セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴


 五十七年秋、「占星術殺人事件」の直後のこと。

 御手洗の事務所に高沢秀子という老齢の女性が訪ねてきた。彼女は御手洗に世間話をするかのように、彼女の友達の話をはじめる。その友人は折野郁恵といい、かの榎本武揚の子孫だという。そして榎本がロシアの皇帝から受け賜った、ダイヤモンドがちりばめられた"セント・ニコラスの長靴”を相続しているというのだ。その長靴をゆくゆくは、孫の美紀に譲りたいといっているのだという(息子夫婦とは折り合いが悪いらしい)。

 そして、その折野郁恵は今日のバザーに来ていたのだというが、奇妙な振る舞いをしたのだという。最近までは元気だったのに、今日は車椅子で息子夫婦とバザーに来ていたのだが、隅のほうでじっとしていたのだという。その日は午後から雨が降り出したという。そのとき雨を見た郁恵は突然倒れてしまったのだ。そして郁恵は病院に運ばれることになったのだが、なぜか息子夫婦は一緒にはついていかなかった。彼らは高沢に「十字架なくなってしまって・・・・・・」などとわけのわからないことを言い出す始末。さらにその夫婦は雨の中、あらかじめ持ってきていたスコップで道端の花壇を掘り始めたというのだ。

 という奇妙な話を高沢秀子は御手洗に話した。それを聞いた御手洗は、「これは大事件ですよ」と。

 御手洗はこれは誘拐事件だと推理する。折野郁恵は孫の美紀を攫われ、身代金として教会の十字架の影に"セント・ニコラスの靴”を埋めるように指示したのだと、御手洗は言う。御手洗は竹越刑事に電話をかけ、誘拐事件が起きたことを告げ、一同折野家へと向かう。そこで竹越刑事と合流し、折野家へ入ると、そこで一同を出迎えたのは美紀であった。

 御手洗の予想がはずれたのかと思いきや、美紀は誘拐された後に解放されたのだという。美紀は誘拐されたときに大事に扱われ、怪我などもなく、脅えた様子はなかった。そして、美紀の両親の折野夫婦が帰ってきたのだが、夫の方は事件自体を隠したい様子で、非常に印象の悪い男であった。

 御手洗は"セント・ニコラスの靴”はまだ掘り返されていないだろうと考え、さっそくこれから掘り出しに行くことになった。彼らが向かう途中で、例の教会の近くにきたとき一台の車が対向車線をはみ出し、事故にあっていた。その車に乗っていたのは、なんと、さっきまで会って話をしていた折野夫婦だったのだ。

 御手洗は気にせずに彼らの車にあったスコップを取り出し、例の花壇を掘り始める。しかしそこには靴をいれたはずのかばんは見つかったのだが、中身の"セント・ニコライの靴”は無くなっていた。

 靴の行方は? その靴は本当に存在するのか? そして美紀を誘拐した犯人とは? 事件の影に隠れた奇妙な出来事らはいったい何を指し示すのか? そして御手洗がとった行動とは?




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