<内容>
「浮世風呂」 式亭三馬
「柳湯の事件」 谷崎潤一郎
「泥 濘」 梶井基次郎
「電気風呂の怪死事件」 海野十三
「玄関風呂」 尾崎一雄
「美少女」 太宰治
「エロチック街道」 筒井康隆
「ああ世は夢かサウナの汗か」 辻真先
「秘湯中の秘湯」 清水義範
「水に眠る」 北村薫
「花も嵐も春のうち」 長野まゆみ
「旅をあきらめた友と、その母への手紙」 原田マハ
<感想>
お風呂ミステリかと思っていたら、お風呂小説アンソロジーであった・・・・・・さすがに“風呂”がテーマでは、それだけでミステリ・アンソロジーを組むのは無理か。
というわけで、ミステリ色が薄かったので、個人的には微妙な面持ち。風呂につかった気分でゆったりと読んでくれといいながらも、最初の作品「浮世風呂」がいきなり古典的な書き方のままで登場されたら、気軽に読むなんてことはできない。最初の一作は飛ばして読ませてもらった。
ミステリ的な内容のものは、海野十三氏の「電気風呂の怪死事件」と辻真先氏の「ああ世は夢かサウナの汗か」くらい。「柳湯の事件」もミステリ調という感じがしたのだが、謎解きもなくそのままで終わってしまったところがちょっと残念。
そんなところで辻氏と海野氏の作品は読みごたえがあったものの、それ以外は消化不良。まぁ、文学作品としては貴重というか読む価値がありそうな作品もあるので、読み手を選ぶアンソロジーといったところか。
<内容>
<意外な謎と意外な解決の饗宴>
「道化の町」 ジェイムズ・パウエル
「ああ無情」 坂口安吾
「足あとの謎」 星新一
「大叔母さんの蝿取り紙」 P・D・ジェイムズ
「イギリス寒村の謎」 アーサー・ポージス
<ミステリ漫画の競演>
「コーシン・ミステリより」 高信太郎
「〆切だからミステリーでも勉強しよう」 山上たつひこ
<「謎」小説(リドル・ストーリー)の饗宴>
「女か虎か」 フランク・R・ストックン
「三日月刀の促進士」 フランク・R・ストックン
「謎のカード」 クリーヴランド・モフェット
「謎のカード事件」 エドワード・D・ホック
「最後の答」 ハル・エルスン
<幻の作家たちの競演>
「ファレサイ島の奇跡」 乾敦
「新納の棺」 宮原龍雄
<密室の競演T(最後の密室)>
「最後で最高の密室」 スティーブン・バー
「密室学入門」 土屋隆夫
<密室の競演U(未来の密室)>
「真鍮色の密室」 アイザック・アシモフ
「マイナス 1」 J・G・バラード
<感想>
個々には楽しめる作品がいつくかあった。しかし全体的に見てみると、不要な作品が多いと感じられたのもまた事実。タイトルからして“本格ミステリ・アンソロジー”とあるのだから、もう少しそれらしい内容のもので固めてもらいたかったところである。
<意外な謎と意外な解決の饗宴>に関しては良い作品が多かったと思える。
「道化の町」はこれが発表されてからすぐに、同じタイトルのパウエルの作品集が出てしまうというのは何とも皮肉というか、山口氏に先見の明があるというか。
また、短編ながらもそれぞれ複雑な人間模様を書ききっている「ああ無情」と「大叔母さんの蝿取り紙」はなかなかの佳作といえよう。
<ミステリ漫画の競演>は、このアンソロジー・シリーズでも恒例となってきたミステリ漫画作品を紹介したもの。
しかし、今回の作品はどれもとりあげるほどのものとは思えなかった。長々と読ませた割には、どうでもいい結末で終わってしまうというのは如何なものか。
<「謎」小説(リドル・ストーリー)の饗宴>、このリドル・ストーリーというのも最近のアンソロジーのなかでは定番になってきているようである。
別にミステリ・アンソロジーでこういう作品をとりあげる必要はないと思われるのだが、この「女か虎か」という作品はリドル・ストーリーの代表作とのことなので、一読の価値はあるようだ。また、リドル・ストーリーにあえて結末をつけるという試みをして見せたホックの「謎のカード事件」は読み応えがある。
<幻の作家たちの競演>
ブラウン神父のパスティーシュ作品である「ファレサイ島の奇跡」はなかなか読み応えのある作品。大掛かりな“バカミス”トリックが目をひくものとなっている。
「新納の棺」という作品もまたポイントを抑えた作品であり、一読の価値はあり。
<密室の競演T、U>
最後は“密室作品”で締めるということになっており、これはと期待したものの、内容的にはほとんど楽しめないようなものばかりであった。
特に「密室学入門」は古典推理小説のネタバレが満載となっており、新装版の「黄色い部屋の謎」を久々に再読しようと思っていた私にとっては・・・・・・
<内容>
□イントロダクション
<眉につばをつけま章>
「ミスター・ビッグ」 ウディ・アレン
「はかりごと」 小泉八雲
「動機」 ロナルド・A・ノックス
□第一の栞 ハードボイルドなんか怖くない
<密室殺人なぜで章>
「消えた美人スター」 C・デイリー・キング
「密室 もうひとつのフェントン・ワース・ミステリー」 ジョン・スラデック
「白い殉教者」 西村京太郎
□第二の栞 窮すれば通ず−−−密室短編ベスト3
<真犯人はきみで章>
「ニック・ザ・ナイフ」 エラリー・クイーン
「誰がベイカーを殺したか?」 エドマンド・クリスピン&ジェフリー・ブッシュ
「ひとりじゃ死ねない」 中西智明
□第三の栞 海外クラシック・ベスト20
<おわかれしま章>
「脱出経路」 レジナルド・ヒル
「偽患者の経歴」 大平健
「死とコンパス」 ホルヘ・ルイス・ボルヘス
<感想>
これはなかなか良いアンソロジーであった。集められた作品がすばらしい、という事はもちろんなのだが、それ以上に章立てが良かったと思う。これは辻真先氏の「仮題・中学殺人事件」という作品からそのまま拝借したらしいのだが、この章題が実にマッチしていて、それぞれの作品にうまく花を添えている。
<眉につばをつけま章>
なんともこのうまくこの章題にあった作品が一番最初に収められている。それが「ミスター・ビッグ」。私立探偵マイク・ハマーのパロディともとれる作品であるが、まさに“まゆつば”に相応しい作品。
次に登場するのは変わったラインナップで小泉八雲氏の「はかりごと」。これも“まゆつば”な話ではあるのだが、その“まゆつば”な出来事に対して、うまい解釈の仕方をしている。これはなるほどと感心させられた。
三作品目は知的職業についている人らが集まっている場で語られる奇妙な事件。とはいうものの、これは語られる事件そのものが主題ではなく、“嫌な相手のやり込め方”が書かれた作品という気がする。
<密室殺人なぜで章>
「消えた美人スター」であるが、話の出だしは良く、図入りで事件が解説されている。とはいうものの、最終的なトリックとしては平凡に終わってしまったような気も・・・・・・。ただ、この作品のメインはトリックというよりも、ラジオ番組を聴いただけで事件を解く、という事にあるのかもしれない。
スラデック描く「密室」であるが、これは“密室”に対するパロディを描いた作品。“密室”としてではなく、こういう作品がある、という事自体が貴重なのだろう。
「白い殉教者」であるが、これは西村氏がこのような本格作品を書いていたということに驚いてしまった。それが読んでみると見事にミスリーディングに誘導されることとなり、ただただやられたとしか言いようがない。うーん、西村氏の本格作品だけ集めた作品集とか出てないのかなぁ、などと失礼ながら思わず西村京太郎氏を見直してしまった。
<真犯人はきみで章>
「ニック・ザ・ナイフ」これも単純に著者の思惑に引っかかってしまった。ラジオドラマとして作られた簡単な話しながらうまく描かれている。
「誰がベイカー〜」は作品背景の意図としては、前述のノックスの「動機」に似ているような気がする。なんとなく落語オチのような作品。
中西智明氏の幻(というと言い過ぎか)の短編。編者の注意書きがあるように、確かにのっけから騙されてしまう。とはいえ、そこに気がつくのは至難の技かと。
<おわかれしま章>
レジナルド・ヒルの「脱出経路」はまっとうなバリバリの“脱出モノ”、と思いきや、最後の最後で予想外の事をやってくれている作品。
「偽患者の経歴」はノン・フィクションという事なのかな。確かに“事実は小説より奇なり”である。
「死とコンパス」は有名作品で何度も聞いた事はあったのだが、読んだのは初めてだと思う。ただ、あまりわかりやすいミステリーとは言いがたい。そういえば、法月氏の短編でこの作品をモチーフにしたものがあったな、などと今更ながら気づく。
<内容>
「青いスパンコール」 オースチン・フリーマン
「地図にない町」 フィリップ・K・ディック
「メビウスという名の地下鉄」 A・J・ドイッチュ
「高架殺人」 ウィリアム・アイリッシュ
「4時15分発急行列車」 アメリア・B・エドワーズ
「泥 棒」 雨宮雨彦
「江ノ電沿線殺人事件」 西岸良平
「0号車/臨時列車/魔法」江坂遊
「田園を憂鬱にした汽車の音は何か」 小池滋
「箱の中の殺意」 上田信彦・有栖川有栖
<感想>
「鉄道ミステリ・ライブラリー」という事で鉄道を用いた本格ミステリ作品集と期待して読んでみたのだが、そのような内容のものではなかった。どうも、鉄道ミステリーのアンソロジーというのは既に色々と編纂されているようで、それらとは別の作品によって編集しようとしたがゆえにバラエティーに富みすぎた内容になってしまったようである。ゆえに、ミステリー・アンソロジーというよりは綺譚集というような内容と感じられた。
『海外編』
海外作品では本格推理小説といえるのはオースチン・フリーマンの作品のみ。フリーマンの作品はそこそこ有名なトリックで、これが元なのかと感心してしまった。
その他のものはSF、冒険アクション、怪奇小説とどう評価して良いのかわかりづらい作品ばかり。
『国内編』
普通のミステリー作品は雨宮氏の作品のみ。ただ、これは初めて読んでも非常にネタがわかりやすい作品である。
その他は、漫画、ショートショート、エッセイとこれらも読了後印象に残りにくい作品が並ぶばかり。
そして、最後の一編であり本書の1/3を占めているのが、放送作家の上田氏が書き上げ、有栖川氏が協力して作ったという“犯人当てゲーム”用として作られたもの。本書を一通り読んだ限りでは、この作品を掲載するためのアンソロジー集かと思わず邪推してしまった。
という事は置いておいて、その内容はというと、なかなか楽しめる作品として仕上がっている。とはいえ、犯人当てとしては少々難易度は低めである(この私が大筋をわかってしまったくらいなのだから)。ただ、ひょっとしたら皆に当ててもらえるようにあえてわかり易く作った作品なのかもしれない。
まぁ、本書の読みどころとしては本当にこの最後の犯人当てくらいだったなと。
<内容>
T.読者への挑戦
「埋もれた悪意」 巽昌章 「逃げる車」 白峰良介 「金色犬」 つのだじろう
U.トリックの驚き
「五十一番目の密室」 ロバート・アーサー
「<引き立て役倶楽部>の不快な事件」 W・ハイデンフェルト
「アローモント監獄の謎」 ビル・プロンジーニ
V.線路の上のマジック
「生死線上」 余 「水の柱」 上田廣
W.トリックの冴え
「「わたくし」は犯人・・・」 海渡英祐 「見えざる手によって」 ジョン・スラデック
<感想>
どれも凝りに凝った逸品ばかり。それぞれが特徴をもち、なかなか楽しませてくれる。
「埋もれた悪意」は恩人の本物の息子を捜すといった趣向が面白く、さらに最後に論理的に結んでいるところも良い。「逃げる車」は犯人当てというよりは、事象からの推論(9マイルは遠すぎる、見たいなものか?)ではあるが、これもなかなか読ませてくれる。
「五十一番目の密室」「<引き立て役倶楽部>の不快な事件」はこれがあの有名なトリックだったのかと感嘆する。昔の推理クイズのネタがここにあったとは。さらには作品自体も有名探偵たちや、作者たちが出演していたりと凝ったものになっているのも驚きだ。
アリバイ崩しに関しては、個人的にはあまり好きではないのだけど、さすがに選ばれたものだけのことはあって、良いものが掲載されている。「生死線上」は書き方がうまいと思う。文章が洗練された感じがしてなかなか良い。ほかにこの著者の作品がないようなのは残念なことである。「水の柱」はトリックはいまいちなのだが、そこまで持っていくプロットがなかなかよいと思う。しかし、この車掌はなんかある意味怖い気もするが・・・・・・
「「わたくし」は犯人・・・」というのも凝っていて良いのではないのだろうか。見せ方の妙といったところだろう。ただし現在ではこのねたは、サスペンスドラマとかなどでもよく使われるようなトリックではあるが。「見えざる手によって」はなかなか面白いトリックであると思う。しかし、もう少しそのトリックをきちんとしたものにしてくれたら、かなり良い作品になったと思うのだが。ひょっとしたらこれは、以後に似たようなネタでもっと綺麗に見えるトリックを誰かが使ったかもしれない。
<内容>
T.懐かしの本格ミステリ
酔いどれ弁護士 レナード・トンプスン
「スクイーズ・ブレイ」 「剃りかけた髭」 『エラリー・クイーンからのルーブリックと手紙』
「ガラスの橋」 ロバート・アーサー 「やぶへび」 ローレンス・G・ブロックマン
U.田中潤司語る−昭和30年代本格ミステリ事情
V.これは知らないでしょう−日本編
「ケーキ箱」 深見豪 「ライツヴィル殺人事件」 新井素子・秋山狂一郎・吾妻ひでお
W.西條八十の世界
「花束の秘密」 西條八十 「倫敦の話」 ロオド・ダンセイニ 西條八十訳
「客」 ロオド・ダンセイニ 西條八十訳 「夢遊病者」 カーリル・ギブラン 西條八十訳
X.本格について考える
「森の石松」 都筑道夫 「わが身にほんとうに起こったこと」 マヌエル・ペイロウ
「あいびき」吉行淳之介
Y.ジェミニー・クリケット事件(アメリカ版) クリスチアナ・ブランド
<内容>
「つなわたりの密室」 ジョエル・タウンズリー・ロジャーズ
「消失の密室」 マックス・アフォード
「カスタネット、カナリア、それと殺人」 ジョゼフ・カミングズ
「ガラスの橋」 ロバート・アーサー
「インドダイヤの謎」 アーサー・ポージズ
「飛んできた死 −三つの文書と一本の電報による物語」 サミュエル・ホプキンズ・アダムズ
<感想>
中編の「つなわたりの密室」描き方が非常に面白く、飽きさせない構成になっている。これは掘り出したかいがあるというもの。ただ、犯人があからさまに怪しいので分かりやすいのがたまに傷か。
「消失の密室」はオーソドックスではあるが、これぞ消失小説というものではないだろうか。そういえば、なんとなくこのトリックについて聞いたような気もするが、これが原型なのだろうか。
「カスタネット・・・・・・」はカーの「緑のカプセル」を思わせるような作品。といっても怪奇的なところはなく、どちらかというとコメディータッチであり、パロディ的でもある。内容はともかく、こんな作品あると知ることができただけでも拾い物だ。
「インドダイヤの謎」も単純ではあるが、なかなか考えて作られている。ちょっとした佳作。皮肉も利いててけっこういいかもしれない。
「飛んできた死」はこの著者の作品でもっといいのはなかったのだろうか? 今回取上げられた作品のなかで、ちょっとこれだけは解せないといいたくなる。
<内容>
スキーリゾート地の近くにあるペンション、白銀荘。そこに滞在することになった客たちは、猛吹雪により唯一の通り道が遮断され、閉じ込められることに。そうしたなか、滞在客のひとりである立脇順一が自ら描いた殺人計画を実行しようと動き出す。彼は多重人格者で、そのなかに潜む“美奈子”という人格が“順一”の体を乗っ取るために殺人事件を起こそうとしていたのであった。そして、滞在客を次から次へと殺害し始め・・・・・・
<感想>
感想を書いていなかったので、懐かしい作品を再読。この作品がカッパ・ノベルスで出版されたときは、著者の彩胡ジュンは、とある二人のミステリ作家による合作ペンネームでその作家を当ててみようという企画がなされていた。文庫化されたときには、普通にその二人の作家の名前が表され、共作という形で出版されていた。
そんな背景のある作品であるが、中身はなかなか凄い内容となっている。閉ざされた雪山の山荘のなかで起こる連続殺人事件が描かれている。ただし、普通のミステリと違うのは殺人を起こす側の視点で描かれていること。二重人格(三重人格?)である犯人が、己の目的のために、次々と殺人を犯していく。一応、“目的”たるものはあるのだが、それが本当に目的たるものかは微妙であり、そんなあやふやな状況下で、ひたすら殺人が繰り返されていくという話。
本書の山場は最後の解決の場面で繰り広げられることとなる。正直なところ、物語の途上は単なる殺人行為が繰り返されるだけという、微妙な感触。随所になんらかの違和感があるように描かれているものの、結局のところ、何がやりたいのかがわからない。それが、最後の最後で本書の全ての構造が明らかになることによって、驚かされることとなるのである。
整合性が微妙だとか、伏線もやや微妙という感じがしなくもないが、ここまで大掛かりなトリックを企てれば、それはそれで強引な力業として満足させられてしまう。最後まで読み通せば、それなりにすごいミステリ作品であったなと思えなくもない。
<内容>
招かれた山荘は、歪に電脳化されていた。迎えてくれたのは、車椅子の恩師と人語を解す黒猫、そして「Killer X」!!
新進推理作家・本郷大輔ら六人が訪れた、高校時代の恩師・立原茂邸。ある事故のため車椅子生活を余儀なくされた立原によって完全にオートメーション化された山荘で、悪意の連鎖が始まる!
<感想>
ラストは微妙なさじ加減だったと思う。破綻しそうなところをすんでのところでなんとか踏み止まったようだ。
推理作家による騙しのテクニックも多様化しており、いかにして騙すか! そあらには二転三転させなければ読者は納得しない!! といわんばかりに仕掛けが施されている。本書はその点、よくできているとは思うのだが、トリックとしてはあぁまたかというものも多く目新しさは見当たらない。さらにいえば「白銀荘」を引きずっているところもあり(意図的に?)それも目新しさをなくす原因となっている。こう考えると読者を本当に驚かさせるような作品がいかに難しいかとふと考えてしまう。
<内容>
オーストラリアの日本語学校の仲間15名が夏休みを利用して、日本のスキーのメッカ・千年岳にやってきた。おりしも千年岳では、タイムスリップ現象を引き起こす<ワームホール>の噂で持ちきりになっていた。
一行はヘリスキー中、ある人物の思惑からツアーコースを外れ、<ワームホール>があると噂される場所へと導かれる。そこで奇妙な殺人事件が発生! さらに一行の凄惨な未来を綴った手帳が出現する。はたして殺人者・エックスとは誰? <ワームホール>の謎とは!?
<感想>
二階堂氏・黒田氏の競作第二弾。今作の設定にて核をなすのは“ワームホール”の存在。行方不明になったものが時間を超えて、10日前もしくは10日後へとタイムスリップしてしまうというもの。このSF的設定を単に“設定そのもの”として残すのか、“本格ミステリ”のトリックとするのかそこに注目が集まる。
物語自体も工夫がなされており、グループを二つに分け、スキーを主体にしたものとロッジのほうへ残っているものと別の視点から構成されている。片や殺人鬼が蠢く中で山荘に孤立してしまい、もう片方はワームホールを体験したものとの遭遇が語られる。双方の話がどこでどのように合わせられるのかなどと、これもまた見所が満載になっている。
そして結末であるが、これはなかなかバランスよくまとめられているのではないだろうか。“本格的”な部分、“SF的”な部分、“サイコサスペンス的”な部分とさまざまな要素をうまくからめ、かつそれぞれをうまく残しつつも融合された物語になっているといえよう。ただし、東京のキラーXの“サイコ的”なパートはかえって蛇足のようにも感じられた。
全体的にうまくまとめられており、だまされそうな雰囲気の中でだまされまいと思っても、結局足元をすくわれてしまう。うまくこの競作企画の特色が継続された、良質のミステリに仕上がっている。
<内容>
スキー場をおとずれていたカップルがレジャーの最中に遭難してしまった。二人はやっとのことで雪山の中に山荘を見つけ、助けを求める。しかし、館の住人は助けを求める彼らを何故か拒絶しようとする。なんとか、館の中に入れてもらった二人であるが、どうしても挙動不審な住人の行動が気になってしまう。また、助けられたカップルの男は実は恋人に殺意を抱き、スキー場で彼女を殺そうと様子をうかがっていたのだった。そして彼らが館を訪れたことを機に殺人事件が次々と・・・・・・
<感想>
これは“館もの”にして異色作品といってよいであろう。どこが異色作品かというと、次々と殺人事件が起こっているにも関わらず、何が起きているのかが全くわからないのである。それが何故かというと、死体が次々と消えていってしまうからなのだ。誰がどうやって、なんのために? 殺人を犯すだけでなく、死体を隠すとなるとそれなりのリスクが生じるはず。にもかかわらず、何ゆえに死体をわざわざ隠さなければならないのかが大きな謎となっている。そして、それらの理由となるのかならないのか、館に住む人の不自然な言動と、不自然な配置の部屋。何から何まで怪しすぎるのだが、それらが指し示す方向が全くわからない。
しかし、最後の最後で重大な謎が明かされたときに、それら全ての謎がひとつの方向へ向かうことになる。いや、これはまた大技をくりだしたなぁと感心してしまう。この謎の一部については先例がないわけではないのだが、それを館に絡めてしまった力技には頭が下がる思いである。
そしてさらに、館の中での事件とは別に起こる“キラーX”による連続殺人事件の終幕までもがうまく物語りと融合しているといえよう。これはなかなか満足させられる作品であった。合作だからといってあなどるなかれ、“キラーX”シリーズ最終巻、お見逃しなく。
<内容>
新本格誕生15周年記念イベントとして行われた「新本格ミステリフェスティバル」。
そこで行われた犯人捜しの謎解きイベントや新本格ミステリー作家たちのトークショーなどを全て収録。
<感想>
ミステリーナイトというイベントにて行われた犯人宛ゲームを主軸として書かれた新本格15周年記念本。
読んでみたところ、楽しそうな企画が満載でイベントに参加された方たちはさぞかしご満悦であったのではなかろうか。読んでみて一番楽しめたのはミステリー作家たちのトークショー。普段の作家へのインタビューなどと違い、ざっくばらんでくだらないことまでいろいろと聞かれていて、それにきちんと答える作家たちの様相が面白い。
しかし、新本格が出てから15年にもなるのかと感心してしまう。私は始めから追ってきたというわけではないのだが、それでも新本格を読みつづけて10年は超えていると思う。その間よくぞこのブームが続いてきたものだ。特に新本格以前から読んでいる人たちにとっては感慨深いものではなかろうか。
現在にいたっては、新本格ブームとまではいかないものの、ミステリーブームはいまだ続いている。この現在のブームに火をつけたものこそがこの新本格であるといえるだろう。そして今、新本格をそのまま引き継ごうとする流れとは別に脱格しようとする流れが見え始めているように思える。この先ミステリーの流れがどのように変化していくのか、この目で見ていきたいと熱望している。
これからもますますミステリーから目を離すことなどできないであろう。