<内容>
「新・透明人間」
「空中の足跡」
「ホット・マネー」
「楽屋の死」
「銀色のカーテン」
「暁の出来事」
「もう一人の絞刑吏」
「二つの死」
「目に見えぬ凶器」
「めくら頭巾」
<感想>
ディクスン・カーの短編作品集「カー短編全集」の感想を書いていなかったので、そろそろ読み直そうと取り上げた次第。久々に読んでみると、これがなかなか面白い。不可能犯罪捜査課を率いる(というか、課員は一人だけ?)マーチ大佐が難事件に挑むという内容。ただ、久々に読んでみて気づいたのは、全部の話にマーチ大佐が出てくるわけではなく、10編中、最初の6編のみ登場で、あとの4編は歴史ミステリ小説というような感じの作品が収められている。
全体的に、読んで楽しいミステリ作品集となっている。それぞれの作品が短めで、ミステリ初心者でも楽しめる作品集といって良いであろう。ただ、訳の古さからくるせいもあると思われるが、カーならではの独特の語り口の堅さゆえに、やや読みにくいところが難点。この辺は、新訳になると読みやすくなるのであろうか?
読んでみると、意外とミステリ・クイズとかでも出題されていそうな一発ネタや、変わり種の凶器などと、どこかしらで見たことのあるようなものが色々とあって楽しめる。このネタって、この作品が初出なのだろうかと思われるような有名ネタもあるので、読んでいて色々な意味で面白かった。それぞれが短めの短編作品ながら、色々な様相のミステリを堪能できる作品集である。
ちなみに個人的に一番面白かったのは、「もう一人の絞刑吏」。これはトリック云々ではなく、物語としてなかなか味が出ているものとなっている。印象深き一編。
<内容>
「妖魔の森の家」
「軽率だった夜盗」
「ある密室」
「赤いカツラの手がかり」
「第三の銃弾」
<感想>
感想を書いていなかったので再読。「妖魔の森の家」に関しては、他のアンソロジーでも読んでいるので、もはや何度目の再読となるのか。それでも、キモとなるトリックについてはしっかりと覚えているものの、未だに細部は忘れてしまっている。そろそろしっかりと、全部を記憶に残しておきたい。
「軽率だった夜盗」は、そのトリックを実行するのは、実際のところ意外と大変そうではないかと、ちょっと疑問に思ってしまう。むしろ見張り役であったはずの警官がもっとしっかりと見張っていればと・・・・・・
「ある密室」は、これぞ驚天動地(言い過ぎか?)の密室トリックといってもいいかもしれない。これは、なかなか思いつかなそうなトリック。今の世で、このトリックを使ったら、インチキだとののしられそうな気もするが、カーが書いた古典作品と言うことであれば許されるだろう。
「赤いカツラの手がかり」は、トリック云々よりも、物語上の設定が細部まできっちりと描き切れているなと感心させられる内容。伏線というわけではないのだが、細かく設定されたものが、しっかりと最後に回収されているという感じ。
「第三の銃弾」は、これまた長編にもなっているので、何度も読んでいるはずの作品。その割には、内容のほぼすべてを忘れ切っていた。中編と言ってもよいくらいの長さの作品であるので、読み応え十分の作品。トリックもさることながら、犯人指摘のヒントについてもよく練られている。
<内容>
「パリから来た紳士」
「見えぬ手の殺人」
「ことわざ殺人事件」
「とりちがえた問題」
「外交官的な、あまりにも外交官的な」
「ウィリアム・ウィルソンの職業」
「空部屋」
「黒いキャビネット」
「奇蹟を解く男」
<感想>
カーの短編集を再読。この3作品目は、フェル博士もの3作、マーチ大佐もの2作、H・M卿もの1作、そしてノン・シリーズ3作の計9作が収録されている。創元推理文庫のカー短編全集では、この3巻までで、カーの短編作品のほとんどが収録されているとのこと。残りの4集以降は、ラジオドラマや戯曲が掲載されているものとなっているようである。
全体的に30ページくらいの短めの作品がほとんどで、どれもあっさり目の内容であったという印象。「とりちがえた問題」で使われているトリックは、カーの作品では、よく目にしているような気がする。他に長編やラジオドラマなどでも使われていて、それらを読んで印象に残っているのかな?
他、どの作品とはいわないが、最後の最後で思いもよらぬ登場人物が出てきて驚かせてくれる作品なども含まれている。
最後に掲載されている「奇蹟を解く男」は、H・M卿が登場する作品で、中編くらいの分量があるので期待したのだが、本格ミステリというよりもサスペンスチックな内容となっていた。不可能犯罪はあっさり目で、男女の恋模様に終始していたような。とはいえ、十分に読者を驚かせる要素はしっかりと整えられいる。
<内容>
□奇跡を創り出した男
ジョン・ディクスン・カーについて ダグラス・G・グリーン
□犯罪と推理の物語
「死者を飲むかのように・・・・・・」
「山羊の影」
「第四の容疑者」
「正義の果て」
「四号車室の殺人」
□ラジオ・ドラマ
「B13号船室」
「絞首人は待ってくれない」
「幽霊射手」
「花嫁消失」
□最新の成果に基づくカー研究書 戸川安宣
<感想>
久々に再読したのだが、改めて読んでみて面白かった。これはカーの短編作品集として、非常によくできており、読み応えがあった。しかも不可能犯罪のオンパレードとなっており、ミステリファンを唸らせるような出来栄えの作品がそろえられている。
今回は特にアンリ・バンコラン・シリーズと言えるような作品がそろっていて、「山羊の影」から「四号車室の殺人」までの四作品がシリーズものとしても読みごたえがあった。バンコランとジョン・ランダーヴォーン卿とヴィヨン伯爵の3人がレギュラーキャラクターのようになっており、それぞれの関係性(特にバンコランとヴィヨン伯爵の対立)についても楽しめる内容となっている。
ミステリとしては「山羊の影」が圧巻。短い短編という作品のなかに、密室ものを含めた三つの不可能犯罪が詰め込まれていて、読み応え抜群。また、列車内で起きる事件を描いた「四号車室の殺人」も展開から真相までと、うまく描かれたものとなっている。
ラジオドラマに関しては、やや読み応えは薄かったものの、最初の「B13号船室」はサスペンスものとして、よくできていたと思われる。船の上から消え失せたというよりも、存在そのものを消してしまうという謎が描かれている。これは傑作といってよい出来栄え。
肝心の表題となっている「幽霊射手」がちょっと微妙な出来であったのが残念なところ。ラジオドラマに関しては、どうしても淡泊で薄めの内容となってしまうので致し方ないところか。普通に短編ミステリとして描けばもっと面白くなっていたであろうと思われる。
<内容>
□ラジオ・ドラマ
「死を賭けるか?」
「あずまやの悪魔」
□超自然の謎の物語
「死んでいた男」
「死への扉」
「黒い塔の恐怖」
□シャーロック・ホームズ・パロディ
「コンク・シングルトン卿文書事件」
□エッセイ
「有り金残らず置いてゆけ!」
「地上最高のゲーム」
「ジョン・ディクスン・カー書誌」 ダグラス・G・グリーン編
「カー問答」 江戸川乱歩
<感想>
カーの短編作品集の4冊目「幽霊射手」に続いて、ラジオドラマを集めた作品。その他には怪奇色の濃い短編が3編とシャーロック・ホームズのパロディ作品がひとつ、その他エッセイと資料が収められている。江戸川乱歩氏による「カー問答」という有名な作品も掲載。
ラジオドラマや怪奇小説それぞれについても、よくできているなと。十分に長編作品のネタになりそうだし、実際になっているものもあるかもしれない。「黒い塔の恐怖」が一番印象に残っていて、既読故に内容を覚えていたのだが、再読してみるとトリック一辺倒ではなく、全体の物語についてもしっかりと工夫が凝らされているなと感嘆。
同様に、「あずまやの悪魔」という作品も、単に過去の事件の真相を暴く内容のみならず、最後の最後にどんでん返しを持ってきており、しっかりと読者をひきつける作品として仕上がっている。
シャーロック・ホームズの作品については、短すぎて、やや淡泊すぎたという感じ。
エッセイの「有り金残らず置いてゆけ!」は、1600年代に起きた数々の追剥事件とその犯人の顛末を描いたもの。「地上最高のゲーム」は、ミステリ作家たちを紹介しつつ、ミステリ界の流れを描き、果てはアメリカミステリからハードボイルド台頭までを描いたものとなっている。
「ジョン・ディクスン・カー書誌」は、タイトルの通り、カーが書いた作品群の全てを網羅したものとなっている。
全体としては資料的な要素が強かったかなと。純然たる短編集としては読み足りなさを感じてしまうが、カーのファンであれば必読の作品と言えよう。
<内容>
□「ディクスン・カーのラジオ・ミステリ」 ダグラス・G・グリーン
□ラジオ・ドラマ
「暗黒の一瞬」
「悪魔の使徒」
「プールのなかの竜」
「死者の眠りは浅い」
「死の四方位」
「ヴァンパイアの塔」
「悪魔の原稿」
「白虎の通路」
「亡者の家」
□短 編
「刑事の休日」
□「新カー問答」 松田道弘
<内容>
「グラン・ギニョール」 (Grand GuiGnol 1929)
アンリ・バンコランの登場する「夜歩く」の元になった作品。ラストの「夜歩く」とは異なった趣向によるバンコランの謎解きの一幕に注目。
「悪魔の銃」 (The Devil-Gun 1926)
カーが作家としてデビューする前に「ハヴァフォーディアン」誌に掲載された恐怖小説。
「薄闇の女神」 (The Dim Queen 1926)
若き日のカーを魅了したもう一つのタイプの小説、歴史ロマンス小説
「ハーレム・スカーレム」 (Harem-Scarem 1939)
カレッジ時代の作品プロットを焼きなおして作った作品。「新カンタベリー物語」のひとつ「柔らかな唇の伝説」を新聞小説に書き直したもの。
「地上最高のゲーム」 (The Grandest Game in the World 1991)
<内容>
初翻訳を含む、ラジオドラマ三本を収録。
「だれがマシュー・コービンを殺したか?」
「あずまやの悪魔(オリジナル版)」
「幻を追う男」
<感想>
カーの作品は長編、短編ともにほぼ翻訳しつくされたといってよいのであろう。そうしたなかで、あと未訳のものが残されているのは、この作品に掲載されているようなラジオドラマのみと言ってもよいのではないだろうか。カー・ファンとしては、残りのこういった未訳のものがどんどん発表される事を願うのみである。そしてできれば、最終的には「カー・ラジオドラマ大全集」みたいな本を作ってもらえればと思っている。
「だれがマシュー・コービンを殺したか?」
ジョンが婚約者をつれて久々に英国に戻ってきて、兄のマシューに会いに行ったところ、兄が鉄砲で撃たれる現場を目撃するというもの。4人の容疑者のうち、マシューを撃ち殺す事ができたのは誰か? 法廷場面とともに描かれた作品。
この作品でフェル博士は重要な証拠は“被害者のチョッキ”だと言い張り続ける。そして、本当にそのチョッキ自体が犯人特定の鍵となっている。また、ラジオドラマならではのサプライズも見物となっている作品。この作品のトリックに感心したのだが、実はカーのとある短編のなかでも使われているとのこと。全くおぼえていなかった。
「あずまやの悪魔(オリジナル版)」
バーナム大尉の妻、イザベルとその友人のブラウンが話をしているとき、バーナム大尉があずまやへと入っていくのが見えた。その後、あずまやで死体となったバーナム大尉が発見される!・・・・・・という内容の作品。
その場の状況をうまく利用した殺人犯の行動が描かれた作品。一見、不可能のように思わせて、実は・・・・・・というカーらしい作品と言えよう。
「幻を追う男」
オースティン大尉は戦時中に一度だけ会い、ミニチュアールをもらった娘のことが忘れられなかった。しかし、誰もその娘のことを知らず、信じてもらえない。オースティンは幻を見たのか・・・・・・しかし、手元には確かにミニチュアールが残されている。
という内容が示すように、本編は歴史ミステリーを描いた作品となっている。この作品はカーが後に何冊も書くこととなった“歴史ミステリー”のはしりといえるだろう。幻の女を求めてオースティン大尉が手掛かりを求めていこうとすると、さらにさまざまな謎が浮き上がってくるように描かれた作品となっている。読んでいるもの(厳密には聞いているものか)を飽きさせない展開の作品。
<内容>
「帽子蒐集狂事件」 ジョン・ディクスン・カー
「カアへの情熱」 高木彬光
<感想>
この「帽子蒐集狂事件」は、「別冊宝石 10号」(昭和25年8月:1950年)に掲載されたもの。十分ページ数は多くなっているものの、ややまとめられている部分があるようで、若干“抄訳”という位置づけ。また、ここに掲載されているものは誤植などを直したものとなっている。
抄訳(それでも十分に本編に近い分量)で、誤植を直して整えられているせいか、創元推理文庫版で読んだものよりも、現代訳っぽくて読みやすかったという印象。もともと「帽子蒐集狂事件」のプロットがややこしいゆえに、これはこの論創海外ミステリ版で読んでおくほうが取っつきやすいかもしれない。
この「帽子蒐集狂事件」、単に殺人事件を解決するというよりもまず、何故そのようなことが起きたのかという、殺人に至るまでのややこしい道筋を辿ってゆかなければならないのである。何気に、それこそがこの作品のキモというべきもの。帽子が奪われる問う謎、盗まれたポーの原稿の行方、そしてさまざまな登場人物がそれぞれ事件に間接的に関与した謎。そういったところを紐解いてゆくことで、ようやく真相にたどり着く。
前に創元推理文庫でこの作品を読んだ時には結末に対し、あまり納得がいかなかったものの、こちらの論創海外ミステリ版では内容がわかりやすくなったゆえか、登場人物に感情移入しやすくなり、それなりに結末に納得することができた。そうした意味でも、両者を読み比べてみるというのも面白い趣向であるかもしれない(ちなにみ両者の内容は全く変わってはいないのでどちらかを読むだけでもよい)。
おまけといっては失礼かもしれないが、あくまで“高木彬光翻訳セレクション”ということで、他にも高木氏が訳した作品が付けられている。ジェームズ・バーナード・ハリスという作家の作品が2作品。
「死の部屋のブルース」は、死刑囚の心情を描いた作品。10ページに満たない短めの作品。
「蝋人形」は35ページくらいの短編作品。日本の蝋人形館で起きた怪事が描かれたものとなっている。これ、何の紹介もなければ普通に日本人が書いたものと錯覚してしまいそうなもの。