<内容>
妻と子と三人で暮らす伏見祐大はビデオジャーナリストであったが、仕事で失敗し、現在は隠遁状態。そんな彼に、仕事の依頼がもたらされる。それは13年前に起きた、鴨川事件を掘り下げるというもの。小学校5、6年生の前で講演をしていた教育者が、その講演を聞いていた元教え子に刺殺されたという事件。加害者は完全黙秘を貫き、懲役15年の判決が出る。彼が発した言葉は「これは道徳の問題なのです」の一言のみ。その事件を調査しようとした矢先、鴨川小学校で奇妙なメッセージが残されるいたずらが頻発し・・・・・・
<感想>
タイトルからして問題作っぽい、第61回江戸川乱歩賞受賞作が文庫化されたので、購入。ただ読んでみると意外と普通の乱歩賞受賞作っぽい内容の作品であると思われた。
あとがきに書かれていたが、作品として発表するにあたって改稿されたようなので、普通に読みやすい小説であった。内容は、過去に起きた事件を掘り返し、それが現代に起きているちょっとした事件とどう繋がりがあるか、さらにビデオジャーナリストである主人公の家庭の問題も取りざたされる。そして大きな謎となっているのは過去の事件を掘り起こそうという新鋭の女性ディレクターの真の目的について。
内容には結構惹かれるものがあるのだが、過去と現在の事件が関連するようでいて、実は大して関連していなかったというのはちょっとどうかなという感じ。その現在の事件がややこしさというか、物語を不必要に煩雑にしていたような気がしてならない。
そして過去の事件と女性ディレクターに関する謎については、これは意表をつかれるもの。ここだけ捉えると、確かに問題作と言っても過言ではない。ただ、ここに挙げられる問題が“道徳”という一言で済まされるものだとは思えないし、はっきり言って“道徳の問題です”だけでは片が付いていないような気がしてならない。まぁ、故に問題作ということなのであろうが・・・・・・
<内容>
自動販売機を壊し、酒屋の店員を殴った容疑で取調室に連れてこられた男。彼は自らをスズキタゴサクと名乗った。その男は突如、10時くらいに秋葉原で何かありますよと、言い出す。そして秋葉原に爆発事件が起きることに。さらにスズキタゴサクは、今度は1時間後に爆発が起きると。警察から特殊犯罪係の捜査員が派遣され、スズキタゴサクから真意を聞き出そうとするのであったが、連続爆破はとどまらず・・・・・・
<感想>
2年前の話題作。気になってはいた作品であったので、文庫化されたら必ず読もうと思っていた作品。そして、実際に読んでみた感想はというと、面白くはあったが、微妙な部分もあったなと。
サスペンスミステリとして面白いと感じられた小説。特に後半の手に汗握る展開には魅せられた。犯人対警察組織という対決の構図には目を見張るものがあった。圧倒的不利ともいえる中で、なんとか被害を食い止めようとする警察陣営の苦しさが伝わってくる。
そうしたなかで、微妙な点は何なのかというと、犯人の人物造形。こうした犯人にスポットを当てた作品であれば、その悪役に対し、なんらかの魅力的な点がみられるもの。しかし、本作ではその悪役に対し、一切魅入られることがなかった。特に思想的なものもなく、確たる信念もない。述べているのはただ愚痴ばかり。そのグズグズした言い回しに対し、読んでいて冷めてしまうことがしばしば。本書は本来であればスピーディーな展開のサスペンスミステリというものであろうが、この悪役の人物造形のせいで、特に中盤はスピーディーというような印象は抱けなかった。
と、肝心かなめとも言えるこの悪役に対し、魅入られる部分がなかったので、既に出ている続編は読まなくてもいいかなと思っている。
<内容>
十二世紀の中東、聖者達の伝記録編纂を志すファリードは、取材のため、アリーという行者を訪ねる。その男が語ったのは、導師と四人の修行者たちだけが住まう山の窮慮(きゅうろ)の中で起きた殺人事の話であり・・・・・・
<感想>(再読:2023/06)
23年ぶりに文庫化されたメフィスト賞作品を再読。当時、ノベルス版で読んでいたので、まさに23年ぶりの読書となる。当時、それなりに話題となったものの、古泉氏はその後作品を出すことはなく、幻の作家となってしまっていた。
本書の特徴としては、イスラムの宗教を背景にした作品ということ。下界を離れたところで起きた出来事を描いているがゆえに、民族的な背景などは全くなく、ただただ宗教的なもののみをベースとしているという珍しい内容。
それで久々に読んで思うことはというと、まぁ、“禅問答”であるなと。一応、事件に対してそれなりに推理が展開されているが、それすらも焦点ではなさそうな流れ。最終的に言いたかったのは、構築した世界に対する著者なりの“解釈”というような感じであった。
世界を作り、禅問答で話をつむぎ、推理小説的な描写を取り入れ、そして解釈を用いて終幕していくというような感じで捉えられた。この作品自体にミステリとしての価値があるのかどうかはよくわからないが、独特な背景の作品として読むべき価値はあると思われる。
<感想>
近年、独特の世界を作者が構築し、その世界の中でその世界の道理に従って犯罪が起きるという小説がよく見られる。この「火蛾」という作品も独特の世界の中で犯罪が行われるという作品。
この作品が構築する世界とは宗教。(本当は何々教による教義とかいろいろとあるのだか、詳細までは理解できなかったのであえて宗教という一言で語らせてもらう)その宗教観により犯罪(?)が起き、その宗教観の元に動機があり、工作が行われる。
しかしこういった独自の世界を構築し、その観念で犯罪を起こす小説というものは、それなりに読者を納得させる説得力がなければならない。作者が構築した世界の倫理にどれだけ読者を引き込めるかが作者の力量にかかっている。残念ながらこの作品ではそのへんの説得力が十分であったとは思えなかった。好みの問題もあるのだろうが、外国のあまり聞きなれない宗教の用語を並べられても、なかなかそれにのめりこむというのは難しい。(分かりやすくは書いているのだが・・・・・・)そしてまた、作品を通しての犯罪性というものに対しても十分でないように思えた。ページの薄さも、作品世界を十分納得させられなかったという原因と一つになるのかもしれない。(ただし、これ以上長かったら読了できたかどうか分からないけど・・・・・・)
<内容>
大唐帝国の帝都・長安にて暮らすハイケイは、友人であるサイセイの家で、その家の家来であるマロクから主人のサイセイの様子をうかがってもらいたい頼まれる。そのサイセイであるが、日々どこかに出歩いていて、何かをしているらしい。依頼を引き受けたハイケイであるが、調査を進めていくうちに、奇妙な連続殺人事件の様相が浮上し、事件に巻き込まれてゆくこととなり・・・・・・
<感想>
メフィスト賞作家である古泉迦十氏、24年ぶりの新作であり、2作目となる本書。予告はされていたものの、まさか本当に出るとは思ってもいなかった作品がついにお披露目。
上記に内容を書いたものの、登場人物名が環境依存文字であったり、中国語名によるものか、なかなか変換されなかったりで、カタカナ表記にしてしまった。実際には全て漢字となっている。そして、本書のタイトルの“崑崙奴”であるが、これは登場人物の一人をさしており、外国から来た奴隷を指す用語となっている。これが何故、表題となっているのかは読んでのお楽しみ。
実際に読んでみての感想であるが、力作ということは伝わってくるものの・・・・・・がんばって書いたのだなというくらいの印象しか残らない。そもそも昔の中国を舞台としているがゆえに、個人個人の位だとか、様式だとか、そういったものの説明はあるものの、一向に頭に入ってこない。さらに言えば、名前さえも覚えきるのが難しい。作品内では丁寧に説明されてはいるものの、とうてい理解しきれるものではなかった。
そんな背景で、ミステリ的なことがなされていても、なんともピンと来ないところが多かった。概ね、事件の解明などに関してはしっかりと解決がなされており、それらがわかりにくいということはないものの、特に腑に落ちた感もなく、ただ物語が流れていっているといった状況。よって、普通に昔の中国を舞台にした物語が描かれていたな、というだけで終わってしまったような感じである。
全体的に、このような舞台をしっかりと構築し、物語を描き切ったというところは、見事であると思われた。ただ、その作り込まれた舞台が取っつきにくく、それゆえにエンターテイメント作品として盛り上がり切れなかったように思えるところが残念である。
<内容>
詩を書いて生きていきたいと思いつつも、最近その詩を書くこともできず、フリーターとしての日々を過ごす“僕”。10年前に“現代詩人卵の会”のオフ会に参加したのだが、その時と同じメンバーが久々に集まることとなった。“僕”は10年ぶりに彼らと再開することとなったのだが、なんと前回集まった9人のうち、4人が自殺や事故により死亡したことを聞かされることに! 僕は自身の葛藤をかかえるなかで、何故彼らが死ななければならなかったのかを知りたいと思い、生前の彼らがどのように過ごしていたかについて調べ始め・・・・・・
<感想>
詩人として生きていきたいと悩みながらバイトをして過ごす主人公が詩人の会のオフ会に10年ぶりに参加したところから物語は始まる。前回は9人の人物が集まったのだが、今回の参加者は5名。しかも集まらなかった4名はなんとそれぞれが不慮の死を遂げたという。自身の人生に悩む主人公は、過去の参加者であり、それぞれ詩人として作品を残していた4人の人たちが何故死を遂げたのかということについて調べ始める。
という内容であり、事件性が少ないものであるゆえに、あまり期待しないで読んだのだが、これが思ったよりも良い作品であり、非常に楽しむことができた。実際、派手な事件どころか事件性が少ないものばかりであるのだが、うまく“詩人”という立場と、その詩人として人生を絡めて、それぞれの物語を描き切っている。
また、主人公自身が亡くなった人たちの事件を調べていくということについても、最初はあまりそうするだけの根拠が弱いなと思っていたのだが、実はそれについても強い意味があったことを最後に知ることとなる。というように、全体的に丁寧に物語が形作られていて、うまく筋立てされていると感心させられてしまった。
本格ミステリという観点では弱いのかもしれないが、非常によくできた作品であると思われる。個人的には今年度読んだ作品のなかではベスト3に入るくらいのできばえ。
<内容>
弓丘奈緒子は夫殺しの罪により起訴され法廷に立つこととなる。奈緒子は自供により罪を全面的に認めていた。しかし、その弁護にたった原島弁護士は法廷で被告人の無罪を主張する。法廷でも罪を認める被告人に対して原島弁護士は奈緒子の過去へとさかのぼる弁論をはじめていく。事件の真相とはいったい・・・・・・
<感想>
法廷ミステリーたる本書であるのだが、そのアプローチがなかなか興味深い。容疑者は取り調べに対して自白をしており、犯行を行ったことを全面的に認めている。よって検察側はその自供の調書に合わせて事件の検証を進めていく。
それに対して弁護側は犯行を自白した弁護人の無実を証明しようとする。よって検察側よりも弁護側のほうが、容疑者の足取りなどを細かく追って、必要以上に容疑者に食い下がろうとする。要は、通常の法廷の場面とは逆の展開がなされるのである。弁護士が法廷にて真実を追究していくという形態は本書の見所といってもよいであろう。また、調書により型どおりに裁判を進めようとする検察側が思いもよらない陳述が出てきたときの慌てっぷりも面白い。
そして物語の中心における、もしも容疑者が無罪であるならば何故罪をかぶろうとするのか? という部分が非常に内容が濃いといえよう。ここで熱く語ってしまうとネタバレにもなりかねないので詳しく書くことはしないが、よく考え抜かれて書かれているとだけ付け加えておきたい。“絆”というタイトルは本当にうまくできている。
法廷物というジャンルの小説はさほど読まないのだが、本書を読むともう少し色々と読んでみようかなと考えてしまう。社会派の法廷物というと、どちらかといえば敬遠したくなるジャンルであったが食わず嫌いに過ぎなかったのかもしれない。この小説は本当に読んでよかったといえるでき栄えである。
<内容>
箱に収められた文書は、壮大な謎への招待状となって推理作家を鼓舞する。
第二次世界大戦集結直後、雪に埋もれたドイツの館で繰り広げられる推理ゲーム。各国から集まった、いずれ劣らぬミステリー狂の滞在客。「写本室の迷宮」と名づけられた荘厳な図書室。突如起こる当主殺し。真相への鍵は問題編のみの推理小説「イギリス靴の謎」の中に?
<感想>
推理小説というよりは知的冒険小説といったほうがいいのかもしれない。序盤は推理小説たる趣が強く感じるものの、最終的には宝探し的な感じで物語が収束していっている。ただし、物語が壮大になりすぎてしまい、その結果落ち着くべきところに収めきることができなくなってしまったのかのようにも感じられた。
導入から、作中作へと話が進み、推理ゲームへと展開していく構成はなかなか楽しませてくれるものとなっている。それだけに“読者への挑戦”を含めた推理ゲームの解決をもう少しなっとくのいく質の高いものにしてもらいたかった。中盤までの展開にかなり惹きつけられただけに、最後まで推理小説として結末づけられなかったのが残念である。
本書はこの著者の処女作となるのだが、十分に読者を惹きつける内容を書く力量があるといえる。次回作こそは最後まで推理小説として語られる物語をぜひとも紡いでもらいたいものである。
<内容>
第一章 「緋色の脳細胞」
第二章 「居酒屋の“密室”」
第三章 「プールの“人間消失”」
第四章 「33人いる!」
第五章 「まぼろしの女」
終 章 「ストーカーの謎」
<感想>
今年の「このミス」大賞作品は、ミステリ色が強く、読み応えがあった。マニアックなミステリ談義も楽しめ、近年の大賞作品のなかでは、個人的に好みの部類の作品である。
連作短編ミステリとなっているこの作品。語り手は教師である楓。事件があると元校長で現在は軽い認知症を患っている祖父の元に相談しに行き、その祖父が探偵役となって次々と事件を解決していくという内容。
最初の「緋色の脳細胞」は、購入した古本のなかに新聞の切り抜き記事が挟まれていたというもの。不思議に思えた部分を楓が祖父に相談する。ただ、この作品に関してはあまりにもそのままという結論であったような。
次の「居酒屋の“密室”」は、サッカー観戦で沸いていた店内の男子トイレに突如として死体が発見されるというもの。これに関しては、事件自体は魅力的であるのだが、その回答は微妙な感じ。いくら観戦で湧いていたとはいえ、すぐ近くで起きている騒動に皆が全く気が付かないというのには違和感が出てしまう。
「プールの“人間消失”」は、プールの授業中に突如消えた女教師の謎を追う事件。これは、うまくできていると感じられた。本書のなかではこれがベスト。真相よりも、そのひとつ前の解のほうが魅力的な気もしたのだが、それではあまりにも救いようがないか。
「33人いる!」は、短めの作品。怪談をしたのちに、教室の後ろから、誰もいないはずのもう一人の声がというもの。これはちょっと良い話的な内容。学校ミステリとしては悪くないのでは。
「まぼろしの女」は、殺人事件を目撃した男が容疑者となってしまい、そこにいたはずのもう一人の女を探すものの、見つからずというもの。まさに「まぼろしの女」をモチーフにしたような作品。現代的な謎ときとなっていて、よいのではないかと。
そして最後に「ストーカーの謎」で話が占められる。連作短編と結びとして、過去に起きたとある事件の謎も含めて解決されるものとなっている。結びとしてうまくできていると思われた作品。
締めもしっかりできていて、良い作品集であったと思う。認知症探偵という設定もしっかりと活かされていて、ミステリとしても良くできていた。応募時は別のタイトルであったようだが、この「名探偵のままでいて」というタイトルが内容にしっくりきていたと感じられた。
<内容>
会社員の山内は彼女である、まどかと待ち合わせ沖縄旅行へと行くはずであったが、まどかからトラブルがあって遅れるとの連絡が入る。ひとり現地へとおもむく山内であったが、そこでまどかの友人であるという明日美と他の2名の男性と出会う。他の男達もそれぞれの事情により彼女がまだ現地に着ておらず待ちぼうけをしているとのこと。そんな4人で現地を観光することとなったのだが・・・・・・
<感想>
小前氏という作家のことはよく知らなかったのだが、今までは歴史小説を書いていて、今回初めてミステリ作品に挑戦したということだそうだ。今回その「セレネの肖像」という作品が講談社ノベルスから出ていて、なんとなく気になったので購入して読んでみたしだい。
実際に読んでみて思ったのは、展開がつまらないということ。意味ありげな3人の男性が集まってくるというのはいいのだが、延々それまでの個々の事情が語られるだけであり、物語上の進展がなにもなされない。よって、読んでいるほうにとっては、長すぎる人物紹介を読まされているだけとなってしまう。
後半に来て、ミステリ的な展開が待ち受けているものの、それも予想通りの展開であり、なおかつ最終的な結末はさほどミステリ的には感じられずとなんとも中途半端。結局のところ感想としては、普通の旅情ミステリっぽいもの、という印象くらいしか残らなかった。
それと余談であるが、ノベルスなのに1段組(最近こういうのが多い)になっていたのだが、2段組にしてくれればページ数がもっと薄くてすみ、値段も安くなったのではないだろうか。まぁ、わかっててやっているのだろうけれども。
<内容>
ミステリ作家デビューを志す小松立人は、彼を含めた4人の仲間たちと集まっていた。彼らは10年前に密かに現金を盗み出し、10年後に山分けしようという約束をしていたのだった。そうして10年経って集まった当日、彼らは現金を埋めた場所へと向かうのであったが・・・・・・
<感想>
鮎川哲也賞ではなく、優秀賞受賞作。第33回の優秀賞ということで、昨年の作品群のなかから選ばれた作品のようである。
本書は特殊設定を用いたミステリとなっている。特殊設定自体を否定する気はないのだが、それであれば、最初からそれを提示してた方が良かったと思われる(それに関係する場面から始めるとか)。序盤は普通のサスペンスミステリ風に始まっていき、何やら起きるぞとなってから、いきなり特殊設定が提示されるものとなっている。最初の流れが普通過ぎたために、いきなりの急展開で、若干興がそがれるような感じになってしまった。
とはいえ、特殊設定を受け入れてからは、それなりに楽しめる内容となっている。タイトルから想像できる通り、主人公を含めた4人組のなかから、ひとりまたひとりと殺害されていく。誰が何の目的で、しかも限定された時間のなかで何故殺人を繰り返さなければならないのかという謎を秘めながらクライマックスへと突入していく。
まぁまぁ、面白かったかなと。話の内容に興味を惹かれて、ほぼ一気読みで読み通すことができた。ミステリとして、それほどの独自性はないとは思えるが、普通に一冊のミステリとして楽しむことができた。気になったのは、主人公の名前が著者名と同じと言うこと。こういう作品によくあるのだが、主人公が著者自身の経験と重ね合わせて、やたらと自虐的に話が語られていくという作風。十分に面白い作品を書いていると思えたので、そんなに自虐的にならなくて良いのでは? と思いながら読んでいた。自信を持って、次の作品に取り掛かってもらいたいものである。
<内容>
四阿(あずまや)で雪に埋もれて凍死していた男・・・・・・この状況はおそらく魔術によるものだと。魔術と陰謀に関連する事件を解き明かすために呼ばれたのは、権利部卿・明智小壱郎光秀と、陰陽師・阿倍天晴。彼らが解き明かすことの真相とは!?
<感想>
著者の小森氏は評論家のようである。その小森氏が「魔術師は多すぎる」を書いたランドル・ギャレットからインスパイアされ、描いた作品が本書とのこと。
それで読んだ感想はと言えば、ただただ、つまらなかったなと。結局、どこに焦点があり、何を描きたかった作品なのかということが全くわからなかった。たぶん、その特殊な世界の設定に重きを置いた作品だという気はするのだが、その描き方がどこか中途半端。そこが描き切れていないゆえに、ミステリとしてもルールがはっきりせず、事件が解決されても何に感心していいのかがわからない。ちょっとしたキャラクター小説のようにもとれそうかと思いきや、コンビを組んでいたひとりが最終局面を迎える前にいなくなり、そういった意味でも中途半端。
そんなこんなで、どこに重きを置いて、何を楽しめばよいのかもよくわからなかった。結局のところ、本書がミステリ作品であったのかどうかさえもわからず、そのジャンルすらも決めきれないままで読み終えてしまった。
<内容>
革命の嵐が吹き荒れるロシアで、20世紀最大の神秘思想家グルジェフを巡って発生した殺人事件。ロシア革命を通して、ピョートル・デミアノヴィチに師事するオスロフの目に映ったG(グルジェフ)の真実とは!?
<感想>
小森氏の作品は2、3作品読んだ後に本格ミステリーを書こうとしている作家ではないなと感じ、読むのを止めていた。原書房のミステリー・リーグでも本が出版されているがそちらも見送っている。そして今回のミステリ・マスターズであるがこちらは全部読了しようと思っているので買ってみたしだいである。ただ、最初に感じるのがこの著者がなんでミステリ・マスターズの執筆陣に選ばれたのかということが一番の疑問である。
というわけで作品を読んでみたのであるが、予想通りミステリーではない。正直なところ最初から期待はしていなく、予想以上でも以下でもなかった。よって失望もしなかったし、感じられたことだとか意見とかも特にない
あとがきを読んでみて、どうも読み手側における謎というものと、小森氏自身がこの作品にこめている謎とは別のものであるというのがわかる。そういったところから私自身と小森氏にはミステリーというものに対する感覚の差異があるのではないだろうかと考えてしまう。
本書は第一次大戦中のロシアにおける歴史や哲学について興味のある人向きの本となっている。この辺のジャンルに関心を持っている人はどうぞ。
<内容>
相撲界で力士を襲う殺人事件が吹き荒れる。首を切られた惨殺死体、連日次々と殺されてゆく力士達、土俵上での行司殺害事件、力士のアゾート殺人、その他・・・・・・大学と間違えて相撲部屋・千代楽部屋に入ることになった外国人青年マークが数々の謎を解く!
「土俵爆殺事件」
「頭のない前頭」
「対戦力士連続殺害事件」
「女人禁制の密室」
「最強力士アゾート」
「黒相撲館の殺人」
<感想>
これは、記録ではないだろうか。何が記録かといえば、一冊の本の中でこれほど力士が多く殺されたミステリーというものはかつてなかったであろう。とはいうものの、これだけ力士を殺したら相撲の興行がなりたたなくなると思うのだが・・・・・・
本書を読むときのスタンスはこれは“バカミス”であるととらえておいたほうがよいであろう。あまり真面目にとらえすぎると、初っ端の「土俵爆殺事件」によって、“うっちゃり”されるはめになる。なにしろ二人の力士が相撲をとった瞬間、爆発が起こるという事件。そしてその解決もまた奇想天外たるものである。
「頭のない前頭」は本作中、一番普通にミステリーをしている作品である。ただ、あまりにもストレートであるがゆえにトリックがばればれのような気がしないでもない。それでも相撲の設定をトリックに取り入れているところは見事。
「対戦力士連続殺害事件」は、“動機”に終始するミステリー。ありそうで、なさそうな物語。
「女人禁制の密室」「最強力士アゾート」「黒相撲館の殺人」らは、ここまでくればもうすでにファンタジーというような雰囲気。もはや犯人を当てる当てないではないような気がする。しかし、「アゾート」のアリバイトリックはちょっと面白かったかも。
全編読んでみると、山口雅也氏の「日本殺人事件」のような雰囲気がただよう失敗作といった感じ。逆に、これが失敗作ではないというのならば確信犯めいているような気がしないでもない。なにか続きそうな予感がするのだが、続編が出たらどうしよう。うーん、買っちゃうのかなぁ。微妙。
<内容>
丹崎恵は高校2年生になり、校内の寄宿舎に入ることにした。さらに校内の文芸部にプロの作家になったものがいるのではと興味を抱き、文芸部へと入部する。すると、宿舎で同室になった藍野から、あることを頼まれることに。先月、藍野のルームメイトであった藤堂という子が自殺したのだと聞かされる。藤堂は文芸部に入っており、部の中で何かあったのではと藍野は考えているのだった。丹崎は自分の目的も兼ねて、文芸部の秘密を探ることに・・・・・・すると次々と奇怪な事件が起こり、さらには殺人事件へとまで発展し・・・・・・
<感想>
期待していたよりは面白く読むことができた。本書では「ネヌンウェラーの密室」という著者自身の作品が背景となっているのだが、これはその当時、本格推理小説かと思って読んだらそういう内容ではなく、買って失敗してしまったという思いが強かった作品。それが今でも尾を引いており、小森氏にたいする推理小説作家としての評価は低いままである。
そう思いながらもこの作品を読んでみたのだが、思ったよりもミステリしていて、楽しみながら読むことができた。学園内で女子を中心としたサークル内で起こる連続殺人事件がホラー風に描かれている。なんとなくではあるが、昔に読んだ綾辻氏の「緋色の囁き」あたりを思い浮かべてしまう。
本書の見所はその文芸部というサークル活動について事細かに描いているところ。こういったところは「コミケ殺人事件」を描いた著者にとっては独壇場というところか。この辺は怪しさが増幅されてなかなか良い雰囲気を出していたと思われる。ただ、暗号解読の説明ばかりが長すぎたかなと。
そしてラストにて物語内で起きた不思議な事象についての説明がなされるのだが・・・・・・やけにあっさり目で終わってしまったという感じであった。
本書の中では魔術とかその類のものが横行する部分もあるのだが、基本的には現実の事象の中で謎が全て解明されるようになっている。この辺の謎に対する話のつけ方や理論的に展開される推理などもうまくできているなと感心させられた。
ただ、見せ場というか見せ方というものがあまりにも淡々としすぎ、そして犯行が明かされた後の犯人の反応もあっさりしすぎていたと思われた。さらには、かなり計画的な犯行を続けてきた犯人が土壇場においては行き当たりばったりな犯行を行ってしまい、そういうところは色々な意味で無理があったのではないかいうところも不満にあげられる。
とはいえ、全体的にみれば満足できるミステリとして読むことができた。「ネヌンウェラー」関連の事象は余計にも思えないことはないのだが、まぁ、あってもなくても気にならないという程度なので、特に感想で口をはさむようなことはなかったと思っている。
<内容>
警察庁長官官房でマスコミ対策を担っている竜崎伸也。彼はキャリアであり、当然のごとくキャリア目線で物事を考えながらも、真剣に警察組織のあり方というものも考えており、周囲からは変人と呼ばれていた。
あるとき、銃を凶器とした連続殺人事件が起き、竜崎はその対策に追われることとなる。しかし、その事件の真相が垣間見えたとき、それは警察組織をゆるがすものであったことがわかり、上層部は隠蔽工作を図ろうとする。そのとき竜崎は家庭でもある事件を抱えていた。竜崎は警察という組織や犯罪というものを真正面から捉え、或る行動に打って出ることに・・・・・・
<感想>
2007年に話題作となった今野氏の「果断」という作品があり、そのシリーズ(これからも続く?)の最初の作品にあたるのが本書。ちょうど文庫化されたので、購入して読んでみることにした。
本書は警察機構の内部から事件を追っていくという内容の警察小説。近年では横山秀夫氏がこういう小説を書くようになってから似たような作品がいくつか出てくるようになったと思われる。
その警察機構の内部を扱う中で、本書の注目すべき点は主人公である竜崎という人物像に尽きるといえよう。この人物はキャリアとして警察に入り、とんとん拍子に出世をしてきて、現在は本庁の警察庁で重要な役割を担っている。キャリア出身ゆえに、考え方は官僚そのものと言ってよいはずなのだが、警察機構をより良いものにしようという信念にあふれているという点では他のキャリアとはちょっと違う考え方を持っている。
その表れともいえる本書でのエピソードのひとつが、竜崎の息子が麻薬に手を染めたときの行動についてである。麻薬に手を染めたといっても、一回麻薬を購入したのみであり、別のそれが表ざたになったわけではない。しかし、竜崎はそれを一度きりのことだからといって、なかったことにしようとはせず、きちんと処断をしようと考えてゆくのである。
個人的には、一回だけのことだから注意して終わりでよいのではないかとも思えるのだが、よくよく考えてみれば現実的には犯罪行為に手を染めたのであれば、きちんと罰を受け、罪をつぐなうということこそが正しい処置なのかもしれない。そのように考えてしまうと、自分自身の考えこそが実はおかしかったのではないかと、ふと考えさせられてしまったりする。
と、本書では上記のエピソードのように、竜崎の現代社会から見れば“変人”ともとれる行為を中心として作られた小説といってよいかもしれない。彼の気質によって、警察機構が行おうとした隠蔽工作がどのような結末を迎えることになるのかが一番の注目点であろう。
あと、付け加えるとするならば本書はミステリ小説としては弱いという点。この作品のなかでは連続殺人事件が起こるものの、主人公が捜査員ではないゆえに、事件の捜査や展開事態はあっという間に進んでいってしまうのである。本書のポイントとしては事件の解決の仕方に主題がおかれているので、しょうがないともいえるのだが、ちょっとさびしい気がした。
ただ、続編の「果断」が去年注目をあびたということは、ミステリ作品としてもそれなりのボリュームを持った内容になっているのではと思われるので、そちらを読むのが楽しみである。「果断」を読んでいない人は、文庫化されているこの作品をまず読んでからにしてみてはどうであろうか。
<内容>
キャリアながらも本庁から所轄へと左遷させられることとなった竜崎信也は日々、警察署長としての任務をこなしていた。デスクワークに(主に判子を押す作業)に忙殺される毎日の中、管内で強盗事件が起きる。それはやがて立てこもり事件となり、竜崎は現場で事件の指揮をとることとなる。一応、事件自体に決着はついたものの、その結果によりひと騒動起こることとなり・・・・・・
<感想>
キャリアながら変人と呼ばれる、警察署長となった竜崎の活躍を描く作品。警察機構の矛盾に対して、あくまでも合理的な行動を行おうとする竜崎。その行動はやがては部下たちには受け入れられてゆくものの、一部の者たちからはなおさら疎まれることとなる。
こうした行動を見ていると、主人公である竜崎の行動こそ当たり前に見えるのだが、実際には竜崎のような行動がまかり通る方が珍しいのかもしれない。実情としてはここで行われている行動とは反対の行動が現場では行われているのだろうと予想できる。それがいかに不合理であるかはわかるものの、むしろ組織というのはそういうものであろうと納得してしまう自分もいる。
今作でのポイントは、立てこもり事件が起きるものの、事件そのものはあっという間に解決してしまうということ。この立てこもりがメインで、事件としてこと細かく描かれるのだろうと思っていたので、あっさり終わってしまうのにはびっくりした。
実は、本書のメインとなるのは、その後に発生する事件の対応についての“責任”が取りざたされることである。当然のことながら、竜崎一人の身に責任がのしかかってくるのであるが、自身の行動を間違っていないと考える竜崎は自分の意思を貫き通すこととなる。そうした中で、もうひと波乱、事件後の騒動が巻き起こることとなる。
何はともあれ、この作品を読んだ多くの人は竜崎を応援しつつ、今後も竜崎の活躍に期待せずにはいられなくなるであろう。そう思いつつも、このような上司が良いのかどうか、考えてしまうことにもなるであろう。あまりにも正しすぎる上司というのも、それはそれで気苦労が絶えなさそうだから。
<内容>
大森署にて署長を務める竜崎信也は、アメリカ大統領訪日に対しての方面警備本部本部長に任命された。本来であれば彼よりも上位のポストの者が任命されるはずなのであるが、何故が竜崎が重要な任務を務める羽目となる。アメリカからのシークレットサービスと警察上層部との無茶な要求のはざまに立たされつつ悩み絶えない竜崎。しかも、彼に秘書として付けられた畠山美奈子に対して恋心を抱き、さらに悩みが絶えないこととなり・・・・・・
<感想>
“隠蔽捜査”シリーズ第3弾。しかし、最初のタイトルが「隠蔽捜査」だったからといって、このタイトルを冠にするのは無理があるような・・・・・・竜崎信也シリーズとかで良いような。
今作はシリーズものとしては見所有りなのだが、単体としては物足りなかった。シリーズとしての見ものが何かといえば、朴念仁と評される主人公・竜崎信也が臨時に派遣されてきた補佐官に対して恋心を抱くというもの。しかも単に抱くだけではなく、表には出さないようにするものの、気もそぞろとなり、業務に差し支えが出そうなほど動揺しっぱなしという状況。そのことに竜崎自身が悩み抜くこととなる。
メインのストーリーとしては、アメリカ大統領訪日におけるテロの防止対策。何故か警備本部長の任を竜崎がまかされてしまい、しかも日本国内に協力者がいてテロを企てているという情報が入ることとなる。この辺がストーリー上、一番の重要点となるはずなのだが、意外とあっさりと解決されてしまう。この事件上の見どころが少なかったところが一番の不満点。
まぁ、読みやすく興味深いシリーズであることは間違いないので、今後も続いて行ってもらいたい作品であることは間違いない。この文庫が出ている時点で4作品目が既に出ているので、そちらが文庫化されるのを首を長くして待つこととしよう。
<内容>
「隠蔽捜査」シリーズの主人公である竜崎の幼馴染で、同じキャリアであり本庁の刑事部長を務める伊丹俊太郎。
シリーズを伊丹の視点から見た物語として描く短編集。
「指 揮」
「初 陣」
「休 暇」
「懲 戒」
「病 欠」
「冤 罪」
「試 練」
「静 観」
<感想>
今野敏氏のシリーズ作品となる「隠蔽捜査」を、その主要登場人物のひとりである本庁刑事部長の伊丹俊太郎からの視点で描いた作品集。
シリーズ特有の緊張感というよりも、全編通して微笑ましく読むことができるという異色の短編集。それにしても竜崎に頼り過ぎだぞ伊丹刑事部長、と一言いいたくなってしまう。両者にどこまで友情というものが成立しているのかはわからないのだが(竜崎がそういった感情には淡白ゆえに)、よくよくこの作品を読んでみると、それなりに固い絆で結びついているのかもしれないとも考えてしまう。キャリア同士の絆というと、いまいち良い印象がないのだが、こんな友情もあるという一例と言えよう。
この作品のみ単体で読んでも面白いとは言い難いであろう。短編のなかには、今まで刊行された3作品に密接した内容のものもあるので、ぜひともシリーズの一冊として読んでもらいたい作品。まぁ、シリーズのファンであれば読み逃すということはないであろう。
<内容>
竜崎伸也が署長を務める大森署をにぎわす事件が次々と発生。外務省の職員が他殺体として発見されたとの通報があったものの、大森署の管内からは外れていた。ほっとしたのも束の間、今度は管内でひき逃げ事件が発生する。さらには、海外で竜崎の娘の恋人が事故に巻き込まれた恐れがあるとして、情報収集に努めなければならなくなる。そうしているうちに、麻薬の捜査を巡って、麻薬取締官が怒鳴り込んでくる始末。それぞれの事件に対処しているうちに、竜崎は複数の事件に対して、ある関連性に気づき始め・・・・・・
<感想>
読みやすく面白い。したがって、一気読み必須。会話文主体で話が進むので、密度が低いというのも読みやすさの一因であるが、面白いことに間違いはない。
シリーズのファンであれば、当然ながら読んでいるだろうから、四の五の言う必要はないのであろう。いつもながらの“隠蔽捜査”シリーズ(今作は外伝も入れて5作目)を堪能できる内容。しがらみやプライドではなく、ひたすら効率と正義を重視するがゆえに、周囲から奇異の目で見られるキャリア警察署長の活躍が描かれる。
この作品が面白いのは、警察署長が主人公ゆえに、署長室や会議室が主たる現場となっているところ。事件は会議室で起きているわけではないのだが、事件を解決するのは会議室から、とでもいったらよいのか。捜査に関しては優秀な部下たちにまかせて、各方面との縄張り争いや主導権争い、はたまた省庁を越えての問題等、やっかいごとがひたすら竜崎のもとへと持ち込まれる。それを、キャリアとしての立場を利用したり、正論によって看破しながら、ひたすら事件解決に取り組んでゆく。そんないつもながらの竜崎の行動を、今作でも存分に堪能することができる。
なんだかんだと文句を言いつつも、意外とその警察署長という一国一城の主という地位を気に入っているようで、今後も大森署のちょっと変な警察署長として活躍してくれることであろう。そうして、さらに無理難題が、大森署に持ち込まれてゆくこととなるのであろう。
<内容>
衆議院議員が行方不明になったと、大森署署長の竜崎の元に、同期の伊丹刑事部長から報告がなされた。内密に捜査してもらいたいとの話であったが、事を重く見た竜崎は署をあげての捜査を開始する。すると議員の車が見つかり、中には秘書の死体が発見される。さらには、議員を誘拐したと、誘拐犯からの連絡が警察署にもたらされる。その発信地が神奈川県内であるということから、警視庁と神奈川県の合同捜査が行われることに。竜崎は伊丹の指示により、神奈川県警へ出向いて合同捜査の指揮をとることとなり・・・・・・
<感想>
警察小説を読んでいるとよく描かれているのが、事件が県境を越えた場合の警察官の連絡の悪さ。それが特に警視庁と神奈川県警となると過去に起きた事件からの確執もあり、深い溝があるよう。本書では、その連携という問題に取り組むものとなっている。
議員の失踪事件が起き、主人公の竜崎が署長を務める大森署が捜査を始めるが、やがて事態は殺人・誘拐と大ごとへと発展してゆく。警察署にもたらされた誘拐犯からの声明を逆探知したところ、神奈川県内からのものと判明し、警視庁と神奈川県警の合同捜査が行われることとなり、竜崎はその指揮をとることとなる。
物語上、当然のことうまくゆくように進められてはいるものの、実際にこのような事件が起きたら、現場はもとより、管理するほうも大変なのだろうなということが伺われる。すべての面子を保って事を処理しなければいけないがゆえに、ただ単に事件を解決すればよいものではない、というところがなんともいえない。こういった事象をうまく処理するには、この物語の主人公のような特殊な肩書を持ったものでなければ無理なのではないかと思わせられるほどである。
本書のメインである誘拐事件については、その他の要素が多すぎるため、やや薄めになってしまったような。それでもきっちりと、発端・展開・解決・どんでん返しと、描かれており、堪能できることは間違いない。このシリーズは読みやすいという事も特徴であるので、一気読み必須の警察小説が堪能できるものとなっている。
<内容>
「漏 洩」 (大森署副署長 貝沼悦郎)
「訓 練」 (警視庁警備部警備第一課 畠山美奈子)
「人 事」 (警視庁第二方面本部管理官 野間崎正嗣)
「自 覚」 (大森署刑事課長 関本良治)
「実 地」 (大森署地域課長 久米正男)
「検 挙」 (大森署強行犯係長 小松茂)
「送 検」 (警視庁刑事部長 伊丹俊太郎)
<感想>
隠蔽捜査シリーズ。シリーズ外伝と呼ぶにふわわしい内容。短編集となっており、それぞれの短編にて、サブキャラクターたちにスポットが当てられている。
このシリーズも巻数が増えてくる中、このような形でサブキャラクターを紹介してもらえると、読んでいる方としても非常に助かる。刑事部長の伊丹や管理官の野間崎といったアクの強い人物については憶えやすいものの、その他の人々は名前のみの登場という感じであり、どのような人物かわかりづらい。ここで、それぞれを短編にて書き表してくれると今後シリーズ作品を読むうえでもまた、違った楽しみ方もできるというもの。
ただ、読んでいてシリーズ主人公の竜崎伸也ありきということは理解しつつも、全員が全員、竜崎に依存し過ぎているのはいかがかと思ってしまうのだが・・・・・・
<内容>
大森署、署長の竜崎伸也は、ストーカー対策チームの人選をせかされるなか、所轄で起きたストーカー殺人事件の対応を迫られることとなる。容疑者は猟銃を所持し、男を殺害した後、女性を連れて逃走しているとの情報が告げられる。事件を追う中で、方面本部長による横やりがはいり、その対応にも迫られる。そして竜崎が下したとある決断により、監察にかけられる事態となり・・・・・・
<感想>
大森署署長・竜崎伸也が活躍する警察シリーズ。こちらは文庫で読み続けているので、購入してさっそく読んでみた。いつもながら、非常に読みやすくあっという間に読めてしまう。
今作での話は大きく分けて3つ。ストーカー対策チームを新設するという事案と人選。実際に管内で起こるストーカー殺人事件。そして、方面本部長・弓削による竜崎への横やり。重荷はストーカー殺人事件を中心に物語が展開されてゆくこととなる。
確か方面本部長・弓削は前作から登場した新キャラクターだったような。そして、今回から登場する新キャラクターとして、ストーカー対策チームに配属される根岸紅美。この二人は今後もシリーズをかき回してくれることになりそう。ただし、根岸の方は良い意味で活躍してくれることになりそうな。
今作ではタイトルにある通り、竜崎伸也の去就が心配されるところ。ストーカー殺人事件の対応で、弓削の告げ口により監察事案にまで追い込まれることとなる竜崎。その行方は!? といいつつも、竜崎は主人公ゆえに、読者の誰もがさほど大きな心配はしないと思われるところだが。
<内容>
大森署付近の駅の鐡道がシステムダウンにより止まっていると聞きつけた署長の竜崎。さらに銀行までもがシステムダウンするという事態に。竜崎はさっそく署員を派遣し、情報の収集に向かわせる。そんなおり、管内で殺人事件が起きる。一見、非行少年らによるリンチ殺人のように思われたが、竜崎はその事件の裏に何かが潜んでいると感じ始める。署員が一丸となって捜査を行っているさい、竜崎にとうとう異動の辞令が下ることとなり・・・・・・
<感想>
大森署署長・竜崎伸也の活躍を描く“隠蔽捜査”シリーズ。何気に続編を心待ちにしているシリーズ。いつも楽しく読めて、警察小説としても十分面白い。
今回は大森署がサイバーテロらしきものを調査しつつ、少年同士による殺人事件の真相を追うというもの。いつもに増して、署長の竜崎が陣頭指揮による活躍が見られる。普通の少年同士のいざこざによる犯行から、インターネットを絡めた犯罪へと話が膨らんでいくところが興味深い。今風の事件のようでありつつも、よくよく考えたら結構前から描かれている内容のような気も・・・・・・
今作では内容のみならず、竜崎の異動がシリーズとしての大きな転機となっている。このシリーズ、ずっと大森署署長としての話のみでシリーズが終わるのかと思いきや、それだけでは終わらないようである。まだまだ警察機構に関して著者としては描きたいところがあるということか。次作からの新たな職場での竜崎の活躍を楽しみに待ち望もうと思っている(単行本ではすでに出版されている)。
<内容>
大森署から神奈川県警の刑事部長へと赴任した竜崎伸也。着任して早々、事件が彼を待ち受けていた。事件は東京都の境で発見された絞殺による身元不明死体。捜査によって、被害者は中国人と判明。事件に公安もからみ、さらには警視庁と神奈川県警の合同捜査が行われる中で、竜崎はさまざまな駆け引きを強いられることとなる。さらには、竜崎の妻が教習車に乗っている最中、事故を起こし、その対応にも・・・・・・
<感想>
舞台は神奈川県警へと移るのだが・・・・・・舞台が変わっても変わらず、いや、増々面白くなっている。刑事部長となった竜崎伸也の活躍を垣間見ることができる作品。
今作では神奈川県警と警視庁との合同捜査ということで、縄張り争いや、組織同士の軋轢などが強調される作品なのかと思った。もちろん、そういった場面もあるのだが、本書はそれよりも国際犯罪に対する対応の仕方に重きが置かれれた作品という感じであった。中国人が被害者であり、しかも政治的な背景が見え隠れする中、日本の警察機構がどのように対処し、どのように対応し、どのように広報するのかが問われた内容。それに竜崎が彼なりの対応を図るというもの。
全体的な流れに対し、ご都合主義的な流れが多いような気もするが、それもページ数を考えたらしょうがないところ。それでも400ページの作品であり、読み応えはしっかりと確保されている。さらに言えば、そんな400ページの作品を一気読みできる読みやすさと面白さ。シリーズ8作目となっても、まだまだ面白さが尽きることはない。
神奈川県警に来たばかりである竜崎であるが、それでもこの作品で、だいぶ彼と共に行動することになる陣容が固まっているという感じがした。これは新天地におけるシリーズの続きとしても、増々期待して次巻を待ち望みたくなってしまう。
<内容>
横須賀港付近のヴェルニー公園で死体が発見される。死亡していた男は刃物で刺された模様。目撃者によると外国人らしき男が刃物を持って逃走したとのこと。現場付近には米海軍基地があることにより、事態はややこしくなる。神奈川県警刑事部長の竜崎は先んじて、米軍側との交渉を行うことに。事件捜査が進められてゆく中、竜崎の元に、ポーランドに留学している息子が逮捕されたとの情報が!?
<感想>
隠蔽捜査シリーズ第9弾。神奈川県警を舞台としては2作品目となる。今回もいつものシリーズ同様に楽しめる内容となっている。
今回は事件自体は普通のものであるが、そこに米海軍基地が関わってくるという疑いにより、事態がややこしくなってゆく。また、それだけではなく、竜崎の同期のキャリアが同じ組織内にやってきたことにより、不穏な空気をまとうことに。さらには、海外留学している息子が逮捕されたという噂が持ち上がりつつも、連絡が取れないという状況に追い込まれる。そうしたなかで、竜崎は様々な組織との連携を図りつつ、事件解決に奔走していくこととなる。
今回の作品では、色々な人々、色々な団体が紹介されつつも、あまりそれらが活かされることはなかったかなと。ということは、後の作品でそれらが活かされることになる導入的な位置づけの作品とも捉えることができる。今後、今回登場した人々が再登場し、別に事件に深いかかわりを持つことになるのかなと想像させられる。ただ、そうはいっても、本作は本作で、非常に面白かったので、これはこれで十分警察小説として堪能できるものとなっている。今後も益々楽しみなシリーズ作品である。