島田荘司  作品別 内容・感想4

盲剣楼奇譚   5点

2019年08月 文藝春秋 単行本

<内容>
 吉敷竹史は、元の妻であった通子から頼まれ、事件に巻き込まれた画家の鷹科艶子の手助けをすることに。なんでも彼女の子供が誘拐されたのだという。誘拐犯は、昭和二十年に起きたとある事件にかかわるものを呼び出せと要求してきたのであった。その昭和二十年には盲剣楼と呼ばれた芸者置屋で謎の盲目の剣士が突如現れ、悪人たちを切り倒したという逸話が残されており・・・・・・

<感想>
 久々の吉敷シリーズということで期待したものの、全くの期待外れ。読みたくもないものを長々と読まされたという感じ。

 最初は吉敷竹史が直接かかわる事件から始まるものの、これについても、長い文章など書きそうもない人間からの長々とした誘拐及び要求文を読まされげんなり。そこから本筋に入っていくと思いきや、途中から何やらわけのわからない時代劇へと突入していく。

 本書はこの時代劇の部分がほとんどを占めており、単にそれを読まされたという印象しか残らない。最後に付けたしとして、最初の誘拐事件に関わる結末が付けられているものの、わずか20ページくらいで語られる始末。要するにミステリとしては、どう考えても、短編作品で十分ではないかとしか思えないものであった。

 という感じで、ミステリの内容云々ではなく、構成についてあれこれ言いたくなる作品。長編にしても、まだ短めであればよかったと思えるのだが、大長編というようなボリュームでこんなのを読まされた日には・・・・・・


ローズマリーのあまき香り   6点

2023年04月 講談社 単行本

<内容>
 1977年、ニューヨークのビルの50階にあるバレーシアターで、著名なバレリーナ、フランチェスカ・クレスバンによる公演が行われていた。その公演後、控室でフランチェスカが死亡しているのが発見された。死亡時刻によると、フランチェスカが公演中舞台で踊っているときに死亡していたはずという結論に至る。彼女は、死んだ後も踊っていたというのか? また、控室にはフランチェスカ以外の人間は誰も入ることはできなかったはずなのに、凶器と犯人が消え失せていた。いったいどのようにして犯行はなされたのか? 事件から20年後、事件に興味を持った御手洗潔が謎を解き明かすことに!!

<感想>
 久々の島田氏による御手洗潔シリーズ作品。今回は、20年前に起きたバレリーナの死亡事件の謎を解くという内容。それで、読んでみた感想はというと、なんとも微妙であったなと。決して悪い作品ではないと思えるのだが、島田氏であればもっと面白く描けたような気がするので、なんともモヤモヤしてしまう。

 何と言っても、長い。しかもしれが、全編内容に関わりがあればいいのだが、普通にページを削ることができたのではないかと思われるものが多かったように思える。もっとシンプルにできた作品だと思われる。

 また、結末についてもちょっと期待外れだったような。ただ、被害者のバレリーナが辿ってきた数奇な人生については、読み応えがあったので、もっと物語重視とした作品でも良かったのはないかと思われた。密室にこだわり過ぎるよりも、主人公や犯人らの人生をサスペンス風に描くだけでも十分堪能できそうな作品と思われたのだが、どうであろう。さらに言えば、なんとなく別の島田氏の作品とトリックがかぶっているようにも感じられ、そこもちょっとどうかなと思われたところ。

 という風に、微妙な感じに捉えられた作品であったのだが、それでも久々に御手洗潔の活躍を読むことができたのだから良いであろう。とはいえ、やっぱりページ数についてはどうにかならなかったのかなと思わずにはいられない。


伊根の龍神   5.5点

2025年03月 原書房 単行本

<内容>
 京都府北の伊根という村で巨大な怪物“龍神”が現れるという噂を石岡は藤波麗羅という20代の女性から聞くことに。その話を石岡が御手洗電話で話すと、しばらくの間、その伊根には近づかないようにと何故かくぎを刺されることに。しかし、石岡は麗羅に強引に誘われ、伊根へと向かうことになってしまう。そして、怪異と殺人事件を目にすることとなり・・・・・・

<感想>
 島田氏による御手洗潔シリーズ最新作。今作は未知の怪物について言及する内容となっている。基本的には石岡氏が語り手として、知り合いの女性と共に行動し、最後の最後で御手洗潔の登場という感じになっている。

 面白いとか、どうこういう前に、物語の前提が曖昧過ぎると感じられた。巨大な怪物らしきものの存在が示唆されるのはいいのだが、それだけで危険をおかしてまで、その土地へ行こうとはならないだろうと。何か事件と絡めて、それを調べるとか、どうしても探らなければならない秘密があるとか、そういったものがなく、単にネッシーを探しに行きましょう的なノリでしかなかったのが、この作品において一番残念であったところ。御手洗が必死に止めたにもかかわらず、そんなノリで伊根まで足を延ばしてしまうというのは、もはや酷い裏切りではないかとさえ思ってしまった。

 その後の展開は普通であったかなと。要は事件を示唆するようなものがなく、怪異のみという形でしか背景がないゆえに、何か奇妙な事が起きているというだけでしかない。人のいない旅館で過ごし続けるうちに、何かが進行しているらしい、というくらいの内容。また、何やら軍の関係者たちが大勢来ているらしいのだが、人がほとんどいなさそうななかで、何故か目立つであろう石岡らが放っておかれているところにも違和感を感じてしまった。

 と、そんな感じで、“龍神”という存在に関しては、いつもながらの島田氏の作品らしい処理がなされていて、ある種の見所もあるといって良いであろう。ただ、結局のところ序盤において、事件に絡めるという設定がなされていなかったゆえに、巨大生物奇譚をただ目の当たりにしたという感触しか残らなかった。全体的に未消化気味。




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