<内容>
加茂冬馬の妻は難病により死を迎えようとしていた。そんなときに謎の存在が冬馬の元にコンタクトをとってきた。”マイスター・ホラ”と名乗るものは、妻の難病の原因は、彼女の一族の呪いに起因するものであり、妻を救うためには過去に遡って、一族を悲劇から救う必要があると。藁にも縋る思いで、加茂冬馬はマイスター・ホラと共に過去へと遡り、竜泉家が遭遇した謎の連続殺人事件に挑むこととなるのだが・・・・・・
<感想>
今年の鮎川哲也賞受賞作は当たりであった。個人的に非常に出来の良い作品だと感嘆させられた。途中、読んでいるときはタイムスリップが絡む作品となっているせいか、どこかうさん臭く感じてしまったのだが、最後まで読んでみると、非常に良くできたミステリ作品であることがわかるようになっている。
タイムスリップ云々は、読んでもらえればということで説明する気にはなれないのだが、そうした部分を除けば、外部から人が立ち入ることができない場所において起こる連続殺人事件が描かれた内容となっている。
最初に起こる事件は二つのバラバラ死体事件。ただ、死体がバラバラにされたのちに、パーツが別の場所へと持ち出されるのだが、現場の状況からそれらを持ち出すことができると思えず、不可能犯罪と見なされる。さらには、同じく監視している場所を通らずに部屋から人が消えて、死体になって発見されるという事件などが起こることとなる。
これらなかなか解明が難しい事件と思われたが、それらが鮮やかに解決されているところが秀逸と感嘆させられた。クローズドサークルという設定をいかんなく利用した、うまく作り上げられたミステリ作品である。
SF的な要素に関しても、序盤は眉唾ものであったが、読み終えてみると、うまく物語が作り上げられていたのではないかと、納得させられるものとなっている。これはミステリファンに自信をもってお薦めできる作品。
<内容>
9名のテレビ製作スタッフらがロケを行うため、“幽世島”という無人島へと渡った。その島はかつて人が住んでいたものの、12名の住人全てが殺害されるという事件にあい、現在は無人島となっているのだ。警察により、その死に対して見解がなされ、事件は終結したものの、それに疑問を提した記事を元に番組が作られることとなった。そのスタッフのなかでADとして参加した竜泉祐樹は、恋人の復讐のためにロケに参加しているうちの3名を殺害する計画を立てていた。しかし、彼が行動する前に殺人事件が起きてしまうこととなり・・・・・・
<感想>
著者の方丈貴恵氏は鮎川哲也賞受賞者で本書が2作目となる。一応、前作の続編みたいな感じを匂わせてはいるものの、内容は全く関連性がないので、本書のみを単体として読んでも十分に楽しめるものとなっている。
この作品は、過去に起きた謎の全員死亡事件をめぐる調査、そして復讐者による犯罪計画、というような内容で進行していくのかと思いきや、突如殺人事件が起こり思わぬ方向で話が進んでいくこととなる。なんと物語は、超自然的な“モノ”によるSF系のミステリへと発展していくのである。
ただ、SF系のミステリだからといって、本格ミステリ色が失われることは決してない。その超自然的な“モノ”の設定が徐々に暴かれ、そのなかから犯罪がどのようにして起き、そして一見不可能犯罪のような事件はどのようになされたかを推理していくこととなる。
特に最後の解決においては思いのほか本格ミステリ色が濃く、きちんとミステリしているなと感じられた。そして結末もきっちりとした着地を決めており、うまくできた作品だと感嘆させられる。これはなかなか良い作品ではないかと。年末に出たこともあり、あまり話題にはならないと思われるので、年末年始読む作品がないという人には是非ともお薦めしておきたいミステリ作品。
<内容>
加茂冬馬は、成長著しいゲーム会社メガロドンソフトの依頼を受け、イベント監修をすることとなった。そのイベントとは、素人探偵が島に集められ、VRミステリゲームを行い、そのゲームのなかで犯人役をしてもらいたいというもの。加茂冬馬は、探偵たちに見破られないようなトリックを考えることとなる。しかし、イベントが行われる島へと集められるや否や、加茂を含めたメンバーらは人質を取られ、自らの命を懸けるデスゲームに強制参加させられる羽目となる。現実の世界とVRの世界を行き来しつつ、生き延びて魔の手から逃れることができるのは・・・・・・
<感想>
“竜泉家の一族”シリーズの3作品目。シリーズといっても一冊一冊が独立した内容であるので、この作品から読んでも問題はない。特にこの作品が非常に面白い内容であったので、未読の方やこのシリーズを知らないという方にも、読むことをお薦めしておきたい。
現実世界とVR空間を行き来してのデスゲームがなされるという内容。集められた探偵たち8人が、VR空間において自身のアバターを使って実際に犯罪を行い、それをミステリ形式で解き明かしていくというもの。探偵役の8人の中に事件を起こす犯人役と場を荒らす執行人役が含まれているという。そしてこの閉ざされた場で起きた事件を推理することとなるのだが、その推理が間違った場合には、執行人により粛清されることとなる。そんなデスゲームに半ば強制的に参加された者たちの様相を描いている。
ここで出てくる事件のほとんどが“密室殺人”となっている。密室での絞殺、密室での毒殺、密室での刺殺と、様々な事件が次々と起こる。それらについて誰がどのように解答をしていくのか、そして集められた8人の行く末はどうなるかという点を読者につきつけながら、話が進められてゆく。
とにかく事件のそれぞれが考えつくされていて感嘆させられる。特に、このVR空間内という現場の特異性を遺憾なく発揮したトリックの数々に驚かされる。1点だけ、VR装置に関するとあるトリックについては、ちょっとと思われなくもなかったが、基本的には全体的に良くできたミステリ作品であると思われる。これは年の初めに、いきなり凄い本格ミステリが登場してきたなという感じである。
本書についてもう一言。この作品で微妙と思われる点は、シリーズとなっているところ。正直言って、シリーズとしてのつながりがわかりづらく、それがまたSF的な設定ゆえに、あまりすっきりするものではない。それゆえに、この作品においてもエピローグの部分が余計だとしか思えなかった。別に“竜泉家の一族”だとか“マイスター・ホラ”だとかいう存在に固執しなくてもよいと思えるのだが。
<内容>
犯罪者御用達のホテル、アミュレット・ホテル。守るべきルールは二つだけ。一、ホテルに損害を与えない。二、ホテルの敷地内で傷害・殺人事件を起こさない。このようなルールが設けてあるものの、ホテルを利用するのは犯罪者たちゆえに、さまざまな問題や事件が持ち上がる。それを解決して処理するのがアミュレット・ホテルに常設されたホテル探偵。無理難題とされる事件もホテル探偵が見事に解き明かす。
「アミュレット・ホテル」
「クライム・オブ・ザ・イヤーの殺人」
「一見さんお断り」
「タイタンの殺人」
<感想>
鮎川哲也賞受賞者の方丈貴恵氏描くミステリ。今までは東京創元社からしか作品が出ていなかったが、今回初の他社から出版された作品となる。
犯罪者たちが集う、犯罪者御用達のホテルで起きる難事件を解決するという作品。いかにもキワモノっぽい作品であるのだが、そのなかで行われているミステリ的な部分は結構濃い目。実は意外と濃厚なミステリ模様を楽しめる作品集となっている。
「アミュレット・ホテル」では、死体移動と密室の理由について言及する内容。「クライム・オブ・ザ・イヤーの殺人」は誰がどのようにして毒を盛ったかを見極める毒殺トリックを描いたもの。「一見さんお断り」は、簡単に脱出できないホテルの内部から如何にして客が消え失せたのかを推理するもの。「タイタンの殺人」は、金属類を持ち込めない部屋で起きた不可能殺人を描いている。
そんな感じで、どれもなかなかの難物な事件を描いている。“アミュレット・ホテル”という特殊な設定を用いたうえでの本格ミステリ的な展開は、かなり見ものであった。何気にミステリファンでも読み逃してしまいそうな作品だと思えるので、これは是非ともお薦めしておきたい。
<内容>
完全犯罪請負人を名乗る黒羽烏由宇は、依頼者と会うための準備をしていた。そうしたなか、何者かに襲撃され瀕死の重傷を負い、昏睡状態となる。4か月後、烏由宇は、幽霊として蘇ることに。幽体となってさまよう烏由宇を認識したのは、音葉という小学6年生の少女。彼女の両親が完全犯罪請負人に依頼した者達で、しかも二人は烏由宇が襲われたのと同時期に、何者かによって殺害されていたのである。音葉は幽霊となった烏由宇の力を借りて、復讐を果たそうというのであったが・・・・・・
<感想>
方丈氏の5作目の作品となり、講談社からは初となる。今作もまた、様々な趣向を凝らした面白い作品となっている。
幽霊と女子小学生がタッグを組んでのミステリと言うことで、この設定だけでも興味深い。一つ気になったのは、小学生が登場しているからなのか、作品全体がやや子供向きのように感じられたところ。ただ、この作品、どう見ても外観からいって、子供が手に取るように思えないし、子供向きにしては、やや長めの作品ではないかと思えてしまう。どの辺の年齢層を狙った作品なのかが気になるところ。
しかし、そういった面を除けば、全体的にはすごく面白いミステリ作品であった。本書の特徴は多重解決が図られた作品になっていること。事件が解決されても、それだけで終わらずに、次から次へと新たな真相が見出せるように描かれているのだ。作品の途中、「えっ、これで終わったら、残りのページはどうなる?」と、思ったことがしばしば。と思っていたら、その裏に別の真相が隠されていて、最後の最後まで予断の許されない展開が繰り広げられることとなっている。
はっきり言って、少々やり過ぎなところはあると思えるが、むしろここまでやり切ってしまえば、さすがとしか言いようがない。幽霊探偵といった、特殊な設定を用いてはいるものの、しっかりとした本格ミステリとして描かれた作品となっている。