Ellery Queen  作品別 内容・感想

エラリー・クイーンの冒険   6点

1934年 出版
1961年06月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 「アフリカ旅商人の冒険」
 「首つりアクロバットの冒険」
 「一ペニイ黒切手の冒険」
 「ひげのある女の冒険」
 「三人のびっこの男の冒険」
 「見えない恋人の冒険」
 「チークのたばこ入れの冒険」
 「双頭の犬の冒険」
 「ガラスの丸天井付き時計の冒険」
 「七匹の黒猫の冒険」

<感想>
 クイーンらしい佳作ぞろいの作品集。事件が論理的に解かれるものから、従来のお約束のような事件をトリックとしてひっかけるようなものまで色々な作品がそろっている。ただし、どれも面白いのだがこれといった作品が見られないのが残念なところ。とはいえ、どれも水準以上のせいでどんぐりの背比べに見られるのかもしれない。そう考えれば贅沢な短編集と言えるだろう。エラリー・クイーンの活躍をお手軽に楽しめる作品。

「アフリカ旅商人の冒険」
 ホテルの室内で発見された死体の様子から、3人の学生たちにエラリーが事件の捜査をさせるという異色の内容。ただし、最終的にはエラリーが死体のシャツとネクタイから論理的に犯人を指摘する。

「首つりアクロバットの冒険」
 サーカスで起きた首つり事件を描いた作品。その首吊りの綱が奇怪な結び方をされているのがポイント。その綱の結び方がポイントになるかと思いきや、それに反した推理をエラリーは展開させることとなる。

「一ペニイ黒切手の冒険」
 同じタイトルの本が盗まれるという事件が起きる。これは高価な切手“黒切手”が盗まれたことに関連があるのか? よく似たような作品を見受けることができる。目的はいかにもと感じられるのだが実は・・・・・・という内容。

「ひげのある女の冒険」
 資産家の財産を狙っての殺人事件。ダイイング・メッセージは肖像画に描かれたひげ。なかなかインパクトのある内容。とはいえ、なんとなくわかりやすいような気がする。

「三人のびっこの男の冒険」
 銀行家の誘拐事件を描いた作品。愛人宅で当の愛人は殺害され、銀行家は誘拐され身代金を要求される。しかしエラリーは足跡の様子から論理的にここで何が行われていたかを指摘する。

「見えない恋人の冒険」
 ひとりの魅力的な女性を巡って銃殺事件が起きてしまう。逮捕された当人は事件の関与を否定するものの、銃痕が彼の所持するものと一致していた。エラリーは事件現場を確かめ、実際に行われた事件の様子を推理する。やや、怪奇的な内容。

「チークのたばこ入れの冒険」
 殺人が行われた現場からシガレット・ケースが発見される。さらに、新たに行われた事件の様相からエラリーは論理的に犯人を指摘する。シガレット・ケースに隠された謎とは? また、この奇怪な犯罪はどのようにして構成されたのか?

「双頭の犬の冒険」
 エラリーがたまたま宿泊したホテルで密室殺人が起こる。まさか犯人は呪いの犬の仕業なのか? そこで何が起こったのかをエラリーが推理する。

「ガラスの丸天井付き時計の冒険」
 被害者は死ぬ直前にガラスケースを破り、宝石を取り出し、さらには丸い天井付きの古い時計を反対の手で引き寄せていた。冒頭では論理的に事件を解けると書いているのだが、どう考えてもとても尋常には解けないような気がするのは私だけだろうか。

「七匹の黒猫の冒険」  猫嫌いの老婆が7匹の猫を一日置きに購入した。そして連絡が途絶えてしまったのだが、その老婆に何が起きたのか? コミカルな内容のようで、実は猟奇的な事件を取り扱ったもの。エラリーが秘密裏に事件の謎を解き明かしてゆく。


エラリー・クイーンの新冒険   6.5点

1935年 出版
1961年07月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 「神の灯」
 「宝捜しの冒険」
 「がらんどう竜の冒険」
 「暗黒の家の冒険」
 「血をふく肖像画の冒険」
 「人間が犬をかむ」
 「大 穴」
 「正気にかえる」
 「トロイヤの馬」

<感想>
 この作品集ではクイーンの短編の代表作「神の灯」が掲載されているのが大きな特徴と言えよう。実際、代表作というにふさわしい作品である。また、個人的には「暗黒の家の冒険」が「神の灯」続いて良い作品であると感じられた。

「神の灯」
 内容については今更語る必要はあるまい。未読の人も読んでもらえれば、あぁ、このトリックかとすぐにわかるはず。しかし、単純にひとつの大きなトリックだけではなく、他にもサプライズを忍ばせているので、じっくりと読んでもらいたい。

「宝捜しの冒険」
 盗まれた首飾りの行方を捜すという内容。その首飾りを捜すにあたって、クイーンはゲーム形式で皆に捜索させる。さらには、その様子を見て犯人を指摘するのである。クイーン君のペテン師的な一面も見ることができ、楽しめる内容。

「がらんどう竜の冒険」
“がらんどうの竜”というのは、ドアストッパーのこと。日本人の美術商が殺害されるという事件で、クイーン君はドアストッパーにヒントを得て、犯人を指摘する。着眼点が面白い作品と言えよう。

「暗黒の家の冒険」
 遊園地の“暗黒の家”というアトラクションのなかで起きた銃殺事件。犯人は暗闇の中でどのようにして被害者を銃で狙うことができたのか? 犯行方法を指摘することにより、真犯人の正体がうかびあがる。最初から最後まで伏線ずくめとなっている。

「血をふく肖像画の冒険」
 代々伝わる肖像画には曰くがあり、妻が不貞を働くと肖像画が血を流すという。そして、現代においてもその肖像画が血を流した時に事件が起こる。単なる不倫による事件を描いたものかと思いきや、意外な展開が繰り広げられる。予想に反し、うまくできていると感じられた作品。

 ここからの4作はシリーズ作品。ポーラ・パリス女史とクイーン君がコンビを組み、スポーツ観戦に行った際に必ず事件が起こるというもの。
「人間が犬をかむ」
 メジャーリーグのワールドシリーズ観戦中に起こる殺人事件。野球を観戦していた別のチームの野球選手と彼にまつわる女性との4角関係から事件が起こる。タイトルはホットドックが事件のポイントとなるところからきている。ドタバタものかと思いきや、実は論理的な推理小説として完成されている。

「大 穴」
 男がひとりの馬主を狙い、衆人が見ている中で発砲する。しかし、その弾は出走直前の馬にあたってしまう。この状況の真実とは? 単純にひとりの男がとち狂ったかのようにしか見えない話なのだが、クイーン君がそこに隠されている裏を見抜き真相をさぐりあてる。ハッピーエンドで終わっているものの、物語上こんなに単純にけりがついていいのかどうかは疑問。

「正気にかえる」
 ボクシングの試合で挑戦者がチャンピオンに勝った後に起こる事件。元チャンピオンが刺殺死体となって発見される。クイーン君は、盗まれた自分のコートを見つけることにより真犯人を指摘する。これまたコートのみに着眼点を当てた論理的な推理作品。

「トロイヤの馬」
 ラグビーの試合前に宝石が盗まれる。クイーン君は試合の行方が気になりつつも宝石の行方を捜すことに。そして、試合が終了した後、宝石の在りかと真犯人を指摘する。これもまた、うまく謎を解いている作品。宝石の行方がわかったとき、自動的に真犯人も割り出してしまう。その犯人についても意外性があって見事と言えよう。


犯罪カレンダー   6点

1952年 出版
1962年05月 早川書房 ハヤカワミステリ700(<1月〜6月>)
1962年05月 早川書房 ハヤカワミステリ701(<7月〜12月>)

<内容>
 「一月 雙面神クラブの秘密」
 「二月 大統領の五セント貨」
 「三月 マイケル・マグーンの凶月」
 「四月 皇帝のダイス」
 「五月 ゲッティズバーグのラッパ」
 「六月 くすり指の秘密」
 「七月 墜落した天使」
 「八月 針の眼」
 「九月 三つのR」
 「十月 殺された猫」
 「十一月 ものをいう壜」
 「十二月 クリスマスと人形」

<感想>
 エラリー・クイーン短編集。エラリー・クイーンが活躍するというよりも、クイーン作品の後期で描かれたクイーン&ニッキー・ポーターによる冒険という趣向の作品であった。論理的な謎解きではなく、冒険、事件簿、はたまた騒動といったような内容の作品集。

「一月 雙面神クラブの秘密」
 とある大学の卒業生で、秘密クラブの面々が立て続けに死亡するという出来事が起こる。そうしてさらなる殺人事件が起こるとエラリーのもとに依頼が寄せられる。事件の解決に関しては、推理するというよりも言葉遊びっぽいものが感じられる。なおかつ、あまり日本人には馴染みにくいメッセージ。

「二月 大統領の五セント貨」
 ワシントンの宝を探すという話。本当に宝を探すだけの冒険譚。

「三月 マイケル・マグーンの凶月」
 エラリーと旧知の私立探偵が、エラリーに助けを求めにやってくる。スキャンダルをネタにした恐喝から、やがてそれは殺人事件へと発展していく。サスペンスミステリとして、なかなかの出来栄え。意外な犯人のみならず、予期せぬ人々の行動が絡み合っているところも面白い。

「四月 皇帝のダイス」
 クイーン家と旧知である家族の元へと招待され、そこで過去に起きた事件が語られる。4月の行事といえば、これがあったかと。思わぬ展開でなかなか楽しむことができた作品。

「五月 ゲッティズバーグのラッパ」
 三人の老人が過去に宝を隠し、最後に生き残ったものがそれを自分のものにすることができるという噂が伝えられていた。そうしたなか、三人の老人のうち二人が死亡することとなる。何気に論理的に犯人が指摘されていたりする。単純な話のようでありながら、指摘されるとなるほどと。

「六月 くすり指の秘密」
 結婚式で起きた指環による毒殺事件。犯人は花婿か、それとも花嫁にふられた男か? 複雑な事件かと思いきや、簡単な事であっさりと片がついてしてう事件。エラリーの推理もむなしく・・・・・・

「七月 墜落した天使」
 資産家の命を狙おうとした殺人未遂事件。果たして犯人は浮気をした妻か、それとも実の弟なのか? 思いのほか、複雑な計画を犯人が練っている・・・・・・というか、結果として複雑な様相になってしまったのか。どのような状況で犯行が行われたのか、アリバイトリックとともにエラリーが解き明かす。

「八月 針の眼」
 宝探しと、妻と結婚した謎の男についての物語。この結末からすると、事件により死亡した人物があまりにも犬死というような・・・・・・。別に人が死ぬ内容にしなくてもよかったような。

「九月 三つのR」
 学校からひとりの教授が失踪したという事件がエラリーにもたらされる。エラリーがその謎を解くこととなるのだが・・・・・・この短編集のなかに似たような趣向の話があるので、ここではやらないようがよかったような。どちらか一つで十分と思ってしまったのだが。

「十月 殺された猫」
 仮装パーティのなかで催された殺人ゲームのなかで本当に殺人事件が起きてしまう。暗闇の中で犯人はどのようにして犯行をなすことができたのか? という事件。真相を聞けば、ごもっともと。

「十一月 ものをいう壜」
 感謝祭で起きた麻薬密売に関わる事件。クイーンらしからぬ事件であり、スパイもののような。チェスタトンの見えざる人と言ってしまうと(エラリーが作中で言っている)ネタバレになってしまうか。

「十二月 クリスマスと人形」
 ヴェリー部長刑事、サンタクロースになる。高価な人形をクリスマスに大勢の人々が集まっている前で怪盗の手から守らなければならないという話。平凡な内容のような作品であるが、キモは最後に語られることわざにあるのであろう。ただし、日本人には馴染みがない。


クイーン検察局   6点

1954年 出版
1976年06月 早川書房 ハヤカワ文庫

<内容>
 〔恐喝課〕 金は語る
 〔偽装課〕 代理人の問題
 〔不可能犯罪課〕 三人の寡婦
 〔珍書課〕 変り者の学部長
 〔殺人課〕 運転席
 〔公園巡視課〕 角砂糖
 〔未解決事件課〕 匿された金
 〔横領課〕 九官鳥
 〔自殺課〕 名誉の問題
 〔強奪課〕 ライツヴィルの盗賊
 〔詐欺課〕 あなたのお金を倍に
 〔埋宝課〕 守銭奴の黄金
 〔魔術課〕 七月の雪つぶて
 〔偽相続人課〕 タイムズ・スクエアの魔女
 〔不正企業課〕 賭博クラブ
 〔死に際の伝言課〕 GI物語
 〔麻薬課〕 黒い台帳
 〔誘拐課〕 消えた子供

<感想>
 昔読んだような記憶があるが、定かではないので一応再読。あとがきがついていないので、どのような背景で書かれた作品群かはわからないが、10ページくらいの短めの短編となっている。後半に入り、「ライツヴィルの盗賊」が30ページ強とちょっと長めになっていて、それ以降の作品は15〜20ページくらいの長さ。そんな感じの短編集、全18編。

 あまりにも短いので、それぞれの作品に対する読みごたえは、あまりない。一発ネタのような感じで、犯人特定の理由があげられるのだが、その当時のアメリカの風習とかに関わるものが多く、真相を聞いてもピンとこないものが多かった。

 ちょっと長めゆえに「ライツヴィルの盗賊」が一番読み応えがあった。しかも“ライツヴィル”を舞台にしていると言うこともあり、なおさら取っつきやすい。ただし、ネタとしては、わかり易い部類のもの。

「タイムズ・スクエアの魔女」という作品は、二人の男のうち、どちらが本当の相続人かを特定するものであり、“読者への挑戦”までがついている作品・・・・・・であるのだが、その特定の仕方があまりにもひどいような・・・・・・しかも、これでなんで読者への挑戦を付けたのかが、本書における一番の謎。




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