<内容>
昭和44年1月、ミステリ愛好家たちが集まる喫茶店“紫煙”に謎の女が訪れる。その女は、二階堂蘭子に「八王子の“久月”で人が殺される事態が起きる」ということを伝えろと言い残し、後を立ち去る。その“久月”に住む者たちは蘭子の親戚であり、家を行き来する仲であった。そして蘭子らは調査により、その久月で24年前に、足跡なき謎の殺人事件が起きていたことを知る。久月へと向かう二階堂黎人と蘭子。そこでは予告通りに不可解な連続殺人事件が起きることとなり・・・・・・
<感想>
久々の再読。初読のどきは物凄く面白い本格ミステリ作品というイメージがあり、20年ぶりに読んだら印象が変わってしまうかなと恐る恐る読んでみたのが、昔と変わらず面白い作品と言いきることができ、ホッとした思い。
大雑把に言えば、三つの不可能殺人の謎を解く本格ミステリ。24年前に起きた、足跡亡き殺人事件。そして犯人どころか被害者さえも入ることのできないと思われる密室で起きた殺人事件。もう一つは、テニスコートで起きた足跡亡き殺人事件。これらの謎を二階堂蘭子が解く。
最初に提示される過去に起きた殺人事件については、そのインパクトが強かったのか、トリックを今でも忘れずに覚えていた。他のものに関しては一部覚えていたり、いなかったりという感じ。それでも全体的に楽しく読めた。最初、二階堂蘭子の解決を聞くと、動機の面がいまいちかなと思ったのだが、最後の最後まで読んでみると、その点もしっかりと話に盛り込まれており、よく出来た作品だと感嘆。実に楽しく読むことができた。
二階堂作品を読み続けている人にとってはもはや当たり前の事なのだが、最初のほうのミステリに関する註釈や知識のひけらかしなど、そういった余分に思えるところも多々ある。もはや今更ながらで指摘しても仕方がないのだが、そういったところがなければ、もっと一般受けするような気がして、惜しいという気持ちもある。
<内容>
昭和43年、東京都国分寺市に建つ“悪霊館”と呼ばれる古い西洋館で連続殺人事件が起こった。そこに住むのは資産家の志摩沼家の一族。その一族のなかで遺産相続における、とある条件が提示されたことが連続殺人事件の発端とみなされる。元々、亡霊がさまようとか、西洋甲冑が動き出すとかいった噂が飛び交っていた館。そのなかで、閉ざされた部屋の中で黒魔術めいた装飾がなされ、その中央で首なし死体が発見される。さらに殺人事件は次々と続くこととなり・・・・・・事件を解決しようと乗り出した二階堂蘭子であったが、その彼女の身にも犯人の魔の手が伸びてゆき・・・・・・
<感想>
二階堂氏の分厚い作品を久々に再読。単行本で発売当初に読んでいたのだが、今回は講談社文庫版で再読。文庫で860ページとなかなかの分量。それでも、内容の濃いミステリ小説という感触で読みきれたので、なかなかの作品である。「吸血の家」とこの「悪霊の館」あたりを書いていたころが二階堂氏のベストの時期であったと個人的には思われる。
とにかくミステリ要素満載。過去に住んでいた外国人一家の消失。志摩沼家の過去から現在に至るまでの数々の謎と噂。その志摩沼家に破滅をもたらす原因とされる遺言状の条件。館にあらわれる女の亡霊と甲冑の幽霊。密室で起きた魔術めいた殺人事件。過去にも起きたことがある時計塔で起こる謎の転落死。その他もろもろ・・・・・・
という具合に、この作品で起きるミステリ要素を上げるだけでもきりがないほど。ただ、そうした要素がたくさんあるにも関わらず、最後にはきっちりと伏線を回収しきっているところがとにかく見事である。また、過去から続く歴史の流れと現在に起こる殺人事件を物語としてうまく結びつけているところもよくできている。さらにはおどろおどろしい雰囲気がミステリとうまくマッチしており、そのへんも見事に物語を彩っているといってよいであろう。とにもかくにも、オールタイム・ベスト級のミステリ作品だと言うことには間違いない。
<内容>
「ロシア館の謎」
「密室のユリ」
「劇 薬」
<感想>
「ロシア館の謎」は、第一次世界大戦後、ドイツ兵士が経験した、館が一夜にして消失するという事件を描いたもの。再読ではあるが、未だによく内容を覚えている作品。二階堂氏の短編緒中では一番好きなものかもしれない。自分好みの大がかりなトリックが用いられている。
「密室のユリ」は、女性作家が閉ざされた自宅で殺害されるという密室を扱った事件。ただ、密室にしたことにより犯人が特定されてしまうことにより、あまり密室にした意味がなさそうな気が・・・・・・。物証で十分犯人を捕らえられそうな気もするが、二階堂蘭子が刑事コロンボばりに罠を仕掛け、犯人逮捕に導いている。
「劇薬」は、カードゲームの最中にプレイヤーのひとりが毒殺されるという事件を描いたもの。これは、カードゲーム中に起こる殺人事件というものを過去の作品になぞらえて、やってみたという趣向の作品。ただ、どんでん返しを仕掛ければ仕掛けるほど、真相があいまいになってしまし、決して成功した内容とは言えないであろう。
<内容>
容姿端麗でありながらも、奇人変人扱いされる旅行代理店課長・水乃サトル。社内で唯一サトルに憧れる新人社員・美並由加里。2人は仕事の途中、週末を利用して急きょ軽井沢にあるサトルの知り合いのペンションによることとなった。そのペンションの近隣で起きた殺人事件。有名作家が殺害された後に、両目がえぐられるという猟奇殺人が起こる。野次馬根性で現場を見に行った水乃サトルは、警官から胡散臭く思われ、容疑者扱いされることとなる。しかも、昨日サトルと美並が仕事で会った相手が殺害され、さらには彼らが乗って軽井沢へとやってきた列車でも死体が発見されていたのである。さらにはその後、屋根の上に乗せられた死体までもが発見されることとなり・・・・・・
<感想>
久々の再読となる作品。水乃サトル・シリーズの第一長編。設定が奇抜というか、ご都合主義というかなんというか。ただ、そのおかげもあって、物語がサクサクと進んでいくのは良いと思われる。実に読みやすいミステリ小説。
起こる殺人事件は、どこか他の作品で聞いたことのあるようなものの寄せ集め。ひとつの流れの事件に見えて、実は全体的なつながりは薄いというか、なんというか微妙なところ。そこは、ただ単に軽く読める推理小説を書いてみましたという程度なのであろうか。
ミステリ作品初心者であれば、より受け入れやすいかもしれない。こういった読みやすい作品をきっかけに、段々とどっぷりとした濃い内容の推理小説にはまっていってくれればよいと思われる。また、移動中などに読むのも手軽でよいであろう・・・・・・といいつつも、既に絶版となっていて入手しづらくなっているか。
<内容>
如月美術大学の芸術研究サークル“ミューズ”の部員8名は、奇跡島にある白亜の館へ、仕事の依頼を受け、行くこととなった。OBで現在美術館の学芸員をしている権堂と共に、館へと行き、そこにある数多くの美術品を整理してもらいたいという仕事であった。そうして彼らは島を訪れることとなったのだが、その館に伝わる悲劇をなぞるように次々と事件が起きることに! そしてミューズの面々は一人、また一人と・・・・・・
<感想>
昔読んだことのあったが、感想を書いていないので再読してみようと手に取ったのだが・・・・・・簡単にさっと読めるかと思っていたが、思いのほか重厚で、ページ数も分厚く、読了するまでにだいぶ時間がかかってしまった。
一応、水乃サトルシリーズではあるのだが、肝心の探偵は最初と最後にしか出てこなく、芸術研究サークルの部員の視点が中心となって物語が進められてゆく。プロローグは軽い登場人物紹介のような場面から始まるのだが、本章に入ると打って変わって物語は重い展開で進められてゆく。奇跡島の背景や芸術研究サークル“ミューズ”の人間関係などが語られることにより、事件はなかなか起こらない。また、最初に起こる事件も事故なのか故意のものなのか微妙なものから始まることとなる。そうしてやがて孤島の連続殺人が繰り広げられてゆく。
最初は「そして誰もいなくなった」系の話なのかと思いきや、そういった展開でもなかった。不可能殺人というよりは、実はアリバイトリック系なのかなと読み終えた後に考えさせられた。全体的には一つの考えが元に起きた事件というものではなく、さまざまな思惑がひとところに集められた故に起きた惨劇というような感じであった。派手な死体の装飾が目くらましとなって、一見大がかりな事件ともとらえられがちであるが、よくよく考えるとこじんまりとした事件であったなという気がしなくもない。舞台は大がかりであったのだが、実際に起きた事件は小ぶりであったかなと。まぁ、それらすべてが目くらましであったといえば、そう捉えられないこともないのだが・・・・・・
<内容>
「サーカスの怪人」
「変装の家」
「喰顔鬼」
「ある蒐集家の死」
「火炎の魔」
「薔薇の家の殺人」
<感想>
久々の再読。改めて読んでみると本格ミステリらしい作品が詰め込まれている。全体的に何故か、科学トリックを用いたものが多かったような。
最初の「サーカスの怪人」などは、語り口に乱歩っぽさが出ており、著者の初期作品らしさが出ている。
好みの作品は「ある蒐集家の死」。5人の容疑者一同にまみえての、犯人指摘の場面がなんとも本格ミステリらしい。また、ダイイングメッセージ等、犯人の隠ぺい工作に対する推理が見どころ。
「薔薇の家の殺人」は、少々クイーンの「フォックス家の殺人」を意識し過ぎているところが微妙であり、気になったところ。
「サーカスの怪人」 サーカスが行われている中、空中に現れたバラバラ死体の謎。
「変装の家」 雪上に足跡が残されていなかった館で起きた殺人事件とアリバイ崩し。
「喰顔鬼」 顔を喰うと怖れられる連続殺人鬼の正体。
「ある蒐集家の死」 恐喝者を殺害したのは5人のうちの誰か? 現場にはダイイングメッセージが!
「火炎の魔」 人体発火と思われるような怪異が相次ぎ・・・・・・
「薔薇の家の殺人」 バラの館で起きた過去の毒殺事件の真相とは!?
<内容>
「ビールの家の冒険」
「ヘルマフロディトス」
「『本陣殺人事件』の殺人」
「空より来る怪物」
<感想>
久々の再読。単行本出版当時に読んだので15年以上ぶりの再読か。単行本では「名探偵水乃紗杜瑠の大冒険」という表記であったのが、ノベルズからは「名探偵水乃サトルの大冒険」という表記になっている。“紗杜瑠”という表記は難しいせいか、以後ほとんど使われなくなったように思える。
内容であるが、それぞれの短編のタイトルからして、なんらかの作品を意識したという事がわかる。さらには、単行本版のあとがきでも、何をモチーフとしたかについて、しっかりと触れている。久々に再読すると、初心者向きの探偵小説であったのだなぁと、納得。今になって読むと、全体的にやや子供っぽいように感じられてしまう。
「ビールの家の冒険」は、言わずと知れた西澤保彦氏の「麦酒の家の冒険」をモチーフとしたもの。山中にあったビールだらけのコテージの謎に迫る。真相については、伏線が分かりやすすぎて、おおまかの内容がわかってしまう。
「ヘルマフロディトス」は、てっきり我孫子氏の「ディプロドンティアマクロプス」かと思いきや、違う作品をモチーフとしたよう。残された日記から殺人事件の真相を暴くというもの。作中の日記を読むと、その文体から、書かれた時期から15年以上の月日が経ったとしみじみ感じてしまう。
「『本陣殺人事件』の殺人」は、二階堂氏が横溝正史氏による「本陣殺人事件」に対して、その矛盾点を突いて、仕立て直したというもの。ただ、ここで明かされる真相に対しても、あまり納得のいくようなものではない。また、「本陣殺人事件」については、いろいろな筋から、さまざまな指摘がなされているようである。
「空より来る怪物」は、島田荘司氏の作品に対するオマージュのよう。ただ、事件現場に着くまでに、ページ数の半分以上を要しており、未消化気味の内容となっている。もっと長いページで描いたほうがよさそうだ・・・・・・と思いつつも、やや真相がチープで、長編にするほどのものでもないかと感じられないこともない。
<内容>
JR大宮駅北側の陸橋から、高崎線上り列車めがけて投げ落とされた、身元不明の死体。警視庁捜査一課の馬田権之介刑事は、二ヶ月前にも同じ場所で主婦の投身自殺があったことを聞き、その関連性に首を捻った。 一方、《日本アンタレス旅行社》に勤務する水乃サトルは美並由加里との出張先の諏訪で、かつての同僚安場今日子から行方不明の父昭一の捜索を依頼される。昭一は郷土史研究家として有名で、武田信玄の墓を探索中であったという。そしてその背景には諏訪湖畔に武田信玄水中墓記念館の建設をめぐる問題があった。その推進派には今日子の叔父安場正二とその息子で今日子の従兄弟で婚約者でもある安場洋輝がいた。そして事件は武田信玄水中墓記念館建設役員の土橋次郎殺害まで発展していく。警察の調べでは列車に死体を投げ落としたのは土橋らしいのだが・・・・・・
警察は犯人を絞り込むのだが容疑者にはアリバイが。水乃サトルがとく驚天動地のアリバイトリックとは。そして何故、死体は再び殺されたのか?
<感想>
二階堂氏の小説にしては無駄な部分が多いような気がしたというのが第一印象だ。氏にはめずらしく今回の内容がアリバイ崩しに重点をおいたことにも一因はあるのだろう。それにしても前半部分が少し退屈で、馬田刑事の前半と後半の変わりようには違和感がある。それでも水乃サトルが登場するようになってからは結構すらすらと読むことができた。
しかし、自分は時刻表がでてくるような小説というのは好きではない。こういった小説はあまり二階堂氏には書いてもらいたくないとも思ってしまう。角川書店から出ているミステリ(1999-12)に少々話が載っているが、アリバイとフーダニットの両立というのは難しいと話している。この本はアリバイに対する一つの試験的な意味で書いたのだろうか?フーダニットの要素は確かにないが、アリバイ崩しに関しては「ページの多くを獲っている割には必要のない時刻表」などただのアリバイ崩しには終わっていない。(まさかこの時刻表がトリックを演出するカモフラージュだったのか)それでもトリックはいささか安易であったような気がした。
全体的には水乃サトルが登場することも会ってまあまあだろう。早く二階堂蘭子の復活に期待したい。
<内容>
三重密室殺人と人体消失。寝台特急《あさかぜ》の個室で起こった、世にも怪奇な事件。さらに、若い男性の全裸死体が氷柱の中に陳列されたガラスの御殿の謎。「殺人の美学」を纏った魔王ラビリンスの企てに、蘭子は「純粋論理」を楯に推理の槍を突きつける。怪人対名探偵の対決の行方は!?
<感想>
怪人のための不可能犯罪といったところか!?
寝台特急での消失事件と人里離れた別荘での密室殺人の二編が収められているが、どちらも中途半端な気がする。エドワード・D・ホックばりの不可能犯罪を狙ったような小説であるが、犯罪そのものが大げさに感じられてしまう。どちらも別にそんなことしなくても、と思われてならないのだ。また中途半端に感じてしまうのは、中編だからであろうか事件が簡潔に述べられしまい、それがかえって犯行方法を限定してしまいおおまかなところが見えやすくなっているからか。特に「寝台特急あさかぜ」のほうは、事件が列車に乗り込んだ直前に起きたということが明らかに感じられるのだ。これももう少しページをさいて犯罪が露呈するまでの経過を書いていけばもっと魅力的なものになったのではないだろうか。
どうも二編とも長編として十分成り立つ話なのではと思えてしまい、残念な気がする。これも人狼城の余韻のせいなのかもしれないが・・・・・・。それにしてもこれって二十面相みたいに続くのだろうか??
<内容>
殺人現場は密室?? 汎用小型宇宙惑星《SV998》の地球環境居住区で発見されたのは、地球人の親善大使の死体だった。事件の担当を命じられたのは、乗組員すべてが宇宙軍諜報部所属の特別捜査官である、捜査艦《ギガンテス》。菜葉樹人のリコッロブ艦長、地球人のシュトルム副長たちは、亜空間ワープ航法で現場へと急行する。ザルルン帝国の和平のために派遣されていた大使は、なぜ、無残な死を迎えたのか?
<内容>
ある日、悟るは「幼い時に宇宙人に誘拐され、宇宙船に連れ込まれた」という驚くべき過去をもつ少女・宣子と出会う。宣子の過去に興味を持ち、さっそく調査を始めたサトル。だが、彼の行く先々には「宇宙人の存在を信じる」という一風変わった教義を持つ宗教団体が現われて・・・・・・。宇宙規模の不可思議な謎を、サトルは解き明かせるのか?
<感想>
久々にこのようなストレートな内容の本格ものが出たな、というのが感想である。宇宙人をからめた不可思議な事象。これは本当に現実に起こりうることなのか、という問題に取り組んでいる本書。まさに島田荘司ばりの奇想物語といえる出来栄えである。
今作の主人公は二階堂蘭子ではなく水乃サトル。それゆえにか、全体的に雰囲気としては躁の方向である。しかもそれに輪をかけるような勢いで、「宇宙人侵略対策地球評議会」と称する三人のサトルの先輩が出てきて物語をかき回していく。本格推理だけではなく、冒険・アクションまでが楽しめる一冊となってしまっている(それが余計かどうかは人それぞれだろうが)。確かに“宇宙人”というネタで暗く落ち着いた雰囲気で書くと、なにか別の小説になってしまう趣もあるのかもしれないのだろうから、こういう作風もまた一つの手段ではあるのだろう。
本作は十分に読者を満足させてくれるものには違いないが、どうしてもこれが二階堂氏にとって初の連載作品であるという点に目がいってしまう。どうもその連載のためか、全体的なまとまりが少々ほぐれているように感じられるのだ。最終的にはきっちりとまとめられてはいるものの、ところどころが冗長に感じられたり、ラストの少ないページで慌しくまとめられたりといった点が気になった。やはり贅沢をいえば、連載の際にはしょうがないと思うのだが、一冊の本にまとめるときにはもう少し手をいれてもらえればということを感じた。
<内容>
厳重に施錠された核シェルターでは“停電”とともに殺人が起き、足跡のない砂浜では目張りされた自動車の中で他殺体、そして誰も入れない古城の尖塔で伝説をなぞるような殺人事件。
三つの不可能犯罪に名探偵増加博士がビール片手に挑む! “ライヴァル”目減卿も登場!
『「y」の悲劇−「Y」がふえる』 (『「Y」の悲劇』:講談社文庫 2000/07/15)
『最高にして最良の密室』 (「ミステリマガジン」:早川書房 2001/04)
『雷鳴の轟く塔の秘密』 (書き下ろし:2002/09)
<感想>
あまりに開き直りすぎる“メタ・ミステリ”というものは非常にたちが悪く感じられる。というのが本書の感想。講談社から出版されたアンソロジー『「Y」の悲劇』をすでに読んでいたので、一編だけはすでに既読であった。それを読んだときは少々眉をひそめたものだが他の二編にしてもそれと同様のレベルである。どうもここで採り上げられるトリックというのは、思いついたものの他のシリーズでは使うことのできないトリックであり、それを公開するためにあえてこういう“場”を設けたのではないだろうか。しゃれっ気があるとか、遊び心という表現もあるかもしれないけれど、どうもいただけないという感情のほうが強くなってしまう作品群である。
ちなみに『「Y」の悲劇』での二階堂氏の作品を読んで気になった部分があったのだが、それについては重版以降訂正がなされているとのこと。本作はその改訂版ということで。
<内容>
汚職にかかわった議員達が次々と無惨に殺害された“処刑魔”事件。その後、犯人は逮捕され一連の事件は終結を迎えたはずだった・・・・・・。しかし十年後、“処刑魔”による連続殺人が再び甦る!
リゾート地の下見にやってきた水乃サトルと美並由加理は、たまたま事件現場を通りかかり、不審者と間違えられ警察から尋問を受ける羽目になる。ところが水乃はがぜんその事件に興味を示し、自ら渦中に飛び込んでいく。
事件は警備員により監視されているマンションの中での密室殺人。そして同様に起きたもうひとつの殺人事件。どうやら事件の背景にはリゾート地を巡る汚職疑惑が隠されているようである。これら一連の事件は十年前に起きた“処刑魔”の事件となんら関連があるのだろうか? また不可能犯罪を水乃サトルはどう解くか!?
<感想>
本書はストーリーの仕立てがよくできていると思う。十年前の事件になぞらせるかのような現在の事件を過去とうまくかみ合わせて解決へと導いている。またメインとなる現在の事件も少数の容疑者の中から的確に割り出されているように感じられる。今作での水乃サトルの事件への介入はかなり強引に感じられたが、それはそれでサトルらしいともいえる気がする。
ただ一つあっけなく感じてしまった点を述べると、本書での事件のメイントリックは“密室”であると受け取った。しかし、事件が解決されるに従い、そのトリックが“密室”というよりは“アリバイ”トリックへの比重が大きくなっていったように感じられたのである。これはこれで分類上としては“密室”トリックということでよいのかもしれないがなんとなく空かされてしまったような気分がした。まぁ、このへんは好みの問題なのだろう。これに関してもう一つ付け加えるならば電話によるアリバイというものはどうだろうと考えてしまう。機器に依存することにより、あれこれトリックを成し得る事ができるならば、もはや電話によるアリバイというのは成立しないのではないだろうか。
それともう一つ本書に仕掛けられたものとして、犯人の正体に関するレッド・ヘリングというものが存在する。詳しく述べるとネタバレになるのでこれ以上は言えないが、私は見事に引っ掛かってしまった。ラストの一行は衝撃的であり、思わず本書を見返さずにはいられなくなるという仕掛けである。
全体的に見るとよくできている作品といえ、水乃サトルシリーズとしても完成されていると思う。これからもこのシリーズの続編は追っていきたいものである。
<内容>
「B型の女」(小説推理:2003年10月号)
電車の中で口論をしていた男女のうちの男のほうが殺されていた。渋柿がアリバイを破る!
「長く冷たい冬」(長く冷たい冬:2003年11月号)
ゲレンデ付近で多発するひき逃げ事件。その裏に隠された動機とは?
「かたい頬」(小説推理:2003年12月号前編、2004年1月号後編)
その別荘地では8年前に子供が神隠しにあったのだという。渋柿が人間消失の謎に迫る。
「ドアの向こう側」(小説推理:2004年2月号)
渋柿は消えたウサギを見つけてもらいたいという依頼を受けることに。そのとき、健一は別の事件をかかえ・・・・・・
<感想>
ご存知、6歳の私立探偵シンちゃんが活躍するハードボイルドシリーズである。
本書はハードボイルド形式をとった、パロディ・ミステリ(各タイトルを見ていただければわかると思う)とでもいえばよいであろうか。ミステリとしてはライト系という印象で、やや若年層向きかなという感じがする。といいつつも、全編ユーモアに彩られた楽しませてくれるミステリとなっているので、誰にでも薦めることのできる本である。
「B型の女」はちょっとしたアリバイトリックものといったところか。ただし、ミステリのトリックとしては弱く、電車の乗り換え案内検索ソフトを使っていたときにでも思いついたものという印象か。なんか、電車の乗客の不必要とも思える不愉快な会話だけがやけに鼻についた作品であった。
「かたい頬」は人間消失を扱ったトリック。どのようなトリックを見せてくれるのかと思いきや、結構普通・・・・・・というかどこかで見たようなトリックという気がしないでもない。まぁ物語の展開や切り口はなかなか良かったんじゃないかなと感じられた作品。
そして「長く冷たい冬」と「ドアの向こう側」の2作品はなかなか面白く読めた。どちらも2つの事件を別々に追っていくという形式の作品。特に「長く冷たい冬」のほうは、メインとなるわかり易すぎる事件よりも、もう一つの事件の解決のほうが意外性があり面白く感じられた。
どの作品にも感じられるのは、前述したように既存の推理小説のパロディ的な作品という事である。物語の展開やトリックなども、なんかどこかで見たことあるようなものが多いという印象である。そういった中で、全編にわたって面白く感じられるのが、シンちゃんが事件の解決を大人に伝えようとする手段がなかなか微笑ましい。とはいえ、これもある意味「名探偵コナン」のパロディのような気がしないでもないのだが。
<内容>
北海道函館市の名家・宝生家。そこに代々伝わる3つの宝石“炎の眼”“白い牙”“黒の心”。この3つの宝石には言い伝えがあり、3つそろえると宝の地図のありかを示すと言われている。そんな宝石を持つ宝生家に“魔術王”と名乗るものの魔の手が伸びようとしていた。
宝生家の後継ぎの芝原悦夫は親戚であり婚約者でもある貴美子との婚約を解消し、鈴原智華と婚約した。そして貴美子もまた医師である竜岡と婚約し、ある意味円満に治まるかに思えた。しかし、4人が偶然<黒蜥蜴>というナイトクラブで同席し、“魔術師メフィスト”と名乗る奇術師のショーを見たときから惨劇の炎が広がってゆくことに・・・・・・
衆人環視の中からの脱出、入り口のない建物の中に人を入れる魔術、出入りが不可能な建物の中へ平気で出入りする黒い影、魔術王が宝生家の一族の前で次々と起こす過激な殺人ショーの数々。その奇跡ともいえる魔術を二階堂蘭子はどう解くのか!?
<感想>
本書を読んでふと思い起こしたのは、以前二階堂氏が参加したリレー小説「堕天使殺人事件」という作品の事。二階堂氏はこのリレー小説のトップバッターを飾っているのだが、そのときの描写と今回の作品に近いものを感じ取ることができた。よって、これは予想であるが二階堂氏はリレー小説のときに思いついた設定で自分がやりたかったことを「魔術王事件」という形で書き下ろしたのではないだろうか。
その本書であるが雰囲気的には乱歩の怪人二十面相シリーズをもっと陰惨にし、大長編化した作品であるというように感じられた。どちらかといえば、謎解きというよりは冒険小説という雰囲気が強調されているように思えた。
本書の中で魔術王による不可能犯罪が次々と繰り広げられるのであるが、これらは推理小説を読みなれている人であれば即座にトリックやら犯人がわかってしまうのではないかという程度のもの。現に私自身も乱歩のとある作品が思い起こされ、それと重ねてみることにより本書の犯人を予想することができてしまった。
と、いいつつもトリックで解けないものもいくつか存在し、特に部屋の数が増減する建物のトリックは秀逸と感じられたのも事実。
ということで、本書は冒険物という位置付けで読んでもらうのが正しいスタンスの本ではないかと感じられた。“怪人対名探偵”というジャンルで考えれば本書は最高峰といってもよい出来であると思う。とかいいつつも、本書のラストのほうでは、“怪人物”から仮面ライダーのような“戦隊物”のほうへと移行していきそうな雰囲気を感じ取れたのだが、それは気のせいだろうか。
<内容>
手塚治虫愛好会の会長が殺害されるという事件が起きた。現場は密室の状態で、一時は自殺だと思われたほどであった。さらに、室内からは被害者が所有していたと思われる、貴重な漫画が数冊無くなっていた。犯人は貴重な本を手に入れるために、犯罪に手を染めたのか!? とはいえ、誰がどのようにして犯罪を成しえたのか・・・・・・
この謎を、同じく手塚治虫同好会の会員である水乃サトルが挑むことに!!
<感想>
ミステリーとして楽しく読めはするのものの、どちらかといえば古本業界に関する話とか、手塚治虫氏の本に関する話題のほうに比重がかたよっていたように感じられた。二階堂氏といえば、喜国氏の「古本探偵」のエッセイに出てきているように、古本に関しては喜国氏の師匠であり、しかも手塚治虫ファンクラブの会長を務めたことがあるという人であるから、本書は出るべくして出た本と言っても良いであろう。
ミステリーに関しては、最初は思いもよらず濃い“密室”をあつかった作品なのかと驚いたのだが、その解に関してはあっさりめ。以前、法月氏が短編でやったような“本”を題材にするならではのミステリ・トリックを見せてもらいたかったのだが、その点はあてが外れてしまった。
作品全体のメインとなるミステリーの部分を見ると、それなりに凝った内容となっている。しかし、これもやはり“漫画コレクター”というものを描いた背景というものにのまれて、結局は薄味になってしまったかなという印象。
また、ひとつ気になったのは去年出版された「魔術王事件」に関してもそう思ったのだが、文体が一昔前のもののように感じられることである。確かに時代設定が少しばかり前の時代になっているという事を意識しているのだと思うのだが、主人公らの感性が古めかしく感じられてしまい、どうも作品全体を通して登場人物らに共感を抱くことができなかった。こういう雰囲気は今後の作品でも続く事になるのだろうか・・・・・・
<内容>
怪盗紳士アルセーヌ・ルパンは古代エジプトの秘宝“ホルスの眼”を手に入れようと、考古学者ボーバン博士の周辺を探っていた。そのルパンの元に彼がボーバン博士の身辺を調べるべく屋敷に潜入させていた老婆から緊急の連絡が入った。急いで駆けつけてみると、老婆はナイフで刺され倒れており、“ミイラ”という言葉と謎の古文書を残して息絶えた。ルパンはエジプトの秘宝を巡る復讐劇のまっただ中へと徐々に巻き込まれてゆく事に!
<感想>
「カーの復讐」というから、てっきりディクスン・カーの事かと思ったらエジプトに伝わる生霊の呼び名であった。
本書を読んで思い起こしたのは、昔に読んだポプラ社から出版されていたルパン全集を読んだときの事。その子供向けのルパン全集の雰囲気がふんだんに込められたものがこの作品である。まさに少年少女向けとしてぴったりの作品であろう。
ただし、少年少女向けの作品といってもミステリーとして馬鹿にはできない内容となっている。繰り返される不可能犯罪と次々と起こる事件の数々。“霊”でなければ成しえないと思われる事件がルパンの手によって鮮やかに解かれてゆく様相は目を見張るものとなっている。
最後の最後まで油断できず、最初から最後まで一本の糸でつながるミステリー。これは子供だけに読ませておくのはもったいない!
<内容>
未知の惑星<バルガ>にて不可解な事件が起こった。惑星を探査するために上陸した調査団が全滅したのである。その死亡状況が不可解なものであり、首と手足を残したまま胴体だけが消失していたのである。現場には争ったような跡がほとんどなく、未知の生物が侵入してきた痕跡はいっさいなかった。いったいどのような状況で調査団は殺害されたのか!? 宇宙探査艦<ギガンテス>の乗員達は捜査を依頼され、惑星<バルガ>へと上陸するのであったが・・・・・・
<感想>
調査団がどのような方法で殺害されたのか? という一点のみで充分に読んでいるものを引っ張り込んでゆく魅力ある作品であった。本書はSF作品であるので、一種の超常現象により殺害されたのだろうとは思っていても、それでもどんな方法がとられているのか気になってしょうがなく、最後まで一気に読み通してしまった。
読了後感じたのは、実は本書はその調査団の殺害方法がメインではなかったのだろうという事。その殺戮方法に目をひきつけておいて、別の大きな真実を読者に表すという、そのような効果を狙ったものなのではないだろうか・・・・・・と、あまり言い過ぎるとネタがばれるかもしれないので、このくらいに。
あと、登場人物たちもそこそこ魅力的には写ったのだが、章ごとに主人公達の視点を変えるという点についてはあまり効果があがっていなかったと思われる。特に副艦長と機関士の視点は別にわける必要もなく、統一したほうが読みやすかったと感じられた。まぁ、このシリーズが今後とも続くのかどうかはわからないが、キャラがそれぞれ立ってくればもっと読みやすいシリーズになるだろう。
<内容>
魔王ラビリンスの行方を追っていたところ二階堂蘭子は軍人らしき男達の白骨死体が発見されたとの情報を得る。その事件とラビリンスとの関わりを探るため、蘭子達は九州へと向かうことに。そしてそこで奇怪な事件の数々と遭遇することになる。名もない島や建物のなかでおきた、奇怪な怪物が起こしたと思われる惨殺事件。その背後に隠されているものとはいったい!?
<感想>
あぁ、ついにやった・・・じゃなくて、ついにやっちまったな、というような内容。二階堂氏が清涼院化したのかとさえ思われるような出来栄え。魔王ラビリンスという者が出てきてからおかしな路線に行きつつあるように思えたのだが、まさに本書こそがそのおかしな路線の行き着いた先といえよう。願わくば、こういう路線はこれ一冊にとどめておいてもらいたいと願うばかり。
今回はネタバレで作品を語りたいと思う。
<ネタバレ感想 ここから ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓>
今作における一番のポイントは“双面獣”というものの存在の可否につきる。通常のミステリ作品であれば、双面獣というような架空のものを配し、あたかもその謎の生物が何かをやったように見せかけ、実はそれが人為的に行われたものであった、というような結末になるはずであろう。そして私もこの作品にそのような内容を期待していた。
しかし、途中くらいから、なんかこれはおかしな雰囲気になってきたなと思ったのだが、残念なことに最後の最後で二階堂蘭子の前に“双面獣”という生物が登場してしまったのである。そして作中で語られた、全ての現実的には起こりえないような事象や生物がありのままに実際に行われたこととして処理されているのである。
・・・・・・これではミステリ作品なのか、なんなのか全く持って解りえない。
最後の最後でこの作品全体の謎というのが明かされてはいるものの、“双面獣”自体が実際に在り得たというインパクトに比べれば、そんなものはどうでもよくなってしまった。もはやミステリ作品というよりは、特撮ものといった雰囲気である。
<ここまで ↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑>
と、そんなわけなのだが、正直なところこのような作風であるのならば二階堂蘭子シリーズでやる必要はないのではと強く感じられた内容であった。
<内容>
酒造りで有名な鬼蟻村の鬼頭家にて、70年前に奇怪な事件が起こったという。その事件とは宴会の最中、突如鬼の面をかぶった何者かが押し入り、宴会の席にいた陸軍少将を刀で殺害した後、忽然と消えうせたというのである。
そして現代に至り、また新たな惨劇が起ころうとしていた。鬼蟻村出身の臼田竹美は、権力争いにより対立する鬼頭家の現在の状況に不穏なものを感じ、同じ会社の水乃サトルに鬼蟻村に一緒に来て欲しいと依頼する。彼らが鬼蟻村に着いたとき、そのときから新たな連続殺人事件が始まってゆくことに・・・・・・
<感想>
今回は真っ当なミステリ作品である。ここ最近の二階堂氏の活躍ぶりから考えると、本書がこれほどまでに真っ当なミステリ作品であることに驚いてしまうほどである。
今作は「犬神家の一族」を思わせるような、旧家で起こる連続殺人事件を描いた作品。犯人の消失在り、密室在り、不可能殺人在りと多くの謎に満ちた作品となっている。本書のポイントとしては意外性のある犯人のみならず、動機について凝っているというところ。このような旧家で起こる連続殺人事件を描く作品というのは多々あると思われるが、そういったなかにあって、他にはない工夫を凝らそうとしている様子が感じ取れる作品になっている。
正直なところ、とあるトリックに対して、やや懐疑的なところもあるのだが、基本的にはよくできた本格ミステリ作品であるといえよう。普通のガチガチの本格推理小説が読みたいという人にはお薦めできる作品である。
<内容>
人気女性作家・天馬ルミ子、彼女にはさまざまな死の影がまとわりついている。彼女の身近なものが亡くなり、それによって利益を得て、徐々になりあがって行く天馬ルミ子。しかも彼女には常にアリバイがあり、警察も彼女を逮捕するまでには至らないのである。
最初の事件は1953年の冬。終戦後の混乱した時代のなかで天馬ルミ子は元の使用人である杉森と共に警察も予想だにしないアリバイトリックを成功させる。
そうして1996年、水乃サトルがついにこのトリックを暴こうと動き出し・・・・・・
<感想>
この作品は数十年にわたっての事件を描いた作品であるが、この本自体もここ数年にわたるなかでの不可解な内容を示したものとなっている。
どういうことかと言えば、本書を読んでいるとすぐに気がつくのが、この作品は東野圭吾氏の「容疑者Xの献身」に内容が似ているということ。事実、本書のメイントリックについてだが、「容疑者Xの献身」を読んでいたことにより、読了前に気がつくことができた。要するに事件の背景は違えども、この作品は二階堂黎人版「容疑者Xの献身」といっても過言ではない。
この「容疑者Xの献身」で思い出されることといえば、当時、二階堂氏が「容疑者X」に対して、また「容疑者X」を評価した評論家を批判したことである。これはミステリ界では有名な出来事であろう。ただ、そうした批判が行われたなかで、何故このような作品が二階堂氏の手によって書かれたのかが全くもって不可解である。
ひょっとすると二階堂氏が暖めていたメイントリックを先に東野氏に使われてしまったということがあったのではないかと勝手に想像してしまう。そうすれば、一連の騒動に関しても心情的には理解できなくもない。さらには、自分のトリックのほうが優れていると考えていたとすれば、より面白くなかったに違いあるまい。そういった複雑な心境のなかで、「容疑者X」から数年を置いて出版したのが「智天使の不思議」であると考えてみたのだがどうであろうか。
もちろん上記に書いた事は想像にすぎないのだが、ただ、その想像が違っているとすれば、この作品が書かれた理由がさっぱりわからなくなる。正直なところこの「智天使の不思議」と「容疑者Xの献身」とどちらが優れているかと言われれば「容疑者X」のほうに軍配をあげたい。「智天使」のほうはメイントリックについてはともかく、それ以外については、ほとんど見るべきところがないというよりも、むしろ突っ込みたくなるところが多々ある内容。そして物語性でも「容疑者X」に軍配があげられる。
ということで個人的には先ほどの“トリックを先に使われた説”が違うのであれば、何ゆえに今更「容疑者X」よりもレベルが数段下がる作品を出さなければならなかったのかがよくわからない。まぁ、この作品が書かれた真の経緯については明らかにされることはないであろうが、全く持って不可解な作品という嫌な後味が残るのみである。