<内容>
私立探偵の葉村晶は家出中の女子高生を連れ戻すという仕事を依頼され、現場へと出向いた。仕事は簡単に終わるはずであったのに、別の探偵社の粗暴な社員に邪魔され、仕事は無事に完了できたものの、全治一ヶ月の怪我を負う。その後、葉村は前に連れ戻した家出少女・ミチルの友人で美和という女子高生の行方を調べるという仕事を依頼される。事件を調べていくうちに、他にも行方不明になったものがいることがわかり、複雑な様相を見せていく。そして、葉村自身が何者からか襲われる羽目となり・・・・・・
<感想>
これは文庫本で読んだのだが、長らく積読にしていた本のうちのひとつ。ようやく読み終えることができたが、思っていたよりも面白く読めた。若竹氏の作品で、この葉村晶が登場する作品だけでも読み続けてみようかなと思ったのだが、このシリーズはさほど書かれていない様子。
事件は私立探偵の仕事らしく、失踪者捜索の依頼。しかし、それを依頼してきた人物が決して協力的とは言えず、何かもやもやしたなかで探偵の葉村は捜査を進めていくこととなる。
本書の特徴としては、登場人物に不愉快な人物が多いということ。ストーリー自体は読みやすい作品として仕上がっているものの、少々ページをめくる手を止めたくなるような嫌な人物の言動が多いところがどうも気にかかる。そういった嫌な人物に捜査を妨害されつつも、何故か探偵の葉村のみが失踪者の状況をひたすら心配することとなり、彼女たちの行方を捜し続けることとなる。
結末のネタに関しては、だいたい想像がつくものであった。とはいえ、あまりに救いようのない結末に呆然とさせられたりもする。それでも主人公葉村の孤軍奮闘ぶりに惹きつけられるのも事実。女性探偵が活躍するハードボイルドものとしては、悪くはなかったと思われる。
<内容>
勤めていた探偵社がつぶれ、その後休養しつつ、現在はミステリ専門の古本屋でバイトをしている葉村晶。古本の引き取りに出向いたアパートで、床の崩落に巻き込まれ怪我を追うこととなった葉村であったが、そこで白骨死体が発見されることに! 事情聴取をしにきた警察に対し、葉村が自分の考えを述べることにより、事件は一挙解決。そのやり取りを見ていた病院の同室にいた者が葉村に仕事の依頼を持ち掛ける。彼女は元有名女優であり、彼女の娘が20年前に失踪したまま行方がわからないというのである。何となくで引き受けることのなった葉村であるが、彼女の前にはさまざまな困難が待ち受けることとなり・・・・・・
<感想>
久々の若竹氏の作品、そして久々の葉村晶シリーズ。読むのも久々だが、実際に葉村シリーズの新刊が出るのも久しぶりとのこと。13年ぶりであるらしい。
しばらくぶりのシリーズ新刊というだけあって、充実した内容となっている。最初にアパートから白骨死体が見つかるという事件が起こるものの、それは見事にあっという間に解決。そして人探しの依頼を受けたかと思えば、自らが住むシェアハウスをも巻き込む騒動が起き、そういった事件を巡っているうちに何度も病院送りとなる羽目になる。とにかく、ついていないというか、運が悪いというか、まぁ、それこそが葉村晶シリーズの醍醐味なのであろう。
メインとなる事件はあくまでも人探しにあるのだが、それはそれでなかなか骨太の事件。元女優を巡っての遺産相続や、彼女を取り巻くさまざまな人間関係。そこから娘の失踪へといたり、さらには過去にその事件を調べていた探偵が行方不明になっていたり、他にも死者の存在が続々とあらわになってゆく。
事件の解決に関しては主人公の葉村自身が自らの探偵としての腕が衰えたのではないかと心配するような結末が待っているものの、事件の収束ぶりを考えればよくやったのではないかと称賛できるようなもの。十分に過去の全ての事件を明るみに出し、けりをつけることができたのはたいしたものである。さらには、笑いと涙をそそるような結末もあり、まだまだ彼女の活躍が見られるのではないかと期待させられてしまう。といっても次回作は何年後かな?
<内容>
「青い影 七月」
「静かな炎天 八月」
「熱海ブライトン・ロック 九月」
「副島さんは言っている 十月」
「血の凶作 十一月」
「聖夜プラス1 十二月」
<感想>
「青い影」 葉村は大規模な交通事故を目撃したのち、そこで起きた盗難事件の調査をする。
「静かな炎天」 立て続けに依頼が来て、葉村はそれらの事件を解決する。実は順調な依頼には裏があり・・・・・・
「熱海ブライトン・ロック」 葉村は失踪した若き小説家の過去を調査することとなり・・・・・・
「副島さんは言っている」 知り合いの調査員から調べ物をしてもらいたいと電話で依頼されるのであったが・・・・・・
「血の凶作」 とある大作家が自分の戸籍を持つ男が死亡したという事を警察から告げられ・・・・・・
「聖夜プラス1」 単に使いとして葉村が古本を受け取りにいくだけのはずだったのだが・・・・・・
私立探偵・葉村晶の活躍を描く短編集。短編作品という事もあり、それぞれの事件を快刀乱麻のごとく解決していく様相が描かれている。さらには、一つの短編のなかで複数の事件を解決したりと、この葉村っていう探偵って、やたらと優秀なのでは!? と思わされてしまう。
面白かったのは、「副島さんは言っている」。不審な元同僚による電話での依頼が、立てこもり事件にまで発展してしまうという様相が面白い。また、事件解決に至る交渉というか、飛躍した推理も見栄えしていて楽しめた。
「血の凶作」も、ユーモア調のミステリとなっていて楽しめた。北方謙三をモチーフとしたような依頼人と、要所要所の脱力系のユーモアが心憎いながらも、最後はきっちりと締めている。
ただ、本書で非常に気になったのは、古本屋の店主の葉村への対応。「静かな炎天」や「副島さんは言っている」のように探偵活動として葉村が苦労するという様相を描いた作品は別にいいのだが、最後の「聖夜プラス1」のように、ひたすらパワハラめいた扱いを受ける様子を描かれると全く作品の内容を楽しむことはできない。葉村も雇われ人という立場であるとここまで我慢しなければならないものなのかと不思議に思う。もしくは、社会人としてこれくらいの理不尽さについては耐えるのが当たり前なのであろうか??
<内容>
古本屋でバイトをしながら働く女探偵・葉村晶。彼女は探偵事務所の依頼を受け、石和梅子という老女を尾行していた。すると、同じくらいの年の老女と喧嘩をし始め、葉村は巻き込まれてしまうことに。その後、その喧嘩相手の青沼ミツエという老婆と知り合い、葉村は彼女が持つボロアパートに住み込みで手伝いをすることとなる。そこには、以前交通事故で重傷を負ったというミツエの孫のヒロトが住んでおり、葉村は妙な共同生活を送ることとなる。そして葉村は、青沼家の者達を巡る騒動に巻き込まれることとなり・・・・・・
<感想>
私立探偵・葉村晶が活躍するシリーズ。以前は新刊がでる間隔が長いというイメージであったが、近年は1、2年という短いスパンで読めるようになってきている。
今回もまた、自身の人生に悩みつつ、住居に悩み、探偵事務所からこき使われ、捜査対象者からこき使われ、古本屋の店長からこき使われと、そんな感じでありながらもしっかりと葉村晶が探偵の仕事を務めている。
単なる尾行捜査から一転して、内定調査のような趣に。そこからさらに過去に起きた交通事故、そして、今現在葉村も巻き込まれることとなった放火事件。そうした、どこに事件の中心があるのかもわからない難題に葉村が取り組むこととなる。
物語の前半に麻薬取り締まりに関する構図を葉村が見抜くこととなる。さらには、それを軸として、最終的に新たな真相を導き出すこととなる。いくつかの事件を関連している分、していない部分がありつつも、そこから大きな円を描き出すように導き出される真相はなかなかのもの。事件の構図をものの見事に浮かび上がらせる葉村の実力には感嘆させられてしまう。ちょっと、登場人物が多く、重要な人物とそうでもない人物の区分けが難しいところであるが、全体的によくできた作品であると思われる。
<内容>
「水沫隠れの日々」
「新春のラビリンス」
「逃げ出した時刻表」
「不穏な眠り」
<感想>
古本屋で働きつつ、私立探偵も開業している葉村晶の最新シリーズ。今回もまた、葉村が数々の厄介ごとに巻き込まれる。
いや、よくぞここまで厄介ごとに関わらせるというか、そのスタンスにもはや脱帽。今作では、数々の厄介な依頼人に関わることとなり、さらには調査に行く先々でも、さらなる厄介な人たちが待ち受けている。それでも、単なるイヤミスになっているわけではなく、しっかりと事件そのものが作りこまれており、ミステリとしても読みごたえがある作品集になっている。
「水沫隠れの日々」では、古本の回収を頼まれた家で、なんと刑務所から出所する女を迎えに行き、家まで連れて帰ってきてほしいと依頼される。当然のことながら、すんなりと帰ってこれるわけでもなく、とんでもない騒動が巻き起こることとなる。さらには、家に帰ってきても・・・・・・と、最後の最後まで心休まることのない強烈な作品。
「新春のラビリンス」は、幽霊ビルで臨時の警備のバイトをしたことから、葉村は事件に巻き込まれてゆく。失踪した警備員の行方を捜してもらいたいという依頼をこなしていると、闇に潜む事件を掘り起こすこととなる。葉村が直接かかわるわけではないものの、殺人事件の真相まであぶりだすこととなってしまうのだからなんとも・・・・・・警察までもがあきれるほどの巻き込まれっぷり。
「逃げ出した時刻表」では、古本屋で開催したフェアのために借り受けた貴重な古書が盗まれてしまうという騒動が。しかも犯人は葉村をスタンガンで気絶させて、本を盗んでいくという始末。当然のことながら本の行方を捜してゆく葉村であるが、その盗難には一筋縄ではいかない背景が。一見、ちょっとした盗難事件が、数珠つなぎに、色々な人間関係を掘り起こしていくこととなる。そして、最後に明らかとなる真相も・・・・・・ただただ無常と。
「不穏な眠り」は、依頼人から、昔ちょっとした関係があった故人について調べてもらいたいというもの。久々にまともな依頼人からの仕事、と思いきや、行く先々でとんでもない騒動に巻き込まれる葉村。ひとりの女を巡っての騒動と思いきや、そこから思いもよらぬ背景が掘り起こされる。全体のなかで、この作品のみが唯一、結末が未消化気味であったかなと。ただ、ここで取り上げられた事件に関しては、短編で収まるものではないと思われた。長編にして描いてもよさそうなくらい、濃い内容であった。
<内容>
葉村晶、50代。古書店で働きながら、私立探偵もこなすという仕事を続けている。そんなある日、色々な伝手を巡り巡って、魁星学園元理事長から人探しの依頼が舞い込んできた。若干不可解な依頼でありつつも、久々の高額の仕事と言うこともあり、張り切って調査に出かけるも、ゆく先々で何故か妨害に会う。調査を続けるうちに、魁星学園のかつてのスキャンダルや土地の買収問題なども絡み、そしてそれらの問題を掘り出されては困るのか、葉村自身が狙われることとなり・・・・・・
<感想>
葉村晶シリーズが、いつもの如く、久々に帰ってきた。5年ぶりとのこと。時を経るに従い、主人公も年をとり、とうとう50代に到達。初老とも言える歳でありながらも、今まで以上にハードな探偵人生をすごすこととなる本作。
現在、ハードボイルド小説がすたれつつあるなかで、この人が一番ハードボイルドしているのではないかと思えてしまうほどの活躍。活躍というか、どちらかというと事件を巡る中での災難に遭遇する率が多すぎるという感じではある。そうした苦難に遭遇しつつも、探偵という矜持を胸に、事件の真相を見出そうと奔走する姿には、胸を打つものがある。
今作は、やや複雑な事件背景と言えよう。学園のスキャンダルや権力争い、それとは別に土地にからむ問題、そして多すぎる登場人物の相関関係と、結構読んでいてややこしい。ただし、真相が明らかになると、その事件の根底にあるものは、実は単純なところから発生し、そこに何やら色々なものが付いてきただけということがわかる。
最終的に真相に到達すると、葉村晶の捜査と、とある人物の行動が、同じところを回りながらも、すれ違いながら同じ時を過ごしていたという描き方が絶妙であった。それゆえに、葉村は実は事件と直接関係ない方面からの妨害や暴力に苛まれていたという描き方もこれまた何とも言えないものとなっている。
全体的にうまく描かれていた作品。やや読み進めづらい内容ではあり、読み終えるのにやや時間がかかってしまったが、読み終えてしまえば十分な満足感を得られた作品である。葉村晶らしさを存分に味わえる作品であった。
<内容>
実際に起きた事件の裁判記録を元に、裁判の法律について学ぶための市民セミナーが開かれた。そのセミナーの講師は元裁判官で実際に本人が手がけた事件をテキストとして使用していた。その事件は“雨月荘事件”と呼ばれ、旅館のオーナーが自殺を偽装した死体として発見された事件であった・・・・・・
<感想>
事件調書のファイルをそのまま本にして、そこから事件の様相をたどっていくという試みがとても面白かった。今、現実問題として陪審員制度が施行されるということを考えると、本書はその手引きとして十分役に立つのではないかと思われる。確かに少々昔の本であり、小説として読みやすい形式にデフォルメしてあるのだろうと思われるのだが、それでも本書を読む前と読んだ後では裁判に対しての心がまえというものが、そうとう変わるのではないかと感じられる。
いくつか興味深かった点をあげてみると、ひとつは“自白調書”というものについて。これは本書の中では、裁判の内容を吟味する際に先入観を与えるので先には読まないようにと指示がある。確かにそのとおりで、本編の“自白調書”を読んでしまえば、これは有罪であろうという考え方に傾いてしまいそうになる。しかし、最初から“自白調書”というものに疑いをかけて読んでみると、事件を異なる形でとらえることができるようになるのだから不思議なものである。
さらには証人による弁論の真偽について。これを読み取るのはかなり難しい事と感じられた。証人によっては明らかに嘘をついていると思われる者もいるし、またその線が微妙な者もいる。さらには、嘘か本当なのかはっきりしないものもいるし、事件と直接関わりのないはずの証人自身の記憶があいまいで、その真偽が判断がつかないというものもある。
まぁ、現実の裁判では「実は証人の中に真犯人がいた!」というような事はそうそうないだろうから、不必要に深読みをしなくてもいいのだろうが、それでも証人の整合をとるというのはなかなか困難なことであると感じられた。
と、このように語ってしまうと何やら小難しいことがたくさん書いてあるように思われてしまうかもしれないが、読みやすく創られているので興味を持った人は誰でも手軽に読んでもらいたい。
あと、最後に付け加えておくと、本書はある種の“読者への挑戦”のように犯人当ての要素も加えられているので、ミステリーとしても十分手ごたえのあるものとなっている。まさに至れり尽せりの一冊である。
<内容>
時は戦国時代。天下統一を目前と控えた豊臣秀吉。残すは北条家を落とすのみ。その北条家を取り巻くいくつかの城があり、その中の一つに忍城があった。難攻不落の城と言われていたものの、城を攻めるのは石田三成率いる二万の大軍、それを守るのはわずか五百の兵。しかも、城代は領民たちから木偶の坊とからかわれる成田長親。簡単に攻め落とされると思われていた忍城であったが、思いもよらぬ展開が待ち受けており・・・・・・
<感想>
数年前に本屋大賞にノミネートされたか何かで、その存在については知っていた作品。気にはなっていたので文庫化したら読もうと考えていた。実際に読んでみると、これがまた楽しませてくれるないようとなっている。ちなみに当たり前だが非ミステリであり、ガチガチの時代小説である。
実は読む前はかなりエンターテイメント寄りの作品だと思っていた。しかし読んでみると基本路線は堅いと言わないまでも、普通の時代小説調である。序盤はその堅さからやや読み進めづらいなとも感じられた。ただし、城攻めへと話が進んでからは、あっという間に読み干してしまったので、リーダビリティ十分の内容である。
個人的な意見であるが、売り手側としてはエンターテイメント路線で売りたかったのかなと。書き手の方はそうした思惑とは別に普通に時代小説を描いていたと、なんとなくそうした差異を感じてしまった。
基本的な内容としては、朴念仁の城代が大群に屈せず一太刀あびせるというもの。単なるエンターテイメントではなく、史実であるので極めて現実的な作品とも言える。ただ、そのエンターテイメントと歴史的事実とがうまく融合され、一つの作品として見事に完成されている。歴史上の重大事のなかでの小さな一コマとも言えるのであるが、そうの一コマを完璧に描き切った作品である。
<感想>
一つの都市伝説のようなネタを元にそれにまつわる百物語のようなものを作ってしまおう、というようなショートショート集に感じられた。“ポップ・ノベル”と帯に銘打ってあったが、確かに“近代的百物語”とか“サイバー・ショートショート”などというよりはそちらのほうが気が利いているように思える。
なんでも調べることができる世界規模のデータベース、“ポップ・チューン”。それが携帯から簡単にアクセスできる。このようなものが使えるならば、いったい何を、どんなことを要求するだろう? 本書にその答えの一端がさまざまな形にて描かれている。そこには笑いあり、涙あり、恐怖ありとさまざまな感情が混濁している。この世界規模のデータベースというのはなかなかのネタの宝庫なのかもしれない。
それは想像によっては恐怖を与える要素が満載であるはずなのが、本書ではもっと軽いノリにて使用されている(といっても救いようのないものも何編かあるのだが)。男女の出会い、人探し、自分と似た顔をしたもの、自分自身の行動とそこから多くのものを見出すことができる。読んでいても楽しいし、想像してみても楽しい一冊である。
<内容>
城下の掘割で若い女の幽霊を見たという普請方の男が、後に病で死亡した。その後も似たような怪談話が多数聞かれ、そのどれもが女の幽霊を目にしたものは必ず死ぬというものであった。そのような怪談話がささやかれるなか、件の掘割にて家老が闇討ちされるという事件が起こる。しかも、その闇討ちの現場にも女の幽霊の存在が見え隠れし・・・・・・巷を騒がす怪談騒動、そのてんまつや如何に?
<感想>
「パラダイス・クローズド」と2冊同時に刊行されたメフィスト賞作品であったが、本書が時代物ということもあり、ちょっと敬遠気味であった。しかし、読んでみると普通にミステリ作品としては前者に比べこの「掘割で笑う女」のほうがうまくできていたかなという感じはした。
怪談というものの効果や影響というものを踏まえて、闇討ち事件の真相を描くという内容はよくできている。数々の怪談話から、どれが虚構でどれが本当っぽいものなのかというのを見抜くという作業はなかなか面白かった。
ただ、数々の怪談話を並べているがゆえに、話がぶつ切りになって、ひとつの流れと感じ取りにくいというところがやや難点であったと思われる。もう少し流暢にひとつのミステリ作品として成り立つように書いてくれれば、もっと読みやすくなったのではないだろうか。
とはいえ、充分に文章・内容ともに処女作としては及第点を与えてよい作品であろう。
<内容>
江戸で再び修行することとなり、再び谷口道場へもどってきた甚十郎であったが、兄弟子に頼まれ、嫌々ながらも和泉屋が催す百物語に出席するはめに。怖い物嫌いの甚十郎は、またもや、この百物語の最中に恐ろしい光景を目にする事になる。しかも、このとき行われた百物語は数年前谷口道場が巻き込まれたある事件に関係していると・・・・・・
<感想>
今作も、感想としては前作と同じで、ひとつの長編を読んでいるというよりは、いくつかの短編(怪談)を読んでいるという感触が強い内容であった。当然のことながら、それらの話が結びつき、ひとつの流れの物語とはなるものの、怪談一編一編にさほど深い意味があるわけでもないので、やはり長編を読んだという気にはなりづらい。
とはいえ、それなりに楽しむことができる面白い作品であることも確か。ただし、ミステリとしての面白さではなく、あくまでも時代劇の面白さという印象が強いので、読み手を選ぶ作品であることには間違いないであろう。次回作を読むかどうかは迷っているところ。