ニューロマンサー Neuromancer (William Gibson)
1984年 出版
<内容>
ハイテク技術がおりなす近未来。かつて電脳空間のなかを思うがままに飛翔していたケイスは、今ではその能力を奪われ、鬱屈しながら日々を送っていた。そんなある日、ヤバイ仕事の話が舞い込んでくる。しかし、仕事を引き受ければまた電脳空間へと飛翔することができる。そうしてケイスは自ら騒動の渦中へと踏み込んでいくこととなり・・・・・・
<感想>
サイバーパンクの代名詞とも言われる作品なのであるが、パッと読んでみても何が書いてあるかがわからない。近未来を描いた小説であるのだが、その背景や成り立ちといった説明などは一切省かれている。物語は主人公を中心とした行動描写のみ。それゆえに、さほど複雑なストーリーのようにも思えないのだが、詳細を読み取ることはいたって難しい。
さらに内容を分かりづらくしているのは、電脳空間における視点と、普通の状態での視点が入り乱れていること。これも細かな説明はなく、とにかくこういう視点で見えるからと、言わんばかりに物語はどんどんと進んでいく。
しかし、一番感心するのはこれが発表された1984年にしっかりとこの作品が評価されているところ。そのへんはSFというジャンルの懐の深さゆえか。一読した限りでは、この作品のすごさに触れることができなかったゆえに、いつか再読を試みたい。そのときには、紙と鉛筆をしっかりと用意して熟考しながら読みふけりたい。ただし、本当はそんなスタンスではなく、物語のぶっ飛んだ様相を単純に楽しむというのが正しい読み方なのかも。
クローム襲撃 Burning Chrome (William Gibson)
1986年 出版
<内容>
「記憶屋ジョニイ」
「ガーンズバック連続体」
「ホログラム薔薇のかけら」
「ふさわしい連中」(&ジョン・シャーリイ)
「辺 境」
「赤い星、冬の軌道」(&ブルース・スターリング)
「ニュー・ローズ・ホテル」
「冬のマーケット」
「ドッグファイト」(&マイクル・スワンウィック)
「クローム襲撃」
<感想>
「ニューロマンサー」を読んだものの、わけのわからないという印象がつきまとうウィリアム・ギブスンという作家。とはいえ、気にはなるのでギブスンの短編集である本書、「クローム襲撃」も読んでみることとした。電脳世界を主としたような作品が多く書かれているのだが、これらが1986年という時代(それぞれの短編が発表されたのは1977~1985)に発表されたものと言うことが驚き。今の時代に読んでも決して色あせないような内容になっている。
読んでいてわけがわからないという印象そのままのものが最初の「記憶屋ジョニイ」。むしろだからこそ、これこそがギブスンと言えるのか。ただ、読んでいくうちに慣れてきたのか、後半の作品へと行くにしたがって、読みやすくなっていったような気がする。また、他の作家との共著作品が3作あり、それらはギブスン風味が若干抑えられているイメージがあった。ゆえに、それらは読みやすくもある。
特に面白かったのは、ブルース・スターリングと共著の「赤い星、冬の軌道」。ロシアの犯罪者(政治犯?)が集められた(収監された)小さなコロニーでの出来事を描いた作品。ラストにおいて、“突然の資本主義者の乱入”みたいな終わり方をしているところが馬鹿馬鹿しくて面白い。
最後の「クローム襲撃」は、まさに電脳SFというものを体現するようなギブスンらしい作品と言えよう。暗黒街のボスに挑む様子を描いているのだが、まさにゲームに挑戦しているような描写で描かれている。
一回読んでもよく内容がわからなかったものもあるので、「ニューロマンサー」と共に、いつか再読することとなるであろう作品。