さて、そろそろ条件を述べるのも最後にしたいのだが、
“名探偵”を語る上で大事な一つの要素として
“性格”というものがあるのではないだろうか。確かに事件を解決することこそが名探偵の証である。謎を解いてこそ名探偵である。しかしながら、その探偵自身に魅力がなければそれに注目したいとは思わないであろう。その人間的魅力というものこそが探偵を
“名探偵”へとのし上げる一つの要因に他ならないと感じるのである。すなわちそれが
探偵の性格である。
よく推理小説のなかでも出てくるかと思うのだが、
地味な探偵役というものが存在する。とくにこういうタイプは警察官・刑事に多い。事件が起こると地道に聞き込みをして、地道に足で捜査をする。そうして徐々に犯人を追い詰めていき、事件を解決する。
また、警察官ではなく探偵においても確かに名推理を披露するものの人間的に地味であると、あまりにも印象に残らない。
彼らも確かにある種、名探偵という呼び名にふさわしいのかもしれないが、それにはあまりにも、いや、あまりにも・・・・
“華がない!”
外国作品でいえば、F・W・クロフツが描く
フレンチ警部という地味な代表格がいる。作風においてもアリバイトリックなどが用いられる地味さのなかで、この主人公までもが実直に捜査をするというもの。海外ミステリにおいては、クロフツの作品というのは有名なはずなのだが日本でこの一連の作品を多く読んでいる人がいるかというとそう多くはいるまい。また、これを読んだ人たちに
「フレンチ警部ってどんな人?」と聞けば、十中八九
「地味な人」という答えで終わってしまうのではなかろうか。
ここで、クロフツ作品に比較してジョルジュ・シムノンが描く
メグレ警部(もしくは警視)をあげてみようと思う。シムノンの作品というのもどちらかといえば地味である。正直いって、一般に読まれているかといえばクロフツの作品よりは少し上か、もしくはどっこいどっこいなのではないだろうか。しかしながら、本を読んだものがメグレ警部のイメージを尋ねられたら
“不機嫌そうにパイプをふかした、おっさん”の姿を思い浮かべることができるかと思う。たとえ、作品の内容を忘れてしまったとしてもメグレ警部のあくの強さは印象に残るであろう。
ここでもうひとつの例として、“問題”
「十角館の殺人」を解決した探偵の名前は?
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正解:島田潔 (後に鹿谷門実に改名)
ミステリが好きな人であれば、
「十角館の殺人」のことをたいていの人は知っているだろう。しかし、そこに出てくる探偵ということであれば、読んでから時間が経っている人ならば忘れていた人もいるのではないだろうか。このシリーズに関して言えば探偵の希薄さというのも、ひょっとしたら著者の意図によるものなのかもしれない。ただし結局のところ地味な探偵であれば、人々の印象にあまり残らず
“名探偵”の名を冠することができずに埋没していってしまう。
“館シリーズ”のようなビッグネームの事件を解決しているにもかかわらず、“名探偵”の1人として
島田潔の名が他で語られることはほとんどないように。
いいたいことは上記のとおりである。ずばり
その探偵が印象に残るかどうかということだ。ここでは探偵の性格と表現しているが、それは必ずしも性格の良し悪しのことではない。むしろ逆に性格が悪いほうが人々に強い印象を与え、記憶に残るであろう。身近にいる人というのであれば、地味な人物のほうが良いのだろうが、事件という非日常的な事柄が起きたとき、その非日常を打ち消してしまうような非常識な探偵こそが実は皆に愛されるのではないだろうか。
非常識でもいい、探偵であるのだから!
とはいえ、もちろん性格の良い探偵でもかまわない。とはいえ、性格が良いだけで終わらずに、なんらかのエキセントリックな部分を持っていてほしい。そんなくせのある人こそが
“名探偵”の名にふさわしいと思う。言い換えれば、印象に残る人物であってもらいたい。
もう一つ関連付けるならば、外見というのも一つの特徴かもしれない。例えば、カーの
フェル博士の巨体、クリスティの
エルキュール・ポアロの口ひげ、日本では
金田一耕介のスタイル。そういったものも探偵の個性として考えてもよいのだろう。一目見ただけで忘れられない探偵というのもいいのかもしれない。それが良い夢であって、悪夢でないことを祈るのみであるが。
ただ、最近の小説などにあるように、ただ単に“美男子”だとか“かっこいい”と書いただけのものはいただけない。それでは、最初に示したように“名探偵”を連発するのと同じだからである。“美男子”でも良いのだが、それにともなう実力も付随させてもらいたい。
ここで、結論
一、名探偵は強烈なキャラクター(性格・外見等)であることが望ましい
以上、その1からその4までにて、思いつくままに“名探偵の条件”というものを述べていったのだが、最後にここで総括をしてみたいと思う。
続きは
その5で
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