荒 潮 Waste Tide (Chen Qiufan)
2013年 出版
<内容>
中国南東部の島には、日々ゴミから資源を探し出して暮らす“ゴミ人”と呼ばれる者たちがいた。そんな彼らの暮らしが大手企業によるリサイクルが行われるという計画により翻弄されることとなる。その利権を巡って、人々は対立し・・・・・・
<感想>
うーん、これってSFにする必要のある内容か? と感じてしまった作品。序盤は、リサイクル業を巡っての利権の対立等が描かれているのだが、これらって別にSFにしなくても十分社会派小説として描ける内容ではないかと思われた。いや、むしろ普通小説にしたほうが、より内容が伝わるのではないかと感じてしまった。まずしさや、公害のような社会問題を取り上げるゆえに、それは未来ではなく今の問題ではないかと思えてならなかった。
後半に入り、ややSFらしくなってきたものの、それもどこか尻つぼみ気味。SF的な展開を示すのであれば、もっとぶっとんだ結末にしてしまったほうがよかったのではないかと思われる。結局、普通小説にちょっとネットワーク機構を用いましたくらいの規模のSF小説になってしまっている。
今、アジア系SFとして「三体」というものが取りざたされており(私自身は未読)、それに続けと言うことなのであろうが、これくらいの内容ではむしろ「三体」などを読んで期待していた人たちが離れていってしまうのではなかろうか。書籍の帯で、あまり大風呂敷を広げすぎないほうがいいと思われるのだが。
時の子供たち Children of Time (Adrian Tchaikovsky)
2015年 出版
<内容>
地球人類が滅びつつある中、地球人たちは昔、文明が栄えていた中で発展したテクノロジーの痕跡を探して宇宙へと旅立っていた。かつての地球人の手によって、テラフォーミングされた星を目指していた宇宙船のひとつが、人々が住めそうな惑星を発見する。しかし、そこには星を監視する一人の古代人が人工衛星を操り、宇宙船に乗った人々の行動を妨げようとする。なんとか惑星にたどり着こうと計画を練る宇宙船に乗った人々は、その惑星が巨大化した蜘蛛のような生物が巣くう星だということを知り・・・・・・
<感想>
昨年、日本で出版された作品であり、今年の「SFが読みたい!」のランキングに載っていたのを見て購入した作品。
非常にスケールの大きな作品。人類が繁栄しきった後の世界が描かれている。繁栄していた時代の生き残りであり、惑星を監視し続ける一人の研究者。その惑星では監視者の意志に反して、人類ではなく蜘蛛が知的な進化を遂げて、文明を築き上げてゆくこととなる。一方、衰退後の地球から逃げだしてきた人々は、宇宙船に乗りこみ、新たな居住惑星を探していくこととなるのだが、彼らが見つけたのはその監視された惑星となるのである。
そうした3つの勢力による“三すくみ”のような状態で物語が流れていくこととなる。ただ、三すくみといっても、それぞれが交わることは少なく、基本的にはそれぞれの集団(蜘蛛軍と宇宙船の人々)の中での小競り合いが繰り広げられてゆくといったような感じである。
なかなか面白い作品であったのだが、一つ言いたいのは、人類と惑星に巣くう蜘蛛種との遭遇があまりにも遅すぎたということ。これはもっと早くに済ませておくべきではなかったかと。それゆえに、宇宙船に居る人類はすることがなく、小競り合いを繰り返し、その規模を縮小していくだけと。一方、蜘蛛側もたいしてすることがなく、微妙な発展の様子が描かれているのみであったと。
上下巻という長めの作品ゆえに、もう少し早めに人類と蜘蛛種を遭遇させて、そこからの物語の展開を描いてもらいたかったところである。そんなわけで、作品の途中では、同じような行為が繰り返されているという感じがして中だるみしてしまった。興味深い内容の作品であったがゆえに、もうちょっとエンタメチックに描いてくれても良かったのではないかと。
あなたの人生の物語 Stories of Your Life and Others (Ted Chiang)
2002年 出版
<内容>
「バビロンの塔」
「理 解」
「ゼロで割る」
「あなたの人生の物語」
「七十二文字」
「人類科学の進化」
「地獄とは神の不在なり」
「顔の美醜について」
<感想>
8つの物語が語られているのだが、特に統一性はなくバラバラに書かれたものが集められた作品集というところである。とはいっても、ただ単に色々な話が集められたと言ってしまうのが申し訳ないくらい趣きは異なりながらもそれぞれが濃厚なハードSFとなっていて、短編を読み進めるごとに驚かされる内容となっている。わかりづらく読み取りにくいところも多々あるのだが、SFをこれから読んで行きたいという人には是非とも読んでもらいたい一冊であり、かつSFファンにはいまさら薦める必要もないくらいの傑作品。
「バビロンの塔」
これはいわゆる“バベルの塔”を描いたものではあるのが、その塔を建てる過程を職人たちの観点による物語となっている。結末はなんとなく予想しうるものであったものの、この内容を書こうと思いついたところがすごい。
「理 解」
読み始めたときは「アルジャーノン」を思い描いたのだが、その到達する先がすごかった。いつの間にやら、サイバー・アクションものへと変化してしまう。“理解する”という事をここまで飛躍させた発想は見事。
「ゼロで割る」
数学の公式の成り立ちについて描いた作品と思いきや・・・・・・ひょっとして男女の痴話げんかを数学によって表した作品なのでは!?
「あなたの人生の物語」
異星人とのコンタクトを描いた作品。異星人とのコミュニケーションの取り方(特に言語系)について言及している。その副産物として主人公にひとつの挿話が与えられている。感動の話のようではあるのだが、少々わかりづらかった。二度読むことをお薦め。
「七十二文字」
これは魔術的な体系を用いて、ファンタジー世界の観点からロボット三原則に挑戦する内容かと思いきや、ホムンクルスから遺伝子工学の方向へ進む作品となっていた。これは長編にしてもらったほうが読み応えがあったかも。
「人類科学の進化」
ショート・ショートなのであろうが、一般的な科学記事にしか見えない。というか実際科学記事なのだろう。
「地獄とは神の不在なり」
これはSFというよりはファンタジーというべきか、神々しい内容といったら洒落になってしまうのかもしれない。人々の宗教に対するスタンスを描いた作品。つまりは人それぞれであり、結論が出るようなものではないということ。
「顔の美醜について」
人の美醜についてをドキュメント・タッチで描いた作品。これまた難しい題材を取り上げたなと、ある意味感心してしまう。こういった内容のものに対して、結論を出すということよりも、考えることこそが大事だというスタンスであるならば、それはまさに科学者的な発想といえるだろう。この著者は作家というよりは、科学者・実験者とでも言った方がふさわしいのであろう。
息 吹 Exhalation (Ted Chiang)
2019年 出版
<内容>
「商人と錬金術師の門」
「息吹」
「予期される未来」
「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」
「デイシー式全自動ナニー」
「偽りのない事実、偽りのない気持ち」
「大いなる沈黙」
「オムファロス」
「不安は自由のめまい」
<感想>
テッド・チャンの第2短編集を文庫で読了。今作はエンターテイメント的な要素はほとんどなかったように思えた。何らかの問題提起をするような、もしくはそれを読み手側が問題提起と感じるような内容のものが多かった。また、結末がきっちりと締められていないものが多かったように捉えられ、そういったところからも“問題提起”という印象が強くなったのかもしれない。
「商人と錬金術師の門」は、ある種の時間SFなのであるが、SFというよりも教訓を収めた昔ばなし的な味わいの作品であった。
「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」がこの作品群のなかでは一番印象的であった。さまざまな要素が一編の作品に収められている。人間の感情を持つAIロボットの成長訓練について、ソフトウェア会社の先行きについて、AIロボットの成長の先の独立について、さらには男女の仲までも。と、そんな要素が詰め込まれており、あれこれと考えさせられるものとなっている。
「デイシー式全自動ナニー」は、これもまたアンドロイド型家政婦と、幼児との関係について、問題提起をしているかのような内容の作品。
「偽りのない事実、偽りのない気持ち」は、文字による伝達と、映像による伝達との、それぞれの利点や問題点について考えさせられる内容の作品。考えれば考えるほど、どちらがよいとも決めきれない。そういった観点により、“口伝”というものが存在し続けるのもわかるような気がする。
「不安は自由のめまい」は、パラレルワールドを体現できる装置の流通について。その装置をどう役立てるのかが本編の一番の問題点であると思われるのだが、詰まるところ、それをどう金に換えるのかという観点のほうが大きくなりがちになってしまいそう。
極めて私的な超能力 Eichmann in Alaska (Kang-Myoung Chang)
2019年 出版
<内容>
「定時に服用してください」
「アラスカのアイヒマン」
「極めて私的な超能力」
「あなたは灼熱の星に」
「センサス・コムニス」
「アスタチン」
「女神を愛するということ」
「アルゴル」
「あなた、その川を渡らないで」
「データの時代の愛」
<感想>
面白い作品と、そうでもない作品の温度差が結構あるような。長めの作品は読みごたえあったが、短い作品はそうでもなかったかなと。
面白かったのは「アラスカのアイヒマン」。SF設定と歴史的な事件がうまく組み合わさっていたと感じられた。ナチス党員として裁判を受けているアイヒマンとユダヤ人との記憶を“体験機械”によって入れ替えることにより、アイヒマンを悔恨させることを試みるというもの。この作品集しか読んだことがないのに、一番この著者らしい作品ではないかと勝手に思った。
「アスタチン」は、“アスタチン”という座を賭けての生き残りゲームのような内容であり、エンターテインメント小説として楽しむことができるもの。ただ、主人公がやや日和見な人物であるところがもったいなかったような。それにより、ありがちな結末を迎えてしまったように思われる。
その他は(特に短めの作品は)内容をまじめに書きすぎていたという印象。SFというよりは、SFをちょっと添え物とした普通小説・政治的小説・道徳小説といったような内容。
「あなたは灼熱の星に」プロヂューサーらの打ち合わせは軽口であるのに、肝心なエンターテイメントがなされるはずの場面が硬すぎる。極めて今風の作品のような背景であるだけに、なんでこんなに硬い書き方になってしまったのかと疑問。
「センサス・コムニス」 マーケティングコントロールという技術は面白く感じられた。著者の自伝的小説? と思ってしまうような内容。