<内容>
神紅大学ミステリ愛好会の二人だけの会員である明智と葉村は映画研究部の夏合宿に加わろうと奔走するも、あえなく断られる。しかし、同じ大学にて名探偵と噂される剣崎比留子の誘いにより、合宿に参加できることに。ただ、それは比留子の誘いだけではなく、昨年合宿で嫌な出来事が起きたという噂が流れ、参加予定の者たちがキャンセルしたせいだとか・・・・・・。何はともあれ、合宿に参加することができた二人であったが、彼らを待ち受けていたのは、ゾンビの襲撃と連続殺人事件であった!!
<感想>
今年の鮎川賞受賞作であるが、なかなかしっかりとした本格ミステリに仕上げられている。設定にゾンビを用いるところは現代的といえるが、そのなかで“WHO”だけではなく、“HOW”や“WHY”にも重点を置いたミステリが描き上げられている。
“班目機関”という不気味な存在を浮かび上がらせつつも、序盤は能天気な大学生による軽めのミステリという印象。そこから映画研究部の合宿所へと行き、不穏ともいえる人物らを登場させ、徐々にサスペンスとして場を盛り上げてゆく。さらには、ゾンビの介入により緊張感はピークを迎えるが、そんな状況の中で殺人事件という要素をさらに入れ込んでくる。そして事件が起きてゆくのだが、それらも謎の密室殺人事件や、エレベータを使用した不可解な殺人事件とミステリ要素もてんこ盛り。この辺は構成として非常にうまくできていると感心させられる。
そして結末へと至るのであるが、ミステリのネタとしては、ちょっと分かりやす過ぎたかなと。というか、伏線があからさまというか、わかりやすいヒントを与えすぎているような気がする。そんなわけで、ミステリとしてサプライズ性が薄まってしまっているところが残念なところ。ゾンビが存在するという状況をうまく使いこなしているのだが、全体的に見ると、何気に普通のミステリ作品というような感じ。
と、辛口な評価をしつつも、新人作品としてはよく出来てるかなと。鮎川賞を受賞したのも十分に頷ける作品。ひょっとすると、ここに登場してきた探偵の活躍を再びみることができるのではないかと期待したいところ。
<内容>
集団感染テロ事件を生き延びた剣崎比留子と葉村譲。二人はその事件の黒幕とみられる“班目機関”と呼ばれるものの正体を探るべく情報を集めていた。そんなとき、月刊アトランティスという雑誌に書かれていた予言者が何らかの秘密を知っているのではと考え、その村を訪ねていくことに。たまたま同じにその村を訪れた剣崎と葉村を含めた9人、そして予言者を名乗るサキミという老女とその世話役。集まった人々の前でサキミは二日間のうちにこの地で男二人、女二人の計四人が命を落とすと予言する。村に閉じ込められた人々は、その予言が示すものを目の当たりにすることとなり・・・・・・
<感想>
「屍人荘の殺人」で一躍注目を浴びた今村昌弘氏による第2作品が登場。個人的には、こちらのほうが面白いと感じられ、デビュー作によるプレッシャーのなか、よくぞここまでのものが書けたなと感嘆。
この作品はちょっと変化球気味の設定。クローズドサークルもののミステリであるのだが、そのクローズドサークルと“予言”の存在が合わさって、奇妙な状況に陥るという内容。
閉鎖された空間のなかで次々と起こる殺人事件。本当かどうかわからなくとも、強烈な存在感を及ぼすこととなる死の予言があり、それにより多大なる緊張感がもたらされる。外れることのない予言、もうひとりの女子高生予言者、この地の事と予言者について調べに来たマスコミ、かつてこの場所に住んでいた者、さらには何かを隠しているかに思えるものも数人、そうした人々が集まったなかで次々と殺人事件が起こることとなる。
序盤は偶然的な事故や、超自然的な予言などが取り上げられ、ミステリ的なネタには程遠いようにも思えたが、中盤からは徐々にミステリ的な要素が濃厚になってゆく。そして、最終的に全ての謎が探偵の手により解き明かされることとなる。論理的な解決が見せられるのだが、個人的にはその論理的なものよりも、全体をまとう構造的な部分のほうが良く出来ていたなと感じられた。隅々までしっかりと練りに練られたミステリ作品という感触であった。
次回作はさらに派手な事件に関わることが記されており、そちらも期待できそう。一気に、今一番期待できるミステリ作家という地位に踊り上がってきたなと。
<内容>
廃墟テーマパークのなかにある“兇人邸”という建物のなかに班目機関の研究資料があるらしく、それを奪取しようとするグループと剣崎比留子と葉村譲は共に行動することに。その“兇人邸”では、中へと誘われたものが次々と行方不明となっており、班目機関に関係する研究が行われているのではないかという噂もあった。そんな屋敷に侵入したグループが見たものは、人間を殺戮する片腕の巨人であった。閉じ込められた一行は、巨人に襲われ、死者を出してしまう。何故か、その巨人は襲った者の首を切り落とす習性があった。そして一行は屋敷に閉じ込められ、行動が制限されてしまう。そうしたなか、巨人によるものと見せかけた殺人事件が発覚し・・・・・・
<感想>
鮎川哲也賞受賞者である今村氏の三作品目。今作はテイストとしては、第1作の「屍人荘の殺人」に似ているように思えた。
かなり特殊な設定。秘密の研究内容を暴くためにテーマパーク内の館へと出向いた者たちが、逆に閉じ込められることとなり、さらには巨人の殺人鬼に館内で追われることとなる。巨人によって数名の者が殺害されるのだが、殺害された者のなかに巨人の手によるものではない殺人が判明し、生存者は疑心暗鬼にかられてゆく。
というような特殊設定。しかも、館から容易に脱出できないという理由もあり、進退問題についても容易には決められない。そういった状況の中で、犯人当てを優先すべきなのか、目的の実行を優先すべきか、もしくは生存者の救出など、色々な課題が山積みとなる。
そんな特殊な状況下での事件となっているので、通常の“閉ざされた山荘”もののミステリとは異なるものとなっている。純然たる本格推理ものともちょっと異なる状況により、果たして犯人当てが必要なのかというようなジレンマに問われるものとなっている。
よって、普通の本格推理小説とはちょっと異なるテイストにより、全体的に微妙と感じられなくもない。ただ、ホラー系のミステリとしては、恐怖を煽る雰囲気が存分に出ており、それはそれで楽しめる。また、最後に明らかになる真相や、体を張ったとある策略などと見所があるところも確か。変化球気味のミステリとして楽しめる作品ではあると思われる。
<内容>
オカルトに興味のある小学6年生、木島悠介は二学期に掲示係に立候補する。壁新聞に自分の好きなオカルト関連の記事を載せようと考えていたからだ。すると、一学期に委員長だった波多野沙月も立候補し、彼女も掲示板係となる。また、当日休んでいた今年来たばかりの転校生の畑美奈も掲示板係となっていた。悠介は、波多野が掲示板係になったことにより、オカルト関連の記事は載せさせてくれないだろうと意気消沈していたのだが、波多野から意外な提案がなされる。それは彼らが住む町の七不思議ついて調べることであった。実は、波多野は昨年従姉を亡くしていたのだが、その従姉がパソコンに町の七不思議について書いたものが残っていたのだと。その七不思議を解き明かすことが従姉の死の真相につながるのではないかと波多野は考えていた。掲示板係の3人が町の七不思議について調べ始めると、彼らの周りに不可解なことが起き始め・・・・・・
<感想>
デビュー作「屍人荘の殺人」がヒットした今村昌弘氏の4作品目。今作が初の東京創元社以外の出版社からの発行となる。
主人公らが小学6年生ということもあり、やや子供向けの小説とも感じられるが、読み通して見ると大人でも十分に楽しめる内容になっていると思われた。とはいえ、学生が読むくらいでちょうどいいかなという感じもする。内容はホラーサスペンス。
小学生3人組が町の七不思議に迫るという内容であるのだが、単なる興味で怪談を調べるというわけではなく、従姉の死の真相を探るべく七不思議について調べてゆくという、ややディープなもの。そして、その町の七不思議を調べていくうちに、町の隠された過去を辿ることとなる。それらを辿るうちに、彼らの活動を邪魔するものが出始め、調査は難航することとなる。それでも、あきらめずに彼らは調査を進め、やがて町の七不思議に隠された真相へたどり着くこととなる。
なかなかうまく描かれている作品であると思われる。ホラー的な要素とミステリ的な要素がうまく融合し、ライトな(起きている事象は決してライトではないが)民俗系ホラーとして仕立て上げられている。読んでいる途中、大人たちの対応に疑問が持たれる部分もあったのだが(特にラストのほうで)、あくまでも子供たち主体の作品となっているがゆえに、そのへんは致し方ないことか。映像化してもよさそうなくらい面白そうな題材であり、うまくできたホラーサスペンスであると感じられた。
<内容>
「最初でも最後でもない事件」
「とある日常の謎について」
「泥酔肌着引き裂き事件」
「宗教学試験問題漏洩事件」
「手紙ばら撒きハイツ事件」
<感想>
著者の今村昌弘氏のデビュー作、「屍人荘の殺人」を読んだ人であればご存じの明智恭介とその助手の葉村がコンビを組んで事件に挑む作品集。彼らは神紅大学ミステリ愛好会に所属する2名のみの部員であり、大学構内で起きる事件や、明智がアルバイトをしている探偵事務所がらみの事件などに対応することとなる。ジャンルでいうと、日常の謎系の事件という感じである。
どれも学生ミステリっぽさが出ていて、それぞれ楽しむことのできる作品集であった。一見、不可能犯罪のような「最初でも最後でもない事件」や「宗教学試験問題漏洩事件」が良かった。部屋の図面入りのミステリとなっており、それぞれ読み応えがあった。
他にも、結末で意外な展開を見せる「とある日常の謎について」や、脱力系の謎に挑む「泥酔肌着引き裂き事件」なども面白い。「手紙ばら撒きハイツ事件」も、ミスリーディングを誘う工夫などが見られて読みがいがあった。
全体的には、これといってすごく印象に残るものはなかったものの、普通にミステリを堪能できる作品集に仕上がっていて、楽しんで読むことができた。こういった学園ミステリっぽいものも、意外と最近読めなくなってきたような気がするので、できればシリーズとして続けてもらいたいものである。
「最初でも最後でもない事件」 コスプレ研究部の部室を狙った空き巣が捕まったものの、他にも侵入者が??
「とある日常の謎について」 商店街におけるビル買収の謎・・・・・・そして・・・・・・
「泥酔肌着引き裂き事件」 泥酔後、起きたときにパンツだけ脱げていて、しかもそのパンツが引き裂かれており・・・・・・
「宗教学試験問題漏洩事件」 大学の研究室から試験問題が盗まれた事件。当時、その部屋にいた人物が容疑者として疑われることとなったのだが・・・・・・
「手紙ばら撒きハイツ事件」 マンションでストーカーを思わせるような手紙が無差別に配布された事件の真相とは!?