<内容>
南フランスの避暑地エクス・レ・バンで、宝石の収集家として知られる<薔薇荘>の富裕な女主人が惨殺された。室内は荒らされ、同居人の若い女性が姿を消していた。事件の状況は一見明白に見えた。しかし、少女の恋人の求めに応じて立ち上がったパリ警視庁の名探偵アノーの活躍によって、捜査は意外な展開を見せ始める。
少女の秘められた過去、降霊会の実験、消えた自動車と足跡の謎。事件の夜、一体何が<薔薇荘>で起こったのか?
<感想>
名探偵が必要もなさそうな単純な事件が起こり、状況から見ても犯人は明らかのように思えた。しかしそれが一転また一転してゆき、意外な事実が浮かび上がる。前半から中盤にかけてのスピィーディーな展開には引き込まれる。また残された証拠と犯人の事件当時の様子がぴったりと一致し、あてはまる緻密性も見事である。
ただ、中盤に犯人が明らかにされ、残り後半が事件当時の犯人の様子を追うという展開になるのだが、その後半が少々長いような気もする。やはり犯人は後半になってからずばり明かされるほうがしっくりくるのだが・・・・・・。ただ、証拠と犯人の行動の一致を効果的に演出するとういう面では確かに構成上成功している。でもやはり後半だれるなぁ。
<内容>
1882年夏、ムハンマド・アフマド率いるマフディー派の反乱にゆれるスーダン。そんな折、イギリスの若き将校ハリー・ファイヴァシャムは戦地に派遣される前に除隊してしまう。その彼の行為に対して同僚の3人の将校は臆病者のという事を印すために3枚の白い羽根を送る。さらにハリーの婚約者も彼に1枚の羽根を渡して、彼の元を去ってしまう。失意にくれるハリーは自分に対する臆病者の汚名を返上しようと行動を起こすことに・・・・・・
<感想>
100年前にこのような冒険小説が出ていたのかと感心してしまう。そしてこの物語が色あせることなく、100年の間語り続けられてきたことも、本書を読んでみると納得せざるをえないできばえである。いや、なかなか面白い冒険小説であった。
本書の主人公(の一人といったほうが正しいかもしれない)はハリー・ファイヴァシャムという人物であるのだが、おおまかな内容は、彼が汚名をそそぐために一人戦地に向かい行動を起こすというもの。読んでいるときは、ハリーが行動を起こし始めるところから、アクション色の強い物語が始まって行くのかと思っていたのだがそうではなかった。ハリーが行った行動については人づてに語られることのほうが多くなっている。よってアクション色は弱まっているのだが、その分イギリスで待つ人たちの感情などの心理的な描写を多めにすることによって、小説の奥深さを出すことに成功している。
(そういえば、メースンの代表作「矢の家」も心理的な描写を用いた内容だった気もするので、この著者にとってはこういう書き方はお得意といったところなのだろうか)
とにかく、そういった登場人物の心情を用いることによって、冒険小説の効果を上げる作品として完成されている小説である。本書を読めばこの作品がなぜ7回も映画化されているかということが理解できるに違いないと思う。私自身も「この場面が映像化されたならどんなふうになるのかなぁー」などと、つい考えながら読んでしまった。
<内容>
弁護士のヘンリー・スレスクがインドを訪れた際、ステラがインドで過ごしていることを知る。スレスクはかつてステラと結婚を考えたものの、その時は仕事が成功するかどうかもわからず、結婚まで踏み込むことができなかったのである。ステラはインド総督代理のバランタインと結婚しているようであるが、その顔を一目見たいと、スレスクは訪ねてみることに。そしてスレスクが見たものは、恵まれた結婚生活と言えない状況をひたすら耐えるステラの姿であった。その場を去ることしかできないスレスクであったが、その後、スレスクが立ち去ったすぐ後にバランタインが銃殺されたことを知る。その容疑者としてステラが起訴されることとなったのだが・・・・・・
<感想>
かつての恋人が夫殺しとして起訴されるという話。言葉にすれば一言なのだが、そこに至るまでの主人公スレスクの心情を事細かに描いている。
弁護士ヘンリー・スレスクが成長し、恋人ステラと別れ、その後弁護士として成功し、再びステラと再会する。しかし、ステラの結婚生活は異様な状況であり、何かにおびえ続ける夫バランタインの暴力に耐え続ける姿を見ることになる。そして、スレスクが立ち去った後、バタンタインが殺害され、ステラが起訴される。
タイトル「被告側の証人」からすると、ここからの状況は予想することができ、ステラを弁護するための証人としてスレスクが出陣するというもの。ただ、それが予想したほど劇的なものではなく、淡々としたものであり、裁判は地道な感じで続けられる。そして、ここまでが物語の前半であり、この後は別の者が主人公となって話が続いてゆくのである。
まぁ、意外な展開というよりは、思っていたものとは異なる話という感じ。決してミステリを基調とした作品ではなく、恋愛とか人間の矜持を描いた小説なのであろう。特に重要視されるところは、人の“矜持”。どのように生きるべきが正当であるのかを深く掘り下げた内容となっている。後半ではその矜持というものが、皮肉かつ真摯に描かれるという人の生き様に焦点が当てられている。現代社会とは風潮も常識も異なることから、今の世の中で受け入れやすい話というわけではないのだが、強く生きようとする登場人物の思いは確かに伝わってくる作品である。
元実業家のリカード氏は友人であるパリ警視庁警部アノーに呼ばれ、彼が追う事件に関わることとなる。アノーは宝石商にまつわる詐欺事件を追っていたのだが、事件の黒幕とされる国会議員ダニエル・ホープリーが死亡したとの報告を受ける。事件は自殺と判断されたものの、アノーは殺人事件ではないかと疑いはじめ、事件の真相を暴き出そうと捜査を始め・・・・・・
<感想>
「矢の家」で有名なメイスン氏描く作品。「矢の家」に続き、こちらもパリ警視庁警部アノーが登場している。
ただ、この作品を読んで、なんでここまで読みづらいのかと疑問に思えた次第。「矢の家」はそんなに読みづらいという印象はなかったはずなのだが。とにかく内容が入ってこない。また、事件の追い方も微妙であり、何を焦点として追っているのかも途中でよくわからなくなってくる。さらには、本書の探偵役であるアノーが終始登場しているにもかかわらず、探偵活動を行っていたのかどうかがわからないようなところも微妙。
そんなわけで何がなんだかわからないうちに終わってしまったという感じ。事件自体は単純なものであるはずなのに、何でこんなに長いページ数の作品になったのかもよくわからないまま・・・・・・
引退した実業家のリカードがブドウ収穫でにぎわうボルドーの田舎を訪れた際に、ジョイス・ウィップルという女性に誘われ、田舎屋敷を訪問することに。その屋敷に集められた者たちはどこかよそよそしく、不穏な雰囲気が漂っていた。すると翌朝、ジョイスともうひとりの女性が屋敷から姿を消していることが判明し、その後手を切り落とされたひとりの女性の死体が発見されたという報がもたらされる。事件を調査すべく派遣されたのは、リカードの友人であるパリの警視庁警部アノーであった。
<感想>
著者のメイスンといえば、「矢の家」で有名な作家。近年、論創海外ミステリにて、何冊か邦訳されているものが見受けられる。今作でもシリーズ探偵であるアノーが活躍するものとなっている。
読んでみて、とくかく微妙な作品であったなと。とにかく、全編において漠然としているというような雰囲気。出だしも不穏な雰囲気がただようばかりで、水面下で何が起きているのかが全くわからない。事件が起きて一人が死亡、一人が行方不明となるものの、被害者やその他の人物の身元や背景がこれまた漠然としていてよくわからない。そして警察の捜査もなにやら漠然としたようなものが延々と続くのみ。
最後のほうで明かされる真相には驚くべきものがあり、その真相により作品が漠然としていた理由もわかるものとなっている。ただ、それでもその真相により本書全編に対して、面白さが垣間見えるようなものであるかと言えば微妙なところ。ひっとしたら真相を踏まえたうえで読み直せば、見るべきところが見つかるかもしれない。それにしても微妙な作品であったなと思われるが、書かれた年代を考えると仕方のない事か。