<内容>
「達也が嗤う」 (「宝石」1981年 昭和56年10月号 「達也が笑う」改題)(「薔薇荘殺人事件」(1960年8月20日 講談社)にも収録)
「ファラオの壺」 (初出不明)
「ヴィーナスの心臓」 (「土曜漫画」 1960年6月9日臨時増刊〜6月10日号)
「実験室の悲劇」 (初出不明)
「山荘の死」 (「産経時事」 1958年3月30日〜4月27日 「山荘の怪事件」改題)
*「ファラオの壺」「ヴィーナスの心臓」「実験室の悲劇」「山荘の死」、以上四編「薔薇荘殺人事件」(1960年8月20日 講談社)に初収録
「伯父を殺す」 (「週刊大衆 1964年12月31日)(「殺意の餌」 1971年11月15日 講談社 に初収録)
「Nホテル・六○六号室」 (「漫画読本」 1964年12月号〜1965年1月号)(「死が二人を分かつまで」 1978年10月25日 角川文庫 に初収録)
「非常口」 (「漫画読本」 1966年6〜7月号) (「金貨の首飾りをした女」 1978年11月20日 角川文庫 に初収録)
「月形半平の死」 (「漫画読本」 1967年9〜10月号) (「呼びとめる女」 1978年12月25日 角川文庫 に初収録)
「夜の散歩者」 (「推理ストーリー」 1967年2月号) (「殺意の餌」 1971年11月15日 講談社 に初収録)
「赤は死の色」 (「推理ストーリー」 1969年5月号) (「鮎川哲也短編推理小説選集5 新赤髪連盟」 1979年1月15日 立風書房 に初収録)
「新赤髪連盟」 (「推理界」 1970年5月号) (「鮎川哲也短編推理小説選集5 新赤髪連盟」 1979年1月15日 立風書房 に初収録)
「不完全犯罪」 (「推理教室」 1959年7月25日 河出書房新社)
「魚眠荘殺人事件」 (「推理教室」 1959年7月25日 河出書房新社)
「達也が嗤う」
私・推理小説家である浦和は、義兄・板原が療養している箱根のホテルへとやってきた。他の滞在客は元陸軍中将の芦刈とその妻・芳江、自称ジャーナリストの帯広達也、後ろめたい過去を持つ江田島ミミ、巨漢の金井龍之介、アメリカ帰りという北田チヅ子。ホテルに銃声が響き、皆が1階の部屋に集まると、そこで板原が死亡していた。その後、さらに帯広達也までが銃で殺害される。犯人は三人の女のうち、誰なのか?
「ファラオの壺」
老人の元から壺を持ち去ったのは、結婚を反対された青年か、それとも甥か。真相に至るヒントは絆創膏?
「ヴィーナスの心臓」
高価な宝石“ヴィーナスの心臓”を盗んだのは誰か? 貧乏詩人、病院の院長、バーのマダム、それぞれが金に困っている。宝石が盗まれる前にマダムのイヤリングが盗まれたのだが、それはこの事件に関係があるのか!?
「実験室の悲劇」
街の科学者の実験室が燃え、死体が発見された。甥が容疑者となったのだが、アリバイがあるようで・・・・・・
「山荘の死」
山荘にて助監督の沢秀夫が毒を飲んで死亡した。山荘に一緒に泊まっていた映画関係者がそれぞれ疑われたが、決定的な証拠はなく、そうこうしているうちに第二の殺人事件が起きる。女優のひとりが絞殺されたのだ。それと同時にひとりの男が遺書を残して死んでいたのが発見されるのだが・・・・・・
「伯父を殺す」
伯父を殺して遺産を相続しようと考えた男。彼は、伯父がガスによる事故死にあったという風に捉えられるよう、計画を企てたのであったが・・・・・・
「Nホテル・六○六号室」
Nホテルで男が刺殺された。アルファベットのEのような文字がダイイング・メッセージとして残され、真珠の一粒がインク壺の中から発見された。四人の男女が容疑者として取り調べを受けたのだが・・・・・・
「非常口」
結婚するために別れてくれない愛人の女の殺害を計画する男。計画通り、女を銃殺し、痕跡を消して証拠を一切残さなかったはずなのだが・・・・・・
「月形半平の死」
カネコは嫉妬により、以前の恋人である月形半平を殺害した。毒で殺害し、自殺に見せかけ、完全犯罪を成し遂げたと思いきや・・・・・・
「夜の散歩者」
仲がしっくりといっていないアパートの住人達。そんな彼らが集まり麻雀大会をしていたとき、銃声が数発聞こえた。慌てて住人たちがアパート内を調べると、ひとりの男が死亡していた。しかし、死因は扼殺であった。一人現場からいなくなった者がおり、容疑者となったもののアリバイがあり容疑から外れる。では、誰がどのように犯行を成し遂げたのか?
「赤は死の色」
男一人、女二人の三人で登山に出かけるも、雨に降られ、人里離れたところに建つ山荘に避難する。そこには無口な主人と、もう一人の避難者がいた。あくる日、女のひとりが殺害されるのだが、果たして痴情のもつれなのか? それとも・・・・・・
「新赤髪連盟」
謎の場所で、わけのわからないアルバイトをしていたというのだが、その目的はいったい何だったのか??
「不完全犯罪」
好きな女の婚約者を殺害しようと、完全犯罪を計画する男。目的となる男を殺害し、自殺に見せかけ、崖から落としたのであるが・・・・・・
「魚眠荘殺人事件」
甥と姪の三人のうちの一人に遺産を残すという遺言状を書いた資産家が死亡した。そして集められた3人。その夜、遺言状を持参した弁護士が殺害されることとなり・・・・・・
<内容>
「白馬館九号室」 (「小説現代」1970年8月号)(「殺意の餌」1971年11月15日 講談社 に初収録)
「ふり向かぬ冴子」(「推理」1970年6月号)(「殺意の餌」1971年11月15日 講談社 に初収録)
「花と星」 (「小説サンデー毎日」1970年6月号)(「殺意の餌」1971年11月15日 講談社 に初収録)
「貨客船殺人事件」 (「小説宝石」1971年1〜2月号)(「殺意の餌」1971年11月15日 講談社 に初収録)
「尾 行」 (「オール讀物」1971年2月号)(「わらべは見たり」1978年6月25日 新評社 に初収録)
「茜荘事件」 (「私だけが知っている」 1961年3月31日 早川書房)
「悪魔の灰」 (「私だけが知っている」 1961年3月31日 早川書房)
「おかめ・ひょっとこ・般若の面」 (「私だけが知っている」 1961年3月31日 早川書房)
<感想>
犯人当ての作品が収められた作品集。この作品集では、1発ネタが多いのが特徴。さらには、倒叙小説が多いので、すでに犯人が分かっているものが多いところも特徴のひとつ。ゆえに、あまり作品として楽しむことはできなかった。最後の三作品(「茜荘事件」〜「おかめ〜」)は、テレビによる犯人当てドラマ、「私だけが知っている」で使われたもので、別の作品集にて既読。
「白馬館九号室」
鮎川哲也自身を思わせるような作家が田舎の辺鄙な旅館に泊まったときに起きた殺人事件を描く。売れっ子歌手が殺害されるのだが、痴情のもつれからの殺人なのか? 警察の捜査も決め手がないまま、事件は迷宮入りとなる。
とあるアイテムが決め手となり、うまく事件をまとめていると思われる。ヒントは何故、テープが燃やされたか?
「ふり向かぬ冴子」
男は、自分の恋人が人生のライバルともいうべきものに取られたことから復讐を決意する。元の恋人を殺害し、ライバルに罪を擦り付けようとする。
電灯のスイッチを利用して、罪を擦り付けようとするが失敗。さらには、もうひとつの決定的な証拠を突き付けられ観念する。このネタは別の作品でも使われていたような。
「花と星」
流行作家が気の強い妻を殺害して、愛人と一緒になろうと計画を立てる。完全犯罪をもくろみ、計画を実行したのだが・・・・・・
ちょっとした偶然により警察は殺人事件だと気づき、夫を疑い始める。そして、計画を練り過ぎた故に、とあるアイテムから犯行が暴かれることとなる。
「貨客船殺人事件」
船の上で起きた殺人事件。浮気性の女ゆえに痴情のもつれから殺害されたのだろうと思われたのだが・・・・・・
ハンガーに吊るされた長襦袢の位置から犯人が論理的に指摘されてゆくこととなる。本書のなかで、解答編が一番長い作品。痴情のもつれによる事件の発端はともかく、推理に関しては、読み応えあり。
「尾行」
妻が探偵に尾行を命じたようで、夫は浮気がばれそうになる。そこで夫は先手を打って、愛人と共に妻を殺害する計画を練り、実行する。
問題編の後、何を読者に問おうとしているのかがよくわからなかった。警察は時計のガラス片の状況により、犯行現場は室内と断定する。さらに別の証拠からアリバイトリックを看破することに。
「茜荘事件」
茜荘に集められた者を雑誌記者が脅迫してゆく。その脅迫者が何者かによって殺害される。
推理が披露されるものの、それだけでは犯人は特定できないと思われるような微妙なもの。
「悪魔の灰」
ブロンズ像に灰がかけられるといういたずらが続いたのち、屋敷の主人が殺害される。しかし、その主人は余命いくばくもなく、わざわざ殺害される理由もないはずなのだが・・・・・・
実際できるかどうかは微妙ではあるが、趣向としては面白い。“灰”の謎が絶妙と言えよう。
「おかめ・ひょっとこ・般若の面」
館で連続殺人事件が起こる。作家である当主の妻が書いた作品と同じように、死体に“おかめ・ひょっとこ・般若”の面がかぶせられてゆく。
うまくできたアリバイトリックと言えよう。レコードについては添え物であるが、鮎川氏なりのこだわりであったのだろう。
<内容>
「ドン・ホァンの死」 (「別冊小説宝石」1971年12月号 「束の間のドンホァン」改題)(「砂の時計」1974年11月10日 毎日新聞社 に初収録)
「ポルノ作家殺人事件」 (「現代推理小説体系9、4月報」1972年4、6月 講談社)(「砂の時計」1974年11月10日 毎日新聞社 に初収録)
「砂の時計」 (「別冊小説現代」1972年7月号)(「砂の時計」1974年11月10日 毎日新聞社 に初収録)
「葬送行進曲」 (「別冊小説現代」1973年1月号)(「鮎川哲也短編推理小説選集6 写楽が見ていた」1979年2月15日 立風書房 に初収録)
「詩人の死」 (「週刊小説」1973年8月3日号)(「鮎川哲也短編推理小説選集6 写楽が見ていた」1979年2月15日 立風書房 に初収録)
「死人を起す」 (「紙魚の手帖」7号(1983年11月)、9号(1984年1月)) (「葬送行進曲」1988年9月25日 集英社文庫 に初収録)
「二つの標的」 (「EQ」1984年1月号)(「貨客船殺人事件」1986年1月20日 光文社文庫)
「七人の乗客」 (「私だけが知っている 第一集」1993年8月20日 光文社文庫)
「終着駅」 (「私だけが知っている 第一集」1993年8月20日 光文社文庫)
「占魚荘の惨劇」 (「私だけが知っている 第二集」1993年12月20日 光文社文庫)
「密室の妖光」 (特別収録)(「別冊小説宝石」1972年3月号)(「鮎川哲也の密室探究」1977年10月28日 講談社 鮎川哲也編纂アンソロジー)(「密室探究 第一集」1983年8月15日 講談社文庫 上記の文庫版)
<感想>
「ドン・ホァンの死」
社内旅行中、ひとりのもてる男がそれまでもてあそんだ女たちから恨まれ、そして殺害される。その後、さらなるもうひとつの殺人事件までもが生まれる。女たちの誰が殺人犯なのか? という疑惑のなか真相が明かされるのだが、動機云々と推測云々のみでの解決になっており未消化気味。話の流れ的には十分に理解できるのだが、決め手に欠けた。
「ポルノ作家殺人事件」
ポルノ作家の弟子が、師匠の妻と不倫関係に陥ったことにより、師匠を殺害する計画を練る。しかし犯人は計画実行時にミスを犯して警察に捕まってしまう。テープレコーダに残された証拠(残されたなった証拠!!)が、しっかりと犯人を告発している。
「砂の時計」
人気バンドのなかでメンバーの確執から起きた殺人事件。被害者は手に砂時計を持っていた。砂時計によるアリバイ交錯が露見されての犯人逮捕となる。決め手云々というよりも、わざわざ犯人が行ったアリバイ工作のほうが余計ではなかったかと気になってしまう。
「葬送行進曲」
多額の借金を負ったため、バンドの仲間を殺害しようと計画する男の話。別の女に犯行を押し付けようとするのであったが・・・・・・。電話とラジオの音の関係によりアリバイ工作場ばれる。「ポルノ作家殺人事件」と、犯行工作の暴かれ方が似ているような・・・・・・というか、このころはこういうタイプの作品が多いような。
「詩人の死」
条件の良い結婚を果たすために、ろくでなしの詩人の彼氏と別れようと殺外工作を練る話。ビール瓶の指紋により犯行が特定されるという、なかなか面白い趣向の内容。
「死人を起す」
幼馴染を恨みから殺害し、猟銃による自殺と見せかけた工作を行った事件。これも「ポルノ作家殺人事件」と「葬送行進曲」との同様の手続きのもの。
「二つの標的」
作家が宿泊施設に来た際に、同じところに泊まっていたコーラスグループらが巻き起こした毒殺未遂と殺人事件。電話のなる時間をうまく犯行証明に用いたもの。タイトルから垣間見える動機が良く出来ていると感じられた。
「七人の乗客」
雪の中の別荘で起きた殺人事件。バスに乗り合わせた7人の乗客のうち誰が犯行を行ったのか。電灯とそこに置かれた本によって犯行が暴かれる。シンプルながらうまく出来ていると思われる。
「終着駅」
雪で立ち往生した列車のなかで起きた殺人事件。イラストが事件の決め手を描いている(ライター)。これもシンプルながらよく練られていると感じられた。
「占魚荘の惨劇」
山荘にておきた殺人事件。ひとりの者が殺された後、その犯行を見ていたと思われるものが、口封じのため殺害されてしまう。被害者から直前に警察へと電話が来たのであったが・・・・・・。アリバイ工作がうまく出来ていると感じられた。中編小説あたりにしても読み応えは十分と思われる。ストーリーは良かったのだが、犯行を暴くネタとしては弱かったような気がした。
「密室の妖光」 (特別収録)
なんと著者当てという趣向の作品。(問題編)を大谷羊太郎が書き、(解決編)を書いた覆面作家Xが誰かを当てるもの。当然、Xは鮎川哲也。こうした趣向により、鮎川哲也個人の作品集には当初、掲載されていなかった。
聞こえるはずのない赤ん坊の泣き声により露呈した事件。家の鍵がしまっていたことから自殺とみられたのだが、やがて警察は犯人がなんらかのトリックを使った殺人とみなして捜査する。音楽プログラムによるややこしいアリバイ工作の露呈により犯行がばれるのかと思いきや、その他にしっかりとした証拠が残されていたところが見事。リレー小説のわりにはしっかりできていたなと感心。
<内容>
「白昼の悪魔」 (1956年07月「探偵実話」)
「誰の屍体か」 (1957年05月「探偵倶楽部」)
「五つの時計」 (1957年08月「宝石」)
「愛に朽ちなん」 (1958年03月「宝石」)
「古 銭」 (1962年06月「エロチックミステリー」)
「金貨の首飾りをした女」 (1966年08月「別冊宝石」)
「首」 (1976年02月「野生時代」)
<感想>
「白昼の悪夢」
原っぱで発見された女の死体。現場に落ちていたネクタイピンにより犯人は特製されたかと思いきや、そのネクタイピンを紛失したと、興信所を経営している鵜ノ木という探偵が訪ねてくる。彼は、社員のひとりを告発するのだが・・・・・・
女記者が積極的に事件を捜査し、それで得た事実を鬼貫に持ち寄るという変わった趣向。現場に落ちていた広告がアリバイトリックの鍵となる。何気にスケールの大きい、大がかりなトリックがなされている。殺害された被害者が、単にとばっちりというところがなんとも・・・・・・
「誰の屍体か」
3人のもとにそれぞれ送られてきた“硫酸”“拳銃””ビニールのひも”。その後、発見された指紋を硫酸で焼かれた首なし死体。3人のもとに送られてきたものは、殺害現場で使われた凶器を示しているのか? 首なし死体の被害者は岡部という芸術家らしいが、事の真相は!?
変わった趣向で始まる事件。3つの謎の物体が、別々の3人のもとに届けられ、その後首なし死体が発見されるという事件。この作品も「白昼の悪魔」のような感じで、女性探偵が積極的に捜査を進め、事件の証拠と思われるものを鬼貫のもとへと持ってくるという展開。女探偵が推理を披露するものの、鬼貫はそこからさらなる別の真相を暴き出す。女探偵は缶に付けられた指紋から捜査を覆し、鬼貫はついたての銃痕からさらなる推理を展開させる。うまく考えられたアリバイトリックと感嘆。
「五つの時計」
逮捕した容疑者は無実ではないかと話を持ち掛けられる鬼貫。容疑者にアリバイがない等、計画的に容疑をかけられたのではないかと。そこで指摘された別の容疑者を探ってみるものの、あまりにも強固なアリバイが! だが、そのアリバイは強固過ぎて、あまりにも作為的ではないかと・・・・・・
ガチガチなアリバイ崩しもの。前の2作に続いて、この作品でも鬼貫が女性を前に、アリバイトリックを解き明かす。鬼貫は容疑者のアリバイトリックは時計を進めたことによるものではないかと考える。その容疑者の行動のなかで5つの時計が出てくるのだが、それらすべての時間を意図的に変えることはできるのか? 自分の家の時計であれば変えることは容易であるが、第三者の時計をどのようにして変えるというのか? といったところがポイント。犯人による周到なアリバイが見事に作りこまれている。また、そのトリックを証明するための証拠がしっかりと残されているところも見事。
「愛に朽ちなん」
机が入っているはずの箱の中から出てきたのは女の死体であった。運送元から送られた二つの大きさの異なる箱。中身は両方とも同じ机で、ひとつのトラックによって、片や静岡、片や大阪へと運ばれた。それがいつのまにか大阪行きの箱の中身が女の死体になっていたと・・・・・・
今までのアリバイトリックものとは趣向が変わった内容の作品。注目すべき点は、入れ替えトリックなのかと思いきや、別のところに主題があった。それが知識によるものであり、平成・令和の時代であれば、ピンとこなさそうなもの。そんなわけで一風変わったトリックもの<。
「古 銭」
希少価値のある古銭を巡って起きた殺人事件。事件後しばらくしてから古銭が見つかり、その出所をだどると・・・・・・
事件のネタとしては変わったものを扱っているが、ミステリとしては普通のアリバイトリック。ここでは日付に関する、大がかりのようでありながら、ちょっとした作業のようなという一風変わったトリックが使用されている。ただ、結末の一言があっけない。
「金貨の首飾りをした女」
夜の公園で「いとこなんてものは他人も同然なんだ」という声を聞いた女が声の主を確かめようとすると、そこで死体を発見することに。その証言により被害者のいとこが容疑者とされるのであったが・・・・・・
アリバイのみならず、物語の構成も面白い。昔の知り合いに会って、突如羽振りがよくなった男。謎のアルバイトを紹介された失業者。そして殺人事件。アリバイは、バスのなかで言い争っていた男女の姿。と、さまざまな要素てんこ盛り。それらがうまく一つの物語として収束されている。アリバイトリック云々よりも、全体的によくできていると思えたミステリ作品。
「首」
商店街を襲う、謎のいたずら電話。あるとき、そのいたずら電話により、殺人事件の存在が明るみに出る。廃墟となった屋敷の小屋で死体が発見されたのだ。しかも首なしで、指紋は焼かれているという状況。被害者の身元がわからないなか、とある会社の専務が行方不明になったという知らせがあり・・・・・・
いたずら電話、首なし死体、謎の被害者、予想される動機、そしてアリバイトリック。アリバイについては、ちょっとした手法を使うことによって強固なアリバイを作り上げている。しかし、それを鬼貫がとある知識により、見事に犯人のアラを暴き出している。首なし死体に関しては、被害者がすぐにわかったので、微妙と思われたが、そこにも一工夫用いられている。
<内容>
「碑文谷事件」 (「探偵実話」1955年11月 初出「緋紋谷事件」)
「1時10分」 (「探偵実話」1956年2月)
「早春に死す」 (「宝石」1958年2月)
「見えない機関車 -二宮心中-」(「宝石」1958年10月 初出「二ノ宮心中」)
「不完全犯罪」 (「宝石」1960年4月)
「急行出雲」 (「宝石」1960年8月)
「下り『はつかり』」 (「小説中央公論」1962年1月)
<感想>
「碑文谷事件」
旦那が留守の間に妻が殺害された事件。被害者の山下小夜子は夫が留守ということで友人の竹島ユリを呼んでいた。ユリは夜に目が醒め、何者かが家に侵入していることを発見するが、かろうじて男が持っていたカバンのイニシャルを見て取ることができたのみ。その後、ユリは小夜子が殺害されているのを発見する。夫の一郎が疑われたものの、彼には強固なアリバイがあった。列車内で男と話し、俳句を披露していたことと、旅先で先帝祭の行列の写真を撮っていたという二つのアリバイ。それにより、事件の目撃者であるユリが疑われ重要容疑者となるが、鬼貫は山下一郎を疑い続け、なんとかアリバイを崩そうと・・・・・・
二つのアリバイトリックが用いられているものの、一時しのぎてきなもののように感じられ、突き詰めて捜査すれば、すぐばれてしまうのでは? というような内容。それとも加害者にとっては、一時的にその場をしのげれば、それで良かったと言うことなのであろうか?
「1時10分」
放送プロデューサーの稲田登が殺害された。生前に電話をかけていたことから死亡時刻が絞られることに。その後、さらに彼と秘密裏に結婚していた女優の丘リリ子も殺害されることに。稲田と付き合っていたネリー絵島が痴情のもつれから殺害したのではないかと考えられ、容疑者となる。しかも、車に殺人現場の土がついていたという物証もあり、決まりかと思われたのだが・・・・・・思わぬところから、遺産相続の話が明るみに出て、別の容疑者の存在が明らかになる。しかし、容疑者にはアリバイがあり・・・・・・
なんとなく、余計なアリバイトリックという気がしてならなかった。トリックを用いたことにより、それが暴かれれば真犯人の犯行が完全に確定してしまうというような。最後の幕の引き方は、警察もののシリーズとしては、結構派手な場面を作り出したものとなっている。ちなみに本編では田所警部が主役で、鬼貫警部はヒントを出すという役のみ。
「早春に死す」
女と駅で待ち合わせをしていた男が東京駅の外れの工事現場で死亡しているのが発見された。被害者はどうやら列車に乗り遅れ、女との待ち合わせに遅れたらしい。しかし、その被害者が何故、殺害されなければならなかったのか。容疑は、被害者と共に同じ女性を狙っていた男にかけられるのだが、容疑者にはアリバイがあった。刑事たちは、容疑者は白だと、あきらめかけるのであったが、鬼貫のみは容疑者のアリバイを崩そうと必死に考え・・・・・・
一見、普通の電車の時刻表を用いたアリバイ崩しもののようであるが、実は一ひねりなされた作品。発想の転換により、犯行時の関係者たちの行動が明らかとなる。なかなかうまくできた作品。
「見えない機関車」
剣豪作家が殺害された事件。容疑者が浮かんだものの、強固なアリバイがあった。その男は事件当日、女と二人で心中を図ろうとしていたというのだ。線路沿いで睡眠薬を飲んで昏倒しているところを発見された二人。アリバイは確かなものだと思われたのだが・・・・・・
ここに出てくる路線と列車のその内容が事実かどうかはわからないのだが、事実であればよくぞ調べたなと感じざるを得ない。とはいうものの、はたから見ると、このアリバイ工作そのものが嘘くさいと警察に疑われそうな内容ではあるが。何しろ、その当日二人がいた場所があまりにもはっきりしていなさ過ぎと思えてならない。
「不完全犯罪」
共同経営者から汚職について指摘された男は、相手を殺害しようと完全犯罪を計画する。列車での強盗事件に見せかけた計画は、完全犯罪のように思われたが、加害者の性癖から思わぬ事態が・・・・・・
完全犯罪を企てるという話ではあるものの、計画そのもののみならず、実行過程においても、結構粗があるような犯罪が成されている。ただ、その計画云々が焦点ではなく、犯罪を成したものの性癖により、尻尾をつかまれてしまうという過程を見せつけたかった作品であると思われる。ちなみに、最後にちょこっと出てきたのが鬼貫警部?
「急行出雲」
女子学生を恐喝していた男が何者かに殺された。女子学生の婚約者が殺害したのではないかと疑われ、警察から事情聴取を受けることに。当日、彼は旅行斡旋業者をしている義弟に手配を頼んだ、急行出雲に乗ったというのだ。警察は事件当日、その車両に乗ったものを探し出したものの、当の容疑者の姿は見ていないと証言する。これで男が逮捕されることが決まりかと思われたのだが、鬼貫警部はさらなる推理を進め・・・・・・
こういう列車が存在するという知識を生かしたトリックである。実際に著者はこのようなものを見たのかもしれないが、そこからこれをアリバイトリックに利用しようという考えこそが見事と言えよう。
「下り『はつかり』」
古びたアパートで女が殺されていた。その部屋から出てきたと思われる有名シナリオライターが目撃されており、男は容疑者となる。男は写真によるアリバイを主張し、自分は犯行を犯すことができないというのであったが・・・・・・
電車物というか、写真トリックという趣が強いような気がする。今では味わえない、当時ならではのフィルム写真によるトリックが懐かしく思えてならない。
<内容>
「青いエチュード」 (「動向」 1956年10月〜12月)
「わるい風」 (「オール讀物」 1963年05月)
「夜の訪問者」 (「推理界」 1967年07月)
「いたい風」 (「小説新潮」 1969年03月)
「殺意の餌」 (「小説宝石」 1970年03月)
「MF計画」 (「週刊小説」 1974年03月15日)
「まだらの犬」 (「別冊小説宝石」 1975年09月)
「楡の木荘の殺人」 (「宝石」 1951年05月)
「悪魔が笑う」 (「宝石」 1951年08月)
<感想>
「青いエチュード」
青年社長の東山は自分の会社の秘書と付き合い、はらませたのだが、別の女を好きになり、女秘書を殺害しようと計画を練る。恋人の女と共謀してアリバイを作り、女秘書を殺害し、自殺と見せかけ自分の別荘に放置し・・・・・・
なかなか凝ったアリバイトリックであると感じられた。うまく男女で共謀して、細やかな計画を実行している。ただ、細かすぎて破綻しやすそうに思えてしまう。鬼貫警部が犯行時のミスをついて犯人を指摘するのかと思ったのだが、なんと心理的に犯人を追い詰めるという結末。さまざまな小道具が活かしきれていなかったような。
「わるい風」
ひとりで行っている歯科医のもとに緊急の客が来た。なんとその男は、歯科医の娘を手玉に取って、自殺させた張本人。歯科医は拳銃で銃殺し、死体を別の場所に運び・・・・・・
鬼貫警部により歯科医の犯行が暴かれる。犯行時のアリバイを崩すのは“ちょっとした数字のメモ”。これはなかなか面白い発想であった。ただ、犯人を歯科医と特定したというのは、ちょっとやり過ぎのような。
「夜の訪問者」
事件が起きたのちに死亡したことにより殺人事件の犯人とみなされたままで始末されてしまった夫の無実をはらしたいと「スバル興信所」堀三郎は依頼される。自宅でホステスの女が撲殺された事件。もうひとり、別の女も走査線に上がっていたものの、被害者が出前を頼んだ電話により、アリバイが成立していた。堀はそのアリバイを崩そうと・・・・・・
鬼貫警部は名前が出てくるのみで、事件の捜査と解決は私立探偵の堀三郎が行なっている。出前の電話と、一見ライターに見えるコンタクトレンズの箱からアリバイを崩している。論理的な部分もあり、うまくできていると思われる。
「いたい風」
ロシア人妻を持つ塩田。知人の要請により、青地という男に妻がロシア語を教えることになった。しばらくすると妻が青地と不貞の関係になったと感じられるようになり、嫉妬に狂った塩田は青地を殺害したうえで、妻を容疑者にしようと計画を練る。痛風に苦しむ青地を襲い、殺害し、現場の偽装を仕立てたのだが・・・・・・
殺人を犯すまでの物語の仕立て方については、かなり念が入れられている。その割には事件解決に関しては、かなり淡泊気味。事件解決の糸口も、ちょっとした会話の中に細かく入れられているというものに過ぎない。事件の真相を割り出す警察官は、名前は提示されず、“顎のはった中年の警部”という描写のみ。
「殺意の餌」
ホステスと仲良くなった昭二であったが、会社の出世に響くことを考え、女との関係を清算することを考え始める。そんなとき、昭二はホステスと同乗する車でひき逃げ事件を起こしてしまう。ますますホステルと別れることができなくなった昭二は、女を毒殺することを決意し・・・・・・
短編作品でありつつも、さらに短めの作品。解決はいたって淡泊。それでも、毒殺の過程において、ちょっとしたミスをついた真相が明かされることとなる。こちらも“顎のはった中年の警部”が真相を看破する。
「MF計画」
漫才コンビを解消しようと思った男は相方から過去に詐欺を起こしたことをネタにされ、コンビを解散することができずにいた。そこで電話を用いたアリバイトリックを実施し、相方を殺害したのだが・・・・・・
“MF”というものにさほど意味はなく、煙草の銘柄らしい。捜査主任だという顎が左右に張った中年の警部が容疑者に詰め寄る。これまた、きっちりと動機や犯行部分を書き上げている割には、解決部分があっさりしすぎている。容疑者からすれば、もっと粘ることができそうな気がしたが。
「まだらの犬」
会社の女性職員が毒入りのウィスキーボンボンにより殺害された事件。最初はこの女性職員に恨みを持つ者の犯行かと思われたのだが、該当者には強固なアリバイが。そうしたとき、別の殺人事件が浮上し、その事件のかかわりによって殺されたのではと捜査陣は舵を切り直すこととなり・・・・・・
文庫本で100ページのちょっと長めの作品。タイトルは「まだらの犬」となっているものの、そこまで犬に重要性があるかどうかは疑問。ただ、他に良いタイトルを付けることができるかといえば、なかなか難しい。この作品は、ページ数が長めと言うこともあり、色々と物語を紡ぎつつ、話を進めているので、さまざまな要素が出てくる。最初は“ウィスキーボンボン殺人事件”とでも名付けたいところであるが、後半になると“残された革靴”とでも名付けたいようなものとなっている。こちらは鬼貫警部がしっかりと登場するものの、最後に容疑者を攻め落としているのは・・・・・・一風変わった方策がとられている。
「楡の木荘の殺人」
鬼貫警部がアニツーラから緊急の電話を受け、現場へと向かう。そこで見た者は顔にペンキが塗られた射殺死体。アニツーラを家まで届けてゆくと、そこではアニツーラの父親が拳銃自殺を遂げているのが発見される。両方の事件で同じ拳銃が使われていたのだが、アニツーラの父が事件を起こすのは、時間が足りず・・・・・・
どういう経緯なのかはわからないが鬼貫がロシアのとある地方へと出向いた際に起きた事件。旅行ではなく、普通に刑事として勤務しているように思える。そこで起きた不可能事件の謎に挑む。殺されていたのは恐喝者故に、自殺した男が殺害したのだろうと思われるものの、犯行時刻が合わないために不可能犯罪とされてしまう。そのアリバイトリックが鬼貫により解かれることに。ペンキを塗られていたとかの装飾は面白そうな感じではあるが、普通に簡単なアリバイトリックがなされている。解き明かされてみれば、非常に足が付きやすいものであり、むしろトリックなど使わなくてもよさそうな気がするが、そこは情によって突き動かされた故であろう。
「悪魔が笑う」
ロシア人巡査が勤務していた際、路上で2発の銃声と笑い声が聞こえた。倒れていた女性から、犯人の名前が告げられ、事件は即解決するかと思われた。しかし、その相手にはアリバイがあり、犯行時刻に事件を起こすことはできないはずであり・・・・・・
「楡の木荘の殺人」に続き、鬼貫がロシアで事件の謎を解くという趣向の物語。アリバイトリックを解き明かすこととなるのだが、トリックというものではなく、偶発的故に計画性云々という内容のものではなかった。
<内容>
「北の女」 (1966年08月「小説現代」)
「汚 点」 (1964年03月「推理ストーリー」)
エッセイ 「時刻表五つの楽しみ」
「下着泥棒」 (1967年06月「小説現代」)
「霧の湖」 (1960年10月「サンデー毎日特別号」)
「夜の疑惑」 (1961年07月「週刊大衆」)
エッセイ 「私の発想法」
<感想>
「北の女」
アパートで発見された女の扼殺による死体。発見者である女の恋人が容疑者となり逮捕。その事件に対し、とある新聞記者が疑問を抱く。生前に被害者が病院で医者と口論していたというのだ。ただ、その医者には動機も見当たらないし、強固なアリバイもある。特ダネ目当てに新聞記者は捜査を進めてゆき・・・・・・
物語とアリバイトリックのそれぞれがきちんと作り上げられている良作。電話、香水といったものを用いた、丁寧なアリバイ工作は目を惹くものがある。また、動機に関しても、丁寧に創り上げられている。
「汚 点」
バー“愛子”のそばで男性の死体が発見された。警察が身元を確認すると、被害者は銀行員で、前日に“「愛子」へ行く”と予定表に書き残して出ていったという。ただ、“愛子”に被害者は顔を出していなかった。被害者のスーツにはニスで汚れた後がついており・・・・・・
“愛子”とニスがポイントとなっているミステリ。この“愛子”のネタからストーリーを組み立てたのではなかろうか。最後はアリバイ崩しというほどでもなく、なし崩し的に解決していったような気がする。潮という刑事が活躍する作品。
「下着泥棒」
新聞記者の峰は、殺人事件が起きたビルで怪しげな男を発見し、跡をつけようとするもビルから落ちて骨折。挙句の果てに、下着泥棒と間違われることに。汚名を返上しようと、ビルで起きたストリッパー殺害事件の謎を解き明かそうとする。
洗濯物の乾き具合からアリバイトリックをやぶるきっかけを見出す作品。病床に就く記者の代わりに後輩が動き回り、捜査を行い、記者が安楽椅子探偵のごとく謎を解き明かす。内容云々よりも、騒動に巻き込まれた記者の哀愁に印象が残る作品。
「霧の湖」
霧の湖で発見された女の死体。最初は自殺と思われたが、着物の着付けが逆になっていたために殺人事件と疑われ、その結果、不倫相手の旅館経営者が逮捕される。その経営者の妹で大学生の冴子は恋人である大学助教授の芦田に頼み、兄の無実を晴らしてもらおうとする。容疑者は、自分の旅館の温泉と同じ成分の硫酸ナトリウムが死体から発見されたことにより逮捕されていた。
温泉の成分が鍵となる事件。見所としては、珍しいものの、それだけともいえる。というか、警察の捜査でなんとかならなかったのかと。
「夜の疑惑」
スバル探偵社の瀬戸は女性からの電話により、依頼を受けることとなった。とある女をつけて、その動向を見極めてもらいたいと。その依頼通りに女を付けたものの、その後、瀬戸が脅した会社社長が殺害され、瀬戸が容疑者となることに。どうやら瀬戸が女をつけていた間に、社長は殺されていたらしい。何者かにはめられたと悟った瀬戸は、警察から逃れ、単独で真犯人をみつけようとするのであったが・・・・・・
100ページ強の中編作品。単なるアリバイ崩しだけではなく、とあるトリックも用いられた作品となっている。途中、探偵役が私立探偵から新聞記者へと変わることになるのだが、そうした展開はかなりご都合主義的な感じの作品と受け取れた。最後まで読んでみれば、ガチガチのミステリというよりも、ユーモア色のあるミステリという感じに仕立て上げた作品というように捉えられた。とはいえ、最後の展開は行き過ぎのように思えたのだが。
<内容>
NHKの謎解き番組「私だけが知っている」における鮎川哲也原作のシナリオ集。
「白樺荘事件」 (昭和33年8月31日 午後8時30分〜9時)
「遺 品」 (昭和33年9月28日 午後8時30分〜9時)
「俄か芝居」 (昭和33年12月8日 午後7時30分〜8時)
「悪魔の灰」 (昭和34年2月1日 午後8時30分〜9時)
「アリバイ」 (昭和34年3月22日 午後9時〜10時)
「茜荘事件」 (昭和34年8月2日 午後9時〜9時30分)
「弓矢荘事件」 (昭和34年9月6日 午後9時〜9時30分)
<感想>
「白樺荘事件」
女を殺害したものを三人の中から選ぶもの。きっちりと伏線が張られている被害者のイヤホンの状況により、論理的に犯人をあてることができる。
「遺 品」
密室のなか、銃により殺害されたという状況。しかし、現場に銃はない。2枚の絵により、発見時とその後の状況が描かれているのであるが、これを見ると全てが簡単にわかってしまう。やや難易度低目。
「俄か芝居」
金融業者を殺害したのは誰か? 訪ねてきた3人のうち、嘘を言っているのは誰? 死体に石灰がかけられているというのがポイント。事件の隠ぺいの仕方や、伏線がうまいと感じられる。
「悪魔の灰」
余命いくばくもない教授が殺害されるという事件。事件前にブロンズ像に白い灰がかけられ、被害者にも白い灰がかけられているという謎。なかなかおもしろいトリック。実行には無理があるように思えるが、発想は面白い。
「アリバイ」
犯行を行ったものをアリバイから解き明かすというものだが、ミステリ・クイズとしては難あり。というか、伏線が張られていないような。
「茜荘事件」
難易度高め。殺害後、被害者が何故屋内から屋外に運ばれたのか? という点から論理的に解を導き出すという趣向。
「弓矢荘事件」
二つのセーターの存在から、論理的に解を導き出すという趣向。
<内容>
NHKの謎解き番組「私だけが知っている」における鮎川哲也原作のシナリオ集。
「おかめ・ひょっとこ・般若の面」 (昭和34年10月18日 午後9時〜10時)
「翡翠のブローチ」 (昭和35年1月31日 午後9時〜9時30分)
「制服の乙女」 (昭和35年4月3日 午後9時〜9時30分)
「観山荘事件」 (昭和35年5月1日 午後8時45分〜9時30分)
「青嵐荘事件」 (昭和35年7月31日 午後8時45分〜9時30分)
「騎士と僧正」 (昭和35年10月30日 午後8時45分〜9時30分)
<感想>
「おかめ・ひょっとこ・般若の面」
挿絵からレコードが事件のヒントとなっているという事はわかるのだが、その解答は若干わかりづらい。もう一つの特徴であるお面を使ったアリバイトリックのほうはわかりやすかった。
「翡翠のブローチ」
ホテルで起こるのは殺人事件ではなく、殴打事件。ただし被害者は加害者の姿を見ていなかった。犯行は個人によるものの、隠蔽操作は利益がからんだ複数のもので行われるという変わった内容。
「制服の乙女」
女学院の宿舎で舎監が殺害されるというもの。アリバイトリックでありつつも、動機さがしでもある。消去法でありつつも、しっかりと凶器が犯人を指し示すものとなっている。
「観山荘事件」
俳優や女優たちが泊まる山荘にて起こる連続殺人事件。挿絵が重要なヒントとして用いられているのだが、それが分かりやすすぎたような。
「青嵐荘事件」
嫌われ者の資産家が殺害された。屋敷に集まっていた、甥、姪、秘書ら動機を持つものは多数。どのようにして毒殺をしたのか? ということよりも、純然たるアリバイトリック。それにより、どのようにして毒を入手したのか? が問題となる。
「騎士と僧正」
遊覧船上で起きた殺人事件。被害者はチェスの駒を手にしていた。アリバイトリックであるのだが、肝心のアリバイが当時の風習をしらねばわかりにくいというもの。それゆえ、挿絵のラジオを見てもピンとこなかった。まぁ、その当時のミステリクイズゆえに、仕方のないことなのだが。