<内容>
東京地裁は、中国からAI裁判官<法神2>を提供され、その検証を命じられることになる。このAI裁判官は、裁判記録を入力すると裁判官の思考を再現して、必要文章を作成してくれるというもの。業務に忙殺される裁判官にとって、これは便利だと評判が高まって行く。それでも、新人裁判官の高円寺円は、一見便利に見えるこのAI裁判官にたいし、不信感をぬぐえなかった。そうしたなか、18歳少年が父親を刺殺するという事件が起き・・・・・・
<感想>
AIが現実の裁判に持ち込まれるかもしれない、というお題を取り上げた作品。今後、こういった内容のものが数多く書かれてゆきそうな予感がする。それだけ、AIというものが社会に浸透してきたということか。そういうわけで、社会的にタイムリーな作品だと言えよう。
普通のミステリ小説ではあるものの、AIのこれからを描くSF小説のようにも捉えられる。SFといっても、小難しいことが書かれているわけではなく、AIが近い将来、色々な分野に取り入れられそうということを予見するような内容となっている。本書では、多忙な裁判官の仕事を補佐するような機能について描かれており、こうしたものが実際に使われるようになっても、おかしくなさそうという風に思えてしまう。もしくは、我々が知らないだけで、実は既に色々な分野で、こうしたAIが取り入れられている可能性も十分にありそう。
そうしたAIの社会的進出というものについては興味深く読めたのだが、ミステリ的な中味については、いたって普通であったかなと。というか、中山氏の作品を読みなれている人であれば、だいたい結末が予想できるようなものである。
社会的にタイムリーな内容をわかりやすく描いて作品に取り入れていくところはさすがと言えよう。そして、ここに書かれているような事が現実に起きていたりしても不思議ではないというような内容になっていて、非常に興味深かった。“AIと司法”という組み合わせで描いた小説ということで、それなりの価値がある作品と言えるのではなかろうか。
<内容>
《掌編から短編ほぼ全部》
「オシフィエンチム駅へ」 「ふたり、いつまでも」 「『馬および他の動物』の冒険」 「二十八年目のマレット」
「被告人R365」 「最後の容疑者」 「ZQN再生」 「4/19その日、山崎岳海は」
「平和と希望と」 「死ぬか太るか」 「盆帰り」 「二百十日の風」
「リトルインディアの祝祭」 「好奇心の強いチェルシー」 「誰にも言えない犯罪の物語」 「アンゲリカのクリスマスローズ」
「屋上の戦場」 「残されたセンリツ」 「我が愛しきマンチカン」 「ポセイドンの罰」
《エッセイ・日常》
「時限爆弾から遺産へ」 「そうだ すずさんに会いにいこう」 「私とクラシック」
「老メディアは死なず、ただ消え去るのみ」 「転売ヤーよ、どこへいく」 「そのブームは本物か」 「言葉の重量」
《エッセイ・仕事》
「ムチャぶり光文社」 「能面と体面」 「ムチャぶり光文社ふたたび」 「赤面『人面島』」
「右も左も上も下も」 「自作解説は恥ずかしい」 「新人さん、いらっしゃい」 「シリーズ怖い」
「胡散臭いぞ、エクスキューズ」 「才能は悪魔の証明」 「AIなんて知るか、と作者は言った」
「続・原作とドラマの間には深くて暗い川がある」 「大阪は日本語の通じる外国」 「誤字は赤、誤植は青」
《解 説》
「ナナオ・アルジェントの世界」 「現代版『東海道中膝栗毛』」 「魔術師から法王へ」
「佐藤青南は戦略的である」 「赤川スクリューボール・サスペンス」 「憂鬱の下には希望が埋まっている。」
<感想>
中山七里氏は長編だけではなく、短編・ショートといった作品も数多く出しているのだなと実感させられる。それぞれひとつひとつでは、なかなか書籍化することはできないと思えるが、さすがにこれだけ溜まれば一冊の本にしてよい分量である。
10ページ以内の短めの作品ばかりかと思ったら、普通の短編作品の分量のものも含まれている。文庫で60ページとか、80ページを超えるものなどもあるので、何気に読み応えのある作品集となっている。若干シリーズに関連するものも交じっているが、基本的にはノン・シリーズ作品集と捉えてよさそうな感じである。
エッセイや解説は別として、普通に短編集として楽しめる本であるが、基本的にはファン向けの作品集となってしまうのであろうか。さすがにここから中山氏の作品に触れ始めるという人はいなさそうな気がするが。