霧舎巧  作品別 内容・感想

ドッペルゲンガー宮 『あかずの扉』研究会 流氷館へ   6点

第12回メフィスト賞受賞作
1999年07月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 ゴシック様式の尖塔が天空を貫き屹立する、流氷館。いわくつきのこの館を学生サークル《あかずの扉》研究会のメンバー6人が訪れたとき、満天驚異の現象と共に悲劇は発動した!

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<感想>
 綾辻行人の十角館を思わせるような作品に仕上がっている。ひさびさに面白い新本格の推理小説を読んだ気がした。登場人物の軽い話方やさくさくと進む展開が非常に読みやすかった。最近、やたら蘊蓄をだらだら並べることによりページ稼ぎをする小説が多い中でこのようなあっさりした作品を読めるのは非常に喜ばしい限りだ。

 あっさりしたといっても、内容が薄っぺらいということはなく、そして誰もいなくなったをなぞらえたかのように次々と起こる殺人そしてそのどことはわからない殺人現場のなかで携帯電話を通じて連絡をとりながら殺人が進行していくのはスリルがあった。

 トリックや動機についてはちょっとと思わせるところもあったがおもしろい推理小説といえる一冊だった。


カレイドスコープ島 『あかずの扉』研究会 竹取島へ   5点

2000年01月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 由井の友達、金本鈴の誘いで、《あかずの扉》研究会は鈴の出身地の八丈島の離島、竹取島へ行くことになった。ちょっとしたトラブルから島へ渡る際、別行動になった二本松翔は宝捜しに来ていた、真珠さんという女性のクルーザーで隣の月島に向かう。そのとき翔は月島で面をした二人の人物が海に何か(死体?)を捨てるのを目撃した。それから翔は事件に巻き込まれて行く。
 月島幻斉を島主とし、それを取り巻く剣持、木虎、竜崎の三家。またその三家は島の継承者の証となる代々伝わる家宝を持っている。そして、月島で剣持家による婚礼の儀が行われようとする矢先、三家の人々を襲う殺人事件がおこる。五十年前の大量毒殺。月島の噴火口を取り巻く壁。殺人予告上。島主の座を狙うもの達。はたまた継承者の座を狙おうとする者達。そして、犯人は「ドラえもん」の予言。

<感想>
 設定といい舞台といい、これぞミステリーといわんばかりの十分な背景が用意され、「ドッペルゲンガー宮」同様、はりめぐられた伏線を論理で解決して行く様は鮮やかである。また、新本格らしい読み易さで最初から最後まで一気に読ませる、十分な作品に仕上がっている。ただ、「獄門島」を意識したものであるならばもう少し陰惨な様子を表現してもらいたかった。全編に渡って陰惨さなどがなく、突然殺人事件がが起こっても、衝撃なしに話が先へ進んでいる。そのような平坦さが目立ってしまい、せっかくの設定が生かしきれていないのは残念である。

 あと気になったのは後動や由井をめぐる人間関係についてだが、この作品の中だけで言えば余計な情報が多すぎるのではないかと思えた(由井と鈴の昔の関係、後動と恐子さんの関係など)。ただこれは、今後の作品のなかで生かされてくる伏線の一つなのだろうかとも考えられるので、今後の作品に期待して保留しておきたいと考えている。


ラグナロク洞 『あかずの扉』研究会 影郎沼へ   5点

2000年11月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 中央アルプスの隠れ里を襲った嵐の一夜。土砂崩れで奇怪な洞窟に閉じ込められた《あかずの扉》研究会のメンバーを直撃する連続殺人と、乱れ飛ぶ不可解なダイイング・メッセージ! 謎の洞窟に潜む姿なき犯人の正体を彼らは明らかにすることができるのだろうか!?

詳 細

<感想>
「カレイドスコープ島」よりは「ドッペルゲンガー宮」に近い作風となり、本格にこだわった作品を披露してくれている。

 しかし、あいかわらず物語に起伏がない。とつぜん十字架が落ちてきて、人命救助しようと思えば洞窟に閉じ込められ、殺人が起きて、その死体はほっておいて冷静に話が進められる。謎が明確に提示されずに、次から次へと新事実が明らかになってもなんの驚きもないままクライマックスへと突入する。

 題材やラストにおけるトリックなどはいい物を使っているように見えるのだが、いかんせんそこまで持っていく過程で失敗しているような気がする。これでは「ある殺人鬼が抜け穴だらけの洞窟で連続殺人を犯した」でかたずけることができる内容だ。同じ題材で他の人が書けばもっとおもしろくなるのではないかとつい考えてしまう。

 作中のダイイング・メッセージの講義などから伝わる情熱に見ることができる本格を意識して取り組む姿勢には好感を抱いているのだがもう少しがんばってもらいたいものだ。


マリオネット園 『あかずの扉』研究会 首吊塔へ   5点

2000年11月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 閉鎖されたテーマパーク<マリオネットランド>に妖しく聳える斜塔−“首吊塔”。
 その閉鎖されたはずの塔へと誘われたかのように乗り込んでゆく後動悟。彼は先に塔へと乗り込んでいったはずの森咲枝の後を追っていったのであるが・・・・・・。そしてその後動の行方の心配をした警視庁の今寺から頼まれて、港湾局の片品を伴い塔に入って行く真村。
 また一方、他の「あかずの扉」研究会の面々は、以前の事件で関わった人物の友人と名乗る純徳女学院の沢入美由紀から相談を受けることに。彼女の元に謎の暗号ともとれる手紙が届き、その中にはコインロッカーの鍵が。研究会のメンバーは沢入とその場にいあわせた、女編集者の水上と共にその謎を解くために一路地下鉄へと。そこで手にする沢入の父親が作製したというマリオネットとさらなる指令。一同は謎の魔の手によって、誘われるかのように・・・・・・
 人間消失、首吊り死体とバラバラ死体の不可能犯罪らが次々に起こる中、研究会のメンバーが導き出した答えとは!?

<感想>
 全体的な感想としては前作、前々作と変わらない。大掛かりなトリックを仕掛けてくれるところはあいかわらず面白い。しかし、どうしてもそれだけという感がある。それどころか、他の細部がマイナスになっている。つっこみどころが満載でひとつひとつ取上げる気にもならない。この著者の作品はアイディアが良く、面白くなりそうな予感を秘めているだけに実に残念である。


名探偵はもういない   3点

2002年02年 原書房 ミステリー・リーグ

<内容>
 雪深い山間のペンションで続けざまに起こった不可解な連続怪死事件。「名探偵」はそれぞれの現場に残されたさまざまな証拠を丹念に検証しながら、「そこで起こったはずのこと」を再構築し、そして犯人像を絞り込んでゆく。二転三転するスリリングな「推理」の醍醐味を味あわせてくれるのは、なんと「あのひと」だった! 「読者への挑戦」を付した本格推理の意欲作!

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<感想>
 著者初のノン・シリーズの本作となるのだが、感想は今まで出版された本となんら変わりはない。なにか書こうにも否定的な意見しか思い浮かべることができない。ここ何年かの私にとってのワースト作品である。


霧舎巧傑作短編集   5点

2004年04月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 「手首を持ち歩く男」 (本格推理10:光文社文庫)
 「紫陽花物語」 (本格推理13:光文社文庫)
 「動物園の密室」 (御手洗潔パロディサイト事件:南雲堂)
 「まだらの紐、再び」 (密室殺人大百科:原書房)
 「月の光の輝く夜に」 (メフィスト:2003年9月増刊号)
 「クリスマスの約束」 (書き下ろし)

<感想>
“傑作短編集”とのことなのだが、“傑作集”というよりは“霧舎巧全仕事”という感じがする。ようするに今まで書いた短編を集めたものである。こうして初出を見てみると、すでに既読していた作品が多いことに驚いてしまう。本格推理とパロディサイトは読んでいたので、確かに覚えがあるものが何編かあった。

 全編読んでみて感じたことは、昔懐かし、新本格というジャンルにてデビューした作家達の初期の作品を読んでいるような感慨を抱いた。それは当然、良い意味もあれば悪い意味も含まれる。しかし、今やこういった本格推理小説を真正面から書く人が少なくなったゆえに貴重な作家であるということも感じられる。そして付け加えさせてもらうと、もう少し全体的にレベルアップしてもらえればと感じるのも正直なところである。

「手首を持ち歩く男」
 これはちょっとあまりにもと感じられた作品。まず、どう考えても犯人の正体があからさま過ぎる。それに付随するネタとしては面白いものもあるのだが、全体的にバランスが悪く感じられる。とはいうものの、著者の最初の短編なのだからということで、軽くフォローをいれておく。

「紫陽花物語」
 これはオチも効いていて、それなりに楽しむことができた。強引な推理を逆手にとるという荒業。後動というキャラクターが出てくるのだが、性格的にはカケルのほうに近いように思える。

「動物園の密室」
 御手洗潔のパスティーシュ。なかなか良くできている作品。特に凶器のトリックは面白い。この著者の場合この短編のように、恋愛だとか妙な感情を内容に含まないほうが良いものができると思うのだが。

「まだらの紐、再び」
 本書の中での短編では一番これが推理小説らしい作品であったと思う。蛇の毒を凶器として用い、蛇の習性を論理に用いたりと、さまざまな要素がうまくミステリーとして生かされている。話の流れもうまく構成されていると思う。本書の中では一番良い作品。

「月の光の輝く夜に」
 島田氏の「21世紀本格」に間に合わなかった作品。“21世紀本格”っぽい小説のような気はするが、“本格推理小説”っぽくない小説。これもネタがばれやすい、というか明らかのような気がするのだが。

「クリスマスの約束」
 書き下ろしのボーナストラックということなのであるが、誰にとってのボーナスなのであろうか。読んでみると、どうも主人公のためのボーナストラックでしかないように思える。読者は既に放置された気分。


名探偵はどこにいる   6点

2006年03月 原書房 ミステリー・リーグ

<内容>
「わたしたちがやろうとしているのは・・・・・・殺人なのよ」 双子の姉妹は固い決意とともに、とある計画を行うために島へと向かった・・・・・・。
 その計画から二十数年後、警察官の今寺は、とある脅迫事件に巻き込まれる事に。代議士がその双子の姉妹が行った計画の事で脅迫を受けているというのである。ただ、その事件に関しては今寺の先輩である後動がすでに解き明かしていたというのだが・・・・・・。いったい後動はこの事件に対してどのように結論付けていたのか? そして、事件の真相とはいったい!?

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<感想>
 なかなか面白く読むことのできた作品であった。ラストで明かされる真相もそれなりにひねりが効いていたと思える。

 ただ、作品を読んでいて感じられたのは話の内容と設定とのバランスの悪さ。話の内容としてはライトノベルス系のような簡素なものであったと思える。その内容を代議士を交えての恐喝による刑事事件というような設定にしてしまったところにバランスの悪さを感じた。

 本書の中で強調されているのは学生時代の初恋や恋愛などの男女の絆のようにとらえられる。それであるならば、“学園もの”のような設定の中で、ノリはまじめであっても、軽い背景のなかで構成してゆけばよかったと思える。細かいところを書ききるというわけでもないのに、あえて代議士や警察官などの出すような物語ではなかったのではないだろうか。

 本書の以外でもいえるのであるが、この著者はアイディアについてはまだ色々な引き出しがあるように思えるので、もっと軽い設定の中でミステリーや恋愛ものなどを展開していくほうがよいのではないかと思える。そう思うと(実際に読んではいないのだが)霧舎学園シリーズというのはこの著者にはまさにぴったりの舞台設定であると言えるのかもしれない。


新本格もどき   6点

2007年08月 光文社 カッパ・ノベルス

<内容>
 「三、四、五角館の殺人」
 「二、三の悲劇」
 「人形は密室で推理する」
 「長い、白い家の殺人」
 「雨降り山荘の殺人」
 「13人目の看護師」
 「双頭の小悪魔」

<感想>
 新本格推理小説が好きな人であれば、それぞれのタイトルを見ただけでどの作品のパロディなのかすぐにわかるであろう。本書は記憶を無くした入院患者と病院の看護婦、そして何故かカレー屋のマスターが加わった三人が巻き起こす騒動を本格ミステリ・パロディ風に味付けした作品となっている。ただし、本書に掲載されている短編はミステリ作品といってもどれも小粒で、なおかつ他の作品集には加えられないようなボツネタを有効活用した作品なのであろうということも付け加えておきたい。

 読んでいてひとつ感じたのは、各作品ごとに挿入されている“寸断されたあとがき”というのが言い訳がましくて邪魔くさい、ということ。ただ、本書はあくまでもパロディ小説であるがゆえに、そうしたフォローも必要なのだろうという配慮はわからないでもないのだけど・・・・・・。

「三、四、五角館の殺人」
 いわずとしれた「十角館の殺人」のパロディ小説・・・といいつつも館が出てくるだけでパロディ小説という雰囲気ではない。とはいえ、だましのテクニックといい、館のトリックといい、この作品集ならではの醍醐味を味わうことができる。

「二、三の悲劇」
 これは法月綸太郎氏の「二の悲劇」のパロディ。ミステリ小説のみならず、作品としての物語の部分にも力が込められているのがわかる。反則気味とはいえ「二の悲劇」のパロディならではというトリックを炸裂させている。

「人形は密室で推理する」
 我孫子氏の腹話術シリーズのパロディ作品。催眠術が活用されているところは胡散臭さが感じられるのだが、メイントリックに関してはなかなか悪くないのではと思えた。“腹話術師”という設定を有効に生かした作品といえよう。

「長い、白い家の殺人」
 歌野氏の初期の作品を題材に用いたパロディ作品・・・のはずだが、歌野氏の作品とはさほど関わり合いがなかったのではと感じられる。主人公のひとりである看護婦の姉が出てくるのだが、あまりにも人物造形としてうさんくさすぎるのではないかと思う。この作品あたりから、本作品集の収束を図り始めたためか、ややミステリ性が薄くなりつつあると感じられるようになってきた。

「雨降り山荘の殺人」
 倉知氏の「星降り山荘の殺人」のパロディ・・・・・・なのに私は東野氏の「仮面山荘」かと思い込んでいたがために、読んでいる最中はずっと納得がいかなかった(←全責任は自分自身にある)。ボツネタを用いたということが明らかにわかる作品。これは普通の作品では使うことができないトリックであろう(でも前例があるって・・・・・・)。

「13人目の看護師」
 山口氏のキッド・ピストルズ・シリーズのパロディ・・・・・・ではあるのだが、大技一発芸という気がしてならない。まぁ、それはそれで良いと思える。

「双頭の小悪魔」
 タイトルだけは有栖川氏のパロディであるが、内容は全く関係ないように思われる。むしろあえて言うならば綾辻行人風と感じられた。もうちょっとがんばって長編にするのもありだったのではと思われる作品。短編にしたからこそ安っぽい作品になってしまったような気が・・・・・・


新・新本格もどき   5点

2010年10月 光文社 カッパ・ノベルス

<内容>
 「人狼病の恐怖」
 「すべてがXになる」
 「覆面作家は二人もいらない」
 「万力密室!」
 「殺人史劇の13人」
 「夏と冬の迷走曲」
 「《おかずの扉》研究会」

<感想>
 3年前に出た作品の続編となるのだが・・・・・・前作はもっと面白いと感じていたような気がするのだが・・・・・・

 今回の作品も、別のミステリ作家の作品をモチーフとした事件を描いた短編が集められている。最初の「人狼病の恐怖」は普通に楽しめたものの、その後の短編を無理やり最初の作品の登場人物や組織と結びつけようとしたことにより、話がおかしくなっていったように思われる。後半ではただ単に前に登場した(というか名前だけしか出ていないような人物さえも)人物を登場させ、殺害しもしくは犯人に仕立て上げということが続いてゆき、とにかくごちゃごちゃしていたという印象しか残らなかった。

 霧舎氏については、トリックには定評があるものの、うまく物語を書きあげることができる作家ではないというイメージがある。ゆえに、妙なつなげ方をせずに、個々のシンプルな短編として描きあげたほうが良かったように思えるのだが。




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