青崎有吾  作品別 内容・感想

体育館の殺人   6点

第22回鮎川哲也賞受賞作
2012年10月 東京創元社 単行本

<内容>
 放課後の体育館でいつものように卓球部が練習しているとき、演劇部の面々がやってきて、普段は下りていないはずのステージの幕を上げると、そこで死体が発見される。刑事の兄を持つ卓球部員の早苗は、部の先輩が疑われていることに気づき、ひとりの男に助けを求める。その男は学園一の天才で学校に住んでいると噂される裏染天馬。アニメオタクの天馬は報酬に目がくらみ、学校内で起きた密室殺人の捜査を始める。

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<感想>
「体育館の殺人」って、えらく平凡なタイトルだと思っていたら、綾辻行人氏の「○○館の殺人」にかけていたと、後から気付く。さすがに謎の建築家までは出てこないものの、論理色の強いガチガチのミステリ作品に仕上げられている。ただし、決して読みづらいような硬い作品ではなく、今どきの若者が描いたということがよくわかる、ライトな作調となっている。

 衆人環視の状況によって密室と化した体育館の舞台裏。その状況で、誰がどのようにして殺人を犯し、密室を創り上げたのかが焦点となる。被害者の遺留品や現場に残されていた物品、そして現場にいた関係者たちからの証言により、徐々に犯人と思しきものがあぶりだされてゆく。

 読者への挑戦まではついていないものの、最終章の前までに、全ての証拠が挙げられたことが明示されている。正直、最終章を読む前は、解決編のページ数が長過ぎるような気もしたのだが、読んでみると細部にわたって論理的な検証がなされており、納得のいく解決方法により犯人が示されている。

 ここ何年かの鮎川賞受賞作のなかで、実に本格ミステリらしい作品であると思われる。語り口や会話の軽さについては好き嫌いあるかもしれないが、論理的な推理については、全てのミステリファンを納得させるのではなかろうか。今年の新人作品のなかで一番の収穫と言ってよいであろう。


水族館の殺人   7点

2013年08月 東京創元社 単行本

<内容>
 夏休み、風ヶ丘高校新聞部の部員は“風ヶ丘タイムズ”の取材のため、市内にある横浜丸美水族館を訪れた。そこで紹介される飼育員や事務員たち。そうして館長による水族館の案内が行われ始めたとき、サメが泳いでいる水槽の中に突然飼育員が落ちてきて、それにサメが喰らいつくという事態が・・・・・・。どうやら被害者は殺害されたのちに、水槽の中へと落とされたらしい。しかし、被害者が水槽へと落ちてきた時間、水族館ないの飼育員や事務員たちには全てアリバイがあった。出入り口に監視カメラがあるため、外から誰かが侵入してきたということはなく、犯人は水族館内の関係者に限られる。事態を打開すべく、警察は“体育館”での事件で活躍した裏染天馬を呼び出すこととなったのだが・・・・・・

<感想>
 鮎川哲也賞作家が送る、新“館”シリーズ第2弾の登場! まぁ、そんな呼び方をする人は誰もおらず、裏染天馬シリーズとか、風ヶ丘高校シリーズとか、そんな感じになるのかな? 前作に続いて、今作でも論理的な推理を展開してくれている。こういったミステリを書いてくれる作家も、そうそういないので非常に貴重。

 論理的な道筋により、徐々に容疑者を絞り込み、最終的に犯人を当てるという内容。今作では主人公の裏染天馬も、「証拠が少ない」と悩むように、なかなかこれといった証拠が出てこない。そうしたなかで、非常に細い真犯人のもとへと辿ることができる道筋をなんとか見つけ出し、真相へとたどり着く。伏線の提示が多岐にわたりつつ、かなり細かいため、真相が明らかになったときに、爽快感を得るというほどのものではない。ただ、論理的に容疑者を絞り込み、徐々に容疑者の数が少なくなっていく場面には手に汗握る緊張感があった。

 と、なかなか見応えがある内容であったが、今回は2作目ということもあり、シリーズ化という意味もあってか、主たる道筋と関係のない描写が多かった。事件とは関係ない風ヶ丘高校での卓球の描写や、今回の事件に関係ない人々の紹介等。ただ、これらの人々が今後の作品に深く関わってくるのであろうということは想像できる。別に裏染天馬の過去などに興味がない、などと言わずに、温かい目で見守るべきシリーズであろう。これからも、このような作風のまま良質のミステリを描いてもらいたいものである。


風ヶ丘五十円玉祭りの謎   6.5点

2014年04月 東京創元社 単行本

<内容>
 「もう一色選べる丼」
 「風ヶ丘五十円玉祭りの謎」
 「針宮理恵子のサードインパクト」
 「天使たちの残暑見舞い」
 「その花瓶にご注意を」
 おまけ 「世界一居心地の悪いサウナ」

<感想>
「体育館の殺人」「水族館の殺人」に続く、裏染天馬が活躍する作品集。タイトルからして「五十円玉二十枚の謎」に関連あるのかと思ったのだが、全くの別物であった。本作は学園ミステリを堪能できるものとなっている。

「もう一色選べる丼」は、学食の外に放置されていた二色丼を見て、裏染天馬が犯人を推理するというもの。丼の状況から事細かに推理するさまが見事。シリーズらしい作品と言えよう。

「風ヶ丘五十円玉祭りの謎」は、祭りで出されるおつりが50円玉ばかりという謎の秘密に迫ろうとするもの。解決を聞いてみると、なるほどと思いつつも、ありそうな、なさそうな話。そもそも屋台の人たちが、そこまで協力してくれるかな?

「針宮理恵子のサードインパクト」は、針宮理恵子がいじめられている(ように見える)恋人を助けようと奮闘する話。まさに、青春全開! いろいろな意味で恥ずかしい話であるのだが、いまどきの学生らしくなくてむしろ好感が持てる。

「天使たちの残暑見舞い」は、過去に起きた幽霊事件の謎を調べるというもの。消えた二人の少女の行方は? これまた学園ミステリらしい内容。実はしっかりと細やかな数々の伏線が張られている。単純ともいえる事件ながらも、うまい具合に事件を表現していると感じられた。

「その花瓶にご注意を」は、裏染天馬の妹が活躍する作品。舞台は別の学校となり、そこで誰が花瓶を壊したかを調査する。花瓶を壊した人を探すというよりは、その証拠をどのようにして表すのかということに比重が置かれているように感じられた。これまたしっかりと描かれたミステリ作品。

 最後の作品は“おまけ”と書かれている通り、裏染天馬のとある一幕が描かれたもの。今後の展開への伏線みたいなものか。


アンデッドガール・マーダーファルス1   6点

2015年12月 講談社 講談社タイガ

<内容>
 怪物事件専門の探偵・輪堂鴉夜(りんどう あや)と、その助手・真打津軽、メイド・馳井静句が、吸血鬼殺害事件と人造人間の密室事件に挑む!

 序 章 「鬼殺し」
 第一章 「吸血鬼」
 第二章 「人造人間」

<感想>
「体育館の殺人」により、鮎川賞を受賞した青崎氏による新シリーズ。内容はきっちりとミステリしているが、どちらかというと若年者向け。そのお気楽なノリについて行きづらく感じられるところもあるのだが、そのほうが取っ付きやすいと思える人の方が多いかも。

 怪物が実在する世界のなかで、探偵を営む3人の旅を描いた作品。今作では二つの事件に挑んでいる。最初は“吸血鬼殺害事件”。これは吸血鬼が何故殺されたのか? さらには、如何にして殺害されたのか? という謎に迫る。もう一つの事件は「人造人間の密室事件」。人造人間を造った博士が首なし死体として、閉ざされた部屋で発見された。その部屋には、出来立ての人造人間のみが残されていたという謎。

 こうした、謎に探偵を名乗る輪堂鴉夜が挑むのであるが、キワモノと侮るなかれ、しっかりと論理的な推理を披露しながら真犯人を指摘していくのである。これはなかなかミステリとして、しっかりしているのではなかろうか。設定は突飛とはいえ、きっちりとした、しかも分かりやすいミステリとして完成されている。

 本書はライトノベルズ風で、ミステリのみならず、キワモノ系の設定あり、アクションあり、笑いありといったエンターテイメント小説となっている。シリーズとしても、きっちりとした流れを考えているようで、今後の展開も期待できそう。


図書館の殺人   6.5点

2016年01月 東京創元社 単行本

<内容>
 期末試験中、風ヶ丘高校の図書委員・城峰有紗は、行きつけの風ヶ丘図書館に寄る。そこで、仲の良い親戚の城峰恭介と出会うのだが、翌日、その恭介が図書館で死体となって発見される。図書館は夜間パスワードというものがあり、それを知るのは図書館司書の5人のみ。果たして、彼らの中に犯人はいるのか? 被害者が残したダイイング・メッセージの謎とは? 今回もまた、警察のアドバイザーとして風ヶ丘高校2年、裏染天馬が事件の謎に挑む!

<感想>
 図書館で起きた事件をいつものシリーズキャラクターがいつものノリで捜査と推理を行っていく。事件はひとつだけで、そのひとつの殺人事件を詳細に検証していくという内容。

 探偵役となる裏染天馬により詳細な推理と論理的な考証が進められていくものの、細かな論証は最後に明らかにされるので、途中途中では裏染が何を行っているのかはわからない状況。しかし、真相が明らかになると、その場面場面で裏染が何を考えていて、そのような行動をとったのかということが明らかになる。最後まで読めば、ひとつひとつの行動に意味があったのだなと感嘆させられる。

 犯人を特定するための“五つの条件”というものが詳細に突き詰められており、秀逸と感じられた。警察よりも事細かい裏染による検証については脱帽。カッターの刃や、その他もろもろの証拠から“一つ目の条件”を導き出すところこそが本書のキモと言えるのではないだろうか。

 ただ、ひとつだけ理解しにくかったところは新犯人について。論理的には理解できるものの、どうも心情的には納得いかないというか・・・・・・。本書を読んで、ひとつ思いついたのはシャーロック・ホームズのとある言葉。ちょっと今回の件とニュアンスは異なるかもしれないのだが、

 「まったくありえないことをすべて取り除いてしまえば、残ったものがいかにありそうにないことでも、真実に違いないということです」

ということで、収まりを付ければよいのだろうか。


ノッキンオン・ロックドドア   6点

2016年04月 徳間書店 単行本

<内容>
 探偵事務所“ノッキンオン・ロックドドア”に持ち込まれる様々な事件に、不可能専門の探偵・御殿場倒理と、不可解専門の探偵・片無氷雨の両探偵が挑む!

 「ノッキンオン・ロックドドア」
 「髪の短くなった死体」
 「ダイヤルWを廻せ!」
 「チープ・トリック」
 「いわゆる一つの雪密室」
 「十円玉が少なすぎる」
 「限りなく確実な毒殺」

<感想>
 昨年ごろから快調に新刊を出し続ける青崎氏による新シリーズ作品。“ノッキンオン・ロックドドア”という私立探偵事務所にもたらされる事件を二人の探偵が挑むというもの。二人はジャンルがわかれており、“不可能専門”と“不可解専門”にわけられているよう。このへんは、キャラクターわけの創造の副産物のように思えなくもないのだが。

 全体的にそれぞれ不可能犯罪を取り上げているのだが、それぞれの短編が少ないページ数ということもあり軽めの内容。それでも中には、ハッとさせられるような目を惹く内容のものも見受けられた。

「ノッキンオン・ロックドドア」 閉ざされたアトリエにて殺害された画家の謎。
「髪の短くなった死体」 犯人が死体の髪の毛を持ち去った理由は?
「ダイヤルWを廻せ!」 金庫を開けるための暗号の謎。
「チープ・トリック」 暗殺を警戒する男を外部から狙撃するための方法とは?
「いわゆる一つの雪密室」 足跡なき殺人事件の真相とは?
「十円玉が少なすぎる」“十円玉が少なすぎる。あと五枚は必要だ”という言葉に隠された意味とは?
「限りなく確実な毒殺」 特定の者を毒殺するための方法とは?

 一番うまいと思えたのは、「髪の短くなった死体」。事件現場に残された死体の髪をわざわざ切って、持ち去った理由について言及するもの。“どうやって?”ということより、“どうしてこのような状況が生まれたのか?”ということを推理していく様はなかなかのもの。

 他には、「九マイルは遠すぎる」を思わせるような「十円玉が少なすぎる」あたりも発想が面白かった。「チープ・トリック」についても、これも光る発想が見受けられる作品と言ってよいであろう。

 その他は、ちょっと無茶な内容ではないかと思われたり、真相がつまらなかったりと微妙なものが多々。全体的にキャラクター小説というイメージが強まってしまい、ややミステリらしさを打ち消してしまっているかなと。


アンデッドガール・マーダーファルス2   

2016年10月 講談社 講談社タイガ

<内容>
 資産家であるフィリアス・フォッグが持つダイヤを奪うと、怪盗アルセーヌ・ルパンから予告状が届けられた。フォッグは名探偵シャーロック・ホームズと怪物専門の探偵・輪堂鴉夜に依頼し、警察も加えた厳重な体制で宝石を奪われまいとする。さらには保険会社であるロイズからも諮問警備部が派遣されてくる。そして怪盗と名探偵たちの死闘が繰り広げられることとなるのであるが・・・・・・さらなる別の者達までもが闘争に加わることとなり・・・・・・

<感想>
 1年ぶりのアンデッドガール・マーダーファルスの2作目。前作はそれなりにミステリっぽい内容となっていたものの、今作では冒険譚、もしくは伝奇物に完全にシフトチェンジした様子。ひょっとしたら、ただ単に、今回の主役のひとりであるアルセーヌ・ルパンに作風を寄せたという見方もあるのだが。

 今回の内容は、ひとつの宝石を巡り、主人公・輪堂鴉夜らと、ホームズ&ワトソン・コンビ、ルパン&オペラ座の怪人・コンビ、ロイズの諮問官、そして謎の一団と、これらが入り乱れての闘争が繰り広げられることとなる。今作はあくまでも、今後登場する人物ほぼ全員を出し、ここで登場した者たちが入り乱れて物語を作っていきますよというプロローグ的な意味合いのように思えた。そして主人公らが倒すべき相手もはっきりとし、最終目標が定まったようにも感じられた。

 今作では内容がミステリから外れてしまったがゆえに、今後の作品を追っていくのはどうしようかなと考えてしまう。ただ、物語としての興味は十分にわいてきたので、最後まで読んでみようかなとも思っている。何しろ、古今東西の物語の主人公や、各種怪物たちが入り乱れて登場しているので、それだけでも楽しめる。全く関係ない話であるが、個人的には「屍者の帝国」という作品もこのくらいぶっとんでいてくれても良かったのではないかと思うのだが・・・・・・


早朝始発の殺風景   6点

2019年01月 集英社 単行本

<内容>
 「早朝始発の殺風景」
 「メロンソーダ・ファクトリー」
 「夢の国には観覧車がない」
 「捨て猫と兄妹の喧嘩」
 「三月四日、午後二時半の密室」
 「エピローグ」

<感想>
 青崎氏によるノン・シリーズ短編集。それぞれの作品の主人公は異なっていて、共通項と言えば学生主体の物語ということくらい。また、最初の「早朝始発の殺風景」はちょっとした事件性のある真相が明らかになるのだが、他の作品は学校生活の一コマを描いたというくらいのもの。どの作品も日常の言動のなかから、ちょっとした秘密が明らかになる様子を描いたという感じのものとなっている。

「早朝始発の殺風景」は、たまたま始発電車に乗った男子高校生が女子のクラスメイトと出会い、互いの目的に対して、何故かお互いけん制し合う。双方が互いの目的の真相を導き出す過程が面白い。

「メロンソーダ・ファクトリー」は、ファミレスにて、3人の女子高生が文化祭で使用するTシャツのデザインで揉めるという話。どこかかみ合わない話のなかから、徐々にとある真実があぶりだされる。ただ、なんとなく、今さらかよ、と思えなくもない。

「夢の国には観覧車がない」は、観覧車に乗った男二人の話。もっとハードな結末を予想していたが、極めてライトなまま話は終わる。

「捨て猫と兄妹の喧嘩」は、親の離婚後、離れ離れで暮らす妹が兄に捨て猫を押し付けようとする話。この話にはオチなどはないのではないかと思いきや、思わぬ角度から意外(というと大げさか)な真実がもたらされる。とは言っても、普通に家庭の問題が語られるというくらいのもの。

「三月四日、午後二時半の密室」は、クラス委員が卒業式休んだ生徒の元に証書を届けに行く話。これもまた、真相というほどのものではなく、学生生活の一幕を描いたという感じでしかない。友情の始まりを描いた物語といったところ。


ノッキンオン・ロックドドア 2   6点

2019年11月 徳間書店 単行本

<内容>
 「穴の開いた密室」
 「時計にまつわるいくつかの嘘」
 「穿地警部補、事件です」
 「消える少女追う少女」
 「最も間抜けな溺死体」
 「ドアの鍵を開けるとき」

<感想>
 不可能な謎専門の御殿場倒理と不可解な謎専門の片無氷雨という二人による探偵事務所“ノッキンオン・ロックドドア”が扱う事件を描くシリーズ第2弾。相変わらず専門の違いというものがわかりづらく、単に展開の流れを会話調で進めたいがゆえに探偵を二人にしているだけと感じてしまう。とはいえ、それぞれの作品は、それなりによくできており、見所も多々ある。

 ただ、このシリーズ、コミカルでそれなりによくできたミステリということで、どうしても東川氏の短編ミステリとだぶってしまうような。あまりにもコミカル色が強くなると、なんとなく東川氏の作品を読んでいるように錯覚してしまう。

 今作で面白かったのは「穴の開いた密室」。出入り可能な穴が開いているのに“密室”という表現が面白い。その他「消える少女追う少女」はミステリとしてはありきたりかもしれないが、それでも真相がわかるまでは不可能性を楽しむことができる。「最も間抜けな溺死体」についても、その被害状況が面白いのみならず、真相がさらなるバカミス的な出来となっており、楽しめるものとなっている。

 今作では、探偵二人がかつて学生時代に現在警部補となっている穿地決と、それともう一人入れた4人組を組んで事件に挑んだ時代のことが語られる。それが最後の「ドアの鍵を開けるとき」によって、語られることとなり、過去の事件に終止符が打たれることとなる。これはトリック云々よりも青春ミステリとして堪能できる内容。


「穴の開いた密室」 小屋の中の死体と、壁に開けられた大きな穴が意味するものは?
「時計にまつわるいくつかの嘘」 被害者が付けていた時計から導き出される真実とは?
「穿地警部補、事件です」 ベランダから転落死した者が残したタバコが示すものとは?
「消える少女追う少女」 消えた女子高生の行方を追うこととなった探偵たちであったが・・・・・・
「最も間抜けな溺死体」 水がはっていないプールに飛び込んだことにより死亡!?
「ドアの鍵を開けるとき」 探偵たちがかつて経験した密室事件の真相は!?


アンデッドガール・マーダーファルス3   7点

2021年04月 講談社 講談社タイガ

<内容>
“人狼”の存在を追う《夜宴》を追って、探偵の鴉夜と半鬼の津軽、メイドの静句の3人はドイツの村へと向かう。そのドイツの村へ向かうのは、探偵一向、《夜宴》(カーミラ、クロウリー、ヴィクター)のみならず、彼らを駆逐しようとするロイズ諮問警備部のアリスとカイルの姿もあった。探偵一向が訪れたホイレンドルフ村では、人狼による被害が出ていた。人狼により村娘が襲われるという被害が相次ぎ、探偵一向が到着したときにも、車椅子で過ごす少女が人狼にさらわれるという事件が! そして、後に彼らが訪れることになる人狼が住む村、ヴォルフィンヘーレでも、似たような事件が起きていたことを知ることとなり・・・・・・

<感想>
 4年半ぶりのシリーズ続編。こういったシリーズを久々に読んでも、いまさらどうかな、と思いながら読んだのだが、これが何とも面白かった。作品としてだけではなく、ミステリとして面白いのだから困ったもの。

 ファンタジー系バトル作品としても十分見栄えのする物語。主人公らの探偵一向、彼らが追う怪物らが徒党を組む《夜宴》、主人公や怪物らを掃討することが目的のロイズ諮問警備部という3つの徒党による争い。そこに人狼の集団を含んだ闘いが繰り広げられるものとなっている。

 そして本書は、ただ単に闘うだけではなく、実は謎解きこそが主軸となっている。人々が住む村で連続して起きた少女殺害事件。村人たちは人狼の仕業と考えているが、いったいどのような目的で行われたものなのか? さらには、実は人狼の村でも似たような事件が、しかも同時期に行われていることが明らかになる。これら二つの村を結ぶ事件の真相は如何に? というのが探偵一向が紐解くべき謎となっている。

 この謎解き部分の真相が非常にうまくできていて、なかなかのものだと感嘆させられてしまう。きちんとファンタジー的な設定も包括してのミステリの真相がよくできていた。これはライト系なファンタジー小説といった見た目のみに惑わされて読み逃してしまうのは惜しいと思われる作品である。何気に今年度のミステリ界の目玉的作品といっても過言ではないと思われる。

 と、そんなよくできている作品であるのだが、シリーズとしてはまだまだ続くようである。2巻から3巻までの間が長かったので、次の4巻はいつになるのやら。是非とも次巻も読みたいと熱望するものの、次巻がいつ出て、そして完結はさらにどれくらい先になるのかと思うと心配でならない。


11文字の檻   6.5点

2022年12月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 「加速してゆく」
 「噤ヶ森の硝子屋敷」
 「前髪は空を向いている」
 「your name」
 「飽くまで」
 「クレープまでは終わらせない」
 「恋澤姉妹」
 「11文字の檻」

<感想>
 青崎氏のノン・シリーズ短編集。色々な媒体に掲載されたものを集めたようなので、ミステリ作品ではないものも多い。ある種、ファン向けとも言えるのだが、表題作で書下ろしの「11文字の檻」は、なかなかの力作であるので、これを読めるだけでも十分とも言えるので必見。

 最初の2作品はミステリ風。「加速していく」は、福知山脱線事故を背景に描いた作品。内容は、事故当時に一人の少年がとった不思議な行動に言及するというもの。青春ミステリっぽくて、意外と読みどころのある作品。少年の心情がうまく表されていると思えた。「噤ヶ森の硝子屋敷」は、ガラス張りの館で起きた殺人事件を描く。やりそうで、やらなそうなトリックと、ふと感じてしまった。この“屋敷”もの、シリーズ化しそうな予兆もある。

 次の「前髪は空を向いている」は、普通の青春小説という感じであったのだが、どうやらモチーフとなる漫画があったようである。「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」のアンソロジーとして書かれたようだ。興味のある人はどうぞ。

「your name」「飽くまで」「クレープまでは終わらせない」の三作はショートショート。「your name」は、ちょっとしたミステリ。「飽くまで」は、奇妙な趣向の持ち主の顛末を描いている。「クレープまでは終わらせない」は、終末という壮大な背景の中でちょっとした日常を描いたもの。

「恋澤姉妹」は、バトル系小説。昔読んだ、西尾維新氏の作品を思い出す。

「11文字の檻」は、力作。思想犯たちが閉じ込められた独房のなかで11文字のパスワードをひたすら考え抜くという内容。ゼロサムゲームとは異なるのだが、どこかサバイバル系の脱出ゲームのような感覚で読むことができる。しかも、そのパスワードを解くための思考が文学系のようなもので、文科系サバイバルとも捉えることができる。最後に明らかになるパスワードの回答も見事なものとなって、これは良くできた作品と感嘆するよりほかはない。


アンデッドガール・マーダーファルス4   

2023年07月 講談社 講談社タイガ

<内容>
 「知られぬ日本の面影」
 「輪る彼方へ流す小笹船」
 「鬼人芸」
 「言の葉一匙、雪に添え」
 「人魚裁判」

<感想>
 今回のアンデッドガール・マーダーファルスは外伝的な内容。物語が始まる以前のエピソードが語られる。鴉夜はどのようにして生きてきて、そして首だけの存在となったのか。真打津軽は、どのようにして鬼の力を得ることとなったのか。馳井静句はどのように育ち、そして鴉夜と出会ったのか。こういった今まであまり語られなかった話が詳細に表されるものとなっている。

 というわけで、今作では話は先に進まず、過去を振り返る内容となっている。このシリーズはミステリ的な要素が含まれている巻もあるのだが(特に1巻と3巻)、今回はこのような内容ゆえに、普通に物語として語られるものとなっている。シリーズとしては重要な一冊ではあるものの、単体の作品としてみるといまひとつという気はする。

 そこそこ長いスパンが空いてしまって、さらにこういった外伝的な内容の作品がはさまれると、肝心な本編の流れを忘れてしまう。今回ここに登場した主要キャラクターについては再認識できたものの、それ以外のキャラクターについては、かなり忘れかけてしまっているような。ただ、アニメ化されたようなので、忘れた人はそちらを見ろということか。


地雷グリコ   7点

2023年11月 角川書店 単行本

<内容>
 「地雷グリコ」
 「坊主衰弱」
 「自由律ジャンケン」
 「だるまさんがかぞえた」
 「フォールーム・ポーカー」

<感想>
 友人の鉱田の頼みによって文化祭の場所取りのためにゲームに挑むこととなった射守矢真兎(いもりや まと)。勝負ごとに強い真兎が、最初のゲームに勝ったのをきっかけに、さまざまな勝負に挑む羽目となる。さらには、中学時代の因縁の相手と対戦することに。と、そんな感じのゲーム対戦小説でありつつ、ベースは緩めな学園ものとなっている。

 それぞれ行われるゲーム内容が面白い。既存のゲームに別のルールを付け足すことにより、よりゲーム性を高めて、読み合い必須の勝負が繰り広げられることとなる。2番目の「坊主衰弱」だけが、ちょっといまいちであったかなと。いかさま的な要素が多いのと、ゲーム中にスマホで連絡し合うという部分も、やや興覚めであった。

 それ以外のゲームは、全て見ごたえがあった。単にゲームをするのではなく、ルールに描かれていない裏の部分を突き詰めつつ、失格にならないように裏打ちしながら手探りでありつつも、スピーディーにゲームを進めていく様が面白い。それぞれのゲームにおいて、ゲームのなかだけでなく、始まる前からの読み合い、騙し合いもゲームに勝つための大きな要因となっている。

 本書はゲーム小説でありつつも、青春小説という側面も見逃せないところ。文化祭の場所取りや、生徒会長からの誘いや依頼などをこなし、さらには他校の生徒との一騎打ちなどと、背景と合いまった作品になっていると感じられた。登場するそれぞれのキャラクターも良くできていて、楽しく読むことができた作品であった。




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