<内容>
東北の牧場で牧場長と競馬評論家が殺され、サラブレッドの母子も撃たれた。背後に、競馬界を揺るがす陰謀が!?
<感想>
既読作品ではあるが「江戸川乱歩賞全集14」にて再読。
岡島二人のデビュー作でもあり、ある意味到達点ともなる一作であろう。デビュー作が到達点というのもおかしいかもしれないが、彼らは“江戸川乱歩賞”受賞を目指して五年くらいかけて作品を書き続けており、これが発表された段階ですでに何作かを応募している。そしてようやく本書において受賞したという経緯により“到達点”呼んでも間違いない。はっきりいえば、それほど“乱歩賞”というものを意識している一冊ともいえる。たぶん乱歩賞受賞作を研究してどのような作風で描けばよいかなどということを考え尽くして書いた作品ではないだろうか。
本書を読んでみて一番感じることは、非常に読みやすいということである。これはすでに落選作を含めて何作も書き続けており、その結果デビュー作にしてこの域にまで達してしまったということがいえるのであろう。また、内容もよく練ってあると思う。複数の事件が起きて、それらが絡み合い、次第に糸がほぐれていくように謎が明らかになっていく。このへんの書き方というのも見事なものである。
まさに、ミステリーを知り、競馬を調べ抜き、乱歩賞を研究した成果というものがひとつの結晶となりこの一冊に詰まっているというものができあがっている。
<内容>
中央競馬会保安課員の八坂心太郎は、中央競馬会理事である義父から、今起きている脅迫事件について調査してもらいたいと依頼される。その脅迫とは、競馬のレースで八百長を指示するものであり、従わなければ伝貧(馬伝染性貧血)ウイルスを馬に感染させるというのである。実際に脅迫状の通り、競走馬からウイルスが見つかり、現場は対応に追われているとのこと。何者が、何の目的で、このようなことを行なっているのか? 八坂が調べ始めると、7年前にも伝貧ウイルスに関する事件が起きていたことを知り・・・・・・
<感想>
岡嶋二人氏の2作目の作品を久々に再読。すごく良くできた作品だと思う。文庫で320ページという少ないページ数の中に濃密と言えるほどの事件に関わる要素を詰め込み、しっかりとミステリを描き切っているのだから大したもの。まさにミステリ作品のお手本とも言えるような内容。
主人公は妻を亡くして、男やもめで幼い娘を育てている。そんな主人公は義母から見合いを強要され、その見合い相手が事件を調査するうえでのライバル関係になるという配役までもが心憎い。このへんもエンターテイメントの基本を押さえているという感じ。
また、調査する事件自体も、競馬会に対しての脅迫状、馬に対する伝貧ウイルス、馬にかけられる保険金、そして過去にも起きた感染騒動と解決していない殺人事件。こうした現在と過去の事件を調べながら、それらにまつわる謎を解き明かしていくという展開がなされている。
唯一気になる点は、全体的に地味すぎるところ。せっかく競馬会をゆるがすような脅迫事件を描いているのだから、もっと世間をゆるがすような事件に発展させていってもよかったように思われる。主人公による調査のみで終わってしまっているところが残念だったような気が。
<内容>
元競馬記者であった朝倉は、鞍峰開発が管理する牧場の管理係として引き抜かれ、競走馬を育てる手伝いをしていた。その牧場に社長の鞍峰ら4人が3億2千万円で共同出資して購入した競走馬セシアが運ばれてくることになった。しかし、牧場内での移送中、車の急ブレーキによりセシアは骨折をしてしまうことに。多大な賠償金を払うことになれば、牧場の存続も危うくなると考え、牧場関係者総出で競走馬が誘拐されらと狂言を行うこととなり・・・・・・
<感想>
昔読んだ本の再読。この作品は岡嶋二人氏が乱歩賞を受賞する以前に、乱歩賞に送り、候補作まで残ったものである。それに手を加えて出版したものであり、実質デビュー作といっても過言ではない作品。
岡嶋氏といえば、誘拐ものを書く作家として有名であったりするのだが、この作品ではなんと馬の誘拐を扱ったものとなっている。ただし、主人公らが馬の誘拐を計画して実行するというようなものではなく、牧場関係者らが狂言誘拐を謀るものとなっている。
こうしたテーマ自体が珍しく、それだけでも興味を惹かれる内容となっている。しかもそれだけにとどまらず、主人公らの狂言誘拐とは別に何者かがその誘拐に便乗するかの如く、主人公らのあずかり知らぬところで馬の身代金を要求してくるのである。
誘拐事件において一番難しいとされるのが身代金の引き渡しである。これを本書では前代未聞の方法で成し遂げようとするのである(あとがきにて著者曰く、実際にはさほど珍しいトリックでもないと)。
この作品を読んでいる最中、競走馬自体は出てくるが、競馬にはあまり関係のなさそうな話となっているな、と思っていたのだが、最後まで読んでいけば、実は競馬のシステムに深く関わり合いのある内容が待ち受けることとなっている。ただし、あくまでもこの作品の内容は、作品を構想した当時のシステムであるということは、あとがきにも付け加えられていた。
馬の誘拐をテーマとしたのみならず、殺人事件が起きないミステリ作品を描いたものとなっているところも本書の注目すべき点。今の時代に読み返しても、構想自体にどこか目新しいものを感じ取れてしまう作品であった。
<内容>
ボクシングジムの元チャンピオン最上永吉の息子である赤ん坊がさらわれた。誘拐犯の要求は2日後に行われる、同ジムの後輩で義弟の琴川三郎のタイトルマッチで、対戦相手にノックアウトで勝て、というもの。タイトルマッチまでの期間はあとわずか。そんな中、琴川が拳を怪我してしまい・・・・・・
<感想>
岡嶋二人氏の4作品目の再読。岡嶋氏には“ひとさらいの岡嶋”という異名が付いているのだが、最初の4作品のうちで2作で人さらい(1つは馬であったが)をしていれば、そう呼ばれるのも納得。ちなみに、その後の作品でも当然のこと、色々な誘拐ものを書いている。
今作は内容が面白い。赤ん坊をさらった犯人からの要求が、“ボクシングのタイトルマッチにノックアウトで勝て”という途方もないもの。八百長で負けろというのなら、ありそうな話であるが、ノックアウトで勝てとは、どういうことなのか。その要求を受けたうえで、さらわれた子供を心配しつつも、右往左往しながらタイトルマッチの準備を進め、そして試合に臨むこととなる。この辺のストーリー展開が面白く、一気に読み進めることとなってしまった。
一方で、警察は五里霧中のなかで捜査を進めてゆくくととなる。被害者に恨みを持っているものを中心に捜査をしていくうちに、犯人らしきものを特定することとなる。その容疑者と接触しようとするものの、行方がわからず、警察側はその男の身柄の確保に邁進することとなる。
実はこの警察の捜査、読み終えてから、よくよく考えてみると、ほぼ見当違いの方向を指し示すものであり、妙な偶然が重なったことによっていかにもそれらしく見えるというものであった。ただ、読み進めているうちは、当然のことながらそんなことに気が付くはずもなく、犯人探しも含めて夢中になって読み進めていくこととなって行った。
読み終えて、落ち着いて考えてみれば、犯人についてとか、その他もろもろ設定について甘い部分が多々あったのではないかと。それでも一つの小説として読み進める分には格段に面白かった。時間制限が存在する故に、読んでいるほうも焦りながら夢中に読み進めていかざるを得ないという効果があったのかもしれない。
<内容>
再現ドラマの制作を行う“剣プロダクション”で働く織田貞夫と土佐美郷。二人は上から読んでも下から読んでも変わらない、“山本山コンビ”と呼ばれている(というより、美郷が言いふらしている)。そんな二人が関わる事件で疑問に思ったことを調べて行き、次から次へと真相を解明してゆく。
増補版では今まで未収録であった「はい、チーズ!」を収めている。
「三度目ならばABC」
「電話だけが知っている」
「三人の夫を持つ亜矢子」
「七人の容疑者」
「十番館の殺人」
「プールの底に花一輪」
「はい、チーズ!」
<感想>
増補版が出たのをきっかけに久々に岡嶋二人の作品に触れてみることにした。なんか懐かしさが感じられ、これぞ一昔前のベーシックなミステリ! というものを味わうことができた。
読んでみると、表現は変であるかもしれないが、大人のライトノベルスとでも言いたくなるようなとっつきやすさ。ミステリとしてのネタやトリックも凝っていながらも、どの短編作品も導入や展開はお約束となっており、読みやすさのめり込みやすさは抜群である。
今の時代に読んでみると、部外者が事件にここまで入り込めるものかとリアリティに欠ける部分が目についたり、前半の作品に比べれば後半はややトリックなどが息切れしてきたようにも感じられる。とはいえ、十分に読み応えがあるのは確か。どの作品も殺人事件や誘拐事件といった重いものを扱っているにもかかわらず、今でいう日常の謎系の作品のように読めてしまえるところがすごいところ。
これを読むと他の岡嶋氏の作品も読み返してみたいと思ってしまう。また、ミステリ初心者にはやっぱり岡嶋二人を薦めたくなるとあらためて感じさせられた。
<内容>
作家の近内泰洋は妻から息子の省吾が最近学校を休み続けていることを知らされる。息子に問いただしても、とりつくしまもなく反抗して家を飛び出していく。そんな省吾の体があざだらけであったことが気にかかった。また、新聞により最近省吾と同じクラスの子が死亡していることを知ることに。慌てて泰洋が省吾の通う中学校を訪ねてみると、最近省吾以外の学生も学校を休んだりと同じような状況にあり、おかしな状況が続いていると。学校では“チョコレートゲーム”と呼ばれている何かが横行しているようであり・・・・・・
<感想>
懐かしい本を再読。岡嶋二人氏の代表作のひとつ。講談社文庫版の表紙がおもいっきりネタバレになっていると話題になっていたのが懐かしい。
本書において何がネタバレになるのかといえば、作中の中学生たちが行なっている“チョコレートゲーム”とは何か? ということについて。ネタが明かされたとしても、決してそれだけの小説ではないので、楽しめないと言うことはないのだが、知らないほうがより楽しめるであろう。私は、今回再読ゆえに、当然のごとくそれを知りながら読むこととなったのだが、それでもそこここに張られた伏線を感じながら読むことができて楽しむことができた。
この作品、圧倒的と言っても良いようなノンストップ・サスペンス・ミステリとなっている。一気読み必至の作品である。中学生が事件の中心となっている割には、血生臭い内容となっており、殺人事件が次々と起こっている。ただ、そんな作品であっても、どこかリアリティを感じてしまい、決して本のなかの出来事だけに収まらない気がしてしまうところは大きな特徴と言えよう。何気に社会派ミステリとしても大きな意味を持った作品と捉えられる。
<内容>
相性診断によって男女を引き合わせるコンピュータ結婚相談所。オペレータの夏村絵里子は、恋人の名前を登録者リストに見つけて愕然とする。「何かがおかしい」彼のデータを見直し、不審を抱いた絵里子を、正体不明の悪意が捕らえる。相次いで身辺で起きる殺人事件は、増殖する恐怖の始まりでしかなかった!
<感想>
この本を2001年に講談社文庫版で読んだのだが、その記述にモデムが高価で簡単に接続できないというような記述があった。よくよく考えれば、この本は15年も前に出版された本。その内容が今でも色あせていないのは驚きだ。それどころか、15年前であれば、この内容は一般的には指示されなかったのでは? などとも考えてしまう。そのくらい岡嶋二人(もしくは井上氏か?)がコンピュータにおける先端を行っていたのだなぁとほとほと感心させられてしまう。
<内容>
4人の男女は地下シェルターに閉じ込められた。以前、彼らが咲子を含めた5人で彼女の別荘へと行った際、そこで諍いが起き、その後咲子が崖から転落死をするという事故が起きていた。その咲子の母親によって別々に4人は呼び出され、シェルターに閉じ込められることとなった。どうやら、咲子は事故死ではなく殺害されたという疑いがあると。それならば4人のうちの誰がどのようにして!? 閉じ込められた4人は閉ざされたシェルターから脱出を図りつつ、事件当時のことを思い起こし・・・・・・
<感想>
新装版が出たので、久々に再読。この作品、今までほぼ再読した覚えがないような気がするのだが、それでも話のポイントとなる部分は記憶に残っていたので、それだけインパクトの強い作品といえるであろう。
シェルターに閉じ込められた4人が、ひとりの女性の死を巡って、検証しなおすという話。今までは事故だと思っていたものが、実は閉じ込められている4人のうちの誰かが直接死に関わっているのではないかという疑いの元による再検討。
序盤は話し合いよりも、4人の諍いとか、閉ざされた場所からの脱出、というようなパートが多く、ちょっとミステリ的なものからは遠ざかっていたような。しかし、後半へと行くにつれて、当時の状況も徐々に整理され、より具体的な話し合いがなされることとなる。そこから、互いの様々な思惑によりとった行動が事態をより複雑化させたことがわかってくることに。そして、真相は・・・・・・
というような感じで進められてゆく話。全体的に非常にうまくできている作品だと思われる。本格ミステリというような感じではないものの、タイムリミット・サスペンスのようなものを匂わせた、極限におかれた状況のなかでの繰り広げられる心理的サスペンスという感じで非常に読み応えのある作品であった。
<内容>
「記録された殺人」
「こっちむいてエンジェル」
「眠ってサヨラナ」
「バッド・チューニング」
「遅れて来た年賀状」
「迷い道」
「密室の抜け穴」
「アウト・フォーカス」
「ダブル・プロット」
<感想>
短編集「記録された殺人」に未収録短編3作品を加えたもの。読んでいるとき、未収録作品がどれか確かめないまま読んでいた。タイトルとなっている「ダブル・プロット」は当然未収録の作品であろうと予想される。その他はどうかというと、読んでいてあまり面白くなかった2編の作品が未収録のものであった。そんなわけで、わざわざこの「ダブル・プロット」を買わなくとも「記録された殺人」があれば、それで十分と感じられた。
といいつつも、「記録された殺人」の内容はすでに忘れていたので、新鮮に読むことができた。ここに掲載されてい作品のどれもが普通のミステリなのだが、それにちょっとした変化球を加えて、うまい具合に一味付け足されたミステリ作品に昇華している。こういったところが岡嶋二人ならではの絶妙さといえるのであろう。
コマ送りの写真に犯行状況が記録されている「記録された殺人」
ミュージシャンが巻き込まれた交通事故の裏に潜む事件の謎を描いた「バッド・チューニング」
会社の上司から心当たりのない叱責をされ、身の潔白を暴く「遅れてきた年賀状」
死体遺棄の手伝いをすることとなった悩めるサラリーマンの心情を描く「迷い道」
外部から入ることのできないビルの中で起こった殺人事件の謎を解く「密室の抜け穴」
会社の消えた備品が殺人事件に結びついて行く「アウト・フォーカス」
これらそれぞれが手軽に読むことができ、ライトに楽しめる内容となっている。