ま行 み  作品別 内容・感想

まほろ駅前多田便利軒

2006年03月 文藝春秋 単行本

<内容>
 多田啓介は軽トラックと体一つで、街の便利屋をやっていた。そんなある日、高校の同級生であった行天春彦と出会う。つい、どこも行く当てのない行天を拾ってしまったがゆえに、さまざまなトラブルに巻き込まれることになる多田。しかし、多田は昔たいして仲が良かったというわけでもない行天のことがなぜか気になってしまい・・・・・・

<感想>
 三浦氏の作品を読むのはこれが始めて。今回、この作品が直木賞をとったことにより、また読みやすそうな本だと思えたので、買って読んでみることに。

 それで読んでみた感想なのだが・・・・・・こんなレベルで直木賞って取れるんだ、とつくづく考えてしまった。これで賞がとれるのならば、今まで賞から落ちてしまった数々の名作ともいえる作品たちはなんだったのだろうと考えてしまう。

 本書の内容は、いたって単純な話である。昔の同級生と出会い、共同生活を始めるというもの。これが男女の共同生活というのであれば、漫画などによく出てきそうな話であるが、この本では男同志の共同生活が繰り広げられる。

 そして、便利屋をしている主人公のもとで同居人がさまざまなトラブルを起こすというもの。しかし、そこで起きる事件のようなものも特に目新しく感じるようなものもなく、いたって平凡。こういうような作品であれば、もっと内容の濃いものが多々あるだろうと思われる。またサブキャラクターの人物造形もかなりいい加減とかんじられ、あまり“深さ”というものを感じ取る事ができなかった。

 まぁ、直木賞をとった作品であるがゆえに、どうしてもこのような辛らつな評価になってしまう。この作品単体として見れば、読みやすくそこそこ楽しめる本といえるのではないだろうか。とはいえ、あくまでもライトノベルス・レベルであり、単行本で読むような内容ではなかったと思われる。


アリスの夜   6点

2003年03月 光文社 単行本

<内容>
 水原真彦は借金を返せずに自分の大切な店を売ることになる。衝動的にヤクザにはむかったあげく、結局そのヤクザの使いっ走りとして働く羽目に。彼は少女売春の商売の運転手を命ぜられる。その役目のなか、水原の絶望的な人生はアリスに出会ったとき、運命の歯車が音を立てて動き出す。

<感想>
 なかなか楽しめる出来であった。前半の展開は少々もたついていた感じがあったが、序盤を読みきれば、後はぐいぐいと読ませられる。良質のサスペンスミステリーといってよいであろう。

 物語はのっけから、銃声や覚せい剤といった物騒な展開から始まるのだが、まさかそこに出てきた情けなさそうな男が本書の主人公となり話を引っ張っていくのだとはとうてい予想できなかった。たまたま物語の前面に押し出されてしまって、主人公となってしまったという印象の男である。しかし、男は惨めな境遇から脱したいという気持ちとアリスに対する保護欲から徐々に意思を取り戻し始め行動へと駆り立てられていく。前半を読んでいると、どうあがいても男の境遇が良くなるというようには思えず、また逃げることによって行き着く先というのもまた地獄ではないかと思えてならなかった。そんなことからも本書はある種のノワールという言葉が当てはまる小説であるのかもしれない。

 その後の展開は、かなりご都合主義的なものなのだが、主人公の必死の逃避行ぶりやスピーディな展開、アリスとの邂逅などと読む側の目を離させない。最終的に彼らがどこへたどり着くのかということを確かめずには本書を読むのをやめるわけにはいかなくなる。

 ただし、結局のところ納得がいかなかったのが主人公の造形の問題であろう。当初は転落してもしょうがないような人間っぷりを示しているようであったにもかかわらず、後半になり突然に正義を振りかざすような言動を帯びているのには違和感を感じた。とはいうものの、これだけ書くことができ、これだけ読ませる小説を書くのだから題材いかんによって、そのパワーがフルで発揮したときにはものすごいものを書き上げるのではないだろうか。


ビブリア古書堂の事件手帳  栞子さんと奇妙な客人たち   6点

2011年03月 アスキー・メディアワークス メディアワークス文庫

<内容>
 就職の機会を逃し、家族に文句を言われつつもぶらぶらしていた五浦大輔。大輔はふとした出会いから、本を全く読むことのできない体質であるにもかかわらず古書店でバイトすることとなった。その古書店の店主は現在怪我で入院中の篠川栞子。店でわからないことがあると大輔は栞子のもとへと行き、彼女の指示をあおぐ。すると、店で起きた奇妙な出来事も彼女に相談するとたちどころに解決し・・・・・・

<感想>
 今年話題となったライトノベルから出版されたミステリ作品。タイトルのとおり古書店が舞台となっている。

 中身はいたって普通のライト系ミステリ。では、普通の作品と何が異なるかというと、古書に関する知識がしっかりしていること。さらには舞台となる鎌倉という土地の風情が出ているということ。ようするに、しっかりと描かれた小説であるというのが人気の出たポイントなのであろう。

 さらに言えばキャラ萌えという要素も人気の一端であるかもしれない。人見知りで美貌の店主に惹かれたという人も物語の語り手のみならず数多くいるのではないだろうか。ただ、何となくこの店主、うまく人を利用しているような・・・・・・と感じてしまうのは穿ちすぎであろうか?

 まぁ、手軽に楽しめる作品ではあるので続編も読んでみようと思っている。


ビブリア古書堂の事件手帳2  栞子さんと謎めく日常   5点

2011年10月 アスキー・メディアワークス メディアワークス文庫

<内容>
 一度は辞めたものの、再びビブリア古書堂で働き始めた五浦大輔。病院から退院した篠川栞子の元で古本屋としての仕事を学び始める。今回もまた、読書感想文の感想を問いかけられたり、昔の恋人から本の査定を頼まれたりと、本を巡る事件に巻き込まれる。さらには、栞子の失踪した母親の謎にせまることとなり・・・・・・

<感想>
 事件は起こるものの、本の蘊蓄が事件の鍵となっているせいか、ミステリというよりは蘊蓄本という印象の方が強い。それでも本に興味のある人は十分に楽しめるであろう。蘊蓄として書かれていることはかなり興味深いものが多い。

 あとは、この作品にのめり込めるかどうかは登場するキャラクターを受け入れられるかどうかであろう。このシリーズ、ライトノベルズ的であるわりにはやけにドロドロとした内容が多い気がする。そんなわけで、サブ・キャラクターたちの性格もなんか重苦しい雰囲気の人たちばかり。

 また、二人の主人公の性格や関係も微妙。なんとなく同性には絶対嫌われるだろうなと感じてしまう栞子と、本には興味はないけと栞子に興味があるのでホイホイ働いているという大輔。この二人の関係はドロドロはしていないものの、何かすっきりしないという感覚が残る。内容が重めであるならば、主要キャラクターくらいはすっきりさせてもらいたい。


ビブリア古書堂の事件手帳3  栞子さんと消えない絆   6点

2012年06月 アスキー・メディアワークス メディアワークス文庫

<内容>
 篠川栞子の元、ビブリア古書堂で働き続ける五浦大輔。栞子の母親の謎を残しつつも、大輔は日常業務に勤しみ、徐々に古書店の仕事内容を覚えていく。そんななか、彼らは、古本の盗難事件とビブリア古書堂を目の敵にする古本屋の存在、懐かしの絵本探しと家族の不和、遺産相続のもめごとの最中に消えた本、といった事件に遭遇することとなる。

<感想>
 相変わらずどろどろとした内容が多いのだが、それはさておき、さまざまな古書に対しての知識は数多くちりばめられており、それらについては興味深く読むことができる。

 特に印象に残る一冊は「たんぽぽ娘」という作品。実はこの作品、私はタイトルのみは知っている。何故かというと、河出書房新社から奇想コレクションというSFの作品集が出ているのだが、その次巻が「たんぽぽ娘」なのである。しかもこの作品、次巻予定となってから、ずいぶんと日が経ち、一行に出版される気配がないのである。そんなわけで印象に残っているタイトルなのであるが、この作品を読んだら、ますます「たんぽぽ娘」が読みたくなってしまった。

 それと第三話の宮澤賢治の「春と修羅」の古書の行方を巡る物語の内容は、後味もさほど悪くなく、楽しんで読むことができた。どうもこのシリーズ、古書堂の家族にかかわる話が出ると、不必要なほど内容がドロドロとし、後味が悪くなるような気がする。第二話、第三話のように古書堂の内幕と関係ない事件を扱ってもらったほうが読みやすいと感じられる。


ビブリア古書堂の事件手帳4  栞子さんと二つの顔   5.5点

2013年02月 アスキー・メディアワークス メディアワークス文庫

<内容>
 東日本大震災後、ビブリア古書堂は本の片付けに追われていた。ある程度片が付いたとき、新たな本に関する依頼が。とある資産家の妾をしていた女性が蔵書を受け継ぎ、それを整理してもらいたいとビブリア古書堂に依頼してきたのである。ただし、条件として閉ざされた金庫を解錠してもらいたいというのである。それは、文字によるパスワードを入れないと開かないというものであった。依頼を引き受けた栞子と大輔であったが、突然彼らの前に栞子の母親・智恵子が姿を現す。

<感想>
 今回の古書のテーマは江戸川乱歩。ゆえに、非常に取っ付きやすく、興味のもてる内容。ただ、テーマは楽しかったものの、長編となっているせいか“謎解き”という面ではかなり薄め。ミステリというよりも、江戸川乱歩の少年探偵団シリーズらしい、“冒険”というような感触であった。

 本の在りかを探したり(その隠し場所が面白い)、暗号を解き明かしたり(もちろん二銭銅貨のネタ)、少年探偵団のBDバッチが出てきたりと、乱歩の冒険ミステリらしさが満載。

 では、話が乱歩一色に染まっているかと言えば、シリーズとして話がずっと続いている母親ネタも今回のメインの一つ。本人がようやく登場し、場を荒らしてゆくことに。今作のなかでは印象が一番強いキャラなので、ひとりで全部持っていったという気がしなくもない。


ビブリア古書堂の事件手帳5  栞子さんと繋がりの時   6点

2014年01月 アスキー・メディアワークス メディアワークス文庫

<内容>
 大輔は栞子に告白するものの、その返事を先延ばしされる。彼女は大輔に返事をする前にやるべきことがあるようなのだが・・・・・・。そうして悶々とするなか、ビブリア古書店に次々と古書を巡る事件の依頼がなされることに。本を売っては、その本を再び買い戻す夫人の謎。手塚治虫の「ブアック・ジャック」に秘められた想いと謎の古書店の正体。遺言により贈られたという本の真相。そして、これらの事件の陰には栞子の母親の存在が見え隠れし・・・・・・

<感想>
 ビブリア古書堂シリーズ、第5弾。今回はシリーズ最も重要な流れともいえる、大輔と栞子の恋の行方に一つの決着が付く。そしてもう一つの重要な件ともいえる栞子と母親との確執について。今作では母親の存在を感じつつ、依頼される事件に対処していくという内容。

 最初の事件では「彷書月刊」という、やや取っ付きにくいものを扱ったためか、二つ目の事件では「ブラックジャック」という取っ付き易いものを選んでいる。古書の選択としても幅広く、また色々な工夫が見られたりと、その辺は参考図書の数の多さからもうかがえる。それぞれの依頼内容がミステリというほどでもないかもしれないが、古本を巡る話としては十分な内容ととることができる。

 今作はシリーズとしても、一冊の古書店もの物語としてもよくできていたと思える。何故か、よい話に終わらず、少々嫌な終わり方をしているのは、シリーズならではということなのかもしれない。まだまだ、主人公たちにとっての順風満帆な生活は先という事になるのだろう。


ビブリア古書堂の事件手帳6  栞子さんと巡るさだめ   6点

2014年12月 アスキー・メディアワークス メディアワークス文庫

<内容>
 ビブリア古書店に一通の手紙が投げ込まれた。その件により五浦大輔は、以前、太宰治の「晩年」を奪うために栞子にけがをさせた男、田中敏雄に会いに行く。田中が手紙を投げ入れたかどうか探りを入れようとするのだが、五浦は田中からとある依頼をされることに。それは、以前田中が盗もうとした「晩年」とは別の「晩年」の存在を示唆し、それを手に入れてもらいたいというのである。栞子と五浦は新たな「晩年」の存在について調べようとするのであるが・・・・・・

<感想>
 ビブリア古書店シリーズの6冊目。今作では因縁の太宰治の「晩年」、しかも2冊の稀覯本を巡るという内容。さらには、今まで言及されてきた栞子の家族についてのみならず、五浦大輔の家族についてまで掘り下げられることとなる。

 メジャーな作家ともいえる太宰治についてのさまざまな薀蓄は、なかなかのもの。このへんは、ビブリア古書店のシリーズらしさを存分に見せつけている。また、ミステリというよりもサスペンス的な展開として五浦大輔と田中敏雄の駆け引きが面白く、意外な展開を見せてくれることとなる。

 シリーズ6冊目にもなり、関連する登場人物の数が多くなってきた。ここは、人物相関図でも欲しいところである。さらに言えば、横のつながりのみならず、縦のつながりまでも今作では取りざたされているので、さらにややこしい。

 あとがきによると、あと1冊か2冊でシリーズの完結を迎えるとのこと。今作の終幕でもシリーズにとって、重要な話が示唆されている場面がある。ようやく、栞子の母親の言動についての真実が語られる時がきそうである。果たして、綺麗にまとめられるのか、それともドロドロとしたままで終焉を迎えるのか。益々、完結まで目を離すことができなくなってきた。


ビブリア古書堂の事件手帳7  栞子さんと果てない舞台   6点

2017年02月 アスキー・メディアワークス メディアワークス文庫

<内容>
 ビブリア古書堂の店主・篠川栞子と五浦大輔の二人は結婚を決意するものの、相変わらず古書堂に事件が持ち掛けられ、徐々に栞子は金策に悩むこととなる。そうしたなか、栞子の母親が祖父から与えられた難問を栞子が挑戦することとなる。それは、貼り付けられて開くことができない三冊の本のなかから、貴重品とされるシェイクスピアの古書を当てるというもの。栞子は競売にかけられた三冊の本のなかから本物を競り落とさなければならなくなり・・・・・・

<感想>
 ビブリア古書堂の続編、いつ出るのかなぁと思っていたのだが、2年以上経ってようやく刊行。個人的には、待ちわびたというよりは、少々待ちくたびれてしまったという感じが・・・・・・

 ただ、内容に関しては十分に楽しめるものとなっている。今回はシェイクスピアの希少本を中心に、古本の薀蓄が語られ、そして篠川栞子の家系・3代に関わる難問に挑むこととなる。

 物語は楽しめたし、キャラクター小説として十分堪能できるシリーズ作品。それだけに、1巻からこの7巻に至るまで、もう少し早いペースで出してもらいたかったところ。一応、この作品が最終巻となるようなので、これから読む人は一気読みを是非ともお薦めしたい。今後、外伝やスピンオフ作品などは出していくとのこと。


人魚は空に還る   6点

2008年08月 東京創元社 ミステリ・フロンティア

<内容>
 時は明治、雑誌探偵記者と天才絵師が繰り広げる帝都物語探偵譚
 「点灯人」
 「真珠生成」
 「人魚は空に還る」
 「怪盗ロータス」

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<感想>
 本書はキャラクター小説、はたまたBLモノと言うような内容。雑誌記者が懇意にしている売れっ子の天才医師と協力して、帝都に起こるさまざまな事件を解決していくというもの。

 ただ、この作品に強く感じるのは、対象年齢がやけに低く感じるということ。どうにも、子供向けの作品という気がしてならない。

 今作が最初の作品であるがためか、内容云々よりも、色々なキャラクターを登場させるというところに力を入れるように感じられる。特に最後の「怪盗ロータス」は、無理やりな気がしてならない。

 そういったこともあってか、全体的に内容を見返してもミステリ作品というには弱いように思える。唯一、観覧車からの消失を描いた「人魚は空に還る」が、それなりに探偵小説らしかったと思えるのだが、その他に関しては、物語に沿っていったら話が解決していたというような内容ばかり。

 まぁ、キャラクター小説という点に比重が置かれるのは良しとしても、今後も作品を出すのであれば、もうすこしミステリ部分を強めてもらいたいところ。どちらかといえば、ミステリーランド向きの作品だったかなと。


世界記憶コンクール   5点

2009年12月 東京創元社 ミステリ・フロンティア

<内容>
 「世界記憶コンクール」
 「氷のような女」
 「黄金の日々」
 「生人形の涙」

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<感想>
 天才絵師と雑誌記者が活躍する帝都探偵物語の第2弾・・・・・・のはずであったのだが、今作では天才絵師の出番が少ない。まともに登場するのは「世界記憶コンクール」の1作だけである。前作で、やおいチックな雰囲気が強いというところを気にしたのかどうかはわからないが、今回はそういった雰囲気が押さえられている。しかし、その分作品全体が地味なものになってしまっている。

 最初の「世界記憶コンクール」が内容としては一番よかったか。ホームズ色が出た内容になっているところが、なかなか面白い。個人的には他の作品もそのようにしてもらえればと感じられた。

 その他の作品は、どれも歴史ミステリというか、昔の物語風な色が強く、話としては面白いのだがミステリとしてはどれも印象に残りづらいものであった。

 今後の展開としては、物語の雰囲気を前作のようにBL色を強くするか、今作のようにまじめな雰囲気にするのかは迷うところであろう。本当はミステリ色がもっと濃くなってくれればよいのだが、どちらかといえば物語重視の作品という気がするので難しいところか。


パラダイス・クローズド   5点

第37回メフィスト賞受賞作
2008年01月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 ミステリ作家たちの無人島でのツアーに呼ばれた双子(兄弟)の高校生探偵である立花真樹と美樹。双子の行くところ常に事件が発生し、人が死ぬ確立が高いということから、お供することを命じられている警官の高槻。
 そして当たり前であるかのようにように、殺人事件が起き、しかも閉ざされた部屋のなかで銃殺された死体が発見される。この事件を皮切りに次々と起こる殺人事件。絶体絶命の状況の中、探偵たちがとった行動とは!?

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<感想>
 殺人事件が起きた場面から始まり、これは怒涛の勢いで楽しませてくれるミステリかと思いきや、その後はトーンダウン。何しろ事件とはほとんど関係なく、ただ単にページを埋めるだけのように延々熱帯魚の薀蓄を聞かされるだけ。こういった場面も後の伏線となりえているといえなくもないのだが、さほど意味があるようには思えなかった。

 本書が変わっていると思えるのは、通常登場人物が限定されたミステリであるならば、被害者・容疑者となりうる者達の人物紹介や性格描写がなされるはず。それがこの作品では、ひたすら探偵たちの性格描写が繰り替えされるのみ。

 こういった作風からしても、本書が通俗のミステリのとどまるものではないと予想され、最後の犯人当ての場面ではお約束の展開をぶち壊すという暴挙にでる。

 まぁ、それがこの作品のカラーであり、この作品らしさが出ているといえるのかもしれないが、個人的にはいまいちであったなと。展開としてはどのようなものであってもよいと思われるのだが、肝心のミステリ部分が薄すぎるというところが不満である。本書でミステリらしき部分といえば、閉ざされた密室の謎くらいであろうか。アンチミステリを標榜するのであれば、まずはミステリとしての部分をしっかり書き上げてから、それをぶち壊してもらいたかったところである。


まごころを、君に   5点

2008年05月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 高校生探偵の立花真樹と、その双子の兄で至る所に尋常ではない災厄を巻き起こす“タナトス”立花美樹。魚マニアの美樹のせいで、関わりたくもなかった学校の科学部で起きたグッピー凍死事件に真樹は駆りだされるはめになる。その事件を境に、真樹と美樹は科学部の連中と仲良くなり、彼らと対立する生物部に文化祭の時に仕返しすることを計画する。しかし文化祭当日、生物部の部屋で無差別テロとも思える爆発事件が発生し、学校は大惨事に・・・・・・

<感想>
 メフィスト賞作家、汀氏の2作目となる本書。前作を読んで好みだと思った人は、そのまま続けて読めばよいと思うが、前作を読んであまり好きではないと思った人は今作でもまた同じように思うであろう。何しろ、作中の記述の大半が魚に関する薀蓄や、事件に関係ない事柄が延々と述べられているばかりなのである。

 事件は生物部で起きた爆発事件を起こした者は誰か? また、何故そのようなことをしたのか? ということ。ただ本書を読んでいると、爆発事件を起こさなければならない必然性はなく、あくまで物語全体としての根幹となる動機についてのみが主題という気がする。

 一応、各登場人物らにそれぞれの思惑があり、事件は一筋縄ではいかないもとのはなってはいるものの、個人的には甚大な無差別爆発事件を起こしてまで“まごころを君に”ではないだろうと思わずにはいられない。

 私個人としてはこの作品も前作と変わらず好きになれない作風であった。というわけで、この著者の作品はもう2作で充分である。


M.G.H. 楽園の鏡像   6点

第1回日本SF新人賞受賞作品
2000年06月 徳間書店 単行本
2006年06月 徳間書店 徳間デュアル文庫

<内容>
 鷲見崎凌(すみざき りょう)は従姉妹の森鷹舞衣に乗せられて、偽装結婚をして宇宙ステーション“白鳳”へと来ていた。本来ならばステーションに来るには高額な費用がかかるため、新婚旅行者への抽選を利用してやってきたというわけであった。
 しかし楽しいはずの旅のはずが、その宇宙ステーションの中で殺人事件が起きてしまう。被害者は宇宙服を着た状態で、どこかにぶつかったような痕跡を残して死んでいた。しかし、無重力の状態でそのような事故が起こるのは不可能のはず!! とまどう関係者をよそに、不可解な事件がまたしても・・・・・・

<感想>
 第1回日本SF新人賞をとったときから気になっていた作品であったのだが、結局読むのは文庫化されてからとなってしまった。ようやく読むことができた本書であるが、十分ミステリとして満足できる作品であった。

 最後まで読み、結論を聞くとなかなか洗練されたミステリであるということに気づかされる。犯人の意図もさることながら、それぞれの犯行にて用いられた方法は物理トリック、もしくは科学トリックというようなものとなっており、理系ミステリと呼ぶにふさわしいものとなっている。

 ただ、これが何故“最後まで読んで”とことわっているかというと、理系ミステリゆえに著者の考えというものに読んでいるほうが気づくことができないからである。特に最初の犯行は宇宙ステーション内の無重力の状態で何かにぶつかって死亡したという不可能状況・・・・・・といわれてもどこか不可能なのかこれがわかりづらい。当然、こちらの知識の問題ではあるのだが、そういった知識のなさゆえに、あまり不可能性というものを読んでいる途中で感じ入ることができなかった。

 しかし、最終的に説明してもらえればなるほどと納得し、そのトリックにも感心させられたので、決して理系ミステリが苦手だからといって敬遠することはない作品。むしろ、是非とも多くの人に手にとってもらいたい作品といえよう。

 森博嗣の理系ミステリを好む人は、ぜひとも本書も読んでもらいたいところである。


聖遺の天使   6点

2003年10月 双葉社 単行本
2006年07月 双葉社 双葉文庫

<内容>
 15世紀のイタリア。とある城にて、嵐の夜にその城の主人が城外で磔になって死んでいるのが発見される。しかし、磔にされている場所には足場もなく誰がどのように行ったのか・・・・・・その城には聖遺物と噂される香炉が存在するのだが、その香炉を巡っての殺人事件なのか?
 さまざまな曰くを抱える城にて起きた不可解な殺人事件。その謎を解くべく呼ばれたのは、若き日のレオナルド・ダ・ヴィンチであった!

<感想>
 読んでいる最中、篠田真由美氏の作品を読んでいるように感じられた。中世のイタリア、“城”という建築物、さらには“天使”という存在。これだけのキーワードが並べば、篠田氏の作品のようだと感じられるのもおかしくないであろう。

 ただ、本書が他の人の作品に思えるということが一番の欠点ではないだろうか。ようするに、それだけこの作品ならではという特徴がないのである。この作品の主人公はレオナルド・ダ・ヴィンチであるのだが、天才で皮肉屋というくらいで、他にこれといった特徴もみられなく、その人物設定自体もあまり生かせてなかったように思われる。これがもう少し、このように書かれているのだから三雲氏の作品なのだ、というものが感じられれば良かったと思われる。

 ミステリとしての出来はそこそこ良く、端正な作品として仕上げられている。さほどトリッキーなものはなく、どのトリックやネタとなるものもどこかで読んだ事のあるものばかりであったが、ひとつの作品としてはうまくまとめられていると思えた。

 あと、読んでいて、もう少し城の周りの地図とか、城の地図などが加えられてもよかったのではないかと感じたのだが、それらがあるとメイントリックが気づかれやすくなってしまうということに、読了後気づいたので納得。


旧宮殿にて   7点

2005年07月 光文社 単行本

<内容>
 「愛だけが思いださせる」
 「窓のない塔から見る風景」
 「忘れられた右腕」
 「二つの鍵」
 「ウェヌスの憂鬱」

<感想>
 レオナルド・ダ・ヴィンチが探偵として活躍する短編集。この作品の前に同じシリーズの長編の「聖遺の天使」を読んでいたせいか、物語にすぐにのめり込まれ、15世紀のミラノの雰囲気に没頭する事ができた。いや、これはなかなか良い短編集であり、隠れざる名作といってもよいかもしれない。

 パターンとしては宰相ルドヴィコと彼の愛妾チェチリアが不可解な謎の話を持ってきて、それをダ・ヴィンチが解くというもの。舞台設定が昔のミラノ故に、それにまつわる様々な話が語られなければならないわけであるが、さほど長々とした薀蓄もなく、スムーズに物語を受け入れることができる。長さといい、薀蓄の長さの配分といい、非常にうまくバランスがとれ、さらにそこに良質のミステリが乗っかっている作品集と感じられた。

 どれも良い作品であるが、「本格ミステリ05」に掲載されていて既読であった「二つの鍵」が改めて読んでみても良く出来ていると感じられた。論理的に凝った内容となっており、若干決めてに欠けると思えなくもないのだが、それを伏線でうまくカバーしている。

 他にも、いつの間にか消えた肖像画の謎を追う「愛だけが思いださせる」、密室の塔からの消失を描いた「窓のない塔から見る風景」、見張られた部屋から消えた像の謎を解く「忘れられた右腕」、またシリーズ作品ゆえの「ウェヌスの憂鬱」。

 これは続編が出るのであれば是非とも読んでみたいと思えるシリーズである。いまやこれだけ正面から本格ミステリに取り組んだ作品というのもあまりない。それだけに本格ミステリ短編集として貴重な一冊であると感じられた。


少女たちの羅針盤   6点

2009年07月 原書房 単行本
第1回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞優秀作受賞作

<内容>
 かつて、4人の女子高生が“羅針盤”という演劇ユニットをつくり話題となった。しかし、ひとりの死によって活動を停止してしまう。
 そして4年後、とある映画の撮影現場で突然“羅針盤”という名を聞くこととなるひとりの女優。動揺する彼女の前で復讐の幕が切って落とされる。

<感想>
 青春ミステリ作品として、なかなかうまくできているのでは。少年少女にお薦めしたいミステリ作品。

 この作品は“現在”において女優が映画撮影を行うパートと、“4年前”に女子高生らが羅針盤という演劇ユニットをつくり活動していこうとする2つのパートから成り立っている。そのなかで目を惹くのが女子高生たちが四苦八苦しながら自分達の演劇の舞台を作り、それらを披露しようとするパート。本作品の見所といえば、ここに全てが詰まっているといっても過言ではない。

 個人的には本書はミステリ作品とするよりは、この羅針盤を苦労しながら育て上げ、成功させるという内容の作品のほうがストーリーとしては良かったように思える。かえって、そこにミステリというパートを付け加えたことによって、普通のサスペンス・ミステリに落ち着きすぎてしまったようにさえ感じられるのだ。

 演劇部分の魅力あるパートに比べて、ミステリ作品として見てみるといたって普通という印象。また、かえってミステリ作品にしたがゆえに、羅針盤が崩壊していく様子も、嫌な展開で描かれることとなってしまい、後半の展開は残念にさえ思えてしまう。

 といいつつも、新人でここまで惹き込ませる内容の作品を描けるというのはたいしたものであろう。今後どのような内容の作品を書いていくにしろ、十分期待してよいのではないだろうか。


かいぶつのまち   6点

2010年07月 原書房 単行本

<内容>
 高校生のころ「羅針盤」という劇団をつくり、現在は劇団の脚本家として活躍している楠田留美。その留美の作った脚本が母校の演劇部にて採用されることとなった。母校の演劇部は全国大会にまで勝ち進むこととなり、留美はかつての仲間たちとその様子を見に来ていた。しかし、当の演劇部はこの大事な場面で部員達が次々と体調を崩し、しかも主役を演じる女学生のもとに、脅迫するかのようにカッターが何度も送られてきているという。まるで彼らが上演する予定であった「かいぶつのまち」のなぞらえたかのような事件、演劇部に悪意をもった何者かが混乱を起こそうとするなか・・・・・・

<感想>
 まさか続編という形で新作が刊行されるとは思ってもみなかった。まぁ、「少女たちの羅針盤」が映画化ということもあって、色々と事情があることなのだろう。

 作品の出来としては、まぁまぁ。作中で演じられる劇「かいぶつのまち」に見立てられた“かいぶつ”が物語に暗い影を与え、実際に登場人物たちに直接的な影響を及ぼすこととなる。

 話自体はありがちな気もするのだが、問題はそこよりも、これらの話が当事者である高校生たちの視点で描かれていないこと。続編という形にしたがために、前作の主人公であり、大人になった“羅針盤”のメンバーたちの視点から語られているのである。ゆえに、青春ミステリーのはずが、物語同様に高校生たちが演じている劇を第三者からの眼から見ているような感じがして、直接的な物語として感じることができないのである。

 さらに、これは前作に引き続き言えることなのだが、話の大筋がわかりやすすぎること。他に読者を惑わすようなレッドヘリングが仕掛けられていないので、物語の先行きが読めてしまうのである。こういったところも、もう少し工夫が欲しいと思えた。

 そんなわけで、書き方によってはもっと面白くなったのではないかと思えるところが惜しいところ。今の“羅針盤”のメンバーにこだわらず、彼女たちを越えるような主人公を造形してもらえたらと願っている。


転校クラブ  人魚のいた夏   6点

2012年03月 原書房 単行本

<内容>
 14歳の女子中学生、早川理は銀行員である父親の仕事の都合で転校を繰り返していた。そんな彼女の愚痴のはけ口として“転校クラブ”というコミュニティサイトを利用し、さまざまな情報交換をしていた。今度の転校先は海の近くに建設中の大きな遊園地がある土地。そこに早川理と共に神崎美佐姫という子が同じ日に転校してきたのだが、彼女は何故か転校初日から皆に無視されていた。美佐姫は遊園地の観光開発会社の跡取りという複雑な事情をかかえており・・・・・・

<感想>
 話はうまくできていると感じられた。全体的に見て、今まで私が読んだ水生氏の作品のなかでは一番うまくできているなと。

 転校を繰り返す主人公の少女と、転校クラブというネット上のコミュニティサイト。転校先の学校で出会う、確執を持つ二人の従兄妹。その二人の従兄妹の家が経営する遊園地を巡るリゾート開発の問題。そして、過去に起きた事件の謎。こうしたものがうまく組み合わせられ、物語を構築している。

 少々ドタバタすぎるところとか、ヒステリックな場面が目についたりとか、中学生じゃなくて高校生のほうが違和感がないように思えたりとか、細かな問題は目についたものの、おおむねうまくできていたと思われる。ただ、作品全体に対する印象がやや薄めに感じられるのも残念なところか。

 物語を最後まで読み終わり、真相が明らかになると、作品全体に対する印象が一気に変わることとなる。そういった仕掛けはうまくできていたと思われた。新本格というよりは、メフィスト賞受賞作のようなにおいを感じ取ることのできるような作品。


シャッター通りの雪女  転校クラブ   6点

2014年03月 原書房 単行本

<内容>
 父親の仕事の都合で転校を繰り返す14歳の女子中学生、早川理。今回彼女が引っ越してきたのは、山間のシャッター商店街があるうらびれた地方都市。彼女が通うことになった中学ではヤンキーがあふれ、学校や繁華街で彼らは喧嘩を繰り返していた。それでも理は、友人もでき、なんとか心地よく過ごせそうと思った矢先、その友人が徐々にトラブルに巻き込まれてゆき・・・・・・

<感想>
 転校クラブの第2弾、というか、シリーズとして続くとは思ってなかった。転校を繰り返す少女、早川理が自ら事件に巻き込まれてゆくというシリーズ。転校クラブというチャットも主題のひとつであるのだが、今作ではさほど機能していなかったかなと。

 前作では中学という設定が微妙に思えたのだが、今作ではしっくりとはまっていたような気がする。不良であふれる中学と、うらびれたシャッター街が抱える問題といった様相を描いている。事件はそのシャッター街を中心に、いろいろな事が起こるのだが、どの事件もひとりの不良少年を示唆している。そこに作為的なものを感じ、主人公の早川理は真相を導き出そうとする。

 前の作品もそうだったような気がするが、この作品も決して綺麗に終わらずに、“厭”な感じを残しながら終わるものとなっている。このへんはあえてシリーズの特徴なのか、もしくは著者の作風としてのこだわりなのか。全体的に内容は綺麗にまとまっていたように思える。ややパンチ力が欠けるような気もするのだが、あえて小中学生ぐらいの読者層に標準を絞ったのであろうか? 基本的にはよくできているのだが、“雪女”に対する印象や必要性があまり感じられなかった。そのあたりをもうちょっと書き込んでもらいたかったところ。


殺人ピエロの孤島同窓会   5点

2006年03月 宝島社 単行本
第4回「このミステリーがすごい!」大賞 特別奨励賞受賞作

<内容>
 日本から1500キロ離れた、東硫黄島。火山の噴火により今は誰も人が住んでいないこの島で、東硫黄高校の同窓会が行われる事になった。彼らは4年前、島で高校生だった者たちで、元のクラスメイト36人中、ひとりを除いて35人が参加した。その楽しいはずの同窓会の席で流された一本のビデオから惨劇が始まってゆくことに! それは昔いじめられていた野比という男が同窓会に集まった者たちを皆殺しにすることを宣言するものだったのだ!!

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<感想>
 うーん、まぁ確かに特別奨励賞という扱いにするのが一番無難であったのだろう。もしこれが12歳の著者が書いたということを差っぴいてしまったら、ほとんど何も残らないと言ってもいいかもしれない。確かに12歳にしては様々な知識を持っており、感心させられた部分も多々ある。とはいえ、当然の事ながらいたるところに幼さが見られ、なおかつオリジナリティというものがほとんど感じられなかった。既に「バトルロワイヤル」という作品があることによって、どうもその廉価版とくくらいにしか感じられなかった。ただ、最終的に本格ミステリー作品というスタンスを守り抜いたところは評価したいところではある。

 ということでこれからに期待したい作家という事になるのだろうが、本当にこれから作家を目指すのであるならば、1年1冊くらいの割合で書き続けてくれればなぁと、勝手に要望を述べてみたりしてみる。


サウスポー・キラー   6点

第3回「このミステリーがすごい!」大賞
2005年01月 宝島社 単行本

<内容>
 人気球団オリオールズの左腕投手、沢村。沢村は旧弊な体質の球団の方針に合わせず、自分のやり方を貫き続けるために、次第に周りからは孤立し始める。そんなある日、沢村に八百長の疑惑がかけられる。自分が八百長をやっていないことを証明するために沢村は一人、その陰謀の裏を探ろうとするのだが・・・・・・

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<感想>
 本書も「このミス」大賞のもう一作に負けず劣らず面白かった。この著者の筆力も素人離れしているように感じられ、終始物語に引き込まれてしまった。

 この作品はプロ野球チームにスポットを当てて書いた作品。そのチーム名はオリオールズとなっているのだが、これは明らかに巨人を意識して書いた作品だということはすぐにわかる。よって、登場する人物らを実在の人物にあてはめながら読むことができ、そういった意味でも楽しめる作品である。

 ただ、作品の全体的なリーダビリティーは十分に認められるのだが、肝心のミステリーの部分は少々薄味であったような気がする。最終的な結末は意外性が薄く、ある意味予想通りという展開であった。結局のところミステリーとしては斬新な部分が見当たらなく、パンチ力に欠けてしまったかなという感じがする。

 とはいっても、これだけうまく書くことができるのだから、良いネタが見つかればもっと面白い作品ができることは間違いないだろうと思える。また、プロ野球ファンとしては本書の続編のような作品も読みたいものである。

 なにはともあれ、期待の新人作家が出てきたということであろう。


裁くのは僕たちだ   5.5点

2009年05月 東京創元社 ミステリ・フロンティア

<内容>
 裁判員制度の施行により、普通の勤め人である高尾慎一は殺人事件の裁判員として召集される。事件は明らかに被告人が有罪と思われる事件であるのだが、高尾のもとに、被告人を無罪にしてくれと接触してくるものが現れ・・・・・・

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<感想>
 序盤はややこしいの一言。事件自体は単純なもののはずなのだが、事実をわざわざ小出しにし、少しずつ実体がわかってくるというような書き方をしている。しかし、そのような書き方をしたからといって、何らかの効果があるわけでもなく、かえって内容がわかりづらいというだけにとどまった。

 本書はタイトルのとおり、裁判員制度を用いた法廷小説のようなのだが、最後まで読み通してみると実際のところ“裁判”の部分に関してはそれほど重要ではないと感じられた。ゆえに、この作品を法廷小説として読もうとしても、その期待に応える内容にはなっていないと思われる。

 ミステリ作品として、最終的にはそれなりにまとめられているようではある。ゆえに、サスペンス・ミステリという位置づけが本書には一番適しているのだろう。そういったスタンスで読むのであれば、お薦めできなくもない。


海賊丸漂着異聞   

第7回鮎川哲也賞受賞作品
1996年09月 東京創元社 単行本
2005年03月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 御蔵島では、名主の不在中にその名主の息子に暴行を働いた弥助という男が牢屋に入れられていた。そんな中、御蔵島にアメリカの商船が漂着した。その船には4百人以上の清国人と20人余りのアメリカ人水夫が乗っていた。彼らの処遇に追われ、右往左往する島の役人達。さらにそういった状況下の中で、アメリカ船の中で船長が殺害されるという事件が起きる。そして島の中では牢獄に入れられていた弥助が逃亡するという騒ぎが起き・・・・・・

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<感想>
 満坂太郎氏は第七回鮎川哲也賞の受賞者ということだが、今までその名前は聞いたことがなかった。それもそのはずで本書の巻末の解説を読んでみると、その経歴は1931年生まれで高校教論などを経てフリーのシナリオライターとして活躍していたとの事。よって、賞を受賞して作家になったときにはすでに60歳を超えていたことになる。そして2003年に肺がんのため72歳で亡くなったとの事である。著作はこの著書の他に歴史ものの2冊を書いただけのようである。

 本書では、歴史上の人物ジョン・万次郎を登場させた歴史ミステリーに挑戦している。しかし、ミステリーとしてはあまり成功しているとは思えなかった。

 歴史ものの小説としては、フリーのシナリオライターなどを経験してきたこともあってか、しっかり書かれていると感じられた。よって、小説としてはそれなりにうまく書かれているといってもよいであろう。ただ、そこにミステリーが持ち込まれた必然性というものがわかりにくい。いくつかの事件が起こりはするものの、それらが本書で用いた背景がどこまで生かされているかという事が疑問であった。また、そのいくつかの事件も単発であり、事件相互の関連性がないことにより、それも背景を生かしきれなかった一つの結果ではないかと思える。

 どうも作家デビューするということで鮎川哲也賞を狙ったのではないかと思えるが、基本的にはミステリーを書きたかったわけではなかったのかもしれない。どちらかといえば、普通の歴史ものを正面から書くほうが似合っている作家であったのだろう。


最上階ペンタグラム   5点

2009年02月 東京創元社 ミステリ・フロンティア

<内容>
 企業犯罪の潜入捜査を行うコンサルティング会社の社員、海坂理歌。ある事件がきっかけで産業スパイを自称する、奇妙な男と出会うことに。その事件が縁となり、理歌は産業スパイと共に数々の事件に立ち向かう。
 「迷宮チェイス」
 「最上階ペンタグラム」
 「葬送シャレード」
 「楽園ギミック」

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<感想>
 普通のミステリ小説・・・・・・としか表現のしようがない。4作品が掲載されている短編のなかで「最上階ペンタグラム」のみは限定された容疑者のなかで、誰が殺人を犯したのかというミステリらしい展開がなされている。しかし、それ以外は普通のサスペンス小説というか、特に特徴のない内容。

 この作品を読んでいて気になったのは、主人公が依頼された企業に対して潜入捜査を行うコンサルティング会社の社員という設定なのだが、別にこの人物がいなくても事件の捜査に支障はないのではと感じてしまうこと。主人公がそういうあいまいな立ち位置であるがゆえに、この作品の全体的な印象がつかみづらくなっているのではないだろうか。

 と、そういうわけで読了後、印象に残りづらい作品であった。


永劫館超連続殺人事件  魔女はXと死ぬことにした   6.5点

2024年03月 星界社 星界社FICTIONS

<内容>
 母親危篤の報を受けたブラッドベリ家の長男ヒースクリフは、3年ぶりに生家へと戻る。結局、母親の死に目に会うことはできず、ヒースクリフは長男として葬儀を取り仕切ることとなる。葬儀の参加者が集まる中、翌日、ヒースクリフの妹で盲目のコーデリアが首を切断された死体となって発見される。さらには、謎の客人であるリリィジュディス・エアの死に立ち会うこととなり・・・・・・ヒースクリフは気が付くと、リリィジュディスと共に、彼女の死の1日前に戻っていることに気が付き・・・・・・

<感想>
 初めて読む作家の作品。星界社FICTIONSから新本格ミステリっぽいタイトルの作品が出ていたので、思い切って購入してみた。読んでみると、これがなかなか面白い。

 古きヨーロッパを舞台に、貴族家で起こる密室殺人事件の謎を解くものとなっている。また、死亡した者が生き返るというタイムリープの設定がとられており、それを繰り返すことによって真相へと近づいていくという試みがなされている。

 生き返りによる謎ときというと、さほど目新しいものではなく、ミステリにおいてはよく使われる手法。ただ、本書はその“生き返り”という手法をうまくミステリに用いた作品となっている。始めこそ、単に殺人事件の謎を解くべき物語なのかと思われるのだが、実はその裏に隠された目的が秘められており、“生き返り”自体もひとつの目的の中に組み込まれたミステリとして謎が解き明かされてゆくこととなる。

 設定を生かし切った作品であったと思われる。“生き返り”の設定において、少々ややこしい部分もあるものの、うまく理論立てたミステリとして成立していると感心させられる。これは思い切って、手に取ってよかったと思える作品であった。


告 白      6点

第29回小説推理新人賞受賞
2008年08月 双葉社 単行本

<内容>
 夏休み直前の終業式の日に、中学校教師は自分のクラス1−Bの生徒達に自分が教職を辞めることを告げる。それは彼女が自分の愛娘を事故で失った事が原因かと思われたが、彼女の口から娘はこのクラスの生徒に殺されたとの言葉が! 今、教師による生徒達への告発が始まろうとしていた。

 「聖職者」
 「殉教者」
 「慈愛者」
 「求道者」
 「信奉者」
 「伝道者」

<感想>
 昨年の話題作にようやく着手する事ができた。読んでみると実際話題になるほどのサプライズあり、リーダビリティありと新人作家としては驚くほどよく書けている作品であるということがわかる。ただ、内容については個人的にあまり受け入れられないかなと。

 物語は教師による生徒たちへの告発から始まり、その後、次々と視点を変えてその後の事件関係者達の様子を表してゆく構成となっている。

 こういった展開は良しとしても、内容については受け入れがたいものがあった。というのも、何となくメリハリなく最後に主張したもの勝ちみたいな雰囲気を感じ取れてしまったからである。どれもこれもが一方的な感情のみで突き進められており、全く感情のやり取りがなされないところについてはどうかと感じられた。

 とはいえ、基本的にはサプライズ小説であり、決して社会派小説という位置づけではないのだろうから細かいところは気にしなくてよいのだろう。まぁ、好みに応じて読んでいただければというところで。


少 女      6点

2009年01月 早川書房 単行本

<内容>
 由紀と敦子は中学時代からの友人で、高校2年となる現在も同じクラスである。二人は中学時代は剣道部に所属していたが、それぞれが別の理由でやめざるを得ないこととなった。そんな彼女達が夏休みとなったとき、敦子は学校に命じられ老人ホームでボランティア活動をすることとなり、由紀は自ら朗読のボランティア活動をやってみようと思い立つ。そして彼女達はそれぞれが遭遇したちょっとした出来事から、二人に関わる事件へと発展してゆくのを目の当たりにすることとなり・・・・・・

<感想>
 話題作「告白」に続く、著者2作目の作品。今作も前作に続き、ちょっと嫌な話というきらいはあるものの、前作に比べればある程度ユーモラスな話ととらえることもでき、読みやすい作品に仕上げられている。

 この作品も話がどのように転がってゆくのかまったく検討のつかない内容であり、読者を内容に惹きつけるリーダビリティは存分に感じられた。

 本書の特徴としては物語り全部に張り巡らされた伏線にあると言えよう。ただし、伏線と言ってもミステリ的な意味のものとはいえないであろう。あくまでも、小さなエピソード同士を細かくつなげてゆくという、物語上の伏線においてである。この事細かに張り巡らされた伏線が、作品にちょっとしたサプライズ的な効果をあげている。

 前作よりはアクが少ないので、こちらのほうが万人向けの作品と言えるかもしれない。ただ、その分あっさり目の内容であることも確か。個人的には文庫本で読むくらいが調度良かったかなと。


贖 罪      6点

2009年06月 東京創元社 ミステリ・フロンティア

<内容>
 かつて田舎町で起きた、ひとつの殺人事件。その場に居合わせた少女達は、その後も事件の影響を引きずることに。そして事件を引きずり続ける彼女達の人生の行く末は!?

 「フランス人形」
 「PTA臨時総会」
 「くまの兄妹」
 「とつきとおか」
 「償い」
 「終章」

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<感想>
 今作は処女作「告白」と同じような形態の小説。ひとつの殺人事件を引きずる少女達の成長後のてん末を描いた作品。

 本書では4人の女性ともう一人の人物それぞれの主観から描かれた5つの短編によりできている。一応形式としては連作短編といってよいのであろう。ただし、それぞれの短編が特に謎をひきずっているというものではなく、それぞれの作品ごとに唐突な展開により驚かされるというような内容。一応、それぞれの作品にサプライズ性は加味されているものの、基本的には告白小説というようなものと思える。

 ミステリとしてはほとんど見るべきところはないものの、小説としては色々と考えさせられる部分はある。ここに出てくる主要人物らは幼い頃に起きた事件の影響を受けるものの、基本的に彼女達は被害者といってもよい状況であり、けっしてなんらかの責任を負うものではない。その事件を引きずりながら成長してゆくこととなり、その後それぞれの人生で悲劇的な事件が待ち受けることとなる。

 ただ、よくよく考えてみると全てが昔起きた事件のせいかと言えば、一概にそうも言えず、微妙に思える点もある。とはいえ、ちょっとしたボタンのかけ違いによって起きた悲劇と考えると気の毒に思えなくもない。

 また本書は社会風刺的な一面も持っていると感じられるところもある。「告白」に引き続いて感じたのであるが、著者は学校と保護者の関係の歪みに対し、問いかけたいことがあるのではないかと推測される。

 これで湊氏の作品は三作目なのだが、ミステリとして読むべきところはだんだん無くなってきたかなと感じてしまう。また、作風にどうしても馴染めないところもあるので、今後は無理して追っていかなくてもいいかなとも考えてしまう。次作の様子を見て、読むかどうかを考えることとしよう。


月と太陽の盤   碁盤師・吉井利仙の事件簿      5点

2016年11月 光文社 単行本

<内容>
 放浪の碁盤師・吉井利仙と、彼を師と慕う16歳の囲碁棋士・槇。良い碁盤を作るための木を見つけるために旅する道中に起こる事件を吉井利仙が解決する。

 「青葉の盤」
 「焔の盤」
 「花急ぐ榧」
 「月と太陽の盤」
 「深草少将」
 「サンチャゴの浜辺」

<感想>
 囲碁の碁盤を作る碁盤師が関わることとなる事件を描いた作品。なんとなく北森鴻氏風の作品のように思えた。著者の宮内氏は主にSF作品を書いているのだが、本書は初めて挑んだ本格ミステリとのこと。

 この作品では、碁盤師の仕事というもの、若き囲碁棋士の成長、各地で起こる事件の謎、といった要素を見ることができる。ただ、どの要素の魅力にも惹かれることはなかったなと。それぞれの要素を描いているものの、どれが主なのかもわからず中途半端であり、せめてどこか惹かれるものが欲しかったところ。故に、ミステリ作品という位置づけではあるようだが、あまりミステリという捉え方もできなかった。

 この著者の処女作である「盤上の夜」という作品はジャーナリズム視点の作品であったのだが、なんとなく本書もそのような冷たい視点からの作品のように感じられてしまった。せっかく物語上のワトソン役に近いような人物(若き囲碁棋士)を出しているのだから、その視点をもっと生かしても良かったような気がするのだが。

「青葉の盤」 山で独り暮らす、女碁盤師の過去の事件に迫る。
「焔の盤」 女流棋士・衣川蛍衣がネットで競り落とした碁盤にまつわる騒動。
「花急ぐ榧」 吉井利仙が作った失敗作とも思われる碁盤の謎。
「月と太陽の盤」 対局前におきた記念館での墜死事件の謎を解く。
「深草少将」 メキシコでの囲碁普及のために海外派遣を進められた槇の心持。
「サンチャゴの浜辺」 とあるメキシコでの情景。


誰かが見ている   5点

第52回メフィスト賞受賞作
2017年04月 講談社 単行本

<内容>
 子育てに悩むも、夫の協力が得られない千夏子。子供が欲しいものの、夫が協力してくれないどろか冷淡になりつつあることに悩む結子。保育園の仕事を苦痛と感じつつも、結婚に希望を見出す春花。子供にも夫にも家庭環境にも全てに恵まれていると皆から思われる柚季。その4人の思惑と行為が思わぬところで重なり合い・・・・・・

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<感想>
 あやうく見逃すところであったメフィスト賞作品。今年出ていたのを知らずに、そのまま読み逃すところであった。ただ、内容に関しては、純然たるミステリという感じではなかったような。そんなこともあってのハードカバー作品なのか?

 内容は子育て、妊活、仕事等に悩む女性たちの様子を描いたもの。正直なところ、序盤は悩みや愚痴のオンパレードで、あまり興味がもてる内容ではなかった。なんとなく、ネットで女性の悩みや現状などが書き連ねられたサイトを見ているような感覚。

 後半に入り、それらの女性たちが交錯してゆき、直接的な関わり合いが出てくる、という展開になってからはスピーディーにページをめくれるようになった。最終的にはミステリ的というほどの事柄は起きないものの、それゆえに平和裏な内容にとどまり、救いのある小説となっているところはよかったかなと。

 まぁ、男性も女性も社会生活を送るのは大変であり、その悩みのはけ口がどこかになければ、人々は精神的に追い詰められていってしまうのだなと実感させられる。また、その悩みのはけ口をどこに求めるのかも、それはそれで難しいという事も痛感させられてしまう。


あれは子どものための歌      5点

2022年01月 東京創元社 ミステリ・フロンティア

<内容>
 「商人の空誓文」
 「あれは子どものための歌」
 「対岸の火事」
 「ふたたび、初めての恋」
 「諸刃の剣」

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<感想>
 この作品集のなかで「商人の空誓文」が“ミステリーズ! 新人賞佳作”を受賞したとのことであるが、これがそもそもミステリであるのかが疑問。どう読んでも、ファンタジー小説という感じであったのだが。

 短編集となっているのだが、全体で一つの作品といってもよいような内容になっている。旅をしながら、不思議な魔女のような存在の女を追う、謎の青年フェイ。フェイが追っているのは、何かと引き換えに人に不思議な能力を与えて、その人の人生を狂わすワジという女。ワジが作ったナイフによって人から分離した影、カルマ。彼らを中心に物語が織りなされてゆく。

 基本的な話としては、ワジが何らかの能力を与えることによって、人生を狂わせた者たちの顛末を描くという風に、それぞれの短編で描かれている。そうして最後には、その旅の終わりとして一つの結末が描かれているのだが・・・・・・なんとも消化不良で終わっているような。いくつかの事象については決着がつかぬまま終わってしまっていたような。

 ミステリっぽく紹介されている本なのであるが、全くと言っていいほどミステリが感じられなかった作品。単に中世の世界を舞台とした童話風の物語という感じであった。




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