ロシア幽霊軍艦事件
御手洗と石岡の元にレオナから手紙が来た。
レオナいわく、昔のファンレターが出てきたという。倉持ゆりという女性からのもので、レオナの作品を褒め称えるだけではなく、奇妙な依頼がそこには書かれていた。倉持ゆりの祖父がヴァージニア州に住むアナ・アンダーソン・マナハンさんにすまなかったと伝えて欲しいというものであった。ベルリンではほんとうにすまないと。また、富士屋という箱根のホテルの、本館一階のマジックルームの暖炉の上にかかっている写真をマナハンさんに見せて欲しいと。これらを遺言として倉持平八は亡くなったとのことだった。最後に倉持ゆりの父親が横浜でレストランをしていると締めくくっていた。
レオナの調べではアナ・アンダーソン・マナハンという女性はすでに死んでおり、また彼の夫もすでに亡くなっているということであった。御手洗が倉持家に電話をかけると、倉持ゆりの父・倉持寝無里(ねむり)が出て、娘は昨年事故で亡くなったという。特に事件性は感じないものの、閑だった御手洗らはとりあえず避暑をかねて箱根へと足を伸ばしてみることに。
箱根の富士屋というホテルは明治に造られた外国人専用のホテルであった。そのホテルへ行った彼らは、倉持平八が言ったという写真の所在を確かめることに。支配人に尋ねてみると、その写真は確かに存在し、しかも曰く付きのもので「幽霊軍艦」が写っているという。なぜ幽霊なのかというと、その軍艦が芦ノ湖に浮かんでいるからなのである。その軍艦はロシアのもののようで、ロマノフ王朝の紋章が見えている。写真の日付は1919年、大正八年となっている。
当時の話しでは霧のかかる芦ノ湖全体が光っていて、どこからともなく芦ノ湖に突然軍艦が出現したのだという。さらに次の日にはその軍艦が芦ノ湖から消えうせていたというのだ。その後、緘口令がしかれ誰もそのことを口にしなくなった。だから当時それを見たものも本物であったのかどうか信じられなくなっていったのだという。
箱根からもどった彼らの元にレオナからの電話が入り、驚くべき事実が伝えられる。
それはアナ・アンダーソン・マナハンという女性は生前、自分はロマノフ王朝の血を継ぐ、アナスタシア皇女であるとドイツで三十年もの間、裁判を起こしていたのだというのだ。アナスタシア皇女は歴史では処刑されたことになっており、またアナにもいろいろと不審な点などもあったことから結局は彼女の訴えは退けられたのである。
アナ・アンダーソンの精神病院を出入りしたり、国から国へと移ることになった奇妙な半生。世間で上映されていた映画「アナスタシア」。ロマノフ王朝没落の歴史。そして歴史の背後に隠されていた事実。この歴史の中に倉持平八は関係しているのか?
御手洗潔によって、今ロマノフ王朝の新事実が解き明かされる。
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