<内容>
探偵の木更津悠也とその助手である香月は、今鏡家へと向かっていた。彼らは依頼を受けて、今鏡家の人々が住む“蒼鴉城”と呼ばれる屋敷に着くと、すでに警察の姿が。彼らに依頼状を送ってきたはずの当主が首を斬られた死体として発見されたという。さらには、閉ざされた部屋で別の首を斬られた死体までもが見つかる。その後、次々と今鏡家の人々が何者かによって襲われてゆくことに。木更津悠也が必死の推理を展開するものの・・・・・・
<感想>
これまた久々となる再読作品。このところ、昔の新本格ミステリ小説を立て続けに再読しているのだが、これらが非常に読みやすい。今更ながら思うのが、当時新本格ミステリが流行った要因として、重厚なミステリでありながらも、読みやすいといったところがツボに入ったのではなかろうかと考えてしまう。
本書についても読みやすく、そこそこのページ数の割にはすぐに読み終えることができてしまった。この作品では鏡家の人々が次々と殺害されてゆく事件が描かれている。何気に不可能犯罪は最初に起きた密室での事件のみという感じであり、その他についてはさほど不思議な犯罪としては描かれていない。ゆえに、大きな焦点としては、誰がこの犯罪を成したのか、そして何の目的で行ったのか、という二つが取り上げられる。
また、この作品では複数の推理が披露されることとなる。木更津悠也の推理、そしてメルカトル鮎の推理、さらには木更津悠也再び、そしてエピローグで・・・・・・という形。こういった推理が繰り返し語られるといったところも見所であろう。その途中で披露される推理があるからこそ、最終的な真相がさらに重みを持つように感じられることとなったのかもしれない。最後まで読み通せば、鏡家という一族を描いた小説として、うまく書かれた物語であると感嘆させられることであろう。
また、再読ゆえに楽しめることと言えば、この作品後に書かれた木更津悠也が活躍するものや、メルカトル鮎が活躍する作品に対する印象。麻耶氏の処女作であるこの作品が、これら探偵たちの終着点でもある気がするのだが、そこから木更津悠也やメルカトル鮎の活躍が描かれているというのも、なかなか凄いことであるなと。まあ、そのへんはあまり厳密な事は考えずに、パラレルワールドのような形で捉えるべきであるのかもしれないが。
<内容>
編集記者として働く如月烏有は、アシスタントの桐璃を連れて、孤島“和音島”へと向かうことに。その島は20年前に和音という女性を中心に、水鏡三摩地を含む男女6名が集まり共同生活をしていた。しかし、和音の死をきっかけに離散し、水鏡のみが島に残り、その他の者達はそれぞれ別の生活を送っていた。そして20年経った今、和音を偲んで当時住んでいた者達が島に集まることとなった。一人、自殺を遂げたものを除いて、5人の男女が集まり、烏有は彼らそれぞれにインタビューを行うこととなっていた。そうして、島に集められた彼らであったが、閉ざされた島のなかで殺人事件が起きることとなり・・・・・・
<感想>
昔、ノベルス版で1度読んだきり、紐解いていなかったので、本当に久々に読む作品。新装版での再読。
孤島に渡って、連続殺人事件が起きる! というような内容かと思っていたのだが、1度目の事件が起きてからは場が停滞し、何も起きないままという・・・・・・次の事件が起きるまでが長い。本書はどうやら、トリックや不可能性とかで魅せるミステリではなく、物語の構成に一癖二癖あるミステリという感じの内容であった。
この作品が問題作と言われる所以は色々とあり、今回の再読においてもやたらとモヤモヤは残る。なんといっても「春と秋の奏鳴曲」という作中映画の内容がなんというか・・・・・・物語上のサプライズはあったとしても、これはもうミステリではなく、むしろホラーに近いような。その他、殺人事件の構成についても、色々と横やりをいれたくなるような。また、最後になって明らかになるというか、湧き上がってくるような桐璃の秘密についても、蛇足としか感じられないような。
本書が何故、問題作と言われるかと言えば、話が終わる直前にメルカトル鮎が登場して、謎の一言を残すこと。さらには、作品上の謎のいくつかが放置されたままで、解明されていないと言うこと。今回、新装版になって、解説などで細かく説明がなされるのかと期待していたのだが、特筆すべき解説はなかった。
この作品の謎、なんとなく理解できそうな部分もありつつも、超自然的なままで解明が付かない部分も色々とある。そんな感じで、最初に発売されてから30年近くの時を経てもいまだモヤは晴れないままという感じである。部分部分の内容を理解できたがゆえに、残った部分的なモヤは増々色濃くなってしまったか?
<内容>
如月烏有は、和音島で起きた凄惨な事件から生還したものの、その後頭をうって記憶喪失となってしまう。それは部分的な記憶喪失で、和音島で起きた事件を含む数か月前の出来事のみを思い出すことができずにいた。そんな状況にもかかわらず、烏有がアルバイトとして働いていた出版社では、彼を正社員扱いにしてくれて、そのまま雇用し続けてくれた。なんとか出版社での業務をこなす中、巷では連続放火殺人事件が起きる。しかも、その事件で放火を繰り返しているのが、烏有自身であることに本人は気づき始める。自分でも何故、そこにいるのかわからないまま、烏有はいつも現場で気づくことになる。ただし、殺人は行っていないはずなので、誰かが死体を運んできていると考えられる。いったい、この事件は誰が、何のために行っているのか? 和音島で起きた事件後に出会った、メルカトル鮎と再会することとなった烏有は・・・・・・
<感想>
麻耶氏の3作目の作品。「翼ある闇」「夏と冬の奏鳴曲」を含む3部作のひとつと言える作品であると思われる。実際に、本書は「夏と冬の奏鳴曲」の後日譚となっており、前作に引き続き如月烏有が主人公として描かれている。
そんな作品であるのだが、単体の作品としては弱いとしか言いようがない。ミステリというよりも、如月烏有自身の物語が描かれているという感じであり、半ば私小説のようにも捉えられる。一応事件は起きるのだが、当の主人公である如月烏有自身がその事件に深くかかわっているがゆえに、ミステリとしては、かなり変化球気味なものとしてしか捉えられない。
一応、後半になると、いつの間にか真っ当なミステリらしくなっていき、それらしい体裁が整えられてゆく。しかし、その途上が如月烏有自身の煩悶のみで描かれているがゆえに、決して素直に捉えられる作品ではなかった。
今回「翼ある闇」から「夏と冬の奏鳴曲」、「痾」と続けて読むことができたのだが、この後の麻耶氏の活躍を知らなければ、「痾」を読んだ時点で、今後の麻耶氏の作家活動に不安しか感じなかったであろう。それだけ、作品のスケールの縮小ぶりのみが印象に残るものとなっている。
<内容>
初雪の夜、町にある廃墟となった塔から灯が見えたと、高校生の烏兎と獅子丸と祐今の3人は塔へ行ってみることに。そこで発見したのは、殺害されたホームレスの死体。ただ、足跡はそのホームレスのものだけしか残されていなかった。その塔では、8年前にも同じような事件が起きており、殺害されたのは祐今の母親であった。犯人は事件後に失踪した祐今の父親だと考えられていた。そして、今回の事件で死亡したホームレスの身元を調べると、なんと事件後失踪していた祐今の父親であることがわかり・・・・・・
<感想>
感想を書いていなかった昔の麻耶氏の作品を再読。当時は「翼ある闇」「夏と冬の奏鳴曲」「阿」に続いて、どのようなものが書かれるのかと注目されていたが、4作目にしてちょっとテイストの変わった作品が発表された。それがこの「あいにくの雨で」。
テイストとしては高校生による少年探偵ものという感じ。ただ、そこは麻耶氏が書くだけあって、単純な少年探偵ものに収まらず、不可能殺人あり、過去の遺恨あり、謀略要素ありといった妙な濃厚さを感じ取ることができる作品となっている。
特に主人公らが、生徒会から、情報を他の部署へ流している者の存在を明らかにしてくれと依頼されて、それを調査するといったところはかなり異色と感じられた。その依頼が異色というよりは、これが高校生の考えることなのかというような、異様な設定たるところに奇異なものを感じてしまう。
一応メインは塔にまつわる被害者の足跡のみが残されるという事件にあるのだろう。それについても凝りに凝ったところがあるともいえるが、なんともストレートであるのか、捻りに捻ったものであるのかとも決めつけることさえ難しいようなもの。それゆえか、真相が明かされても、なんかしっくりこないというか、わだかまりが残ってしまうようなもの。特に、一番は心情的に理解できないというものを感じてしまい、それがどうしてもわだかまりとして残ってしまう。
そんな感じで、なんとも微妙な作品。麻耶氏は当時に限っては、青春小説のようなものを書くのは向いていなかったのかなと考えてしまう。
<内容>
「遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる」
「化粧した男の冒険」
「小人開居為不善」
「水 難」
「ノスタルジア」
「彷徨える美袋」
「シベリア急行西へ」
<感想>
久々にこの短編集を読んでみた。今回は集英社文庫版での読書。
なんだかんだいって、こういう探偵小説が好きだと改めて感じ言ってしまう。ここに掲載されているのは、やや変化球気味ではあるのだが、それでも探偵小説として十分に面白い。
“変化球気味”というのは、タイトルに“美袋のための殺人”とある通り、メルカトルの手によって、まさしく美袋が遭遇するようにうまく歪められているといった趣があるゆえのこと。そんな歪みっぷりがこの作品の特徴と言えるかもしれない。
一番、普通のミステリという感じに思えた、「遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる」が面白かったような。他の作品は、普通のミステリをメルカトルの手によって歪めることにより、色付けしているという感じであった。とはいえ、そういった作品もそれはそれで面白い。
「遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる」 知人に誘われてコテージに滞在していた美袋は、そのコテージの主人と、もうひとりの女性が死亡するという事件に遭遇し・・・・・・
「化粧した男の冒険」 ペンションに滞在していた6人の学生のうちの一人が殺害された。しかも、被害者の顔には何故か化粧が施され・・・・・・
「小人開居為不善」 暇を持て余したメルカトルは、“身辺に危険、不安を感じている方”宛てにメールを送り、事件を呼び込もうとし・・・・・・
「水 難」 旅館で遭遇した幽霊と、過去に起きた悲惨な事故。そして、閉ざされた土蔵から発見された二人の女の死体。
「ノスタルジア」 メルカトルが書いた犯人当て小説を読まされる美袋。それは資産家が殺害され、二人の息子が容疑者としてあげられる事件であり・・・・・・
「彷徨える美袋」 何者かに拉致され山奥に取り残された美袋。民家に助けを求めたものの、その家で殺人事件が起こり・・・・・・
「シベリア急行西へ」 メルカトルと二人、シベリア急行で旅をする美袋は、列車内で作家が殺される事件に巻き込まれ・・・・・・
<内容>
珂允(かいん)は、異郷の村へとたどり着く。その村は、死んだ弟が以前暮らしていた村だということで、珂允は弟の死の謎を探るためにこの村を捜していたのであった。村に到着するやいなや鴉に襲われた珂允であったが、村人に助けられ、なんとか村に逗留させてもらうこととなった。しかし、彼がこの村に来たことを待ち構えていたかのように、連続して殺人事件が起きる。弟の秘密のみならず、殺人事件の容疑者とされた自身の身の潔白を明かすために珂允は、事件について調べることに。果たして、この村が抱える謎とは? そして村を統べる“大鏡”の謎とは??
<感想>
これまた久々の再読。当時、単行本で読んだのだが、今回は幻冬舎文庫版で読んでみた。
舞台は、現代の日本とは思えないような、旧弊な文化様式が残る村。その閉ざされた村で殺人事件が起き、村が抱える秘密と共に殺人事件の真相に迫ってゆく。主人公は、村の外から来た男で、かつて自分の弟がその村で過ごしたゆえに、この村を訪れたという設定。主人公は事件の謎を解くだけでなく、自身が抱える葛藤についてもこの村に解答があるのではと考えている。また、主人公をサポートしようとしてるのか、それとも他の考えがあるのか、メルカトル鮎がちょいちょい顔を出している。
長めの作品であるのだが、“謎”という点に関しては淡白であったかなと。連続殺人事件が起きている割には、そんなにひとつひとつの事件に謎が込められているというわけではなく、全体的に解決はあっさり目。ポイントとなるのは、”村全体が抱える謎”ということになるのであろう。
ただ、それで解決して終わりであれば、淡白なミステリという感じで終わるのだが、最後の最後でメルカトル鮎により、痛烈な一言が投げかけられることにより、真相は混迷を極めることとなる。この最後に付け加えられる一言こそ著者の麻耶氏らしさがあふれ出るものと言ってよいであろう。その一言による真相については、決して細かい整合性とかとれるようなものではないのだが、物語の構成をより複雑化させ、読者を煙に巻くようなものとなっている。
<内容>
比叡山の山奥に隠棲する白樫家は、一点に収斂する家系図を持つ“閉じられた一族”。その奇矯な屋敷が雪で封印された夜、再び鳥有は惨劇を見た。世界的な芸術家・宗尚の義理の娘、晃佳の首がピアノの鍵盤の上に置かれていたのだ。関係者全員に当てはまる精緻なアリバイを崩す事はできるのか!?
<感想>
ようやくこの作品が「翼ある闇」の後に起きた事件となる。最初この本の題名は「ジェノサイド」と仮定していたようであるがなぜか「木製の王子」。読了後も題名の意味はよくわからない。
この話しでは誰がいかに、ということがメインではないだろう。(そのことの談義でページを多くとってはいたけど)メインとなる部分は白樫家に関する秘密であろう。ただそのメインの部分が分かりやすいためにその謎で最後までひっぱるというのも少々きついような気がした。他にも誰がアリバイの間隙をぬって、という謎があるにしても、登場人物が明確にされていないなか、それを読者に強いるというのは少々きついのではないかとも思われる。「鴉」に続く麻耶雄嵩らしい作風ではあるのだがもう一味欲しかったなというところ。
<内容>
「早く乗せて!」非番の刑事・天城憂の車に、女性が乗り込んできた。真幌市在住の有名なミステリー作家・闇雲A子だった。この春から11件も連続して殺人事件が発生している。その「真幌キラー」をA子は追っていたのだ。犬のぬいぐるみ、闘牛の置物、角材・・・・・・。真幌市を恐怖のどん底に陥れる殺人鬼の正体とは?
<感想>
ボツネタとまでは言わないが、この長さではきつい内容であったのかもしれない。長編だったらもう少し、いろいろな工夫ができたのかもしれないが、この短さで連続殺人ものというのはきつかったかもしれない。二人の憂鬱刑事に闇雲A子とそのパートナーたち。といろいろと登場人物が出てきたものの、それぞれをあまり書ききれなかったようである。
ただ、それでもラストが結構きれいにまとまっていたのではないかと思う。それでまとめてしまうのはと思うところはあるのだが、なるほどとも思えるのも確か。まぁこういう作品も麻耶氏らしいのかもしれない。
<内容>
「白幽霊」 (ジャーロ:2001年夏号)
「禁 区」 (ジャーロ:2002年秋号)
「交換殺人」 (「21世紀本格」カッパ・ノベルス:2001年12月刊)
「時間外返却」 (ジャーロ:2004年冬号)
<感想>
やはりこういう推理小説が良い。事件が起き、探偵がその事件を依頼され、その謎を探偵とワトソン役のものが解いていく。当たり前のような事なのだが、こういうミステリーが最近では少なくなっている。奇をてらったミステリーも悪いというわけではないのだが、それでもやはり私が読みたいのはこういう推理小説なのである。
本書の題名は「名探偵 木更津悠也」である。最初にこれを見たときには、もう少し良いタイトルを付けることができなかったのだろうかと感じた。しかし本編を読んでみると、実は以外にこのタイトルはしっくりくるものであることに気がつく。麻耶氏のシリーズ探偵といえば、メルカトル鮎と美袋のコンビがある。この二人の関係も少々おかしなものだったが、本書の木更津と香月の関係もまたおかしなものとなっている。どうおかしいのかといえば、ワトソン役の香月がやたらと木更津を賛美するのである。この度を超えた賛美ぶりが本書の特徴の一つとなっている。香月が描く“名探偵”という意味合いが本書のタイトルにかけられているようである。
読了後に気になったことを一点。大まかには満足してはいるのだが、食い足りなさを感じたのも事実である。麻耶氏の推理小説にはどうしても過度の期待をしてしまう。読み手側としては、たとえ長い期間が開いたとしても待ち続けているので、できるだけ良いものを届けてもらいたいと思っている。今回の作品を読んで、微弱ながらも有栖川氏の諸短編に見られる傾向のレベルの下がり方をしているような感じを受けた。麻耶氏には常に王道を突き進んでいってもらいたいものである。
「白幽霊」
容疑者一同を集めることによって犯人がわかるという解決の仕方はおもしろく感じられた。しかしながらカーテンの一部が切り取られたという犯行の部分が、それだけにしか生かされていないというのは少し残念な気がする。
「禁区」
トランプ・ゲームを再現することにより犯人を指摘するというミステリーはいくつか存在する。本書ではそのトランプ・ゲームのなかでも“大富豪”(もしくは“大貧民”という言い方もあるか)のゲームの模様を再現することにより犯人を当てるという試みがなされる。心理的描写といい、論理的な推理展開といい、今作の中では一番良かったのではないだろうか。
「交換殺人」
交換殺人をあつかったミステリー。ではあるのだが、犯人当ての根拠が微妙だったように感じられる。話の最後で用いられる推理はブラック・ユーモア的であった。
「時間外返却」
最初タイトルを見たときには、これは面白そうと思ったが、よくよく考えれば平凡なタイトルであることに気づかされる。
うーーん、犯人は確かに以外であるのだが、その犯人像というのは私の中では理解できるものではなかった。なんとなく強引な力技という印象を受けた。その犯人像を除けば確かにどれもこれも納得のいく推理ではあるのだが・・・・・・
<内容>
大学のオカルトスポット探検サークル“アキリーズ・クラブ”の6人は去年と同様、クラブのOBである佐世保が購入した屋敷“ファイアフライ”館に集まった。その館は当然のごとくいわく付きの物件で、十年前にその館に住んでいたヴァイオリニストが仲間の演奏家たちを惨殺するという事件が起こっていた。そして今年も“ファイアフライ”館にて合宿を始めたアキリーズ・クラブであったが、次々と怪異な現象にみまわれ、とうとう殺人事件までもが起こることに! 嵐によって館から脱出することができなくなった彼らを待ち受ける運命とは!?
<感想>
読み始めたときは昔なつかし新本格の雰囲気がここによみがえったという感じであった。中盤から後半にかけては、不謹慎ながらも思ったよりも人が死なない事からとある結末を予想していた(←この予想は完全に外れたのだが)。そして解決のラストにおいて、全く予想もしていなかった事実に驚くよりもあっけにとられ、少しの間その意味を飲み込むことができなかった。しかし、本の最初に戻りパラパラとページをめくってみると・・・・・・なるほどそういう仕掛けがしてあったのかとただ感心するのみ。
別に大きなトリックというわけでもなく、これがオリジナルというわけでもないのだろうが、結構驚かされてしまった。本の雰囲気からいえば、“静かなるカタストロフィ”といったところか(少しおおげさかもしれない)。
それにしても、ミステリにはいろいろな仕掛けがあり、あれこれ組み合わせることによっていろいろな効果をあげることができるものだとつくづく考えさせられる。ミステリにおいてトリックや物語のパターンなどは出尽くしたという感があるかもしれないが、読者を驚かせる方法というのはまだまだ色々と創られてゆくのだろうなと感じさせられた本である。
派手さはないながらも、じわじわと繰り広げられるホラー色の濃いミステリといったところか。
<内容>
小学校四年生の芳雄は町内の同級生5人と少年探偵団を結成している。そんな彼らの町で最近起きているのが猫殺害事件。団員の飼い猫もその被害にあっており、少年探偵団の手によって犯人を突き止めようと捜査を開始する。そんなある日、芳雄は一緒にトイレ掃除をしていた転校生の鈴木君と初めて話をすることに。すると、その鈴木君は自分は神様だと名乗るのであるが・・・・・・
<感想>
いや、これはすごい作品だと思う。どのようにすごいのかといえば、子供向けとは思えないほどの歪みっぷりがものすごい。その歪みっぷりは麻耶氏らしいといえばそれまでなのだが、それを子供向けの本の中で堂々とやってしまうのだから絶句してしまう。
私的には“神様ゲーム”というタイトルの意味をなす物語の構成は面白かった。また、本書にはある種の残酷さが付きまとうのだが、それが主人公にとっては間接的であるかのようにうまく描かれていたと思う。残酷な現実の中で、うまく距離をとって描いているように思われ、その辺の描き方は絶妙であったと感じられた。
さらには、これが麻耶氏ならではの意地の悪さだと思うのだが、最後の最後での突き落としはやりすぎとしか思えなかった。こういったところは「夏と冬の奏鳴曲」以来、全く懲りていないのだろうと思わされるところである。
<内容>
「ウィーンの森の物語」
「トリッチ・トラッチ・ポルカ」
「こうもり」
「加速度円舞曲」
「春の声」
<感想>
貴族探偵を名乗る、ちょっと変わった探偵によるミステリ短編集。
起こる事件はさほど大したものとは思わないのだが、犯人当てや犯人を指摘する過程など、それぞれ細かくきちんとひねられたものとなっている。このへんはさすがと言えよう。今さらと言えるような探偵小説であるにもかかわらず、きちんと目新しさを感じさせるところはすごいと感心させられる。
「ウィーンの森の物語」は失敗した密室トリックとそのリカバリーをするという犯人の行動から真相を推理し、「トリッチ・トラッチ・ポルカ」はバラバラ死体の謎を解く。どちらも犯人は意外な人物となっている。アリバイがあるように見えながらも、それぞれ思いもよらぬアクロバティックな方法で犯行を実行している。
「こうもり」はやられた、としか言いようがない作品。普通に読んでいながらも、あっさりと重要事項を読み飛ばしてしまった。後からあわててページをめくりなおし、あからさまな描写にあきれつつも、驚かされた。
「加速度円舞曲」は被害者の習性や犯行状況により、不可解な状況にせざるを得なかった犯人の努力に感嘆させられる。よくぞこんな行き当たりばったりの状況を作り出せたなと。
そうしたなかで「春の声」のみが麻耶氏にしては普通であったなと。結構、さまざまなところで使用されているようなトリックなので。
<内容>
大学生の種田静馬は両親を亡くしたことを気に病み、自殺を遂げようと以前に訪れた事のある秘境・琴乃湯へと来ていた。静馬はその地で伝説とされる“竜ノ首”と呼ばれる岩に魅入られ、よく訪れていた。そこで彼は御陵(みささぎ)みかげという名の探偵と名乗る隻眼の少女と出会うこととなる。みかげの母親は探偵として日本全国に名をとどろかせており、その亡くなった母親の名を継ぎ、みかげは現在探偵として修行中の身の上であるという。
そうして探偵の登場を待ち受けたように、琴乃湯の地の地主である琴折家に悲劇が起こる。この地では琴折家から代々チカラ持つ者として女のみに“スガルさま”と呼ばれる地位が継がれてきた。その継承者となる予定であった三つ子のうちの一人、春菜が首を切られた死体として竜の首で発見された。さっそく推理を披露することとなったみかげは琴折家の頼みにより事件の解決に挑むのであったが・・・・・・
<感想>
これまた麻耶氏らしい、作為と悪意に満ちた作品と言えよう。今回も相変わらず、「麻耶氏の作品には外れなし」である。
事件は旧家で起こる連続殺人事件。その中身はまるで横溝正史氏が描く事件のよう。わらべ唄こそないものの、あれよあれよという間にどんどんと被害者が増えていくこととなる。その途中途中で繰り広げられる探偵・御陵みかげによる端正なロジックの数々。しかし、その論理をあざ笑うかのように犯人はその先へ先へと行っており、探偵は犯人によって翻弄されることとなる。
前半部分は普通のミステリらしい場面が繰り広げられるのだが、端正なロジックが披露されるものの、展開としてはやや退屈だと感じられた。麻耶氏の作品としてはあまりにも普通のように感じられ、騙されまいと思いながら読んでいたものの著者の意図をつかむことはできず、平凡なミステリ作品なのかとさえ思いこまされる。
そうして話は後半へと移って行くことに。この作品は目次を見てもらえればわかるとおり、前半の話と後半の話に18年の間が開けられている。後半は最初に起きた連続殺人事件から18年後に同じ場所でさらなる連続殺人事件が起こるという展開がなされている。
正直、読んでいる途中では連続殺人の意図やそこで起こった余計なように感じる事件、さらには18年経過してのさらなる事件と、それぞれが何をもってして起きているのかという必然性を全く読み取ることができなかった。しかし、真相に至ることによって、それらの全てが解決することとなる。まさか事件の動機に全てが隠されているとは思いもよらなかった・・・・・・
最後に明らかになる真相によって、意味合いとしてはすっきりするものの、物語の流れとしては綺麗に終わる話とは決して言えない。あえてそうしたもやもや感を残すことにこそ麻耶氏の悪意が顕著に表れている作品とも言えよう。一世一代といってもおかしくないようなトリックに彩られたミステリ作品であった。
<内容>
「死人を起こす」
「九州旅行」
「収 束」
「答えのない絵本」
「密室荘」
<感想>
お世辞にも趣味が良いとは言えない問題作をまた・・・・・・絶対に、麻耶氏が書いた作品じゃなければ、けなされていただろうなという趣向。
「死人を起こす」は、6人の高校生が変わった屋敷に泊まりに行き、そこで事件が起こる。後に、その事件の真相を探ろうと残された者達がメルカトル鮎に事件を依頼するが、さらなる事件が起きてしまう。
雰囲気は本格ミステリらしく、事件の謎を解いて行くメルカトルの推理も見事なもの。しかし、最後の最後で事件の関係者たちはメルカトルから思いもよらぬ真相(?)を聞くこととなる。あまりにもとしか言いようのない、確信犯的推理に絶句するのみ。
「九州旅行」美袋が住むマンションの一室にてメルカトルと共に発見した死体。現場の状況からメルカトルがとある推理を披露する。
これはなんとも、推理というか展開がすごい。途中の推理など吹き飛んでしまうラストシーンがすごい。さらに言えば、タイトルが凄過ぎる。
「収 束」は孤島に住む宗教団体の中で起きた殺人事件にメルカトルが挑む。
事件そのものよりも構成が面白い。メルカトルの推理により、容疑者が浮かび上がり、それが冒頭の場面へと続くこととなる。犯人のぼかし方もいろいろとあると思うが、これはまた斬新なぼかし方と言えよう。
一番の問題作「答えのない絵本」。学校内で起きた殺人事件。物理教師を殺害したのは、校内に残っていた生徒だと思われる。メルカトルが論理的に導き出した犯人は!?
これは、タイトルの通り、メルカトルの推理そのものを信用してよいのであろうか。それとも、メルカトルは依頼人に都合がよいように、このような結論を導き出したのであろうか。どのように受け止めてよいのか、考えさせられてしまう問題作。
「密室荘」別荘で過ごすメルカトルと美袋。しかし、その別荘の地下から死体が発見されたことにより、とんでもない展開に。
ボーナストラックとしか言いようがないが、「九州旅行」に続いてメルカトルに翻弄される美袋の様子が描かれている。実際のところ、美袋を慌てさせるために、メルカトルが仕組んだのではないかと邪推したくなる。
<内容>
「白きを見れば」
「色に出でにけり」
「むべ山風を」
「幣もとりあえず」
「なほあまりある」
<感想>
「白きを見れば」 古井戸のある山荘で撲殺死体が見つかる。女探偵が事件に挑む。
「色に出でにけり」 複数の愛人を持つ女性を巡る事件? それとも・・・・・・
「むべ山風を」 学内で起きた殺人事件。カギはティーカップと断水??
「幣もとりあえず」 座敷童が出るといわれる旅館での殺人事件
「なほあまりある」 孤島で起きた殺人事件。謎を解くのは・・・・・・
ひとつひとつの短編の内容を見ていくと、論理的な犯人当てのミステリとして、なかなかよくできていると感じられる。しかし、全体的に見ると、なんか陳腐に見えてしまうところもあり、今までの麻耶作品のなかでは、ワーストの部類に入るかも。連続TVドラマもののような安っぽさを感じてならなかった。
最初の作品でさっそうと女探偵が現れ、さらに貴族探偵も現れて、熾烈な推理合戦が始まる。そこまでは良かったのだが、2作品目からの女探偵の推理がいただけない。むしろ邪魔だとさえ感じられてしまう。この辺、もう少し一工夫ならなかったものだろうか。
作品のなかで「幣もとりあえず」は、麻耶氏ならではの破天荒な仕掛けを見せてくれる。思わず、前半のページに戻り、1行1行見直してしまった。ただ、これはギリギリアウトのようなトリックのように思えてしまうのだが・・・・・・と思いつつも、それはそれで楽しむことができた。
貴族探偵シリーズは、なかなかその趣向が面白いだが、今回の作品は、はまっていたとは感じられなかった。シリーズが続くのであれば、できれば違う形で出会いたいもの。
<内容>
「少年探偵団と神様」
「アリバイくずし」
「ダムからの遠い道」
「バレンタイン昔語り」
「比土との対決」
「さよなら、神様」
<感想>
2005年に書かれた「神様ゲーム」に登場する鈴木と名乗る“神様”が登場するシリーズ作。とはいえ、前作とは舞台も違うし、話も関連していないので、この作品だけ読んでも全く問題ない。
舞台は小学校、クラスに神様と名乗る鈴木という人物がいて、主人公である桑町が鈴木に犯人の名前を聞き、その犯人の名前を指摘するところから全ての短編の幕が開ける。この鈴木という人物は傍観者に徹していて、特に物語上何かをするということはない。基本的に嘘は付かないということを物語上のルールとしているようである。その鈴木からのご宣託を聞き、学校の少年探偵団が活動を開始する。
本書の特徴としては、この少年探偵団が興味本位に事件を追いかけるというわけではなく、事件そのものが自分たちの生活に直結し、事件を追いかけざるを得なくなるという残酷な面を持ち合わせている。その辺は、単なる子供向けの少年探偵団シリーズというものではなく、悪意あふれた少年探偵団ものという、なんともどの年齢層にお薦めすればよいのかわからなくなる内容。
ただ、基本的には少年探偵団が捜査をし、主にアリバイ崩しを中心としたミステリ小説となっている。実は最初読み始めたときは、やや子供向けレベルくらいの作品というように感じてしまった。ただ、それが章を重ねるごとに、徐々に悪意があふれ、パターンと思われた枠組みも徐々に想像を上まってゆき、さらには「バレンタイン昔語り」を読んだときには、やられたと感嘆させられてしまう。この「バレンタイン昔語り」であるが、こんなミステリ書かれた日にはどうすればいいんだかと、打ちのめされてしまうほどの内容。
日ごろミステリ作品はもう書きつくされたなと思いつつも、このような作品を読むと、まだまだ可能性はあると感じずにはいられなくなる。麻耶雄嵩恐るべしの一言。
<内容>
桑島彰は、幼馴染である神舞まりあのお守りをするために、まりあと同じ高校に入学し、まりあが部長を務める古生物部に入部する。しかし、部員は二人だけのため、執拗に生徒会から狙われ、たびたび取り潰しの危機にあう。そうしたなか、学園内で起こるさまざまな事件。その事件を解決しようと、神舞まりあは、推理を披露するのだが・・・・・・
「古生物部、推理する」
「真実の壁」
「移行殺人」
「自動車墓場」
「幽霊クラブ」
「赤と黒」
「エピローグ」
<感想>
麻耶氏にしては、ややゆるめの連作ミステリ短編集。ゆるめといいつつも、学園ものであるわりに、毎回殺人事件が起こるという内容。その事件に古生物部の神舞まりあが挑む。
ただ、事件に挑み、しっかりとした推理を披露するのはいいのだが、真相に関してはあいまいなまま。はっきりとした結末を示さないのは、賛否両論ありそうである。
「古生物部、推理する」は、シーラーカンスの被り物をしたものによる殺人事件が起こる。
「真実の壁」は、停電した時、真実の壁に殺人の瞬間が映し出される。
「移行殺人」は、文化祭の準備中、桑島の知人が殺害されるという悲劇の謎を解く。
「自動車墓場」は、放置されていた車のなかで死んでいた逃亡犯を発見する。
「幽霊クラブ」は、生徒会の校舎探索中に起きた自殺事件の真相に迫る。
「赤と黒」は、体育館で起こる一種の密室殺人事件。
個人的には、最後の最後でこれら結末が示されていない部分に対して全体をまとめるような解が示されるのではないかと思っていた。エピローグにて、とある真実が示されるものの、思っていたよりも小さいもの。このへんはやや拍子抜けといったところか。麻耶氏の作品ゆえに、ハードルの高いところを期待してしまったので、少々残念な作品と感じてしまった。
<内容>
「失くした御守」
「転校生と放火魔」
「最後の海」
「旧 友」
「あかずの扉」
「藁をも掴む」
<感想>
稼業が寺という高校生男子・優斗が主人公。うわさ好きの友人が持ち込む事件に関わることとなる。また、彼女と元カノの三角関係にも悩まされる。優斗の家には、離れに住んでいる叔父さんがいて何でも屋の仕事をしている。この人物の外見は金田一耕介を思わせる。事件が起こるたびに優斗は叔父さんに相談し、思いもよらぬ事件の真相が明らかになるというもの。
最近の麻耶氏の作品では、パターン化を意識した連作短編が多くみられる。この作品もまさにそれにあたり、北国の小さな町で起こる事件に何らかの形で高校生の優斗らが関わることとなり、それを叔父さんの力によって解き明かすというもの。ただし、謎を解き明かすというものとは少々異なる趣向となっており、それが本書のひとつの特徴である。
また、本作品は金田一耕介シリーズのパロディのようにも思われ、行く先々で事件が起きつつも、全て事が終わるまで解決できないという本家を異なる形で皮肉っているようにも感じられるのだが・・・・・・それは考え過ぎであろうか。
この作品は読み進めていくうちに、謎がどのように解き明かされるのか? というよりも、事件に関わっているであろう“あの人”がどのようなアクロバティックな形によって事件現場に登場してくるのか、ということのほうがメインになりつつある。全編面白く読めるのは確かなのであるが、ミステリとして見どころがあるのかと言えば、少々微妙なような。一応はトリックらしきものはそれぞれ使われているものの、あくまでもパターン化した事件の連続により真相に対するインパクトは薄れてしまっているように思われる。
本書の最後で、この一連の作品に対して何らかの終結がとられるのかと思ったのだが、最後の作品でも他と同様普通に終わってしまっている。ということは、これはシリーズ化して続くという事なのであろうか? まぁ、新作が出たら出たで、手に取ってしまいそうな気はするが。
<内容>
「伊賀の里殺人事件」
「夢うつつ殺人事件」
「夏の合宿殺人事件」
<感想>
女子高生の探偵コンビが活躍する作品集。一見、ライトな印象に見えるかもしれないが、読んでみると意外と硬い文章となっており、読むのには苦労させられるかも。その辺は、いつもながらの麻耶氏の作品らしき作調。
それぞれの事件がアリバイを基調とし、そこに一味付け加えたようなミステリ模様が描かれている。それらを探偵コンビがどのように解き明かすかがポイントとなる。この“どのように解き明かすのか”というところが、本書の目玉であり、焦点となるべきところであると捉えられた。
それがわかるのは、最後に掲載されている「夏の合宿殺人事件」であり、これは主人公二人が最初に関わることとなった殺人事件として描かれている。本書を読んでいると、どう考えても“上野あお”のほうが探偵役で、“伊賀もも”は事件をかき回しているだけに過ぎないと思えてしまうのだが、実はそこに秘められた真実が「夏の合宿殺人事件」で描かれているのである。これを読むと、二人の関係に対する見方が変わることとなる。
と、それなりに楽しませてくれば作品であったかが、これは今後シリーズ化するのであろうか。最近の麻耶氏の作品は、シリーズ化できなさそうな終わり方をしているものが多くみられたような気がするが、この作品に関しては、まだまだ続いてもよさそうな気がするが・・・・・・
「伊賀の里殺人事件」 伊賀の里ミステリーツアーの最中に起きた殺人事件。忍者の装束を来た被害者は誰によって殺害されたのか?
「夢うつつ殺人事件」 夢のなかで聞いた犯罪計画、そして実際に起きた殺人事件。現場の状況から解き明かされる真相とは?
「夏の合宿殺人事件」 バレー部と文芸部の合宿の最中に起きた事件。死体の状況から導き出される真相は??
<内容>
「愛護精神」
「水曜日と金曜日が嫌い」
「不要不急」
「名探偵の自筆調書」
「囁くもの」
「メルカトル・ナイト」
「天女五衰」
「メルカトル式操作法」
<感想>
全体的に凡庸と感じられてしまった。トリッキーな部分が少なく、普通のミステリ小説、普通のアリバイ崩しになっていた作品が多かったように思える。それなりに良くできていたと思われる作品もいくつかあったものの、それでも全体的に感じる感想は“凡庸”と。
「水曜日と金曜日が嫌い」が個人的には好みの作品。このような大技ともいえる荒々しいトリックは結構好きである。このような内容の作品であれば、長編とは言えなくとも、中編くらいの分量の作品にできたのではないかと、そういった面では惜しいと思われる。
他には「メルカトル・ナイト」で見せる被害者のとった行動の意外性とか、「メルカトル式操作法」の真犯人の登場場面とか、それぞれうまく作られていると感じられた。
ただ、半分くらいの作品は、あまり見せ場もなく、ややとっつきにくいミステリという印象のみしか残らなかったかなと。近年、麻耶氏のこれといった出来栄えの良い作品が見られなくなっているような気がするので、ちょっと気になるところ。あと、久々に麻耶氏の長編作品を読んでみたいとも思いつつ。
「愛護精神」 美袋は死んだ犬の飼い主から、犬が死んだのは先妻の息子によるものではないかと相談され、メルカトル鮎に調査してもらいたいと・・・・・・
「水曜日と金曜日が嫌い」 謎の黒ずくめの男による死体無き殺人事件? さらにその後に、露天風呂でナイフによる殺人が・・・・・・
「不要不急」、「名探偵の自筆調書」 美袋とメルカトル鮎の近況というか、幕間というか。
「囁くもの」 何者かが屋敷から逃走して行った後、発見された絞殺死体。現場の状況からメルカトル鮎が推理する真相は!?
「メルカトル・ナイト」 命を狙われているという美人作家の依頼により美袋とメルカトルはホテルに泊まり、美人作家を夜通し見張ることとなり・・・・・・
「天女五衰」 美袋と同じ別荘に宿泊していた劇団員の有名俳優が殺害され、行方不明者が一人。現場に残されたトランクの謎は??
「メルカトル式操作法」 メルカトルの静養先、温室で発見された死体。犯行当時、現場近くでメルカトルがマネキンと共に居眠りを・・・・・・