている。基本的に誰も傷つかないような、やさしい小説となっているところがポイント。ミステリとしては弱いものの、読み心地はすごく良い。
超能力者ヨースケのもとに人づてに噂を聞いた者たちが、悩みや事件を持ち寄ってくる。恋人の失踪事件、叔父の最後の言葉を確かめたい、除霊、恩人を探したい、からくり細工の箱の中を透視してもらいたい、ポルターガイストの謎、同居人の失踪事件、といった7つの事件を解決する。
解決するとは言ったものの、結局のところどれも深刻なものにはならず、しかもヨーノスケら3人が解決したとも言い難い。しかし、何故か依頼人は幸せな面持ちで帰ってゆくのである。といったところで、終わり良ければ総て良し、ということでなんだかハッピーな気持ちになれる作品集となっている。日々の生活に疲れたときは、こんな感じで気楽に楽しめる作品もたまには良いのではなかろうか。
<内容>
片桐稔はバンド活動をしており、作成したインディーズCDを姉に聞いてもらおうと、結婚して夫と二人で住んでいる家へもっていくことに。そこで稔が見たものは、全裸ではりつけにされている姉。そして稔は、姉を殺害しようとしていた殺人鬼により頭を殴られ、1か月の間、生死をさまよう。生還した稔を待ち受けていたのは、姉が連続殺人鬼により殺害されたという事実。そして稔は、自分の嗅覚がおかしくなっていることに気づく。それは、全く匂いを感じなくなり、すべての匂いが視覚化されるというものであった。稔はその能力を駆使して、殺人鬼の手掛かりを得られないかと、自分の嗅覚の能力を把握しようと、さまざまな試みを・・・・・・
<感想>
井上夢人氏の代表作(と、個人的には思っている)を再読。当時、単行本で読んでいたので、改めてすべて読み直すのは20年ぶりということか。
分厚い作品ながらも、ほぼ一気読みできてしまう。この作品、何が素晴らしいかといえば、匂いに対する描写が素晴らしいのである。主人公は、頭を殴られたことにより、嗅覚に異常をきたしてしまう。それは、通常の匂いを一切感じなくなり、代わりに匂いが視覚化されるようになったのである。それが視覚化されたことにより、匂いに区別をつけることができ、どれが何の匂いかというものを分子レベルで理解できるようになり、その能力を駆使して殺人犯を追っていくこととなるのである。
本書は事件云々よりも、その“匂いの視覚化”に関する描写がすごい。ひとつひとつの匂いに色や形をつけ、それを区別し、そして徐々にそのメカニズムを理解していく様に魅入られてしまう。これは、よくぞこのような世界を思いつき、そして描き上げたなと感心させられるばかり。
読み終えた後も、まだその鮮やかな匂いの世界にとどまっていたいと思えてしまうほど。ミステリ作品を読んだはずなのに、その設定に魅入られてしまったという、なんとも不思議な作品である。
<内容>
「1970年」 (EQ:1997年5月号)
「1980年」 (EQ:1998年5月号)
「1990年」 (EQ:1999年5月号)
「2000年」 (GIALLO:2000年春号)
1970年。久須田潤次、塚本譲、橋爪絹江、番場百合子の四人はもうすぐ全員が20歳になるというクリスマスのとき、四人が乗り無免許の百合子が運転する車は一人の男をひき殺してしまう。妙な風貌で妙な格好のその死体は身分を明かすものは身に付けていなかったが二百万円という大金を持っていた。彼らは死体を隠し、事故はなかったことにしようと・・・・・・
その後、1980年、1990年、2000年という十年ごとに顔を合わせる事になる四人。彼らは会うたびにあの事件を思い出し、さらにはその死んだ筈の男の存在が彼らの前に見え隠れする。この顛末やいかに!
<感想>
作風としては西澤保彦氏をほうふつさせるような感じがする。起きた事件に対して、いったいあれはなんだったのかと論議する四人。この作品ではこの四人の討議が中心に話が進められる。結局はモダンホラー風に、あのとき起きた奇妙な出来事でかたづけられるのだろうかと思いきや、ラストにはある種の解決がきちんと(?)用意されている。その解決の仕方まで西澤氏のような、というか殊能氏の「黒い仏」とでもいったらよいのか。たしかに読者を驚愕はさせるのであるが、整合性という観点からはどうだろう、と思ってしまう。新刊の帯びに「綺想のマエストロ、2年ぶりの最新長編」と書かれているのだが、確かに綺想ではあるかもしれないが、反面期待はずれでもあった。
<内容>
盲目の霊能者・能城あや子、そのマネージャー鳴滝、調査員の草壁賢一と藍沢悠美。彼らは四人でチームを組み、“能城あや子”という偽の霊能者をでっちあげ、テレビ番組で人々の悩みを解決していた。やがて、その“能城あや子”という存在が有名になったとき、彼らのインチキを暴きたてようとするものが現われ・・・・・・
「招 霊」(おがたま)
「金 縛」(かなしばり)
「目隠鬼」(めかくしおに)
「隠 蓑」(かくれみの)
「雨 虎」(あめふらし)
「寄生木」(やどりぎ)
「潮 合」(しおあい)
「陽 炎」(かげろう)
<感想>
ふと、こうしてみると“タイトル”と“内容”と“目次”がマッチしていないというか、一貫性がないというか・・・・・・というのはどうでもいいとして、本書はなかなか面白い作品として仕上げられている。以前井上氏が書いた「風が吹いたら桶屋がもうかる」と本書を比べてみると相違点があって、とても面白い。「風が吹いたら」のほうは、本当に超能力を持っているのだが、それが役に立たない超能力であるというもの。本書ではそういった能力をもっていないにもかかわらず、能力者を語っている。しかし、その偽の能力者の力を用いて、実際に事件を解決し、人の役に立ってしまうというものなのである。
このようにあらすじだけ述べてしまうと、いかにも簡単な作品に思えてしまうのだが、その短編の一編、一編がそれぞれ深い味わいを収めて作られている。特に気に入ったのは「金縛」という作品。主人公のひとりが過去に遭遇した事件と現在の事件を結び合わせ、さらに結末にもう一味付け加えるという、なかなか手の込んだ作品となっている。
このように、ひとつひとつの作品がとても良くできており、物語としても優れた内容になっている。よって、読み出したら止まらなく一気に読み終えてしまった。本書は、一応最後の作品「陽炎」でいさぎよいとも思われる区切りを付けてはいるものの、読んでいるものとしてはもっと読み続けたいと思わされるようなものであった。
これを読むと井上氏には、この作品の続編でも、別の作品でもいいから、もっともっと本を書いてもらいたいと思わずにはいられなくなる、そんな作品である。
<内容>
「あなたをはなさない」
「ノックを待ちながら」
「サンセット通りの天使」
「空部屋あります」
「千載一遇」
「私は死なない」
「ジェイとアイとJI」
「あわせ鏡に飛び込んで」
「さよならの転送」
「書かれなかった手紙」
<感想>
井上夢人氏の文庫オリジナル短編集。本書は色々な雑誌上に1990年から1995年にかけて書かれたものを集めた作品集である。
「あなたをはなさない」「ノックを待ちながら」の2編はホラーストーリー仕立てながら、リドルストーリー風味で味付けをした内容の作品。
また、ミステリ仕立ての「サンセット通りの天使」「あわせ鏡に飛び込んで」なども読み応えのある内容に仕上げられている。
他にもホラー系でありながら文学系に挑戦した「私は死なない」やパソコン通信と人工知能をテーマにした「ジェイとアイとJI」なども興味深く読む事ができた。
と、読み応えのある充分な作品集に仕上げられているのだが、しいて不満を挙げれば、どれもこれもがやや古さを感じてしまうということである。
本書に掲載されている作品が発表された年代を考えれば、この短編集は10年前に出版されていてもおかしくないはずである。それが10年以上の時を経て、ようやく1冊の本になったわけなのだが、どうも感覚的にどの短篇も古さというものが感じ取れるのである。もっと前に出ていれば、ミステリファンから意外と熱狂的に取り上げられたかもしれないと思うとちょっと残念な気がする。
<内容>
山梨県にて未知のウィルス感染被害が報告された。近隣の病院や研究所で早い段階で対応したものの、ウィルスの致死率はほぼ100%であり、大勢の感染者が死亡することとなった。ウィルスのワクチンが作られ、感染被害もようやく落ち着いてきたなか、このウィルスに感染して生存した3名の人物にスポットがあてられることとなる。その3名はウィルスの副作用として、不思議な力を持つこととなる。やがてその力をめぐり、大きな混乱がもたらされることとなり・・・・・・
<感想>
久々の井上氏の作品は伝奇系の内容のもの。過去の作品からすると「オルファクトグラム」を発展させたような形のように思えなくもない。
最初はウィルス感染によるバイオハザード的な内容から始まると思いきや、話は一気に進んで行き、感染被害がすぐに収束し、ウィルス感染から生き延びた3人の人物の物語が始まっていくこととなる。その能力が明らかになって行く途中の描写が本書の一番の目玉ではないだろうか。特に主人公のひとりである仲屋の能力である“千里眼”とでもいうべきものの描写に力が入れられている。
物語としては、ちょっと物足りなさを感じてしまった。というのも、一冊の本では書ききれないだろうという内容であるからだ。一冊の本のみで終わらせてしまっている分、話が内側のみで終息してしまい、そこに物足りなさを感じさせられた。
できればシリーズとして、この作品の主人公達の活躍を見たかったのだが、本書の終わり方を見た限りでは続ける気はなさそうである。それがなんとも残念なところ。
<内容>
鈴木誠は、その容姿のせいで世間と隔絶し孤独に生きていくことを強いられていた。そんな彼の世界を広げたのは、ネットであり、そしてビートルズの評論を書くことであった。いつしか、その評論は雑誌に掲載されることとなり、それによりわずかであるが、鈴木誠は社会と繋がることができたのである。その繋がりによって彼はモデルの美縞絵里と出会い、一目ぼれすることとなる。鈴木誠は絵里の姿を執拗に追うこととなり・・・・・・
<感想>
読むのにだいぶ時間がかかってしまった。何しろ、内容の基本的なところはストーカーの独白小説なのである。ストーカー以外のパートもあるにはあるのだが、そのストーカーの行為に関することが延々と述べられているだけであり、とても読書意欲をそそられる内容ではなかった。
ただし、当然のことながらこの小説が単なるストーカー小説で終わることはない。最後まで読むことにより、主人公である鈴木誠という人間の渾身の生き方が描かれた作品であるということを痛いほど感じさせられるのである。
とはいえ、これは人に薦めるには微妙なところである。もう少し全体の長さを短くしてもらえればと思わずにはいられない。しかし、それではせっかくレコードのジャケットに模した全体の構成がまとまりなくなってしまうので・・・・・・うーん、なんとも。
<内容>
「あした絵」
「鬼の声」
「空気剃刀」
「虫あそび」
「魔王の手」
「聖なる子」
<感想>
普通では持ちえない“超能力”といってもよいものを持ったがゆえに悩む6人の少年少女を描いた作品。その6人が、最後の作品で一堂に会し、ひとつの事件に対処する。
明日起きる事件を予知し、絵に描く小学2年生の女の子。犯罪者の声が心の声として聞こえることに悩む中学1年生の男子。ものを切り裂く力を持ったがゆえに悩む小学5年生の少年。虫を寄せ集めてしまう4歳の女の子。過剰に電気を帯電する高校1年生の男子。怪我を癒すことのできる中学二年生の女子。そうした能力を持ったが故、誰にも理解されなかったり、孤独に生きなければならない者達が、彼らを理解しようとするものの手により、徐々に心を開いてゆく。
こうした能力を持てば、とてつもなく有名になり、世間をにぎわし大変なことになるであろう。ただ、この作品のなかでは、彼らの力を過剰に世間に広めることなく、優しく描き上げている。過剰に少年少女を追い込んだりしないところは、この作品に対し好感が持てるところ。ややご都合主義的により、うまく行きすぎている感があるが、その分非常に読みやすい。さらっと読める軽めの伝奇小説というような感じか。