Grand U-gnol   その他の本から




 ここでは2002年に出版された本の中でランキング外で面白かったものを紹介。国内BEST10海外BEST10の中に組み込こもうとしたものの、ランキングの中に入れると違和感があるものやランク落ちしたものも含めての紹介のコーナー。


○「ダイスをころがせ!」 真保裕一(毎日新聞社 単行本)

 これぞ“中年冒険記!”。「中年よ! 大志を抱いて、政治家になれ!!」
 それまで順調だったはずなのに・・・・・・会社をやめてふと違う世界に足を踏み入れようとしても・・・・・・一歩を踏み出すことができない、頭を下げることができない、今までの会社の地位が頭をよぎる・・・・・・
 そんな男に降ってわいた旧友からの“政治の世界への選挙活動”の誘い。無職と家庭の狭間に立ちながら、再生をはかる中年男の冒険談。挑戦はまだまだ終わらない、人生もまだまだ終わらない! すべての中年男性にささげるべきこの一冊!!



○「MOMENT」 本多孝好(双葉社 単行本)

 こころの“必殺仕事人”、いやいやこれぞ“必殺癒し人”か。何とはなしに、死を間近に控える人々と関わることになる清掃人夫。その人たちの最後の些細な望みをかなえようと・・・・・・。死に立ち向かう人々と正面から向かい合ったときそこに見える風景とは。
 ここには悲しみも切なさも存分につまりすぎるほどつまっている。2002年、一番切ない小説であるものの、出会えてよかったと感じられる一冊になること請け合い。



○「イン・ザ・プール」 奥田英朗(文藝春秋 単行本)

 これぞ現代版癒し系。その病院の地下に巣くう、名医と藪医者の狭間を漂うひとりの精神科医。とはいいつつもやっぱり藪医者か!? 医者の設定もさることながら、そこに集まる患者達はあまりにも切実なくらい“現代的な病”を抱えている。医者と患者との奇妙な友情関係がここに成り立つ。かならずしも全快しなくとも、うまく社会に折り合いをつけていけばいいじゃないか。そんな感じで読んでるあなたも癒される。



○「タイムスリップ森鴎外」 鯨統一郎(講談社 講談社ノベルス)

 ある意味、今年のトンデモ本。一応、ミステリ的な体裁もとられてはいるのだが、ぶっちゃけた話そんなの無視して読んでもらいたい。なにが楽しいかって、森鴎外が現代にタイムスリップしてしまうのがおかしすぎる。過去から未来に来た人物が徐々に現代に順応しながらも、現代人とはちょっとずれた面白さを堪能していただきたい。
 細かいことなんでいいじゃないか! これに乗り遅れたら現代の楽しさを鴎外にひとりじめされるぞ!!



“乙一”のアンソロジー掲載の短編2編

○「SEVEN ROOMS」 (『殺人鬼の放課後 ミステリーアンソロジーU』収録 角川スニーカー文庫)
○「階 段」 (『悪夢制御装置 ホラーアンソロジー』収録 角川スニーカー文庫)

 今年は私にとって、“乙一”の年でもあった。2001年、評判を集めた「暗黒童話」を買ってあったにもかかわらず、積読なってしまって2002年に突入。“乙一”作品の初読みはこのアンソロジーに掲載された短編「SEVEN ROOMS」からとなった。そしてそのプロットに惹きつけられて、これは“乙一”を読まなくてはと既刊作品を全て買い、読み込むにいたった。
 2002年は乙一の新刊として 「暗いところで待ち合わせ」、「GOTH」の2冊が出版されたが、あえてここでは2編の短編を取り上げたいと思う。
「SEVEN ROOMS」と「階段」の2作品であるが、どちらもミステリーというよりは、ホラーとしての要素が色濃くでている作品である。ただし、内容は両者でかなり異なり、「SEVEN ROOMS」は現実から逸脱したかのようなホラーであり、奇抜なルールのもとで話が進められていくもの。それに対して「階段」は日常に近いところに位置し、家庭の中における“階段”そのものを効果的に使い、恐怖感を増長することに成功している。両作品の共通項として“ホラー”と“アイディア”というものを組み入れながら、見事異なる2作品を創りあげられたこの短編をぜひとも読み比べていただきたい。
 短編集が出るまではとても待っていられない!



○「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」 J・K・ローリング


 別にこんなHPでいまさら説明しなくてもとは思うのだが、やはり面白いものは面白いということで。続き物という観点からも、今回の内容からも相変わらず読まさせてくれるこの本。今回はクイディッチが休みなのは残念なのだが、その分“三つの試練”で話を盛り上げてくれる。
 この作品が絶妙といえるところは、ハリーが周囲にいじめられながらも我慢しながら成長していくさま。本を読みながらもそんなやつらは“ファイヤー・ボール”で一網打尽にしちゃえよ、とか暗黒の力を手に入れて(ダースベーダーかい)そんなやつらは一生使役しちまえ、などと不埒な怒りで煮えたぎる部分が多々存在する。しかし、ハリーはそれに淡々ではないにしろ耐えていく、というか耐えざるを得ない。完全な爽快さのみに治まらないところがこの小説の魅力でもあるのだろう。
 また続きものの魅力としても十分。正直言って細かい登場人物までは覚えられないのだが、ちょい役と思われる人が後に結構重要な役割を果たすということなどもありそうだ。今回はどじ役のネビルの過去について触れられていた場面があった。
 次回作はまた一年後になるのだろうか? ハリーがあまりいじめられないことを祈りつつ、最新刊を首を長くして待つのみ。





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