有栖川有栖  作品別 内容・感想1

月光ゲーム   Yの悲劇'88   7点

1988年01月 東京創元社 単行本
1994年07月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 英都大学・推理小説研究会の部員四名、部長の江神二郎、2年生の望月周平と織田光次郎、そして1年生の有栖川有栖。彼らは夏合宿と称し、矢吹山のキャンプ場へとやってきた。そこには彼らだけではなく、複数の大学サークルの面々が集っており、総勢17名でキャンプを楽しむこととなった。そうしたなか、突然ひとりの女学生が誰にもわけを告げぬまま、キャンプ場から姿を消してしまう。彼女の行方を捜そうとしたとき、突如矢吹山が噴火し、キャンプ場から下山できなくなってしまう。一同、助けを待つなか、殺人事件が起きることに・・・・・・刺殺された死体のそばには“Y”と書かれたようなダイイングメッセージが残されていた。

<感想>
 再読。何度か読んでいるはずなのだが、何故か感想を書いておらず、再度読み直し。前々から有栖川氏の初期長編「月光ゲーム」「孤島パズル」「双頭の悪魔」と再読したいと思っているのだが、一向に「双頭の悪魔」までたどり着けない。今年中に再読できるかな? と計画中。

 本書は有栖川氏の処女作で英都大学・推理小説研究会の面々が主人公を務めるシリーズ。ワトソン役の有栖川有栖と探偵役の江神二郎が中心となり、謎を解いてゆく。ここで起きる事件は、キャンプ場にて火山噴火が起こり、外部と孤立する中での殺人事件。現場に残されたダイイングメッセージ、さらなる殺人事件、そして行方不明となった者の安否は? そういったことが問われる中、読者への挑戦が付けられた謎解きミステリとなっている。

 思っていたよりもレベルの高い謎解きになっていたなと感心させられる。練りに練った本格ミステリとして完成されている。特に犯人を指摘するにあたって、現場の状況と、残されたマッチから論理的に推理していくところは見事と言えよう。ただ、そうしたレベルの高い謎解きのなかで、やけにダイイングメッセージが浮いてしまっているように感じられた。“Yの悲劇”を意識しての事なのであろうが、別にそこにこだわる必要はなかったのではと思えなくもない。まぁ、そうした気になる点を含めても、よくできた本格ミステリ小説であると感嘆させられる逸品であることには間違いない。


孤島パズル   7点

1989年07月 東京創元社 単行本
1996年08月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 英都大学推理小説研究会に新たに入部した有馬麻里亜。そのマリアの勧めにより江神と有栖川は孤島にあるマリアの伯父の別荘へと行くことになった。なんでもそこにはマリアの祖父が残した宝石の在りかをめぐる謎が用意されているのだという。しかもマリアの従兄がその謎を解こうとして、事故により命を落としてしまったという曰くつき。島へと渡った彼らであったが、そこで密室殺人をはじめとする連続殺人事件に遭遇することとなり・・・・・・

<感想>
「月光ゲーム」を読んで間をおかずに、有栖川氏の2作品目となるこの「孤島パズル」を読了。ひょっとしたら初読した時以来の再読かもしれない。作家にとって1作目というと、それなりに出来が良いものが多く、2作目に関してはそれよりレベルが落ちてしまうということのほうが多い気がする。しかし、この「孤島パズル」は処女作と比べてもそん色なく、なかなかの出来栄えとなっており驚かされる。

 今回、英都推理研の面々は孤島でのお宝探しと連続殺人の謎を解くこととなる。ただし、残念ながらお調子者のコンビ織田と望月は島へは来られず、江神とアリス、そして今作で新登場となるマリアこと有馬麻里亜の3名が探偵活動を繰り広げる。

 事件は、猟銃が凶器として使用された密室殺人を皮切りに、次々と殺人事件が起こる。そこにはアリバイ崩しやダイイングメッセージが取り入れたりとミステリコードが満載。しかし、単に派手な事件が目につくばかりではなく、江神が地面に落ちていた紙切れに残された自転車のタイヤの跡から推理する論理的な指摘が焦点となっている。まさにエラリー・クイーンばりの論理的な推理小説と言っても過言ではないできであった。

 事件などが多々起きている割には、関係ない描写も多く、やや冗長と感じられるところもあったのだが、全体的には満足のいく推理小説であったなと。こうして英都推理研のシリーズを読み返していると、このシリーズをまだまだ書き続けてもらいたいと感じるのだが、このレベルの作品を書き続けるのは難しいのかな。


マジックミラー   6点

1990年04月 講談社 講談社ノベルス
1993年05月 講談社 講談社文庫
2008年04月 講談社 講談社文庫<新装版>

<内容>
 古美術商・柚木新一の妻・恵が別荘で殺害されるという事件が起きた。被害者の妹の三沢ユカリは、事件に何か作為的なものがあるのではないかと、かつて姉の恋人で現在は推理作家の空知雅也に相談する。柚木新一は双子であり、それをうまく利用してアリバイトリックを用いたのではないかと空知は考える。しかし、アリバイは強固でなかなか破ることはできず・・・・・・そうしたなか、同じ別荘で、第二の殺人事件が起こることとなる。

<感想>
 有栖川氏の初期の作品。著者のノン・シリーズの作品と言うと、なんとなく物珍しく感じてしまう。読む本、大概が火村英生シリーズゆえに。

 この作品は、アリバイトリックを用いた作品。路線図や時刻表なども挿入されており、いかにもというようなもの・・・・・・と思って読んでいたのだが、最後に真相が明かされると、何気にうまくできてるなと感嘆させられた。というのは、最初読んでいるうちは、だいたい先の内容がわかり、こういった結末であろうと予想をつけていた。しかし、途中からその予想が覆される形となり、何がなにやらわけがわからなくなる。そこに、うまい具合に真相は!? という流れになっている。

 うまく読者のミスリードを誘って、そこからの真相へという流れはうまくできていると感じられた。単なるアリバイ崩しと見せかけて、そこから新本格ミステリへの流れという感じ。当たり前のことであるが、今の作品と比べれば全体的に粗削りという感じはするが、当時の若手ミステリ作家ならではのアイディアに満ち溢れた作品と言う感じがした。


双頭の悪魔   7.5点

1992年02月 東京創元社 単行本
1999年04月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 麻里亜は孤島で起きた殺人事件の悪夢から立ち直れず、大学に行く気にもなれず、旅に出ることに。彼女は四国の芸術家たちがあつまる外界からとざされた土地へとたどり着く。その後、村から出てこないことを心配した麻里亜の両親に頼まれ、英都推理研の面々(江神、望月、織田、有栖川)は、四国へと渡ることに。なんとか麻里亜と連絡をとろうとするものの、アクシデントから江神だけが村へと入ることができ、他の3人は取り残される。すると、村で殺人事件が起き、しかも豪雨により江神は閉ざされた村から出ることができなくなる。一方、残された3人も村の様子を探りに来たゴシップ記者が死亡するという事件に出くわす。果たして双方で起きた事件はどのような結末を迎えることとなるのか・・・・・・

<感想>
 ようやく念願かなって「双頭の悪魔」を再読できた。何度か「月光ゲーム」「孤島パズル」と3冊連続して読むことに挑戦していたのだが、だいたい最初で止まってしまって、この「双頭の悪魔」にたどり着くことができなかった。それが今年、「月光ゲーム」から読み始め、1年以内にこの作品までたどり着くことができ、有栖川氏の初期代表作のシリーズ3部作(その後4部も出ているが)を読み切ることに成功。

 本書を読んで思ったのは、かなり論理重視の作品であるなということ。それゆえに決して派手な作品ではないためか、中身に関してはほとんど覚えていなかった。ただ、今考えると何気にシリーズ4作目の「女王国の城」に近いということに気づかされる。

 内容は芸術家たちが住まう閉鎖された村の中と、その外の地域で起こる事件を描いたもの。閉ざされた村の中には麻里亜と江神がいて、その外には有栖川、望月、織田がいる。そして中と外で別々の事件が起きて、それぞれの場所でそれぞれの解決が行われることとなる。さらには、第3の“読者への挑戦”が待ち受けており、それぞれを結ぶものや隠された真相などについて言及されることとなる。

 犯人当ての推理は面白いのだが、前半はやや冗長であったかなと。全体的に長いページ数であり(文庫版で約700ページ)、前半事件が起きる前に関しては、もうちょっと詰めてもよかったのではなかったかと。ただ、事件が始まってから真相が語られるまでにいたっては、打って変わって惹きつける内容となっている。犯人の指摘にいたっては、どれもが論理的に推理が繰り広げられており、“和製クイーン”と言っても過言ではないような出来栄え。ただし、その分地味であり印象に残りづらいという欠点はあるものの、ミステリファンを納得させる内容であることには間違いない。意外と全体的な印象が地味な分、再読する意義がある味わい深い作品とも捉えられる。いや、これを読んでしまうと、有栖川氏にはもっとこういう作品を書き続けてもらいたいと熱望したくなる。


46番目の密室   6.5点

1992年03月 講談社 講談社ノベルス
1995年03月 講談社 講談社文庫
2009年08月 講談社 講談社文庫(新装版)
2019年09月 講談社 限定愛蔵版

<内容>
 密室トリックを得意とする作家、真壁聖一のクリスマスパーティーに招待された作家・有栖川と臨床犯罪学者・火村。彼らの他にも作家や編集者が真壁の屋敷に集められた。クリスマスパーティーがお開きとなり、皆が自分が泊まる部屋に戻ろうとすると、各部屋に他愛もないようないたずらがなされていた。クリスマスの余興かと気にせずに皆が就寝したのだが、夜中に目覚めた有栖川が事件を発見することとなる。それは密室と言える閉ざされた部屋のなかで暖炉の火で顔を焼かれた死体、そして・・・・・・さらにもうひとつ密室内での死体を発見することとなり・・・・・・

<感想>
 有栖川氏の初期の著作。もう読んだのがだいぶ前であるので、内容に関しては全く覚えていなかった。感想を書いていなかったので、久々に読んでみようと思った次第。内容をあまり覚えていないことから、たいして面白くなかったのかなと思い込んでいたのだが、読んでみると意外とよくできていた作品なので驚いた。

 密室トリックがよくできていると感じられた。単に部屋に閉じ込められただけでなく、顔を焼かれた状態で発見される死体。しかも同様の状態で発見される死体が二つ。これらの謎をどう解き明かすかが焦点となる。

 この密室について、何故このような状態で、そしてどのようにして作られたのか、ということがうまく作り上げられていたと感心させられた。何ゆえにこのような形で死体が発見されることになったのかというディテールがとにかくうまい。ただ、すべてが犯人の意図のみではなく、偶然性も含まれてしまったところは、ちょっともったいないような気もする。

 この作品、よくできていると思いつつも、あまり評価されていない気がするのは何故だろうと考えてみた(そんなことはなく一般に評価されている作品なのかな?)。事件が起きた後に読んでいて感じたのは、この作品、何故か緊迫感が薄いのである。殺人事件が起きているにもかかわらず、どこか弛緩したような雰囲気で語られている。さらには、事件が起きるまでが長く、そのへんもだらだらとしているように感じられてしまうところが難点のような。作品全体の雰囲気がもっと締まっていたら評価ももっと高かったのではないかと。


ダリの繭   6.5点

1993年12月 角川書店 単行本
1999年11月 角川書店 角川文庫

<内容>
 サルバドール・ダリを信奉する宝石会社の社長、堂条秀一。彼はダリをまねた特徴のある口髭をたくわえていることでも有名であった。その堂条秀一が、別荘のフロートカプセルの中で死亡しているのが発見された。しかも何故か、特徴的な髭がそりおとされているという状況。容疑は資産狙いの、副社長である弟と腹違いの弟らに向けられ、また、被害者の秘書を巡っての三角関係についても取りざたされることに。事件の謎を火村英生が解き明かす。

<感想>
 久々に有栖川氏の初期作品を再読。初読時はそんなに良い印象がなかったものの、年齢を経て、改めて読んでみるとなかなか良い作品だと思いを改めることに。どちらかといえば、探偵が解決する事件というよりも、警察捜査により解き明かすような事件という感じがした。

 起こる事件は宝石会社の社長が自分の別荘で殺害されるという事件、一つのみ。その状況に不可解なものがあり、何故か殺害後にわざわざフロートカプセルに入れられ、さらには髭がそりおとされているという状況。犯人は何のためにそのようなことをしたのかということが焦点となる。

 事件の核心については最後のほうで明らかになる証拠によって、ようやくという感じがあるので、最初からなんでもかんでも推理できるというものではない。ただ、“髭がそりおとされた”という最初から明らかにされる事実が事件の大きなポイントとなっているという点はうまくできているなと感心させられるものとなっている。読み終えたのちに、よくよく考えてみれば、意外と良くできている作品であるなと感じられた。


ロシア紅茶の謎   6点

1994年08月 講談社 講談社ノベルス
1997年07月 講談社 講談社文庫

<内容>
 「動物園の暗号」
 「屋根裏の散歩者」
 「赤い稲妻」
 「ルーンの導き」
 「ロシア紅茶の謎」
 「八角形の罠」

<感想>
 遊び心あふれたミステリ短編集。それぞれの一発ネタというようなトリックや奇想ともいえる犯人当てに心躍らされる。火村英夫が活躍する国名シリーズ第1作品。

「動物園の暗号」は、単に暗号を当てるのみという作品。事件背景などはほとんど関係ない。わかる人にはわかるネタ。自分で暗号を解き明かすことができれば、心地よいこと間違いなかろう。

「屋根裏の散歩者」も同じような暗号当てみたいなもの。ただしこちらは解き明かすことはできないと思われる。被害者がアパート住人につけたあだ名を解き明かすことができるか? その法則は鋭い人であればピンとくるのかもしれない。

「赤い稲妻」は、打って変わって理論的な犯人当てと言ってよいようなもの。マンション転落事故の謎を解く。イヤリングとさらにもう一つのとある習慣から真相を見出す。この作品集のなかでは一番の出来と感じた作品。

「ルーンの導き」は、いまいちダイイングメッセージがわかりにくい。また、犯人を当てる取っ掛かりも微妙のような。

「ロシア紅茶の謎」は、毒殺もの。誰がどうやって特定の人物の紅茶に毒を入れることができたのかを推理する。この体を張ったトリックは、なかなか印象的。

「八角形の罠」は犯人当て。劇団員によるリハーサル語に起きた殺人事件。現場の見取り図があまり生かされていないような・・・・・・。図の件以外はよく出来ていると思われた。ポイントは注射器をどうやって隠したか?


海のある奈良に死す   5.5点

1995年03月 双葉社 単行本
1998年05月 角川書店 角川文庫
2000年05月 双葉社 双葉文庫

<内容>
 推理作家・有栖川有栖は、出来上がった自分の長編作品の見本を見るために出版社を訪れた。そこで同じくミステリ作家仲間である赤星学と出会う。彼は今現在、人魚に関連するミステリを書いているそうで、その取材として「行ってくる。海のある奈良へ」と言い残して旅立っていった。翌日、福井の小浜で水死体が発見された。死体は絞殺された跡があり、殺人事件とみなされる。そして、その死体の主は赤星学と判明され・・・・・・

<感想>
 なんとなく再読してみた作品。初読時にも特別強烈な思いというものはなく、改めて読んでみたものの、読んでみた結果やはり印象の薄い作品だったなと。

 全体的に、ポイントがよくわからないというところが、なんとも微妙な点。なんとなく旅情ミステリっぽい内容であるのだが、それならばもっと旅情ミステリたるところを強調してもよかったのではなかろうか。“海のある奈良”という言葉に対してのこだわりや、被害者周辺の人間関係、2番目に起きた毒殺事件の顛末といったところが、それぞれ別々の事件のように感じられてしまった。全体的な結びつきというものが薄かったというような感じがする。

 最終的に“海のある奈良”という言葉のみが強烈で、それに対する理由というか真相というもの自体は何故か希薄。タイトルのみが印象深かったという不思議な作品。


スウェーデン館の謎   6.5点

1995年05月 講談社 講談社ノベルス
1998年05月 講談社 講談社文庫

<内容>
 裏磐梯のロッジに取材と称し訪れた有栖川有栖。ロッジの隣にはスウェーデン館と呼ばれるログハウスがあり、そこには童話作家の夫とスウェーデン人の妻が住んでいるという。なんでも最近、幼い息子が沼にはまって死亡するという事故が起きたという。ロッジの経営者である夫妻とスウェーデン館の夫妻は仲が良く、しょっちゅう遊びに行くといい、有栖川もスウェーデン館へ招かれる。その次の日、スウェーデン館で殺人事件が起きているのが発見されることに。しかも、犯人の足跡が残されていない状況であり・・・・・・

<感想>
 なつかしい作品を再読。初読の後、読み直したことがないので、完全に内容を忘れてしまっていた。何しろ、他の国名シリーズ同様、短編集かと思っていたくらい。

 本書の中身はざっくり言えば、“雪上の足跡”モノ。本館から離れまで移動するうえでどうしても雪上に足跡が付いてしまうのだが、被害者の片道の足跡と第一発見者の往復の足跡のみが付いているという状況。他に気になる点としては離れの煙突が落ちていたということ。関係者のアリバイからして、本館にいたものが、足跡を付けずに犯行を行うことは不可能とされるなか、どのようにして犯行に及んだのかが焦点となる。

 作中、火事が起きた際に一つのバケツで川まで行って水を汲んで火元へいくルートを考えるという、クイズが提示される。これがちょっとしたヒントになっているところが心憎い。また、火村英生による事件解決の糸口が、とある事実により論理的に導き出されているというところも見事と思われた。これは思っていたよりも、内容の濃い本格ミステリ作品として完成されている。改めて読んでみると、思いのほか出来の良いの作品であると驚かされた。


山伏地蔵坊の放浪   6点

1996年04月 東京創元社 単行本
2002年07月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 「ローカル線とシンデレラ」
 「仮装パーティーの館」
 「崖の教祖」
 「毒の晩餐会」
 「死ぬ時はひとり」
 「割れたガラス窓」
 「天馬博士の昇天」

<感想>
 かつて読んだ作品の再読。読んでから20年以上の月日が経っている。今回は今でも入手できる文庫版で購入。

 いつもの面々が集まるバーにて、ゲストとして招かれる山伏の地蔵坊が各地で体験した変わった事件について話をするというもの。その話があくまでも地蔵坊のみが体験したという風に語られているので、真実なのか虚実なのかは不明。そんな胡散臭い話を楽しむという作品集。

 読んでいくと、これはミステリとしてボツネタをうまく生かすことができる場なのではないかと感じられた。例えば、「毒の晩餐会」という作品は、特定の者にどのようにして毒を盛ることができたのかということを問う作品。この真相が面白く、なかなかよく出来ていると感じられた。ただし、よくよく考えてみると、それは決してトリックとは言えないもの。それゆえに、ミステリ作品においての使いどころは難しいと思われる。それが、この作品集であれば、別に本当に起きたこととは限らないよ・・・・・・というようなスタンスゆえに、どのような結末でも納得させられてしまうのである。

 そんなボツネタっぽいものが存分に生かされた作品が色々とそろっている。特に「天馬博士の昇天」における雪上の足跡トリックなど、普通のミステリの場でやったら絶対にクレームをくらいそうなネタ。ただ、そうしたネタも決して使えないと終わりにせずに、このような作品で生かしきるということは大事な考えなのではないかと思わずにはいられない。


「ローカル線とシンデレラ」 単線のローカル線で起きた若手女優を巻き込む殺人事件。
「仮装パーティーの館」 仮装パーティーのなか、殺人事件が起き・・・・・・
「崖の教祖」 教団のなかで教祖が殺害されるという不可能犯罪が起き・・・・・・
「毒の晩餐会」 親戚一同が集まった席で起きた毒殺事件。犯人はどのような方法で特定の人物を狙ったのか!?
「死ぬ時はひとり」 ヤクザが銃殺された事件。その場所は衆人環視のもと出入り不可能であったはずが・・・・・・
「割れたガラス窓」 地方の別荘地で起きた殺人事件。割れたガラスにヒントが・・・・・・
「天馬博士の昇天」 足跡亡き殺人事件、その驚くべき秘められたトリックとは??


幻想運河   5.5点

1996年04月 実業之日本社 単行本
1999年10月 講談社 講談社ノベルス
2001年01月 講談社 講談社文庫
2017年04月 実業之日本社 実業之日本社文庫

<内容>
 大阪の川沿いでバラバラ死体の各部分がそれぞれ発見された。すぐに警察が捜査にとりかかると、車に乗る不審者を発見し・・・・・・
 オランダ、アムステルダムを訪れた山尾恭司は、なんとなくこの街を気に入り、住み始めることに。そして、同じ日本人の仲間ができ、彼らから合法ドラッグを勧められ、酔いしれることに。その数日後、山尾は日本人仲間の一人がバラバラ死体となって発見されたことを知り・・・・・・

<感想>
 久々の再読。うろ覚えでありつつも、あまり良い印象ではなかった作品のような気がしつつ読んでみたが・・・・・・再読しても印象はあまり変わりはしなかったかなと。ちなみにこちらは、有栖川氏のノン・シリーズ作品。

 バラバラ死体あり、アリバイトリックらしきものあり、仲間のなかに容疑者が!?、煙に巻くようなドラッグなどとミステリとしての雰囲気は良かった。それだけに、別に煙に巻くような終わり方までしなくても良かったと思えるのだが。最終的に色々な点が曖昧なままとなってしまっているところが不満。

 あと、作中作が挿入されているのだが、その中の登場人物の会話は関西弁ではないほうが作中作としての効果が出ていたと思うのだが、どうであろう?


ブラジル蝶の謎   5.5点

1996年05月 講談社 講談社ノベルス
1999年05月 講談社 講談社文庫

<内容>
 「ブラジル蝶の謎」
 「妄想日記」
 「彼女か彼か」
 「鍵」
 「人喰いの滝」
 「蝶々がはばたく」

<感想>
 有栖川氏の“国名シリーズ”第3作品目を再読。良い内容の作品と微妙な内容の作品にはっきりとわかれるところであるが、この短編集では微妙と思われるものが多かったような・・・・・・

 最初に掲載されているのがこの「ブラジル蝶の謎」というのが、少々いただけないような。何気にきっちりと読んでゆけば、緻密なアリバイものの作品であるのだが、決め手がいまいちわかりにくい。それと、あまりにも尻切れトンボ気味であるところがなんとも微妙。天井に張り付けられた標本の蝶々についても動機がちょっと弱かったような。これが表題作品というところが短編集全体の印象をさらに弱めてしまっているように思われる。

「妄想日記」は、普通のサスペンス風のミステリという感じ。何気にわけのわからない文字で書かれた日記がついていたりと、ひとつの作品として書き上げるのは大変だったであろうと予想される。死体を焼いた理由についてがポイントといったところ。

「彼女か彼か」は、シンプルかつ明快で、うまく書かれた作品であると思われる。証言の矛盾を突いたポイントが秀逸。

「鍵」は、ただただ変な作品。誰が犯行を成したかよりも、何の鍵であるかにスポットをあてた内容。読み終えてみると、その鍵を記念品として持ち歩く火村が一番気持ちが悪いような。

「人喰いの滝」は、1年前に起きた事件と同様の死亡事故が起きるというミステリ。事件現場の足跡がポイントとなっている。これはいかにもバカミスっぽくてよいかもしれない。犯行後の工作がなんともバカミス的。ただ、この作品で事件の真相を言い当てられる場面にもあるとおり、工作をする段階で絶対にばれそうなトリック。

「蝶がはばたく」は、ちょっとした失踪事件を描いたもの。“ちょっとした”というのは、最終的に阪神淡路大震災を想起させる作品というところに落ち着いたものゆえ。


「ブラジル蝶の謎」 男が殺害された部屋の天井には、標本からはがされた蝶々が張り付けられていた!
「妄想日記」 事故により息子を亡くし、妻が自殺して残された男は精神的に追い詰められとうとう自殺を!?
「彼女か彼か」 あるオカマが殺害された事件、謎を解くカギは男女の違いを示すとあるポイント??
「鍵」 資産家の秘書が殺害された事件。残された鍵はどこのもので、何を示すのか?
「人喰いの滝」 自殺の名称として知られる滝で起きた死亡事故。1年前にも同じような事故が起きていたのだが・・・・・・
「蝶々がはばたく」 ペンションから失踪した二人、彼らが逃げたはずの軌跡を示す足跡はなく・・・・・・


英国庭園の謎   5.5点

1997年06月 講談社 講談社ノベルス
2000年06月 講談社 講談社文庫

<内容>
 「雨天決行」
 「竜胆紅一の疑惑」
 「三つの日付」
 「完璧な遺書」
 「ジャバウォッキー」
 「英国庭園の謎」

<感想>
 有栖川氏の短編集を再読。国名シリーズの4作目であるが、全体的にミステリとしてはやや低調な気が。トリックやアイディアが枯渇気味というような気が・・・・・・。ただ、そういったアイディアなどが、なかなか出ない中で、なんとなふり絞って一つ一つの作品を仕上げたという気力は感じられる。

 大概の作品が、ちょっとした一発ネタをもとに、そこから一つのミステリ作品として仕上げてしまうという力量はたいしたもの。ただ、一発ネタのみということもあり、それぞれの作品がどこか中途半端なままで終わってしまっているという感じ。

「雨天決行」は、編集者との会話における内輪ネタようなものを取り上げたのみで、犯人逮捕の説得力はあまり感じられなかった。
「竜胆紅一の疑惑」は、ちょっとしたファン心理のようなものを取り上げただけ、という感じ。
「三つの日付」は、これまた写真に関するというか、日付に関するちょっとしたネタであるのだが、そもそもアリバイトリックになりえるのか?
「完璧な遺書」は、犯人があまりにも犯行現場をいじり過ぎていて、完ぺきというには程遠いような。
「ジャバウォッキー」は、中途半端な愉快犯。
「英国庭園の謎」は、暗号ものとしては、面白い作品といえるかもしれない。

 全体的にとにかく、犯人特定の鍵になっていなかったり、犯人を逮捕するうえでの容疑の確定が弱かったりと、どこか中途半端なものばかり。妙なところに力が入り過ぎて、肝心なところがおろそかになっているといるような作品集という印象。


「雨天決行」 作家が公園の四阿で殺害された事件。生前に被害者は電話で「雨天決行」と。
「竜胆紅一の疑惑」 命を狙われているとおびえる作家にまつわる事件の真相とは!?
「三つの日付」 とある殺人事件において、容疑者のアリバイを写真により証明することとなった有栖川であるが・・・・・・
「完璧な遺書」 完璧な遺書を仕立て上げ、完全犯罪をもくろんだ男が図らずも残した証拠とは?
「ジャバウォッキー」 “ジャバウォッキー”というあだ名を持つ前科者が、火村と有栖川に暗号による犯行声明を・・・・・・
「英国庭園の謎」 英国庭園を持つ家で起きた殺人事件。被害者は生前、客人たちに暗号文による宝探しをさせており・・・・・・


朱色の研究   6点

1997年11月 角川書店 単行本
2000年08月 角川書店 角川文庫

<内容>
「2年前の未解決殺人事件を、再調査して欲しい。これが先生のゼミに入った本当の目的です」臨床犯罪学者・火村英生が、過去の体験から毒々しいオレンジ色を恐怖する教え子・貴島朱美から突然の依頼を受けたのは、一面を朱で染めた研究室の夕焼け時だった。
 さっそく火村は友人で推理作家のの有栖川有栖とともに当時の関係者から事情を聴取しようとするが、その矢先、火村宛に新たな殺人を示唆する様な電話が入った。二人はその関係者宅に急行すると、そこには予告通り新たなる死体が・・・・・・

詳 細

<感想>
「海のある奈良に死す」に続き、なんとも地味な内容である。本格というよりはサスペンスであろう。国名シリーズでないほうの火村物では旅情ミステリー風に仕上げることにしているのであろうか?どうも他の著者の本を読んでいるような気がしてならない。

 ただ、作中で火村の過去について触れ始めてきている。過去の作品でも火村が「・・・・・・人を殺したいと思ったことがあるから・・・・・・」と述べた部分はあったが、本作でもう少し具体的に火村の悪夢について書かれている部分がある。火村が登場する作品としての核がこの作品にはもしかしたらこめられているかもしれない。フアン必見というところか。


ジュリエットの悲鳴   5.5点

1998年04月 実業之日本社 単行本
2000年07月 実業之日本社 ジョイ・ノベルス
2001年08月 角川書店 角川文庫
2017年06月 実業之日本社 実業之日本社文庫

<内容>
 「落とし穴」
 「裏切る眼」
 Intermission1:遠い出張
 「危険な席」
 「パテオ」
 Intermission2:多々良探偵の失策
 「登竜門が多すぎる」
 Intermission3:世紀のアリバイ
 「タイタンの殺人」
 Intermission4:幸運の女神
 「夜汽車は走る」
 「ジュリエットの悲鳴」

<感想>
 久しぶりの再読。ただし、この作品中の「登竜門が多すぎる」は、傑作で何度も読み返した記憶がある。傑作と言ってもミステリ的にではなく、あくまでもユーモア作品としてなのだが。

 初読は単行本であったが、今回は角川文庫版での再読。「登竜門〜」以外は全くと言ってよいほど覚えていなかった。全体的には軽めのミステリという感じで、Intermissionとタイトルのついた4作品はショートショートミステリ。

 アリバイトリックとか、サスペンス系のミステリとか色々とあるのだが、トリックを楽しむというよりは、ミステリ的な物語を楽しむべき内容。もっとくだけた感じでいえば、ミステリ的なオチを堪能してくださいというようなもの。

「登竜門が多すぎる」は、ミステリ作家を目指すもののために、便利アイテムが紹介されるというもの。特にワープロ系のものの紹介はなかなかインパクトが強く(“一太郎”ならぬ“虫太郎”とか)、これらは初読のときから未だに頭から離れない。

 その他、Intermission3の世紀のアリバイではウィルバーとオービルによるアルバイトリックの真相が秀逸。あと「タイタンの殺人」は読者への挑戦がついたSF系ミステリであるのだが・・・・・・これは手を抜き過ぎではないかと言うか、何と言うか。


「落とし穴」 キセル乗車がばれた会社員がもくろむ完全犯罪。
「裏切る眼」 とある不倫の行く末。
「危険な席」 妻が考えたアリバイトリック、そして・・・・・・
「パテオ」 流行作家のみが共通してみる夢。
「登竜門が多すぎる」 作家を志す者たちに、とっておきの商品が・・・・・・
「タイタンの殺人」 タイタン星で起きた殺人事件の真相は!?
「夜汽車は走る」 アリバイ崩し・・・・・・ではなく、人生の回想。
「ジュリエットの悲鳴」 ロックミュージシャンの告白。


ペルシャ猫の謎   4点

1999年5月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 「切り裂きジャックを待ちながら」
 「わらう月」
 「暗号を撒く男」
 「悲劇的」
 「ペルシャ猫の謎」
 「猫と雨と助教授と」

詳 細

<感想>
 初期の新本格作家として、他の人たちとは違い、作品を発表し続けてきた有栖川氏であるが、少々この作品集には戸惑ってしまう。どうも推理小説として成立しているのが「切り裂きジャックを待ちながら」だけと思えるのだ。その「切り裂き・・・・・・」にしても水準に達している内容とは思えない。「ペルシャ猫の謎」にいたっては声も出なかった。少々裏切られた気もする作品集であったが次回作に期待したい。


幽霊刑事   6点

2000年05月 講談社 単行本
2002年08月 講談社 講談社ノベルス
2003年07月 講談社 講談社文庫
2018年10月 幻冬舎 幻冬舎文庫(短編「幻の娘」併録)

<内容>
 刑事・神崎達也は上司である経堂課長に呼び出され、その待ち合わせ場所にて呼び出した本人から射殺され、死亡した。その死は唐突なものであり、怒りからか、未練からか、神崎は幽霊としてこの世に甦る。しかし、甦ったものの、幽体によりどこにでも忍び込めるとはいえ、誰にも認識してもらえず、しかも何にも触れることができない。同僚であり、結婚を約束した恋人でも会った須磨子のもとへ行くも全く認識してもらえない。幽霊・神崎は途方に暮れる中、同僚の後輩刑事・早川がなんと彼のことを認識し、話すまでできたのであった。幽霊刑事と早川のコンビが事件の真相を探るべく捜査を開始する。

<感想>
 単行本で出版された当時に読んだ作品であるが、幻冬舎文庫から短編を併録して再出版ということで、再読してみた。ちなみに昔にこの作品を読んだ人はすぐに「ゴースト」という映画を思い浮かべたのではなかろうか。

 本書は、本格ミステリというような位置づけで考えるよりも、異色の刑事ドラマのような感覚で読むのが正しい作品であろう。幽霊となった刑事の便利さと不便さを伺いつつ、彼が殺害される原因となった事件の真相を捜査する。

 その事件捜査を語る上で重要なのは、唯一幽霊刑事と意思疎通を行うことができる早川刑事。おばあさんがイタコゆえに、霊媒としての体質があるという設定。この早川刑事が良い味を出していて、幽霊刑事とコンビを組みつつ、難事件に挑むこととなる。

 序盤から中盤にかけてはコミカルなドタバタ劇のような印象が強いものの、最終的にはしっかりとミステリとして占めている。登場人物が限られているゆえに、真犯人がわかりやすくなっているところは致し方ないのだが、きちんと細かな伏線を張りつつ回収して事件解決に持っていっているところは見事であった。とは言いつつも、やはりこの作品に関しては、ミステリとしての出来栄えよりも、その設定ゆえに心に残る作品であると思われる。

 あと、幻冬舎文庫版では早川刑事が経験する別の幽霊騒動「幻の娘」が収録されている。早川刑事に関しては、別の作品でも活躍してもらいたかったのだが、どうやら別の霊媒探偵が活躍するシリーズが既に作られているようである。


暗い宿   5点

2001年07月 角川書店 単行本
2003年10月 角川書店 角川文庫

<内容>
 「暗い宿」 (KADOKAWAミステリ:1999年11月号)
 「ホテル・ラフレシア」 (KADOKAWAミステリ:2000年4月号)
 「異形の客」 (KADOKAWAミステリ:2000年11、12月号)
 「201号室の災厄」 (KADOKAWAミステリ:2001年5月号)

<感想>
“宿”をテーマとした短編集。これも火村英生シリーズであるのだが、なんとなく外伝的な雰囲気がただようものとなっている。

「暗い宿」
 そういえば、こういう内容のものを最近の歌野氏の短編でも見たような気がする。というよりも誰もが書いているネタであるような気も・・・・・・

「ホテル・ラフレシア」
 ミステリー企画に参加。うーーん、事件らしい事件がない。火村英生の休日といったところか。

「異形の客」
 温泉ネタ。暗躍するシャングリラ十字軍。彼らは最新作「白い兎が逃げる」の1短編の中にも登場していた。彼らの本当の登場はいつ?

「201号室の災厄」
 これこそ、本当の火村英生外伝といってもいいだろう。火村対外人。熱く闘います。


作家小説

2001年08月 幻冬舎 単行本
2003年02月 幻冬舎 幻冬舎ノベルス
2004年08月 幻冬舎 幻冬舎文庫

<内容>
 「書く機械」 (週刊小説 1998年8月21日号)
 「殺しにくるもの」 (ポンツーン 1999年2月号)
 「締め切り二日前」 (ポンツーン 1997年7月号)
 「奇骨先生」 (書下ろし)
 「サイン会の憂鬱」 (ポンツーン 2000年8月号)
 「作家漫才」 (ポンツーン 2001年2月号)
 「書かないでくれます?」 (ポンツーン 2000年10月号)
 「夢物語」 (ポンツーン 1999年12月号)

<感想>
 以前読んだことがあるのだが、感想を書いていなかったので再読。内容はミステリではなく(ミステリっぽいものも中にはあるが)、小説もしくは小説家に関するよもやま話という感じ。なんとなくではあるが、そのどれもが有栖川氏が思ったこととか、経験したことが含まれていそうに思える。

 特に「締め切り二日前」などは、本当の“締め切り二日前”の作家の心情を表した作品であるように感じられた。締め切りが迫るゆえに、何も手につかなくなったとか、過去に書いたメモを見返すという様相が面白い。また、その過去に書かれたメモのほとんどがあまり役に立たなそうなものばかりであるところも注目点。

「サイン会の憂鬱」という話もありそうな内容。有名作家だったらいざ知らず、無名の作家のサイン会というものは、サイン会を行う作家の心情も複雑なものがあるのではなかろうか。また、あまり帰りたくない地元での開催というのも、複雑な感情が入り乱れることであろう。

 その他どれもが、主人公が有栖川氏本人ではないかと考えながら読まずにはいられなくなる作品集。


「書く機械」 作家に強制的に作品を書かせるための秘密の部屋とは・・・・・・
「殺しにくるもの」 とある作家へのファンレターと、連続殺人事件の関連は!?
「締め切り二日前」 もう締め切りまで二日しかない、どうしよう母さん。
「奇骨先生」 作家志望の高校生が現役作家にインタビューをしに行った結果・・・・・・
「サイン会の憂鬱」 さほど有名ではない作家が地元でサイン会を開くこととなったのだが・・・・・・
「作家漫才」 作家同士による漫才。
「書かないでくれます?」 書かないと約束したはずの話を本に書いてしまった結果・・・・・・
「夢物語」 夢を見る機械によって作家が見た夢とは・・・・・・


絶叫城殺人事件   6点

2001年10月 新潮社 新潮エンターテイメント倶楽部

<内容>
 黒鳥亭、壺中庵、月宮殿、雪華楼、紅雨荘、絶叫城。殺人事件の現場それぞれ、独自のアウラを放つ館であった。臨床犯罪学者・火村英生と作家・有栖川有栖のふたりが突き止めた、真相とは。本格推理小説の旗手が、存分に腕を振るった、傑作短篇集!

「黒鳥亭殺人事件」(小説新潮:平成八年四月号)
 過去の事件で行方不明だった男の死体が井戸の底で発見される。しかも殺されたのはつい最近のことだというのだが・・・・・
「壺中庵殺人事件」(小説新潮:平成九年四月号)
 地下の書斎の密室で男が殺されていた。その殺害方法とは?
「月宮殿殺人事件」(小説NON:平成九年七月号)
 ホームレスがごみから造った巨大な住居“月宮殿”。その住処が放火され、主人たるホームレスは焼死体で・・・・・・事の真相とは!?
「雪華楼殺人事件」(小説新潮:平成十年六月号)
 廃屋となった建物に住み着いた二人の若い恋人。しかし男は不可解な状態で変死体となって発見される。いったい何が起きたというのか?
「紅雨荘殺人事件」(小説新潮:平成十二年十月号)
 映画の舞台となった“紅雨荘”で発見された死体。被害者の身内が容疑者となるのだが彼らにはアリバイが・・・・・・
「絶叫城殺人事件」(小説新潮:平成十三年九月号)
 ゲームになぞられた連続通り魔殺人事件が繰り返される。殺人鬼ナイト・プローラーの正体とは!?

<感想>
 今回の作品でもそうであるが、この著者の書くものは本格推理小説というよりは、ミステリーという呼び名のほうがふさわしいものに感じる。理由としては、解決方法が論理的なものではなく、直感的に展開されることが一つの要因ではないかと思っている。今回の作品群もそのような解決方法により展開されていると思える。

 作品の内容はというと、題名のわりには凡庸であるとしか感じられない。「黒鳥亭」は似たような結末のものが他にもあり、目新しさは感じられない。しかし、作中に出てくる<二十の扉>というゲームについては初めて知ったので面白かった。「壺中庵」はいまさらと感じるような平凡な密室物。「月宮殿」は豆知識っぽい(面白くはある)。「雪華楼」は論外。「紅雨荘」は平凡なアリバイトリック。と全体的に今まで出版されている“国名シリーズ”ものとあまりかわりばえのしない内容である。

 ただ、「絶叫城」はこれらのなかでは一番良いと思う。論理的に解決されるものではないが、物語としても良く、さらにどんでん返しありでラストもうまく仕上がっている。特にラストのドラマチックさが良い。こういった作品であれば火村の存在感が増してくるように思える。この作品は必読! 


マレー鉄道の謎   6点

2002年05月 講談社 講談社ノベルス
2005年05月 講談社 講談社文庫

<内容>
 旧友の招きでマレーのキャメロン・ハイランドを訪れた火村と有栖川。二人はそこで殺人事件に遭遇する。しかも死んでいたのは、昨晩酒場で日本人と揉めていた現地人。その男が、テープで内側から目張りをされたトレーラーハウスの中で死亡していたのである。自殺にしては不審ながらも、建物が閉ざされているがゆえに、自殺の線も考えなければならない。また、動機に関しても不明。ただの喧嘩が殺人にまで発展するというのもおかしく、しかも被害者とはさほど関わりのないトレーラーハウスで死んでいた理由もわかっていない。つい最近、マレーでは大規模な列車事故が起きていたのだが、その件と今回の事件は何か関係があるのだろうか? その後さらなる事件が明るみとなり・・・・・・

<感想>(再読:2021/11)
 既読ではあるが、きちんと内容・感想を書いていなかったので再読してみた。初読時の印象があまり残っていない作品であったのだが、再読してみて如何に!?

 まぁ、内容をギュッと煮詰めれば、きちんとしたミステリ作品であることは間違いないのだが、なんかモヤモヤしたものが多く残る。マレー鉄道の事故が事件にあまり直接的には関係ないようなところとか、事件の関係者たちの人間関係がやや複雑であるとか、事件が複数起きるものの最初の事件のみがメインで後は派生したものにすぎないとか、なんか色々。

 結局はトレーラーハウスの密室殺人事件だけが残るのみと。一応は、その密室にした過程とか事情とかも煮詰められてはいるものの、やや地味な内容のせいか、残念なことにあまりミステリ映えしていなかったかなと。とはいえ、考えつくされた内容の作品であることには間違いないと思われる。

 思っていたよりも良い作品であると思われたのだが、作品の長さがややネックになっているのかな? やっぱり他に起こる殺人事件の構図があまりにもおざなりであったところが一番の問題点であったように思われる。


<感想>
 以前から予告されていた久々の国名シリーズ。ファンにとっては待ちに待った作品であろう。で、そしてその内容は・・・・・・おそろしく地味であるような。

 密室殺人に連続殺人事件と起こる事件自体は華々しいのだが地味な印象はぬぐえない。さらには、舞台の様相を忠実に描写しているので旅情ミステリーかのような趣もある。元々、火村シリーズというのは地味なのであるが、事件が起こるまでのページの長さなどからもそういった印象が色濃く見える。

 肝心の密室トリックであるが、普通にしか捕らえられなかった。ひょっとしたら人によっては見事と捕らえられるのかもしれないが、現場の様子や配置などがうまく頭の中で描けなかったせいでそう思えたのかもしれない。もう少し、本格推理小説として期待していたのだが・・・・・・


まほろ市の殺人 冬  蜃気楼に手を振る  4点

2002年06月 祥伝社 祥伝社400円文庫

<内容>
「真幌はどうかしている」冬になると、真幌の海に蜃気楼が現れる。満彦は五歳の頃、美しかった母に連れられて初めて兄弟たちとそれを見た。蜃気楼に手を振ったら幻の町に連れて行かれる。だから手を振ってはいけない、と母に言われた。直後、こっそり手を振った長兄が事故死し、25年後の今、三千万という金が残された兄弟の運命を翻弄する!

まほろ市の殺人 春
まほろ市の殺人 夏
まほろ市の殺人 秋
「幻想都市の四季」総括

<感想>
 ある意味ラストに非常に驚かされる。今さらこんなネタを使うのかと。この作品、よく原稿がボツにならなかったなと不思議に思うくらいである。途中までは次の展開が気になるようなサスペンス作品であったのだがそれがだんだん・・・・・・。いやはや。


迷宮逍遥

2000年08月 角川書店 単行本

<内容>
 はじまりは作家デビュー前、出版社からかかってきた一本の電話。それは鮎川哲也「鍵孔のない扉」の解説を執筆して欲しいという、思いがけない話だった。
 マエストロ・鮎川哲也への敬愛の念あふれる処女解説を皮切りに、ホームズからパタリロまで、有栖川有栖がこれまでに執筆したミステリ解説、評論のすべて。

<感想>
 評論書といいたいところだが、解説や評論等をすべて集めてしまったということもあり少々雑多な気味がある。まとめるのであればもう少し統一性が欲しかったという気もする。

 しかしながら解説にしろ評論にしろ、それぞれがわかりやすい言葉でまとめられており読みやすく楽しめる一冊になっている。残念なのは解説で書かれたもののため、ネタバレのものが多々あってそれらの本を読んでいないと楽しめないということである。

 いっそのこのこの調子で有栖川氏には「夜明けの睡魔」のような本の紹介書を改めて一冊創ってもらいたいものである。


スイス時計の謎   7点

2003年05月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
「あるYの悲劇」 (「Y」の悲劇:講談社文庫)
 デビュー間近のバンドのメンバーの1人が殺害された。彼はダイイングメッセージとして壁に「Y」という文字を書き残したのだが・・・・・・

「女彫刻家の首」 (小説NON 1998年11月増刊号)
 とある女性が殺害された。犯人は殺害の後に死体の首を切断し、切り離した首の変わりに彫刻の首を挿げ替えていった。いったい何のために・・・・・・

「シャイロックの密室」 (小説NON 2001年5月号)
 悪徳高利貸しが閉ざされた部屋の中で死んでいた。最初は自殺と思われたのだが、いくつかの不審な点により他殺ではないかと・・・・・・。では、この密室の状況は如何にして作られたのか!?

「スイス時計の謎」 (小説現代 2003年05月増刊号メフィスト)
 ある実業家が殺害された。その殺害された部屋を鑑識が調べた結果、床に珍しい時計の破片が数量散らばっていたという。その時計は被害者を含め、同窓会のメンバー6人が同じ時計を持っているのだという。そして被害者の腕には時計がなかった。火村はその時計に着目し、論理によって犯人を指摘する。

<感想>
 全編にわたっての、これぞミステリーたる作品群。有栖川氏だからこそ書ける技か、それとも、もはや有栖川氏しか書かない作風なのか。

 国名シリーズ短編集の前作「ペルシャ猫の謎」のラインナップがあまりに多様化していたので、今作の内容についても心配だったのだが、本書はすべてオーソドックスなミステリーにて統一されている。全体的に佳作ぞろいであるといえよう。

「あるYの悲劇」はアンソロジー集『「Y」の悲劇』にて既読。初めて読んだときは出来に不満を感じたのだが、今回熟読してみるとダイイングメッセージの部分がなかなかよく練られていると気づく。あぁ、結構出来がよかったんだなぁといまさらながらに思いはするものの、もう一つの主たるネタの部分については相変わらず受け付けられない。

「女彫刻家の首」と「シャイロックの密室」の二つは普通といったところ。大きな驚きや仕掛けはないものの、普通にミステリーとしてまとまっているといったところか。また、密室の作り方に関しては面白かったと思う。

「スイス時計の謎」これは力作といえよう。前の三作品はよくも悪くも有栖川氏らしい、通常の作品である。しかし、本作品については群を抜いて面白かった。氏の作品にしては珍しく論理的な推理が展開される内容。その“スイス時計”から検討される論理の部分においては思わず一緒に考えさせられた。どこかに穴があるのではなかろうかと考えながら検討してみたのだが、これは見事に論理的に犯人を指し示しているようである。条件として、“5人の容疑者の中に必ず犯人がいる”そして“被害者のものを含めた6個の時計のうち1つは壊れていて、残りの5個を容疑者が身に付けている”ということを絶対とすれば犯人は間違いなく特定されるのだろう。いやはや予想外の面白さ。この1作にて本書の評価はぐんとアップした。


虹果て村の秘密   7点

2003年10月 講談社 ミステリーランド

<内容>
 刑事の父親をもつ小学生の秀介はミステリー小説のファンであり、将来は作家になりたいと願っている。その友達の優希は流行推理作家の母を持ち、刑事になりたいと願っている。その二人は夏休みに“虹果て村”にある優希の母親の別荘で過ごすことになった。その虹果て村では現在、高速道路建設を巡り、賛成派と反対派が争っている最中であった。そうした背景の中で密室殺人事件が起こる。秀介らは事件の謎を解こうと知恵を絞り始め・・・・・・

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<感想>
 ミステリーランドはまだ現時点で6冊しか出版されていないが、そのなかで本書が一番主旨にあっていると感じられる作品。未来を夢見る少年少女が登場し、事件に巻き込まれる。そしてその謎を大人顔負けの推理によって解決してしまう。ミステリーとして大人が読んでも十分面白いものに仕上がっているし、子どもも楽しく読むことができるだろう。これは本当によい作品である。

 本書がよくできていると思うのはミステリーの部分が丁寧に、フェアに書かれていることである。この作品では犯人当てに頭を悩ましながら、謎解きというものを楽しむことができる。そして解答を読んだとき、犯人を当てるためのヒントがきちんと書かれていたという事に感銘を覚えることができるのではないだろうか。子供たちに読ませる最初の推理小説としてぴったりな一冊であろう。

(とかなんとかえらそうなことを書いておきながら、私は犯人を当てることはできなかった。ゆえに解決を読んでより感銘を受けてしまったということを付け加えておきたい)


白い兎が逃げる   6点

2003年11月 光文社 カッパ・ノベルス

<内容>
 「不在の証明」 (ジャーロ:2001年冬号)
 「地下室の処刑」 (ジャーロ:2001年秋号)
 「比類のない神々しいような瞬間」 (ジャーロ:2002年秋号)
 「白い兎が逃げる」 (週刊アスキー:2003年7月29日号〜2003年11月18日号に連載)

<感想>
 短編集というよりも、中編集にふさわしい分量である。全編どれも推理小説として、とてもうまくできていると思う。しかし、読んでいて“こなれている”という印象を受けてしまう。どういうことかというと、どの話もトリックなどの謎の分量に比べてページ数が多く感じられてしまうのである。たとえば、最終的には1点のみに絞られるだけなのに、延々とそこへ到達するまで関係ないような話を読まされてしまったというものもあった。結局のところ有栖川氏は、何か一つトリックを思いつけば、それだけで中編にまで引き伸ばしてしまうテクニックを持っているのだろう。ただそうした書き方に対して私は“こなれている”という印象を受けてしまうのだ。今回の作品も中編というよりも短編にしたほうがもっと切れがよかったのではないかと感じられた。

「不在証明」
 これはアリバイ証明ではなく、その逆をついて“いなかったこと”を証明することにより犯人を指摘するというもの。着眼点はいいのだが、結局のところ冗長。
「地下室の処刑」
 最終的には動機だけ!? シャングリラ十字軍が再登場。しかし再び引っ張る。
「比類のない・・・」
 これも一発もの。一発物としてのネタは面白い。ただ、やはりそこまでが長い。
「白い兎が逃げる」
 ストーカーもの。もちろんそれだけでは終わらないのだが・・・・・・2時間ドラマ風の気分は抜けない。


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