本格ミステリ作家クラブ  作品別 内容・感想

本格ミステリ01

2001年07月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
本格ミステリ作家クラブ会長 有栖川有栖
小説
「紅雨荘殺人事件」有栖川有栖
「鳥居の赤兵衛」泡坂妻夫
「四角い悪夢」太田忠司
「子供部屋のアリス」加納朋子
「邪宗仏」北森鴻<
「人を知らざることを患う」鯨統一郎
「正太郎と井戸端会議の冒険」柴田よしき
「エッシャー世界」柄刀一
「黒の貴婦人」西澤保彦
「中国蝸牛の謎」法月綸太郎
「透明人間」はやみねかおる
「オリエント急行十五時四十分の謎」松尾由美
「龍の遺跡と黄金の夏」三雲岳斗
評論
「新・現代本格ミステリマップ」小森健太郎
「POSシステム上に出現した『J』」円堂都司昭
「『木製の王子』論」鷹城宏
解説
2001年ミステリ作家クラブ活動報告

詳 細


本格ミステリ02

2002年05月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
本格ミステリ作家クラブ会長 有栖川有栖
小説
「不在の証明」有栖川有栖
「北斗星の密室」折原一
「わらう公家」霞流一
「鳥雲に」倉阪鬼一郎
「人の降る確率」柄刀一
「交換炒飯」若竹七海
「『別れても好きな人』見立て殺人」鯨統一郎
「通りすがりの改造人間」西澤保彦
「フレンチ警部と雷鳴の城」芦辺拓
「闇ニ笑フ」倉知淳
「英雄と皇帝」菅浩江
「通り雨」伊井圭
「やさしい死神」大倉崇裕
「トリッチ・トラッチ・ポルカ」麻耶雄嵩
「坂ヲ跳ネ往ク髑髏」物集高音
「麺とスープと殺人と」山田正紀
「ひよこ色の天使」加納朋子
マンガ
「消えた裁縫道具」河内美加
評論
「京極作品は暗号である」波多野健
「中国の箱の謎」鷹城宏
「論理の蜘蛛の巣の中で」巽昌章
解説
2001年ミステリ作家クラブ活動報告

<感想>
 毎年一回でもこのような豪華な顔ぶれによる短編集を出してもらえると、それだけでもミステリ作家クラブというものを創設した意義が十分あると思う。これからの活動にも期待したくなる。

 前回に続き、特に統一性はないもののバラエティにとんだそれぞれの作家の特色を生かしたような作品が掲載されている。そんななかでも今回のベストの作品は大倉崇裕氏の「やさしい死神」をあげたい。落語の世界を背景に用いたミステリなのだが、これが非常にうまくまとまっている。トリックとかそういう類いのものではないながらも、その行為が話の内容にマッチし、実によくできた物語となっている。今年は「ツール&ストール」という短編集も出した大倉氏であるが、これからの活躍がますます楽しみになってくる。

 他にも、山田正紀氏の「麺とスープと殺人と」、麻耶雄嵩氏の「トリッチ・トラッチ・ポルカ」などが本格ミステリに正面から取り組んでいて読者をひきつけてくれる。

 フレンチ警部らのパスティーシュ作品である芦辺拓氏の「フレンチ警部と雷鳴の城」、カーター・ディクスンの「笑う後家」に挑戦したかのような霞流一氏の「わらうう公家」、エドワード・D・ホックの作品を思わせるような柄刀一氏の「人の降る確率」と海外作品をイメージしたかのような作品が並んだのも面白いところである。

 あと、若竹七海氏の「交換炒飯」も著者の特色が顕著にでているようなサスペンス作品として仕上がっている。

 マンガや評論といった、小説だけにとどまらない活動内容が描かれているのも本書の特色であろう。ぜひともこれからもバラエティにとんだ活動によって、小説以外の本の構成などでも読者を楽しませてもらいたい。


本格ミステリ03

2003年06月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
本格ミステリ作家クラブ会長 有栖川有栖
小説
「凱旋」北村薫
「彼女がペイシェンスを殺すはずがない」大山誠一郎
「曇斎先生事件帳 木乃伊とウニコール」芦辺拓
「百万のマルコ」柳広司
「目撃者は誰?」貫井徳郎
「腕貫探偵」西澤保彦
「GOTH」乙一
「比類のない神々しいような瞬間」有栖川有栖
「ミステリアス学園」鯨統一郎
「首切り監督」霞流一
「別れてください」青井夏海
評論
「論理の悪夢を視る者たち<日本篇>」千街晶之
「本格ミステリに地殻変動は起きているか?」笠井潔
解説
2002年本格ミステリ作家クラブ活動報告

<感想>
 大丈夫か? 本格ミステリ作家クラブ!!

 本書の個々の短編の内容については申し分ないできであるといえる。2002年に書かれた優秀な作品の中から選ばれたわけであるから当然といえば当然のこと。しかしながら全体的に本書を見てみると、いろいろと不満に思える点が見受けられる。

 まず本書を購入したとき一番に気づくのは、2001、2002に比べると薄く感じたということである。さらに、解説を見てみると本書に掲載された作家陣のなかで、乙一氏、大山氏、柳氏の3人は作家クラブ会員ではないという。ということは会員のみによるページ数はぐんと少なくなるということだ。3年目にして本格ミステリ作家クラブ、大丈夫かと勘ぐりたくなってしまう。

 また、中身を読んでみて思うことは、ラインナップをもう少し考えてもらいたいということ。とくに思えるのは貫井氏の「目撃者は誰?」。これは内容はすごく面白く申し分ないのだが、先月に同じ講談社ノベルスから貫井氏の短編集に掲載されているものである。この辺はなんとかならないものかと感じるところ。あとは、他にも連作短編の途中の作品が載っていたりとか、去年出版されたあまりにも有名な作品をわざわざ載せていたりとか不満に感じる点が多々見受けられた。しかしなによりも一番不満なのは、あれだけ大勢いる作家クラブ陣の執筆物が少ないことである。この辺は2004年版には期待したいところ。


 それぞれの内容については

 一番良かったと感じたのは「彼女はペイシェンスを・・・・・・」。これを書いた大山誠一郎氏はなんと翻訳家だという。フェル博士のパスティーシュものであるが、これがなかなかうまくできていると思う。特に“何故鸚鵡が死んでいるのか?”という点においては注目すべきところ。欲をいえば、フェル博士にはもっと“ゼイ、ゼイ”いってもらいたかった(どうでもいいことか)。

 柳氏の「百万のマルコ」は冒険小説とミステリーを合わせたような味わいの本。著者自身は「黒後家蜘蛛の会」を意識したとのことだが、どちらかといえば「ユニオン倶楽部綺譚」とう感じがする。1冊の本にまとまるのが楽しみなシリーズ。

 西澤氏の「腕貫探偵」はこの探偵役が神出鬼没であるという設定が面白い。これからもどこに出てくるのかが楽しみである。死体の移動に関するいつもながらの西澤氏の論理が炸裂する。

 有栖川氏は相変らず孤軍奮闘というところ。さらにいえば、最近の氏による短編はなかなかレベルが高いものであると感じる。今回も練りに練ったダイイン・メッセージで勝負をしている。

 霞氏の「首切り監督」は作中のとあるトリックが面白い。あいかわらずミスターバカミスは健在か。


本格ミステリ04

2004年06月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
本格ミステリ作家クラブ会長 有栖川有栖
小説
「眼前の密室」横山秀夫
「Y駅発深夜バス」青木知己
「廃墟と青空」鳥飼否宇
「盗まれた手紙」法月綸太郎
「78回転の密室」芦辺拓
「顔のない敵」石持浅海
「イエローロード」柄刀一
「霧ケ峰涼の屈辱」東川篤哉
「筆合戦」高橋克彦
「憑代忌」北森鴻
「走る目覚まし時計の問題」松尾由美
評論
「ブラッディ・マーダー」波多野健
解説
2003年本格ミステリ作家クラブ活動報告

<感想>
「本格ミステリ03」のときも思ったのだが、著者陣の選定方法に疑問を感じるラインナップ。それでも最近の本格ミステリ作家の中から良作を選ぶという考えであるならば妥当ということになるのだろうか。しかし、出版されたばかりの新作の短編が入っていたり、光文社文庫の「本格推理」に入っていたものをわざわざ掲載したりと、こういった点などは理解できないところである。

 とまずは否定的な意見を述べてみたものの、今回の「本格ミステリ04」は良い作品がそろっていると思う。前回の「03」では本格ミステリと呼べるような作品がすくなく感じたのだが、「04」ではそんなことはなかった。ほとんどすべてが“本格ミステリ”直球勝負の作品といってよいであろう。内容としては大満足のアンソロジーであった。

「眼前の密室」 横山秀夫
 これは横山氏が本格ミステリを書いたという事が驚きの作品。しかも堂々と密室殺人に挑んだものとなっている。その内容も良く、うまく話の流れや背景にあったトリックが組み合わされており、なかなかの力作であると思う。

「Y駅発深夜バス」 青木知己
 こちらは「本格推理03」からの掲載。なかなか良い作品だとは思うのだが、わざわざ協会会員でない青木氏の作品を持ってくるほどの作品であるかは疑問。それでも二つの事件が見事に結び合わせられる様は見事といえよう。物語としても、うまくできていると思う。

「廃墟と青空」 鳥飼否宇
 これは本格ミステリらしからぬ部分が大半をしめているのだが、物語の内容にかなり惹かれてしまった。ミステリとしてはまぁまぁの内容にも感じられるのだが、全体的に見ればなかなか良かったかなと思う。異色ミステリ。

「盗まれた手紙」 法月綸太郎
 これは設定がうまい。良く練られたミステリ・パズルとなっている。良くぞこの設定を考えたと言う他はない。ただし、その設定が丁寧であるがために、少々わかりやすいと思えるところが欠点か。でもおもしろい。

「78回転の密室」 芦辺拓
 これは以前、長編として発表された「殺人喜劇のモダン・シティ」のシリーズ化短編作品となっている。しかし、私的にこの「殺人喜劇の」という作品は描写がごちゃごちゃした印象があり、嫌いな部類作品である。本編もミステリの内容とは別の説明的な部分が多いために、読みにくく感じられた。
 と思って読んでいたのだが、肝心のミステリの部分は、これがなかなかすばらしいできなのである。こういった展開になっているとは全くよめなかった。事件が2重の構造になっていたという解決には脱帽。

「顔のない敵」 石持浅海
 石持氏は他にも、このシリーズで光文社文庫の「本格推理」に書いているようなのだが、はっきりと憶えているものはなかった。今度調べてみるか・・・・・・それとも短編集が出るのを待つか。
 本編は特殊な場所の中での論理的な展開が光る内容となっている。しかし、それがうまくできすぎているために、ミステリとしての印象よりも物語としての印象のほうが強く残るようになっている。

「イエローロード」 柄刀一
 この作品は柄刀氏の短編集により既読。初読のときは、さほど強い印象はなかったのだが、改めて読んでみるとなかなか良い作品であったことに気づかされる。柄刀氏の作品は2度読むべきか。被害者が持っていたコインから論理的に犯人へと迫っていく展開は圧巻。

「霧ケ峰涼の屈辱」 東川篤哉
 これはなかなかうまいと感じさせられるコメディ・ミステリに仕上がっている。「学ばない探偵たちの学園」と合わせて読むといいかもしれない。読了後にタイトルの意味に気づかされる。

「筆合戦」 高橋克彦
 うーーん、正直言ってわかりにくかった。最後まで読んで、ようやくなるほどと気づかされる内容である。うまくできているんだけど、“あぁ、なるほど”で終わってしまう。

「憑代忌」 北森鴻
 北森氏の「蓮丈那智」シリーズの1作品。これは最初に語られるミクニの写真のネタを最大限にいかしたミステリである。“憑代”というものが最大限に最悪の形で生かされている。なかなかインパクトのある作品。

「走る目覚まし時計の問題」 松尾由美
 ほんわか系のミステリという感じの内容。でも、結構穴だらけのように思えなくもない。ミステリの整合性の点では弱いかなと思う。

「ブラッディ・マーダー」 波多野健
 ダン・シモンズの評論集「ブラッディ・マーダー」に対する評論。ただ、その内容だけに触れてくれればいいのだが、途中途中で訳に対する言及などが出てくるようになり、読んでるほうは混乱させられる。よって、全体的な考え方というものがいまいちつかめなかった。


本格ミステリ05

2005年06月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
本格ミステリ作家クラブ会長 有栖川有栖
小説
「大きな森の小さな密室」小林泰三
「黄昏時に鬼たちは」山口雅也
「騒がしい密室」竹本健治
「覆 面」伯方雪日
「雲の南」柳広司
「二つの鍵」三雲岳斗
「光る棺の中の白骨」柄刀一
「敬虔過ぎた狂信者」鳥飼否宇
漫画
「木乃伊の恋」高橋葉介
評論
「密室作法(改訂)」天城一
解説
2004年本格ミステリ作家クラブ活動報告

<感想>
 年を追うごとに若い作家が台頭してきて、ベテラン作家がおまけのように添えられているという構図が板についてきたような感じがする。今まではベテラン作家にもっと書いてもらいたいと年々願ってきたが、今ではそういう希望はあきらめモードに入っている。

 とはいえ、若手の作家がどんどん出てきて良い作品を書いているのであれば、それを発表する場というようになってもかまわないであろう。とにかく良いミステリーが読めるに越したことはないのだから。そして本書「本格ミステリ05」もなかなかの佳作ぞろいであり、時間を忘れて読むことができた。やっぱり本を読むなら本格ミステリーが一番であると今年改めて感じさせてくれた作品集。

「大きな森の小さな密室」 小林泰三
 犯人当ての作品として、それなりに良くできていると思える。ただ、登場人物の数が不必要に多すぎたように感じられた。本編で一番驚いたのはそのトリックよりも誰が探偵役なのかという事。これってシリーズキャラクター?

「黄昏時に鬼たちは」 山口雅也
 山口氏の「PLAY」という著書に収められているので既読。二回目になるので、新鮮さは感じられなかったがそれでもなかなかよい作品であると思う。ただ、とある作品とネタがかぶっているといえない事もないところがマイナス面か?

「騒がしい密室」 竹本健治
 おぉ、竹本氏の短編小説、しかも的場モノが読めるとは! という驚きだけでも今回の「本格ミステリ05」を買ったかいがあるかもしれない。内容は普通というよりも、その作品を作るうえでの背景によるものなのか、若干幼稚という風に感じられた。

「覆 面」 伯方雪日
 これも既読の作品。物語としては面白いのだけれども、ミステリーとしては途中で話の内容がわかってしまうというところが弱いと感じられる。この作品はこの短編オンリーではなく、「誰もわたしを倒せない」という作品集で読んでもらいたいところである。

「雲の南」 柳広司
“百万のマルコ”シリーズといえば「本格ミステリ03」にも掲載されていた。今回の作品はやけにあっさり目の作品という感触。民俗学的なミステリーといったところか。

「二つの鍵」 三雲岳斗
 この作品を読むと「本格ミステリ04」に掲載されていた法月氏の「盗まれた手紙」を思い起こす。あれよりもこの作品のほうが条件が難しくなっている分わかりにくい。とはいえ、よく読んでみれば論理的な展開を用いたミステリーとして完成していると感じられる。

「光る棺の中の白骨」 柄刀一
 誰も入ることができないはずの建物の中で見つけられた白骨死体、というものを扱った密室もの。これはなかなかよくできていたと思えるし、私自身の好みでもある。最後に真相が明かされたときには、なるほど“あれ”の応用か(応用というよりそのもの)、と感心してしまった。著者が冒頭でも言っているように、まさにトリックのための作品である。

「敬虔過ぎた狂信者」 鳥飼否宇
 わかりやすいような、わかりにくいような殺人事件。この作品で扱われている“変なダイイング・メッセージ”は鳥飼氏らしいといえる作品である。まぁ、別にダイイング・メッセージが主というわけではないのだろうが。


本格ミステリ06

2006年05月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
本格ミステリ作家クラブ会長 北村薫
小説
「霧ヶ峰涼の逆襲」東川篤哉
「コインロッカーから始まる物語」黒田研二
「杉玉のゆらゆら」霞流一
「太陽殿のイシス」柄刀一
「この世でいちばん珍しい水死人」佳多山大地
「流れ星のつくり方」道尾秀介
「黄鶏帖の名跡」森福都
「J・サーバーを読んでいた男」浅暮三文
「砕けちる褐色」田中啓文
「陰樹の森で」石持浅海
「刀盗人」岩井三四ニ
「最後のメッセージ」蒼井上鷹
「シェイク・ハーフ」米澤穂信
評論
「『攻殻機動隊』とエラリイ・クイーン」小森健太郎
解説
2005年本格ミステリ作家クラブ活動報告

<感想>
 今年の「本格ミステリ」の内容は、よくなかったとずばり言いたい。ミステリにこだわった作品というよりは、物語にこだわった作品が多かったと感じられた。年に一度のプロのミステリ作家の集大成ゆえに、もう少しレベルの高い内容のものが読みたかったところである。特にあまり掲載されていないベテラン陣にはもう少しがんばってもらいたい・・・・・と毎年言っているような気がする。

「霧ヶ峰涼の逆襲」 東川篤哉
「04」以来の霧ヶ峰涼の登場。そういえば、こんなキャラクターもいたなと思い出す。
 事件はある部屋から担架によって運び出される様子が目撃され、結局誰がどのようなタイミングで部屋に入り、また部屋から出たのかということを推理するもの。その推理が二転三転と繰り返され、なかなか凝ったものとしてできあがっている。物語とトリックがうまく組み合わせられた作品。

「コインロッカーから始まる物語」 黒田研二
 まぁ、ハートフルで面白い物語ではあるのだが、ミステリーという感じではなかったというところ。どちらかといえば、石田衣良氏の“IWGP”風の物語といったところか。

「杉玉のゆらゆら」 霞流一
 霞氏らしい作品であるのだが、あまりにも展開が普通だなと。霞氏お得意のバカミスのようでありながら、そのバカっぷりの強烈さが足りなかったかなと。

「太陽殿のイシス」 柄刀一
 この作品はあくまでも「ゴーレムの檻」と2作でひとつの作品として楽しむべきものであると思っている。とはいえ、これ単体で見ても確かに出来はよく、これだけ“密室”というものにこだわった作品もここ最近では珍しいと思われる。また、何故一時的に電源が落とされたのか? ということに対する解が実に見事であると感心した。

「この世でいちばん珍しい水死人」 佳多山大地
 なんとなく名前を聞いたことがあるような、ないような、と思っていたらミステリの評論などを書いている人のようで、作家としてはこれが初めての作品となるようである。その初めての作品のできはというと・・・・・・わざわざ、ここに載せる必要があったのかなと疑問に感じられた。ミステリというよりは、普通の小説のように思える。読んでいて、垣根亮介氏の「ワイルド・ソウル」を思い起こした。
 謎としては外部の者が入ることのできない刑務所に現れた未知の死体・・・・・・というものなのだが、これは調べればすぐにわかる話であると思われる。よって、推理して謎を解くような内容ではないと思えるのだが・・・・・・
 また、この作品は同時期に出た「川に死体のある風景」にも掲載されているそうなので、なおさらここに乗せる必要はなかったでろう。

「流れ星のつくり方」道尾秀介
 話が語られている最中では、どういうミステリなのだかということがいまいちわかりづらい。作中ではひとりの少年が身近に起こった殺人事件について語っているというもの。最後まで語り終わり、どこに焦点があったかということに気づかされたときに、思わず前のページを見返してしまう、といったそんな内容。

「黄鶏帖の名跡」 森福都
 これも読んでみて、失礼ながら唖然としてしまった作品。中国の時代劇もののような内容なのだが、別にミステリとういほどの内容ではない。さらにキャラクター小説のようでありながら、個々のキャラクターがたっていない。また、ラストの主人公らの行動もなんだこれ、とあきれてしまった。

「J・サーバーを読んでいた男」 浅暮三文
 ラジコンカーの暴走から、ある事件が浮き彫りになってくるというストーリー。これも主人公が私立探偵めいているということから来るだけではないのだが、ミステリというよりはハードボイルドやサスペンスというような内容と思われる。最後に全てが語られたときに、実は「実験小説ぬ」のようなことをやっていたのだと気づかされる。

「砕けちる褐色」 田中啓文
 これも既読作品。この作品が含まれる短編集は別に連作短編というものではなく、ひとつひとつが独立した作品なので、こういったところに掲載されるのも不思議ではない。しかし、ジャズやセッションが描かれている独自の雰囲気を楽しむのならば絶対に一冊の短編集全体で味わってもらいたい作品である。
 とはいえ、この一編もミステリとしてよくできてはいると思う。ただ、やはりこの一編だけだと主人公がセッションにより容疑者の心理的状況を探るということが不可解に見えなくもない。

「陰樹の森で」 石持浅海
 この作品は実はミステリというほどの作品ではないのかもしれない。二つの死体があり、自殺か他殺かという観点からも見ることもできるのだが、実はそれ以外の重要な“一点のみ”で語られるものである。・・・・・・ただ、その著者の術中に私自身は見事にはまってしまった。その趣向についてはうならずにはいられなくなる。

「刀盗人」 岩井三四ニ
 これも短編として悪い作品ではないとは思えるが、ミステリとして取り上げるべきものかといえば微妙。刀を誰がどのように盗んだのかというものなのだが、その手段が極めて普通。

「最後のメッセージ」 蒼井上鷹
 ショート・ショート。まぁ、普通としか言いようがない。

「シェイク・ハーフ」 米澤穂信
 これは「夏季限定トロピカルパフェ事件」からの一編。評判の良かった「夏季トロピカル」ではあるが、それはあくまでも作品全体としての出来であって、個々の短編ひとつひとつによるものではない。個々の短編は弱いものの、それが最終的にひとつの大きなまとまりがあってこその「夏季トロピカル」であると思われる。したがって、ここにその一編だけを取り上げられても困ってしまうところである・・・・・・

「『攻殻機動隊』とエラリイ・クイーン」小森健太郎(評論)
 意外と楽しんで読むことが出来たのがこの評論「攻殻機動隊」を取り上げて“あやつり”という考え方を提示し、それを用いてエラリイ・クイーンの作品を分類していくという事に興味を持って読むことができた。この評論を踏まえて、またクイーンの作品を読み返したくなるというそんな魅力を持った評論となっている。


本格ミステリ07

2007年05月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
本格ミステリ作家クラブ会長 北村薫
小説
「熊王ジャック」柳広司
「裁判員法廷二〇〇九」芦辺拓
「願かけて」泡坂妻夫
「未来へ踏み出す足」石持浅海
「想夫恋」北村薫
「福家警部補の災難」大倉崇裕
「忠臣蔵の密室」田中啓文
「紳士ならざる者の心理学」柄刀一
「心あたりのある者は」米澤穂信
評論
「本格ミステリ四つの場面」福井健太
「宿題を取りに行く」巽昌章
解説
2006年本格ミステリ作家クラブ活動報告

<感想>
 既読は石持氏、北村氏、田中氏の3作品。まぁ、これら3作品が掲載されている時点で、本書に対してがっかりさせられてしまうというのもいかなるものか。これは例年言っていることなのだが、そうそうたるメンバーがそろっているのだから、もっと“本格ミステリ”たる作品を掲載した作品集として仕上げてほしいものである。

 柳氏の「熊王ジャック」はこれ一編でというよりは、連作として栄える作品ではないかと思われる。同様に、よくできてはいるものの石持氏の「未来へ踏み出す足」や大倉氏の「福家警部補の災難」もシリーズ“短編集”の一作品としてのほうがより良く感じられる。これらの作品が悪いというわけではないが、これら作家の作品集を読んでいるものにとっては、その中から一編だけ抽出されると物足りなさを感じてしまう。

 また、ニュアンスは異なるが田中氏の「忠臣蔵の密室」はあのアンソロジーの中の一編であるからこそ成り立つ作品であると思えるのだが。

 泡坂氏の「願かけて」はミステリというよりは、落語の一編のような短い作品。北村氏の「想夫恋」は文学的な暗号ものとなっており、のめり込みにくい作品である。この二編は本格ミステリとしてはあまりにも弱く感じられる。

 米澤氏の「心あたりのある者は」は「氷菓」の主人公による、米澤版「9マイルは遠すぎる」。趣向としては悪くないと思えるのだが、どうも結末に対して煮え切らないような思いが残ってしまう。

 今回の作品集の中でよくできていたと思えたものは柄刀氏の「紳士ならざる者の心理学」と芦辺氏の「裁判員法廷二〇〇九」の2作品。「紳士ならざる者」は、複雑に描きつくされたダンボール箱のロジックと犯人のこと細かい心理描写が丁寧に描かれた作品となっている。また、「裁判員法廷」のほうは、法廷場面を用いることによって社会派的な設定を生かしつつ、ミステリ作品としてもきちんと描かれている読み応えのある作品に仕上げられている。最近、色々な短編集で良い作品を書いている芦辺氏と柄刀氏の二人に、今回も軍配が上げられたように感じられた。

 今回評論は二編載っているものの、どれもここに掲載されているものを読んだだけでは主題がわかりにくかったという印象しか残らなかった。ただ、こういった評論掲載企画というのは決して悪いことではないと思うのでぜひとも今後も続けてもらいたいものである。


本格ミステリ08

2008年06月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
本格ミステリ作家クラブ会長 北村薫
小説
「はだしの親父」黒田研二
「ギリシャ羊の秘密」法月綸太郎
「殺人現場では靴をお脱ぎください」東川篤哉
「ウォール・ウィスパー」柄刀一
「霧の巨塔」霞流一
「奇遇論」北森鴻
「身内に不幸がありまして」米澤穂信
「四枚のカード」乾くるみ
「見えないダイイングメッセージ」北山猛邦
評論
「自生する知と自壊する謎−森博嗣論」渡邉大輔
解説
2007年本格ミステリ作家クラブ活動報告

<感想>
 今回の既読のものは法月氏、柄刀氏、霞氏のもの3作品。選ばれただけのことがある作品といえるのだが、その3作品がそのままベスト3になりそうな感じがしてしまうのは、少々寂しいところである。

 上記の3作品以外にも良い作品はあったのだが、ミステリとしては弱いと感じられた。

 黒田氏の「はだしの親父」や米澤氏の「身内に不幸がありまして」は小説としては楽しめる内容。特に米澤氏の作品はホラーテイストなミステリ作品として楽しめる。

 北森氏の「奇遇論」は蓮杖那智シリーズゆえに、民俗学としては楽しめるのだが、ミステリとしてはやや弱い。

 また、東川氏の「殺人現場では靴をお脱ぎください」もよくできてはいるのだが、パンチ力に欠ける。ただ、誰もが経験した事のありそうな事象をミステリとして用いているところは、さすがといえよう。

 乾氏の「四枚のカード」は肝心のミステリの内容と比較すると、舞台立ての準備が大げさというか、話が長すぎるように思われた。

 北山氏の「見えないダイイングメッセージ」に関しては、ダイイングメッセージものとしては、なかなかうまくできていると思われたのだが、謎を解くべき探偵役の処遇に疑問を抱かされるような作品であった。

 というような感想になるのだが、全作品未読であれば、かなり楽しめるミステリ作品集と言えるのではないだろうか。それなりに良い作品が選出されているので、ベスト・セレクションの名に偽りのない作品集であることは確かであると思われる。


本格ミステリ09

2009年06月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
本格ミステリ作家クラブ会長 北村薫
小説
「しらみつぶしの時計」法月綸太郎
「路上に放置されたパン屑の研究」小林泰三
「加速度円舞曲」麻耶雄崇
「ロビンソン」柳広司
「空飛ぶ絨毯」沢村浩輔
「チェスター街の日」柄刀一
「雷雨の庭で」有栖川有栖
「迷家の如き動くもの」三津田信三
「二枚舌の掛軸」乾くるみ
評論
「『モルグ街の殺人』はほんとうに元祖ミステリなのか?」千野帽子
解説
2008年本格ミステリ作家クラブ活動報告

<感想>
 今回の本格ミステリは、なかなか出来がよいのではないかと思えるのだが、何しろ9作品中7作を既に読んでいるので新鮮味がなかった。全て未読でこれを読むことができれば、かなり良いアンソロジーだと感じられたのではないだろうか。

 未読作品は麻耶氏の「加速度円舞曲」と沢村氏の「空飛ぶ絨毯」。

 麻耶氏の作品は無理やりながらも論理の飛躍ぶりを楽しめる作品。ほんのちょっとしたことから、なんでそこまで大掛かりにするのかと思いつつも、楽しんで読むことができた。また、貴族探偵というキャラクターも変で面白い。

 沢村氏の作品は謎が提示されたときは面白いと思えたのだが、解答についてはいまひとつ。一番興味あったところが、簡単に済まされてしまったように思えた。また、展開についてもなんとなく先が読み取れてしまった。

 他は既読作品なので、いまさらながらこれというのもないのだが、個人的には法月氏の「しらみつぶしの時計」は面白い趣向だったなと改めて思える。論理的なのかどうかは微妙にしても、趣向を楽しめることは間違いない。

 また、小林氏の作品は連作短編として読むよりも、これ一編で読んだほうがなんとなく印象がよく思えた。あと、柳氏の「ロビンソン」は、これは完全に連作短編集として読んだほうがよいと思われる作品。

 ということで、これらのなかの作品をほとんど読んでいないという人には十分お薦めできる短編集。ここ最近の本格ミステリ短編をいいとこできるアンソロジーといって良いであろう。


本格ミステリ10

2010年06月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
本格ミステリ作家クラブ会長 辻真先
小説
「サソリの紅い心臓」法月綸太郎
「札幌ジンギスカンの謎」山田正紀
「佳也子の屋根に雪ふりつむ」大山誠一郎
「我が家の序列」黒田研二
「《せうえうか》の秘密」乾くるみ
「凍れるルーシー」梓崎優
「星風よ、淀みに吹け」小川一水
「イタリア国旗の食卓」谷原秋桜子
評論
「泡坂ミステリ考−亜愛一郎シリーズを中心に」横井司
解説
2009年本格ミステリ作家クラブ活動報告

<感想>
 今回は既読作品は2作のみで全体的に楽しむことができた。読んでいて感じたのは、今作はどの作品もページ数が多いなということ。全部で8作品しか掲載されていないのだが、どれもが40〜50ページの分量があり、かなりのボリュームを感じさせられた。

 このセレクションを読んでいて、しつこく書き続けてきたのは作家のラインナップについて。今までは色々と不満があったものの、ここ数年では固定されたメンバーが少なくなりつつあり、バラエティにとんだラインナップとなりつつある。新旧さまざまな作家の作品を読むことができ、悪くはないんじゃないかと思わせられる。それだけ、新進のよい作家が増えつつあるということなのであろう。

 既読の2編「佳也子の屋根に雪ふりつむ」と「凍れるルーシー」のできがすばらしかった。未読の作品のなかで、これらを越えるものがなかったのが残念。それでも小川一水氏の作品はSF的な閉ざされた状況のなかで起こる事件を描いており、前述に2作についですばらしい出来であった。

 法月氏のものは、いつもながらの論理的なミステリではなかったので少々残念。
 山田氏の作品は、うまくできているようでありながら、あいまいと感じられるものも多く、なんとなくジンギスカンが未消化でお腹の中に残ってしまったという感覚。
 黒田氏の作品は、物語が悪い方へと進まないところが良かった。アットホームミステリ。
 乾氏の作品は、米澤氏の古典部を思わせるようなキャラクター。これは短編でよりもシリーズとして一冊の作品で読んでみたい。
 谷原氏の作品は、毒殺系ミステリであるのだが、蘊蓄食卓系というような印象のほうが強かった。やや、作風が軽めすぎたようにも思える。

 最後の評論は“亜愛一郎”をとりあげたものであったが、そろそろ再読したいと思っているところなので、ネタバレを警戒して読むのはやめにした。


ベスト本格ミステリ2011

2011年06月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
本格ミステリ作家クラブ会長 辻真先
小説
「ロジカル・デスゲーム」有栖川有栖
「からくりツィスカの余命」市井豊
「鏡の迷宮、白い蝶」谷原秋桜子
「天の狗」鳥飼否宇
「聖剣パズル」高井忍
「死者からの伝言をどうぞ」東川篤哉
「羅漢崩れ」飛鳥部勝則
「エレメントコスモス」初野晴
「オーブランの少女」深緑野分
評論
「ケメルマンの閉じた世界」杉江松恋
解説
2010年本格ミステリ作家クラブ活動報告

<感想>
 11年目ということでタイトルも微妙に変わったようだ。しかし、11年ともなるとずいぶん長く続いているなと感心する。

 年ごとに面白かったり、物足りなかったりさまざまであるが、そういったなかで今回はがっかりしたという思いが強い。2010年の選び抜かれた作品集ということなのだが、どうもそのようには感じられなかった。なんとなく新人のお披露目的な意味合いが強くなってきたのではと感じてしまうのだがどうであろうか?

 今作ではベテランである有栖川氏の作品と東川氏の執事シリーズの2作が既読。それ以外は初読なのだが、あまり感心したという作品がなかった。鳥飼氏の作品の断崖上での殺人事件や、飛鳥部氏の作品の物語のようなバラバラ死体の謎には、それぞれ雰囲気が出ており、それなりに佳作と思われた。

 また、今回初めて読む作家である深緑野分氏の「オーブランの少女」が一番楽しめた。修道院のような閉鎖された空間の謎が時代設定と共に見事に解き明かされるようになっている。それだけに終わらせず、ホラー的な付随部分が見事に色を添えていると言えよう。

 それ以外の作品は興味の持てない蘊蓄の披露のような作品ばかり見られ、楽しむことができなかった。昨年の10年のくぎりでこのシリーズも辞めておいてもよかったかもしれない。11年目のくぎりというのも中途半端だが、来年以降は読まなくてもよいシリーズかもしれない。




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