高木彬光  シリーズ 長編・短編集 作品別 内容・感想

黒魔王   5.5点

1959年04月 東京文藝社 単行本
2020年09月 論創社 単行本

<内容>
 私立探偵・大前田栄策は、ブラジル帰りの富豪である今川行彦から、かつて別れることとなった娘の行方を捜してほしいと頼まれる。途方もない頼みであったが、依頼を受けた大前田。そんなとき、たまたまホテルのロビーで耳にした“蒙古王”という言葉。その後、別の場所で耳にする“黒魔王”。大前田は行く先々で、黒魔王の手にかかった被害者を目にすることとなり、ライバル探偵事務所の川島竜子と共に黒魔王との戦いの渦中へと飛び込むことに・・・・・・

<感想>
 長らく絶版となっていて復刊されなかった長編作品であるらしい。ちなみに中編版「黒魔王」もあるそうだ。この作品では、一応シリーズ探偵らしい大前田栄策という人物が主人公となっている。

 なんとも漠然とした内容。というのは、普通何か大きな犯罪を犯してから、その名前が取り上げられるのが普通であると思われる。それがこの作品では先に“黒魔王”という名前が出てきて、そこから事件が始まってゆくというちょっと不思議な展開。感覚としては江戸川乱歩の怪人もののような感じであろうか。

 その後、次から次へと殺人事件が起きてゆき、大前田栄策による探偵活動が行われてゆく。その大前田が事件に関わってゆく発端さえも微妙なものであるが、いつの間にか事件に深入りしている状況となっている。そうして、黒魔王が何を狙っているのか、そしてその正体は? ということを念頭に置きながらの捜査が進められてゆく。

 まぁ、事の詳細云々というよりは、大前田とライバル関係であり恋人のようでもある川島竜子との仲の進展の様子とか、さらには黒魔王との命を懸けたハードなアクションシーンとか、そういった要素も含めて楽しむ作品と言う感じのようであった。かなり大雑把な冒険小説という印象が強かった作品。


破戒裁判   6点

1965年01月 東都書房 単行本
2006年06月 光文社 光文社文庫

<内容>
 元新劇俳優の村田和彦は二件の殺人事件の容疑者として起訴された。村田と不倫関係にあった女の夫が殺害された後、線路上に遺棄された事件。さらには、不倫関係にあった女までもが殺害され、同じ場所に遺棄された二件目の事件。しかし、村田は起訴に対して、一件目の死体遺棄のみを認めただけで、殺人には一切かかわっていないという。被告不利と思われたこの事件を担当するのは、若手弁護士の百谷泉一郎。

「遺言書」
 百谷泉一郎シリーズ唯一の短編作品。百谷の恩師にあたる人物が、何者かに脅迫を受け、毒により殺害されたらしいのだが・・・・・・しかも残された遺言はあまりにも偽物っぽく・・・・・・

<感想>
 2006年に光文社文庫で復刊されたものでの初読。高木氏の作品はある程度読み込んではいるものの、弁護士・百谷泉一郎シリーズは初めて読むこととなった。本書は終始、法廷での場面のみで描かれた作品となっている。

 今更ながら法廷ものというものも珍しくはないのだが、この作品が出た当時は、国内ではほぼ書かれてなかったようである。よって、これが法廷ものの先駆け的作品となるようだ。若干、法廷ものとしては違和感があるものの、これが先駆けて的な立ち位置の作品であるとすれば、このような派手な立ち回りの作品もありと言えるだろう。

 本来、法廷ものといえば、被害者の無実を如何にして証明するかというところに終始されるべきであると思われるが、本書では被害者とは別に真犯人を指摘することによって弁護しようとする離れ業がなされている。ただし、離れ業と言ってもしっかりと法的根拠に基づいての指摘という形式はとられている。

 しっかりとミステリ的展開に持ち込みながらも、人情ものとでもいうような流れの作品にもなっている。容疑者の過去をしっかりと調べて、追及していったことにより、その人間性をきちんと洗い出すことにより、潔白性を証明しようというところは、今の世の法廷ものと比べるとむしろ斬新なようにさえ感じられてしまう。まぁ、これはこれで味があるなと。こういった作品により昭和の法廷の様子をうかがうことができると言ってもよいのかもしれない。

 またこの光文社文庫作品では、百谷泉一郎シリーズ、唯一の短編作品である「遺言書」を併録している。こちらも登場人物の法廷の専門家“らしい”作品と言えるような内容となっている。


黒白の囮   6.5点

1967年05月 読売新聞社 単行本
1969年10月 光文社 カッパ・ノベルス
1977年03月 角川書店 角川文庫
1997年02月 光文社 光文社文庫
2006年08月 光文社 光文社文庫(新装版)

<内容>
 深夜の雨の中、高速道路で起きたスリップ事故により商事会社の社長が死亡した。社長は偽の電話で何者かにより、おびき出されたようで、殺人の疑いが生じるものの証拠はつかめず、事故と言うことで片が付けられることになる。その後、事故で死亡した社長の娘が自宅で殺害されるという事件が起きる。警察は、以前に起きた社長の事件もからめて、捜査を開始する。容疑者が浮かび上がり、逮捕されたものの、この事件を担当する検事は近松茂道であった。この検事は“グズ茂”という異名を持ち、冤罪を嫌い、事細かい捜査を要求してくる。そして、新たな証言が持ち上がり、容疑者は釈放され、事件は振り出しに戻ることとなり・・・・・・

 近松茂道検事短編作品 「殺人へのよろめき」「殺意の審判」の2編収録。

<感想>
 この近松茂道検事シリーズを読むのは初。しかも新装版として復刊されるだけあって面白かった。テレビドラマ向きの内容であるとも感じられた。

 高速道路でのスリップ事故。人為的なものが疑われたが、証拠が見つからず事故扱いとなる。その後、スリップ事故の被害者の娘が殺害されたことにより、連続殺人の疑いがもたれつつ、事件捜査が行われてゆく。容疑者があげられるも、証拠不十分及び新たな緒言により、容疑者釈放。細かい近松茂道検事の指示にイライラしつつも、刑事たちは新たな捜査を繰り広げていく。

 と、そんな感じで話が進行していくものの、最後の最後まで事態は二転三転して、なかなか真相が明らかにならない。そうして、最後の最後でようやく事の真相が・・・・・・と、なるのだが、その犯行計画はなかなか凝ったものとなっている。

 近松検事の人物造形によるシリーズとしてだけではなく、普通のアリバイ系サスペンス・ミステリという感じで面白かった。次々と浮かび上がる容疑者と、さらにはその裏に隠された真の犯行計画と内容盛りだくさんであった。アリバイ崩し系のミステリのなかでは、かなり面白い部類に入るのではないかと思われる。


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