<内容>
「『雷鳥九号』殺人事件」 西村京太郎
「誰かの眼が光る」 菊村至
「虹の日の殺人」 藤雪夫
「消えた貨車」 夢座海二
「やけた線路の上の死体」 有栖川有栖
「無人踏切」 鮎川哲也
「『死体を隠すには』」 江島伸吾
「親友 B駅から乗った男」 秦和之
「砧最初の事件」 山沢晴雄
「鮎川哲也を読んだ男」 三浦大
「無人列車」 神戸登
「或る駅の怪事件」 蟹海太郎
「暗い唄声」 山村正夫
「幽霊列車」 赤川次郎
<感想>
1986年に出版されたアンソロジーが22年ぶりに新装版となって登場。これは時代を感じさせる逸品と言ってよいであろう。どこに時代を感じるかと言えば、現代において鉄道をあつかったミステリ作品のみでアンソロジーを組むことができるかと考えると、難しいのではないだろうか。20年以上前の鉄道ミステリブーム全盛の時代だからこそこういったアンソロジーを組むことができたのであろう。
また、なんといっても有栖川氏や赤川氏がこのアンソロジーでは新人として扱われているところが新鮮でたまらない。この二人はデビュー作が掲載されているのだが、特に赤川氏の「幽霊列車」はよい作品である(かつて読んだはずなのだがすっかり内容を忘れていた)。
作品としては西村氏と赤川氏の作品が特に優れていたと感じられた。西村氏の作品はほとんど読んでいないといってもよいほどなのだが、ここに掲載されている作品を読むと、単なるアリバイトリックだけに終わらない濃厚なミステリを感じさせてくれ、今更ながら驚かされた。
赤川氏の作品は事件のインパクトは見事なもので、荒唐無稽ともいえるトリックを見事にやりきっている。
他に良いと思った作品は「親友 B駅から乗った男」。トリックは微妙であるかもしれないが、この時代に書かれた作品としては先鋭的という風に思えた。
また、「『死体を隠すには』」も鉄道とはあまり関係ないようなのだが、田舎の事件という風味があり、良い味を出している。
鮎川氏の「無人踏切」も王道のミステリという感じで、良い仕上がりっぷりだ。
「或る駅の怪事件」は実は単純な事件を、見事に複雑怪奇に書き上げており、そのうまさにうならされる。
あと、山沢氏の「砧最初の事件」は何度か読んでいるはずなのだが、何度読んでもその内容の複雑さに頭を捻らざるを得ない。
三浦大氏の「鮎川哲也を読んだ男」は、当時まだ訳されていない「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」をモチーフとしたものであり、これが訳されている今読むことにより、当時とは違った面白さを楽しむことができるであろう。
<内容>
「空色の魔女」 仁木悦子
「笛吹けば人が死ぬ」 角田喜久雄
「メルヘン街道」 石川喬司
「絵のない絵本」 鮎川哲也
「青ひげよ、我に帰れ」 赤川次郎
「遠い美しい声」 小泉喜美子
「みにくいアヒル」 結城昌治
「赤い靴」 加田伶太郎
<感想>
興味深そうな題材のアンソロジーが出ていたので購入してみた。読んでみると、実は過去に出版された作品の新装版であることを知る。実は読む前は、そのタイトルから“ハーメルンの笛吹き男”をテーマとしたアンソロジーばかりを集めたものだと思っていた。しかし実際は、色々な童話を元とした作品を集めたものであった。ゆえに、過去に出版されたときのタイトルである「メルヘン・ミステリー傑作選」のほうが内容の的を得ているのではないかと思われる。
全体的には童話がきちんとモチーフとされているものがあったり、そうでなかったりと色々。「笛吹けば人が死ぬ」は、作品の内容自体は面白かったが、笛吹き男をモチーフとしているかというと、ちょっと微妙な気も。
鮎川哲也氏の「絵のない絵本」は、ミステリという内容ではないのだが、童話的な奇譚というような感じでは楽しめた。また、結城昌治氏の「みにくいアヒル」もリアリティのある奇譚として引き込まれた。
なんだかんだいって、テーマと関係なく普通の奇譚系の作品集として楽しめたような感じであった。それと付け加えるならば、せっかく改訂版としたのだから、文字をもう少し大きくしてもらいたかったところ。老眼の身にはつらい。
「空色の魔女」 幼稚園児が白雪姫を題材に描いた絵がもたらす悲劇。
「笛吹けば人が死ぬ」 警察が追っていた男が、海でボート上で女と争っている最中に海に落ち溺死し・・・・・・
「メルヘン街道」 若い女が年上の男と二人きりでヨーロッパ旅行をすることになったのだが・・・・・・
「絵のない絵本」 月が語る、三人の女を残酷な方法で殺害した男の話。
「青ひげよ、我に帰れ」 結婚した女が次々に死亡するという俳優の秘密を暴こうと・・・・・・
「遠い美しい声」 音楽マニアが店で珍しそうなテープを見つけ、聞いてみたところ・・・・・・
「みにくいアヒル」 醜く生まれついた女の人生の顛末。
「赤い靴」 顔を怪我して入院していた女優が飛び降り自殺を遂げた。その女優は極度に赤い色に恐怖を抱いていたようであり・・・・・・
<内容>
「カチカチ山殺人事件」 伴野朗
「猿かに合戦」 都築道夫
「怨念の宿」 戸川昌子
「月世界の女」 高木彬光
「乙姫の贈り物」 井沢元彦
「愛は死よりも」 佐野洋
「花咲爺さん殺人事件」 斉藤栄
<感想>
「ハーメルンの笛吹きと完全犯罪」と同時に復刊されたアンソロジー作品。こちらは国内童話をモチーフとした作品が集められている。
「カチカチ山殺人事件」は何気に暗号を用いたミステリとなっている。ヒントがうまく隠されているところがポイント。
「猿かに合戦」は、ヤクザ同士の騙しあいを描いた作品。こういう趣向の小説は、都築氏らしいともいえよう。
「怨念の宿」は、登場人物がゲスな性格のものばかりで、内容があまり入ってこなかった。唐笠お化けの格好をする必要ってあったのか?
「月世界の女」は、しっかりと名探偵・神津恭介が登場している。何気に人間消失を描いたきっちりとしたミステリに仕立て上げられている。
「乙姫の贈り物」は、現代版浦島太郎風の物語が面白い。ただし、良い話ではなく、現金強奪犯が描いた騙しの構図が面白い。
「愛は死よりも」は、とある有名童話の前日譚。そういえば、この童話に関しては導入の“何故”があまり語られていないような。
「花咲爺さん殺人事件」は、サスペンスというか、ドタバタ活劇。面白いようにも思えるのだが、内容がちょっと幼稚と感じられるところが・・・・・・
「カチカチ山殺人事件」 アパートで起きた殺人事件。幼児が目撃したという“タヌキとウサギ”が示すものとは!?
「猿かに合戦」 対立するヤクザ同士が仕掛けあう騙しあい。それはまるで“猿蟹合戦”のようであり・・・・・・
「怨念の宿」 舌切り雀の伝承が残る宿。そこで起きた殺人事件と、教師の教え子とその母親。互いの思惑が交錯したのち・・・・・・
「月世界の女」 月に帰らなければならないと言い出す美女の真意とは!?
「乙姫の贈り物」 女を助けた編集者の浦島はお礼にと竜宮と書かれた家に連れていかれ・・・・・・挙句の果てに現金強奪の犯人とされ・・・・・・
「愛は死よりも」 きこりはさ迷った挙句に桃源郷へとたどり着き・・・・・・
「花咲爺さん殺人事件」 闇の仕事を請け負って金を稼いでいた男の新たな仕事はなんと、1億円と引き換えに総理大臣暗殺を・・・・・・
<内容>
「狂った機関車」 大阪圭吉
「省線電車の射撃手」 海野十三
「轢死経験者」 永瀬三吾
「観光列車V12号」 香山滋
「殺意の証言」 二条節夫
「寝台急行《月光》」 天城一
「碑文谷事件」 鮎川哲也
<感想>
本書は1976年から78年にかけて徳間書店から刊行された「鉄道推理ベスト集成」(第1集から4集)のなかから選ばれた作品である。ちなみに「鉄道推理ベスト集成」は、その後徳間文庫版で作品がシャッフルされ、全六冊に再編集されている。これらは当時、鮎川哲也氏が選択・編集し、それを今回、日下三蔵氏が編集したもの。読者から反響があれば、続編がでるかもしれないとのこと。
テーマは鉄道ミステリというだけあり、まさにそのまま。今回選んだ作品がたまたまなのかもしれないが、思っていたよりもアリバイものが少なかったかなと。後半の天城氏と鮎川氏の作品だけがアリバイもの。鮎川氏の作品「碑文谷事件」は、長めの作品で読みがいがある。ただ、犯人のアリバイトリックがあまりにもあからさまであり、しかも、これ普通にばれるのでは? とも思えるものなので、微妙な部分もある。
面白かったのは大阪圭吉氏の「狂った機関車」。トリックというよりも、それを成し遂げた狂気ともいえる犯行の模様と、動機が凄まじくて印象的。
期待して読んだ海野十三氏の「省線電車の射撃手」はいまいちであった。やたらと凝った作品のようでありながら、微妙な点が色々とあり過ぎた。
オカルト的な「轢死経験者」と「殺意の証言」、鉄道ミステリとしては場違いな「観光列車V12号」と、様々な味のある作品がそろえられている。
「狂った機関車」 機関車のための給水タンクのそばで発見された二つの死体。死体のそばには足跡がなく・・・・・・
「省線電車の射撃手」 電車内で女性が連続して銃撃の犠牲となった事件。しかし、銃の発射音は聞かれず・・・・・・
「轢死経験者」 酒場で男から、列車の線路の上に寝て、列車をやり過ごすことができるかどうか金を賭けようといわれ・・・・・・
「観光列車V12号」 中央アフリカのジャングルに住む原住民から宝石を奪おうとした男女の盗賊の顛末は・・・・・・
「殺意の証言」 最終電車で出会った親指のない男。その男との出会いにより、浮気をしていた男は殺人を繰り返すこととなり・・・・・・
「寝台急行《月光》」 列車を専門に強盗を働く男が寝台車で見つけたのは、男の死体であり・・・・・・
「碑文谷事件」 山下夫人は、夫が不在の際に友人のユリを呼び、二人で過ごす。夜半、ユリが目を覚まし、水を飲みに行くと、侵入者が山下夫人を殺害するのを目撃することに。後にユリはその一件を警察に証言するも、彼女が容疑者となってしまい・・・・・・
<内容>
「妖婦の宿」 高木彬光
「投手殺人事件」 坂口安吾
「民主主義殺人事件」 土屋隆夫
「文字クイズ『探偵小説』」 江戸川乱歩
「車中の人」 飛鳥高
「土曜日に死んだ女」 佐野洋
「追悼パーティ」 菊村到
「高原荘事件」 山村正夫
「新・黄色い部屋」 陳舜臣
「愚かなる殺人者」 笹沢佐保
<感想>
犯人当て小説として書かれた作品を集めたアンソロジー集。本書に収められた作品は1949年から1966年に書かれたものとのこと。戦後の背景のなかで書かれた古めの作品集となっている。
「妖婦の宿」は、この手の作品のなかでは有名なだけあって、よくできていると思われた。この作品を読むのは2度目か3度目くらいなので、大筋の部分は覚えていたのだが、よくよく読んでみると、論理的なところもしっかりとしていることを再認識した。この作品についてはさすがだなと。
それ以外の作品についてだが、「投手殺人事件」と「民主主義殺人事件」が短編くらい分量で、それ以外は短めの作品となっている。ゆえに、全体的には、あまり読み応えがなかったという感じ。また、昔書かれた作品ゆえに、あまり作調に感じ入ることができなかったり、それぞれが粗めの謎解き小説という感じになっていたりと、大味な感じであった。
「民主主義殺人事件」は、トリックについては、納得がいかなかったものの、動機については世相を表していると感じられた。それを“民主主義”のせいという考え方が時代によるものだなと思ってしまった。
「投手殺人事件」は、事件までの背景をしっかりと書き上げた割には、動機が曖昧過ぎるような。それゆえに、全体的にぼやけた感じの内容となってしまっている。
その他については、閻魔大王によりミステリ解明が行われる「土曜日に死んだ女」が面白かった。閻魔大王が登場する設定のみならず、月曜から金曜の男という登場人物らが色成す物語が面白い。それと残念過ぎたのが「新・黄色い部屋」。タイトルからして、面白そうと思いきや、その作調が肌に合わなかった。タイトル負けしている作品という印象のみが残った。
「妖婦の宿」 女王然とした女の死を巡る事件。事件前に送られてきた女の死を予言するかのような人形の意味は? そして密室殺人の謎は??
「投手殺人事件」 ひとりの投手が女との結婚を成就させるため、契約金を手に入れようとするのだが、待ち受けていたのは当の投手の死であり・・・・・・
「民主主義殺人事件」 バスの中で起きた殺人事件。動機を持つ者が多数いる中、犯人は乗客のなかの誰なのか??
「文字クイズ『探偵小説』」 文章の伏字に文字を当てはめることにより、謎を解くというミステリ。
「車中の人」 ある男を尾行するためにバスに乗った刑事。彼は乗員のなかの誰を狙っているのか!?
「土曜日に死んだ女」 死亡した女は5人の男と付き合っていた。月〜金までに通う者達が一斉に呼ばれた時に殺人事件が起こり・・・・・・
「追悼パーティ」 妻を亡くした作曲家が追悼パーティーを開く。ただ、呼ばれた者達の多くは、その作曲家の恨みを持っており・・・・・・
「高原荘事件」 金を奪った二人組が、脅迫を受け、その金を要求されることとなる。そうしたなかで殺人事件が起き・・・・・・
「新・黄色い部屋」 黄色いガラスがはめられた、黄色く見える部屋で殺人事件は起こり・・・・・・
「愚かなる殺人者」 旅行中、三角関係のもつれから事件が起きる。謎の死を遂げた女の事件の顛末は??