大倉崇裕  作品別 内容・感想2

GEEKSTER   秋葉原署捜査一係 九重祐子   6点

2016年01月 角川書店 単行本
2018年02月 角川書店 角川文庫

<内容>
 秋葉原警察署に赴任してきた九重祐子は念願の刑事課に着任するも、ひとり現場から外され、署を訪れるオタクたちの苦情応対をさせられるはめに。そうしたなか、彼女に相談に来たオタクのひとりが殺害されるという事件が起きる。祐子は独自に捜査を進めていくと、秋葉原にて悪事を働く者に鉄槌を下す“ギークスター”と名乗る男と出会い・・・・・・

<感想>
 以前、大倉氏が描いた作品「無法地帯」に近いテイストで読める作品。要はオタクらが蒐集する食玩などにスポットを当てた作品となっている。ただ、「無法地帯」ほどコレクションに重きをおいた作品ではなく、こちらはアクションとかバトルの色合いが濃いものとなっている。本来警察小説といってもよい設定のはずであるが、何故か格闘小説のようなテイストで読める。

 面白い作品ではあったが、ページ数が薄いせいか、全体的にあっさり目でちょっと物足りなさを感じてしまった。ただ、短めの作品ゆえに手軽に手に取ることができ、スピーディーに一気読みできる作品である。


秋 霧   6点

2017年07月 祥伝社 単行本
2020年07月 祥伝社 祥伝社文庫

<内容>
 町で便利屋を営む倉持は、死期が迫って病院に寝たきりとなっている有名会社の元社長からの依頼を受けることに。それは、八ヶ岳の登山動画を撮ってきてもらいたいというもの。どこか不審なものを感じつつも、簡単で実入りの良い依頼を引き受ける倉持。しかし、その仕事によって生死をかける陰謀に巻き込まれることとなる。
 かつて自衛隊特殊部隊に所属し、現在は山で逃亡生活を送っている深江。彼の前に警視庁からきたという儀藤という男が表れる。今、神出鬼没の殺し屋“霧”と呼ばれるものが動き出し、特定の人々が殺害されているという。儀藤は深江に“霧”の動向を探り、そして奴が目的を果たす前に倒してほしいと・・・・・・

<感想>
 大倉氏の作品の「凍雨」に登場した元自衛隊特殊部隊員の深江、「夏雷」に登場した便利屋の倉持の二人が主人公となって展開される物語。

 深江は“霧”と呼ばれる殺し屋を探す途中、別の勢力に襲われることとなり、三つ巴の戦いが繰り広げられることとなる。その戦いに便利屋の倉持が巻き込まれていくという形で話が進んでゆく。“霧”と呼ばれる殺し屋を探す中で、事件の背景や中心となる出来事はどこにあったのかを探してゆくこととなるサスペンス小説。

 なかなか面白い作品であり、一気読みは必至。ただ読んでいる最中気になったのは便利屋・倉持の存在。ここで起こる事件や展開はかなり血なまぐさいものが多く、これらはどう見ても深江が担当するべき事案であり、倉持が相対するような事件ではなさそうということ。この二人にコンビを組ませて物語を展開させたいという意図はわかるものの、どうにもほぼ一般人のような倉持の存在が浮いてしまっていたように思われる。もうちょっとソフトな事件じゃなければ倉持の特性が活かせないような気がする・・・・・・と、そのくらい事件自体が血なまぐさすぎる。


樹海警察   6点

2017年10月 角川春樹事務所 ハルキ文庫

<内容>
 キャリアとして将来を嘱望されるはずの柿崎努が初認地として向かった先は、山梨県警吉田署のはずが・・・・・・彼の所属先はその署の樹海で見つかった遺体専門の部署・地域課特別室であったのだ! とんでもない僻地にて、癖のある部下と仕事することとなった柿崎努の運命は!?

 「栗柄慶太の暴走」
 「桃園春奈の焦躁」
 「明日野裕一郎の執念」

<感想>
 キャリア警察官の若手・柿崎は、とんでもない僻地、それも樹海の遺体専門部署に配置されてしまう。しかも部下は、やり手ではあるが癖のある栗柄、定時帰宅を心がける美人警官・桃園、事務方で情報通ながら何を考えているかわからない明日野。最初は、ただ翻弄されるだけのキャリア警官としか見なされなかった柿崎が、徐々に現場に適応していくところは見物。部下3人のみならず、実は主人公である柿崎も一癖ある人物であったよう。

 コミカルな刑事もののサスペンスということで面白い。それぞれの事件を通しながら、地域課特別室の面々がそれぞれ抱える問題が紹介されてゆき、各々の人物像に迫るように展開されてゆく。ゆえに、キャラクターもそれぞれしっかりと栄えていて、非常にわかりやすい小説となっている。

 読み通して思ったのは、やけにヤクザがらみの事件が多いというか、ほとんどがヤクザがらみの事件に終始してしまっていること。樹海と暴力団と何気に密接な関係があるのだろうか? また、少々不満に思えたのは、“樹海”の薀蓄等が少なかったこと。せっかく舞台としたのだから、もう少し詳しく樹海情報が欲しかったところ。


福家警部補の考察   6点

2018年05月 東京創元社 創元クライム・クラブ

<内容>
 「是枝哲の敗北」
 「上品な魔女」
 「安息の場所」
 「東京駅発6時00分 のぞみ1号博多行き」

<感想>
 シリーズもののライトなミステリとしては楽しめる作品。ただ、ライトな感触ゆえに、ちょっと不満に思える部分もちらほら。

 このシリーズは、言わずと知れた倒叙ミステリ作品集である。その倒叙ミステリの見どころと言えば、何故に犯人だと目星をつけたのか? そして逮捕のきっかけとなる証拠は? といったところ。

 完全犯罪を目論むことを考えると、まずなるべく容疑者として警察からマークされないようにするということが重要であると思われる。ただし、殺害相手が家族とか、親しい相手であれば、おのずと関係者ということになってしまう。そうでなければ、犯罪者側はなるべく事件とは関わりのないというスタンスを貫くはず。そこから真犯人が如何にして容疑者として挙げられるのかは重要であると思われる。本書の作品のなかでいえば、「東京発〜」がそこのところの描き方が微妙であったかなと。

 そして、犯人逮捕のきっかけになるポイントというものは一番重要な点であることは間違いなかろう。ここはなるべく、つまらない罠に引っかかったとか、そういう展開はなしに進めてもらいたいところ。これについては「是枝哲の敗北」での犯人の捕まり方が非常にお粗末だったような・・・・・・自信満々の犯人の挙動がもはやパロディに思われるほど。

 と、いくつか作品に不満な点があったことは事実。ただ、この辺はもう少し作品を書き込めば十分にクリアできたと思える部分もあったゆえに、作品のそれぞれが短めであったのがネックになっているような気がしてならない。と言いつつも、短いスパンでシリーズものとしてある程度の水準の作品を書き上げてくれているのだから、不満な点ばかり上げるのも野暮といたところか。


「是枝哲の敗北」 不倫相手を殺害しようと完全犯罪を試みる医師。
「上品な魔女」 保険金目当てに妻を殺害しようとした夫であったが・・・・・・
「安息の場所」 バーテンダーが試みる完全犯罪の顛末。
「東京駅発6時00分 のぞみ1号博多行き」 証券マンが計画殺人を実行した後に乗った新幹線の隣の席に福家警部補が・・・・・・


死神さん   6点

2018年09月 幻冬舎 単行本(「死神刑事」)
2021年03月 幻冬舎 幻冬舎文庫(改題:「死神さん」)

<内容>
 「死神の目」
 「死神の手」
 「死神の顔」
 「死神の背中」

<感想>
 タイトルだけを見ると、よくわからない作品のように思えるが、中身はいたって普通の警察小説。無罪判決が出た事件を専門に調査する儀藤堅忍(ぎどう けんにん)警部補の捜査の様子を描いたもの。この警部補、無罪判決が出たとはいえ、すでに終わった事件のあら捜しをするゆえに警察関係者からは“死神”と呼ばれている。そして、その警部補は捜査するときに、その事件の捜査関係者のひとりをピックアップして、自分の相棒にするという手法をとっている。本書では4つの事件が掲載されているのだが、事件ごとに警部補は相棒を変えての捜査を行うこととなるのである。

 前段のポイントはそんなとこくらいで、あとはいたって普通の警察ミステリという感じである。話がそれぞれうまくできているのは、著者の大倉氏の作品らしく、さすがと言えよう。ただ、無罪判決が出ている事件それぞれの逮捕の決め手に至った経緯が、やや薄く感じられるのが気になるところ。一応、それぞれ自白をとっているとはいえ、ちょっと微妙なような。

 あと、もうひとつ本書の特徴としては、儀藤警部補と組む警察官たちの再生の物語にもなっているというところ。一作目の「死神の目」で組んだ相手のみは普通の捜査員であったが、2作目以降からはそれぞれが問題を抱える警察官とコンビが組まれている。“死神”とコンビを組まされる者は、最初は嫌々ながらであるものの、徐々にその捜査の手法と流れに惹きつけられてゆくこととなり、そして最後にそれぞれが再生を果たすように描かれている。そういった物語についても見るべきところがある作品集となっている。

 全体的に軽口な警察ミステリという感じではあるが、取っつきやすく非常に読みやすい作品である。今後シリーズ化される可能性もありそうな作品!?


「死神の目」 引退した資産家が甥に殺されたとみなされた事件、甥に無罪判決が下る。生前に被害者がおろした500万の行方は・・・・・・
「死神の手」 妻が夫をひき逃げしたとみられた事件、その真相は・・・・・・
「死神の顔」 電車の中での痴漢の容疑者にかけられた罪が冤罪とされた事件、その痴漢事件の真相は・・・・・・
「死神の背中」 誘拐身代金強奪事件の容疑者が無罪に・・・・・・真犯人は、どのようにして内部情報を入手したのか!?


冬 華   5.5点

2021年04月 祥伝社 単行本
2024年02月 祥伝社 祥伝社文庫

<内容>
 月島の便利屋・倉持。彼は、以前に起きた事件で出会った深江を誘い、コンビで便利屋家業を行っていた。そんなある日、突如、深江が行方をくらませた。深江は元特殊部隊員であり、色々と曰くがある男。彼は何のために姿を消さなければならなかったのか? 深江の行方を突き止めようと、倉持は捜索を始める。
 山に一人で住む老齢の猟師・植草。彼の元に熊本と名乗る男がやってくる。彼が言うのは、とある男を撃ってもらいたいと・・・・・・

<感想>
 大倉氏による山岳ミステリシリーズ。以前の別の山岳ミステリ系の作品に登場している人物も多々登場してきている。

 今作に関してなのだが、とにかく“無理やり”という感じが強かった。最初に山中で狙撃手同士の対決を描きたいという考えがありつつ、後からそこに肉付けしていったというような感じ。その狙撃手についてなのだが、普通に猟師として暮らす者に対して、人を殺してくれという依頼をすることがどうなのかと思ってしまう。しかも、その依頼人は色々とプロの殺し屋を抱えていながら、わざわざ山に棲む猟師を連れてくる必要があったのかと思わずにはいられなかった。

 物語としても、山に入って戦闘が行われるまでは、ただ単に間延びした展開が続けられるだけという感じ。一応は、大倉氏描く作品ゆえに、読みやすく、それなりに楽しめる部分もあったのだが、全体的にさほど読みごたえはなかったかなと。今まで大倉氏の山岳ミステリシリーズを続けて読み続けてきたものの、本書を読むと、もうこのシリーズも追わなくていいかなと感じられてしまった。


樹海警察2   5.5点

2022年03月 角川春樹事務所 ハルキ文庫

<内容>
 山梨県の樹海で活動をする地域課特別室で働く柿崎努。明らかに左遷された柿崎であるが、そのことを認めようとせず、今日も部下の栗柄と桃園にいじられながら、融通の利かない真面目さで仕事にいそしむ。そうしたなか、樹海で発見された遺体が、柿崎らに災難を巻き起こすことに。大物議員の息子が殺人事件の容疑者となり、上層部はそれをもみ消そうと殺人ではなく事故として事態を収束しようとする。しかし、柿崎らは上層部からの圧力をよそに、事件の捜査を進めてゆき・・・・・・

<感想>
 時系列として前作から続いているところがあるので、前作の「樹海警察」から読んだほうが面白いかもしれない。私は前作から読んでいるものの、それでも4年以上の月日が経っているので、前作の内容についてはギリギリ部分的に覚えていたという程度。今作は、一応3編の短編形式ではあるが、話が流れとして続いているので、連作短編のような感じのものとなっている。

 面白いかどうかは微妙のような。一応主人公である、左遷されたキャリア警察官・柿崎の人物造形がちょっと微妙。作品を読み続けていても、どこに優秀さがあるのかが、伝わってこないところがなんとも微妙なところである。

 また、彼を取り巻く同じ地域課特別室の面々との掛け合いについても、微妙と感じてしまう。話をさえぎって、チャチャを入れる栗柄との会話には、どうしてもストレスを感じてしまう。むしろこの作品集のなかでは、栗柄と桃園が登場しない第2話のほうが読みやすかったくらい。柿崎と対立するような位置関係である土佐刑事とのコンビの方がむしろしっくりいっていたような。

 面白く読める作品ではあるけれども、特に突出した部分もなく、やや物足りないシリーズという感が強い印象。


死神さん 嫌われる刑事   6点

2022年07月 幻冬舎 幻冬舎文庫

<内容>
 無罪判決が出た事件の再捜査、それは警察の誤認逮捕を示すものであり、警察にとっては不名誉な事。故にそれを行う者は、全警察官から信頼を失い、つま弾きにされることになる。その役割を担う儀藤堅忍警部補、通称死神。彼が再捜査を行うときには、その事件に関わった者を必ずパートナーに選び・・・・・・

 「死神 対 天使」
 「死神 対 亡霊」
 「死神 対 英雄」
 「死神 対 死神」

<感想>
 無罪判決を再捜査する刑事、“死神”と呼ばれる儀藤堅忍警部補が活躍するシリーズの第2弾。シリーズ化されそうな感じの内容と思えたが、やはりシリーズ化されたか。シリーズ化されることはいいのだが、タイトルが、前作はただの「死神さん」で今作が「死神さん 嫌われる刑事」というのはややわかりにくい。ちなみに今作は文庫書下ろし。

 大倉氏の刑事ものの作品と言えば、“福家警部補”シリーズが有名なところであり、本書もそれに通じるところがある。ただ、このシリーズに関してはミステリ的な部分を強調するというよりは、人情物語的なところを強調した作品という感じである。

 今作で死神のパートナーとなるのは、猛烈すぎる仕事ぶりで嫌われる鑑識員、一線から外された窃盗犯係の刑事、交通課を退職しスーパーの店員として働く元警官、警視庁副総監。事件を解決することのみならず、これらのパートナーの再生も行われることとなるのはこれも前作同様。そして最後に儀藤堅忍警部補は独り立ち去って行くのみ。

 普通にライト系の警察小説として楽しむことができる作品集。手軽に楽しめて、あっという間に読み干すことができる。今後もシリーズものとして続いて行きそう。


「死神 対 天使」 看護師が患者を殺したとされる事件。後に看護師は優秀な弁護士を雇い、無罪と認定され・・・・・・
「死神 対 亡霊」 厳重な警備システムに守られた家で資産家が殺害された事件。逮捕されたのは腕のいい窃盗犯であったのだが・・・・・・
「死神 対 英雄」 スーパーで優秀な店長が殺害された事件。前科者の二人組が逮捕されたのだが・・・・・・
「死神 対 死神」 あと24時間で死刑が執行される死刑囚の無罪を証明するため、真犯人を捕まえなければならなくなり・・・・・・


殲滅特区の静寂 警視庁怪獣捜査官   6点

2023年01月 二見書房 単行本(「殲滅特区の静寂 警視庁怪獣捜査官」)
2024年10月 二見書房 二見文庫(「殲滅特区の静寂 怪獣殺人捜査)

<内容>
 世界で頻発する怪獣の出現に対抗すべく日本で立ち上げられた“怪獣省”。そこでは発見・予報・殲滅という3つに分けた撃退プロセスを確立し、これにより怪獣省は見事怪獣の殲滅を成し遂げ続けている。その怪獣省の予報官である岩戸正美は怪獣が現れ混乱を来す中で起きた不審な死亡事件の捜査を担当することに。その現場には、警察庁特別捜査官の船村が現れ、岩戸は船戸とコンビを組み、数々の難事件に挑むこととなり・・・・・・

 「風車は止まらなかった」
 「殲滅特区の静寂」
 「工じん湖殺人事件」

 「怪獣チェイサー」

<感想>
 怪獣と人類が戦う様相を描いた作品・・・・・・ではなく、怪獣との戦闘後もしくは戦闘中に起きた殺人事件などのいざこざを解決してゆくという内容の作品集。

 一応、怪獣の生態や人間との戦い、そしてその背景などはしっかりと書きこまれている。ただ、それが焦点ではなく、あくまでも背景であり、そうした世界観のなかにおいてミステリを展開していくというもの。ミステリでありつつも、作品群を読んでいくと、キャラクター小説というような趣きもある。怪獣省予報官の岩戸と特別捜査官の船村のコンビが良い味を出しつつ、難事件を解き明かしていく。

 エンターテイメント小説として面白かったかなと。ミステリというよりは、スパイ小説風の謀略冒険小説のような印象の方が強かった。また、怪獣に関する部分は背景と言いつつも、それはそれでしっかりと凝ったものとなっているので、怪獣ファンに対しても読みごたえのある作品となっていると思われる。


「風車は止まらなかった」 怪獣の進路の予想が外れ、死亡者が1名出てしまう。責任を感じる岩戸に対し、この出来事に不審なものを感じると捜査官の船村が現れ・・・・・・
「殲滅特区の静寂」 怪獣の殲滅時、一瞬その怪獣が不可解な動きをした。怪獣殲滅後、岩戸はその不審な動きについて調べると、そのとき銃声が発せられたことがわかり・・・・・・
「工じん湖殺人事件」 工じん湖付近で不可解な失踪事件が相次いでいた。怪獣の存在とは全く関わりなさそうであるのだが、何故か岩戸が調査に赴くこととなり・・・・・・

「怪獣チェイサー」 違法ながら怪獣に接近し写真を撮ろうとする“怪獣チェイサー”と呼ばれるものの一人と、岩戸との邂逅。


一日署長   6点

2023年06月 光文社 単行本
2025年12月 光文社 光文社文庫

<内容>
 警察学校を卒業した五十嵐いずみは、なぜか史料編纂室に配属され、定年する先輩から業務を引き継ぎ、ただひとりパソコンに過去のデータを入力し続けることとなる。入力するパソコンは“ポルタ”と名付けられた古いパソコンであり、ときおり不気味な音をたてている。ある日、過去の事件のデータを入力していると、ポルタから光が発せられ、五十嵐いずみは、過去の世界に転送され、当時の署長の体に憑依し、事件を目の当たりにすることとなり・・・・・・

<感想>
 なんとタイムスリップして、過去の警察署長の体を乗っ取り、捜査を行うという奇想天外なミステリ小説。“一日署長”のタイトル通り、タイムリミットは24時間、その間に、署長の権限を利用して、難事件の捜査を行うというもの。

 勧善懲悪ものという感じで面白かった。本作では、1968年〜2022年の間の、5つの時代に遡り、それぞれの時代の事件を解決してゆくこととなる。迷宮入りというか、不可解な事件解決の形がとられていた事件が、タイムスリップにより、すっきりとした事件解決がなされて時間改変がなされ、めでたしめでたしで終わるというもの。

 それぞれの事件内容も面白いが、各時代における警察署長の人となりが千差万別で楽しめる。いままで、鼻つまみ者であった署長や、無気力の署長、そういった者達が、突如人が変わったかのように事件捜査を始めることにより、周囲がかき回されていく様子が見ていて楽しかった。

 さらっと読めて、内容もしっかりと楽しめる作品集。“一日署長”という特殊設定が、見事にはまったユーモア警察小説となっている。


樹海警察3   6.5点

2026年01月 角川春樹事務所 ハルキ文庫

<内容>
 「桃園春奈の決着」
 「栗柄慶太の決着」

<感想>
 樹海警察シリーズの第3弾。今作では、レギュラーキャラクターであり、地域課特別室に勤務する柿崎の元で働く、二人の巡査が抱える問題を紐解くものとなっている。

「桃園春奈の決着」では、桃園巡査にスポットが当てられることに。彼女には失踪した夫がいて、樹海の中で死亡したのではないかという疑いを持ちながら、日々勤務を続けている。そんな中、樹海で撮影していた配信者が死体を見つけることに。その死体の身元について調べているうちに、さらなる事件が起きてしまう。配信者や、自殺者を踏みとどまらせようとするボランティア団体等を巻き込むこととなった事件。そして、関係なさそうな桃園巡査の失踪した夫の件までもが浮かび上がってくることとなり・・・・・・

 色々な要素が絡み合わさって、一つの事件を構成するものとなっている。関係なさそうな事件がうまい具合に組み合わされて、真相の構図が見えてくるという様相は見事な物。これはうまく描かれた事件と感心させられた。


「栗柄慶太の決着」は、栗柄巡査にスポットが当たられるのだが、当の栗柄巡査が行方不明になってしまう。その直前に樹海で、フリーライターが何者かに殺害され死体で見つかるという事件が起きている。また、過去に栗柄巡査は、なんらかの事件に関わり、秘密を抱えているという噂があった。そうしたなか、上司の柿崎は単独で東京へ、栗柄の行方を探しに行くこととなる。

 こちらは、ちょっと決着が粗めとなった事件であったかなという感じ。ページ数の割には、背景となる事件の規模が大きすぎたように感じられる。きちんと事件を描くには、ややページ数が少なかったか。これを書くのであれば、本一冊で長編として書き上げてもらいたかったくらい。


 と、そんな感じで二つの事件が掲載された作品となっているのだが、一応この作品、シリーズとしては完結を迎えるらしい。物語を読んだうえでは、まだまだ続きそうな感じであるが、あらすじや帯に、完結編と書かれているのでそうなのだろう。決して有能とは言えないまでも愚直な上司・柿崎を中心に、部下の桃園と栗柄と、良い味を出した作品となっているので、終わってしまうのは残念な気がする。テレビドラマ化してもおかしくなさそうなくらいの題材と思えるのだが、あまり世間や業界からは注目されなかったのかと考えると、寂しい限り。




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