<内容>
かつて刑事で、今は探偵業を細々と営む鬼束。鬼束は報酬につられ、ヤクザと共に殺し屋を探すという依頼を受けることに。ただ、当のヤクザである仁科英雄は典型的な無能な二代目のお坊ちゃんで、行く先々でトラブルを起こす。そんな英雄の子守をしつつ、気の乗らぬまま仕事を続けていた鬼束であったが、徐々に殺し屋を探すという仕事に没頭し始め・・・・・・
<感想>
香納氏はトラウマを抱えた刑事、もしくは元刑事がお好きなよう。この作品も、とある件により警察を追われることとなった私立探偵が主人公となっている。
全体的に重めの作品のはずでありながらも、何故か口当たりは軽い。私立探偵・鬼束が共に行動しなければならないヤクザの二代目が少々おバカな(悪い意味で)人物で、その尻拭いをしながらの行動が続けられるためか、なんとなくライトな印象を受けるようになっている。
この作品の主たる目的は、伝説の殺し屋と呼ばれる“ミスター”を探すというもの。このへんはまるで逢坂剛氏の“モズ”みたいな感じ。ただ物語上で目をひく部分は鬼束とヤクザの二代目・仁科英雄とその弟・大樹との邂逅にあるように思われる。
ヤクザの二代目でありつつも、その粗暴さと馬鹿さ加減から周囲から軽んじられている英雄。巨体であるにもかかわらず、引きこもりがちで人と話すのが不得意な大樹。鬼束はそんな二人を抱えながら、ヤクザの抗争に巻き込まれつつ、しかも殺し屋探しまで行わなければならない。鬼束はそんな二人を重荷と感じつつも、徐々に二人を放っては置けないという気持ちも芽生えてゆく。
基本的には、鬼束の捜査により、秘められた過去と殺し屋の謎が徐々に暴かれてゆくものとなっている。殺し屋の謎を暴く過程で、次第にヤクザの抗争の裏に潜む真相に迫ってゆく様相はなかなかのもの。最初から最後まで目が離せない展開が続くハードボイルド・サスペンスという感じの作品。内容は良かったのだが、ただタイトルの「熱愛」というのはあまりピンとこなかったような。
<内容>
ビルの植え込みから白骨死体が発見される。なんと身元は1年以上前に行方不明になっていた女刑事であり、KSPチーフの村井貴里子の先輩でもあった。発見された女刑事は生前、単独でやくざの構成員である男がひき逃げされるという事件を調べていたことが判明する。彼女はいったい何を追い、何を突き止めようとしていたのか? 調べていくうちに次々と不可解な事実が明るみに出るのだが・・・・・・。そうした捜査を進めていく中、前の事件の後遺症により内勤を務めていた円谷刑事に、不可解な査問がなされることとなる。それを発端として、徐々に追い詰められていく組織としてのKSP。これらの状況を打破するために沖幹次郎がとる行動とは!?
<感想>
今の警察小説とは、ここまでプロットが複雑で、レベルが高くなければ読者を満足させることができないのか!? ちょうど今、横山秀夫氏の「64」を読んでいるところなのであるが、横山氏といえば組織の内部を軸にして警察小説を描く代表的な書き手である。横山氏の登場以来、そうした書き方をする作家は増えてきたが、この作品も負けず劣らず、警察内部の権力争いを軸として描かれた内容になっている。
一応、捜査の軸は白骨死体として発見された女性警部補の謎を解くというもの。彼女が生前に捜査していたやくざのひき逃げ事故を、KSPが引き継いで調査を進めていくこととなる。実はこの事件は、一般社会の中で起きた事件のみというわけではなく、警察内部が深くかかわっている犯罪でもあるのだ。それにより、KSPという立場が微妙な状態に追い込まれたり、また、それとは別としてKSPの存続が危ぶまれたりと、KSP捜査員の面々は警察内部での権力争いに深く関わっていくこととなるのである。
ただ、その背景というか内情、そして権力争いは一筋縄ではいかないものである。警察小説ってこれほどまでに複雑なものであったっけ? と疑問符をていしたくなるような陰謀劇。それでも最近の警察小説であれば、これくらいは書きこむのが普通であると言わんばかりに、物語は進展していくこととなる。
これ一冊のみであれば、アクションの少ない、謀略小説風の警察小説という感じであるが、KSPシリーズの中の一冊ということであれば、普通に受け入れられる内容でもある。確かにKSP存続というのは、初期のころからの命題のひとつとも言えるであろう。そうした謀略のなかでKSPの代表格である沖がどのように変わっていくのかということもシリーズの重要事項のようである。
<内容>
県警一課に所属する都筑寅太郎刑事は、また井狩治夫から呼び出されることに。井狩は7年前に3歳になる娘が行方不明となり、今もなお探し続けているのである。井狩がいうには、新たな情報提供が梅崎という探偵からもたらされたのだという。都筑は、梅崎が報奨金欲しさに偽の情報を持ってきたのではないかと疑っていた。すると、その梅崎が死体となって発見されることに。都筑は事件の捜査を行い、梅崎が生前調査していた件を調べてゆく。そうするうちに、梅崎は本当に失踪事件の手がかりをつかんでいたのではないかと都筑は考え始め・・・・・・
<感想>
実は本書、ランキングのベスト10内に入っていたりと、地味に話題となっていたもの。香納氏が描く作品であるのだから、基本的な水準を超えているのは間違いないという事はわかりきったことなのだが、本書はそうした香納氏の作品のなかでも、上位の位置を占める出来栄えの作品と言えよう。
内容は、7年前に失踪した3歳の少女の行方を巡る事件がメインとなり、未だ必死に行方を探す父親に頼られる刑事都筑が事件を追ってゆくというもの。実はこの都筑という刑事、悪徳刑事のように描かれており、一度はその娘の行方を探す父親に偽の情報を与え、金をせしめたことがあるという過去がある。その負い目を持ちつつ、未だその失踪した少女の行方を追っているという始末。ただし、序盤は悪徳刑事という印象が強かったが、読んでいくうちに意外と普通の悩める弱い人間なんだと思わせられることとなる。
そして今回、その刑事と同じように偽の情報で金を得ようとした悪徳探偵が登場し、都筑刑事がいさめることとなるのだが、どうもその男、本当に何らかの情報をつかんでいる模様。しかし、その探偵が死体で発見されることとなり、都筑刑事はその探偵が追っていた事件を捜査し、犯人を捜すこととなる。
地方色が色濃く出た警察小説。やや、この主人公の刑事の人生に関することの比重が大きいようにも思えるが、それはそれで徐々に物語に渋みのある味を付けてゆくこととなる。都筑刑事が探偵の死亡した事件を捜査し、それが徐々に複雑な様相となってゆくのだが、不必要に大きく広がらずに、きちんと昔起きた失踪事件へと収束していくこととなる。このへんの構成が見事であり、この捜査の様子と物語の回し方こそが、本書が傑作とされるゆえんなのであろう。
香納氏の作品を読み続けていると、飽きたという人もいるかもしれないが、数多くの作品群のなかでこの作品は決して読んでおいて損はない作品。是非ともお薦めしておきたい。
<内容>
以前、秘書としてKSPに所属していたキャリアである村井貴里子は、特捜部のチーフとなり、そしてついにKSPの署長となった。そんな彼女に、極秘の依頼が持ち込まれる。テキサスの石油王から、彼の妻であり世界的バイオリニストであるバーバラ・李の盗まれたバイオリンを取り戻してほしいというのである。貴里子がそうした依頼を受けている時、KSP特捜部の沖の元に、現在警察から逃亡中の朱栄志が接触してくる。朱は、沖の父親の命と引き換えに、バーバラ・李のバイオリンを要求してきて・・・・・・
<感想>
何気に積読の期間が長くなってしまった。文庫版で読了。KSPシリーズ第4弾。
今作ではいつもながらの主人公・沖刑事と、新たに女警察署長となった村井貴里子の二人が主軸として描かれている。ただ、タイトルからもあるように、やや村井貴里子のほうが存在感を示していたように思われる。
今回は、世界的バイオリニストの盗まれたバイオリンを探すという特命が主題。といいつつも、その裏にはしっかりと、シリーズきっての悪役である朱栄志がいて、バイオリン探索の真相と、その裏に秘められたものを暴き出そうと、KSPを含め色々な組織が対立していくこととなる。そして、本書ではその組織間の対立が新たな展開を見せることとなり、シリーズ上で大きな転換を果たすこととなる(まだシリーズ途中だからわからないが、たぶん)。
前述したとおり、本書では女署長となった村井貴里子が存在感を見せるものの、序盤のありさまは微妙と感じられた。とにかく組織としてよりも個を出し過ぎており、しかもそれが沖との恋愛感情優先のような形で描かれているので、反感ばかりがつきまとう。それでも最後には、優秀な刑事といった様相も見せており、最終的にはきっちりと女署長としての威厳を発揮していたように思われた。
このシリーズ、どんどんと沖刑事が追い詰められていくように描かれているのだが、それが女署長が個人的な味方になっているゆえに、さらに孤立感が増していっているような・・・・・・。まぁ、それが著者の狙いの一つであるようにも思えるのだが。
<内容>
海坂署の寺沢恒彦は、不法侵入を受けたという通報により商店街へと向かう。不法侵入したのは認知症の老女で、介護施設から抜け出してきたようであった。老女は、何らかの目的がありここへ来たようであるが、認知症故に本人から詳細は聞くことができない始末。すると、その老女が訪れた現場から白骨死体が見つかることに! 寺沢は新たな相棒となった妊婦の刑事・一ノ瀬明子とコンビを組み、事件捜査に乗り出す。すると、過去の事件が掘り出され、現在の事件と絡みあうこととなり・・・・・・
<感想>
香納氏お得意の警察シリーズ。というか、香納氏って、警察ものしか書かなくなったのかな? と思えるくらいの比率のような。まぁ、どの作品も面白いので言う事はないのだが。
今回は、以前冤罪で無実の者を捕まえてしまったことを悔やみつつも、今の仕事こそが自分の生きがいと感じ、職務を全うしようとする50代の刑事が主人公。冤罪事件により出世コースから外れ、銃で撃たれたことによる怪我をかかえつつ、後輩の刑事は警察を辞めると言い出すなど悩みの尽きない主人公であるが、それでも警察を辞めるというような考えを持たず、刑事であり続けようとする。その姿勢はある種、刑事の鏡のような主人公であるかもしれない。と言いつつも、決して立派な人物という印象ではなく、普通に愚痴っぽい中年男性である。そんな主人公がシングルマザーとして妊娠したことにより、捜査一課から飛ばされた女性刑事と組んで職務にあたることとなる。女刑事は現在妊娠中で、身重の状態でありながら、捜査に勤しむこととなる。
そんな変わった刑事コンビが取り組む仕事が、認知症の老女が不法侵入で入った家から見つかった白骨死体に関する事件。そこに住んでいた女が、別れた夫のストーカー行為により、元夫を刺し殺してしまうという事件が起きていた。また、認知症の老女は亡くなった夫が地元の有名な代議士であり、現在は息子がその基盤を引き継ぎ、さらにもう一人の息子は土木会社を経営している。こうした背景を調べてゆくうちに、徐々にすべてを取り巻く大きな陰謀が見え始めてくるというもの。
取り扱う事件自体も見どころがあり、またそれらを捜査する刑事たちの造形もよくできていたと感じられた。特に不遇の主人公が、その境遇にもめげず、必死に捜査を続けてゆくところは、実に見応えがあった。そしてタイトルの“幸”にこめられた想いを物語全体に感じ取ることができ、ラストの感動をきっちりと盛り立てていた。
<内容>
腐乱死体として発見されたのは16歳の少女であった。彼女が発見された部屋は、彼女のものではなく、行きずりの男から一時的に借りていたもの。彼女は養護施設から逃げ出し、援助交際、ネットカフェ難民等をしながら、この部屋にたどり着いたのだ。養護施設を抜け出した彼女は、叔父を探そうとしてたらしいのだが・・・・・・。警視庁捜査一課・大川内班の刑事たちは少女の生前の足取りを調べてゆく。
<感想>
香納氏にしては珍しく、シリーズというか、以前の作品に出ていた刑事が登場する作品。その作品は香納氏の代表作の一つともいえる「贄の夜会」であるのだが、本書はそちらの雰囲気とはだいぶ異なるもの。今作を読んでみると、大河内と渡辺のベテラン刑事コンビが非常にうまく機能していて、警察小説として見事にはまっているという印象を受けた。変に不仲の警察組織などを描かれるよりも、このようにスムーズで機能的なもののほうが警察小説としては読みやすい。
本書はネット難民を事件背景として扱った今風の内容。知り合いとなった男の家を借りて暮らしていたという未成年の女が死体で発見されるという事件。被害者は元々養護施設で暮らしていて、ある人を探すために施設を飛び出してきたという。
警察の捜査によって、被害者の背景が浮き彫りになり、何故事件に巻き込まれなければならなくなったかが次第に明らかになってゆく。中盤くらいでは、最初のネット難民とか、被害者の背景とかがぼかされるような感じの展開であり、ちょっと微妙という風にとらえられた。しかし、後半になると再びネット難民等にスポットが当てられることとなって、話が当初の軌道に戻ってきており、最後まで読めば、うまく話が練り上げられていると感じられた。
ネット難民とか、フリーターとか現代的な事象にうまくスポットを当て、とある人物の意外な動機が今の社会を象徴していると感じられる。また、ラストで山場を過ぎたところで終わらせずに、しっかりと最後にもうひと盛り上がりするように描かれているところは著者らしい。なかなか内容の濃い社会派刑事小説に仕立て上げられた作品である。
<内容>
京浜運河近くの路上で、女の全裸死体が発見された。捜査一課の大河内らは、その死体が置かれた状況にむごいものを感じていた。被害者の身元を調べると、経営コンサルタントであることが確認された。携帯の通話を調べ、最近連絡をとったものを調べてみると、その中に捜査一課の元刑事である沢崎の名前が見つかった。沢崎は2年前に起きた事件の捜査の際に重傷を負って辞職していた。今回の事件は過去の事件に関連があるのか? 関係者らに聞き込みを始めていく大河内らであったが、事件の背景は複雑な様相を見せてゆき・・・・・・
<感想>
この作品、だいぶ前に講談社から出ていたものの、なかなか文庫化されず、それがようやく徳間文庫から刊行されることとなった。ノン・シリーズかと思いきや、実はシリーズ4作品目。主に大河内刑事が主人公となっており、香納氏の作品の中ではそこそこ話題になった「贄の夜会」もこのシリーズのひとつ。
本書については、よくできている警察小説という他ない。ひとりの企業コンサルタントを営む女性の死。その女性の生活に胡散臭いものが見えてきて、動機を持つ者は多数。さらに、過去に起きた事件と関連してきて、事件背景は大きな広がりを見せる。そこに元刑事の死までが加わり、どんどんと複雑な様相をていしてゆく。
途中、だいぶ複雑になっていった事件の様相ではあるものの、最終的には綺麗に解き明かされたという感じである。隅々まで、余すことなく、しっかりと解決されていったなと。ただ、かなり良い作品だと思えるものの、なんとなく印象に残りづらい作品という風にも感じてしまう。やはり、これがシリーズであったと気づかなかったように、キャラクターにある程度、知名度が上がりそうな要素がなければ、なかなか世間からは注目されないのかもしれない。
<内容>
かつて殺人事件を起こし服役していた秀夫は、昔の婚約者の行方を捜してみようと思い立つ。偶然にも、かつて知り合いだった男を見つけ、後をつけ、話を聞くことに。すると、それが元となり秀夫は殺人事件に遭遇し、大金の入ったカバンを手にすることとなる。しかし、そのカバンは韓国人の少年に持ち去られることとなり、その行方を追うことに。カバンの中には金だけではなく、震災復興事業からの横領を示す内容が書かれたノートが入っており、それらの手に入れようとする悪徳警官、暴力団、金貸しらも含めた争奪戦が始まる。
<感想>
久しぶりに濃いノワール作品を読んだという感じである。現金の争奪戦が描かれた作品なのであるが、誰が現金を獲得しても、絶対にその後の人生はうまくいかないであろうという絶望感がすごい。それにも関わらず、現金に群がろうとする執念がなんともいえないところ。
内容のみならず、それぞれに絶望感が漂う個性的な登場人物らが良い。元婚約者の行方を捜す前科持ちの男、薬物中毒で軽率な母親を連れながら現金を手に入れようとする10歳の韓国人少年、道を踏み外した悪徳刑事、などなど。こうした登場人物設定からして、絶望感しか感じられないような人々による現金争奪戦という内容がものすごい。当然のことながら組織よりも個人に感情移入してしまうものの、実際にはどこかの組織が現金を手にしたほうが丸く収まるのでは? と感じてしまうほど。
ちなみにタイトルが“K・S・P アナザー”となっているが、K・S・P(警視庁歌舞伎町特別分署)に所属している刑事が出てくるだけで、K・S・Pシリーズとはほぼ関係ない。
<内容>
老舗の家具屋で先代の後を継ぎ新社長となった沢渡留理。留理は会社に関わるとある理由から、義兄とその愛人を殺害することを決意する。念入りに計画を立て、自らが罪をかぶらないように慎重に犯行を遂げた留理であったが、その犯行現場に泥棒が入ったことにより事態はややこしくなった。自らの計画に自信を持つ留理は警察の捜査を堂々とやり過ごそうとするのだが、ただ一人長身の女刑事・花房京子だけは彼女を疑っているようであり・・・・・・
<感想>
香納氏による倒叙ミステリ。犯人による犯行の様子から始まり、それを女刑事の花房京子が暴き出してゆくという内容の作品。普通の警察もののような感触で読むことができて面白い作品。
ただ、ちょっと気になるところがあった。というのは、最初に犯人による犯行が繰り広げられるものの、そこで背景とかその他色々なものをさらけ出し過ぎているように感じられた。それにより、後半に隠す秘密がほとんどなかったような。そんなわけで、実は読んでいるときに、この作品は短編集で、最初の話は第1章で終わってしまうと思っていた。ゆえに、第1章で話が終わらずに、そのまま1冊の長編として続いてゆくことに、読んでる最中に驚かされてしまった。
そんな風に感じてしまったので、ちょっとこの内容で最後までひっぱるのはきつかったのではないかと。むしろ、短編作品くらいのネタでしかなかったような気が。一応、動機についての真相は隠されているものの、最後にそれがわかっても、そこまで意外という感じには思えなかった。
香納氏の作品ゆえに、しっかりとした内容にはなっているので、途中で飽きるとかそういったことはなかったものの、長編のネタであったのかなとは、感じずにはいられなかった。まぁ、何気にそのくらい倒叙小説というのは書くのが難しいというところなのか。
<内容>
元刑事で、今は私立探偵の鬼束のもとに刑事がやってきた。かつて鬼束が窃盗で逮捕したことのある牛沼という男が出所し、その後水死体で発見されたというのだ。持ち物のなかには鬼束の連絡先が。鬼束のもとには連絡はなく、連絡をとるまえに死んだとみられる。この件が気になった鬼束は、牛沼の生前の行動を追ってみることに。すると、彼の娘が行方不明になっており、彼女を探していた痕跡が見つかる。鬼束が牛沼の娘について調べていくと、彼女の同僚が自殺していることがわかり、とあるアダルトビデオ会社の存在が浮かび上がり・・・・・・
<感想>
本書の主人公は私立探偵・鬼束。この人物、同じくPHP研究所から出ている「熱愛」という作品にも出ていたようで、2回目の登場。既読ではあったのだが、あまり印象に残っておらず、忘れていた。ただ、この作品が続編というわけではなく、単独で楽しめるものとなっているので、「熱愛」のほうを読んでいなくても問題はない。
この作品に関しても、いつもながらの香納氏の作品らしく十分楽しめるものであった。最初は、前科のある男が死亡し、行方不明者探しという形で始まってゆくのだが、そこから徐々にある家族の家系に関する謎に迫ることになって行く。そして行方不明者を発見するも、この作品のタイトルにある“名もなき少女に墓碑銘を”という言葉の重みが徐々に感じられるようになって行き、新たな謎を鬼束が追っていくこととなる。
家系図の構成がやや複雑ではあったものの、把握しきれないところまではいかないので、存分に内容を堪能できた。失踪人探しのミステリが、“名もなき少女”の存在を調べてゆくという方向へ発展してゆくところが興味深かった。なかなかの秀作である。
<内容>
新宿歌舞伎町ゴールデン街に接する花園裏交番で勤務する坂下浩介巡査、27歳。ある夜、女二人が喧嘩をしている仲裁に入ることに。なんでもひとりの女が家の金庫にしまっていた一千万あまりの現金を盗まれたというのだ。その金を盗んだと思われる男の行方を探そうとするや否や、その男らしい死体が発見されたとの通報がなされる。いったい何が起きているのか? 事件を調べていくうちに、坂下はかつて高校野球の監督であり、突如失踪した後に暴力団員となっていた西沖の姿を見かけることとなり・・・・・・
<感想>
香納氏による交番巡査物語。というと、ライトなテイストの作品のように思われるかもしれないが、実際にはかなり濃い目の警察小説となっている。薄めのページのなかにこれでもかというほど濃い内容が盛り込まれている。
一応は3作の短編というような形式ではあるのだが、連作短編のような感じに読め、作品全体でひとつの物語とも感じ取れるようになっている。さらにはこの作品でのポイントとなる坂下巡査が昔から知っている西沖というヤクザや、2作目から登場する“ビッグ・ママ”こと深町しのぶ警部補など、それぞれの短編にまたがって出ている主要人物が多いので、これはもう一つの長編として意識付けしてもよいくらい。
この作品では3つの章で、それぞれの事件を取り扱っている。大金を盗まれた女と暴行を受けたサンタクロース衣裳を着た男の事件。祖父に会いに行こうとする少年を保護すると、その少年の関係者らが次々と事件に巻き込まれているのが発覚する騒動。破産しかけた会社の仲介にヤクザが乗り出し、その末に殺人までが起きてしまった事件。こうした一つ一つの事件を解決しつつ、最終的には坂下と西沖というヤクザとの関係にスポットが当てられるものとなっている。
読み終わって、ふと思い返すと、主人公の坂下自身が単独で真相究明をするというようなものではなく、警察捜査の歯車のひとつとして動いているのみに過ぎず、どこか傍観者的な印象さえ感じてしまう。結局は主人公自身の人生のわだかまりのひとつに蹴りがついたという感じのみであったような。一応は、そういったことを踏まえて、坂下巡査が交番に勤める警官として成長していく様子をうかがえる作品と言うことなのであろうか。
<内容>
「降らなきゃ晴れ」
「バーボン・ソーダ」
「石売り伊三郎」
<感想>
「無限遠」「蒼ざめた眠り」に登場したフリーカメラマン(現在は探偵も兼業)の辰巳翔一が再々登場となる作品。しかも“さすらいのキャンパー探偵”シリーズということで、文庫で3か月連続の刊行となる。香納氏の作品で、このように複数の作品にまたがって登場する主人公というのも珍しいような気が。
このシリーズ“さすらいのキャンパー探偵”ということで、なんとなく緩めのタイトルがついているが、中身はそれなりに濃い作品となっている。「降らなきゃ晴れ」は、富士山を取り続ける素人カメラマンの死について言及した内容。「バーボン・ソーダ」は、辰巳の過去にも関係がある、過去の有名アイドルのスキャンダルが再び浮上するという事件。「石売り伊三郎」は、石を売り歩いている男がトラックを盗まれ、それが相続事件にまで発展していくというもの。
中にはものすごく後味が悪い作品も含まれており、気楽に読める口当たりの良い作品というものには縁遠い。短めのページ数にも関わらず、中身は大人向けのハードボイルドという感触に近いような作品集。この主人公と同様に、夜更けに酒でも飲みながら、リラックスしたなかで読みふけるのがよさそうな作品。最近、香納氏は短編作品は書いていなかったように思われるので、昔の香納氏らしい短編作品を堪能できたという感じ。
<内容>
「深夜プラス1」
「TSUNAMI」
「水平線がきらっきらっ」
<感想>
“さすらいのキャンパー探偵”第2弾。ということなのだが、今作では、キャンパー探偵という特徴があまり行かされていなかったような。特に「深夜プラス1」と「水平線がきらっきらっ」は普通の私立探偵として活動していたように思われる。
今作もまた、バリバリのハードボイルド小説という感じの内容。能天気にさえ感じられる表題をよそに、どの作品も濃い人間関係が描かれた内容に仕立て上げられている。
3作を通して、過去の事件と現在を結ぶという共通項があったように思われる。特に「深夜プラス1」と「水平線がきらっきらっ」の二つは若者たちによる若気の過ちというものをテーマにしたような感じの内容。そのなかで特に「深夜プラス1」が濃密な内容に仕上がっており、今回の作品集のなかでは一番のでき。また、深刻ながらもどこか能天気に物語が描かれていたような「TSUNAMI」は、最後のオチも含めて面白かった。「水平線がきらっきらっ」は、最後の後味の悪さがなんとも言えない。ただ、この後味の悪さも、このシリーズで味わうことのできる醍醐味という気がする。
「深夜プラス1」 元ヤクザの息子にかけられた殺人の容疑。その息子が死亡したとはいえ、容疑をはらしてもらいたいという。その息子の昔の仲間たちと新人歌手にまつわる過去の醜聞。
「TSUNAMI」 トラック運転手の仲間の女性運転手に告白しようとしたさなか、相手の女性が震災で行方不明になっていた昔の恋人を見かけたという。その恋人の行方を追うと、とある詐欺事件の顛末に巻き込まれることとなり・・・・・・
「水平線がきらっきらっ」 元教師の男が娘が死亡した当時、付き合っていた男がいるらしいので調べてもらいたいと依頼を持ちかけられる。その依頼を調べてゆくと、過去に起きた事件が現在とつながることとなり・・・・・・
<内容>
「見知らぬ町で」
「夏の終わりのハーモニー」
「道中記」
<感想>
カメラマン兼“さすらいのキャンパー探偵”の辰巳翔一が活躍する作品集。第3弾となる今回もまた旅の途中で様々な事件と遭遇する。
相変わらずよくできた作品集である。どれもが100ページ程度の短編となっているのだが、その短いページの中に練りに練られたプロットが組み込まれている。どの作品も単純な内容に終わらず、最後の最後まで予断を許さない内容となっている。作品によっては、最後のどんでん返しで肩すかしを食らうものもあるのだが、それでもよくできていると思われる。複雑な人間模様をよくぞ描き切ったハードボイルド系短編集と感嘆せざるを得ない中味に仕上げられている。
一応、このシリーズは3か月連続刊行の3部作となっているようであるが、別にこの作品の最後で辰巳の旅が終わるというわけでは決してないので、ひょっとすると続編がでるかもしれない。まぁ、そのへんは売れ行きとか、著者のモチベーション次第となるのであろうが。もしくは辰巳がカメラマン以外の違う職業に付きながら探偵を兼業するという可能性も・・・・・・
「見知らぬ町で」 キャンピングカーを修理に出した町では、大型ショッピングセンターにまつわる諍いが絶えず、そこで起きた殺人もそれに関するものだと思っていたのだが・・・・・・
「夏の終わりのハーモニー」 ラジオ放送局から奪われた貴重なレコード。単なる強盗かと思いきや、容疑者は数多く・・・・・・
「道中記」 過去の有名作詞家にまつわる事件。その作詞家を語った男が金をだまし取るという事件が起き、辰巳は事件背景をさぐろうとするのだが・・・・・・
<内容>
コロナ禍の新宿、花園裏交番で働く坂下浩介と内藤章助は、ビルの上に巣を作り、人を襲うようになったカラスについて相談を受ける。現地で調査をすると、ビルのバルコニーで死体を発見することとなる。さらには、路上で起きた暴行事件、宅配の置き配を盗むもの、といった事件が起こり、警察官はコロナ禍で様々な事象が限定されたなかで捜査を進めなければならなかった。そんなときに、警察署のひとつがクラスター感染を起こしてしまい・・・・・・
<感想>
新宿花園裏交番シリーズの2冊目。前作では坂下巡査の活躍を描く作品という感じであったが、今作は群像小説っぽい内容となっている。坂下巡査も出てくるものの、今作ではあまり目立っていなかった。他の登場人物らの方が、キャラクターが栄えていたように思われる。
序盤、ちょっとだけしか出ていなかった丸山という左遷された刑事が、後半になるにつれてどんどんと存在感を示していった。また、コソ泥の二人組が良心にかられて、盗難行為を止めるべきかどうするか悩みつつも、厄介ごとに巻き込まれていくという顛末も面白かった。
と、色々な事象が語られていく中で、並列にそれぞれの物語が進められるという感じであった。ひとつの特徴としては、コロナ禍という舞台背景を用いて、そのコロナ禍によって人生を振り回されることとなった人々の様子を描いた作品とも言える内容。
全体的に面白かったのだが、ちょっと色々と盛り込みすぎていたという感じである。先に述べたように、キャラクターの栄えた登場人物がいくつか見られたわりには、スポットの当て具合が少なかったので、なんとももったいない。他にも坂下巡査や他の警察関連の人々、さらにはヤクザの引きこもりの息子や悩める看護師等々、悩み事を抱えた人たちが多数登場していたので、物語を分割して、いくつかの作品にわけてしまっても良かったと思えるほど。特に、坂下巡査が目立たずに、また交番そのものも目立たなかったことを考えると、シリーズとは別枠でも良かったのではないかと感じられた。
<内容>
1970年代の川崎。多摩川河口に溺死体があがった。遺体は元漁師であり、公害により漁ができなくなった漁業権の問題が絡んでいるのではと考えられる。所轄の車谷刑事が捜査に乗り出すが、単に漁業権の問題だけではなく、近隣住民たちの感情も踏まえた、複雑な問題が絡んでいるのを知ることとなり・・・・・・
<感想>
香納氏得意の警察小説。この作品は、時代背景を戦後の高度経済成長期にあたる1970年代を設定し、そして場所も川崎という土地に起き、その土地の特色のあるミステリとして仕立て上げている。
作品の中身については、これは普通の警察小説と言えよう。ただ、先に述べたように、時代と地域を特定のものとして設定することにより、その内容を特徴付けたものとしている。川崎という土地で起きた、海と漁業にまつわる問題。また、人種の問題なども含めて、ミステリを描いている。さらには、1970年代という携帯電話もない時代に、特徴的な警察活動の様子を用いて、捜査が進められてゆく。
かつての刑事ドラマや警察ドラマに見られるような、暴力的なものと、そして人情的な風味を合わせたようなものとして作り上げられている。古くから警察小説を読み続けているものとしては、どこか懐かしさを感じられるような作品とも言えよう。その古い時代の様相が、良いか悪いかは置いといて。
一応、シリーズ作品と位置付けているようなので、今後もこの作調の作品を読むことができるようである。現代的な警察小説が多い中で、あえて過去の年代を設定した警察小説というのも悪くないかもしれない。
<内容>
交番に駆け込んできた二十歳くらいの女性から、友人が消えたので、調べてほしいとうったえられる。彼女を介抱していた男に連れ去られたのではないかと。その話を伺っていたのは元警察官のOB相談員であり、うったえを軽く聞き流していた。しかし、同交番の巡査である坂下浩介は、事件性を感じて、単独で様相を探ろうとする。また、控えめであった山口主任も坂下と同様の事を考えていて、二人は独断で事件を追うことに。すると、違法ドラッグにまつわる背景が見え始め・・・・・・
<感想>
新宿花園裏交番シリーズ3作目。この作品から文庫オリジナルで出版。2か月後にはさらに、文庫版書下ろしでシリーズ第4作が出版されるとのこと。
前作では、肝心かなめの坂下巡査の存在感が薄かったように感じられたが、この作品は第1作に立ち返るような形で、また坂下巡査メインで語られる作品となっている。作中で、坂下巡査は三つの事件に遭遇する。ひとつは、交番に駆け込んできた女性が訴える失踪事件。ふたつめは、老人と三人の若者の小競り合いを坂下巡査が止めたことから始まる、とある“儀式”を巡る事件。そしてもうひとつは、一つ目の事件でとある処遇に追いやられた山口主任が関わる事件。
これら事件は、基本的には別々のものであるのだが(一つ目と三つ目は、かなり関わり合いがあるが)、作品全体としてひとつの流れで進むような感じでもあるので、ぶつ切りの短編作品という感じはしなかった。また、今までのシリーズ作品に出てきたキャラクターも結構からんでくるので、ひとつのシリーズの流れとして、全体を感じることができるようになっている。
本書では、事件を通して、坂下巡査の警官としての矜持を問いかけるようなものとなっている。一警官としてできること、そして組織のなかにおける立場、さらには自身の過去に関わったことのある人との関係性。これらを含めて、自身でどのように行動すべきなのか、そして事件収束後にどのような感情で警官として職務を遂行すべきなのかを問われることとなる。
ただ単に事件を解決してお終いというだけではなく、交番の巡査という視点を通しての、職務の在り方、組織というものを読みとれる作品となっている。この三作目にして、だいぶシリーズらしい作品という感じがしてきた。それぞれのキャラクターも、しっかりと魅力的に描かれているので、これは楽しめる作品である。続刊も楽しみであるが、せっかくのシリーズらしさが見えてきたものの、次で終わりということはないだろうな・・・・・・(次作は「旅立ち」)。
<内容>
交番勤務の坂下浩介巡査は、最近、刑事から左遷された根室と度々コンビを組まされることとなる。根室は刑事に返り咲こうと、色々な場所に首を突っ込み、手柄を立てようと画策し、坂下はその行動に振り回されていた。そして今回また、坂下が根室と共に巡回をしていたとき、暴力団の幹部が襲撃を受ける現場に出くわすこととなる。結局事件はその場で落ち着きはしたものの、その後暴力団同士の抗争が激化し始めることとなり・・・・・・
<感想>
この新宿花園裏交番シリーズも4作品目となり、この巻がシリーズの最終巻となるのであろう。ちなみにこの作品、4作品ですべて一つの流れとなっているので、読むときは1作品目から順番に読んでいってもらいたい。
今作品の大きな流れとしては、暴力団同士の抗争を描いたものとなっている。互いに手打ちをして、抗争を止めていくという流れはずが、互いに襲撃を受けることとなり、かえって抗争が激化していくというもの。その抗争に巻き込まれた形の坂下浩介巡査が、この抗争の裏に潜むものを見出し、事件解決の一端を担うこととなる。
起きる事件を通して、坂下巡査の成長を見守るのは、シリーズの始まりからの大きな目的のひとつとなっている。また、坂下が高校野球部時代に監督をしていたものの、現在はヤクザの一員となった西沖との関係も今作は焦点のひとつとなっていて、その過去が本作でようやく明らかになる。
4作を通して、多くの人物を登場させつつ、大きな物語を紡いでいったという感じ。暴力団の抗争とかを用いつつも、どこか人情味のある作品とも感じられてしまうのが不思議なところ。また、連作短編集のような形式をとりながらも、ちゃんと一つの道筋を追っていったような感じに書かれているのも見事と思えた。シリーズ全体として、良くできた作品であったと感じられた。
ちなみにシリーズとしては、これで最後ではあるが、またなんらかの違う形で坂下浩介が登場する作品が描かれる可能性はあるのではないかと期待している。