2019年ベストミステリ




2019年国内ミステリBEST10へ     2019年海外ミステリBEST10へ



このランキングは2019年1月〜12月までの間に出版された本を対象としています。





総  評

 今年の国内ミステリについては、非常によかったかなと。自身のランキングを見ても、本格ミステリ系の作品が多数選ばれているという感じであり、しかも内容も非常に充実していたという感触を得た。近年、本格ミステリが衰退しつつあるという見方もあるのだが、有望な新進のミステリ作家が多数出てきたことにより、実は国内のミステリ界が徐々に盛況になりつつあるのではないかと思ってしまう。

 特に、「屍人荘の殺人」で有名になった今村昌弘氏や、今年のランキングでは取り上げていないが、市川憂人、青崎有吾などの鮎川賞受賞者の活躍が目覚ましい。何気に今年話題になった相沢沙呼氏も10年前の受賞者。そして、今年「時空旅行者の砂時計」で受賞した方丈貴恵氏の活躍も今後期待したい。

 他に若手では(実際若いかはわからないが)、良作を連発している早坂吝氏の活躍も目覚ましい。早坂氏はメフィスト賞出身であるが、そのメフィスト賞も年々多くの新人作家を輩出しているものの、最近本格ミステリの書き手が少ないことは残念なところ。つい最近のデビューかと思いきや、井上真偽氏もデビューしたのは5年も前となるのか。

 その他、中堅・ベテラン勢も負けず劣らず作品を書き続けてくれている。三津田氏の活躍は相変わらずだし、柄刀氏もまた作品を色々と書き始めてくれている。また近年、深水氏、米澤氏、深木氏、小島氏、石持氏などもしっかりと良い作品を書き続けてくれている。

 ベテラン勢については、作品によって、良し悪しがあるものの、それでも出版してくれればそれだけでうれしく感じてしまう。有栖川氏などは、常に作品を出し続けてくれているのだが、今年の「カナダ金貨の謎」ような良作を生み出すところは素直に凄いと感じてしまう。そのほか、島田氏、我孫子氏、歌野氏、法月氏などの新刊を今年は読むことができた。

 出版社で見てみると、ミステリ作品で面白い作品を出しているところは、光文社と東京創元社あたりかなと。それと講談社は安定していろいろな作品を出してくれている、というか単行本、ノベルス、文庫、講談社タイガなどの種類が多いところが強みであるのかもしれない。それと近年、文庫本の値段が高くなっているせいか、ノベルスとの差別化があいまいで、ノベルス自体があまり出なくなってきたように思われる。昔、よく講談社ノベルスやカッパ・ノベルスの作品を数多く読んでいた身としては、ノベルス作品がなくなりつつあるのは残念としか言いようがないが、それも時代の移り変わりなのであろう。



 海外作品は、面白いものが多数出ているのだが、本格ミステリ系の作品が少ないのが残念なところ。近年の出版状況としては、新しい作家の作品の紹介のほうが圧倒的に多いように思える(普通に考えればあたりまえのことか)。しかも、そちらのほうが面白かったりするという。

 あまり海外では本格ミステリ自体がはやっていないのか、現役作家の本格ミステリの紹介が少ない。ポール・アルテが再度紹介され始めているのと、アジア諸国からの新進作家の紹介くらいであろうか。ここ数年、アジア系作家の紹介が多くなりつつあり、SF界などでも多数紹介されており、今後本格ミステリに関しては、欧米よりもアジアンミステリの紹介のほうに各出版社力を入れてきそうな感じである。というか、アジア以外では本格ミステリがたいして書かれていないのかもしれない。

 今年の古典ミステリでは、特筆すべきものがあまりなかったような。山口雅也氏が原書房から3冊ばかり“奇想天外の本棚”という形で紹介をしていたが、あまり話題にならなかったのかな。個人的にはクレイトン・ロースンの「首のない女」が読めたのはうれしかった。

 相変わらず矢継ぎ早の刊行を繰り返す論創海外ミステリについては、色々な作家の本が読めるのはうれしいのだが、話題性のある本はほぼみられなかったようである。それでも、レックス・スタウト、ジョン・ロード、ノーマン・ベロウ、ルーパート・ペニー、エリザベス・フェラーズなどの未訳作品をきっちりと紹介してくれていた。個人手にはルーパート・ペニーの「密室殺人」が一番面白かったかなと。

 なんといっても海外作品は、本格ミステリよりも、サスペンスとか警察ものとか、またはエンターテイメント系の作品が数多く書かれているようで、そうしたなかで面白いものが日本でも紹介されているので、どうしても本格ミステリは割を食ってしまう。結局のところ、なんだかんだ言っても、ディーヴァーやコナリーやウィンズロウの作品が面白いのだと再認識させられてしまうことに。さらには、アンソニー・ホロヴィッツという作家までが出てきているので、ますます本格ミステリは割を食ってしまうかなと。ただ、ホロヴィッツは、ある意味本格ミステリ系の作家といってもよいかもしれないので、彼の孤軍奮闘に期待するというのもよいのかもしれない。

 近代ミステリ作品に関してひとつ言いたいのは、なんでそんなにページ数が多いの? ということ。それゆえに、気軽には手を出しにくく、試しに読んでみようという気になかなかならない。分厚い本は、ウィンズロウやディーヴァーなどの作品だけでも手一杯。よって、年末のランキング本を読んで、面白そうなもののみを読むということになるのだが、それでもぶ厚すぎると面白そうでも敬遠気味になってしまう。

 まぁ、古典本格ミステリ未訳作品の紹介は少なくても、古典作品の復刊はちょくちょくなされているので、古き良きミステリを楽しむということはいつでもできるようになっており、それはそれでミステリファンとしては十分楽しめるかなと。何気に読んでいない有名作品が数多くあるので、復刊作業のほうも各出版社に期待したい。





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