<内容>
降矢木算哲博士は一度も住まず5年しか経っていない館の内部を大改修した。人々からは“黒死館”と呼ばれるその館。改修後、そこに住む者達は次々と不可解な自殺を遂げていた。そうして当主である降矢木算哲までもが自殺をし、さらなる惨劇が幕を開けることとなる。
現在、黒死館に住むのは算哲の息子・旗太郎と、算哲が連れてきた4人の外国人、そして使用人たち。4人の外国人のうちの一人、グレーテ・ダンネベルグ夫人が神秘的な状態で死んでいるのが発見される。なんと死体となったダンネベルグは自ら光を放っていたのである。
さらに、館に住む者たちへの殺害予告が見つかり、その予告にそうように次々と殺人事件が起きてゆく。次々と起こる事件に法水麟太郎が見出した真相とは!?
<感想>
ついに永遠の積読と思われた一冊を読破! 普通の積読のように、なんとなく読まなかったとかではなく、読もうとして挫折した作品。それをどうにかこうにか読みとおしたわけだが・・・・・・読了したにもかかわらず、結局よくわからない。
大まかな(かなり大まかな)内容については理解できる。黒死館というところで次々と住人が奇怪な死を遂げるというもの。だが、それ以外はほとんどよくわからない。奇怪な死を遂げると書いたものの、その状況が幻想的過ぎてよくわからない。事件を捜査しているはずの法水麟太郎がどのように捜査を進めているのか、よくわからない。最後に真犯人の名が告げられるものの、それにも関わらず全貌が全くわからない。
といった、不可思議な作品。歴史的価値として、こういった不可思議な館で起こる連続殺人事件を描いた作品は、当時他の作家によっては書かれていなかったのではなかろうか。新本格ミステリ台頭後の今であれば珍しくはないが、その前の作品と考えると、代表作的なものを挙げようとしても思いつかない。また、他の作家では描きようのない怪しげな小栗虫太郎ならではの作風に彩られているというのも大きな特徴なのであろう。
そう考えれば、確かに日本三大奇書の名にふさわしい怪作と言えよう。本来、一度読んでよくわからなかった作品については再読することを考えるのだが、この作品については再読したからといって理解できるとはというてい思えない。果たして、生きている間にもう一度読むことがあるのかどうか。それでも、本棚の一角にとどめておくことは間違いなかろう。
<内容>
手に入れれば多大なる財産を得ることができるといわれるシドッチの石。1700年代に伝わったとされる石は、明治時代にさまざまな事件を起こし、さらに時を経て、“紅殻駱駝”という言葉の謎と共に新たな事件が起きることとなり・・・・・・
<感想>
小栗虫太郎氏の第一長編。ミステリというよりは冒険小説という感じ。そしてなんといっても、先鋭的に感じられるタイトルに惹かれるものがある。
最初はシドッチの石の存在や、謎の“紅駱駝”もしくは“紅殻駱駝”という呼び名が紹介されてゆく。そこから、あまりに奇抜さに閉口してしまうイエス・キリストまでもが登場するシャーロック・ホームズ劇。さらには、シドッチの石を巡っての2世代にわたる犯罪模様。
本書は小栗虫太郎氏の作品としては読みやすいほうだと思えるが、中盤以降からはついて行くのがしんどくなっていった。ホームズ劇くらいまでは結構面白かったのだが。
それでも小栗氏の物語を書き上げるという力量について、ただただ感嘆させられる作品。それは決して一般受けするようなものではないかもしれないが、ここまで不可思議で壮大な物語を強引に書き上げる作家としての力に恐ろしいものを感じとることができる。後に“黒死館”というような怪作を書き上げてしまったのにも納得させられる。
<内容>
帝都にペストが大流行したとき、その裏に潜む陰謀を暴き出すため、法水麟太郎は死の商人・瀬高十八郎に挑む。九州某所に幽閉された謎の鉄仮面の正体とは!?
<感想>
小栗虫太郎氏による、探偵・法水麟太郎が活躍する作品であるのだが、今作はミステリではなく完全なる冒険ものとなっている。法水麟太郎がスパイを暴き出す(?)のか何なのか、何やらアグレッシブに行動している。
本書はとにかく内容がわかりづらい。場面がいつの間にかきりかわっているかと思えば、矢継ぎ早に事が起こり、密書や手紙が都合のいいように消えたり、現れたり。そんな感じで、どんどんと話は流れていくものの、物語の核心部分がどこにあるのかが読み進めていってもよくわからない。タイトルになっている鉄仮面を付けて幽閉されている者の正体を暴くのがメインなのかと思いきや、結局さほど重要そうな感じでもなく、とりあえず冒険ものっぽい作品を書いてみたというような感じしか伝わらなかった。
あとがきをみて(読んだのは河出文庫版)、その内容や物語の焦点などを確認したかったところなのだが、なぜかそのあとがきで、本書の内容に全くと言っていいほど触れていなかった。解説者にとっても理解不能な物語であるのかな??
<内容>
第 一話 有尾人
第 二話 大暗黒
第 三話 天母峰
第 四話 「太平洋漏水孔」漂流記
第 五話 水棲人
第 六話 畸獣楽園
第 七話 水礁海
第 八話 遊魂境
第 九話 第五類人猿
第 十話 地軸二万哩
第十一話 死の番卒
第十二話 伽羅絶境
第十三話 アメリカ鉄仮面
<感想>
タイトルの通り、魔境を舞台に繰り広げる冒険活劇が描かれた作品。といいつつも、本当に冒険活劇らしきものが描かれていたのは最初の「有尾人」くらいであったような。謎の地帯「悪魔の尿溜」を目指し、謎の生物“有尾人ドド”と共に奥地へと出かけていくという内容。
次の「大暗黒」については、冒険よりも、やや陰謀めいた話の方が強くなっていたような印象。そして、その次の3作目の「天母峰」からは、折竹孫七という冒険家らしき男が中心となって語られてゆく話となり、ここから作品全体のテイストが変わって行く。
この第三話からは、ページ数がやや短くなり、それゆえに冒険譚も中途半端。また、これらの話がフィクションであるのは当然ではあるのだが、それをさらに折竹が語った話という風に作中で行われてしまうと、一種のホラ話のようなテイストが加えられてしまうので、そういったところも物語全体の興をそぐような感じに思えてならなかった。
そんな感じで、第三話以降は、まぁ、色々なネタを用いた冒険譚、または陰謀譚、諸々という感じで語られてゆく話となっている。タイトルの「人外魔境」というテイストのまま話を進めるのであれば、第一話の「有尾人」くらいの内容の濃さで進めてもらいたかったところ。
<内容>
「後光殺人事件」
「聖アレキセイ寺院の惨劇」
「夢殿殺人事件」
「失楽園殺人事件」
「オフェリア殺し」
「潜航艇『鷹の城』」
「人魚謎お岩殺し」
「国なき人々」
<感想>
「後光殺人事件」
寺の住職が大石に背をもたせ、合掌したまま死亡しているのが発見された。死因は、頭部への刺し傷であると思われるのだが、その傷跡から時間をかけて凶器を押し込んだものと見られている。しかし、何故か被害者は安らかな表情のまま亡くなっており・・・・・・
独創的というよりは、こんな殺害方法誰も想像がつかないというようなもの。それでも、舞台仕立てはなかなか面白いものであると思われる。ある種、心理ミステリ的にも捉えられるのだが、常識の範囲から逸脱する心理のように思われ、通常の範疇では語り尽くせないミステリ。
「聖アレキセイ寺院の惨劇」
聖アレキセイ寺院からなる鐘の音に不審なものを感じた検事が法水麟太郎と共に寺院へと向かうと、そこに住む一寸法師のマシコフと出会う。彼が言うには偽の電報により呼び出されたのだという。マシコフと共に寺院へと入ると、そこで発見したものは、寺院の主であるラザレフの刺殺体であった!
寺院による殺人事件ということで、もともとの現場がそれなりのものゆえか、事件の動機についてはさほど奇妙というものでもない。ただ、その殺人方法については奇抜。小栗氏の作品らしい機械的トリックが用いられているのだが、説明されても何が何だかわからないところはむしろこの著者らしいもの。そこまで大掛かりなトリックを使う必要があるのかどうかは微妙なところであるのだが、こういった殺人模様こそが著者を特徴付けている一端であると思われる。
「夢殿殺人事件」
尼僧寺からの通報により現場へと駆け付けた法水麟太郎と支倉検事。その尼僧には最近、奇跡を行う行者、推摩居士というものが居ついていたのだが、その推摩居士ともう一人の尼僧が死体となって発見された。曼荼羅の前で発見された死体はまるで、絵から出てきた孔雀明王に殺されたかのように・・・・・・
舞台は尼僧、しかも死体が発見される現場も奇妙な状況。謎の凶器、元々戦争により足を失っていた推摩居士の直立した死体、失った血液の行方、謎の梵字、そして密室殺人事件? と、色々な要素が詰まった事件が描かれているのだが、解決がいまいち・・・・・・というか、かなりわかりづらい。絵付きでというよりむしろ、動画で説明してもらいたいくらい。このような事件解決であるならば、むしろ孔雀明王に殺されたというほうがまだわかりやすいような気がしなくもない。
「失楽園殺人事件」
兼常博士が資材を投じて作った療養所。失楽園とよばれるその場所では、博士と二人の助手しか入ることが許されていなかった。そこで博士らは完全死蝋の研究を行っていた。妊娠した女性の体を実験台として、その女性の死蝋が完成した時、事件が起きる。助手の一人が密室のなかで他殺体となって死亡し、博士は異様な急死を遂げていた。事件の真相はいかに? そして貴重なコスター所版聖書の行方は?
これまた突飛な物理トリックが扱われている。しかし、どう考えても今の世でたとえドローンを使っても難しそうなことを、軽くトリックとして扱ってしまっているところが何とも言えない。また、事件における動機についても異様と言えるもので、これもまた目を見張るものとなっている。
「オフェリア殺し」
ハムレットを上映している劇団。そこのスターであった風間九十郎が去り、今回舞台で主演を務めるのはなんと、法水麟太郎そのひとであった。その劇の上演中、オフェリア役の女優がのどを切り裂かれ死亡するという事件が起き・・・・・・
科学的検証やら、錯覚のような心理的現象などが色々と説明されるものの、肝心のトリックに関しては、他の作品と比べてやや小ぶりであったかなと。普通ならば、上演中に起こる事件というのは、推理小説上では魅力的といえるかもしれないが、法水麟太郎ものの一編となるとスケールが小さいと感じられてしまう。
「潜航艇『鷹の城』」
かつて撃沈した潜航艇『鷹の城』が引き上げられた。その潜航艇に乗船していた、現在は盲目の乗組員4名。彼らはそのときの怪事件を思いおこす。4人の乗組員は元々室戸丸という船に乗っていたが、撃沈され、潜航艇に引き上げられた。その潜航艇内で、艇長が自然死を遂げ、その後死体が消失するという事件。そして、またもや甦った潜航艇『鷹の城』にて、不可解な殺人事件が起こることに!
法水麟太郎作品集のなかでは一番長い短編作品。潜航艇の乗組員が巻き込まれた怪事件や、ジークフリートの神話などが語られ、そして事件の全貌を法水麟太郎が解き明かす。一部の登場人物が盲目ゆえに可能なトリックなのかどうか、それでも微妙な感じはする。また、凶器に関するトリックは、化学反応に関しては理解できるのだが、実現可能なのかはよくわからない。ただ、このシリーズ、リアリティに関してはどうでもよく、スケールの大きさと奇想天外っぷりを楽しむものなのであろう。
「人魚謎お岩殺し」
劇団、浅尾里虹一座。彼らは血なまぐさい演目を行う一座であった。彼らの出自は変わっており、調査隊の手により島で発見されたアサオリコウと、もうひとりの青年、そして4人の嬰児。あるとき、一座の長である浅尾里虹が失踪する。するとその後、演目の最中に、役者が死亡するという事件が起き・・・・・・
登場人物一覧が欲しいところ。きっちりと登場人物が紹介されていないように思え、なんとも読みづらい。ついでに言えば、人物相関図までも欲しいところ。メインはトリックの解明云々ではなく、その登場人物らの背景にあると思われる。結局のところ、劇中の殺人事件などというよりも、その人物相関や背景がキモであるという気はするのだが、それらの説明がわかりづらいため、事件の動機がよくわからないまま。
「国なき人々」
快速艇にてポルトガル沖を旅していた法水麟太郎と小牧夫妻。彼らが乗った船は、スペインの反政府組織が乗った船に拿捕される。捕らわれた法水らは、船内で起きた殺人事件に関わることとなり・・・・・・
設定は相変わらず破天荒であるが、内容はあっさりめ。とは言いつつも、他の作品もこれくらいわかりやすければよいのだが。ミステリというよりは、海上での冒険を描いたかのような内容。