ア行−オ  作家作品別 内容・感想

高慢と偏見   Pride and Prejudice (Jane Austen)

1813年 出版
2011年11月 光文社 光文社古典新訳文庫(上下)

<内容>
 ベネット家の五人姉妹の次女エリザベスは年齢適齢期となり、姉のジェインと共に結婚相手を見定め始める。そんなときに近所に裕福な青年紳士ビングリーが引っ越してくる。さっそくビングリー青年とベネット家は知り合いとなり、ベネットの友人であるダーシーを紹介されることに。しかし、そのダーシーは高慢な態度を示し、エリザベスらから反感を買うことに。その後もベネット家の人々とビングリー青年、ダーシー青年との交友は続き、互いに様々な感情を持つこととなり・・・・・・

セス・グレアム・スミス「高慢と偏見とゾンビ」感想へ
P・D・ジェイムズ「高慢と偏見、そして殺人」感想へ

<感想>
 こちらはミステリではなく、言わずと知れた有名な文学小説。それをなんで読んでみようかと思ったかというと理由がある。少し昔に「高慢と偏見とゾンビ」という作品が、ちょっと流行った時期がありそれに興味を持ったのだ。また、その後くらいにP・D・ジェイムズの小説で「高慢と偏見、そして殺人」という作品が出た。この2冊を購入したのだが、当然のことながら元の作品である「高慢と偏見」に深いかかわりがあることには間違いない。というわけで、ちょうど光文社古典新訳文庫から「高慢と偏見」が出たので、それを購入した次第。

 それから10年以上の時が経ち、ようやく手に取って読むこととなった。ちなみに当然のことながら「高慢と偏見とゾンビ」と「高慢と偏見、そして殺人」の2作も未読である。これを読むことによって、ようやく着手できるようになったわけである。

 この「高慢と偏見」という小説なのだが、大雑把に言えば上流階級の結婚適齢期の女子たちが、結婚相手を物色していくというような内容。ただし、これが200年以上前に書かれた作品ゆえに、今の時代とは異なる文化・風習ゆえにピンと来ないところも多くある。(そのへんの背景などについては、あとがきにしっかりと書かれている)

 あとは恋の先行きというか、主人公であるエリザベスの恋愛感情の遍歴が描かれるものとなっている。前半はやや退屈であるが、後半になるとベネット家に関する厄介ごとが持ち上がり、そこから話が大きく動くこととなるので、結構楽しく読むことができた。決して男性向けの小説いうようなものではなく、普通にドラマ化したら(実際映像化は色々とされているようである)注目されそうな内容という感じであった。

 本書について、いたく感銘してしまったのが、最後の結末について。一見、色々と不幸な出来事やうまくいかないような事象などがあったと思われるものの、それでも最後はハッピーエンドというか、前向きにとらえた結末としているところが凄いなと感じてしまった。ようするに、読んでいる側からは波乱万丈な出来事と思えたことが、実はその当時であれば、こういったちょっとしたいざこざなどは良く起きていたことであり、そう騒ぐようなものではないということなのか。個人的には、終盤の平穏な終わり方に、なんとも圧倒された作品であった。


<アルハンブラ・ホテル>殺人事件   Murder Makes Us Gay (Inez Oellrichs)   6点

1941年 出版
2021年11月 論創社 論創海外ミステリ276

<内容>
 かつて刑事弁護士を目指しながらも現在はミュージシャンをしているデニーとコール・アイランドの警官レイ。そんな二人のコンビのもと、デニーが楽団ミュージシャンの一員として働くアルハンブラ・ホテルに、元服役囚ウィル・ネイラーが戻ってくる。そのネイラーが戻ってきたことにより、周辺の人々に混乱が起きる。そして、ホテルの支配人で、かつてのネイラーの妻であったローラの現在の夫であるハロルド・バンクスが殺害される事件が起きる。当然のことながらネイラーに容疑がかかるものの、デニーは彼の無実を信じていた。デニーとレイは事件の背景を調べようとするのであったが・・・・・・

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<感想>
 アメリカの女性推理作家イーニス・オエルリックスの長編。この著者は本書以外では牛乳配達人を主人公としたミステリシリーズを書いているようだが、本書はそうしたなか唯一のノン・シリーズ長編とのこと。日本ではほとんど訳されていない作家のようで、ひょっとすると本書が初めて紹介される作品であるのかもしれない。

 地味でありながら面白く、面白いようでありながら微妙なところもあり、展開についてもやや尻つぼみ感があり、普通のミステリ作品っぽいのだが、どこか癖を感じられる作品。決して面白くないことはないのだが、何故か手放しに面白いといえないのは何故なのか?

 ホテルで起きた事件をミュージシャンのデニーと警官のレイのコンビが捜査をしていくというもの。特にデニーは容疑者であるネイラーの無実を信じていて、積極的にデニーが捜査に身を投じていく。ただ、ネイラーが犯人でなければ、何故ホテルの支配人が殺害されたのかという動機がわからないため、過去に起きた事件を紐解きつつ、事件を洗い出してゆくこととなる。

 たぶん、訳が新しいゆえに、普通に読み込むことができた作品なのだろうなという感じ。事件捜査そのものよりも、怪しげな行動をとる人々による小競り合いが始終起きていて、それを収めていくと少しずつ新しい情報が入り、話がちょっとずつ進んでいくという感じであったような。

 最後は真相がなし崩し的に終わってしまったような感じがして、そこが一番いまいちなところであったかもしれない。無意味に騒動が起きて、なんとなく事件が解決してしまったようなところがある。そこをきちんと決めきってくれれば、もう少し評価の高い作品であったような気がするのだが。


レディー・モリーの事件簿   Lady Molly of Scotland Yard (Baroness Orczy)

1910年 出版
2006年03月 論創社 論創海外ミステリ45

<内容>
 「ナインスコアの謎」
 「フルーウィンの細密画」
 「アイリッシュ・ツイードのコート」
 「フォードウィッチ館の秘密」
 「とある日の過ち」
 「ブルターニュの城」
 「クリスマスの惨劇」
 「砂 嚢」
 「インバネスの男」
 「大きな帽子の女」
 「サー・ジェレマイアの遺言書」
 「終 幕」

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<感想>
 本書の特徴は女性捜査官が登場するというところ。昔の本格推理小説において、女性の探偵というのは有名どころは多くないにしても、ある程度の数は挙げることができる。しかし、それらの多くは安楽椅子探偵などの素人探偵が多いように思われる。そういったなかで、警察機構に属する捜査官というものが語られる作品というのは珍しいのではないだろうか。また、語り手であり、レディ・モリーのパートナーである者が女性であるということも本書の大きな特徴であろう。

 ただ、そういう背景の中で本書が推理小説として満足のいくものかといえば、そうでもない。本書は短編集となっているのだが、そのひとつひとつの作品は25ページ前後となっており、短いほうであると思える。その短いページの中で、まず事件が起こり、レディ・モリーが事件に乗り出し、そして即解決となってしまうのである。つまり、解決にいたるまでの推理や根拠といったものが抜け落ちているのである。唯一の例外といえるのは「」という作品で、これは最後に推理の根拠が語られており、全てをこういう形の作品集にしてくれたらと思わずにはいられなかった。

 とはいえ、推理小説としての完成度が低いからといって本書における見所がないかというとそんなことはない。ここでレディ・モリーが遭遇する事件自体は、よくもこれだけ色々なパターンを考えられるなと感心させられるものであることは間違いない。

 そして、本書のメインとなるのはなんといってもレディ・モリーという存在である。物語が語られるなかで、実はレディ・モリー自身についてはほとんど触れられていない。ゆえに、優秀で活発な女性だということはわかるのだが、それ以外のところは全くといっていいほど不透明に描かれているのである。何ゆえ、このような書き方がなされているかというと、それは最後の作品によって明らかにされている。何故、彼女が女性捜査官となったのか、彼女の目的は何なのか。それらが読者に知らされたとき、本書の幕が引かれることとなる。


紅はこべ   The Scarlet Pimpernel (Baroness Orczy)

1905年 出版
2022年09月 東京創元社 創元推理文庫(新訳版)

<内容>
 1789年、フランス革命が勃発。この革命により、貴族と名の付く人々は次々とギロチンにかけられていた。そうしたなか、窮地に陥ったフランス貴族に助けの手を伸ばしたのは、イギリスの謎の集団“紅はこべ”。正体のわからぬ指導者による大胆な計画により、次々と貴族たちが助け出されてゆく。この事態を重く見たフランスの共和国側は紅はこべを捉えようと、フランス人の女優で、イギリス人の貴族と結婚したマルグリートを利用しようとする。マルグリートの兄の命と引き換えに、イギリスでスパイをし、紅はこべの正体を突き止めよと命令されるのであったが・・・・・・

<感想>
 パロネス・オルツィといえば、ミステリファンにとっては「隅の老人の事件簿」の著者で有名。しかし、一般的には「紅はこべ」という劇や映像などの原作者ということで有名なのかもしれない。「紅はこべ」というタイトルのみは聞いたことがあったものの、どんな作品かは知らなかったので、2022年に新訳版が出たのをきっかけに購入した次第。

 内容を全く知らなかったので、フランス革命時代を背景に描いた“紅はこべ”という謎の集団の活躍を描いた歴史活劇であるということを始めて知った(あくまでもフィクションであろう)。物語の視点は、マルグリートという女性の視点で描かれている。この女性がフランスとイギリスの狭間に立たされ、家族の問題もあり、どちらの立場に立つかどうかに悩みながら事件に巻き込まれてゆく様子が描かれている。

 このマルグリートのみの視点にこだわったがゆえに、ちょっと強引というか微妙な展開はあるものの、基本的にはすごく面白い歴史活劇となっている。これは有名作品となるのも納得であり、読んでいて非常に面白かった。しかも新訳ゆえに読みやすかったというところもあったと思われるので、また手に入りにくくなる前に未読の方は読んでおくことをお薦めしておきたい。フランスが舞台になっているからというわけではないと思えるが、ちょっぴりアルセーヌ・ルパンを思わせるような。




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