<内容>
小学6年生の少年・佐倉ハルは将来NASAのエンジニアになることを夢みていた。ハルは実際に、人の手を借りず、自分の手で風船ロケットを打ち上げ、今もまた新たな風船ロケットを飛ばそうと計画をしていた。そんなある日、彼のクラスに金髪少女が転校生として現れ・・・・・・
<感想>
ここで児童小説を読まされてもなぁ、というのが素直な感想。別にこの内容であればミステリという場ではなく、他にいくらでも作品化できるであろうに。そんな風に感じずにはいられない、小学6年生の男の子の夢物語が繰り広げられる小説。
佐倉ハル少年は、NASAのエンジニアを夢みて、ひとり孤独に風船ロケットの打ち上げを計画する。何故、彼が孤独であるのかが、読んでいる途中気になるところなのだが、それがこの作品のキモとなる部分でもある。そうした自分の世界のなかで孤独に過ごす彼のもとに、金髪少女が現れ、やがて邂逅を遂げることとなる。
いや、作品自体は決して悪くはない。それどころか、かなりよく出来た小説であると思われる。最後まで読み通せば、からなず心に何か残るであろう作品といっても過言ではない。個人的には、中学生くらいの頃に読みたかった本。
<内容>
元総理大臣の孫である小学生が誘拐され、政府に要求が突き付けられた。「財政赤字と同額の1085兆円を支払うか、巨額財政赤字を招いた責任を公式に謝罪せよ」と。前代未聞の要求に国が揺れる中、警視庁は犯人の特定を急ごうと捜査を開始するのであったが・・・・・・
<感想>
「特命捜査官」と並んで第12回「このミス」大賞の大賞を受賞した作品。出来栄えを比べてみると、どっちもどっちというか、どちらも似たような印象の内容。
本書は出だしは警察小説っぽく始まるものの、その後の展開は警察小説らしからぬもの。事件を描いた作品というよりも、日本国に対する不平・不満を切々と述べ続けるという展開。言いたいことはわかるのだが、それが小説としてうまく取り入れられているかは微妙なところ。また、構成は群像小説的になっているわりには、意外と書き方がうまく、読みやすいと感じられるものとなっている。ただ、登場人物が多い分、やりたいことが浅く広くとなってしまっている。
この作品に対する不満は「特命捜査官」でも同様に感じたことなのだが、大風呂敷を広げながらも、それをきちんと収束していないこと。収束どころか、それを収めようとする気配さえないという感触が強かった。結局これでは、言いたいことを言っただけで終わってしまったというだけに過ぎないのでは。
<内容>
コーヒーショップを経営する桧山貴志は、4歳の娘と二人で暮らしている。妻は約4年前に殺害され死亡していた。彼女を殺害したのは三人組の13歳の少年であった。少年法に守られた彼らを前に、桧山貴志はやるせない気持ちを抑えながら、今までなんとか生きてきた。そんなある日、桧山のもとに警察がやって来る。なんでも、桧山のコーヒーショップの近隣で、かつて加害者であった少年の1人が殺害されたというのだ。その事件が起きたことを機に、桧山は加害者の少年たちがその後どのような暮らしをしていたのか調べ始めることに。すると、何者かによって、被害者の元少年たちが次々と狙われ始め・・・・・・
<感想>
今回が初読。書店に並んでいるのを何度も見たことがあったが、今まで読まずに済ませてしまっていた。今回新版が出たことを機に、一度は読んでみようと思い立った作品。
これは良くできた作品。江戸川乱歩賞受賞も納得。一見、少年犯罪に対する復讐のような話から、後半では話が二転三転してゆくという見せ場満載の内容。内容に引き込まれ、一気に読み終えてしまった。
ある種、少年犯罪に警鐘を鳴らすような作品であると思われる。ただ、その“少年犯罪”を取り上げて、被害者の気持ちにスポットを当てるというような作品とは、ちょっと異なるものとなっている。というのは、話が二転三転することにより、被害者と加害者の立場が入れ代わり、入り乱れることにより、“少年犯罪”というスポットからは、ぶれるものとなっていたように思われた。
よって、題材自体が重いので、こういう言い方はそぐわないかもしれないが、個人的にはこの作品はエンターテイメント小説であると感じられた。少年犯罪にメスを入れるというテーマを扱った小説ではなく、あくまでも読者を惹きこむエンターテイメント小説であると。
<内容>
「リンゴォ・キッドの休日」
神奈川県捜査一課の二村永爾は休暇中にも関わらず署長からの特命を受けるはめに。別々の場所で、同じ拳銃にて殺害されていた男女の死体。公安が動いているというこの事件。いったい誰がどのような目的で・・・・・・二村はこの事件を調べる事となったのだが・・・・・・
「陽のあたる大通り」
二村は高校時代にバッテリーを組んでいた吉居から、知人の相談に乗ってやってくれと頼まれる。その依頼の主は映画女優の浅井杳子。なんでも杳子は何者かから脅迫を受けているのと言うのだ。事件を調べていた二村であったが、調査の途中で吉居の自殺体に出くわす事となり・・・・・・
<感想>
ひと言で言ってしまえばわかりづらかった。読む前はてっきり主人公は私立探偵かと思っていたのだが、そうではなくて捜査一課の刑事。この一刑事が何故、上司の依頼によって管轄外の事件の捜査をすることになるのかと言う事がまずわからない(優秀だからと言う事なのだろうか)。また、事件自体もわかりづらい。結局は単純な事件でしか無い様にも思えるのだが、それをわざわざ色々な方面からかき回し、わかりづらい事件にしてしまっているような気がする。さらには事件自体が最終的にどのように結末をつけて終わらせるべき事件なのかという事がはっきりしないまま終わってしまったいう感じであった。
と、そんなこんなで私が期待をしていたハードボイルドものとは違うものであったと思える。それなりに評価を得ている小説のようであるが、私にとっては敷居が高かったと言う事か。
<内容>
二村は知人から盗まれた死体を探し出してもらいたいと頼まれる。その遺体は医科大学の処理室から消えたというのだ。死体の主は死後に死体を提供するという遺書を残した医大生。二村は怪しいとされる、その医大生の友人を訪ねていくことにするのだが・・・・・・
<感想>
「リンゴォ・キッドの休日」に続き、二村永爾が活躍する第2作目。
前作を踏まえて、今回の作品を読みながら考えたのは、この作品は早々とページをめくっていくというものではなく、ゆっくりと回り道をしながら、独特の作風を楽しみつつ読んでいくというスタンスで取り組むのが良いのだろうということ。ということで、ゆとりのあるときにじっくりと読んでもらいたい小説である。
最初は大学病院から盗まれた死体の行方を捜してもらいたいと頼まれる二村なのだが、物語が進むにつれて話は混沌としてくる。わがままなお嬢様とその彼女を取り巻く人々(学生、社会人、親族含めて)が出てきたり、拳銃の密売組織が関わってきたり、消えては現れる死体と謎の精神病院などなど、全容を把握するのはなかなか難しい。
そしてさらに物語を混乱させるのは前作でも書いたような気がするが二村が何を基準として行動しているのかがよくわからないこと。最初の依頼はとりあえず途中で片がついたようにも思えるし、その後からはお嬢様の手助けをしようとしているのか、殴られた相手に仕返しをしようとしているのか、何を目的に動いているのかがよくわからない。少なくとも、事件の全てを解決して警察に引き渡す、という考えを持っているようには感じられなかった。
ということで、独特の作風を楽しむという分にはよいのだが、できれば話自体をもう少し簡潔に書いてくれれば、もっと読める小説になるのになぁと思わずにはいられない。しかし、あえて一見さんお断りのような敷居を設けて、読みたい人だけ読めばいいというような心意気が感じられなくもない。
まぁ、こういうのが好きな人であれば、とことんはまることができる小説であるといったところか。
<内容>
二村は偶然出会ったビリー・ルウと名乗る自称飛行機乗りと知り合い、たまに飲み交わす仲となる。ある日、二村はビリーに呼び出され、車でスーツケースを運び、彼がジェット機で去るのを見送ることとなる。後にビリーには殺人の容疑がかかっていたことが発覚する。ビリーの逃亡の手伝いをしたということで捜査の第一線から外される二村。それでも、二村はビリーの無実を信じ続ける。そんなとき、著名な女流ヴァイオリニストから行方不明となった養母探してもらいたいと依頼され・・・・・・
<感想>
読み始めて、これは矢作俊彦版「長いお別れ」であるということに気づく。よくよく考えてみれば、タイトルからしてそうだったと後から気づく事に。
内容は大きく異なるものの、展開はそのままと言えよう。刑事の枠からはみ出し続ける二村が、友人であり、後に容疑者となるビリー・ルウとの友情を抱き続ける。
物語としては「長いお別れ」以上にごちゃごちゃしている。その理由としては、事件をひとつに結び付け過ぎている事に他ならない。起こる全ての事象を同一ラインに並べてしまおうとしたり、または似たような名前の異なる人物が登場してきたり、また事件に直接関係ない二村の友人達のほうが印象が強く、事件に関与している者達のほうが影が薄かったりと、どこかバランスを欠いているように思えた。
ただ、正典である「長いお別れ」のほうも一読しただけではよくわからず、何度も読み直してようやく大枠がわかるようになったことは事実である。するとこの作品も何度か読み返してみれば、また新たなる発見が出てくるかもしれない。少なくとも、何度か読み直すに値する作品であると言うことは確かだと思える。
<内容>
沖縄でヤクザを続けるヨシミは、その生活に嫌気がさし、組で取引に使うための現金を強奪し、島から逃げることを計画する。ひとりでは計画を果たすのが難しいので、同じ組のなかで、同様にくすぶっている若手の彬を誘い、計画を実行する。しかし、ヨシミは思いもよらず、組長を射殺してしまうこととなり、事態は一変する。なんとか事件をごまかしつつ、現金だけを奪い、逃亡をくわだてようとする二人であったが・・・・・・
<感想>
久々に国内ノワール小説を読んだという感じである。読み始めた初っ端から、主人公である二人の男は、最終的にはどうにもならない羽目に陥るのだろうなと予想せざるを得ない。それくらい行き当たりばったりというか、全く計画性なしの逃亡計画が始められてゆくのである。
それでも話全体が暗くならないのは、主人公の二人がやや能天気というか、お気楽に事態を考えているところ。いや、気楽に考えているというわけでもなく、のっぴきならない状況にずいぶんと追い込まれているのだが、肝心なところで能天気になるという始末。そんなこんなで、ほとんど思いどおりにいかない計画を推し進めつつも、何気に沖縄に血の雨を降らせていたりする。
基本的にこの一冊のみで完結しているにも関わらず、実はまだ続きがあるのではないかと思わせるようなしぶとさを秘めていると感じるのは私だけだろうか。タイトルにあるように、犬ならではのしぶとさというのもあるのではと思ったのだが・・・・・・仮に続編があったとしても、この面々、また同じようなことしかできないのだろうなと。
<内容>
静岡県知事選挙を目前にして、前文部科学省事務次官であり第二十六代目由比本陣当主・神谷孝範氏が殺害された。そして、同日同時刻に東京で起こった、もう一つの“密室殺人事件”。複雑に絡み合う人間関係、そして利権問題。二つの不可能犯罪の裏に隠された謎とは!?
<感想>
一級品のミステリに仕上がっていると思う。登場人物の恋愛感情などが結構前面に押し出されているせいか、その分サスペンスドラマ調に感じられてしまうのは愛嬌といったところか。
出来としては申し分ないのだが、この作品で一つ言いたくなるのはなんといっても“題名”であろう。たしかに作品を読めば“本陣殺人事件”という題名をつけたくなるのはわかるのだが、これが横溝正史氏の「本陣殺人事件」とリンクして考えるとまた異なる感想を述べたくなる。作中で“密室殺人”を二つ提示しているのだがその解決が“密室”というものを正面から捕らえているかというと、どうだろうかと首をかしげたくなってしまう。やはり「本陣殺人事件」を意識するならばもう少し“密室”に対する取り組み方等、先人の作品を意識しても良かったのではないかと思う。まぁ、異なる題名だったらまた違う評価になったのではないかという反面、その本を手に取っていたかどうかと考えると複雑なところではあるのだが。
<内容>
代理母で生計を立てている小田桐良江は、かつて出産した子供が虐待されているのを知り、発作的にその子供を連れ帰ってしまう。そんなとき、良江の知り合いの歌舞伎町で働く田代と赤星、そして元相場師の張龍生が集まり、一つの誘拐計画を企てる。そのスローガンは「身代金ゼロ! せしめる金は5億円!」
<感想>
うーーん、読んでいて感じられた欠点を全て挙げるとしたらきりがない。最後まで読んでみて、面白くないということはないのだが、それでもやはり粗が目立つ。強く感じた部分をあげるとするならば、登場人物が多すぎるということだろう。この身代金計画を行うにあたって、これほど登場人物が必要だろうか? と思うことが一点。また、物語は三すくみ、四すくみの展開となっているのだがこれも人を多く出しすぎだと感じられる。1対1の展開で十分だったのではないだろうか。さらには、物語の内容を身代金計画に重きを置くのか、人情物語に重きを置くのか、どちらかにはっきりと決めたほうがよかったのではないだろうか。
結局のところ、大賞というよりは佳作という感じの本だと思う。なんだかんだと文句をつけはしたものの、大賞を受賞していなければここまでは言わなかったであろう。大賞を受賞したことが著者にとって不幸なことにならなければと望むのみ。こんな感想にくじけず次回作にとりかかってもらいたいものだ。
<内容>
「三人書房」
「北の詩人からの手紙」
「謎の娘師」
「秘仏堂幻影」
「光太郎の<首>」
<感想>
タイトルの“三人書房”というのは、かつて江戸川乱歩が作家になる前に、自分の弟と3人で古本屋を営み、その店名につけたものである。三人書房に持ち込まれる事件の謎を江戸川乱歩が解き明かしていくという連作短編集。
時代背景を絡み合わせて謎を紐解いていくという行為が全体的にマッチしていて、よくできた作品と思われた。これはなかなか良い作品だと思われた。史実に絡み合わせている部分もあると思われるが、私自身はその時代の細かい事象についてはそこまで詳しくないので詳細は不明。ただ、これらの細かい事象のそれぞれをしっかりと史実に当て込んでいたとすれば、これはかなりの手腕だと感嘆するもであろう。
特に面白かったのは「秘仏堂幻影」。これは葛飾北斎に絡む謎と、秘仏が存在するのかしないのかという謎を絡めた事件を描いたものとなっている。事件の真相についてもなかなか壮絶なものでありながら、その後のカタストロフィの描き方まで、見事な流れであったと感じられた。これはなかなかの力作。
全体的に良い雰囲気で描かれた作品であった。謎だけ紐解くとそれほどでもと思われつつも、そこに時代背景と江戸川乱歩を含む著名人をうまく絡み合わせたところが作品として栄えた要因だと思われる。ちょっと渋めのミステリを堪能できる一冊。
「三人書房」 有名女優の死と古本から発見された手記との絡みの謎。
「北の詩人からの手紙」 浮世絵の贋作にまつわる謎。
「謎の娘師」 舞台で行われた出し物と、その失敗にまつわる謎。
「秘仏堂幻影」 秘仏の存在の謎と、その裏に潜む葛飾北斎の謎。
「光太郎の<首>」 ブロンズ像の首にまつわる盗難事件の謎。
<内容>
「オシラサマ」
「外法頭」
「百物語」
「秘 薬」
「生人形」
「忘れない熊楠」
<感想>
デビュー作の「三人書房」が面白かったので、今作もまたミステリ・フロンティアから出たこの作品を期待して読んでみたのだが、こちらは正直なところ、さほど面白みがなかった。
探偵譚というよりは、奇譚集みたいな感じである。特に謎を解くというようなものではなく、そのほとんどがちょっとした妙な話を語ったものとなっている。民俗学に絡めて書いたようではあるが、雰囲気のみ、それっぽいというような感じであった。
また、色々な史実の登場人物が出てくるものの、それらが名前のみであり、どのような人物なのかと言うことが一向に作品からは伝わってこなかった。それゆえ、有名人の名前を出しておけばよいというような雰囲気になっていて、そういったところも、あまり面白みを感じ取れなかったところである。
と、そんなわけで期待をしたものの、あまり読みどころがなく残念な感じであった。デビュー作のみ、良かったということで終わってしまうのはもったいないので、一応次作に期待したいところ。
<内容>
目が覚めると、そこは見知らぬ館の中であった。8つの部屋がある館の中に閉じ込められた7人。そしてゲームは突然開始される。“今から起きる殺人事件の犯人を当てよ”。閉じ込められているのは彼らだけではなく、もう一つの館に同様に7人の男女が閉じ込められている。通信により情報を交換しながら、両方で起きた事件を先に解決しなければならない。それができなければ、待っているのは・・・・・・
<感想>
設定としては面白いと思うのだが設定が難解すぎたというしかない。一つの館の中だけで起きる殺人事件というのであれば、既存の作品が数多く存在する。そこで“色”をつけるために“二つの館で”としたのだろうが、この条件の設定が難解となってしまったようだ。2つの館をつなぐものが通信のみということで、互いの真偽の区別というのが全くつかない。この辺にもう少し厳密なルールを設定しなければ“推理小説”として完成させるのには無理があったのではないだろうか。よって、結局のところ“ミステリー・ゲーム”というよりは“バトル・ロワイヤル”になってしまったという印象である。
やろうとすることはなかなか面白そうなのでこれからもどんどん続けてもらいたい(最後に「次のコロシアムへ続く」となっていたので同様の作品が続く可能性は大)。そうすれば“当たり”となる作品が必ずや出てくるのではないだろうか。
<内容>
普通の人々が住むマンションが何者かにのっとられた!! マンションをのっとった者からの要求は、マンションに住むもの達でサバイバルゲームをしろ、というものであった。48時間の制限時間の中で生き残ることができるのは一つの部屋の住人のみ。今、地獄のサバイバルゲームの幕が上がる・・・・・・
<感想>
ひと言で言ってしまえば「バトルロワイヤル」の廉価版。サバイバルゲームを用いるのは良いとしても、ちょっとひねりが足りなかったような気が・・・・・・
本書を読んでいて、なんとも興ざめしてしまうのは設定にリアリティが欠けているところ。もちろんフィクションなんで現実から外れているのはあたりまえなのだが、それでもいたるところに不自然さが感じられてしまう。特に、舞台となるのが1つのマンションなのであるが、マンションそのものに閉鎖性がないため、外部からの介入がないという事自体が極めて不自然に感じられる。そういう設定の中で事件が起こってみても、どうにも物語りにのめり込むことができなかった。
また、肝心のゲームのルールの中でも不自然に思われる点がいくつかみられたりと、最後まで内容にのることができなかった。さらには、話自体も最後の最後まで特にこれといったひねりがなく終わってしまうのもどうかなと感じられた。
結局のところ前作の「極限推理コロシアム」と同レベルの作品というところ。
<内容>
真夏と真冬の双子の姉妹は幼い頃から何も知らされぬまま外界から閉ざされた施設の中で育てられていた。そんなある日、その施設を何者かがジャックした・・・・・・
気がつくと真夏と真冬を含めた施設で育てられた男女6人が建物の1階に放置されていた。施設をジャックした男は、その6人に対してこれから行うゲームについて話しはじめる。彼等がこの建物を脱出できれば勝ちであると・・・・・・。他に選択肢のない6人を待ち受けていたのは、各フロアに置かれている二つの“箱”であった・・・・・・
<感想>
前2作を読んだかぎりでは、あまり内容に期待ができないかなと思っていたのだが、今作は意外と楽しむことができた。簡単に言ってしまえばRPGのような内容の小説である。
6人の男女が建物の中に閉じ込められ、そこから脱出するために各フロアにある箱を開けていくというもの。ただし、その箱には当たり外れがある。
これはかなり理不尽なゲームのようでありながらも、ある程度はフェアにしようという工夫がなされている。ただ、その設定も前半のほうは整合性がとれているものの、後半になるとややメチャクチャになってしまったかなという気がする。一応、緊迫する駆け引きと感じられなくもないのだが、ある程度予想できる部分もあり、せっかくのゲーム的な内容にも関わらず、そのゲーム的要素が低いようにも感じられた。とはいえ、それなりに物語に引き込まれたのは事実であり、楽しむことができる内容であった。
今までの前2作でも感じたのだが、この著者は自分で奇抜な設定を創りながらも、その設定を生かすのがうまくない。結局、この舞台となる施設自体がどういう意味をもったものなのかがあいまいなままであった。このへんにもう少し理由付けをして、ストーリーの中に生かすことができれば、かなり濃い内容の小説になったのではないだろうか。
今作を読んで楽しむことはできたものの、あくまでもエンターテイメント小説としてであり、ミステリとして楽しむことの出来るものではなかった。このような作風ならば次回作からはもう読まなくてもいいかな。
<内容>
集められたのは中学の時の同じクラスの男女10人。彼らを集めた老婆は、いじめられて自殺した孫の復讐であると言う。老婆は彼らにゲームを持ちかける。それは男女2人ずつペアになり、24時間ごとに順番に推理ゲームによる謎を解くというもの。それを解いたペアだけが生き延びることができると・・・・・・
<感想>
相変わらず、色々な意味で“中途半端”という印象ばかりが残る作品となっている。
まず最初に感じたのは、本書が4作目となり、それぞれの作品が同じような設定となっているためか、人を集めて舞台を創るという設定に苦労しているなということ。とにかく、ひとつ所に人を集めなければ話にならないためか、今作では超能力を駆使して集めてしまうという強引な手段がとられている。
そもそも、そのような大きな力があれば、このようなゲームを行うという前提自体が崩れてしまうような気もするのだが・・・・・・
途中で行われている推理ゲーム自体は、それなりに楽しんで読むことができる。二人ずつ、5組がペアとなって順番にという趣向は面白いと思える。できれば、本書の冒頭で見せた場面のように、他のペアに関しても、作中にランダムに挿入してもらいたかったところ。
ただ、本書の何が一番問題かといえば、物語が終わっても何ら謎が解決していないことであろう。謎の部分部分は解決されているかもしれないが、大筋の解決がなされないまま、読者はそのまま放置されてしまうのである。他の作品でもそうであったが、結局主人公らしき人物がなんとなく生き延びました、で終わってしまい、細部については説明されないというのはいかがなものであろう。
と、矢野氏の作品も続けて4作読んできたものの、今後も作風については代わり映えがしなさそうなので、このへんで読むのをやめてもいいかなと思っている(前作の感想でもそう書いていたが)。
<内容>
兵庫市民病院救急科で働く武田航の元に患者が運ばれてきたものの、心肺停止の状態で命を助けることはできなかった。驚くべきはその患者の顔であり、なんと救急医の武田の顔と瓜二つであったのだ。武田に双子の兄弟などいないはず。また、死んだ男は海に放置されていたらしく、身元もわからない状態であり、全てが謎のままであった。武田は、同じ病院内の医師で旧友でもある城崎に助けを求め、二人でこの事件の謎を追うこととしたのであるが・・・・・・
<感想>
今年の鮎川哲也賞受賞作。ストーリー仕立てと相まって、リーダビリティがあり、読みやすい作品に仕上がっている。ただ、ミステリとしてはかなり弱め。
一番の焦点は、主人公の出生の秘密を探ること。緊急医療に運び込まれてきた男が、なんと担当医と全く同じ顔をしているという不思議な現象。その患者が死亡してしまったために、身元不明の死体が残されたのみとなり、五里霧中と言っても良いなかで、主人公は自分の出自を辿っていくこととなる。
その文字通りの自分探しの過程の中で死亡事件(しかも密室にての)が起こり、それも合わせて、起きた謎を解いていくという内容。自分探しの話としては面白いものの、ミステリへと持っていく展開としては、やや強引であったような気がした。また、最後にもうひとやま、驚きの真相が待ち受けてはいるものの、それもある種、唐突というような感触が大きかった。
というわけで、ミステリとしてはどうかと感じられ、鮎川哲也賞というよりも江戸川乱歩賞的な作品であったかなと思っている。ただ、本書が受賞した理由としては、なんといってもその読みやすさにあったのではないかと思われる。処女作の時点で、しっかりと読み手を惹きつけて、最後まで飽きさせずに読み通させる力量には感心させられた。
<内容>
派遣会社で働く柳沢は同僚である真希に恋をした。しかし、真希は柳沢に何も言わず会社を辞め行方不明に。あきらめきれない柳沢は苦労して真希の行方を調べ、彼女が離島で働いている事をつきとめる。柳沢は単独でその島に上陸するのだが、そこで思いもよらない出来事に遭遇することに・・・・・・
その後、柳沢が遭遇した不思議な出来事を聞かされた大学生の真野原と森崎は真相を確かめようと、その島に渡る事を決意する。しかし、その彼らを待ち受けていたのは不思議な館での連続殺人事件であった!!
<感想>
こうした“館もの”の殺人事件を真っ向から取り扱った小説というのは、近頃ではめずらしいのではないだろうか。まさに新本格推理小説の系譜を引き継ぐというにふさわしい内容であった。久々に直球勝負の本格ミステリ作品を楽しむ事ができた。
町並みの消失や妖精界の出現、さらにはこれでもかと言わんばかりに謎が盛り込まれた館が登場し、まさに奇想を体現できる内容となっている。そこに、大学生の3人組が乗り込み事件を解決せんと奔走する。本書の主人公となる探偵役は、著者の山口氏が別のシリーズで書いている探偵の孫にあたる人物であり、本邦初登場。今後の活躍も期待できるキャラクターである。
というわけで、新本格ミステリの要素が盛りだくさんとなっているのだが、全面的にうまくできているかといえばそうでもなく、ところどころ荒が見られるのも確かである。
一番残念に思えたのは、妖精界にまつわる出来事と、本編の館での殺人事件とのリンクがないに等しいということ。こういう展開であると、妖精界でなければならない必要性というもの自体が全く感じられなくなってしまう。そのため、前半の長すぎるプロローグもほとんど意味がなかったようにさえ思えてしまった。
大掛かりなトリックとか、個々の謎に対する解決は良いと思うのだが、もう少し全体的なつながりを密にしてもらいたかったところである。そういった関連性をきちんとさせてこそ、大掛かりなトリックも栄えてくるのではなかろうか。特にトリックについても、オリジナルのものではないわけだから、もう少し外堀を固めて描いてもらいたい。
と、文句を言いつつもこういった作品を書いてくれる新人の作家が現れた事は歓迎したい。今後も新しい作品が出れば是非とも読んでゆきたいと思わせる作品であった事は事実である。
<内容>
真野原は“学園島”という学生たちがメインで生活を送っている離れ小島で起きている事件に挑みたいと言いだし、それに森崎は乗せられることに。学園島の運営者のひとりである政治家とひょんな事から話がつき、トントン拍子に二人は学園島へと潜り込むことに成功する。ちょうど、そのときヨーロッパの小国の王女が学園島を訪れており、彼女はこの島に婚約者を探しに来たのだという。真野原と森崎はそういった出来事に巻き込まれつつ、島で起きた行方不明事件、黒いサンタクロースの謎に挑む。しかし、捜査を行っている最中に、彼らの目の前で連続首切り殺人事件が起こることになってしまい・・・・・・
<感想>
なかなか楽しめる内容。一応、本格ミステリたる内容に仕上げられているはずなのだが、何故か冒険モノとか伝奇モノといった感触の方が強かった。
本格ミステリとして捉えるには、ページ数が分厚すぎたか。分量があるがゆえに、それだけ付随してくるものが増え、それによってミステリ色が弱ってしまったという気がする。また、殺人事件は起こるものの、事件そのものよりも“宝探し”というものに大きな比重が置かれていたようで、結局のところ冒険小説であると捉えてみても間違いないのであろう。
物語上のメインの謎として、大掛かりなトリックが用意されてはいるものの、あえて分かりにくい構造にしてしまったためか、ふに落ちたという感は弱かった。できればもっと単純明快なものにしてくれたほうが、読んでいる方にしてみれば納得はし易い。
そんなこんなで、さしたる欠点はない小説であるので、最初からミステリ作品と捉えず、冒険モノとして読み進めることをお薦めしたい。そうすれば、宝探しあり、王女様との恋愛フラグあり、魔界列車あり、“俺の名前を言ってみろ”あり(?)と、楽しめる要素盛りだくさんの内容である。どの年代の人が読んでも楽しめると思えるのだが、いたるところに挿入されているギャグに関しては、やや年齢が高めの人じゃなければわからないかと。
<内容>
四場浦鉱山は地上1000メートルに位置し、雲上の楽園と言われていた。その炭鉱会社の社長から依頼され、弁護士の殿島は炭鉱町へとやってきた。なんでも、牢獄に捕らわれていた男が脱獄し、炭鉱会社の前社長を殺害し、今だ逃走中だというのだ。殿島には名探偵として名をはせる荒城咲之助の助手として働き、殺人犯を捕えてもらいたいというのである。さらに、変則的な義手を扱う学生服姿の謎の男、真野原までもが名探偵を主張し、現場をかき乱す。そうしたなか、炭鉱町では次々と事件が起き続け・・・・・・
<感想>
舞台は昭和27年、炭鉱町を舞台としたミステリが繰り広げられている。メインの謎としては、炭鉱町の牢獄に20数年も捕らわれていた男が厳重に閉ざされた牢獄をどのようにして脱獄したか? 何ゆえ男の存在は他に知らされることなく、20数年も捕らわれていなければならなかったのか? 炭鉱に隠された秘密とは!? こうした謎に二人の名探偵が挑むという内容。
全体的には、それなりに本格ミステリしており、楽しんで読むことができた。キャラクターに関してもそれなりにうまくできているように思える。とはいえ、実際のところ探偵の二人も出す必要があったのかは疑問に思えた。最後、謎が解決されてゆく時ページ数がかなり残っていたので、そこでもう一人の探偵が再度登場し、どんでん返しといくのかと思いきや、そういうわけでもなかった。
内容は楽しめたものの、後半とエピローグに関しては、やや冗長。もう少しページ数を詰めてもよかったのではなかろうか。さらには、探偵を一人にしたほうが、絶対に密度が濃い小説になったような気がするのだが、そのへんは著者のこだわりというのであればいたしかたない。
本書が著者にとっての処女作となるのだが、文庫化されてから読んだので、私にとってはこれが3作品目。コメディタッチの軽い作品を書き続けそうな作風であるが、できれば一度はミステリ界の度肝を抜かせるような大作を書いてもらえればと期待している。
<内容>
弁護士の殿島直紀が、白の背広をまとう行動派探偵・荒城咲之助と、学ラン姿で近代的な義手を身に付ける頭脳派探偵・真野原玄志郎の力を借りて、次々と奇怪な犯罪を起こす蒼志馬博士と対決する!
「殺人光線の謎」
「灼熱細菌の謎」
「洗脳兵器の謎」
「強化人間の謎」
<感想>
既刊である「雲上都市の大冒険」と「豪華客船エリス号の大冒険」に登場した探偵たちと怪人・蒼志馬博士との対決を描いた文庫オリジナル作品集。本書は時系列としては「エリス号」の後の話となっている。私は「エリス号」の方は未読なのだが、特に読んでいなくても問題はない。ただし、「エリス号」に登場する人物も出ているので、時系列順に読んでいくのも悪くはないかもしれない。
感想としては、この著者の作品は大概そうなのだが、内容とトリックがいまいち噛み合っていない。トリックの一つ一つを取り上げてみればさほど悪くはないと思うのだが、それらがうまく生かされていない。よって、物語全体として見た時には、どうもいまいちという印象ばかりが残ってしまう。それに結局、蒼志馬博士って何だったの? という具合に終わってしまうのもどうかと。
このシリーズでは探偵が二人出てくるのだが、その“二人の探偵”という設定がうまく生かされていない。どちらも優秀な探偵として書こうとしているようなのだが、結局は片方が引き立て役のような感じに思えてしまう。しかし、きちんと片方を引き立て役として書かない故に、しっくりこないのである。二人の探偵がどちらも優秀で、うまく競い合いながら真相に到達していくという描き方はかなりハードルが高いのではないだろうか。
<内容>
弁護士の殿島直紀が探偵・荒城咲之助のもとを訪ねていくと、ひとりの依頼人がやってきた。男は13年前、当時住んでいたナポリで奇妙な体験をしたという。それは、人形に恋をする話であり、しかも船が消失するという奇妙な事件までが起きたという。そうして13年後、男は当時見た人形が生きた姿となって街を歩いているのを目撃したというのである。その奇怪な話を聞いた後、殿島と荒城は欧州行きの豪華客船エリス号へと乗り込む羽目となる。豪華客船になんとか乗り込もうとするが失敗する義手探偵・真野原をしり目に船は出港する。そして海上で次々と起こる事件の数々。殿島と荒城はなすすべもなく、姿なき犯人に翻弄されるばかりとなり・・・・・・
<感想>
面白いことは面白いのだが、あくまでも冒険ものとしての面白さ。この著者の作品はだいたいそうなのだが、物語中に大きな設定を盛り込み、読者の興味を誘うものの、結局未消化に終わってしまう。今作も冒頭にて島田荘司ばりに語られる謎の事件や豪華客船に隠されたさまざまな秘密というものを盛り込んでいるにもかかわらず、肩透かし気味に収束していくこととなる。
また、このシリーズは行動派の荒城と頭脳派の真野原という二人の探偵が登場するのだが、これらの設定を生かしきっているのかも微妙なところ。むしろ本格ミステリとするよりも冒険サスペンス風の作調のほうが活躍させやすいキャラクターではないだろうか。
決して内容が面白くないということはないので、惜しい部分ばかりが目立ってしまうというのはもったいない。しかし、意外とこの微妙さ加減がこの著者の持ち味といえるのかもしれない。ガチガチの本格ミステリというものを期待せず、コメディタッチの冒険ものを楽しむというスタンスで読んでいったほうがよさそうだ。
<内容>
アメリカでは大統領がテロ組織に拉致され、拉致後の様子が全世界に放映されるという異常事態が起きていた。
しかし、そんな事件をよそに日本のとある高校ではのんびりとした時間が流れていた。ある日、屋上に居合わせた四人が意気投合し、やがて彼らは自分達を屋上部と呼び始める。彼らは屋上の平和を護るために活動しようというのだが、そんな彼らが扱おうという事件はなんと殺し屋を捜すというものであり・・・・・・
<感想>
意外と言っちゃぁ失礼だが、思っていたよりも楽しんで読む事ができた。なかなか良い内容の作品ではないだろうか。ただ、どうしてもこの作品を読んで感じてしまうのが、“伊坂幸太郎型の作品”であるということ。前例がなければともかく、どうしてもこのような評価に落ち着いてしまうので、作品自体のインパクトとしては弱かったように思える。
普通の高校生たちの日常を描き、屋上部というものを作り、課外活動をするというテーマは良かったと思う。さらには、主人公である美術部の辻尾アカネを取り巻くかのように個性的な人員を配置していくという人物造形もなかなかのもの。
そして彼らが扱う事件も最終的には色々な要素が込み入ったものとなるのだが、すっきりと整理されながら話が進められ、混乱させられることもなく読み進めることができたのはこの著者なりの手腕といってよいであろう。ただ、込み入った要素のほとんど全てが偶然により集まりすぎたというのがちょっと気になったところである。ようするに、あまりにもご都合主義的な部分が多すぎたゆえに、話があっさりしすぎたように感じ取れてしまうのである。
本書の出来に関しては、欠点というようなものはほとんどなく良い作品であるということは確かだと思われる。にも関わらずインパクト不足に感じてしまうのは前述したように“伊坂幸太郎型”というところにすっぽりはまりすぎたからなのではないだろうか。
書くという技術はあると思われる作家なので、オリジナリティのある物語を描く事ができたら、もっともっとブレイクすることができるのではないだろうか。
<内容>
森野学園高校2年演劇部の藤野千絵は頭に痛みを感じながら目を覚ます。そこは演劇部の部室であった。しかし、彼女に話しかけてきた生徒が発した言葉は藤野先生と! どうやら彼女は高校卒業後、自分が卒業した高校に教師として舞い戻って来たらしいのだが・・・・・・それまでの8年間の記憶がすっかり抜け落ちていた。今この学校では「眼鏡屋が消えた」という劇を上演するかどうかでもめているという。実はその劇は藤野が高校生であったときに作ったもので、同じように上演するかどうかもめたものであった。しかもその脚本は実際に起きた事件を取り扱ったものであり・・・・・・
<感想>
鮎川哲也賞受賞作ということで新人による作品なのだが、新人とは思えないほど文章がうまく書けている。内容はやや重い部分もあるのだが、キャラクターの性格をコミカルにして文章をやわらかくし、作品に取っ付きやすくするという手腕はなかなかのもの。
作品の内容もまた変わっており、8年間の記憶をうしなった教師が女子高生的な観点のままで昔の事件の謎にせまるというもの。よくよく考えるとタイムスリップというには程遠いのであるが、なんとなくSF的な印象がただよう作品となっている。
ただし、その書かれた内容としては微妙な点も多々ある。昔に起きた事件のみを扱っているので、新しく事が起こることもなく、調査や検討が延々と続くのみ。そうした展開が続くので中盤ではややだれてしまった。また、最終的にどういった点に落ち着くのかという結末も見えやすくなっているので、サプライズという点でも薄かったかなと。それでも過去に起きた事件の真相が、さまざまな伏線や証言などから見事に積み上げられて解明されていく場面は読みごたえがあった。
文章を書き上げる力は十分にあるので、内容いかんでは凄い作品を書き上げてくれそうな作家である。これは2作目は読み逃さない方がいいかもしれない。
<内容>
「乱歩城」
「妖精の足跡」
「空からの転落」
「防波館事件」
「魔術的な芸術」
「皆殺しの家」
<感想>
タイトルだけを見るとホラー系の作品のように思えるが、実はその内容は本格ミステリ系の短編集というようなもの。殺人事件の容疑者として逃亡し、その後屋敷にかくまわれ(というか監禁され)ている男、その男をかくまう女刑事、そして女刑事の双子の妹。この三人が主人公となり、女刑事が持ち寄る未解決事件の謎を解いていくという作品集。
死体が凍らされた理由とは?、雪原に浮かぶ妖精の足跡の秘密は?、高い場所など無い採掘場跡地で発見された転落死体の謎、六角形の館で起きた密室殺人、段ボールに押し込まれた死体の謎、そして主人公らを巡る殺人事件の真相。
それぞれの短編で、魅力的な謎が用意され、それらを主人公三人があぁでもない、こうでもないと討論しながら徐々に真相に迫ってゆく。謎は魅力的といいつつも、インパクトのある真相というようなものはほとんどなかったような。最初の「乱歩城」などは、その設定がほとんど生かされていないのが残念なくらい。ただ、その真相はあまりにもバカミスっぽくて笑ってしまったが。
普通のミステリ短編集として楽しめる作品であることは間違いない。色々と粗はあるものの、普通に本格ミステリが楽しめる作品であると思われる。とはいいつつも、最後の主人公らにまつわる謎については、もう一捻りほしかったところ。
<内容>
この世の中で絶対的な権威を持つ“王様”の命令により、全国500万人の“佐藤”姓を持つものに対して“殺戮ゲーム”が開始された。大学陸上のエース、佐藤翼も当然そのゲームに巻き込まれることに。7日間にわたる、大量殺戮ゲームの中で翼は生き残ることができるのか!?
<感想>
読んでどのような印象を持ったかと言われれば、昔話や童話を読んだような感覚を受けたといったところか。童話などは特に設定が細かく決められているわけではなく、一見不条理に思えることがまかり通ってしまう世界があらかじめ描かれている。本書もそのような類の物語という感じであった。
本書にて一番そぐわないと感じたものは、何と言っても“王様”という存在である。これを他の存在、例えば政治的な機構などに変えることはできなかったのだろうかと考える。ただラストではあくまでもこの“王様”という存在にこだわった終わり方を設けていた。よって“王様”という存在を他のものに変えるわけにはいかなかったのだろうが、それゆえに童話めいた話になってしまっていると感じられた。
あらためて、本書の全体的な感想はどうかといえば、ちょっとどうだろうかと首を傾げたくなる作品であった。無理のある設定を力づくで押し通したにも関わらず、その設定が物語にほとんど活かされていないというところが、ちぐはぐに感じられてしまう。また、主人公を通しての物語も青春小説めいたものとなっているのだが、あまりにもご都合主義的であり、話自体も特に練られたものではないと感じられた。
と、まぁ批判めいた部分がどうしても多くなってしまう作品であった。とはいうものの、物語の先の展開が気になって、一気に読み通してしまったという事も事実である。それなりに読める作品ではあったのだが、もうすこし話を練ってもらいたかったというところ。
<内容>
ひとりで軽ワゴンを運転しながら便利屋<ダブルフォロー>を営む青年・皆瀬泉水。そんな彼が出くわす数々の事件を描いた作品集。
「吉次のR69」
「ハロー@グッバイ」
「八月の熱い雨」
「片づけられない女」
「約束されたハガキの秘密」
<感想>
簡単に言ってしまえば、最近よくあるような普通の内容のものだなと。同じミステリ・フロンティアの中では「インディゴの夜」に近いと思える。ただ、本書はあえてミステリという路線を狙っておらず、主人公の設定のとおり、“便利屋”というものを通してのトラブル解決というような内容に終始している。ゆえに、事件性というものからは程遠い内容とはなっているのだが、まぁ、ひとりの“便利屋”家業を営む者の物語という風にとれば、それなりに楽しめる作品ではある。
読んでいる最中に思ったことであるが、便利屋の仕事の最中、この主人公が仕事の範囲から逸脱したような行動に出ることが気になった。最初はあくまでも仕事は仕事であるゆえに、関係ないところにまで立ち入るべきではないと思ったのだが、よくよく考えれば彼は職業的な探偵ではなく、あくまでも便利屋である。便利屋という仕事を行う人物であれば、面倒見がよく、多少おせっかいであるというのは当然のことなのかもしれない。さらには、あえて深く立ち入る事によって、顧客との信頼関係を深く結ぶ事ができ、さらなる仕事につながっていくのだろうとも考えられる。そうすれば、彼がとる行動のひとつひとつに別に矛盾するようなことはないともいえるのである。それが“探偵”とのスタンスの違いであるなどと考えてみると、また面白かったりもする。
<内容>
明治12年、“京都−大津”間の鉄道を建設するためのトンネル工事中、不審な事故が度々起こった。そこで鉄道局長は、元八丁堀同心の草壁賢吾に事件調査を頼む。鉄道局技手見習いの小野寺と共に草壁は現場を見回り、事故の様子を調べるが、そうしたなかでもさらなる事件が起き続ける。鉄道建設に至っては、賛成派と反対派の対立が起きており、その反対派の手によって妨害行為が起きたというのであろうか? 果たして、草壁が見出した真実とは!?
<感想>
著者は歴史ものの小説を数冊書いているらしい。また、現在は鉄道会社に勤務中という事で、今回の“歴史もの鉄道小説”が書かれたのであろう。
読んでみると・・・・・・薄味というか、なんというか。明治時代の鉄道やその建築に関する変遷が語られる部分については非常に興味深く読むことができる。そこにミステリが加えられているのだが、全体的にどうも盛り上がりに欠ける内容であったような。
地味な語り手の人物造形は良いとしても、探偵役である元八丁堀同心については、もう少しうまく書き込めなかったかなと。もっとアクのある人物かと思いきや、物語が進行していく間、すっごい地味という印象しか残らない。有能そうな人物という事はわかりつつも、何気に語り手より地味な印象であったような。
全体的にうまく書けている小説ではあると思えるのだが、読み終えた後に残るものがほとんどなかったかなと。探偵役の人物造形意外は、これといった欠点はなさそうな気もするのだが、とにかく物足りないという印象のみが残る作品。
<内容>
明治18年、高崎を出発し、大宮を通り過ぎようとしていた貨物列車が脱線した。そして、その貨物列車のなかから積み荷にはあるはずのない千両箱が発見されることとなる。この奇妙な事件の調査を命じられたのは、かつて別の事件を解決したことのある元八丁堀同心の草壁と鉄道技手の小野寺のコンビ。彼らは一路、高崎へと向かうこととなり・・・・・・
<感想>
“鐡道探偵”シリーズ第2弾。今回も明治を舞台に、元八丁堀同心と鉄道技師のコンビが鉄道にまつわる事件に取り組む。
うまく出来ている作品であるのだが、あまり興が乗らないのは何故なのか? 事件の内容がミステリというよりは、政治や陰謀と捉えられるところが多く、それゆえに歴史小説という感触が強くなっているのかもしれない。メインとなる事件も“脱線”と“千両箱の出現”という、大層なのかどうなのかも心もとないようなもの。
探偵役の手腕は存分に発揮され、見事に事件を解決しているのだが、結局のところ全体的に興味を持てなかったという感じであった。まぁ、こういった内容のものが好きな人には、ハマるのではなかろうか。個人的には、シリーズ続編が出ても読まなくてもよいかなと。