Elizabeth Ferrars  作品別 内容・感想

その死者の名は

1940年 出版
2002年08月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 深夜、人を轢いてしまったと、警察署に女性が飛び込んできた。死んだ男は泥酔して道の真ん中で寝込んでしまったらしい。土地のものではないと見当はつくものの、顔は潰れてどこの誰だか判らぬありさま。ただ奇妙なことにこの男、どの酒場にも寄った様子がなく、酒壜も持ってはいなかった。そこで、酒壜捜しを命じられた若い巡査が涙ぐましい捜索を続けていると、勝手にそれを手伝い始めた男が二人。この風変わりなよそ者は、その名をトビーとジョージといった・・・・・・

<感想>
 フェラーズの出発点となる本書であるが、著者はその中に探偵の役としてトビーとジョージという二人のコンビを創作した。フェラーズの成功の要素のひとつとして、この探偵のコンビという存在は欠かせないのではないだろうか。正直いって、探偵役としてトビー一人だけであれば作品としてそれほど成功しなかっただろう。トビーに比べれば巷には他にいくらでもあくの強い探偵たちが控えている。ここで重要なのはジョージというトビーの相棒の役割であろう。このジョージというのが不可解な男で、ひょっとすると事件自体よりも大きな謎に感じられるのではないだろうか。この男が突然口をはさんだり、ふらっとどこかへいなくなってしまうという奇妙な行動が読者を惹きつけて止まなくさせる。そんな異色の探偵コンビが成功するべくここから出発したのである。

 本書の事件は、事故か謀殺か? というところから始まり、被害者の身許は? この男が死んだ時の周りの人たちの行動は? と目まぐるしく展開されていく。軽いタッチで書かれているものの、なかなかまじめな本格ミステリが存分に取り組まれている。そしてラストにトビーが犯人を指摘し・・・・・・といった結末はなかなか圧巻といったものを感じさせてくれる。さすがにフェラーズ、さらっとは終わらせてくれないといったところだ。

 余談ではあるが、本書の表紙の絵はじつによくできていると思う。犯人についての言及とかそういったものは含まれていないが、この絵ひとつによって内容のほとんどが網羅されているといってもよいのだから。


細工は流々   6点

1940年 出版
1999年12月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 トビー・ダイクの住む家に知人であるルー・ケイプルが訪ねてくる。理由はいえないが15ポンド貸してほしいと。トビーはルーに15ポンド貸し、家に泊めてやることに。しかし次の日、ルーが殺害され死亡したとの報がトビーのもとにもたらされる。トビーとジョージはルーが死亡したウィルマーズ・エンド邸へと駆けつける。そこは元は出版社社長であるロジャー・クレアが住んでいた家で、妻と離婚した後、その元妻イヴ・クレアが現在住んでいる邸であった。そこには現在、一癖二癖ある人々が滞在しており・・・・・・

<感想>
 感想を書いていなかった作品の再読。この作品はエリザベス・フェラーズ描く、“トビー&ジョージ”シリーズの2作品目。トビーが気にかけていた、お人好しの娘が殺害されるという事件。トビーは彼女が死亡した邸へと乗り込み、警察を丸め込んで独自の捜査を開始する。

 事件後にその屋敷に乗り込んで、そこで徐々に登場人物の紹介が始まる故に、わちゃわちゃしたような感じで物語が流れてゆく。何しろ事件前の落ち着いた雰囲気ではなく、事件後それぞれが動揺した状態のところから始まる故にちょっと独特。しかも、登場する人々が一風変わっているゆえに妙な雰囲気のなかでの捜査となってゆく。

 ルー・ケイプルは何故殺されたのか、彼女の生前の奇妙な行動の理由は、屋敷の当主であるロジャーとイヴがそれぞれ抱え込んでいる問題とは、屋敷に仕掛けられた妙な罠の目的は、二人の植物生理学者の奇妙な言動に隠されているものは、ルーの同居人であるドルーナは何か隠しているのか、イヴの伯父夫婦さらにはイヴの娘らの言動の意味は、等々。といった様々な謎を抱えつつ、物語は展開してゆく。

 そして今回はトビーが活躍するのか? それともジョージの活躍が光るのか? といったところも注目点。個人的には、事件の真相については微妙であったかなと。それぞれの被害者が殺害される理由について、少々弱いように思われた。それよりもルーがトビーから借りたお金が何に使われるものであったのかという理由の方がミステリ的には面白かったような。


自殺の殺人   6.5点

1941年 出版
1998年12月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 ジョアンナの父親で植物標本館館長のエドガー・プリースが嵐の夜、身投げを図ろうとした。しかし、そこに通りかかった標本館の研究員とトビー&ジョージによって取り押さえられる。エドガーは何故、自殺を図ろうとしたのか? そういったことは一切誰にも答えず、次の日エドガーは標本館にて拳銃で自殺を遂げるのだが・・・・・・警察の見解ではこれは自殺ではなく他殺であると! いったい標本館館長の身に何が起こったというのか? 何かを隠しているようなエドガーの秘書、標本館の研究員たち、エドガーの友人のハイランド、そしてエドガーの知人だという怪しげな博士。事件の真相を探ろうとトビーとジョージは捜査を開始する。

<感想>
 感想を書いていなかった本の再読。自殺なのか? 他殺なのか? 全てが不透明であり、登場人物全てが怪しげな事件にトビー&ジョージが挑む。

 ただし、物語の基本的な視点は亡くなった標本館館長の娘ジョアンナであり、彼女を中心に物語が進む。彼女の周辺にトビーがまつわりつくようにして捜査を進めていくこととなる。そして相変わらずジョージは姿を消して、単独で調査を進めてゆく。

 この作品、一見単純そうな内容であるのだが、真相が明るみに出ると、意外と複雑な様相のなかで事件が起きていたことに気付く。読み始めた時、登場人物たちの多くがやけに取り乱した感じになっていて、話が全く伝わらないと、戸惑うことに。それが最後まで読むと、その登場人物らが実は事件が始まった時にどのような心持ちであったのかを知ると、なるほどと納得させられることに。また、最後まで予断を許さず、二転三転していく真相の表し方もなかなかのものと納得させられた。途中までは評価が低かった作品であったが、最後まで読み通せば感嘆せざるを得ない出来のミステリに仕立て上げられている。


猿来たりなば   7点

1942年 出版
1998年09月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 トビーとジョージの元にアメリカから来た動物心理学者ポール・ヴィラグより依頼があり、二人はロンドンから遠く離れた現地へと向かう。なんでも、誘拐事件が勃発したらしい。しかし、現地へついて話を聞いてみると、なんと誘拐されたのは2匹のチンパンジーで、しかもすぐに戻ってきたという。そして奇妙なことに、またその2匹のチンパンジーの行方がわからなくなったと! さっそく捜査に乗り出そうとしたトビーとジョージであったが、二人は屋敷のなかでチンパンジーの死骸を発見することとなり・・・・・・

<感想>
 久しぶりの再読。この作品は多くの人が知っていると思われるが、この翻訳を機に日本でエリザベス・フェラーズが見直されたといっていい作品。

 起きる事件はなんと“チンパンジー殺害事件”。何故チンパンジーが殺害されたのかを真面目に捜査してゆくこととなる(乗り気でないのは地元の警察官だけ)。正直この作品、読んでいる途中はたいして良い作品だとは思えなかった。何しろ登場人物それぞれが何を考え、何によって行動しているのか全く見えてこない。トビー&ジョージを呼んだ博士はアメリカへ帰ると言い出し、博士の助手は一癖あるだけではなく過去に秘密を持っており、医者と秘書は公然でいちゃつき、牧師は暴力的なのか狂信的なのかわけがわからず、しかも肝心の屋敷の女主人はどこかへ出かけたまま一向に姿を現さない。

 そんな状態でずっと話が進み、何が何だかと思っていたところ、最後にあらわにされる真相により、その全てに理由付けがされることとなる(あまり事件と関係ないものもありつつ)。その真相が明らかになると、この作品に対する見方は一変し、これは大した出来のミステリ作品だと感嘆させられることになってしまう。

 そして読み終えた直後に、もう一度冒頭を読み返し、こんな場面があったのかと確認せずにはいられなくなるであろう。これは間違いなく見事なミステリ作品であり、今のところ翻訳された中ではフェラーズの一番の代表作と言って間違いなかろう。


ひよこはなぜ道を渡る   6点

1942年 出版
2006年02月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 トビー・ダイクは旧友のジョンから請われて彼の家を訪れる。しかし訪ねてみたものの、家の中には全く人の気配がない。不審に思い家の中へ入ってみたトビーが発見したのは旧友ジョンの死体であった。家の中は荒らされ、弾丸や血痕の跡があるものの、ジョンの死体には暴行されたような形跡はない。これらの状況は何を示しているのか?
 不審な行動をとる女出版社、ジョンとの不仲であった夫人、その夫人と不倫の関係にあった隣人、世話焼きの下宿屋の夫人とその子供達・・・・・・彼らの不審に思える行動はこの事件において何を指し示すものなのか??

<感想>
 久々の“トビー&ジョージ”シリーズである。大変満足な出来であるのだが、トビーの相棒のジョージがいつもに増して登場の機会がへっていたのが残念であった。そして、これがこのシリーズの最終作というのもさらに残念な事である。

 今回は死体が発見されるものの、死因が心臓麻痺のようであるにも関わらず、部屋には何者かが銃で撃たれたような形跡があるというもの。それならばその死体はどこに? そして数々の登場人物の不自然な行動は何を意味するのか? というところにスポットが当てられた内容となっている。

 徐々に動機となる背景があらわにされ、それにより容疑者達の不審な行動が少しずつ明かされ、最後の最後に犯人と目される者の存在が浮き彫りになっていく構成はなかなかのもの。一見、ドタバタ劇かのようなミステリではあるのだが、物語の奇抜さとトビーのなりふりかまわぬ捜査がうまくマッチして、それなりの推理小説として出来上がっているのだから不思議なものである。

 と、これまでこのシリーズを読んできて、ここで終わってしまうというのも何か名残惜しい。フェラーズ初期の作品にも関わらず、何ゆえ5冊で終わりにしてしまったところが気になるところである。ひょっとして、当時はこういう作風はあまり人気がなかったとか??


私が見たと蝿は言う   5点

1945年 出版
1955年09月 早川書房 ハヤカワミステリ217
2004年04月 早川書房 ハヤカワ文庫

<内容>
 ロンドンの安アパートにはさまざまな人が住んでいた。画家、秘書、評論家、建築家、その他怪しい者たちも含め色々と・・・・・・。そんなある日、このアパートに引っ越してきたばかりの秘書の部屋でガス工事が行われた際、一丁の拳銃が発見された。そしてその後、以前その部屋に住んでいた女性が、射殺死体として発見され・・・・・・

<感想>
 ハヤカワポケミスで出版された作品が文庫により復刊された。フェラーズの数少ない翻訳作品なのではあるのだが・・・・・・。

 文庫の装丁からすると、コージー・ミステリーとかライト系な軽い本というような売り方をしているみたいのなのだが、実際読んでみると雰囲気はそれとは異なるものとなっている。ひとつのアパートに住む住人達の話であるのだが、その雰囲気は決して明るくなく、それどころかどろどろとした暗さをまとったものとなっている。

 そして肝心のミステリーとしての内容なのだが、それも特に目を引くようなものはなかった。終始、凶器が隠されたときの物音にこだわる形で話が進んでいくようなのだが、結局それが解決に直接関与していたようには思えない終わり方をしている。また、犯人の正体が明らかにされる場面でも決定力不足が感じられた。

 フェラーズという作家はかなりの数の作品を残している。しかし、そのほとんどが今だ訳されずに終わっている。その理由の一つとしては、本書「私が見たと蝿は言う」が先に訳されたために、あまり面白くない作家というイメージが付きまとってしまったせいなのではないだろうか。「猿来たりなば」のような面白い作品がまだ眠っていそうな気がするのだが・・・・・・


灯火が消える前に   5.5点

1946年 出版
2016年04月 論創社 論創海外ミステリ

<内容>
 灯火管制が敷かれる戦時中、刺繍作家セシリーの家に招かれたアリス・チャーチ。そのパーティーで、ひきこもりがちで表に出てこなかった劇作家オーブリー・リッターが久々に皆の前に姿を現すという。しかし、いつまでたっても部屋から出てこないオーブリー。その後、彼は撲殺死体となって発見される。パーティーにきていたジャネット・マークランドは、自分が殺したと告白し、容疑者として警察に拘留される。アリスはジャネットとは、そのパーティーで初めて会ったのだが、彼女が殺人を犯したということに、どこか違和感を覚えることに。アリスはパーティーの参加者に話を聴き、事件の真相をつかもうと試みるのであったが・・・・・・

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<感想>
 全体的に退屈な作品であった。今年同じく論創海外ミステリから刊行されたフェラーズの「カクテル・パーティー」も前半はやや退屈であったが、後半はそれなりに見どころがあったと思う。しかし、本書は最初から最後までずっと盛り上がりにかけたような。

 一応、起きた殺人事件について調査をしていくという内容ではある。ただ、事件を検証していくというよりは、被害者やその周辺の人たちの性格や心情に迫るというおもむきが強すぎて、ミステリとしてあまり楽しめない。なんとなくゴシップものの物語という感触が強かった。


亀は死を招く   5.5点

1950年 出版
2020年01月 論創社 論創海外ミステリ246

<内容>
 第二次世界大戦後、イギリス人のシーリア・ケントは、かつての回想にふけるため、9年ぶりに知人が経営するフランスのホテルに滞在することに。そこで彼女が目にしたのは、かつての経営者夫妻と、今の経営者であるその息子と妻の対立、一獲千金を求めて難破船を探すダイバー、その他、海外からのさまざまな客たちの様子。ある日、とある宝石を巡ってのいさかいが起き、それが発端となったのか、殺人事件が起こることとなり・・・・・・

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<感想>
 戦後の混乱した様子を、やや上流階級からの目線で描いたというような作品。序盤から登場人物同士の不穏な関係が示されてはいるが、なかなか事件へとは発展せず、物語中ほどになってようやく殺人事件が起こる。

 後半になって、それなりに盛り上がった部分もあるのだが、最後の締め方がいまいちという感じ。いまいちというか、納得いかなかったというか。最終的に結末があまり強調されていなかったせいか、はたまた納得しづらい犯人であったためなのか、読み終えた後に「あれ? 結末どうだったっけ?」という感じで再度読み直したくらい。


魔女の不在証明   6点

1952年 出版
2019年08月 論創社 論創海外ミステリ239

<内容>
 資産家のレスター・バラードの家で、その息子ニッキーの家庭教師を務めるルース・シーブライト。ルースは親子の改善しない仲の悪さに嫌気がさし、家庭教師をやめることを考えていた。そんなある日、ルースは家でレスターが死んでいるのを発見することに。まさかニッキーが!? と考え、茫然としているところに警察がやってくる。警察が言うには、山でレスターと思われる死体が発見されたので、見分してもらいたいと。ルースがその死体の見分に出かけ、帰ってくると、家にあったはずのレスターの死体が消え失せ・・・・・・

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<感想>
 よくできたサスペンス小説である。何が起こるかわからないというだけではなく、今何が起きているのかすらわからないという展開に興味をひかれた作品。

 物語はこんな感じで始まる。ルースが知人のマルグリットに誘われ訪ねていくも、当のマルグリットは不在。家に帰ってきてみると、レスターの死体を発見。そこに自称作家のスティーヴン現る。スティーヴンと死体について話していると警察登場。警察は山でレスターの死体を発見したので、見てもらいたいという。ルースはレスターを殺したのはニッキーではないかと疑い、警察に死体の存在を告げることができない。警察と共に死体を見に行くが、明らかにレスターの死体ではないものを、ついレスターであると証言してしまう。そして、家に帰ってくるとレスターの死体が消え失せている。やがて、警察は(山で見つかった)レスター殺害の容疑者としてルースに嫌疑の目を向ける。さらに、アリバイを証明してもらいたかったマルグリットは、ルースと会う約束などしていなかったと言い出す。

 と、ちょっと長くなったが序盤の展開を要約するとこんな感じ。そして、主人公のルースが誰を信じればよいのかすらわからない状況のなか、ルース自身が警察に容疑者として見なされ、自分の潔白を明らかにするために事件の真相を調べてゆく。

 といった物語が260ページという薄めのページ数の中に濃縮されている。まさに濃密な感じのサスペンス小説で読みごたえがあった。うまい具合に物語の展開が作り上げられている。


嘘は刻む   5点

1954年 出版
2007年03月 長崎出版 <Gem Collection>

<内容>
 ジャスティン・エマリーは友人のグレース・ダロングに呼ばれて、イギリスの田舎町へとやって来た。すると、グレースの不安が的中するかのように、彼女の友人であるサイン夫人の夫でデザイナーのアーノルド・サインが何者かに射殺される。事件当日、何人かの人物が彼を訪ねてきたようなのだが、その誰も彼もが本当のことを語ろうとしない。嘘で塗り固められた状況の中で、真犯人を見つけ出すことができるのか??

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<感想>
 パズラーのようでパズラーではないミステリ小説。

 とある男が殺害される。その男を訪ねて来た者たちがいる。それらの状況から見て、殺人犯は誰? というような小説であるが、容疑者達が嘘をつくことにより、状況自体が容易に明らかにされないのである。そんなわけで、内容だけを取ってみればパズラーっぽい小説なのだが、実際に読んでみるとそんな気は全くしなかった。

 さらにいえば、登場人物たちの個性が乏しい。乏しいというよりも、退屈な人物達ばかり集まっていると言ったほうがよいかもしれない。ゆえに、物語自体も退屈にならざるを得ない。少なくもと探偵役であるジャスティン・エマリーの人物造形だけでも何とかならなかったものかと思わずにはいられない。

 そんなこんなで話が進み、驚愕の真相が待ち受けてはいるものの、唐突としか感じられないところが残念なところ。また、蛇足であり、本書の内容には関係ないのだが、冒頭の“読者へのささやかな道案内”というのは不必要であると思える。どうしても付けたいというのであれば、せめて2、3ページくらいにまとめてほしいものである。


カクテルパーティー   6.5点

1955年 出版
2016年02月 論創社 論創海外ミステリ165

<内容>
 アンティークショップを営むファニー・ライナムの家で近隣の人々を招いたパーティーが行われた。そのパーティーには、ファニーの顧客ではあるのだが、今まであまり付き合いのなかったピーター・ポールターという男を呼んでいた。ファニーの友人であり作家のクレアが彼に興味を持っていたからだ。そしてパーティーは、ロブスターのパイの味がおかしかったという事以外は、特に問題もなく進められた。しかし、翌日ピーター・ポールターが毒により死亡したという知らせが報じられた。彼だけがパーティーの夜、ロブスターのパイを食べていたのだったが・・・・・・

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<感想>
 久々に読むフェラーズの作品。ノン・シリーズのミステリ作品であるが、なかなか読み応えのある内容であった。

 ライナム夫妻の家でパーティーが開かれる。パーティーの次の日、参加者の一人が毒により死亡したという報がもたらされる。その事件が起こるまでに、パーティーで集まった人、集まらなかった人たちの人間関係が描かれる。お節介なファニー・ライナムともの静かな大学講師である夫。ファニーの異母弟であるキットは婚約者のローラを連れてくる。またキットはその婚約以前にスーザンと付き合っていた。そしてパーティーの直前、スーザンの家のモーデュ家とグレゴリー家が仲たがいをして、グレゴリー家はパーティーに来なかった。というような人間関係が語られる中で、それらの相関図に全く関係のない男性が死亡するという事件が起こってしまうのだ。

 注目すべき点は、上記に書いた、何故一連の人々と関係のない男が死ぬこととなったのか? そして死亡した男はパーティーの際、まずくて皆が手を付けなかったロブスターのパイを何故かひとり気にせず食べていた。ロブスターのパイに対して、皆は苦みを感じていたが、男が死ぬこととなった毒は苦みとは無縁のものであった。こうした矛盾点や起きた出来事のなかから真相を見出していくこととなる。

 途中、奇妙に思ったのは、中途半端に語られ続ける推理。ノン・シリーズゆえに誰が探偵役となるのかがよくわからないのだが、数名の者が各自それぞれの推理を展開していくこととなる。ただ、どれもが中途半端できっちりとした検証が行われないまま話が進んでゆくこととなる。こうしたおかしな点をはらみつつ、最後の最後ので真相が語られることとなるのだが・・・・・・なるほどと、感心させられてしまった。真相が明らかにされることにより、起きた事件やその後のさまざまな不可解なことがきっちりと解明されることとなる。思いもよらぬ意外な動機が明らかにされることにより、物語全体にかかっていた靄が全て取り払われたという感じ。


さまよえる未亡人たち   5.5点

1962年 出版
2000年09月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 土木技師として外国で働いていたロビン・ニコルは久々に英国で休暇を過ごすこととなった。彼が乗る飛行機で隣の席に乗り合わせたアマンダ・ハウレットと知り合い、滞在先でも彼女と会い、いつしかアマンダの友人たち一行と行動を共にすることに。そんななか、アマンダの友人のひとりが毒物により死亡するという事故が起きる。酔い止め薬に毒が入っていたようなのだが、果たして事故なのか? 自殺なのか? それとも・・・・・・

詳 細

<感想>
 再読であるのだが、全く内容を覚えていなかった。ただ、これが再読しても内容を把握しづらくて、話を覚えていなかったのも無理はない。

 事件の構造は簡単だと思われる。旅をしていた自称”未亡人”グループのうちのひとりが毒により亡くなるという事件。その事件をめぐって、真相を探っていくというもの。

 ただ、そこに関わる人物描写が希薄で、非常にわかりづらい。肝心の未亡人グループの面々についても、あまり詳しくは紹介されておらず、さらにはその他登場する人物が何気に多い。当然、それらその他の登場人物についても説明は少ない。ページ数が少ない作品ゆえに、いろいろな事が説明たらずのまま話が進んでいったという感じ。主人公のラブロマンスみないなのにページ数を割くよりも、未亡人グループの背景についてもっと詳しく書いてもらいたかったところ。結末については、さほど悪くないと思われたので、ちょっともったいない。




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