あ行 あ1  作品別 内容・感想

列車消失   6.5点

1990年09月 講談社 講談社ノベルス
2007年10月 講談社 講談社ノベルス<復刊>

<内容>
 親子連れの人々に楽しんでもらうはずの、電車による旅の企画が一変し、思いもよらない犯罪の舞台となってしまう。 目的地へと走る列車の途中の車両が抜き取られ、乗員乗客行方不明になるという事件が起こった。その後、実行犯から電話があり、3億円の身代金を要求してくる。犯人は列車を利用して、身代金の引渡しを行おうとするのだが、その最中にも不可解な出来事が頻発することに! 二度、同じ列車に轢かれた男、胴体のみが車両を歩くという怪事、車内から消えうせた凶器、これらの謎は全て解明されるのか?

<感想>
 走っている列車から一両が抜き取られるは、電車に二度も引かれるバラバラ死体が出てくるは、そのバラバラ死体が動き出すは、こんな驚天動地の本格ミステリが存在していたということに驚かされてしまった。

 これは、まるで島田荘司ばりではないか! と思い、島田氏以前にもこのような作品を書いた人がいるのだなぁ、と感心しながらあとがきを見ると、実は逆であったことが判明する。なんとこの阿井渉介氏は島田氏の「奇想天を動かす」に触発されてこの作品を書いたということ。本書の中から島田氏ばりの本格スピリットがバンバンと感じられたのはそのためか。ひょっとすると主人公の牛深刑事も島田氏の牛越刑事からとった名前なのかもしれない。

 本書では、いきなり列車が抜き取られる事件が発覚するところから始まる。列車が抜き取られるといえば、あのトリックかな、とミステリファンであればすぐに思いつくものがあるのだが、そのトリックはあっという間に否定されてしまう。その他にも読者を唖然とさせるような奇天烈な謎のオンパレード。そのあまりにも大胆な謎の提示に圧倒されるばかりであった。

 そして、それらの大胆な謎に対する真相もよくできていたと思われる。特に感心させられたのは、車両を歩き回る胴体について。反対に、もう少し練ってもらいたかったと思われるのは、凶器の銃のトリック。

 ただ、この作品が今までさほどとりあげられていないという理由は、あまりにも地道な作風のためではないだろうか。作品の内容自体が、国鉄からJRへの転換を描いた社会派ミステリであるという位置づけがあるにしても、もうちょっと派手な内容にしてもらいたかったところ。この作品のジャンルの区分けとしては新本格ミステリというよりも、列車を用いたアリバイトリックものの方に分類されてしまうような気がする。

 個人的には、この作品の謎を解く人物として、一癖ある探偵を用意してもらいたかった。人物像まで、島田氏の描いた作品のように地味にしなくてもよかったのではないだろうか。


午前零時のサンドリヨン   6点

第19回鮎川哲也賞受賞作
2009年10月 東京創元社 単行本

<内容>
 高校生の須川は姉に連れられて入ったレストラン・バーにて、同級生の西乃初がマジックを披露しているのを見る事に。そのとき、須川は西乃に一目ぼれしてしまう。彼女になんとか話しかけようと、須川は一人で過ごす西乃のもとをおとずれる。なんとか、会話をつなごうとマジックを要求してみたり、学校で起きた事件の事について話したりするのだが・・・・・・

鮎川哲也賞 一覧へ

<感想>
 うん、まず作品の送り先を間違えたのではないかと。この作風は鮎川賞ではないだろうし、この賞の読者が共感するような内容ではないと感じられる。作品自体は決して悪くはないと思えるので、送るべきところへ送っていれば、もっと注目されたのではないだろうか。

 読み始めて最初に思ったのは、なんか気恥ずかしいということ。いきなり一目ぼれした高校生が、その相手の元をうろうろしたり、話しかけたりするというところから始まってゆく。そうして語り手の須川くんは、女子高生マジシャン西乃さんと仲良くなろうとする。

 この本を読んでいて、ものすごく違和感を覚えたところがある。それは、須川くんが西乃さんと仲良くなるために、あれこれと話題を探したり、マジックを見せてよときっかけを作ろうとしたりするのは理解できる。しかし、「西乃さん、謎を解いてよ」という言葉には、全く共感できない。むしろ悩みを抱えている女子高生を追い詰めてどうするんだ、としか思えなかった。

 よって、ボーイ・ミーツ・ガールものの小説としてはよいと思えるのだが、そこからミステリ的な展開へと持ち込もうとするのには無理があったように思える。マジックのみでもボーイ・ミーツ・ガールものとしては十分な要素であり、そこにミステリまで付け加えたのは欲張りすぎと言えるであろう。

 もっとミステリ的な部分を薄めにして、変なトラウマなど抱えずに、のびのびとした健全な高校生の物語を書いてくれたほうが良かったように感じられる。


ロートケプシェン、こっちにおいで   6点

2011年11月 東京創元社 単行本
2015年01月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 プロローグ
 「アウトオブサイトじゃ伝わらない」
 「ひとりよがりのデリュージョン」
 「恋のおまじないのチンク・ア・チンク」
 「スペルバウンドに気をつけて」
 「ひびくリンキング・リング」
 帰り道のエピローグ

<感想>
「午前零時のサンドリヨン」に続く2作品目。前作は単行本で読んだのだが、2作目は文庫化を待っていたので、久しぶりに読んだという感じ。学園ミステリとして、楽しめる作品。

 学園内で起こる事件を描いているのだが、日常の謎に近い内容なので、ミステリとしての印象は薄い。取り上げられている事件というと、同級生の女の子の気分が変わった理由は?、封筒の中身が入れ替わった理由について、バレンタインにチョコレートが一か所に集められたのは? そして、物語の最初から語られている、ひとりの女の子が不登校になり、学校に来なくなる話の核心に触れることとなる。

 謎(?)の不登校になる女の子にまつわる話は、なかなか面白い。ただ、その面白さは物語としてであって、ミステリとしてというほどのものではない。なんとなく、青春小説を読み通したという印象のほうが強い作品であった。連作短編として、ミステリ的な要素が繰り返されるものの、それらがあまりにもちょこっとしたもので、印象に残りづらい。ゆえに、学園ミステリというよりは、学園小説という感触の内容。

 あと、細かい点については語り手である主人公の立ち位置がなんとなくわかりづらかったかなと。よくありがちな、八方美人タイプで誰とでも仲の良いという設定の主人公なのだが、読んでいてあまり社交的というイメージがなく、友達が多いというところがしっくりいかないかなと。本人が気にしているように、美人な同級生に付きまとっている微妙に危ない少年というほうがぴったりのような・・・・・・


medium メディウム   7点

2019年09月 講談社 単行本

<内容>
 推理作家でありつつ、警察の事件に関わり、いくつもの難事件を解決してきた香月史郎。彼は霊能者を名乗る城塚翡翠と出会い、彼女と共にいくつかの事件に関わってゆくこととなる。そしてついに、巷を騒がせる連続殺人事件の謎に挑むこととなり・・・・・・

  プロローグ
 第一話 泣き女の殺人
  インタールードT
 第二話 水鏡荘の殺人
  インタールードU
 第三話 女子高生連続絞殺事件
  インタールードV
 最終話 VSエリミネーター
  エピローグ

<感想>
 警察の捜査に度々加わり、事件を解決してきた推理作家・香月史郎。そんな彼が霊能者を名乗る城塚翡翠と出会い、コンビとして事件を解決してゆくという物語。ネット上での評判が良かったのを見て、購入した作品。

 第一話では、香月の後輩が自宅で死亡しているのが発見されるという事件。翡翠が泣き女の霊を見て、それを元に香月が事件解決に結びつける。第二話では、香月と翡翠らがホラー作家の別荘に招待され、そこで殺人事件に遭遇する。翡翠が見た霊視を元に香月が論理的な推理を披露する。第三話では女子高生を狙った連続絞殺事件に香月と翡翠がかかわることとなる。翡翠の活躍により、ギリギリのところでなんとか犯人逮捕にこぎつける。そして最終話では、この作品の全体的なテーマともいうべき、20代の女性ばかりを狙った連続殺人事件を捜査することとなる。

 正直なところ、最初読んでいる段階では、“霊視”による効果というものが、あまりしっくりこなかった。特に第一話の泣き女の件では、果たして霊視が役に立ったのかと思えてしまったほど。第二話、第三話では、はっきりとした確定的な霊視が行われていたゆえに、ある程度は納得できた。ただ、全編にわたって、香月の推理がしっかりしているがゆえに、霊視の必要性が感じられないというのが正直なところ。

 ただ、そういった考えが最終話ですべて吹き飛ばされてしまうこととなる。最後にカタストロフィが待ち受けることに。ここは、ネタバレになってしまうので、あえて書かないが、未読の人はなるべく情報を入手しないで、作品に取り掛かったほうがより楽しめるのではないかと思われる。ゆえに、未読の方は、本書こそ今年の目玉作品であると思われるので、是非とも今年中に着手してもらいたい。最後まで読んでみると、論理的な推理が連発されるガチガチの本格推理小説であったことに気づかされる作品。


invert インバート   6.5点

2021年07月 講談社 単行本

<内容>
 「雲上の晴れ間」
 「泡沫の審判」
 「信用ならない目撃者」

<感想>
「medium」で話題をさらった霊媒探偵・城塚翡翠が活躍する第2作品。今回は倒叙作品集となっている。

 最初の2作を読んだときには微妙という感触を抱いた。そもそも倒叙ものというのは、犯人が犯行をした場面を描き、その後に探偵が犯人を追い詰めてゆくというもの。それを考えると倒叙作品というもの自体、探偵役は警察に属するものでなければ成立しないのではないかと感じてしまった。仮に私立探偵が証拠だとかを挙げたところで、後の裁判において否定、もしくは探偵の捏造を訴えれば、判決がひっくり返るのではないかと、本書を読んで感じてしまった。

 まぁ、それでもここに登場する最初の2作品の犯人に関しては、そのようにごねるような人物ではなく、基本的に善良な人であるために、うまく言いくるめることさえできれば、それで事件解決が成立してしまうようにも思われた。今回は、そんな善良に思える犯人対探偵、というような構図を描きたかったのかと思われた。

 それに対して最後の「信用ならない目撃者」では、前2作品と異なる様相を見せる。ここではしっかりと、悪辣で周到な犯人を用意し、それに対し探偵がどのように立証するのかが描かれている。今回は、犯人がやや有利かなと思えたのだが、なんと探偵側が奇抜な罠を犯人に仕掛けていたのである。それには、ここまでやるかとうなさられるものであった。よって、この最後の作品によって、またしてもやられたという感じになってしまった。まさに、最後の最後まで予断を許さないシリーズである。


「雲上の晴れ間」 プログラマーが犯した犯罪のアリバイを崩すことはできるのか!?
「泡沫の審判」 卑劣な盗撮者を計画的に殺害した女教師が犯したミスとは??
「信用ならない目撃者」 恐喝者である探偵事務所社長は彼を告発しようとした社員を殺害する。男は事件の目撃者と思われる女を取り込み、完全犯罪を完璧なものにしようと・・・・・・


invertU 覗き窓の死角   6点

2022年09月 講談社 単行本

<内容>
「生者の言伝」
 友人の別荘に無断で入り込みそこで暮らしていた中学生は、戻ってきた家主に見つかり、その家主を殺してしまった!? パニックに襲われた彼の元に、遭難したので助けてもらいたいという二人の女性が訪れる。二人は、城塚翡翠と千和崎真と名乗り・・・・・・

「覗き窓の死角」
 写真家は個人的な恨みから、モデルの女を殺害する。早々に警察から疑われるものの、彼女には確たるアリバイがあった。犯行当日、彼女は城塚翡翠と一緒に行動していたと・・・・・・

<感想>
 昨年出た「invert」に続き、早くも第2弾登場。こんなに早く城塚翡翠シリーズが読めるとは思いもよらなかった。それで今作の出来はというと・・・・・・ちょっと期待しすぎてしまったような。

 ページ数から見た、今作の流れを予想すると、全ページ数の三分の一のボリュームである「生者の言伝」と、三分の二を占める「覗き窓の死角」ということで、「覗き窓の死角」がメインディッシュとなるのであろうと。予想通り「生者の言伝」は、ちょっとしたミステリであり、導入としては良い塩梅。続く「覗き窓の死角」はというと・・・・・・思っていたよりも普通。決して悪くはないのだけれど、普通の倒叙作品と言う感じ。前作「invert」で、派手なトリックを見せてくれただけあって、今回もてっきり何かやってくれるのかと思っていたのだが。

「生者の言伝」は、殺人を犯した中学生が、突如現れた城塚・千和崎コンビに驚き、しどろもどろになりながら、事件を隠そうとする話。あからさまに怪しい中学生と、城塚とのやり取りは、もはやコメディという感じではあるのだが、それだけでは終わらないだろうという期待に、やはり応えてくれる内容となっている。

「覗き窓の死角」は、アリバイトリックを見破るというもの。これについては、倒叙作品としてはいたって普通という感じであり、長めの作品の割にはさほど特筆すべきところはなかったような。それでも普通によくできた作品ではあるので、倒叙作品を読みなれていない人にとっては、結構驚かされる作品ではないかと思われる。

 個人的には、「覗き窓の死角」を半分の分量にして、もう一作品付け足して、三作品にしたほうが良かったような。そのほうが“倒叙ミステリ作品集”としては読みごたえがあったのではないかと。


首切り坂

2003年05月 光文社 カッパ・ノベルス(KAPPA-ONE 登竜門第2弾)

<内容>
 明治四十四年初夏、東京。地蔵の上に生首が載ったとき、狐の顔の怪人が出現する。
 怪談として広まった「首切り地蔵の呪い」。しかし首無し死体が実際に発見されとき、それは現実へと移り変わる。友人がその“首切り地蔵”の近くに住む、作家の鳥部は事件の真っ只中に巻き込まれていくことに・・・・・・

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<感想>
 昨年好評を得たKappa One の第2弾。ということで、大変期待をしていたのだが・・・・・・

 本書を読んでの感想は、ミステリーというよりは怪談という印象が残った。本書での書き方を見ると、その時代風景やその事件現場となる場所の禍々しさなどの描写には力が入れられているように感じる。しかし事件に対する描写という点では、事件を発見したものの驚きや恐怖などは細かく描写されているのだが、事件そのものに対してはあまり詳しく描かれていない。要は“謎”という観点に重きがおかれていないのである。そういった点などからもやはり本書は怪談というにふさわしい気がする。

 また、メインとしてラストにあるトリックが明かされる。しかし、そのトリック自体が突然降って沸いて出てきたように思えてしまう。トリックを用いるのであれば、その前に何が不思議で何が謎なのかを明確に提示しておく必要があると思う。そうでなければ、いかに良いトリックを用いたとしても“からぶり”に終わってしまう。その見せ方がもっとうまければ本書に対する評価もまた変わったのではないかと思うのだが。


キルケーの毒草

2004年01月 光文社 カッパ・ノベルス

<内容>
 作家の鳥部林太郎は知人で新聞記者の木村敬介青年が行方不明になったことを知り、彼の行方を探し出そうとする。彼の手がかりを探ってゆくと、敬介が桐嶋男爵邸に出入りしていたことを知ることに。その様子を探ろうと邸を訪れてみると、ちょうど男爵家では晩餐会が行われようとしているときであり、鳥部はその催しに招待されることになる。そしてそれが恐るべき連続殺人事件の幕開けとなるのであった・・・・・・
 次々と毒殺される桐嶋家の者達、不可思議な形に飾られた死体、そして桐嶋家を取り巻くように多くの人々が失踪していたことが明らかになる。鳥部の友人であり、同じく男爵家を訪れていた大島が解く事件の真相とは!?

<感想>
 前作 Kappa-One の受賞作に比べると格段に読みやすくなったように感じられた。このように言うと失礼かもしれないが、ずいぶんと腕を上げたのではと素直に感心してしまった。ただ一つ気になったのは本書の分厚さ。これがもう少し縮小されて書かれていたなら、読み易さも格段に違い、そして内容も濃いものができたのではないかと思われ、少々惜しく感じられた。

 本書を一言で言ってしまえば、“京極夏彦風の作品”といったところ。全体的な雰囲気、時代設定、主人公らの関係、怪奇的な作風といい、どう見ても“京極風”という印象からは逃れられないであろう。

 とはいえ、そういった雰囲気がこの物語にはとてもマッチしているのではないかと感じられた。最初は怪談風に物語が始まり、話がどこへ行ってしまうのかと心配したのだが、関連のなさそうな話が徐々につながっていくようになる。そうして失踪事件から、邸での連続毒殺事件をも含めた物語全体が一つのつながりを持った事件として現される事となる。このつながりを書ききった著者の手腕はなかなかのものであると感心させられてしまった。そしてラストへと到る意外な結末もこの物語全体をうまく現しきったと感じられた。

 2作目でここまで書いてもらえると、これから先がますます期待できるのではないだろうか。3作目ではさらなる飛躍を期待したいところである。そうすれば相原氏がミステリ界においてブレイクすることも間違いないであろう。


九杯目には早すぎる

2005年11月 双葉社 フタバノベルス

<内容>
 「大松鮨の奇妙な客」
 「においます?」(ショートショート)
 「私はこうしてデビューした」
 「清潔で明るい食卓」(ショートショート)
 「タン・バタン!」
 「最後のメッセージ」(ショートショート)
 「見えない線」
 「九杯目には早すぎる」(ショートショート)
 「キリング・タイム」

<感想>
 タイトルから予想されるような作品集ではなく、普通のミステリ・サスペンス作品集という感じであった。

 実は読む前は、全体的な雰囲気からてっきり連作短編集だと思っていたので、それが逆に一番最初の作品のスパイスとなり、勝手に驚いてしまったという体験をしたのは私だけだろうか?

 まぁ、普通のミステリーと言えなくもないのだが、全体的に嫌な作風のもの(ストーカーとか、性格の悪い上司とか)が多いのであまり私の好みには合わなかった。

 この短編集の中には第26回小説推理新人賞を受賞した「キリング・タイム」というものが掲載されている。ミステリーとしてのできは良かったと思うのだが、なんとなくこの短編集の最後の作品に入っている事で、作品自体の効果が薄れてしまっているように感じられたのは気のせいだろうか。それならば最初にもってくればと思いつつも、私が最初に驚かされた「大松鮨の奇妙な客」のほうがやはり一番としては相応しい気もするので微妙なところか。

 まぁ、こんなミステリー短編集もあるという事くらいで。


ハンプティ・ダンプティは塀の中   6点

2006年12月 東京創元社 ミステリ・フロンティア

<内容>
「古書蒐集狂は罠の中」
 ちょっとした事故によって留置所へ入る事になった和井。そこで出会ったのは一癖も二癖もある面々であった!? その留置所の中のひとりで稀少本のコレクターであるハセモトが自分が逮捕されたときの様子を退屈紛れに話し始めるのであったが・・・・・・

「コスプレ少女は窓の外」
 和井たちが入っている留置所の窓から毎日決まった時間にコスプレをした少女の姿が見えるようになった。話によれば留置されている男が頼んだと言うのだが果たしてその真意は・・・・・・

「我慢大会は継続中」
 違法ドラッグを買ったことにより逮捕されたトマベという男が新たに留置所にやってきた。そのトマベはやりかけの仕事があるらしく、しきりに親しい先輩に連絡を取ろうとするのだが、なかなか連絡がつかない。そんな折、トマベの先輩が死んでいるのが発見され・・・・・・

「アダムのママは雲の上」
 また新たに和井たちの留置所に新入りがやってきた。しかもそれは外国人のふりをした日本人であった。そんなある日、和井が昔バイトをしていたときに経験したと言う不可解な殺人事件の話を披露するのであったが・・・・・・

「殺人予告日は二日前」
 ある日突然、和井に真坂が話しかけてきた。なんと真坂は殺人を予告する脅迫状を受け取っていたというのである。その話をする真坂の真意とは??

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<感想>
 なんと本書は留置所のなかで語られる、もしくは起こるミステリを描いた連作短編集である。刑務所が舞台となる作品は多々在るだろうが、留置所という独特な場所を用いたところはなかなか渋い選択であったと思う。

 主人公は主な語り手となる留置所新参者の和井、そして探偵役となる留置所のなかで独り寡黙に寝転がっている“ハンプティ・ダンプティ”のような外見の真坂。ただし、探偵役といっても普通に推理が紐解かれるわけではなく、その解決は作品それぞれによって異なり、かつ、ひねくれたものとなっている。その予想のつかない展開がそれぞれの作品がいったいどのような内容なのかと楽しみにさせてくれる効果を高めている。

 作品中一番のお気に入りは最初の「古書蒐集狂は罠の中」。これは古書の蒐集がこうじて万引きをして捕まった男の話なのであるが、この作品の話のひねり方が絶妙。また、最初は誰がどのように話を解決していくのかと思っていたところに忽然と姿を現す真坂の存在も光っていた。

 またサプライズという面では「アダムのママは雲の上」も絶品。これは何の前情報もなく読んでもらいたい作品。

 他の作品も誰と誰に利害関係があって、留置所の中の誰が関係していてなどと、さまざまな手段によってそれぞれの話がかき回されてゆく。読んでいる最中は疑心暗鬼になって留置所の中の誰も信用できなくなってしまうのだが、そんな混沌とした狭い部屋中の様子とユーモアがからみあって、独特の雰囲気をかもしだした作品に仕上がっている。なかなか楽しませてくれる、ちょっと変わった留置所ミステリ。


東海道新幹線殺人事件   6点

2017年10月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 新大阪行きの新幹線と東京行きの新幹線の車内にて、ほぼ同時刻にそれぞれの車両で首が切断された死体が発見された。しかも、その首と胴体は同じ死体のものではなく、それぞれ別の新幹線で見つけられた死体と首が入れ替えられていたのである。血文字のメッセージが遺された不可解な死体。この謎にミステリー作家・朝倉聡太が挑む!

<感想>
 鉄道ミステリ界に現れた期待の新生! と言われているかどうか知らないが、講談社ノベルスの“鉄道ミステリフェア”にて、新作をひっさげてデビューした葵瞬一郎氏。そして、作品の内容はどうなっているかといえば、のっけから奇妙な状態の死体が現れ、まるで島田荘司氏を彷彿させるような奇想ぶり。

 と、いったところから始まり、次回作に悩むミステリ作家が現れ、編集者の協力を仰ぎつつ、探偵としての捜査を展開してゆく。その捜査の間、旅情ミステリっぽさと鉄道ミステリらしき雰囲気をしっかり出しているかなと感じられた。また、事件も最初に起きたものだけにとどまらず、やがて不可解な連続殺人事件へと展開していくことに。

 読み終えた後の感想としては、謎の提示は面白かったものの、どうもトリックのための不可解な死体状況という印象がぬぐえなかった。それらのトリックが必然のものではなく、かえってトリックを仕掛けることにより、犯行後の後始末を自らややこしくしているという風に捉えられた。うまく書かれたミステリ作品だと思いつつも、やや不満が残る真相であったかなと。

 ただ、鉄道ミステリたる雰囲気と、探偵役の造形はそれなりにうまくいっていると思われるので、シリーズとして書き続けてくれることを期待したい。二作目が出たら、また読んでみようかなという気にはさせられた。


オホーツク流氷殺人事件   6点

2018年10月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 推理小説作家・朝倉聡太は、編集者を通じて、とある事件の依頼を受けることに。それは、旧家に伝わる呪いの家宝とされる勾玉が無くなったという事件。気楽に引き受けた朝倉であったが、北海道日高へと向かうと、単なる盗難事件から殺人事件までへと発展していくこととなる。しかも、オホーツク海の流氷から死体が発見されるという衝撃的な状況で・・・・・・

<感想>
「東海道新幹線殺人事件」でデビューした葵瞬一郎氏の2作品目。前作が面白かったので、今作も読んでみることにした。てっきり表紙に電車が写っていたので、今作も鉄道ミステリかと思いきや、それとは異なるものであった。これは、鉄道ミステリ・シリーズを書く作家ではなく、内田康夫氏のような旅情ミステリのようなものを書いていこうとしているのかなと感じられた。

 今回は“黒石家勾玉殺人事件”というようなタイトルを付けてもよさそうな内容。旧家にて起きた、勾玉の消失から、家族を狙う連続殺人事件へと発展してゆく。旧家の遺産相続に関わる確執や、流氷から死体が現れたりと、一見派手な演出をしているにも関わらず、何故か全体的に地味な作風という風に捉えられる。

 終幕での犯人を明らかにする場面についても、真相究明に関わる話や、各種トリックに関しても端正でうまくできていると感じられた。ただ、その割には後味として何も残らないというか、全体的に薄い印象であるなと。よく出来た作品ゆえに、もう少し派手なものを挿入するなりして、強い印象を付けるようにしたらよいと思えるのだが。ひょっとすると、そういった一つ一つが濃い作品というよりも全体的に薄めの作品を数多く書くという作家になろうとしているのかな?


からくりランドのプリンセス   5点

2013年11月 原書房 単行本

<内容>
 誉田友梨江は、娘の汐音が中高一貫教育の海央学院に入学することになり、その保護者会に出席した。友梨江は娘が保育園のころから保護者会の役員を押し付けられており、今回こそはその役目から逃れようと考えていた。しかし、海央学院に小国の王女様が留学してくることとなり、友梨江は昔警備関係の仕事をしていたことをかわれ、王女の護衛役を押し付けられることとなる。また、娘の汐音がプリンセスと仲良くなり、ともに行動することとなり・・・・・・

<感想>
 原書房様からの頂き物として、久々に青井夏海氏の作品に触れることとなった。読んですぐに感じたことは、この作品って、どの年齢層をターゲットにしたものなの? と疑問に思ったこと。

 タイトルや表紙からして、勝手に内容を想像していたのは、留学生のプリンセスと日本の女子中学生が探偵団みたいなものを結成し、謎に挑むというようなもの。しかし、実際に読んでみると、主人公は中学生の母親といったような状況。これであれば、タイトルを「ママはSP プリンセスを守れ」とか、そのような感じにしたほうがよかったのではなろうか。私と同様のイメージを持って、本書を購入した人は、期待を裏切られることとなるであろう。

 一応、女子中学生やプリンセスにもスポットが当てられるが、全体的に通してみれば、母親が登場する比重が多かったと思える。ゆえに、母親ならでは愚痴が多く、このへんに共感してくれるのは主婦層くらいであることだろう。また、全編を通して不平不満が多く、決して物語を楽しめたとはいえない状況。

 もうちょっと、どこにスポットを当てて、どこを強調するのかを考えたほうが、物語がしまったのではないだろうか。これでは、せっかくのプリンセスという設定を持ち出してきたのが台無しのような・・・・・・


オーパーツ 死を招く至宝   5.5点

第16回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作
2018年01月 宝島社 単行本

<内容>
 自称オーパーツ鑑定士の古城深夜と、その古城とドッペルゲンガーのように瓜二つの外見を持つ、貧乏学生の鳳水月。鳳は古城によって強引に数々の事件に巻き込まれてゆくこととなり・・・・・・

 「十三髑髏の謎」
 「浮 遊」
 「恐竜に狙われた男」
 「ストーンヘンジの双子」

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<感想>
 今年の“このミス大賞”受賞作品。読んで思ったのは、とにかくキャラクターが興味深いということ。オーパーツ鑑定士という胡散臭い肩書を持つ男と、その男と瓜二つの顔を持つ貧乏学生とのコンビ。この二人が、さまざまな事件に巻き込まれてというか、オーパーツ鑑定士のほうが、積極的に事件に関わって、もうひとりが自然と巻き込まれざるを得ないという展開で物語は進んでいく。なんともこの“オーパーツ”というものによる胡散臭さが魅力の作品となっている。

 最初の「十三髑髏の謎」という作品は、密室殺人が行われ、死体が13個の水晶髑髏に囲まれていたという事件を描く。この真相がなかなかのバカミスっぷりを示しており、非常に面白く読むことができた。

 ただ、この事件以降が尻つぼみ。「浮遊」も密室殺人を扱いつつも、真相はあまり大したことがない。「恐竜に狙われた男」は、殺人事件を扱うというよりも、格闘小説のような感じになってしまっている。そして最後の「ストーンヘンジの双子」は、なんとも締まらない内容。

 読み始めは、これはなかなかと思えたのだが、だんだんと微妙な感じになってしまったのは惜しいところ。本格ミステリ風にするのか、それとも冒険ものにするのか、どこか一本筋を通してもらえれば、もっと締まった小説になったと思えるのだが。なんとも“このミス大賞”らしい、中途半端な作品になってしまったという感じ。


Y駅発深夜バス   6点

2017年06月 東京創元社 ミステリ・フロンティア

<内容>
 「Y駅発深夜バス」
 「猫矢来」
 「ミッシング・リング」
 「九人病」
 「特急富士」

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<感想>
 この著者の名前をどこかで聞いたことがあると思っていたら、二階堂黎人氏編集の「新・本格推理」(光文社文庫)に作品を掲載していた作家であった。その「新・本格推理」に掲載されていたのは、「Y駅発深夜バス」と「九人病」の2作。その他3作は書下ろしで、これらを1冊にまとめた本書が著者のデビュー作となる。

「Y駅発深夜バス」は面白いのだが、それを超える作品はなかったかなと。ただ、「Y駅発深夜バス」も部分的には、わかりやすいと感じられるところもある。完璧な作品というわけではないが、なかなかの佳作という感じ。

 その他の作品については、全体的に統一性がないためか、印象には残りにくい。全体的に本格ミステリっぽくできてはいるような気はするものの、それぞれが別ジャンルの作品というようにも捉えられる。「Y駅」は本格風のサスペンス。「ミッシング・リンク」と「特急富士」はサスペンス。「猫矢来」は青春小説。「九人病」はホラー。書下ろしが3本もあるのなら、もう少しジャンルの統一を図ったほうがよかったのではないかと。

 ちなみに「ミッシング・リンク」はアリバイ崩しであるのだが、自分でちゃんとタイムテーブルを書いていけば、きちんと真相が明らかになるように描かれているのには、なるほどと感嘆させられた。また、「猫矢来」もガール・ミーツ・ボーイという雰囲気で、それなりに伏線をはったミステリが描かれていて良かったので、こういった作品を集めてみても良かったのではなかろうか。


「Y駅発深夜バス」 果たして時間を間違えたのか? それとも存在しないダイヤのバスに乗ったというのか??
「猫矢来」 学校でいじめ(?)にあう女子高生、そして隣の住人(主婦?)は奇妙な行動をとり・・・・・・
「ミッシング・リング」 婚約指輪を盗んだ者は誰か? 皆のアリバイを調査した結果・・・・・・
「九人病」 ひなびた温泉で、村に伝わる奇病の話と奇怪な物語を聞き・・・・・・
「特急富士」 ある女を殺害しようと計画を練った男。さらに別の男が同じタイミングで同じ女の殺害を企てており・・・・・・


むかしむかしあるところに、死体がありました。   6.5点

2019年04月 双葉社 単行本
2021年09月 双葉社 双葉文庫

<内容>
 「一寸法師の不在証明」
 「花咲か死者伝言」
 「つるの倒叙がえし」
 「密室竜宮城」
 「絶海の鬼ヶ島」

<感想>
 単行本発売時、結構話題になって本屋に並んでいるのを何度も見かけた作品。とりあえず文庫になったら読んでみようかと思っていたものの、文庫化されていたこと知らず、つい最近になって購入して読むこととなった。

 ただ単に昔話をミステリ化した作品化と思いきや、それぞれの作品が工夫を凝らされたミステリとして展開されており、色々な意味で楽しめた作品。しかもそのどれもが一度は読んだことのある有名な昔話ばモチーフになっているゆえに、益々興味を惹かれることとなる。

「一寸法師の不在証明」は、“打ち出の小槌”を中心とする背景のなかでの、アリバイ崩しに目を引かれる。

「花咲か死者伝言」は、一応ダイイングメッセージものという気がするのだが、この作品集のなかではあまり見どころがなかったかなと。後味も悪いし。

「つるの倒叙がえし」は、もっとも工夫が凝らされた作品。どのように工夫が凝らされているかは読んでみてのお楽しみ。

「密室竜宮城」では、密室トリックが展開されている。ただ、重要な手掛かりが最後にならないと明らかにならないところはちょっと。伏線はしっかりと張られてはいるのだが。

「絶海の鬼ヶ島」は、“そして誰もいなくなった”もしくはサイコキラーによる連続殺人物のような様相を示す作品。意外性があって、これはこれで面白い内容といえよう。


とりあえずの殺人

2000年07月 光文社 カッパ・ノベルス
2003年12月 光文社 光文社文庫

<内容>
 一見、普通の家庭に見える早川家。しかしその家族は母親は大泥棒、長男は殺し屋、次男は弁護士、長女は詐欺師で末の三男は刑事であった。
 そんな奇妙な面々の早川家であったが、あるとき長男の克巳が“仕事”をしている現場を女子大生に目撃されてしまう。また長女の美香のインテリアデザインのオフィスにこの時期にしてはやけに羽振りの良い社長が愛人をつれてやってくる。そして早川家の面々はその社長の周辺で起こっている奇怪な事件へと巻き込まれていくことに。

<感想>
 早川家シリーズの「ひまつぶしの殺人」「やりすごしの殺人」を読んだのはいつのことだろうか。一時期、赤川氏の本をかったっぱしから読んでいたことがあった。最近はだいぶ遠のいていたのだが、この文庫の題名を見てもしやと思い内容を見てみたら、あの早川家のシリーズではないか。しばらくぶりに読んでみるのも悪くないと思って手にとってみた。

 ひさしぶりに読んでみたが、あいかわらず面白い。「ひまつぶしの殺人」に比べればクライム小説らしさは薄れてきて、ホームコメディの要素が強くなってきたように感じられる。しかし、いくつかの事件が起きて、並列に進行してゆき、それがやがて一つにまとまっていくという展開は相も変わらず見事である。ただ、おざなりになってしまった出来事もあったので、推理小説として完成度を高めるのであれば完全に話が一つにまとまってもらいたかったというようにも感じられた。

 何はともあれ読みやすく、面白い本であることは間違いない。もっとも赤川氏が書く本は皆そうなのだろうが。


虫とりのうた   

第41回メフィスト賞受賞作
2009年08月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 サラリーマンを辞め、作家を目指す赤井は妻と買い物へ出かけたとき、奇怪な現場に遭遇する。殺されると必死に訴える少女と、彼女の父親だといいはる男。赤井は少女のかたを持とうとするのだが、その場に居合わせた他の者たちや妻は少女を男へと引き渡そうとするのである。
 その後、あのときの少女が殺害されたというニュースが・・・・・・。その事件をきっかけに赤井は“虫とりのうた”にまつわる都市伝説へと家族ともども巻き込まれてゆくことに。

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<感想>
 そこそこ面白く読めたのだが、あくまでもミステリ作品としてではなく、ホラー作品として。赤井家にもたらされる恐怖がじわじわと忍び寄るように描かれており、その怖さ恐ろしさを堪能することのできる作品である。

 ただ、読み終わってふと思ったのは、都市伝説めいた話であったにもかかわらず、何故か主人公赤井の妻の実家である黒沼家のみに話が収束してしまうということがおかしく思えた。それならば、恐怖は黒沼家関連のみにとどまるべきのようにも思えるのだが、ここまで恐怖が連鎖し続けるのはどういうことなのだろう? 詳しく考えてみると、なんとなくバランスを欠いているようにも思えるのだが、それはそれで恐怖を冗長する一端となっているのかもしれない。

 また、表紙の折り返しに“作中で解明されていない秘密がある”ということが書かれているのだが、これが何なのかも気になるところ。読み終わったところで、考えてみても残された謎が何なのかわからない状況なので、考え付かなかったのだが、まだ何か秘密が隠されているのだろうか。それがわかったときには、細かい違和感が全てピタリと収まるということなのであろうか?


小説自殺マニュアル

2003年12月 太田出版 ノベルス

<内容>
 自殺を図る若者が目に見えて増えていた。その裏に見え隠れする「自殺マニュアル」と呼ばれるDVD。インターネットの自殺志願者たちの掲示板の中で、まるで救世主であるかのように活動する“リッキー”と名乗る人物。そしてそれらを調査しようと試みる者たちも、その闇からの触手にからめとられることに・・・・・・

<感想>
 序盤は都市伝説のような雰囲気の小説となっている。インターネットによる自殺幇助というのは、薬を売ったりなどと実際にあった事件であり、こういったものが噂として広がってもおかしくはない。また、自殺の方法が実写によって説明されるDVDというものにも妖しい魅力が存在する。“ありそうで、なさそう”という微妙なバランスがうまく表現されているのではないだろうか。これらはまさに都市伝説にはもってこいといった題材であるのかもしれない。

 そして物語が後半へ入っていくに従って、話は都市伝説からサイコ・サスペンスへと展開していく。サスペンスに対する感想としては「普通である」というほかないが、それでもそれなりにまとまったものとしてできあがっていると感じられた。

 前半の流れから都市伝説風にしてホラーへなだれ込むという手法もあったと思うが、そこをミステリーのほうへ傾けて綺麗にまとめたというところか。ただし、そのぶんインパクトにかけてしまったというようにもとれる。とはいうものの、“自殺”という扱いにくい(というより扱いに困るような)ものを主においての小説をここまで書ききったということを評価したい。


コンビニなしでは生きられない   6点

第56回メフィスト賞受賞作
2018年04月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 大学を中退した後、コンビニでアルバイトを続ける19歳の白秋。ある日、彼が働くコンビニに新人のアルバイトがやってきた。彼女の名は黒葉深咲。白秋は黒葉と気が合い、他の店員とも打ち解け、非常によい雰囲気のなか働いていたのだが、何故か彼女が来てからコンビニで妙な事件が頻発することに。店から出ていかない強盗、繰り返しレジに並ぶ客、売り場から消えた少女、そして・・・・・・

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<感想>
 たぶんコンビニで働いたことがあると思われる著者がそのときの経験を生かして書いた作品ではないだろうか。ただ、これを読んでみるとコンビニでの働きっぷりにはリアリティを感じ取れるものの、そこで起きる事件については、やや非現実的と思われるようなものばかり。なんとなくその辺のアンバランスさに微妙なものを感じてしまった。

 それでも、最後まで読んでみると実は最初から最後まで一つの考え抜かれた計画に基づくものであり、序盤で不明と思われた曖昧な点についても、最後にはしっかりと解決されることとなる。それにより、序盤で抱いた不信感のようなものは払しょくされ、なかなかうまく描かれた作品ではないかという意見に代わることとなった。

 ただ、あからさまな安っぽいラブコメみたいな作調については、最初から最後まで微妙な印象のままだったなと。あと、この作品を読んで、またはこの物語を経験した登場人物らが、コンビニって居心地のいい場所だと感じられるようには、決して思えないのだが・・・・・・


水晶島綺譚

2005年04月 朝日ソノラマ社 単行本

<内容>
 知多半島の沖合いの島、その名は“水晶島”。その島では未解決となったままの忌まわしい事件が過去に起きていた。16年前の深夜、島に放置された幽霊船の中で高校卒業のパーティーを行おうと集まった者たちの内8名が何者かに惨殺された。生き残ったものも多数いたのだが、わけのわからぬまま幽霊船から海へと投げ出され、誰も何が起きたのかよくわからないのというのだ。また8年前、島を荒らしまわっていた暴走族が突如何者かに襲われて、16名全員が惨殺されるという事件が起きた。この事件も原因不明であり、未解決のまま時だけが過ぎてゆく。どうも、その二つの事件の折、島に祭られた水晶球が消えており、何らかの関係があると噂されていたのだが・・・・・・
 そして現在、16年前に生き残った者達が同窓会のために再び島へと集うことに。それが新たな惨劇の幕開けとなる事も知らずに。

<感想>
 去年買ったものの積読にしてしまっていた本。購入するときは、もしや今年の話題作では!? と思ったのだが、年末のランキング等でもほとんど触れられることはなく終わってしまった。これはただの凡作だったかと思ったものの、実際に読んでみるとこれがなかなかおもしろかった。

 ただ、なんといってもこの本の分厚さは、一見さんにはとっつきにくいものがあるだろう。さらには私自身、この秋月達郎氏という作家のことは全く知らなかったし・・・・・・

 それで読んでみての感想はというと、最初に過去の事件が紹介されるのだが、凄まじいまでのスプラッターな描写に圧倒されてしまう。そして物語り自体は現代の視点で展開されて行き、一見のどかな雰囲気の島ながらも、そこに住まう人々の欲望むき出しの描写と行動には、かなり“濃い”ものを感じてしまう。

 このような描写の中で、16年前の事件と8年前の事件の様相が回想されながら、現代においても同様の事件が起きて行く。最初は、どのように考えてみても、超常的なものでしかないだろうと思っていたのだが、それが過去の軍による実験の歴史とからめられながら徐々に真実が明らかになっていく様はよくできていると感じられた。さらには、当然ながら超常的なものが介在しているとはいえ、ホラー小説ながらもきちんとした解明を付けている事には驚かされた。これはよくできたホラー小説だと言える作品である。

 しかしながら、全編通して欲望むき出しの描写で物語が繰り広げられていくので、好き嫌いははっきりわかれるであろう。また、そういう意味でも子ども向きの小説とはいいがたい。エログロのエッセンスがつまった、濃いホラー小説が読みたいという人は満足できるかも。


月長石の魔犬   5点

第20回メフィスト賞受賞作
2001年06月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 右眼にアクアマリンのような淡い水色、左眼にアメジストのような濃い紫色の瞳をもつ石細工屋店主・風桜青紫と、彼を慕う女子大生・鴇冬静流。先生に殺されたいと願う17歳の霧島悠璃。境界線を彷徨う人々と、頭部を切断され犬の首を縫い付けられた死体。

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<感想>
 どこかで見たかのような登場人物達が跳梁跋扈するドタバタ劇。なぜか妙な特徴のある主人公やらありきたりの取り巻きたちやらがわらわらと出てくる。それが作中なんらかの意味を持つのならともかく、キャラの設定だけで終わるような無用な特徴であれば、最近はやりのキャラ萌え路線か? とかんぐりたくなる。

 内容もあれこれ話が広がりすぎて、最後に無理やり収束させたという感もある。しかしそれでも書き方がしっかりしていて内容によっては良い物が書けるのでは? と期待させてくれる部分もある。なんとなく書き方がユーモア調には合わないような気がするので、硬派は刑事小説でも書けば合っているのではないかと、男の刑事が奔走している場面を読んで感じた。できれば、今回出てきたキャラクターはすべて捨てて、次作に取り掛かっていきたいと思うのだが、さてどうでしょう??


迷宮学事件   6点

2002年09月 講談社 講談社ノベルス密室本

<内容>
 迷宮と迷路は混同されがちだが、構造も、意味も全く別物である・・・・・・。高名な隻腕の建築家・東間真介は、自ら設計した、地上部分は左右対称、地下は迷宮構造の屋敷に住んでいた。そこで起きたおう殺事件。迷宮内の密室で、真介の遺骸は年齢退行をした赤子の姿で発見され・・・・・・

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<感想>
“迷宮”というもの“迷宮”という内容、それを書きたかったという著者の意図は十分に伝わってくる。しかし、これもまた密室本という形態には適していない。

 全編をとおして登場人物といい、内容といい、どこか森博嗣氏を意識しているのではないかと感じてしまう。そしてシリーズ化する気がないのなら、あまり登場人物は増やさないほうがいいだろう。妙な肉付けをすればするほど、異なる世界へと飛び出していってしまいそうな気がする。

 面白くないことはないし、内容もなかなか興味深い。ただ、それを書ききるのにどうしても作家としての力量が足りないように感じてしまう。キャラクターにこだわらないで、もっと単純に書ききったほうがよいのでは!?


紅玉の火蜥蜴   5点

2004年05月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 県警の警視・鴻薙の管轄にて連続放火事件が多発する。そしてその放火現場からは縛られた上で焼き殺された死体までもが発見される。鴻薙は「月狂の魔犬事件」のときに犯人逮捕に協力してもらった石細工屋・風桜や解剖医・嘉神らの助けを借りて犯人を捕まえようとするのだが・・・・・・

<感想>
 秋月氏の3作目であるが、本書を読むと最近の一部のメフィスト賞受賞者作品に見られる傾向にはまっていると感じられた。その傾向とは“確立しないジャンル”というものである。一応本書はミステリーという形態をとってはいるものの、それだけでは弱く売りにはならない。ではキャラクター性はどうかというと、インパクトが薄く中途半端にしか感じられない。それであれば、ライトノベルズ系のジャンルに入るのかといわれれば、作品中からはそういう意図は感じられない。

 こういった傾向の本は他のメフィスト賞作家にも見られるものとなっている。例えば、高里氏、霧舎氏、佐藤氏あたりがこの傾向にはまっているといえる。逆にその傾向を振り切って、ジャンルを確立したのが西尾氏。西尾氏のように極端に突出してしまえば、一つのジャンルとして成立することができる。

 本書の内容であるが、冒頭にて炎に執着を持つ人物の成り立ちが描かれている。そしてその後、その冒頭の人物を思わせるような登場人物が多数出てくる。その中で誰がいったい? ということになるようなのだが、ラストでの展開はなんだったのだろうと感じてしまった。その展開ではせっかく冒頭に物語の主となるべき人物を配したはずなのに、それが生かされないで終わってしまったように思える。それが一番、残念というか拍子抜けした点である。

 また、他にも無駄な登場人物とか、証拠が出揃っていないところで推理を並べたりと、とにかく無駄な部分が多いと感じられた。しかしそれでも全体的な印象はさほど悪くはないと思う。もうすこし絞った書き方をすればそれなりに面白い小説に仕上がる要素はあると思うので、冗長になってしまったことが残念である。

 またデビュー作「月長石の魔犬」(2001年6月出版)のシリーズとして同じキャラクターを出してくるにしては、前作から間が開きすぎていると思う。シリーズ物にするならば、もう少し畳み掛けるように出してもらいたかった。

 本書はミステリーであるともいえなくはないし、警察小説のようにも思え、単なるサスペンス小説というように位置付けることもできる。ただし、少なくとも本格推理小説という見方はできないと思う。しかし、一番の問題点は著者にはその気が無いのにライトノベルズ系の売られ方をしていることではないのだろうか。

 さて、これで秋月氏は講談社ノベルス3作目になるのだが、次回作はあるのだろうか?


消えた探偵   6点

2006年02月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 特殊な問題のある者達ばかりが院長の趣味によって集められた診療所。そこに入院しているスティーブンはある日、何者かに3階の窓から突き落とされる。その際、彼は確かに殺人事件を目撃したはずだったのに、診療所内ではなんら事件が起こった気配はなかったというのだ。スティーブンはそれぞれ癖のある他の入院患者たちから話を聞いて、診療所内で何が起きているのかを探ろうとする。ただし、スティーブンも他の者に負けず劣らず奇怪な症状を持ち合わせているために・・・・・・

<感想>
 秋月氏の本は前の3作品まで全部読んでいるのだが、正直言って3作目を読んだときは、これ以降はもう読まなくてもいいやと思っていた。それが今回、本屋で書影を見て、帯の紹介文を読んで、つい買ってしまった。そして読んでみたのだが、これがなかなか面白く読むことができた。

 今回の作品は強烈に面白いというほどのものではないにしろ、今までの秋月氏の作品を一掃するかのような作風であり、新本格ミステリ作家として生まれ変わったようにさえ感じられる。失礼な話、これがデビュー作であったらなぁと、思わずにはいられない。

 本書の内容はある種SF的でもあり、主人公がある条件により、現実の世界とは少しだけ異なる異世界へ飛んでしまったというところから始まる。ただし、その異世界というのは主人公のみにしか感じられるものではなく、他の人(もしくは読者)から見ると虚構のように思えてしまう。そういった不安定な状況のなか物語が進められてゆく。

 と、ひどくあいまいな中で物語が進められ、事件自体もあいまいで、登場人物の紹介でページの半分がとられてしまうという、かなりバランスの悪い作品である。ただ、そういった中にあっても、読んでいる者を惹きつける何かがあり、先へと読み進ませる力があるというのも確かなのである。そして、そのあいまいな中で進められながら到達する真相は、なかなか綺麗にまとめあげているとさえ感じさせられるものであった。

 というように、褒めているのかけなしているのかわからないような感想になってしまったが、秋月氏の次の作品が出たら買ってみようと思わせるような期待感を持たせられたのは事実である。今までの秋月氏の本が肌に合わなくて、今回は手に取るのをやめようと思った人にはぜひとも読んでもらいたい作品である。


もろこし銀侠伝   5点

2007年08月 東京創元社 ミステリ・フロンティア

<内容>
 「殺三狼」
 「北斗南斗」
 「雷公撃」
 「悪銭滅身」

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<感想>
 中国を舞台に、水滸伝などに登場したキャラクターらが活躍するミステリ作品集・・・なのであるが、なんかバランスの悪い作品集であったなというのが一番の感想。

 一応、連作短編のような形式になってはいるものの、そうするのであれば主人公や主要登場人物を固定したほうがよかったのではないかと思われる。この作品のなかだけで、ずいぶんと時代が移り変わっているようであるが、それを一冊の作品のなかでする必要があったかどうかは疑問に思えるところ。

 また、数多くの主要人物が格闘技の達人(というよりは仙人の域に達している)であるのだが、そういった人々が普通にちまちまと推理を行うというのも理解しがたい。普通ではない人を登場させるのであれば、もっと活劇風な見せ場を作ってもらいたかった。

 さらには、最初の三作品はどれも40ページ程度の作品となっているのだが、最後の作品だけ100ページを超える作品になっている。ただ、その割には最後の作品もボリュームとしては他の三作と変わりないために、やけに間延びのした内容になってしまっている。

 というわけで、なんか粗ばかりがめだった作品集という印象であった。ただし、「雷公撃」という作品のなかのトリックはなかなかバカミスしてて面白いと思ったりと、個々の作品自体はそれほど悪くないと思われる。少なくとも連作形式にするのであれば、それなりの工夫をしてもらいたかった。




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