「まほろ市の殺人」 総括


 祥伝社書き下ろし400円文庫第3弾において、「幻想都市の四季」という企画がなされた。「まほろ市の殺人」という題名で春夏秋冬という季節をそれぞれ四人の作家に割り振り、文庫が書き下ろされた。春が倉知淳氏、夏が我孫子武丸氏、秋が麻耶雄嵩氏、冬が有栖川有栖氏という面々。いちおう帯には“競作”と銘うたれているものの、どこまで打ち合わせがあったかまではわからない(四作品のどれもあとがきはなかった)。ひょっとしたら競作というのは、応募券を送ることにより20名にプレゼントされる「競作色紙」のことをいっているのかもしれない。

 さて、内容においてどういったところが競作になっているのというと“真幌市”という同じ舞台をそれぞれ扱っているということ。さらにはその真幌市を地図付きで表して舞台が共通であるということを強調している。
 内容的になんらかの競作による仕掛けがあるのかというとそれはないようである。多少他の作品を表す記述があるのだが、それだけにとどまっている。ただ正直言って、これだけのメンバーがそろっているのだからなにか競作ならではの仕掛けをしてもらいたかった。結構期待をしてはいたのだが・・・。

 では、それぞれ個々の作品においてはどうだったのであろうか。それぞれの作品の内容でも簡単に書いたのだが、この400円文庫の長さをうまく生かした人と生かしきれなかった人がいたようである。
 この長さでうまくまとめたのは我孫子氏であろう。サイコサスペンスをきれいに書ききっている。
 逆にこの長さが短かったのでは、と思えたのが倉知氏と麻耶氏。長編として書かれたほうが良い作品になっていたのではないだろうか。特に倉知氏の作風にはそう思えた。
 有栖川氏のはどちらともいえない。これが書きたかったのか、それとも途中で行き詰まってこういう風になってしまったのか??

 全作を通して楽しめたのは確かだが、競作ということでなにかもうひとつ話題性になるようなものを付け加えてもらいたかった。400円文庫第4弾に期待。


まほろ市の殺人 春
まほろ市の殺人 夏
まほろ市の殺人 秋
まほろ市の殺人 冬




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