あ行 お  作品別 内容・感想

配達あかずきん   6点

2006年05月 東京創元社 ミステリ・フロンティア

<内容>
 どこにでもある普通の本屋“成風堂”。その書店員・杏子とアルバイト店員・多絵のコンビが本屋で起こる日常の謎に挑戦するミステリ作品集。
 「パンダは囁く」
 「標野にて 君が袖振る」
 「配達あかずきん」
 「六冊目のメッセージ」
 「ディスプレイ・リプレイ」

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<感想>
 これはなかなか面白く読めた本。新機軸というわけではないのだが、日常の謎系というジャンルの中で本屋を舞台にしての事件を描いた作品となっている。

 ただ、わがままな感想を言わせてもらえば、一編目の「パンダは囁く」の出来がかなりよかったので、それ以降が尻つぼみになってしまったように感じられた・・・・・・といってしまうのは厳しい意見か。あと、主人公のふたりが平凡な人物のため、主人公だけでなく、他の登場人物とも区別をつけづらいというのが難点。気になったのはそのくらいで、日常の謎系ミステリとしてはよくできている作品集であると思える。

「パンダは囁く」
 これは特にうまくできている作品だと感じられた。暗号がいかにも本屋ならではというものであるし、その暗号に秘められた事件もうまく解決がなされている。最初の作品として配置するにはもったいなかったかもしれない作品。個人的な話であるが“パンダ出版社”と言われれば、あれだと気づくべきであったのに・・・・・・

「標野にて 君が袖振る」
 前の作品がうまくできすぎていたために何となくかすんでしまったように思える作品。話としてはよくできているとは思えるものの、人が失踪して本屋に尋ねてくるものなのかというのが大きな疑問。ちょっと本屋があつかうミステリーとはかけ離れていたような。

「配達あかずきん」
 これもちょっと本屋があつかう事件から離れていたと感じられる。本屋の外の登場人物を出してくるより、もう少し本屋の中の登場人物像の設定に力を入れたほうがいいと思えたのだが。

「六冊目のメッセージ」
 これは一編目に続いてよくできている本屋ならではの物語。ミステリーとしてよりも、本を薦めるということに感じ入ってしまった。私自身、こういうHPにて本を紹介しているのだが、その人に合った本をうまく薦めることができるかというと、ミステリーくらいしか読まない私にはまず無理である。この作品に出てくる人のような心配りができればなと思わずにはいられない。

「ディスプレイ・リプレイ」  最近よく聞く盗作問題を取り上げたかのようなミステリー。とはいえ、その解決は一般的な盗作問題とはかけ離れている。作品の内容よりも、本の盗作問題について色々と考えさせられてしまった作品。


晩夏に捧ぐ 成風堂書店事件メモ(出張編)   6点

2006年09月 東京創元社 ミステリ・フロンティア

<内容>
 書店・成風堂で働く杏子の元に、かつての同僚で今は故郷に帰り、そこで書店員をしている美保から手紙が届いた。手紙によると、美保が働く老舗の本屋・まるう堂に幽霊が出没し騒ぎになっているのだと。その幽霊の謎を杏子の同僚で、書店で起きた数々の事件を解決してきた多絵に解き明かしてもらいたいというのだ。杏子は渋々ながらも、休暇を利用して多絵をつれて信州へと向かうのであったが・・・・・・

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<感想>
 書店シリーズの第2弾となる作品であり、今回は長編・・・・・・ということなのだが、このシリーズは短編のほうがしっくりくると思われる。では、この作品自体の出来があまりよくないのかといえばそういうわけではない。

 本書は書店で起きた幽霊騒ぎを元に過去の事件の真相に迫るという内容。ここで起こる事件自体と最終的に解き明かされる解決は、序盤では予想だにしなかったほどに濃いミステリとなっている。ただ、であるからこそ、この事件は一介の書店員が解き明かすような事件ではなかったと感じられるのだ。

 今回、杏子と多絵が解き明かす事になる事件は殺人事件なども関わっており、それなりに重いものとなっている。一応、捜査に対し周囲は協力してくれるとはいえ、そこは一介の書店員ゆえに、昔の事件について根掘り葉掘り聞けるというわけでもないし、あくまでも彼女達が解き明かす事を依頼されたのは幽霊に関してである。

 そういった点を差し引いても、最終的な解決はうまい具合に到ったといえないこともないのだが、ただ、やはり捜査の過程の部分が物足りなく感じられたのも事実である。ほんとうであれば、本書で語られた事件に対しては、書店員が主人公ではなく、別の探偵を用意して事件を解決させれば、よりいっそう密度の濃いミステリに仕上がったのではないかと思われるのだ。

 と、そんなわけで少々残念な感じがする内容であった。とはいえ、そういう印象をさっぴけば、充分良い内容の作品であったといえるので、前作を読んで気に入ったという人は是非とも本書も読んでもらいたいものである。


サイン会はいかが? 成風堂書店事件メモ   6点

2007年04月 東京創元社 ミステリ・フロンティア

<内容>
 「取り寄せトラップ」
 「君と語る永遠」
 「バイト金森君の告白」
 「サイン会はいかが?」
 「ヤギさんの忘れもの」

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<感想>
 これがシリーズ第3作目となる作品であるが、前作の長編よりも、やはりこのような短編形式のほうがシリーズとしてはしっくりくるような感じがする。

 正直なところ、ミステリとしては強く印象に残るというようなずば抜けた作品は特になかった。しかし、このシリーズではそういう大きなことは狙わずに、本屋さんの日常の中で起こるちょっと変わった事件というものを描き続けてくれれば良いのではないかと思っている。本屋で働く人にとっては共感できるような、本屋に勤めたことのない人には、こういう苦労もあるんだなぁと思わせるような、そのような書き方で充分であろう。

 よって、今回の作品のなかでも、本屋に興味を示し出した本屋嫌いの少年を描いた「君と語る永遠」やバイト青年の恋の苦悩を描いた「バイト金森君の告白」のような素朴なものがシリーズ作品として、ぴったりとあてはまっていると感じられた。

 このくらいのゆるさで、このぐらいのペースで今後も書き続けてもらいたいシリーズである。


平台がおまちかね   

2008年06月 東京創元社 創元クライム・クラブ

<内容>
 「平台がおまちかね」
 「マドンナの憂鬱な棚」
 「贈呈式で会いましょう」
 「絵本の神さま」
 「ときめきのポップスター」

<感想>
 大崎氏、待望の新刊は今までの成風堂書店シリーズではなく、出版社の営業の新人にスポットを当てた作品となっている。

 確かにそういえば、大きな書店にいると店員さんと話をしているスーツ姿の男性の姿を見かける事がままある。なんとなく本の営業の人らしいということはわかっていたのだが、実際にはこんな仕事を行っていたのか! ・・・・・・ということがよくわかるようになっている作品である。

 この作品でも本屋業界、出版業界の知られざる部分を垣間見える事ができたのは、実にためになった。本好きの人間であれば誰もが興味深く見る事ができるであろう。

 あと、付け加えておくと、本書も当然のことながらミステリ作品集とはなっているものの、そのミステリに関しては弱いといえよう。基本的には、本屋、出版社の知られざる業務に関して楽しんで読む事ができる作品というところであろう。とはいえ、続編が出れば迷うことなく買ってしまいそうではあるが。

 それと本書のなかの「ときめきのポップスター」で営業の人たちによる“ポップ”によるコンテストが行われているのだが、これはなんとも楽しそう。正直なところ、本屋へよく本を買いに行くことはあるものの、“本を買う”という以外では本屋とのつながりというものは何もないなと、ふと気づかされる。このように間接的にでもいいから、客として参加できるようなイベントがあると、楽しむ事ができるかもしれない。


影踏亭の怪談   7点

2021年08月 東京創元社 単行本

<内容>
 「影踏亭の怪談」
 「朧トンネルの怪談」
 「ドロドロ坂の怪談」
 「冷凍メロンの怪談」

<感想>
 今年、鮎川哲也賞受賞作が“なし”となったため、物足りなく感じている人がいるのではと思われるが、そんな人は是非ともこの作品集を読んでもらいたい。心の隙間を埋められること間違いなしであろう。ちなみに、ここに掲載されている短編「影踏亭の怪談」は、第17回ミステリーズ!新人賞を受賞している(その他の作品は全て書下ろし)。

 本書は現実に起きた事件と、怪談作家・呻木叫子が調査した怪談に関するまとめとが、交互に展開される流れとなっている。それぞれの短編で扱われる怪談スポットにて、どのような怪談が語られているのか。そして、現実に起きた事件と怪談がどのような関係性を持つかを考えるような構成となっている。そうしているうちに、実は超自然的な現象と思われたものが、人為的に行われたものではないかと、紐解かれてゆくこととなるのである。

 そんなわけで、本書はホラー・ミステリ作品として堪能できる内容となっている。超自然的な部分もあるのだが、そこにカモフラージュするかの如く人為的に行われているものが隠されているのである。ゆえに、結構ガチガチの本格ミステリ的な小説としても読むことができるものとなっている。

 ひとつひとつの短編としても、なかなかよくできていると思われつつ、最後の「冷凍メロンの怪談」により、作品集全体で明らかになる全体的な構図も語られることとなり、それもまたよくできていると感心させられた。そんなわけで、最初から最後まで堪能させられたホラー・ミステリ作品集であった。地味に本屋に並べられているゆえに、気づかずに見過ごす人もいると思われるので、是非とも探し出して読んでもらいたい作品である。今年一番の隠し玉と言えるかもしれない。


「影踏亭の怪談」
 姉である怪談作家が家で両瞼を自分の髪の毛で縫い合わされ、昏倒していた事件。姉は直前まで影踏亭の怪談について調べていたらしい。そこには謎めいた客室があり、深夜の決まった時間に携帯に着信が届くのだという・・・・・・
「朧トンネルの怪談」
 4人の大学生が心霊スポットであるトンネルへと肝試しに行くことに。そこで気分が悪くなった女学生を車に残し、3人はトンネルの中を調べていく。すると、車に残っていたはずの女学生が行方不明となり・・・・・・
「ドロドロ坂の怪談」
 怪談作家の呻木叫子は、学生時代の友人から助けを求められる。彼女の息子が行方不明になったと。彼女が住んでいた場所は、ドロドロ坂と呼ばれ、お化けが出ると噂される場所であった。久々に呻木はその場所に立ち、事件を探ることに。すると、殺人事件に遭遇することとなり・・・・・・
「冷凍メロンの怪談」
 呻木叫子の頭に冷凍メロンがぶつかり、重傷を負う。当時、呻木が調べていた怪談は、その冷凍メロンが降ってきて、不特定多数の人間が死に至らしめられているというものであり・・・・・・


赤虫村の怪談   6.5点

2022年08月 東京創元社 単行本

<内容>
 怪談作家・呻木叫子は、とある書簡をきっかけに愛媛県にある赤虫村を調べることに。そこには、他では聞かないような“位高坊主”、“九頭火”、“蓮太”、“無有”といった怪談話を昔から現代にいたるまで聞くことができたのだ。そんな村で、村の名家である中須磨家を襲う怪事件が起きる。しかもそれらは、村に伝わる妖怪たちが引き起こしたような事件の状況となっており・・・・・・

<感想>
「影踏亭の怪談」に続く、大島清昭氏の2作目の作品。思っていたよりも早く出してくれたなという感じ。今作は長編である。

 怪談と本格ミステリが交わる作風は相変わらず。今作もやや怪談よりの雰囲気のミステリを展開させてくれている。一見、怪談話のみで終わりそうな作品であるが、ちゃんと現実的な事象として納められる部分も残している。

 本書において、意識してやっているのだろうと思いつつも、違和感を感じ取れたのは、“苦取”とか“印増”とかの名称。あからさまにクトゥルフ神話から取った名称。何故、このような名称にしたのかと思いきや、それらが本作全体にまつわる怪談の根底にかかわる出来事として書き表されている。最後まで読んでみればなるほどと。

 今作に関しては、前作ほどの驚きはなかったかなという感じ。怪談に関する部分はうまく描けていると思われるが、事件については解決がやや地味であったかなと。ただ、このような作風の作品を書く人は少ないので、是非とも今後とも書き続けてもらいたいものである。近年における注目作家のひとり。


地羊鬼の孤独   6点

2022年11月 光文社 単行本

<内容>
 栃木県警椰子尾警察署に所属する八木沢刑事は、小学校に置かれた棺の中に損壊した遺体が詰められていたという事件の捜査員の一員となる。棺に“地羊鬼”と書かれていたことから、オカルト関連の事件に詳しいとされる本部の林原警部補と組むことに。林原は日ごろ、オカルトについて詳しい船井仲丸から助言を受け、捜査の役に立てているという。そんな彼らと組むこととなった八木沢は、次々と見つかる棺、そしてそれら被害者に関わる密室事件、さらには過去に起きた連続児童誘拐殺害事件について紐解いてゆくこととなり・・・・・・

<感想>
 大島氏の3作品目。今までは東京創元社から出ていたが、今作は光文社から。今作も前2作と同様のホラー系ミステリとなっているが、今回はどちらかといえば、警察小説よりになっているという感じ。

 内容は結構豪華な感じになっている。というのは、連続死体損壊殺人事件の行方を追うのみならず、別の3つの密室殺人事件を追い、それらを解決しつつ、過去に起きた連続児童誘拐殺害事件にまで言及するというものになっている。それぞれの密室殺人事件を、いとも簡単にさらりと解き明かしているところなど、ミステリ小説としてはかなり大胆な感じと思われる。

 全体的によい作品と思えたのだが、後味の悪さが非常に気になった。ホラー系ミステリゆえに、こういった作風というのはありだと思えるものの、それでもやたらと後味が悪い。それゆえに、なんとなく心情的に受け入れられない部分があったかなと。


最恐の幽霊屋敷   

2023年07月 角川書店 単行本

<内容>
 度々の不審死を繰り返す賃貸物件。その不審さを売りに出して、賃貸契約が続けられているのだが、借り手はあとをたたないという状況。そして、不審死はさらに続いてゆく。探偵の獏田は、その賃貸物件に隠された秘密を調べてもらいたいと依頼されるのであったが・・・・・・

<感想>
 大島氏によるホラーとミステリが融合した作品・・・・・・と言いたいところだが、今作はかなりホラーよりであると思われる。というか、ホラーとして語られるべき作品であって、ミステリ要素は蛇足のようにも思われた。

 この作中でも言及されているのであるが、ホラー的な内容をそのまま語っても、どこかで聞いたことのある話くらいに留まってしまうようである。ゆえに、ホラー小説というもの自体も語り口、そして切り口を色々と変えていかなければならないということなのであろう。この作品を通して、なんとなくではあるが、そういったホラー作品の書き手の悩ましいところが透けて見えたような気がする。

 確かにこの作品のなかでも、数々のホラーエピソードが語られているものの、普通に語ってしまえば、よくある話とか、どこかで聞いた話という形に収まってしまいそう。ゆえに、この作品のように少し切り口を変えて語ってゆかなければならないということなのであろう。ただ、それでも本書に関しては、ホラー的な要素が強すぎて、最後にミステリ的な要素を持ってきても、そのホラー的な部分を覆すことができず、融合した作品という感じには思えなかった。ホラーとミステリのバランスの塩梅を考えて作品を作るというのも難しそうな話である。


黄金蝶ひとり   6点

2004年01月 講談社 ミステリーランド

<内容>
 小学5年の夏休み、洸は両親が行く海外旅行の同行を断ったため、祖父の住む田舎ですごす事となった。しかし、洸はその祖父とまだ一度もあったことがなかった。
 田舎にて祖父と暮らすことになった洸は祖父が少々変わってはいるものの、何でも知っていて、村の人から尊敬されていることを知る。そして洸が田舎の暮らしになじみ始めたころ、観光開発と称して村の中に入ってきた悪徳業者とのいさかいに巻き込まれていくことになる。村にはどうやら秘められた宝があるらしいのだが・・・・・・

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<感想>
 この作品はかなりジュブナイルよりの作品になっているといえよう。どちらかといえば子供向けである。しかし、大人が子供に読んで聞かせる本としては最良のものではないだろうか。安心してお薦めできる本である。

 本書はミステリーというよりは冒険物といった内容。都会の小学生が頑固だけど物知りの祖父を通して自然のすばらしさに触れていく作品である。少年が自然に触れながら徐々にたくましくなっていく様相は読んでいて心地のよいものである。ただ、祖父との邂逅の描写が少なかったのが残念であった。

 あと、おまけのような感じでミステリーの要素も付け加えてあるのだが、それらもなかなか微笑ましいものとなっている。これは十分楽しませてくれた本であった。


月 読   6点

2005年01月 文藝春秋 本格ミステリ・マスターズ

<内容>
 この世界では人が死ぬとき、その場所に“月導”という死者のメッセージを残すことがあるという。そしてその“月導”を読むことができるもののことを“月読”と呼ぶ。
 従妹が連続婦女暴行魔に殺された刑事の河井は単独でその犯人を捕まえようと行動する。そんなとき、彼は“月読”である朔夜一心という青年と出会う。河井は“月読”の能力を使って、自分の捜査の手助けをしてもらう代わりに、朔夜が調べているという彼の過去を探る手伝いをすることに。
 また同じころ高校生の絹来克己は香坂家の少女・炯子を巡る事件に巻き込まれていくことに。

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<感想>
 太田氏の本は最近ではミステリーランドから出た本を読んだきり。そんなわけで久々に太田氏のミステリー本を読んだことになるのだが、これがなかなか面白く読むことができた。

 本書の特長はなんといってもその舞台設定が変わっていることで、通常の世界ではありえない“月標”というものが存在する世界を描いている。その“月標”とは、人が死んだときに残る、なんらかの痕跡であり、その“月標”を読むことができる“月読”という人物が存在するという設定の中でミステリーを描いている(とはいうものの、本書ではあまりその設定を生かしきれているとは言い難い)。

 この作品において一番よくできていると思えたのはストーリーのできである。刑事が追う連続婦女暴行事件と少年が巻き込まれた“香坂炯子”を囲む人間関係とそれに起因したかのように起こる事件。この2つの関係のなさそうな事件が20年前の過去に起きた出来事と関連し、それぞれの事象がつなぎ合わされるように謎が解かれてゆく。このストーリー展開はなかなかのものであると感心してしまった。

 ただ、本書はこのストーリー展開を主軸としたサスペンス型のミステリーということで十分に思えたのだが、なぜか後半では本格ミステリーを無理に意識したような展開が挿入されている。これは効果的とは言い難いように思え、読むほうとしては混乱させられるだけであるように思える。これは“本格ミステリ・マスターズ”という銘を意識しすぎたという事なのだろうか?

 また、本書は大人向けのサスペンス・ミステリーとして語られている内容だと思えるのだが、なぜかそこここに挿入されている青臭さがうかがえる描写はアンバランスだと感じられた。


木島日記

2000年07月 角川書店
2003年03月 角川書店 角川文庫

<内容>
 昭和初期。オカルト、猟奇事件、ナショナリズムが吹き荒れる東京。歌人にして民俗学者の折口信夫は偶然に、しかし魅入られるように古書店「八坂堂」に迷い込む。奇怪な仮面で素顔を隠した主人は木島平八郎と名乗り、信じられないような自らの素性を語り出した。以来、折口の周りには奇妙な人、出来事が憑き物のように集まり始める。ロンギヌスの槍、未来予測計算機、偽天皇、記憶する水、ユダヤ人満州移住計画。昭和の闇を跋扈するあってはならない物語。

<感想>
 ここ数年、ミステリにおいても民俗学をとりあげるのが一つのブームとなってきているように思える。この作品はそのうちの初期の段階での火付け役の一つといえよう。この作品は小説となる前に漫画にてとりあげられ、そして小説化となったものであるから世に出たのは結構早い時期であったはず。私も一度漫画にて読み、この度の文庫化を機会にまた取り上げてみた次第である。

 こういった学問のブームというのはしばし見られる現象ではないだろうか。一時は“心理学”というのがはやった時期があったような気がする。学生の志望学部というものにおいて、心理学関係の道へ進みたいというのがブームになった時期があったはずである。今現在、この民俗学が学生におけるブームになっているかはわからないのだが、ミステリを含めた小説においてはそれなりのブームになっているのではないだろうか。京極夏彦氏あたりを発端とし、最近読んだ中でも北森鴻氏、物集高音氏などが民俗学ミステリというものをとりあげている。

 大塚氏の作品においては特にミステリとしてとりあげているという意志はないだろうと思うのだが、それにともなう神秘性、秘匿性というものが常についてまわるのでどうしてもミステリというように一緒くたにしてしまいたくなる。正確にジャンル分けをしようと思えば、これは伝奇ということになるのだろうか。

 この作品の魅了される所は昭和における暗黒面を前面に押し出して書かれている部分であろう。全体的にまとう雰囲気というものが非常に禍々しい。話のなかには事象として捕らえると胡散臭く感じられる面(別に著者が事実だとして紹介しているわけではないのだが)もあるのだが、それが昭和の暗黒というベールをまとうことにより、しっくり合った世界観へと変貌してしまう。この他の人たちが立ち入ろうとはしない世界(もしくは世界観)にずかずかと足音を踏み鳴らしながら飛び込んでいく物語には興味を惹かれずにはいられないのである。


木島日記 乞丐相

2001年11月 角川書店 単行本
2004年03月 角川書店 角川文庫

<内容>
「砂けぶり」
  地方で起きた大量殺人事件。しかし、そんな事件が以前にも起こっていたのだった。“人食い”による殺戮事件が。
「翁の發生」
 “御贖(みあがもの)”。それは身についた災いを代わりに負わせる人形の事。人形ではなく、そういう役目を持った人間が存在するというのだが。
「乞丐相」
  折口は自分と同じ“あざ”のある子供を拾ってしまう。その子供はどこから来たのだろうか?“迷い子のしるべ”が意味するものとは!?

<感想>
 事実と虚実が混ざり合った奇怪な物語の続編。今作もなかなか楽しませてくれる内容であった。

 本書の魅力といえる部分は、タブーともいうべき事柄を開けっぴろげに語っていることではないだろうか。しかも、それが現代ではなく、規制著しい昭和の時代を背景としているのだから、なおさらのことのようにも感じられる。もしくは時代背景として、戦争に突入する前は日本の文化は実は開けっぴろげなところがあったということを示唆しているのかもしれない。とはいうものの、タブーを語るに当たっては本書の中でも非常識人を配置して、彼らに語らせているという手法をとっているので、いくら昔でも何から何まで開けっぴろげであったというわけではなかったのだろうが。

 今作では昭和の大殺戮事件やら、神隠しやら、持衰などの昭和の闇に埋もれた事柄のそのまた裏が描かれている(といっても当然の事ながらフィクションであるが)。今回は前作に比べて木島の登場が少なく感じられた。なんとなく物語全体がマッドサイエンティストの土玉や安江大佐らの非常識人に喰われつつあるような気がする。

 なにはともあれ、今後も密かに続いてもらいたいシリーズである。


異進化猟域バグズ   5点

2005年05月 光文社 カッパ・ノベルス(KAPPA-ONE 登竜門 第4弾)

<内容>
 リョウは“バグズ”という特殊な能力を持つ人間であり、ジャンク屋で働きながら、妹の復讐のために“蒼い右眼の男”を追っていた。製薬会社で起きた不可解な事件の裏に“蒼い右眼の男”の存在をかぎつけたリョウは、ひとり事件の裏を調べ始める。そんなリョウに“バグス”らによって結成されたビーハイヴという秘密機関が接触してきたのであったが・・・・・・

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<感想>
 内容はアクション伝奇小説である。最初は近未来SFかとも思ったが、超能力者が出てくるアクション伝奇小説と言ったほうが相応しいであろう。

 で、その内容はというと、普通というくらいしか言葉が思い浮かばない。“バグス”という超能力を持つ“ビーハイヴ”という集団を作り出したところはよかったが、その肝心な超能力があいまいすぎるように思える。特に主人公の能力が話の進行にさほど役に立っていないようであり、そのせいもあってか普通の人間が事件の中に巻き込まれているようにしか思えなかった。そして、他の人物設定や能力にも中途半端と感じられた。

 また、事件の進行についても“ビーハイヴ”という特殊組織がありながら何を知っていて何を知らないのかという事がさっぱりわからなかった。事件の真相が見えてきたときには、このような内容であれば、最初から特殊組織が事件の背景を全部知っていなければおかしいのではないだろうかと思われたのだが。

 と、あれこれ欠点を探せばきりがないのだが、そんなことよりもそういった欠点を吹き飛ばしてしまうような何かが一つでもあれば良かったと思うのだが、そういう強烈に感じるものが見受けられなかったのが残念なところである。


首挽村の殺人   6点

第27回横溝正史ミステリ大賞:大賞受賞作
2007年06月 角川書店 単行本

<内容>
 岩手県の山奥の村に医師である滝本が赴任してきた。彼がこの地に赴任してきたのは、同じ医師で友人であった杉がこの地で医者として生活していたのだが、不慮の事故により亡くなってしまうという事件が起きたからである。その事故に不審なものを抱き、滝本は医師としての仕事をするかたわら、杉の事件を探り始める。すると、滝本が村に赴任してきてからすぐに、村では熊があちこちで目撃されるという事件が起き、さらには人の手による連続殺人事件までが・・・・・・

<感想>
 本書は横溝正史賞らしい作品であり、新人とは思えぬ筆致で丹精に描かれたミステリ作品といえよう。いや、これは新人の作品にしては、かなりうまく書かれた作品ではないかと思われる。

 ただ、個人的には色々な面で気になるところがあって、横溝正史風ミステリとは(著者は別にそういうものを狙ったわけではないのかもしれないが)少々かけはなれた作品だと思われた。

 ひとつには、岩手の豪雪地帯で行われる連続殺人事件という割には、村のなかだけでなく、よそからの介在が多すぎるように思われた。また、実際に真相も村の内部だけに納まる話としては収束されていない。せっかく、このような舞台をあつらえたのならば、その中だけで話を創ってしまったほうがよかったのではないだろうか。

 また、殺人事件と村を襲う熊の話が同時進行になっているのだが、あまりにも両者がかみ合っていないように思えた。せっかくの人食い熊を登場させたのだから、もう少し事件に生かしたほうが良かったのではないかと思われる。

 というように、どうも離れ里で起きた事件というもの自体が生かせていないような気がして、そこが不満に感じられた。作者による、あえて村の中に収めずに読者の想像し得ないところまで謎を広げておきたいという気持ちはわからないでもないのだが、個人的にはその広げ方が微妙だと思えた。

 まぁ、これだけの作品が書けるのだから、面白い題材があればミステリに限らず良い作品を書いてくれるだろうことは間違いないであろう。今後の活躍に期待。


死墓島の殺人   5.5点

2008年08月 角川書店 単行本
2010年09月 角川書店 角川文庫

<内容>
 岩手県沖の漁業を営む小さな島で殺人事件が起こった。殺されたのは島長で、断崖からつるされるという異様な状態で発見された。警察の捜査をあざわらうかのように、次々と起こる殺人事件。この小さな島でいったい何が起きているというのか。北上から釜石署へと異動してきた藤田警部補が事件の謎に挑む。

<感想>
 現代に起こる事件を横溝正史風に描くという試みなのであろうが、どうも閉塞的な島の状況と現代的な部分がミスマッチに感じられてしまう。現代的な部分が表に出てしまうと、どうしても孤島とか村の風習とか不気味な部分が薄れてしまい、単なる2時間ドラマっぽい内容に見えてしまうのである。

 また、村の語り継がれる禁忌を書き表したいのか、はたまた現代における老人社会という問題を取り上げたいのか、さまざまな要素が中途半端に取り入れられているため、何を強調したいのかがわかりにくくなっている。視点が多視点となっている部分もそうであるが、もっとピントを据えた物語にしてもらいたいところである。

 やはり横溝正史風の内容を現代にもってくるというのは難しいところか。昔の風習が漂う孤島の連続殺人という雰囲気を出すのであれば、昭和初期という設定の方が表しやすいのかもしれない。


プランタンの優雅な退屈   5.5点

2015年04月 原書房 単行本

<内容>
 潤沢な資源のおかげで国民の全てが平和で穏やかに過ごす“退屈王国”。そうしたなか、国王は未来を見据え、新エネルギー政策に打って出ることを決める。その発表が行われようと各国の要人が集まりつつある日、城のなかで密室殺人事件が起きる。閉ざされた部屋のなかで警備兵が殺害され、衣装戸棚のなかにはメイドのひとりが閉じ込められていた。不可解な状況のなかで行われた事件。好奇心旺盛の王女プランタンは自ら事件解決に乗り出そうとするのであったが・・・・・・

<感想>
 架空の王国で起きた殺人事件。謎を解くのは、王国で人気者の王女様。渋々付き従う美少年SPを連れて、事件捜査に乗り出す。

 ライト系かつ、コメディチックで楽しめる作品。全体的にライトな内容かと思いきや、エネルギー政策とか、新エネルギーの理論などは、結構真面目に描かれている。事件の捜査に関する描写が一番不真面目だったかのような。

 事件として密室殺人事件をクローズアップし、その解き明かしに力を入れている作品・・・・・・と思えたのだが、ラストでは、そこがやけにあっさり目で、アクション的な部分や背景の部分のほうが強められてしまったように思える。悪くない作品だと思ったのだが、どこに力を入れて、最初から最後まで通すかという部分がちぐはぐであったような気がする。密室殺人事件に力を入れるのであれば、最後までそこを強調すべきだったであろう。

 悪くないミステリ作品であると思えるのだが、強調部分がはっきりしないのが微妙なところか。王女のみを中心と書くのか、キャラクター小説とするのか、ミステリ要素を強めとするのか。方向性が定めて新たな作品に取り組んでくれることを期待したい。


夏を取り戻す   6点

2018年09月 東京創元社 ミステリ・フロンティア

<内容>
 S県城野原市のとある街では、団地に住む住人たちと、その他の住人たちの間で対立が起き、その影響が学校に通う子供たちにも影響を及ぼしていた。そうしたなか、団地に住む小学生の連続失踪事件が起こる。失踪した小学生は、数日で姿を現すのであったが、誰に、どのようにして、どこへ連れ去られたのかは謎のままであるという。雑誌“月刊ウラガワ”の編集部はこの事件を追うことに。フリー記者の佐々木と新人編集者の猿渡が現地へ調査に向かうのであったが・・・・・・

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<感想>
 物語の冒頭を読むと、最初は子供向けのミステリのように思えたのだが、物語が進行していくと、決して子供向けの小説にとどまらないというような感触を得ていくこととなった。

 謎は色々ともたらされる。最初は、次々と起こる子供の失踪の謎に、フリーの記者と雑誌編集者が挑むこととなる。失踪事件と、それにまつわる新たなる失踪方法の謎が、次々と提示されていることとなるのだが、事件を通していくうちに、その事件の背景が徐々に明るみに出るように描かれている。街の中で起きている住民間の対立、キャンプで起きた放火事件、それぞれの子供たちの想い、さらには思いもよらぬ秘めたる事実等々。

 この作品を読んでいくと徐々に、子供たちが大人たちへ伝えたいメッセージが秘められているように感じられた。ただ、子どもとか大人とか、決してどちらかが主題というわけではなく、広い世代に語り掛けるような内容の作品とも言えるので、年齢問わず広くお薦めできる内容の作品であると思われる。読む人によって、新たな冒険心を掻き立てられたり、もしくはノスタルジーを感じたりと、さまざまな感想を抱くことができるであろう。


少女は踊る暗い腹の中踊る   5点

第34回メフィスト賞受賞作
2006年06月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 北原結平は親から継いだコインランドリーの管理の仕事をしながら生計をたてている19歳。彼が住む岡山市では連続乳児誘拐事件起き、世間を騒がせていた。その誘拐事件に結平自身が巻き込まれる事になろうとは・・・・・・。結平が深夜コンビニに立ち寄っているとき、彼のバイクのそばにセーラー服姿の少女が立っているのを見かける。何か盗られたのではないかと、あわててバイクに駆け寄ると、バイクのメットインの中に赤ん坊の死体が押し込まれているのを発見する! しかもその赤ん坊は連続誘拐の被害にあったひとりのものらしく・・・・・・
 北原結平が悔い悩む過去の罪、連続乳児誘拐事件とそれに関連すると思われるセーラー服の少女、さらには結平にまとわりつく謎のシリアルキラー“ウサガワ”。数々の事件が交錯し、そしてその先に待ち受けているものとは・・・・・・

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<感想>
 目新しい機軸の作品か・・・・・・と思いきや、よくよく見てみればそうでもない。本書を最近のメフィスト賞受賞作に見られるようなミステリーからエンタメ系や文学系へと移行していく作品のようにとらえると一見変わった作品にも見えるのだが、ひとこと“ホラー作品”と言ってしまえばそれだけで表現できるものと思われる。

 本筋をおおまかに言うと、主人公の周りで誘拐事件や悲惨な殺人事件が起こり、それに毒されるような形で主人公も少しずつおかしくなって行くという内容。一応、その殺人事件は主人公自身の過去に関わりがあったりもするのだが、なんかそれもどうでもいいようなものとしか思えなかった。

 本書に注文を付けるとすれば、ある程度ミステリーという形をとるのであれば、そのミステリーとしての完成度をもう少し高めてもらいたいということ。物語の最後のほうになって、事件に関わる重要人物がでてくるのだが、それらはもっと早めに出しておいたほうが、色々な効果として使うことができたのではないかと考えられる。結局、ミステリーとして完成していないがゆえに、ただ単に死体をまきちらしていくホラー小説としてしか見ることができなかった。

 しいて良かったところを挙げれば、意外と読みやすかったということぐらいであるのだが、もっと書く内容について吟味してもらいたかったというところ。とはいえ、このような内容でもすらっと読むことができたので、しっかりとした内容のものを書くことができれば、今後大化けする可能性はあるかもしれない。


伊藤博文邸の怪事件   6点

2013年10月 光文社 単行本
2015年06月 光文社 光文社文庫

<内容>
 明治17年、杉山潤之助は伊藤博文邸の新入りの書生として勤めることとなった。相部屋の月輪龍太郎や、その他数名の書生らと共にすることとなるのだが、それぞれがどこかおかしい様子。さらには、邸の主人である伊藤博文がほとんど邸に立ち寄ることがない。そうしたなか、邸のなかで殺人事件が起こることに。杉山と月輪は事件の犯人を突き止めようと、それぞれ捜査を行うのであるが、さらなる事件が起こることとなり・・・・・・

<感想>
 この「伊藤博文邸の怪事件」の後に書かれた「黒龍荘の惨劇」で一躍名をはせた岡田秀文氏。この岡田氏の本は読んだことがなかったので、ちょうどこの作品が文庫化されたのを機に読んでみた次第である。

 これがなかなか、きっちりと本格推理小説していて面白かった。実在の人物である伊藤博文を中心においた物語となっていて(あくまでも背景であって、当の伊藤博文は数度しか登場しない)、歴史物語としても読める内容。ただし、あくまでも主はミステリとなっていて、伊藤博文邸で起こる怪異について言及した物語となっている。

 ラストまで読み、最後の真相が明らかになった時、見事にやられてしまったという印象。実は推理小説上、他にも似たような趣向を凝らした作品は多々あるのだが、ここでそれをやられるとはと、まさに足元をすくわれた感じ。大がかりなトリックとか、そういったものが用いられているわけではないが、設定とうまく絡めたミステリ小説が組み立てられている。

 作品のページ数もちょうどよく、気軽に手に取れるミステリ作品。明治時代に奇妙がある人であれば、なおさらのことお薦め。これは是非ともシリーズ次作となる「黒龍荘」のほうも読みたくなってきた。


黒龍荘の惨劇   7点

2014年08月 光文社 単行本
2017年01月 光文社 光文社文庫

<内容>
 杉山潤之助が旧友・月輪龍太郎と再会し、月輪が現在営んでいるという探偵事務所にて依頼人を迎え、二人は事件に巻き込まれてゆくこととなる。山縣有朋の側近と言われた漆原安之丞が首無し死体として発見された事件の謎を解明することとなった二人は漆原の大邸宅・黒龍荘へと出向くことに。そこで彼らを待ち受けていたのは、わらべ唄になぞらえた連続殺人事件であった!!

<感想>
 単行本で出版されたときに話題になった作品。この前に出た「伊藤博文邸の怪事件」もそれなりに話題になったような気もするが、それをはるかに凌駕する話題となったのがこの「黒龍荘の惨劇」。私自身は、なんとなく買いそびれて読みそびれてしまい、文庫化を待ってようやくこの作品に触れることができた。実は読む前は“問題作”的なことを言われていたような気がしていて、かなりの“キワモノ”なのかと思っていたのだが、読んでみたら意外としっかり本格ミステリしていたことに驚かされた。

 事件は大邸宅に住む資産家が屋敷から出かけた後に、何故かその屋敷にて首無し死体で発見されたというもの。その調査に乗り出した月輪と杉山がさらなる連続殺人事件に遭遇する。とにかく首無し殺人のオンパレード。しかも単に首がないだけでなく、死体発見後にいつのまにか首が無くなっていたりとか、色々なパターンの事件が起こることに。屋敷の周辺で怪しげな人物の姿度々目撃される中で、何故わらべ唄に沿った殺人事件が起こるのか? そして何故死体の首が切られるのか? といった難題に挑戦することとなる。

 読んでいた時は、真相はグダグダな感じで終わってしまうのではないかと心配していたのだが、思いのほかきっちりとした回答が提示されてびっくり! これは話題作と噂になっただけのことはあると感心。最近ではあまり見ないくらいの大がかりな本格ミステリとなっており、これは読み逃さずにすんで良かったと思っている。あと個人的には、動機とかわらべ唄殺人の理由とか、もっと外堀を埋めておけば良かったのではないかと思われた。動機や犯人像についての重厚さが足りなかったなと惜しい気がした。そのへんがきちんと書き切れていれば(もっとページ数が厚くなったとしても)、さらなる名作に昇華していたのではないかと感じられた作品。


海妖丸事件   6点

2015年09月 光文社 単行本
2018年02月 光文社 光文社文庫

<内容>
 杉山潤之助が上海出張へと出かけようとするとき、旧知の探偵・月輪龍太郎が新婚旅行で上海へ行くとの報が伝えられる。偶然にも、二人は同じ船に乗り込むことに。彼らが船に乗る直前、杉山らが乗り込む一等客室の乗客に向けて、死を告げるような奇妙な予告状が届くことに。さらには、それらの乗客の中に高価な宝石を持ち込んでいる者の存在が明るみに出る。そして、上海へと船が向かう途中、海上で殺人事件が起こることとなり・・・・・・

<感想>
 豪華客船のなかで、殺人事件、宝石盗難、恐喝事件と起こる事件のほうもなかなか豪華。ミステリとしてもよく出来ており、なかなかの作品。

 なのに何故か印象に残りづらい。それは、探偵役である月輪の設定というか、個性があいまいな感じがするからであろうか。語り手の杉山が地味なのは別にいいとしても、探偵役の月輪に関しては、もう少しわかりやすいキャラクターを設定してもらいたいもの。


月輪先生の犯罪捜査学教室   6.5点

2016年09月 光文社 単行本
2019年08月 光文社 光文社文庫

<内容>
 「月輪先生と高楼閣の失踪」
 「月輪先生と『湖畔の女』事件」
 「月輪先生と異人館の怪談」
 「月輪先生と舞踏会の密室」

<感想>
「伊藤博文邸の怪事件」から続いての4作目の探偵・月輪龍太郎が活躍する作品集。今作では月輪が大学の講師となって、犯罪講義を行うというもの(ただし、講義の参加者は3人のみ)。その学生たちをひき連れ、実際の犯罪現場に出向き、真相について皆で推理するという試みがなされた作品。

「月輪先生と高楼閣の失踪」は、塔の上からひとりの男が消え失せ、やがて別の場所で死体となって発見されるという事件。
「月輪先生と『湖畔の女』事件」は、著名な画家の家で起きた誘拐事件の謎に迫る。
「月輪先生と異人館の怪談」は、避暑地で起きた過去と現在を巡る異人館における怪事件を紐解く。
「月輪先生と舞踏会の密室」は、舞踏会場にて起きた時間差発砲事件の謎を解く。

と、それぞれの作品で興味深い事件についてとりあげている。それぞれの事件において、三人の学生が推理を披露し、さらには月輪による真相が披露されるという趣向になっている。それゆえに、なかなか手の込んだミステリ作品となっており、著者の労力がうかがえる作品である。思いのほか全体的によくできており、この作品が発表された当時、あまり話題にならなかったのがびっくりするくらい。もう少し、評判になってもよかったのではと思わずにはいられない。

 欠点としては、月輪が真相を披露する際に、学生たちが知らぬ事実が出てきたりしているところが、ややフェアではないと思われたくらいか。それでも結構よくできていると思えるので、今後もどんどん書き続けてもらいたいシリーズではあるのだが、この作品以後、月輪探偵が活躍するシリーズ作品が書かれていないのは残念なところ。


白霧学舎 探偵小説倶楽部   6点

2017年10月 光文社 単行本
2022年01月 光文社 光文社文庫

<内容>
 昭和20年、東京が空襲に見舞われる中、美坂宗八郎は山間の集落にある白霧学舎へ疎開を兼ねて編入することとなった。白霧学舎は本来ならば名門の学校であるのだが、やはり戦況の影響を受け、授業そっちのけで学生たちは工場などの手伝いに駆り出されていた。美坂は病気により留年していることもあり、新たな学校でやっていけるか心配をしていたが、偶然にも同じく留年していた同じ年の学生らと出会い、意気投合することができた。滝と斎藤という学生は、暇を持て余していて、趣味である探偵小説好きが高じて、探偵小説倶楽部というものを作っていた。彼らは、ここ数年の間、周辺で起きている連続殺人事件の謎を追っているという。そして実際に彼らの身近なところでも殺人事件が起き、さらなる探偵活動を繰り広げていくこととなり・・・・・・

<感想>
 光文社文庫から出ている岡田秀文氏によるミステリ作品。これまでは探偵役として月輪龍太郎が勤めていたが、今回は時と場所を変えて、学生たちが探偵役を務めるという、今までとは趣向の異なる内容にないっている。

 本書の特徴と言えば、戦時中に起きた事件を、その争乱のさなかに生きる学生たちが捜査をしていくというところ。戦時中ゆえに、学生生活もままならず、単に苦役をしいられるばかり。そうした単調な生活を乗り越えるために、一部の学生が探偵活動を行っていくこととなる。最初は、過去に起きた連続殺人事件を推理するというだけであったが、それに絡むと思われる殺人事件が身近で起きたゆえに、捜査活動に増々力を入れてゆくこととなる。

 何気に、連続殺人事件という大きな事件を扱っているなと。本来ならば警察が総力戦で解決しなければならないような事件のはずだが、戦時中の混乱により警察も捜査に力を入れることができていない。このような状況を見ると、戦時中の混乱に乗じた犯罪とかが、当時は色々と起きていたのではないかと考えてしまう。そうした状況だからこそ、素人探偵が入り込む余地もあるということか。

 物語の背景に関しても、物語自体も、それなりに面白かったなと。ミステリとしても、うまくできていると感じられた。ただ、どこか印象に残りずらく、普通のありきたりのようなミステリという点も否めない。最後があまりにも淡々とし過ぎていたかなと。また、主人公の性格が少々中途半端であったのと、スポットを当てるべき人物が定まっていなかったのも微妙なところ。うまくできている作品ではあるだけに、もう一押し欲しかったところ。


帆船軍艦の殺人   6点

第33回鮎川哲也賞受賞作
2023年10月 東京創元社 単行本

<内容>
 1795年、イギリス海軍は長きにわたる戦争により慢性的な兵士不足に悩んでいた。それを解消するために、海軍では一般市民を強制徴兵し、無理やり海兵の補充を行っていた。靴屋を営むネビルは妻が子供を宿し、もうすぐ生まれるという日々を楽しみにしていた。そんなネビルがたまたま酒場に寄ったさい、その酒場に強制徴兵の軍が押し寄せ、ネビルはその場で水兵見習いとして捕らえられることとなる。海で過酷な水兵としての生活が強いられる中、何故かその船の上で殺人事件が起きることとなる。そして、ネビルは容疑者となってしまい・・・・・・

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<感想>
 3年ぶりの鮎川哲也賞受賞作ということで期待を高めながら読んだ作品。そして、その感想はと言えば、うまく書けていると。デビュー作とは思えないほど、文章がうまく読みやすかった。また、物語もしっかりと書けており、この著者はなかなかの逸材ではないかと感心してしまうほど。

 さらに気になるミステリ部分に関してはというと・・・・・・本書はどちらかというと冒険小説という感じであったなと。一応はタイトルにある通り殺人事件が起き、不可能殺人であるような事件が設定されている。ただ、雑多で大勢の人が行き交う船の中を舞台にしているがゆえに、いまいち密室というような緻密さは欠けており、大雑把なトリックというように感じられてしまった。

 本書に関しては、特にミステリ部分がどうこうというよりも、舞台自体が緻密なミステリを描くようなものとしては不向きであったというふうに捉えられる。その設定ゆえに、冒険小説という趣が強くなってしまったというもの。ただし、その冒険小説としては樹分に読み応えのある作品となっている。面白い小説を描くことができるという著者の力量は存分に感じられた。


ルナ   6点

2007年02月 光文社 カッパ・ノベルス(KAPPA-ONE 登竜門 第5弾)

<内容>
 大学生の八神尚基は、ふと立ち寄ったアンティークショップにて、買いたくもなかった一体の人形を押し付けられる。ところが、その人形を持ち帰ったところ、なんとその人形がしゃべりはじめた! 尚基と意志を交わしながら、しゃべり、動き回る人形・ルナとの奇妙な共同生活が始まった。そして、そのときから尚基は何年も前から町を騒がす連続通り魔殺人事件の謎に巻き込まれてゆくことに・・・・・・

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<感想>
 軽快な物語として語られており、また、登場人物の数も絞られていて、非常に読みやすい小説であった。比べるのもどうかと思うが、同時期に登竜門作品として出た「バロックライン」と比べるのであれば、こちらの「ルナ」のほうに軍配があがるであろう。

 本書でうまくまとめあげたなと感じられるところは、ホムンクルスという題材を用いながら、大学生の生活レベルから逸脱することなく、小さな世界の中にうまく納めきったところである。それゆえに、大学生が主人公ということから違和感なく話を進めることができていたと思われる。

 個人的に納得しづらかったのはラストの展開と、終わり方。このへんは人好き好きであろうが、ラストでの闘いについては少々ぐたぐたに流れてしまったなと思わずにはいられない。ここでは、前述と反対に大学生を主人公にしたゆえに、ラストでの闘いをどうしても精神的なものとして描かなければならなかったために、スピーディーな展開からかけ離れてしまったという気がする。また、終わり方ももう少し工夫してもらいたかったなと(←これは本当に個人的な意見)思わずにはいられなかった。

 ただ、このくらいの内容であれば、もう少しページ数を凝縮してライトノベルズとして出版したほうがしっくりいったのではないかとも思われる。


くらのかみ   6点

2003年07月 講談社 ミステリーランド

<内容>
 古い田舎の大きな屋敷の跡を継ぐために後継者として呼ばれた大勢の親族一同。そうした大人の騒動とは別に、集められた子ども達は広い屋敷を利用してさまざまな遊びを繰り広げる。
 4人のこどもたちがゲームをしているさい、あることに気がつく。あれ、1人数が多いんじゃないかと・・・・・・
 そして大人たちの間では食事の後に何人かの者が突然腹痛をうったえる。どうやら食事の中の毒ゼリが紛れ込んでいたらしい。これは事故なのか? それとも故意なのか?

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<感想>
 大きな屋敷に集められた親戚達。そこで久々にもしくは初めて会う子供たちは当然子供たちだけで集まって遊びふけることとなる。特にそれが田舎の大きな屋敷というのであれば冒険にはことかかない。家でも外でも遊ぶネタは尽きることがないであろう。そうした田舎の風景と子ども達の様子がうまく描かれている。そしてさらに怪談的な要素も加えて読むものを惹きつけて離すことのない小説となっている。これこそ大人も子供も楽しめる一冊であろう。

 ただひとつ難をいえば、ミステリーの部分の話が少々ややこしく思えたところ。大人たちの食事に毒が入っていて、子ども達は誰がいれたのかを探ろうとする。と、それはいいのだが、いかんせん登場人物が多すぎて(名前だけしか出てこないような人たちもたくさんいる)どうにも全体を把握しきれないのである。わかりやすいように表などにまとめて提示してはあるものの、それでもわかりにくいのである。子どもの様子を語る部分は怪談的な要素で引っ張ったほうが良かったのではなかろうか。


ただし、無音に限り   5.5点

2018年08月 東京創元社 ミステリ・フロンティア

<内容>
 「執行人の手」
 「失踪人の貌」

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<感想>
 幽霊を見ることができるという特殊能力を持つ探偵が手掛けた事件を描いた作品。掲載されているのは中編2編。「執行人の手」は、自然死とみられる資産家の老人の死を調べてもらいたいという依頼。依頼人は相続の内容に不満を持ち、事件調査を願い出た模様。「失踪人の貌」は、二年前に失踪した夫を捜してもらいたいという依頼。会社の倒産により失踪したようであるが、たぶん自殺したのだと思われる。そこで妻は人生に区切りをつけたいがゆえに夫の遺体を捜してもらいたいと依頼してきた。

 というような事件を扱っているのだが、どちらも微妙な内容。そもそも探偵自身が、あまりその特殊能力を生かしきれていないところが問題。本来であれば、特殊能力により、霊が訴えるものを読み取り、推理をして真相をという流れのはず。しかしこの探偵、肝心の推理を他人任せにしているような・・・・・・。これで、その後に成長がみられるという展開であればわかるのだが、そんな感じでもないようであるし。また、肝心の事件の真相についても「失踪人の貌」については、ちゃんとした決着が付いていないような。

 と、そんなところで微妙としか言いようのない作品。読みやすくページ数も薄いので、取っ付きやすくはあるのだが。


夏に祈りを   ただし、無音に限り   5.5点

2022年03月 東京創元社 ミステリ・フロンティア

<内容>
“幽霊を視る”ことができる探偵・天野春近は、以前の事件で知り合った中学生・羽澄楓から知り合いの相談に乗ってもらいたいと請われる。保育園の園長が園児のひとりに不穏なものを感じているという。その園児は、いたって普通に過ごしているものの、何故か怪我が多いという。父親のみという片親ゆえにDVの可能性を疑ったものの、親との仲はいたって良く、虐待の形跡は一切ないとのこと。また、園児の一人が先月事故で亡くなったという事件が起きていたよう。天野は楓と共に保育園にボランティアとして入り込み、園児の様子をうかがうのであったが・・・・・・

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<感想>
 同じくミステリ・フロンティアから出版された「ただし、無音に限り」に登場した“天野春近探偵事務所”シリーズの2作目。前作は中編2作という形であったが、今回は短めの長編一編。

“幽霊の記憶が視える”という、ちょっと微妙なスタンスの探偵が活躍する作品であるが、やはりその微妙な能力が難点。幽霊の記憶が視えるというものが、どこまで事件捜査に役に立っているのか疑問。今作では、探偵・天野と、中学生・楓がコンビを組んで探偵活動を行っているのだが、二人とも利発な感じの人物ゆえに、そのような能力を使わなくても十分事件の解決をできそうな気がする。

 全体的に短めのページ数で読みやすい作品ではあるのだが、それでも中編くらいで十分な内容であったかなと。主人公らが利発な割には、最後の最後でなかなか真相にたどり着けないというのは、やや納得がいかなかった。そんなわけで、後半ちょっと間延びしたような。

 前作に引き続き、その探偵の能力というものが活かしにくい題材であるのかなと。読みやすい作品であるものの、シリーズ3作目が出たとしても、もう読まなくていいかなという感じ。




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