<内容>
第二次世界大戦中、ニュージーランドの捕虜収容所で暴動が起き、ひとりの日本兵が脱走した。その脱走兵は全寮制の女子高にかくまわれることとなるのだが、それにより陰惨な殺人事件が起こる羽目に・・・・・・
ニュージーランドに住むジュリア・グレイは親の命令により全寮制の女子高へと入ることになった。それは自分の意に反するもので憂鬱な事であったが、親友のバーニィ・ロイドも同じ学校に入ることとなり、多少気を取り直していた。また、ジュリアには気にかかるもうひとつの出来事があった。それは、彼女が入る女子高は、かつて祖母が通っていた高校であるのだが、当時書かれた手記をジュリアは発見し、読んでいたのである。そこには、日本兵の脱走にまつわる事件が書かれていた。40年前にいったい何が起きたのか? ジュリアはバーニィと共に謎を解こうとするのだが・・・・・・
<感想>
新本格ミステリらしい内容の作品。過去の事件が記された手記、密室殺人事件、閉じ込められた8人の少女、次々と起こる不可解な殺人事件と、謎の要素がてんこもり・・・・・・なのだが、全体的になんかスカスカした感じが気にかかる。
あえてニュージーランドという舞台を選び、過去と現在が交わるミステリを描くというところは野心的でよいと思われる。そうして上記にあげた要素がちりばめられ、300ページという、それほど長くはない作品であるにもかかわらず、全体的に薄っぺらく感じてしまうのである。
これに関しては、とにかく物語の構成が悪いとしか言いようがない。ラストも事件の解決を一気に行えばよいのに、だらだらとぶつ切りの解決が続けられている。ネタはそれなりに確立されているのだから、書きようによってはもっと締まった作品になったのではないだろうか。
まぁ、ある意味新人らしい作品と言えるかもしれない。今後の作品に期待。
<内容>
横須賀米軍基地周辺、仕事帰りのOLが、女性が襲われているのを目撃。警察に通報するも、被害者と加害者の姿はなく、何者かの大量の血痕が残されているのみであった。一方、横須賀米軍基地のなかでは、女性の死体が磔にされているのが発見される。どこかで殺害されたのちに、ここに運び込まれた模様。しかし、米軍基地の内外で不審者の出入りはなく、基地のなかで起きた事件とみなされる。NICS(米海軍犯罪捜査局)捜査官のレアードが事件の捜査をすることに。すると、さらに似たような殺人事件が起こることとなり・・・・・・。米軍基地の内外で起こる事件、その巨大な密室のなかに仕組まれた罠の真相を見出すことができるのか!?
<感想>
鮎川哲也賞受賞者による作品。特に注目してはいなかったのだが、とあるサイトで評価されていたのを見て購入。読んでみると、地味ながらもきちんと構成されているミステリであると感嘆。それなりの佳作。
日本の犯罪において、県境をまたぐと警察の連携がとれなくなり、捜査が遅れるというのはよく聞く話。それを米軍基地の内外で行ったものが、本書である。話の中心は米軍基地内での捜査。明らかに基地の内外で起こった事件であるものの、米軍と日本の警察で連携して捜査を行うわけにはいかず、捜査官たちはジレンマに追い込まれる。ただし、基地の内外で事件が起こっているはずなのに、犯人がどのようにして基地を行き来しているかがつかめないという状況。
米軍基地を巨大な密室としたかのような謎についてはなかなかのもの。ただ、そのトリック自体はあまりにもあっさりしていた。むしろ、犯人がこのような犯罪を企て、捜査を息詰まらせたことにこそ、見るべき点があるといえるかもしれない。
思いのほか、トリック自体があっさり目で終わってしまったものの、軽く読み返してみると、全体的な構成がきちんとできているなと感じられた。一見、唐突に現れたかのような真犯人であったが、実はきちんと物語上の伏線は練られていた。派手なミステリというよりも、地道に構成されたきちんとしたミステリ小説として好感の持てる作品。
<内容>
新聞記者である可能克郎らが同窓会を開いたところ、その後、次々と同窓会に出たメンバーが殺害されていくという事件が起きた。この事件はその直前に失踪した町谷の行方に何か関係があるのか? 彼は失踪する直前に不思議な手紙を出していた。“急行エトロフに乗る”と。しかし、その急行エトロフという列車は存在せず・・・・・・
<感想>
これも復刊セレクションということで購入した本。未読の本であったので一応は手にしてみたものの、私自身があまり辻氏の作品と相性がよくないようなのでちょっと心配であったのだが、やはりこの本に対してもあまり良い印象は抱けなかった。
そもそも事件が起きてはいるものの、何故か探偵小説らしさというものを感じ取ることができなかった。どうも戦争開戦前の日本の様相を描いているという部分が多すぎるようにかんじられ、事件のほうが片手間に描かれているという気がするのだ。さらには、結局事件が起きても解決してみても、それほど不思議なことというのはなかったかのようにも思われた。
今回、この作品が復刊セレクションに選ばれたのは開戦前という特異な背景を描いた小説であるからということなのであろうか。それ以外には特にこれといった点を見出すことができなかった。復刊させるにふさわしい作品がもっとあるのではないかと思うのだが・・・・・・
<内容>
昭和24年、ミステリ作家を目指している風早勝利の高校は終戦の影響により共学となり、女子生徒らと過ごさねばならぬこととなった。そうしたなか、風早が所属している推理小説研究会と映画研究会と合同で(といっても全部でわずか男女5名)修学旅行代わりの一泊旅行を計画する。顧問の女傑、別宮操と共に湯谷温泉を訪れるものの、そこで彼らが遭遇したのは密室殺人事件であった!
<感想>
辻真先氏の作品を読むのは久しぶり。牧薩次名義の作品を読んで以来であろう。本書は2020年のランキングを沸かした作品であり、そのランキングに惹かれて購入した作品。ただ、これはランキングを見る以前に買って読んでおいたほうが印象が良かったかもしれない。ランキング1位とか聞いてしまうと、どうしても過剰な期待をしてしまうがゆえに。
昭和24年を舞台としたミステリ。ミステリのみならず、当時の状況・風俗的なもの、そういったさまざまな情景をうかがうことができる内容となっている。特に学生目線からの終戦後の日本を見るという内容自体が極めて貴重。
そういった舞台設定の中で二つの殺人事件が起きる。ひとつは密室で発見された死体。もうひとつは嵐のなかで発見された首を切られた死体。これら殺人事件を誰が、どのようにして行ったかが焦点となる。本書において一番の注目点は“動機”と何故にこのような形で犯罪を成したのかということであろう。それが登場人物のキャラクターや時代背景などにマッチしていて、うまく構成されていると感心させられるものとなっている。
ただ、手放しですべて良いかというと、そういうわけではないようにも思える。というのは、それら事件があまりにも無理くりというか、それらトリックが本当にぶっつけで成し得られるものなのかがとにかく微妙。また、痕跡を残さずにできるかということも疑問に思われる。
と言いつつも、そういった荒でさえも戦後の騒乱記と、物語の勢いで成しえてしまうというような妙な説得力を感じてしまうことは確か。そして何よりも“たかが殺人じゃないか”というタイトルが表す時代背景の虚無さに多くのものが込められているように思え、全て納得させられてしまうようなところもある。
<内容>
光岡めぐみは、社長の父親と女優の母親を持ち、何不自由なく暮らしてきた。今ではその両親と疎遠となったものの、保険会社に気楽に勤め、小学校時代の同級生に三股をかけて貢がせて、ぜいたくな暮らしを続けていた。そんな彼女の元に何者からか、脅迫するような文章が届き、被害は軽くて済んだものの、次から次へと狙われることとなる。かつて小学校時代にいじめていた男からの復讐であるのか? 光岡めぐみは偶然、パーティーで知り合った大学准教授と名乗る男と犯人探しをすることとなり・・・・・・
<感想>
内容が過去に起きた小学生時代の陰惨ないじめ事件と、それにまつわる現代における復讐というもの。そういった内容であるので、陰鬱で読み進めづらいかなと思ったのだが、意外や意外、なかなか読みやすい作品となっている。
いじめに関する描写が残酷で胸糞悪いという感触は間違いないのだが、ストーリー上、単なる過去の復讐なのか? ひょっとすると裏があるのではと、考えさせる内容になっているので、結構内容に引き込まれる。さらには、登場人物らが思いの外、意外な行動をとったり、裏の裏をかいたりと、なかなか事の真相を予想だにさせないものとなっており楽しませてくれている。
サスペンス・ミステリとして、なかなかよくできた内容であった。主人公である光岡めぐみという人物が、決して良い人間ではないのであるが、変に落ち込んだりせず、自分勝手に前向きに生きていく様が、ここまでくるとむしろ心地よいという感じになっているのだと思われる。良い話でない割には、内容を楽しむことができるというのは、そこは著者の力量なのであろう。
<内容>
年老いた母と私と小学生の甥との三人で温泉に旅行に来ていた際、甥がひき逃げされて死亡するという事件が起きた。事件当時、目撃者がいたものの犯人を特定するには至らず、捜査は難航していた。甥の死を不憫に思い、なんとか敵をとることができないかと思っていたとき、私はとある証言に矛盾があることに気づき・・・・・・
<感想>
90歳になろうとする土屋氏が描いたミステリ作品、ということで、どんなものが書きあがっているかと読んでみたのだが、ちょっと期待とは外れてしまった内容であった。
まず、ミステリ作品というには本書には、ほとんど謎というものがない。事件と言えば甥がひき逃げにあったということで、その犯人探しとなるのであるが、肝心の犯人もすぐに特定されてしまう。その後は、主人公である被害者の叔母による復讐劇へと展開してゆくこととなる。
よって、中盤はある種の倒叙小説ともとることができ、その物語に引き込まれないこともなくはない。ただ、その後を読んでいくと全体的な構成がうまくいっていないと強く感じられてしまった。
なかなか事件が起きない序盤は、中盤に事件が起きてからの展開により払拭されるので問題はないのだが、後半の展開はいただけなかった。というのは、中盤で行っていた事が、そのままそっくり内容をなぞるように語られているのである。これは二度手間以外の何者でもない。
ということで本書はもっとページ数の短い作品で良かったのではないだろうか。二度手間の部分さえなければ普通のサスペンス小説として成立していたの思われるのだが。
<内容>
夏の終りにロートレック荘に集まった青年たちと美貌の三人の娘。優雅なバカンスのはずであったが、二発の銃声が静寂を破り、惨劇の始まりを告げる。一人また一人と殺害されていく娘たち。犯行は外部の人間によるものなのか? それとも・・・・・・
<感想>
昔、筒井康隆氏の作品で新潮文庫から出ているものを集め、結構な数の作品を読んだ覚えがある。そのほとんどを手放してしまったのだが、唯一手元に残していた作品がある。それがこの「ロートレック荘事件」。何故かというと、これが本格推理小説となっていたからである。
内容についてはご存知の方も多いと思われるが、未読の人については、一切情報を得ずにまず読んでいただきたい。そうすれば驚かされること間違いなし。意外なミステリに遭遇することができるであろう。
今回、私は再読であるので、ある程度中身を知った上での読書となる。初読の時は、フェアではないと感じたのだが、再読すると何気にそんなことはないかと。では、きっちりとフェアかと言われると、それも迷うところであり、そうしたフェアとアンフェアの狭間にあるところがこの作品の特徴であると思われる。
そうした危ういバランス感覚のなかで披露されるミステリ模様が魅力と言える作品ではなかろうか。印象に残ることは間違いのない作品。
<内容>
「夜 市」
「風の古道」
<感想>
日本ホラー小説大賞の受賞作が文庫化されたので購入。作家である恒川氏の名も何度か耳にしたことがあり、気になっていた作品・作家であった。
内容は「夜市」のほうは、子供の頃に一度だけ行ったことがある謎の夜の市場“夜市”に再び足を踏み入れた青年とその彼女との物語。「風の古道」もある種似た内容であり、一度だけ道に迷って踏み入れた謎の古道に、再度踏み入れることとなった少年の物語。
「夜市」のほうは、男女のカップルで市場へと行くこととなり、「風の古道」は主人公の少年とその友人とで古道へと踏み入れる。どちらの話も単独ではなく、ふたりで行動するというところがそれぞれポイントとなっている。
内容からすれば、「夜市」のほうが凝っていて、より物語としての完成度が高いような気がする。ただ、この2作品は構成云々よりも、その物語の雰囲気にこそ着目すべきではないかと感じられた。
どちらもどこか懐かしさのようなものが感じられる作調となっている。一応舞台は現代であるはずなのだが、どこか昔話を読んでいるような感触を受ける。将来、何十年か後にこの作品を読めば、実際のところ本当に昔話として成立するような、そんな作品と感じられた。これは、ただ単にホラーというくくりにするだけではなく、後の世代へと語り続けてもらいたい物語である。
<内容>
女子高生・吾魚彩子の姉は現職の刑事。一度事件を解決してしまったものだから、困ったことがあると姉はすぐに彩子の下に事件を持ってくるようになった。彩子は同級生の京野摩耶と桐江泉、そして憧れの祀島龍彦らと共に数々の難事件に挑む。
1994年から1995年にかけて、講談社の少女小説文庫に津原やすみ名義で書き下ろした2編に加え、新たな一編を書き加えた作品。
「冷えたピザはいかが」
倒叙物。自宅にて作家が撲殺されていたのだが、死亡時刻を狂わせるためか、部屋の温度がエアコンによって30度に上げられていた。そして宅配ピザの空箱があったものの、殺された作家の胃からはピザが発見されなかった。
「ようこそ雪の館へ」
雪密室。その部屋へと行くには雪の上に足跡を残すことになる。しかし、該当するような足跡は見つからない。犯人はいったい? そして残されたダイイング・メッセージは何を指し示すのか。
「大女優の右手」
女優が舞台での本番中に死亡するという事故が起こる。舞台は代役によってしのげたものの、当の死体が消えうせるというさらなる事件が。そしてその後に見つかった女優の死体からは右腕が切断され無くなっていた。
<感想>
「冷えたピザはいかが」
読み始めたときは、内容が少々ごちゃごちゃとしているように感じられた。しかし、事件が解決されるとそれらがすんなりとまとめられてしまった。エアコンの設定時間の謎とピザから導きだされる論理は見事なものである。第1編から推理小説としての内容の濃さに度肝を抜かれた。
「ようこそ雪の館へ」
中盤で推理される仮説がなかなか面白かった。それで解決だといわれれば、案外納得させられてしまうかもしれない。そしてラストではそれを上回る、説得力のある解答がなされるのだからたいしたものである。本編で一番感心したのはダイイング・メッセージから犯人を指摘しようとする試み。大概の小説ではダイイング・メッセージというのは添え物で終わってしまうことが多いのだが、それを正面からとらえた試みは見事といえよう。
「大女優の右手」
最初の2編が秀逸なできと感じたために、ラストはどうかと期待したのだがやや期待はずれに終わってしまったように思える。事件が提示されたときには、さまざまな謎が含められているように感じられたが、最終的にはポイントの少ない事件として終わってしまったことにやや不満。とはいえ、それなりに水準はクリアしていると思える。
全編読んでみて、かなり密度の濃い推理小説になっていることに驚かされた。それぞれのキャラクターの役割も立っているせいか、登場人物も楽に覚えることができ、物語の中にすぐに引き込まれていった。キャラクター小説としても完成され、推理小説としても完成された見事な本であるといえよう。できればシリーズ化してもらいたいものであるが、このクオリティを保ち続けるのはなかなか困難であろう。そう思わせるほどのでき栄えの本である。単なるライト系のミステリーなどと思わずにぜひともご一読あれ。
<内容>
「百合の木陰」
「犬には歓迎されざる」
「初めての密室」
「慈悲の花園」
<感想>
“ルピナス探偵団”というシリーズで本にまとめられているのは、これが2冊目。その2冊目の最初の短編で、“ルピナス探偵団”は終焉を迎えるといっても過言ではないできごとにみまわれる。探偵団としてさまざまな事件をともに解決してきたうちのひとりが25歳という若さで病死してしまう。残された3人は、彼女が死の間際に行わんとした不思議な行動の謎を解くために探偵活動を開始する。
この一連の作品を読んでいくと、3人の少女と1人の少年の4人こそがまさに“ルピナス探偵団”であるという強い絆を感じ取ることができる。本書では4つの短編を時系列を逆に並べて、過去へと遡っていく順番で配置している。その試みにより、より深く“ルピナス探偵団”というものを体現できるように描かれている。
本書はミステリ作品とはいえ、どちらかといえば物語の要素が強いように思える。というのも、それぞれの事件においてスポットが当てられるのは“動機”についてだからであろう。
何故、土地を寄付して、道が蛇行している公園を作ったのか?
不可解な犯行の動機とは?
現場を何故、密室にしたのか?
何故、ウサギ小屋が犯行現場となったのか?
これらの謎にルピナス探偵団が挑む事になる。
上記で物語の要素が強いといったように、特に理路整然としたミステリが展開されているというようには感じ取れなかった。それよりも探偵たちが目に見える事実から、推理というよりは、犯人達の物語を構築していくというような手法で事件を解決していったように思える。そして、それぞれの謎を4人のうちの誰が解いていくかというのもまた興味深いところである。
というわけで、ミステリ小説云々よりも、よい作品を読んだという気分である。この作品を読んだことにより、よりいっそうルピナス探偵団に愛着がわいた気がする。2冊で終わらせるなんていうのはもったいない。できれば過去に遡っての作品を、これからも書いてもらえたらと期待せずにはいられない。
<内容>
他片(たひら)が高校を卒業してから四半世紀の月日が過ぎようとしていた。高校のころはブラスバンド部に入部しており、充実した日々を送っていた。そんな他片は現在、赤字続きの酒場を経営していた。ある日、他片たちのもとにかつての仲間達とブラスバンドを組んで演奏しようという話が持ち上がる。時間に余裕のある他片は、ブランスバンド部時代のことを思い出しつつ、旧友たちと連絡をとり、ブラスバンドを組もうと試みる。
<感想>
青春小説としてよくできている。現在から過去を思い出すという視点で描かれており、ほろ苦い思い出と現在の実情とがバランスをとりつつ語られてゆく。古きよき思い出を同窓会と共に思い出していくというような風情が感じられ、とてもうまく描けている。
これは過去にブラスバンドを経験した事のある人のほうが、より深く内容にのめり込む事ができるのではないだろうか。私自身は、楽器演奏などとは無縁であるが、それでも楽しんで読む事はできた。
やや、ブラスバンド部のメンバー達の送ってきた人生がすさまじすぎる様な気がしなくもないが、誰が読んでも楽しむ事の出来る作品に仕上げられている。広くお薦めできる作品。
<内容>
昭和三年、唐草七郎の探偵社で働く岡田明子に直接に依頼がもたらされた。顔をベールで隠した謎の婦人から瑠璃玉の耳輪を付けた三人の女を探し出し、指定した期日に3人を連れてきてもらいたいというのだ。探偵・岡田明子は自身の特殊な能力を生かして、耳輪を付けた女を捜そうとする。すると、その女たちを付け狙う謎の男の存在が明るみとなり・・・・・・
<感想>
脚本を小説とした作品のようで、オリジナルの小説ではないようなのだが、そんなこと全然関係なく楽しめる。昭和の雰囲気が色濃く出た冒険綺譚。ミステリとか、探偵小説などというよりは、冒険ものとして楽しめる作品。
最初にオープニングにて、貴族の息子が登場するのであるが、彼が物語の中心人物かと思いきや、本編が始まると全くと言ってよいほどなりを潜めてしまう。むしろ、オープニングでは脇役と思われた、女探偵・岡田明子のほうが全編読み終えてみれば中心人物というに相応しかったりする。また、序盤では全く存在感のなかったとある人物が、実は重要な人物であったりと、どのような展開になるのか全く読めない冒険譚であった。
岡田明子が主たる登場人物といってもよいのだが、実際には群像小説といってもよいほど、視点が成り代わって物語が語られてゆくこととなる。スリと刑事の視点、サーカス芸人たちの話、放蕩と逃亡を繰り返す女、変態性欲を抱える男。こうした人物たちに対し、自己催眠によりさまざまな人に成り代わることができるという特殊技能を持つ探偵・岡田明子の捜査が加わってゆく。また、岡田明子の上司である唐草七郎の活躍も見逃せない。
群像小説となると、物語の流れを損なってしまう作品が多い中、本書は実にうまく描かれている。多くの人々の行動がやがて一つの大団円を迎える方向へと収束していく様は見事。さらには、登場人物一人一人が生き生きと行動し、それぞれ存在感を発揮しているところもすばらしい。昭和という時代が色濃く残る冒険活劇として脚本に描かれていたものが、見事に小説化された作品。
<内容>
「爛漫たる爛漫」
「廻旋する夏空」
「読み解かれるD」
「Coda」
<感想>
タイトルが気になり、しかもロックバンドが関わるミステリ小説という事で、面白そうだと思って購入した本。知らなかったのだが、実はこの作品、すでに文庫で出ていた三冊をまとめて単行本化したものであった。
読んでみると、青春小説、ロックバンド小説、ミステリ小説、少女の成長小説、そういったものが入り混じった内容であった。ただ、基本的には少女小説という赴きが強いという印象が残った。実際、著者の津原氏は以前少女小説を書いていたようである。
どうも全体的に、何かを強調するという部分が少なく、どれもこれもが書き足りないのではと感じてしまった。ミステリとしては、最初にロックバンドのボーカルが亡くなり、その死を追うというものが全体的なテーマとしても位置付けられる。ただ、その解決に関してはいまいちであったような。また、ロックバンドを描いたにしては、華々しい部分がなく、あまりにも地味な活動しか描写されていないというのももったいないと感じられた。
そんなこんなで、単に事件に関わった少女の成長物語を描いたのみという感覚しか残らなかった。しかし、この主人公に対してもあまり感情移入できなく、出だしはひねくれ者として描かれていたものの、これだけ人望があるのであれば、学校生活ももっと違った形で送ることができたのではないかと疑問に思ってしまう。このへんは、私のような年代の者が読んだ故に共感できないだけで、若い女の子が読めば共感できるのであろうかと考えてしまう。個人的には何もかもが中途半端なままで終わってしまったなという感じ。
<内容>
男は何の記憶を持たず、手斧を持ったまま、とある部屋のなかで突如覚醒する。そして、見知らぬ女性を発見し、二人で情報の交換を行うことに。その後、彼らは発見した死体の消失、さっきまであったはずの壁の瑕の消失等々、さまざまな奇異にさらされる。やがて二人は、自分たちが置かれた状況に気づき始め・・・・・・
<感想>
メフィスト賞受賞作の再読。この「歪んだ創世記」が出たのも、もはや20年前。久しぶりに読んだのだが、そんなに色あせていない気がする。また、当時読んだときよりも、今の年になって読んだほうがこの作品に対して、より好意的に捉えることができたように思われる。
記憶をなくした男女が、怪しげな家のなかで怪異に遭遇しながら、徐々にその状況を理解していくという話。この“記憶をなくしている”という時点から、すでに普通のミステリではなく、SF的な作品として捉えるべき内容であることがわかる。ただ、物語を読んでいくと厳密にはSFというよりは、メタ・ミステリというジャンルに相当する内容であると気づかされる。本書はある種、神の視点ともいえる作家の目線を常に意識させるような観点から描かれている作品なのである。
そうした奇妙な視点から描かれた、独特なミステリが展開されていくこととなるのだが、最終的なカタストロフィが描かれる直前くらいまでは、非常にうまく出来ていたなと感嘆させられる。ただ、そこから最終的にどのようにして持ってゆけば、完璧な展開と言えるのかは、なんとも想像がつかない。むしろ、この辺がメタ・ミステリの限界なのであろうかとも考えざるを得ない。
よく言えば奇書、普通に言えば変な本ではあるものの、何気に読んでいる最中は心躍らされ、意外と楽しめたかなと。こういう一風変わったミステリもたまには悪くない。
<内容>
三人の幼児の腹を切り裂いた怪物が十九年後に蘇った。いわくつきの屋敷の地下室には臓腑をさらした幾多の死体。警察が包囲する中、犯人はどこに消えたのか。謎の中心には不幸に取り憑かれた芙路魅(ふじみ)という少女が。酸鼻きわまる連続猟奇殺人の「間」に流れ込んだ「魔」の正体は?
<感想>
前作から少し間があいての作品である。まだ、四作であるのでこの作者がどういった形式の物を書くとはうまくはいえない。あえて、いうなれば、「ミステリのようでもあり」というところ。この作品でもそうなのだが、ミステリとホラーの狭間であり、それが融合しているわけではなく結末の部分でどっちつかずになっている気がする。
結構、この著者の作品は導入部はうまいと思う。しかし、ながら後半に進むにつれてそれらが破綻してしまいがちになる。ある程度のリーダビリティはあるのだから、ミステリや謎というものに囚われずにもう少し自由に書いたほうがいいと思うのだが。(すでにそうしているのかもしれないが)
<内容>
・・・・・・よ、水兵。敵が目の前にいるぞ! さあ、どうする?
・・・・・・殺して、殺して、殺しまくります!
監獄から出所したばかりの元SEAL隊員コウイチ=ハヤシ。彼が新しく住み着いた北米の田舎町に、突如、E.T.が出現! 町に殺戮の嵐が吹き荒れる!! 生き残る事はできるのか!?
<感想>
SFパニックホラー小説。突然の宇宙人の襲来。地域的規模の虐殺。宇宙人との遭遇により逃げ惑う田舎町の人々。運命はいかに?といったものだが、なかなかのエンターテイメント小説に仕上がっておりリーダビリティは十分にある。しかし、全編読み通してみて内容はというと、短編小説で十分な内容にも思える。特に、もしラストの部分を強調するとするならば、似たようなSF短編はいくらでもあるような気がする。それを考えるとページ数が多すぎるようにも思える本書。