<内容>
女子高生の市野亜李亜(ありあ)は、殺人鬼の家族に囲まれ暮らしていた。父も母も兄も殺人鬼。そして彼女自身も。そうしたなか、自宅で兄の惨殺死体を発見することに。さらには、母親が失踪してしまう。いったい誰が、何のために。亜李亜は家族のルーツをたどり始めるうちに、自身に隠された秘密に迫ることとなり・・・・・・
<感想>
江戸川乱歩賞を受賞した作品で、タイトルのインパクトと、何やら問題作という噂を聞き、文庫化されたら読もうと心待ちにしていた作品。実際に読んでみると・・・・・・これがまた凄い内容。
なんと主人公は殺人鬼一家で暮らす本人も殺人鬼であるという女子高生。そんな謎の一家で家族が巻き込まれる殺人事件が起き、主人公は事の真相、さらには自身の秘密にまで踏み込んでゆくこととなる。
こうした内容の作品が江戸川乱歩賞を受賞するというのも珍しいことなのではなかろうか。どちらかと言えば、社会派ミステリ的な作品が受賞しているというイメージ。この作品も若干社会派的なところはあるものの、それ以前にモラルを飛び越えた作品とも言えるので、このような内容のものが受賞したことに驚き。
作品の中身としては、ホラー的な内容というわけではなく、始終めまいを感じるかのようなサスペンス・ミステリ風という感触。物凄い面白いというわけではなく、斬新というわけでもないのだが、どこか読者を惹きつけるようにうまき書き上げているという感じがした。それなりに書き方がうまかい作品と言えるのかもしれない。内容云々だけでなく、このような設定をうまく描き切った著者の力量が受賞に行ったった原因ではなかろうか。
<内容>
京都にて突如起きた暴動事件。それは、人々が突然凶暴になり、目についた人を無差別に襲いだすというもの。その事件の裏には、霊長類を研究している施設と、一匹のチンパンジーの存在が・・・・・・
<感想>
なかなか凄まじいパニック小説であった。今現在、コロナウィルスというものが世間を騒がしてはいるが、それとは全く異なるパニックの様相が描かれている。
この作品の凄いと思えるところは、猿から人間への進化において、ひとつの仮定を提示しているところ。その提示するものが本書での暴動における大きな鍵となっているのである。
類人猿に関わるものとか、遺伝子などについては詳しくないので、ここに書かれていることがどこまで信憑性があるのかはわからないが、その内容を思わず信じてしまいたくなるくらい説得力がある。“鏡像”に関わる問題や、“ロスト・エイプ”などに取り組んだ、非常に興味深い内容となっている。単なる暴動を描いた小説に収まっておらず、神秘に踏み込んだ学術的な作品でもある。
<内容>
デザイン会社で働く華田は、ある日飛び降り自殺の現場に遭遇してしまう。同僚が華田を心配し、華田をカジノへ連れていき、気晴らしをさせようとする。初めてカジノに来た華田であったが、それを機にカジノにのめりこんでゆくこととなり・・・・・・
<感想>
江戸川乱歩賞を受賞してのデビュー作の前に、佐藤憲胤名義で第47回群像新人文学賞優秀作を受賞し、出版されていた作品。15年越しの文庫化だということ。
文学系の作品であるためか、感想は特になんとも。一見、ノワール小説のような気もするのだが、それともちょっとニュアンスが異なるような。というのは、主人公はギャンブルによって身を崩していくのだが、ポイントとしては主人公自体が別にそのギャンブルを好きだとか、のめり込んでいるという形ではないところが微妙に思えてならなかった。
通常、ノワール小説などは、自らの欲望に負けて身を持ち崩していくという形で描かれているものが多くみられる。それが本書の場合は、ただ単に身を持ち崩すというような感触で描かれている。それゆえの文学小説ということなのかもしれないが、そういった理由で、何も心に響かなかったかなと。
<内容>
メキシコのカルテルに君臨する麻薬密売組織、カサソラ兄弟。しかし、敵からの急襲を受け、3人の兄は死に、パルミロただ一人が生き残る。単独でメキシコから脱出し、潜伏先のジャカルタで再起を誓うパルミロ。そんな彼が日本人の臓器ブローカーと出会ったことにより、新たなビジネスに着手し始めることに・・・・・・
メキシコ人の母とやくざの父を持ち、川崎で育った土方コシモ少年。父からも母からも相手にされず、学校にも行かず、ひとり孤独な生活を続けるも、やがて少年院に入れられることになる。後にコシモはパルミロと出会うことになり、滅亡した太古の国の神について聞かされることとなり・・・・・・
<感想>
直木賞を受賞したこともあり、各種ランキングなどでも話題になっていた作品であり、興味を持っていた小説。また、江戸川乱歩賞受賞者である佐藤究氏の作品を読み続けていることもあり、文庫化されたら読もうと思っていた作品。
色々な意味で壮大な作品。また、数々のクライム小説を読んでいるが、その中でもかなり異色のクライム小説であると感じられた。どこが壮大かというと、メキシコからインドネシア、そして日本と場所を変えての犯罪ビジネスが横行していく様を描いているところが壮大。さらには、太古の歴史と言っても良さそうなインカ文明の思想を背景に持ってきて切るところにもまた、壮大さを感じさせられてしまう。
最初はメキシコの麻薬カルテルの話から始まり、それが日本で生まれたメキシコハーフの少年とどのように絡み合うのかと思いながら読んでいくことに。それがメキシコからインドネシアを介し、はるばる日本までやってきた男の手により、犯罪ビジネスが展開されていくという流れになっているところが凄い。そして、メキシコのインカ文明という“血のルーツ”とでもいうものを介して、メキシコの犯罪者と、日本で生まれたハーフの青年との間に怪しげな絆が生れていくという展開もまた凄いものと感じられた。
その他、色々と作中で起きたことを端折ってしまったが、スケールの壮大さを感じるクライム小説であった。ただ、それらをクライム小説として読んでいる中で、どこかで破綻して滅びゆくであろうというノアール小説的なイメージも感じ取りながら読んでいくこととなった。犯罪ビジネスの想起から崩壊までの流れが、ただただ強烈だとしか言いようのない作品であった。
<内容>
ユタ州の住む17歳の少年、バーナム・クロネッカーは三葉虫の化石を愛好しながら、日々静かに時を過ごしていた。そんな彼の生活が、学校でいじめにあうこととなり、かき乱されることに。同様にいじめを受けるタキオと仲良くなるものの、事態が良くなるわけではなく、苦難の日々が続いた。そうしたなか、バーナムは自分の人生を揺るがすことが起きたことにより、とある決意をし・・・・・・
<感想>
佐藤究氏の書下ろし作品。短めの長編作品である。読んでいる途中は、ミステリとかエンターテイメント性を感じなかったが、最後の最後で大きな波乱というか、カタストロフィが待ち受けている作品となっている。
三葉虫の化石を愛しつつも、いじめに悩むこととなる少年のパートが主となっているのだが、そこに戦争後のPTSDに悩む男の様子が度々挿入されるという構成。
この作品に関しては、主題は色々とあるのだと思われる。三葉虫の化石に関する知識。一人の少年の境遇。学校や社会におけるヒエラルキーの存在。さらには戦争が及ぼすPTSD、等々。ただ、読み終えてみると、どのような問題を抱えているにしろ、近くに拳銃がある環境であれば、それに頼ることになる・・・・・・という銃社会は恐ろしいという結論しか導き出せなかった。それが極めて現実的な解決という感じではあるのだが、三葉虫というものを一つのテーマに持ってきているのであれば、もう少し異なる行動の分岐点を用意しても良かったのではなかろうか。