ワ行  作家作品別 内容・感想

悪党どものお楽しみ   Rogues in Clover (Persival Wilde)   7点

1929年 出版
2000年11月 国書刊行会 <ミステリーの本棚>

<内容>
 賭博師家業から足を洗い、農夫として質実な生活を送っていたビル・パームリーが無類のギャンブル好きでお調子者の友人トニーに担ぎ出されて、あの手この手でカモを料理するいかさま師たちと対決。その知識と経験を生かしてトリックを次々にあばいていく。
 みすぼらしい雑種犬を使って腕利きいかさま師の裏をかく「ポーカー・ドッグ」、思い通りに目が出るルーレット盤の秘密をさぐる「赤と黒」、伝統あるクラブで毎夜行われる不自然なゲームの裏に隠された真実の物語「良心の問題」、ビルになりすまして有名な賭博師と対決するはめになったトニーの悪戦苦闘を描く爆笑篇「ビギナーズ・ラック」、チェスのいかさま試合にビルが加担する「アカニレの皮」他、豊富なアイディアとユーモアに彩られた全8篇を収録。

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<感想>
 非常に楽しい出来栄えの小説となっている。たいがいはミステリーといえば殺人があってというものであるのだが、ここでは賭け事を対象にしたユーモア・ミステリー小説とでもいうべき形がとられている。

 主人公のビルが賭博家業から足を洗い、その後友人となるトニーとの出会い、そして厄介ごとに巻き込まれるトニーの助けとなっていかさまを暴くために出陣していく、といった様相が連作短編といいう手法によってうまく描き出されている。シリーズとしてずっと読み続けたくなる内容であり、さまざまないかさまの手法だけではなく、そこにはビルとトニーとのくされ縁ぶりなども面白く書かれている。

 本格推理小説やサスペンスなどとは異なる趣の本書であるがこういった本を読むことができるといううえでも“ミステリーの本棚”という企画はあたりだったのではないだろうか。


探偵術教えます   P. Moran, Operative (Persival Wilde)   6点

1947年 出版
2002年11月 晶文社 晶文社ミステリ

<内容>
 お屋敷付き運転手のP・モーランは通信教育の探偵講座を受講中。気分はすっかり名探偵の彼は、習い憶えた探偵術を試してみたくてたまらない。ところが尾行の練習に選んだ相手が“たまたま”麻薬密売人で、あやうく一味に消されそうになったり、古今の名作ミステリをお手本に消えたダイヤ探しに乗り出したものの、あまりに手本に忠実すぎて依頼主の部屋を滅茶苦茶にしてしまったりと、素人探偵の暴走が毎回とんでもない騒動をひきおこす爆笑ユーモア・ミステリ連作集。

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<感想>
 一風変わった、書簡によるやり取りのみで構築された小説。その書簡によるやり取りの中に、皮肉、嫉妬、蔑み、自慢、苛立ち、などといった様々な感情がこめられ、かつ読者が顕著にそれらを感じとることができるのが非常に面白い。

 この著者の作品では「悪党どものお楽しみ」が記憶に新しいところである。その作品で感じられた“爽快さ”というものを本書で感じることができるかというとそれはまた複雑である。主人公と通信講座の相手側との書簡のやりとりにおいて、どちら側に自分が立つかによって“痛快”を感じるか“いらだち”を感じるかという複雑な感情が湧きあがってくるのである。通常の物語であれば、主人公に肩入れをしたくなるのが人情なのだが、本書の主人公はいまいち指示をするのは気がひけてしまうような人物。そうなると時には通信講座の相手側に気がいってしまい、物語を読みながら書簡の裏側で一緒に歯噛みをしてしまうこともしばしば。

 本書の内容については巻末の“解説”にてうまくまとめられているのだが、そこから引用させていただければ“常識的な悪が非常識の正義に裁かれるミステリ”というものをぜひともご一読していただきたいものである。


検死審問   Inquest (Persival Wilde)   6点

1940年 出版
2008年02月 東京創元社 創元推理文庫<新訳版>

<内容>
 著名な女流作家ミセス・ベネットの誕生日を祝うために人々が集められたなか、殺人事件が起きた。検死官のリー・スローカムは事件の関係者を集め、重要人物ひとりひとりに証言を求めてゆく。徐々に明らかになってゆく、ミセス・ベネットを取り巻く背景。そして、証言が出し尽くされたとき、検死官と陪審員が下した評決とは!?

<感想>
 パーシヴァル・ワイルドという名をどこかで聞いたことがあると思っていたのだが、国書刊行会からの「悪党どものお楽しみ」や晶文社からの「探偵術教えます」を書いた作家であることを思い出す。前2作もなかなか面白い本であったので、この作品も期待して読んだのだが、期待にたがわぬできであった。

 最初はタイトルからして法廷モノかと思いながら読んでみたのだが、確かに舞台は法廷らしき場所なのに法廷らしきことはほとんど行われないという、色々な意味で異色の作品である。よって、通俗の法廷モノを期待して読むと肩透かしをくらうことになるが、読んで面白い作品であるということは確かである。

 本書では法廷の場を借りて、事件前後に起きたこと(もしくはそのずっと以前からの話も含まれる)を登場人物らがそれぞれ饒舌に語りつくす。その何人かの話が続けられることによって、物語の背景と事実が出揃うこととなり、最終的に話全体の解決がなされるという構成である。

 登場人物それぞれが語る物語はある種のユーモアがあり、楽しみながら読むことができる。さらには、別々の人物が語ることによって、それぞれが抱いている印象が異なる様子なども垣間見ることができる。そして、最終的に回答が明らかにされれば、その語りのあちこちに張り巡らされた罠が浮かび上がってくるように描かれているのである。

 本書は書かれた年代を考えると、従来のミステリ小説とは異なる斬新な構成がなされた作品といえるのかもしれない。事実、その構成がいかんなく発揮された物語といってよく、さらには最終的な解決の付け方までが気が利いているといえよう。

 今の時代に読んでみても異色作ということがわかる作品であるが、これは復刊に値する作品であるということも間違いなかろう。


検死審問ふたたび   Tinsley's Bones (Persival Wilde)   6.5点

1942年 出版
2009年03月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 リー・スローカム検死官がふたたび検死審問を行うことに! 今回の事件は作家であるティンズリーが自分の家で家事により死亡したというもの。再び陪審員に選ばれたイングリスはスローカムが裁判費用欲しさに、全く事件性のなさそうなこの件を扱っているのではないかと疑いを持つ。実際、作家のティンズリー自身の事故としか思えないような状況。スローカム検死官の真意は!?

<感想>
 昨年「検死審問」が復刊されたのに続き、続刊であるこの「検死審問ふたたび」刊行された。どちらも未読の人は是非とも続けて読んでもらいたい作品。

 今作も前作の面白さが十二分に発揮されている。前作は当然ながら初ということで、どのような試みがなされる作品かがわからないまま読んでいたが、今作はある程度は主人公であるスローカム検死官が前作のように何やらやらかすのであろうという意図が見えるため、より物語にのめり込みやすい。

 本書は火災事故を検死審問にて扱うというもの。スローカム検死官が次々と証人を呼ぶものの、亡くなったティンズリーという作家の変人振りが伝わってくるのみで、事件性というものはあまり感じられない。ただ、事件前に不審者らしい人物が見受けられたという点により、多少事件性をうかがえないこともない。

 しかし、スローカム検死官はこの検死審問を行うにいたり、とある思惑を秘めて臨んでいたのである。

 この作品のなかでのミステリのネタについては、さほど印象深いものではない。ありきたりのトリックといえなくもないのだが、この作品が書かれた当時にしては斬新であったかもしれない。

 ただ、この作品での見るべきところは、どのように真相を明らかにしていくかというスローカム検死官の審問の運び方にある。審問で語られた証人達の一見無意味な証言のそれぞれに少しずつ真相が隠され、それによりスローカム検死官は自分が最初から持っていた疑問に対しての信憑性を確信することとなるのである。この検死審問がどのへんからスローカム検死官の思惑によって行われていたのかということを是非とも一読して感嘆していただきたい。


ミステリー・ウィークエンド   Mystery Week-end (Persival Wilde)   6.5点

1938年 出版
2016年01月 原書房 ヴィンテージ・ミステリ

<内容>
 「ミステリ・ウィークエンド」

 「自由へ至る道」
 「証 人」
 「P・モーランの観察術」

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<感想>
 パーシヴァル・ワイルドの処女長編「ミステリー・ウィークエンド」と、その他の短編を掲載した作品集。「ミステリー・ウィークエンド」がやや短めの長編なので、他のものも掲載したとのこと。

「ミステリー・ウィークエンド」は、まさに“雪の山荘”そのもののクローズドサークルが描かれている。そこで連続殺人事件が起き、しかも死体が消え失せるという不可解な状況までもが描かれている。それを四人の別々の者の手記によって章ごとに展開していっている。

 クローズドサークルといいつつも、不特定多数の人々が宿泊所である山荘に存在するので、厳密なミステリとは言い難いのかもしれない。ただ、そうしたなかで主要な登場人物のみにスポットをあて、あくまでも“閉ざされた形”を描いてミステリを展開させている。最初はの手記は嫌われ者の不動産屋、次に医師、その次は山荘の経営者、そして最後は??? となっているのだが、この並びに関しても実は意図したものがあり、最後に犯人が提示されたときには、なるほどと感心させられることであろう。

 短めのあっさりした作品であるのだが、うまく書かれていると感じられた。死体→死体消失→別の死体、という展開はなかなかのもの。さらに真相が提示されることによって明らかになる、事件時犯人がどのような行動をとっていたのか、というものだけではなく、探偵役の者がどのような行動をとっていたのかにもスポットが当てられ、見どころが多い作品と言えよう。


「自由へ至る道」は、警官によって捕まえられた犯罪者の話。警察署までの長い道のりの途中、警官が死亡してしまう。そして犯罪者のとった行動とは!? というもの。これはまた道徳を描いたかのような話であり、ワイルドらしからぬ作品と思われた。ユーモア抜きの真面目な内容。

「証 人」は、映画撮影中に起きた犯罪を暴くという内容。短めの作品で、ショートショートといった感じ。撮影中という事で、カメラに犯罪の一部始終が映っていたのかと思いきや・・・・・・

「P・モーランの観察術」は、「探偵術教えます」の作品で活躍する通信教育探偵シリーズの作品。実はこの短編「探偵術教えます」が出版された後に書かれた作品ゆえに、唯一収録しきれなかった作品とのこと。相変わらずの憎めないドタバタ劇が繰り広げられている。


ロンリーハート・4122   Lonlyheart 4122 (Colin Watson)   6点

1967年 出版
2021年02月 論創社 論創海外ミステリ262

<内容>
 イングランドの町、フラックス・バラにて失踪事件が起きた。独身の中年女性が行方不明となり警察が捜査に乗り出すことに。すると、行方不明者は結婚相談所に登録していることがわかり、しかももう一人同じ結婚相談所に登録していた女性が失踪していることが明らかになる。パープライト警部は失踪者の行方を探し始めるが・・・・・・
 一方、フラックス・バラにやってきたばかりの中年女性ルシーラ・ティータイムは出会いを求めて結婚相談所に登録する。すると、早速番号4122の男性から手紙が届き、ルシーラはその男性と付き合い始めることとなり・・・・・・

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<感想>
 著者のコリン・ワトソンであるが、架空の町フラックス・バラを舞台にしたミステリ作品を12作書いているとのこと。そのうち2作は創元推理文庫から出ているようである。

 そしてこの作品、サスペンス・ミステリのような様相を示す作品となっている。失踪した二人の女性の行方を追っていると、とある結婚相談所の存在が浮かび上がってきて、失踪した女性に関与する男がいるのではないかと警察は推測する。そんなときにリアルタイムでその結婚相談所に相談してきた女性ルシーラ・ティータイムがおり、警察は彼女の力を借りて、犯人の存在をあぶりだそうとするのだが・・・・・・というような感じ。

 途中までは普通のサスペンス作品ぽいのであるが、後半からラストにかけては、何だこれはというような展開が待ち受けている。良いのか悪いのかも判断突かないような、あっけにとられる尻切れトンボ気味の終幕。とにかく読み終わった後は、何だこの変な作品は!? と思わされること必須。シリーズ探偵らしきパープライト警部が全く存在感を示し切れておらず、ティータイムという謎の女性のほうが妙な存在感を醸し出していた。


愛の終わりは家庭から   Charity Ends at Home (Colin Watson)   5.5点

1968年 出版
2023年06月 論創社 論創海外ミステリ298

<内容>
 町に出回る何者かによる自身の危険を訴える手紙。また、それとは別に人々を中傷する匿名の手紙が配られる中、殺人事件が起きる。慈善活動を積極的に行っていた女性が被害者であったが、その夫のアリバイが不明な事から容疑は夫にかけられるものの・・・・・・

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<感想>
 この著者の作品は、論創海外ミステリで「ロンリーハート・4922」が訳されており、本書も含めシリーズ作品とのこと。フラックス・バラという町で起きる事件を描いている。レギュラー探偵らしき人は、パーブライト警部とミス・ティータイム。ミス・ティータイムは、「ロンリーハート」では、主要人物ではなかった気がするが、本書から完全にレギュラーメンバーになったという形なのであろうか。

 そんな背景の作品であるが、本書も前作「ロンリーハート」と同じで、なんとも書き足りないというような作品。内容は中傷めいた手紙が散乱される町で起きた殺人事件が描かれたもの。ただ、そんな中傷とはうらはらに、家庭内で起きた殺人事件のように取り扱われてゆく。と、そんな感じで事件が展開していくものの、事件の見せ方にやや不満が残る。

 もう少し、町の全体的ないざこざをきちんと取り上げるか、もしくは誰かひとりをクローズアップして話を進めればいいと思えるのだが、どの描写も中途半端になっていてわかりづらい。さらには、私立探偵のハイヴという重要なのかどうなのかもわからない人物が頻繁に出てくることによって、さらに話をわかりづらくしてしまっている。短いページ数の作品ゆえに、無駄をもっとこそぎ落としたほうがよいと思われるのだが。

 結末は、結構普通。というか、全体的に普通な感じの事件をややこしく処理しているだけというような感じであった。この作品は、シリーズを通して読んでみれば、少しは見所というものが現れるのかもしれないが、この作品単体としてはそんなに見所はなかったなという感じ。




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