<内容>
侵入不可能なはずの部屋の中に何故か盗聴器が仕掛けられた。密室の謎に挑むのは防諜のエキスパート・防衛部調査班の朝香二尉。そして助手として当該基地の野上三曹。犯人の残したわずかな痕跡から、朝香は事件の全容を描き出す。いつ、どこで、だれが、なにを、どのように!?
<感想>
読了後の感想としてはスマートな内容と感じた。全編にわたって野上三曹と朝香二尉の二人の視点や会話によって語られてゆく。その会話も非常に簡潔にまとめられており、よけいなものはなくわかりやすい。それがページの薄さに反映されており、非常に読みやすかった。
事件の方は納得できる内容になっているが、読みやすさのゆえか、少々重みに欠けるきらいがあり、あっさりしすぎた感じを受ける。
ただ、印象に残ったのは事件そのものより、朝香二尉と野上三曹の互いの気遣いというものに感銘を受けた。朝香二尉はいかにも主人公風の人であるが、その人柄と周りへの気遣い方に惹かれてしまう。ラストは少々くさすぎの気もあったが、それでもそれなりに感動させられた。
事件そのものよりも自衛隊に対する朝香二尉と野上三曹の捕らえ方、考え方。そして周りの住民からの自衛隊に対する考え、といった事の話に非常に惹かれた。本来こういう説教臭いものは敬遠してしまうのであるが、この小説では前述した周りに対する気遣いなどにあふれていて、説教臭さを感じさせなかったので好感を持ちながら読むことができた。涼やかでやさしく、熱意あふれる一冊。
<内容>
東海地震で倒壊したマンションの地下駐車場に閉じ込められた六人の高校生と担任教師。暗闇の中、少年の一人が瓦礫で頭を打たれて死亡する。事故か、それとも殺人か?殺人なら、全く光のない状況で一撃で殺すことがなぜ可能だったのか?
<感想>
最初は最近話題の17歳を扱った単なる社会派志向のものという色眼鏡を懸けながら読んでいた。(2000/9/18)またアクの強い少年の存在に眉をひそめ、私の読みたいたぐいの小説ではなかったと途中で判断したのだが、後半に進むにつれてそんな気分は一変してしまった。そこには思いもしなかったどんでん返しがあり、さらなるどす黒さと恐ろしさが待ち受けていた。
全体的にいえば、自分はこの本に本格嗜好を期待していたのでそういった意味では期待ははずれていたといえる。ただ、作者が伝えようとした問題の提起のうまさには感嘆してしまった。読んでいる途中では瓦礫の中から皆が救助されたところで話しはほぼ終わってしまうかと思い、なんか陰惨な作品であったと感じるばかりであった。しかし、その後にまだ話しが続くに連れて物語は深まっていき、十分にこの問題提起がこちらに伝わってきた。ただただ脱帽。
<内容>
世界の常識がひっくりかえっても表沙汰にすることができない大事件。二重三重に閉ざされた孤島の射撃場で、何人もの隊員が見守るなか、小銃が消え失せた! 事態を完璧な秘密状態のまま解決するという難題に挑むのは防衛庁調査班の朝香二尉と相棒の野上三曹!!
<感想>
社会派ともいえる問いかけをしてきながらも、全編通しての読みやすさがあまり堅さを感じさせず、とっつき易いミステリー仕立ての小説となっている。
内容としては比重からしてミステリーというよりも、単に小説と呼びたくなってしまう。小銃の消失という事件が起き、論理仕立てで推理が展開するも、ミステリーとしては少々弱い。不可能性もあまり強くないし、最終的な解決も唯一無二というようには感じられない。そのせいか、他の主張とも言える内容のほうが比重が大きく感じられてしまう。
しかしながらその主張したい部分というのが「UNKNOWN」よりも強く日本人に語りかけてくる内容となっている。古処氏は多くの人々に語りかけるために、ミステリー小説という大衆がとっつき易い場を借りて、自衛隊や過去の戦争における真実を主張したいと思っているのかもしれない。そのように思っているならば、実に効果的な一冊であると思う。
<内容>
時は終戦間近の日本。アメリカ軍の飛行部隊の空襲にさらされる毎日の中、国内ではとうとう中学生たちを作業員として使い始める。軍隊の中にまみれ、中学生たちは日々の食料もろくに取れないまま、塹壕や防空壕を作るといった作業に終われることとなる。そんな生活の中、中学生たちや軍人達のそれぞれのなかに絶望が侵蝕し始め、そして1人の軍人が行方不明になるという事件が起こる。
<感想>
これはなんと表現したらよいのだろうか。当然、書かれた物語はフィクションであるはずなのだが、それがある種の事実にも感じられてしまう。昔の日本が描かれながらも、現代に生きている者にとってはどこか異世界であるかのごとく感じられもする。終始不思議な雰囲気につつまれながら手探りで読んでいったような気がする。
戦争という狂気を日本全体が背負い、人々は蓄積された疲れに押しつぶされそうになりながら生死の狭間を生きていかなければならない状況。そしてそこで生き延びる人々の多様な考え方というものが本書にて書き表されている。そのまま狂気へと走り続けるべきか、あきらめるべきか、未来に希望をもつべきか、あがらい続けるべきか。そしてそれらの思惑は“日本の敗戦による終戦”という事実が突きつけられたときに、さらに人々は今後どのように行動していくべきかを考えなくてはならなくなる。
戦時におけるさまざまな感情とあり方が描かれた問題作といえよう。それにしても重いよなぁ。
<内容>
第二次世界大戦中期、のどかなビルマ山岳地帯の村にて日本人将校が殺害された。一見、平凡と思われた村が抱え込む秘密とは!?
<感想>
ハヤカワミステリマガジンの「ミステリが読みたい!」のランキングで国内編2位となっていたので注目。久しぶりに古処氏の作品を読んでみることにした。
個人的に戦争小説は好きではないので、近年古処氏の作品は敬遠していたのだが、この作品も他の作品とはあまり変わらないよう。戦争ミステリと紹介されてはいるものの、基本的には戦争小説。また、舞台がビルマということもあり、当時の情勢についてもピンとこなかったので、あまり内容にのめり込むことができなかった。
村の中で殺人事件が起こるのだが、何故将校が? 何故この時期に? といったところが取りざたされ、特に“HOW”の部分が焦点となっている。そして最後に真相が明かされるわけであるが、その真相については、なんとなく今の時代の企業などにおける責任逃れのようなものとあまり変わらないような・・・・・・。いや、もちろん人の生き死にがかかっているゆえに、深刻な問題だということには間違いないのだが。
戦争というフィルが―がかかっているにしても、ありがちな真相などと考えてしまうのは不謹慎であろうか。それよりも、地域全体がそのような状況にならざるを得なかったということこそが一番着目すべき点なのかもしれない。